本日 東京女子医大"マッチポンプ”事件判決 言渡し

①久々のブログ更新―本丸決戦の終結

2010824日(火)午後1310分 東京地裁 606号法廷で、私が東京女子医大と東間紘元病院長を訴えた所謂、「東京女子医大"マッチポンプ“事件」の判決言い渡しがあります。

②マッチポンプ事件とは

被告東京女子医大が、2002年8月15日、原告が担当した手術で心肺装置の操作を適切に行わず患者に重度の脳障害を生じさせて死に至らしめ、業務上過失致死罪にて逮捕、起訴されたこと等を理由として、原告を諭旨解雇しました。

しかし、原告が業務上過失致死罪を理由として逮捕、起訴された事実は被告女子医大自身が、虚偽の内容を含む内部報告書を作成・公表した結果、捜査機関が捜査を誤って原告の逮捕、起訴に及んだからであって、そのことを根拠として被告女子医大が原告を諭旨解雇することは、いわゆるマッチポンプに他なりません。

③医学会、司法、ジャーナリスト全てに否定され、自らも否定した内部報告書

 しかも、この内部報告書は、2003年には、日本の心臓外科関連3学会が、2005年には、東京地方裁判所が「完全な誤り」であることを明言したにもかかわらず、東京女子医大がその誤りを認めず、患者遺族とともに佐藤が長期間苦しむことになりました。

④白い虚塔、黒い巨象の態度

 さらに、20093月に東京高等裁判所も無罪を言い渡し、同年4月には、無罪が確定し、被告東間紘医師自身が、「内部報告書の結論に根拠はない」「大学に責任があると考えたが、報告書には全く言及しなかったが、当然するべきだった。」「大学の検証が科学的でないといわれればそのとおり」等、実質上非を認めながら一切の謝罪をしていません。これに対し、原告佐藤は、衷心から謝罪するという態度で謝罪文を書けば、和解に応じると通達しましたが、これを拒否。結局判決となりました。

⑤弾劾すべき体質

 東京女子医大が私に対しておこなってきた権力の行使による人権侵害、パワーハラスメント、大学の責任隠蔽のための罪のなすりつけは、謝罪なしには許されるものではありません。一般市民の感覚も、政治家、法律家、医師、ジャーナリストの皆さんの感覚も、私と一致するものと存じ上げます。本日1310分の判決がどうであろうと、皆さんの正義感が、小説「白い巨塔」で描かれた大学病院が幼稚に思えるほどの邪悪な行為をおこなってきた東京女子医大、東間紘元病院長、黒澤博身元心臓血管外科教授を弾劾して下さると期待しております。

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2010年1月31日 (日)

橋下徹弁護士の矛盾

橋下徹弁護士の矛盾

1.            

橋下弁護士への懲戒請求と提訴

 Asahi.comによると、「大阪府知事選への立候補を表明したタレントとしても活動している橋下徹弁護士が、99年に山口県光市で起きた母子殺害事件の被告弁護団の懲戒請求をテレビ番組で視聴者に呼びかけたことをめぐり、全国各地の市民ら約350人が12月17日、橋下氏の懲戒処分を所属先の大阪弁護士会に請求する」とのことである。さらに「『刑事弁護の正当性をおとしめたことは、弁護士の品位を失うべき非行だ』と訴える。発言に対しては、被告弁護団のメンバーが1人300万円の損害賠償訴訟も広島地裁に起こしている。懲戒請求するのは京阪神を中心とした11都府県の会社員や主婦、大学教授ら350人余り。刑事裁判で無罪が確定した冤罪被害者もいる。橋下氏は、5月27日に大阪の読売テレビが放送した『たかじんのそこまで言って委員会』で、広島高裁の差し戻し控訴審で殺人などの罪に問われている元少年(26)の弁護団の主張が一、二審から変遷し、殺意や強姦(ごうかん)目的を否認したことを批判。『許せないって思うんだったら、弁護士会に懲戒請求をかけてもらいたい』などと発言した。17日に提出される懲戒請求書によると、元少年の主張を弁護団が擁護することは『刑事弁護人として当然の行為』と指摘。(橋下弁護士の)発言は弁護士法で定める懲戒理由の『品位を失うべき非行』にあたるとしている。弁護士への懲戒請求は、弁護士法で『何人もできる』と定められている。請求を受けた弁護士会が『懲戒相当』と判断すれば、業務停止や除名などの処分を出す。 橋下氏は、元少年の弁護団のうち4人が9月に起こした損害賠償訴訟での答弁書で『発言に違法性はない。懲戒請求は市民の自発的意思だ』と反論した。15日、朝日新聞の取材に法律事務所を通じて『(懲戒請求されれば)弁護士会の判断ですので、手続きに従います』とコメントした。」とのこと

2.            

橋下徹という弁護士とプロフェッショナル

 橋下徹氏は、テレビタレントとして活動する「有名な弁護士の資格をもつ人」であることは事実だが、プロフェッションとして「有名弁護士」とは言えない。(私は思っている。)このプロフェッションだが、聖路加病院の日野原重明先生の最近の言葉でこのようなものがあった。「Profession』という言葉には、神に告白(Profess)する、約束する、契約するという意味があります。神学と法学と医学のプロフェッションには、明らかにその精神が垣間見える。底通するのは、学問を修めるにとどまらず、持っている能力を社会の繁栄と人々の幸福のために活かすと神に誓うから「プロ」であるという精神。欧米で、神職者、法律家、医師が、専門職能集団の中でもトップのプロフェッショナルな集団とされてきた理由はそこにあります。そして、使命感を持った人が公言し、神と約束しているわけですから、第三者が彼らの仕事の内容を批評するのも当然のこと。医師のプロフェッショナリズムの本質を知るには、そこまで理解する必要があります。また、スペインの教育者であるオルテガの言葉を借りれば―─大学で最高の教育を受けプロフェッションの道に進むとは、生涯を通して学びつづける道を選ぶこと――です。プロフェッショナルは自分を磨きつづけて当然だし、文化に貢献し、文化を次世代に伝えるミッションを持っている点も自覚してほしい。」日野原先生は、神父さんの家に生まれたと記憶しているが、古来から、神学者や真の宗教家、法律家、医師は、「プロ」の精神を持つべき職業であるということだ。そういった視点から見ると、橋下弁護士は、プロとは呼べない。医師にも似たような輩がいる。「有名な医師を職業とする人」であって、「有名」でも「有能」でもないのにメディアで重宝がられるような、おしゃべり上手な‘エセプロ‘。

3.            

光市母子殺害事件と法律家としての弁護士

 光市母子殺害事件に関しては、言葉にするのがイヤなくらい私も犯人を憎んでいる。どんな状況であっても、妻や子に乱暴し、殺害したという事実が真実であれば、誰もが犯人に重罪望む。しかし、橋下弁護士は、ホームページの中で、「裁判なんて科学じゃない。」「刑を科すための社会手続きなんだ」「法律なんて所詮道具。」「刑事裁判というもの(は)被害者遺族のための制度であ(る)」等と述べている。「自らが持っている能力を社会の繁栄と人々の幸福のために活かすと神に誓い職業として弁護士を生業とする」といった高貴な志は全く感じられない自己矛盾発言である。橋下氏には東京地裁のエレベータ前で一度出くわしたことがあるが、テレビ出演時と同様の風体で、益々印象を悪くした。

4.            

弁護士は何のために存在するのか

 「弁護士は何のために存在するのか」という命題。特に、弁護人としての「プロフェッション」とは何か。勿論このような事柄に私が答えられるはずがない。岩波書店に依頼されて、月刊誌「世界」2007年11月号(25-28頁)に、喜田村洋一先生が投稿されているので、是非読んでいただきたい。

強姦・殺人事件の被告弁護男に向けられた懲戒請求。「社会に憎まれる人の側に立つ」という弁護士の職責が揺るがされている。

弁護士は何のために存在するのか

喜田村洋一

懲戒請求の呼びかけ

 光市母子殺害事件は、位置、二審の無期判決に対して検察官が上告し、二〇〇六年六月、最高裁が高裁判決を破棄して事件を広島高裁に差し戻した。このため、現在、二度目の高裁審理が行われている。

 その第一回公判は二〇〇七年五月二四日に開かれたが、その弁護団に対して、橋下徹弁護士が、五月二七日に放送されたテレビ番組で、「あの弁護団に対して、もし許せないと思うんだったら、一斉に弁護士会に対して懲戒請求をかけてもらいたい」などと発言し、この結果、二〇人を超える弁護人に対し、全国から四〇〇〇を超える懲戒請求が出されたという。

 橋下弁護士は、弁護団が、殺意を認めていた旧一、二審と違う主張をした理由を被害者と国民に対して説明せず、国民に弁護士はこんなふざけた主張をするものなんだと印象付けたことが、弁護士会の信用を害し、懲戒に相当すると述べている。

弁護方針の根拠は明らかにできるか

 しかし、新たな弁護方針を取った理由を説明することによって何が期待できるのだろうか。殺意の否認という弁護方針が非常識だと被害者・国民に理解されるとすれば、そのような弁護方針を選択した理由を説明しても、弁護士に対する怒りが消失するとは考えられない。そうすると、結局、同弁護士のいう懲戒事由とは、「ふざけた主張」と理解される弁護方針そのものということになる。

 一般に、弁護方針は、弁護人が、秘密保持義務を負う中で得た多数の証拠、情報の中から選択するものであり、その根拠を明らかにすることは原則としてできない。

 たとえば、今の弁護人は、最高裁段階でそれまでの弁護人に替わって選任されているが、新たな法医学鑑定によって、被害者の傷などが被告人の元少年の供述どおりではできないことが明らかになり、さらに、元少年との接見結果にも基づいて殺意がなかったと主張している。

 そして、元少年は、今年九月一八日の被告人質問で、旧一、二審で殺意を認める調書が存在したことについて、「取り調べ中、当初は否認していたが、検事から、否認していると死刑の公算が強まる、と言われて調書に署名した」「弁護人からも、検察の主張をのむことで無期懲役が維持されると言われたので、前の裁判では殺意を争わなかった」と述べている。

 殺意がなかったという新たな弁護方針に変えた理由を明らかにするためには、こういった事実すべてを差戻し後の高裁で審理が始まる前に被害者や国民に明らかにしなければならなくなる。

 しかし、裁判の中で明らかにすべき内容を事前に広く公表することは、秘密保持義務違反の問題が生じるし、裁判に不当な影響を与える可能性も考えられる。裁判を軽視するとも理解されかねない。

 したがって、第一回公判前に被害者や国民への説明がなかったことが弁護士の懲戒に当たるという考えは、実際の裁判の流れに照らしてみれば、そもそも成立しえない。

 しかし、この問題は、単に実務的な面だけではなく、裁判とは何か、弁護士の職責はどのようなものかという、より大きな論点に関係している。

法律は『所詮道具」か

?

 たとえば、橋下弁護士は、ホームページの中で、「裁判なんて科学じゃない。」「刑を科すための社会手続きなんだ」「法律なんて所詮道具。迷惑弁護団のバッジを取り上げるために、(懲戒を求める)裁判所の請求を認めるべきだった」と述べている。

 これは、法律の要件に事実があてはまるかどうか判断し、あてはまらなければ、常識的には納得できないとしても、「無罪」「懲戒しない」という結論を出すという法治主義の考え方とは全く異なっている。法律を「所詮道具」と言い切ってしまえば、裁判は、はじめからわかっていた結論(有罪、懲戒する)を下すための手続でしかなく、法律がそれに邪魔であれば解釈を変えてしまえばよいということになる。

 橋下弁護士は、さらに、「刑事裁判というもの()被害者遺族のための制度であ()」とも述べているが、そうだろうか。犯罪となる行為が何であるか、これに対してどのような刑罰が与えられるかは、あらかじめ刑法の中に規定されている。これにあてはまらなければ無罪であり、さらに、有罪と認定される場合でも法定刑を超える刑罰は科されないという刑法の役割からは、刑事裁判が被害者遺族のための制度という考え方は出てこないだろう。「刑法は犯罪者にとってのマグナ・カルタである」という逆説的な言葉は、刑法の自由保障的な機能をよく表している。

憲法に規定された弁護士

弁護士の職責を考えると、問題はさらに深刻である。弁護士は何のために存在するのかを考えるとき、出発点になるのは憲法だ。弁護士は、現在の憲法の中で規定されている唯一の民間の職業である(34条、37条等)。だから弁護士という職業をなくそうとすれば憲法を改正しなければならない。しかし現在、効力を持つ成文憲法の中で最も古い米国憲法でも「弁護士の援助を受ける権利」が規定されているのであり、実際には、憲法を改正しても弁護士制度を廃止することはできない。それほど弁護士が重要性を認められているのは何のためだろうか。それは憲法の規定そのものを見れば明らかだ。憲法は、身柄を拘束されている人(34)、刑事被告人(37)に弁護人依頼権を保障している。憲法は、国家から罪に問われ、あるいは身柄を拘束されている人々、そのような「弱者」のために弁護士は存在するとしているのだ。

 もちろん、弁護士の仕事はこれに限られるわけではないが、憲法という国家の基本を示し、権力の発動を抑制する根本規範が予定しているのは、弁護士のこのような役割である。

 これらの人たちは、その大部分が刑事被告人、被疑者であり、国家から憎まれる存在である。しかし、それだけではない。被告人、被疑者がいれば、これに対する被害者がいるのが普通だから、これらの人たちは社会からも憎まれる。弁護士は、そのような人たちの側に立ち、罪を犯していなければ無罪の、罪を犯した場合でも本人にとって最大限に有利な、主張、立証を行う。

 しかし、一般の人たちは、被告人をすべて有罪とみなし、さらに弁護士を犯罪者のために働いていると考える場合が多い。「どうしてあんな人間の弁護をするんですか」とは、私自身、何度も問いかけられた質問である。

社会との緊張関係

 そのような中で、最も憎まれる被告人を弁護する弁護士は、国家、社会と強い緊張関係を強いられることになる。光市事件でも、弁護人を抹殺するという脅迫状が報道機関に送られたという。しかし、どのようなことがあっても、弁護士は依頼者のためだけに職責を果たすのである。弁護士は、誠実義務を、被害者に対しても、社会に対しても負っていない。

 憲法が予定しているのは、弁護士が被告人のために全力を尽くし、検察官は国家を代表して立証を尽くし、中立の裁判官が公正な立場でこれを判断するという構図である。弁護土が、遠くのことを考えず、目の前にいる依頼者の最善の利益だけを考えて行動することによって、全体として社会は安定すると考えられているのである。

 もちろん、民主的な社会の中で、ある職業が存続し続けていくためには、その職業について社会から理解され、その必要性が認められることが必要である。しかし、そのことは、個々の事件において弁護士が、受任している事件の弁護方針を事前に社会に説明しなければならないことを意味するわけではない。

 まして、それを社会に納得してもらわなければならないということではない。そのような状態になれば、社会が弁護士の活動に直接に介入できることになってしまう。

 戦前は、検事正あるいは司法大臣が弁護士を監督していた。しかし、新しい憲法の下で、国家と緊張、対立関係にある職務を遂行する弁護士がこれらの者の監督を受けることは相当でないとして、現在の弁護士法では弁護士について監督官庁は置かれず、弁護士自治が現定された。この自治を担保するため、弁護士は弁護士会に登録を義務づけられ、弁護士に対する懲戒は弁護士会が行うこととなった。このように、弁護士会による懲戒は弁護士自治を基礎づけるものであるが、この自治は弁護士がその職責を十分に果たすことを保障するためのものである。

懲戒基準は世間の基準

?

弁護士の懲戒事由は、弁護士法等の違反、弁護士会の秩序又は信用を害すること、その他品位を失うべき非行とされている。橋下弁護士は、テレビの中で、一〇万人くらいの視聴者が弁護士会に懲戒請求すれば、弁護士会でも処分を出さないわけにはいかないと述べ、ホームページでは、「『弁護士会の信用を害する行為、品位を失う行為』の基準は、世間の基準」と主張している。

 しかし、もともと、弁護士会の信用が害されたかどうかは懲戒請求者の数で決まることではないはずである。それなのに、多くの人が懲戒請求すれば懲戒になるというのは、懲戒基準が「世間の基準」であるというのと同じく、「世間」の多くの人が非常識と考える弁護活動をしたら、それだけで弁護士は懲戒されるべきだという主張に他ならない(その基

礎にあるのは、法律は「所詮道具」という考えである)

 これは、国家だけでなく、社会から憎まれる人の側に立つという弁護士の職責を考えるとき、弁護士の地位を著しく不安定にするものであり、そのことは「弱者」を守るという憲法の理念が実現されにくくなることを意味する。

弁護士の拠って立つ基盤

 最高裁は、今年四月二四日、弁護士に対する懲戒請求が違法となる場合があるとの判決を下した。この事件では、A社がB社を訴え、これが棄却された後、B社が同じ裁判所にA社を訴えたところ、A社が、B社の弁護士を、「この裁判所にA社を訴えたのは品位を失う非行だ」として懲戒請求していた。最高裁は、B社弁護士の提訴が非行に当るはずがないとして、A社弁護士の懲戒請求書の作成を違法としたが、弁護士出身の田原睦夫裁判官は、弁護士が懲戒請求の代理人等として関与する場合、「懲戒請求の濫用は現在の司法制度の重要な基礎をなす弁護士自治という、個々の弁護士自らの拠って立つ基盤そのものを傷つけることとなりかねないものであることにつき自覚すべきであって、慎重な対応が求められ

る」との補足意見を述べている。

 橋下弁護士自身は、「時間と労力を費やすのを避けた」(九月六日付産経新聞)ためもあり、懲戒請求をしていないが、多数の国民に懲戒請求を呼びかけたその行為が「弁護士自らの拠って立つ基盤そのものを傷つける」ことにならないかは慎重に検討される必要があるだろう。

(きたむら・よういち弁護士)

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2009年7月18日 (土)

毎日記者、集英社 控訴審判決文

毎日記者5人と集英社に勝訴した東京高裁の控訴審のうち、とりあえず判決文を掲載します。

被告側の和解案を見ると、一番見られたくないのは、準備書面や陳述書のようですが、それはまた機会を改めて。

また一審判決文については、リクエストがあれば、テキスト化してブログ公開します。

平成21年7月15日判決言渡し 同日 原本領収裁判所書記官 加藤政人

平成21年(ネ)第36号 ,同年(ネ)第923号損害賠償請求控訴事件, 同附帯

控訴事件(原審・東京地方裁判所平成19年(ワ)第15490号)

口頭弁論の終結の日平成21年4月20日

判      決

東京都千代田区一ツ橋二丁目5番10号

控訴人兼附帯被控訴人株式会社集英社

(以下「控訴人会社」という。)

同代表者代表取締役                山下秀樹

東京都千代田区一ツ橋一丁目1番1号毎日新聞社内

控訴人兼附帯被控訴人             花谷寿人

(以下「控訴人花谷」という。)

東京都千代田区一ツ橋一丁目1番1号毎日新聞社内

控訴人兼附帯被控訴人             江刺正嘉

(以下「控訴人江刺」という。)

東京都千代田区一ツ橋一丁目1番1号毎日新聞社内

控訴人兼附帯被控訴人             渡辺英寿

(以下「控訴人渡辺」という。)

東京都千代田区一ツ橋一丁目1番1号毎日新聞社内

控訴人兼附帯被控訴人             小出禎樹

(以下「控訴小出」という。)

東京都千代田区一ツ橋一丁目1番1号毎日新聞社内

控訴人兼附帯被控訴人             小泉敬太

(以下「控訴人小泉」といい,

上記6名全員を「控訴人ら」

という。)

控訴人ら訴訟代理人                 弁護士  高木佳子

        古谷誠

東京都××区

被控訴人兼附帯控訴人             佐藤一樹

(以下「被控訴入」という。〉

主      文

1本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。

2控訴費用は控訴人らの,附帯控訴費用は被控訴人の各負担とする。

事実及び理由

1当事者の求めた裁判

1控訴の趣旨

(1)原判決中,控訴人らの敗訴部分を取り消す。

(2)被控訴人の請求をいずれも棄却する。

2附帯控訴の趣旨

原判決を次のとおり変更する。

控訴人らは,被控訴人に対し,連帯して200万円及びこれに対する平成15年12月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2事案の概要

1事案の要旨

被控訴人は,平成13年3月当時,東京女子医科大学(以下「女子医大」という。)病院に勤務していた医師である。

控訴人会社は,雑誌・図書出版業等を営む株式会社である。

控訴人花谷,控訴人江刺,控訴人渡辺,控訴人小出及び控訴人小泉は,毎日新聞医療問題取材班(以下「控訴人取材班」という。)を構成する新聞記者である。

控訴人会社は,控訴人取材班を執筆者として「医療事故がとまらない」と題する書籍(集英社新書)(以下「本件書籍」という.)を発行した。本件書籍には,「第1章東京女子医大病院事件」との見出しの記事(以下「本件記事むという。)が掲載され,本件記事には,被控訴人(ただし,記事中の表記は「E医師」とされている。)が人工心肺装置の担当医師として関与した心臓手術において患者が死亡したこと,女子医大がその手術に関するカルテ等を組織的に改ざんをしたことなどが記載されている。なお,本件書籍は,毎日新聞紙上で連載された記事をまとめたものである(この新聞連載記事を,以下「本件連載記事」という。)。

本件は,被控訴人が,本件記事のうち原判決別紙「被控訴人の主張一覧」の「記載内容」欄の番号1,ないし10の各記載部分について,被控訴人が上記手術の際に人工心肺装置の操作ミスをした等の趣旨の記載をされ,医師としての名誉が毀損されたと主張して,控訴人らに対し,共同不法行為に基づき,慰謝料1000万円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は,名誉毀損による共同不法行為の成立を認め,被控訴人の請求を80万円及びこれに対する平成15年12月23日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で認容した。これに対し,控訴人らは,請求全部の棄却を求めて控訴し,被控訴人は,請求を200万円に減縮した上,請求の認容を求めて附帯控訴をした。

2当事者の主張等

前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の2ないし4に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)4頁13行目の「設置した。」の次に「内部委員会の委員は,東間紘教授(委員長。泌尿器科学),楠本雅子教授(循環器内科学),尾崎眞教授(麻酔科学)であり,心臓外科医や人工心肺装置に関する専門的知識を有する専門家(医師,臨床工学士など)は含まれていなかった(甲6,40)。」を加える

(2)6頁23行目の次に,次のとおり加える。

「同委員会の委員は,高本眞一東京大学教授(委員長。心臓外科,呼吸器外科),四津良平慶磨義塾大学教授(心臓血管外科),坂本徹東京医科歯科大学教授(先端外科治療学),許俊鋭埼玉医科大学教授(心臓血管外科)の4名であり,協力員は,又吉徹慶磨義塾大学医用工学センター臨床工学士,見目恭一埼玉医科大学MEサービス部臨床工学士であり,同委員会は,心臓外科及び人工心肺装置の専門家により構成されていた(甲6,8,10,40,弁論の全趣旨)。」

(3)9頁4行目の「無罪判決」を「無罪判決の確定」に改める。

(4)9頁24行目から25行目を次のとおり改める。

「イ検察官は,上記無罪判決に対して控訴をしたが,東京高等裁判所は,平成21年3月27日,検察官の控訴を棄却する判決をし,同判決に対しては検察官から控訴がなかったため確定し,被控訴人に対する無罪判決が確定した(弁論の全趣旨)。上記東京高等裁判所判決においては,被害者は,回路内が陽圧の状態になり,脱血不能の状態になった時点では,脱血カニューレの位置不良により頭部が欝血し,既に致命的な脳障害を負っていた可能性が高く,人工心肺回路内が陽圧の状態になったことによる脱血不能の状態が,被害者に致命的な脳障害を発生させて死亡させるに至ったと認定するには合理的な疑いが残るとして,被害者の頭部に轡血をもたらした脱血カニューレの位置不良は,操作担当者である被控訴人の人工心肺装置の操作に起因するものではないから,これと被害者の死亡との間には因果関係が存在せず,被控訴人について業務上過失致死罪は成立しないとの認定判断がされている(甲41)」

(5)11頁17行目末尾の「装置」を「操作」に改める。

(6)16頁5行目の「1000万円」を「200万円」に改める。

3当裁判所の判断

当裁判所も,被控訴人の請求は,原判決が認容した限度で理由があり,その余は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」に説示するとおりであるから,これを引用する。

1  17頁24行目の括弧内の「イ」の次に「。なお,被控訴人の主張中には,本件記事の全体が被控訴人の名誉を毀損するとする部分もあるが,被控訴人は,本件記事中の具体的な名誉毀損部分は,本件各記載である旨を明らかにしているから,本件各記載について名誉毀損の成否を検討すれば足りる。」を加える。

2 24頁7行目の「刑事裁判」を「刑事の確定判決」に改める。

3 24頁25行目から26行目にかけての「被告取材班によりされた取材や記載内容の検討等」を「生起した本件各記載と関連する事実関係並びに控訴人取材班による取材等」に改める。

4 25頁22行目から26頁19行目までを次のとおり改める。

「〈イ)本件連載記事の掲載以後に生起した本件各記載と関連する事実関係及び控訴人取材班による取材等

a 前記認定のとおり,3学会検討委員会が設置され,平成14年8月3日に第1回委員会が開かれた。3学会検討委員会は,平成15年4月26日までの間に合計9回の委員会を開催し,そのうち,平成14年11月16日に開催した第5回委員会は慶磨義塾大学病院手術室において,同年12月21日に開催した第6回委員会は女子医大病院手術室において,シミュレーション実験を実施した。上記第5回委員会のシミュレーションにおいては,吸引ポンプの回転数を100回転にしても,静脈貯血槽の圧力変化には影響せず,陰圧ラインの閉塞により急激に圧力が上昇することが確認された。また,上記第6回委員会のシミュレーションにおいても,上記第5回委員会のシミュレーショ.ンと同様に,吸引ポンプの回転数を100回転にしても,静脈貯血槽の圧力変化には影響せず,フィルターの位置を下降させたことによりフィルターが閉塞し,急激に圧力が上昇することが確認された(甲8)。

b 本件患者の遺族である平柳利明を含む,心臓手術を受け,死亡や重度障害を負った子供の親4名は,平成14年12月12日,厚生労働大臣に対して,女子医大病院が使用していた人工心肺装置には,何らかの重大な欠陥があると考えられるとして,その導入の過程等について調査を求める要望書を提出した(乙35)。

c 控訴人取材班は,平成14年12月13日付け毎日新聞において,上記患者の親から国と都に対し,女子医大の人工心肺装置の導入過程について調査を求める要望書が提出されたことを報道した。その記事には,親たちは,「装置自体に重大な欠陥があり,他に被害者が出ている可能性がある。」と訴えているとの記載がある(甲16)。

d 3学会検討委員会は,平成15年3月2日,3学会検討委員会の中間報告として,陰圧吸引補助脱血体外循環を施行する際に次の4点を遵守するように勧告した。なお,遵守事項には,吸引ポンプの回転数に関する記載は,存在しない(甲8)。

①陰圧吸引補助ラインにはガスフィルターを使用せず,ウオータートラップを装着する。

②陰圧吸引補助ラインは毎回滅菌された新しい回路を使用する。

③静脈貯血槽には陽圧アラーム付きの圧モニター並びに陽圧防止弁を装着する。

④陰圧吸引補助を施行する際には微調整の効く専用の陰圧コントローラーを使用する。

e 上記中間報告書は,全国の関係病院長に送付された。また,上記勧告は,そのころ,日本胸部外科学会のウェブサイトに,同学会員以外の一般人も自由に閲覧できる状態で公開された(甲6,8,10,弁論の全趣旨)。

f 日本放送協会(以下「NHK」という。)は, 平成15年3月13日,総合テレビの「おはよう日本」というニュース番組中で,午前5時35分過ぎから同36分過ぎまでの約1分20秒間,「人工心肺の安全対策を勧告」という文字タイトルの下で,「2年前女子医大病院で起きた医療事故を切っ掛けに,心臓手術に関する3つの学会がこの時に使われたものと同じタイプの人工心肺装置を調べた結果,安全対策を徹底する必要があるとして全国の医療機関に緊急の勧告をした。日本心臓血管外科学会,日本胸部外科学会及び日本人工臓器学会の3学会の合同委員会は,事故の防止策について検討し,事故を再現するなどして調査した結果,安全対策を徹底する必要があるとしてガイドラインをまとめ,全国の医療機関に緊急の勧告をした。これによると,患者の血液を吸引する管に目詰まりを起こしやすいフィルターを付けないこと,血液を吸引する圧力を微調整できる専用の装置を使うことなどを求めている。」等の内容を放送した。同放送は,同時刻に衛星第二放送及びデジタルハイビジョンでも行われた(乙32の1ないし3)。

また,そのころ発行された「Medical& Test Journal」同月21日号にはその緊急勧告に関する記事が掲載されていた(乙16)。

g 厚生労働省は,同月17日,同省医政局総務課長及び同省医薬局安全対策課長の連名で各都道府県衛生主管幹部(局)長にあてて,上記3学会検討委員会の中間報告における勧告等を参考として,同勧告で指摘された4点を遵守する必要がある旨を通知した(甲17の末尾の頁)。

h 被控訴人は,同年8月25、日に東京地方裁判所で開かれた被控訴人に対する刑事事件の公判において,それまで認否を留保していた起訴事実を否認し,事実関係としては,血液を吸引するポンプを高回転にしたことを認めた上,「女子医大には,当時,回転数に関するルールや指導はなかった。脳障害を引き起こしたのは,ポンプを高回転にしたためではない。」などと主張した(甲24)。

i 同月26日付けの産経新聞は「女子医大病院手術の女児死亡元医師ミス否認」の見出しの下に,被控訴人に対する刑事事件における上記の事実関係を報道した(甲24)。

j 前提事実(7>ア,イのとおり,3学会検討委員会は,同年5月,3学会報告書を作成し,同月15日,札幌市で開催された日本心臓血管外科学会学術総会のシンポジウムにおいてその内容を報告した。この報告においては,各委員から3学会報告書に基づいた報告がされ,「安全な陰圧吸引補助脱血法に向けての提言」として,前記中間報告と同内容の4点の遵守事項が勧告されるとともに,前記認定の3学会報告書の記載に基づき,本委員会の検討により,女子医大で起こった事故は本来陰圧であるはずの静脈貯血槽が急激に陽圧になったためであり,その原因は吸引回路の回転数が非常に高かったためではなく,陰圧吸引補助ラインに使用したフィルターが目詰まりを起こし閉塞した可能性があることが模擬回路による実験でも示されたことが報告された(甲7,8)。

k NHKは,同日,総合テレビの「ニュース9」において,「人工心肺トラブル2年で約500件」という文字タイトルの下で午後9時10分ころに30秒間,さらに総合テレビの「ニュース10」において,「人工心肺トラブル」という文字タイトルの下で午後10時59分ころに30秒間,上記報告内容に基づき,3学会が全国の病院に人工心肺装置の使用についてアンケートをした結果,多数のトラブルが起こっていることが判明したことなどを放送した(乙16,32の1ないし3)。

l 3学会報告書は同シンポジウムの参加者に配布されたほか,同日,3学会報告書の抜粋が3学会のそれぞれのウェブサイトに掲載された。また,3学会報告書は,そのころ,「人工臓器」,「Clinical Engineering」などの医学専門誌に掲載されて紹介された(甲9,10,弁論の全趣旨)。

m 同年7月25日に開かれた瀬尾和宏被告人に対する刑事事件の公判において,喜田村弁護人は,瀬尾和宏被告人に対して,本年5月に3学会が合同で3学会検討委員会を作って3学会報告書が出されたことを知っているかどうかを尋ねる被告人質問をし,3学会報告書に言及した。控訴人江刺は,同日の公判を傍聴していた(甲4,弁論の全趣

)。

n同年11月13日に東京地方裁判所で開かれた被控訴人に対する刑事事件の第26回公判において,被控訴人の弁護人が3学会報告書を証拠として取り調べることを請求した(甲32の2,弁論の全趣旨)。」

5 27頁21行目から31頁15行目までを次のとおり改める。

「イ)しかしながら,本件書籍は,本件連載記事の毎日新聞紙上への掲載から1年余の期間を経過した時期において,連載記事をまとめたものを新たに単行本(新書)として発行するものであり,本件書籍の発行は,新聞紙上への掲載とは別に被控訴人の社会的評価を低下させ得るものであるから,本件書籍の記載内容の事実を票実であると信ずるについて相当の理由があったか否かは,本件連載記事の掲載時における上記の判断とは別に,本件書籍の発行時を基準として判断すべきである。

(ウ)そして,本件記載は,本件書籍全体の論述の申で重要な位置を占める事実であり,被控訴人が人工心肺装置の操作ミスをした旨の本件記載は,被控訴人に対して重大な名誉毀損の被害をもたらすものであること,本件書籍:の発行時には,被控訴人に対する刑事裁判が係属中であり,前記のとおり被控訴人は,同年8月25日に東京地方裁判所で開かれた刑事事件の公判において,それまで認否を留保していた起訴事実を否認し,「脳障害を引き起こしたのは,ポンプを高回転にしたためではない。」などと主張するに至り,被控訴人も操作ミスを認めているという本件連載記事を執筆した当時の控訴人取材班の認識(認定事実(ア))とは全く異なる状況が生じていたこと,前記のとおり,本件患者の遺族などの側からも,平成14年12月12日,厚生労働大臣に対して,女子医大病院が使用していた入工心肺装置には,何らかの重大な欠陥があると考えられるとして,その導入の過程等について調査を求める要望書が提出され,その旨の報道がされていたことなどの事実に,本件書籍は,速報性を必要とする日刊新聞紙の報道記事としてではなく,毎日新聞社内において医療事故の取材等のために特別に編成された控訴人取材班の継続的な取材の成果を,将来にわたって販売が継続され得る単行本として世に問うものであることを考え合わせると,控訴人取材班としては,本件書籍の発行に当たり,新聞連載時の取材対象等に対する追跡取材及びその後の事態の進展等に即応した新たな取材をし,書籍の記載内容の正確性を再検討する必要があるものというべきである。

(エ)これを本件についてみると,本件記載に関しては,上記イ「認定事実」(イ)記載のとおりの新たな事態の進展があり,これらの事実関係は,いずれも,一定の範囲の者には公開されていたものであり,これらの中には,控訴人取材班自ら取材し,報道したことがあるもの(上記イ「認定事実」(イ)b,c参照),他の報道機関が取材し,報道したもの(上記イ「認定事実」仔)e,f,j,k参照),3学会の関係者,心臓外科の専門医,人工心肺装置に関する技士,研究者及び心臓手術に関連する病院関係者等に知られていると考えられるもの(上記イ「認定事実」(イ)d,e,g,j参照)が含まれているのであって,控訴人取材班としては,上記の取材の必要に基づいて,本件手術の関係者,内部報告書の関係者,心臓外科の専門医,人工心肺装置に関する技士,研究者等に対して上記のような追跡取材及び新たな取材をすれば,これを知り得たものというべきである。

そして,そのような取材をしたとすれば,控訴人取材班は,本件事故について,「東京女子医大で起こった事故は本来陰圧であるはずの静脈貯血槽が急激に陽圧になったためであり,その原因は吸引回路の回転数が非常に高かったためではなく,陰圧吸引補助ラインに使用したフィルターが目詰まりを起こし閉塞した可能性があることが模擬回路による実験でも示された。」との結論を提示して判断の過程及び理由を詳細に記載した3学会報告書を閲覧・入手することができたものというべきであり,内部報告書と3学会報告書とを対比して検討すれば,本件事故の主要な原因が吸引ポンプの回転数を上げすぎたことにあるとする内部報告書の記載が誤りであるか,少なくともその結論に重大な疑義があることを知り得たものであり,したがって,3学会報告書の存在や内部報告書の正確性等の問題点について言及することなく,被控訴人の操作ミスの存在を摘示した記載2の内容を真実の記載としてそのまま維持することが困難であることを認識し得たものというべきである。

(オ)ところが,前記のとおり,控訴人取材班は,本件書籍の発行に際し,海外のデータについて本件連載記事を掲載した時点のデータを最新のも、のにする作業をしたほか,認載内容の正確性についての確認作業をしたが,更に積極的に新たな取材はせず,3学会報告書についても検討したことはなく,本件記事については本件連載記事の内容について,特段の加筆や訂正をすることはしなかったものである。

(カ)なお,控訴人らは,本件書籍発行の段階では,そもそも3学会報告書を入手して検討する契機がなかったと主張する(争点(2)ウ(被告らの主張)(イ)。

しかしながら,控訴人取材班には,前記のとおり,本件書籍の発行に当たり,3学会の関係者,心臓外科の専門医,人工心肺装置に関する技士,研究者,内部報告書の関係者等に対して上記のような追跡取材及び新たな取材をする必要があったのであり,このような取材を実行すれば,3学会報告書の存在を知ることができ,これを入手することができたものというべきであり,控訴人らの上記主張は,更に積極的に新たな取材をしないことを前提とする立論であるから,採用することができない。

(キ)また,控訴人江刺及び控訴人会社従業員の陳述書(乙15,16)には,本件書籍の発行スケジュールにおいて,本件記事の内容について十分な検討をすることは困難であったかのように述べる部分がある。しかしながら,本件書籍の発行時期からすれば,何らの対応をすることもできなかったとは到底考えられない上,そもそも発行スケジュールは控訴人らにおいて決したものにすぎず,控訴人らとしては,本件書籍の記載内容に問題があることが判明したとすれば,出版時期を延期してでも対応すべきであるから,本件書籍の発行スケジュールを理由として,上記の判断を覆すことはできない。

(ク)以上によれば,本件書籍を発行した時点において,控訴人らが被控訴人が本来してはならない吸引ポンプの回転数を上げ続けるという操作をしたことによって本件事故が発生したことを真実であると信ずるについての相当の理由があったと認めることはできない。この点に関する控訴人らの主張は,採用することができない。」

4結論

以上によれば,被控訴人の請求は原判決が認定した限度で理由があるからその限度で認容し,その余の請求は理由がないから棄却すべきであり,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴及び本件附帯控訴は,いずれも理由がないから,これらを棄却することとする。

東京高等裁判所第12民事部

裁判長裁判官   柳田幸三

裁判官             大工 強

裁判官             坂口 公

これは正本である。

平成21年7月15日

東京高等裁判所第12民事部

裁判所書記官加藤政人

 

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2009年7月16日 (木)

二審も勝訴!毎日新聞記者らの破廉恥な和解案

二審判決文は一審の理由をさらに増強

昨日の2009年7月15日、私が、『医療事故がとまらない』(集英社新書)を執筆した江刺正嘉記者、渡辺英寿記者、花谷寿人記者(毎日新聞医療問題取材班)他2名の計5人の記者5人と集英社を名誉毀損で本人訴訟で訴えていた民事裁判(被告代理人:高木佳子弁護士、古谷誠弁護士)で東京高等裁判所は、2008年12月8日の東京地裁判決が私の訴えを認め、記者らに80万円の支払いを言い渡した判決を支持して、控訴および附帯控訴を棄却しました。すなわち、私の勝訴です。

この裁判の一審については、当ブログ

2008年12月5日 「医療事故がとまらない」毎日新聞医療問題取材班「一粒で二度美味しい」を許すな! http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/post-2352.html

2008年12月8日 勝訴!対集英社および毎日新聞記者ら本人訴訟-名誉毀損賠償80万円ー第1報 http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/80-8d13.html

2008年12月12日 100万円基準を500万円基準にー名誉毀損裁判 損害賠償額ー http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/100500-205d.html

で紹介しました。

被告側、敗訴を予想して和解案提出

 二審は、一審以後に私が追加した証拠が判決文に追加されてより判決理由が増強されています。

 相手側二審が結審した直後。和解を望んできました。6月10日が判決日だったのを引き伸ばされました。

 その和解案とは極めてずうずうしいものでした。

毎日新聞記者ら側の和解案

「tokyo_kosai_wakai_ann.pdf」をダウンロード

「1.控訴人らは、本件書籍において、本件事故の原因として後の刑事事件の控訴審判決が認定した事実と異なる記述が存在すること及び被控訴人が無罪を主張していた事実について言及がないことを認め、これにより被控訴人が不快の念を抱いたことについて遺憾の意を表明する。また、控訴人らは、被控訴人の刑事裁判における被控訴人の主張に関する取材が不十分だったという被控訴人の見解を真摯に受け止め、今後の取材・編集活動に生かすべく努める。

2.被控訴人は、本件書籍執毎及び発行の目的が、医療事故における組織的・制度的な問題の究明にあり、被控訴人を含む医師個人の責任を追及したりその名誉を毀損することにはなかったことを理解する。

3.控訴人ら及び被控訴人は、本件訴訟が和解によって解決したという事実並びに本和解条項第1項及び第2項の内容を除き、本件訴訟の経緯並びに本件訴訟において提出された準備書面等及び証拠(但し、公刊物を除く。)を秘密として保持し、正当な理由なくこれを第三者に開示又は漏洩しない。

4控訴人ら及び被控訴人は、控訴人らと被控訴人との間には、本和解条項に定める内容を除き、一切債権債務がないことを相互に確認する。

5訴訟費用及び和解費用は、第一審、控訴審とも各自の負担とする。」

一審勝訴している私が、このような馬鹿げた和解案を受け入れるはずがありません。「本件訴訟の経緯並びに本件訴訟において提出された準備書面等及び証拠(但し、公刊物を除く。)を秘密として保持し、正当な理由なくこれを第三者に開示又は漏洩しない。」なんて和解案聞いたことがないでしょう。

これは、被告らが、そうとうめちゃくちゃな「準備書面」や「証拠=陳述書」を出してしまったことが公開されるのが恥になるからでしょう。

 勝訴したからには当然こちらは、公開する権利があります。

 また、裁判官もあきれて、修正しました。

裁判所和解案

「1.控訴人らは、本件書籍において、本件事故の原因として後の確定した刑事事件の無罪判決が認定した事実と異なる記述が存在すること及び被控訴人が無罪を主張していた事実について言及がないことを認め、これにより被控訴人が不快の念を抱き、迷惑損害を受けたことについて遺憾の意を表明する。また、控訴人らは、被控訴人の刑事裁判における被控訴人の主張に関する取材が不十分だったという被控訴人の見解を真摯に受け入れ、今後の取材・編集活動に生かすべく努める。

金銭支払い項目:和解金100万円

2.被控訴人は、本件書籍執筆及び発行の目的は、医療事故における組織的・制度的な問題の究明あり、被控訴人を含む医師個人の責任を追及したりその名誉を毀損することにはなかったことを理解する。

3.控訴人ら及び被控訴人は、本件訴訟が和解によって解決したという事実並びに本和解条項第1項及び第2項の内容を除き、秘密として保持し、正当な理由なく、これを第三者に開示又は漏洩しない。

4.控訴人ら及び被控訴人は、控訴人らと被控訴人との間には、本和解条項に定める内容を除き、一切債権債務がないことを相互に確認する。

5訴訟費用及び和解費用は、第一審、控訴審とも各自の負担とする。」

 私は、

原告和解案

「1.控訴人らは、本件書籍において、被控訴人が2003年8月までに主張していた事実、すなわち本件事故の原因として確定した刑事事件の無罪判決が認定した事実と異なる記述が存在すること、及び、専門家に対する取材が不十分であったことを認め、これにより被控訴人が不快の念を抱き、迷惑損害を受けたことについて真摯に反省し謝罪する。また、控訴人らは、被控訴人の刑事裁判における被控訴人の主張に関する取材を初めとした刑事裁判の取材が不十分だったことを真摯に受け入れるとともに、本件訴訟で主張した準備書面と陳述書の全てを撤回し、さらに今後の取材・編集活動に生かすべく努め、平成21年6月20日までに和解金600万円と2003年12月23日から完済に至るまで年5分の割合による金員および第一審、控訴審ともに全ての訴訟費用を被控訴人に支払う。

2.控訴人ら及び被控訴人は、控訴人らと被控訴人との間には、本和解条項に定める内容を除き、一切債権債務がないことを相互に確認する。」

という対案をだしましたが、双方の乖離が大きいため判決となりました。

この時点で相手側は、敗訴を容認したと思われます。

そして何より、被告側が敗訴を予測していたことの表れは、弁論期日も、和解期日も弁護士2人、被告記者2人、毎日新聞社法務関係者、集英社関係者など毎回6-8人訴訟にかかわっていたのが、控訴審判決では法廷に現れませんでした。被告側席0人、原告側席1人。傍聴者席20人近くという状況で判決を聞きました。

勝訴さえすれば、苦労のしがいがあったというものです。

毎日記者には、この書籍で得た収入を返上してもらいたいですね。

せっかく和解案の原本をブログに掲載したのですが、↓の方にしか提示できないようです。ずっと下にいって、クリックして原本を読んでください。

「mainichi_kisha_gawa_wakai_ann.pdf」をダウンロード

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2009年6月 9日 (火)

「公正な視線」と祝・「科学ジャーナリスト賞」

「否定された内部調査報告書 東京女子医科大学病院 心臓手術事故」ー「ルポ 医療事故」

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/post-fe25.html

で紹介させていただいた、「ルポ医療事故」(朝日新書)の執筆で、出河雅彦さんが、日本科学ジャーナリスト会議が選ぶ「科学ジャーナリスト賞2009」を受賞されました。

http://jastj.jp/?p=149

「被害者対加害者」といった単純な構造や偏見でしか見る目をもたないY新聞やM新聞の記者とは一線を画し、読者にへつらうことなく感情を抑制して、ぶれない公正な視線で書かれたことが、「科学」物の書籍として評価されたと思われます。

日本では、新聞学科やメディアリテラシーに特化した学部のある大学が少なく、メディア界に多い早稲田大学にも存在せず、学生時代にジャーナリストの基本としての「論理的考え方」「科学的な(人文科学も含めて)物の見方」が身についていない記者ばかりの中で、出河さんのルポがなおいっそう輝いたのは当然でしょう。

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2009年5月14日 (木)

「診療研究」(東京保険医協会)2009年5月号被告人の視点からみた医療司法問題の実際

 「診療研究」(東京保険医協会)2009年5月号に掲載されました。私の投稿「被告人の視点からみた医療司法問題の実際」が、編集部のご好意により、PDFウエッブ上での発表の活用を勧めていただきました。

 本件刑事事件を「各医療司法関連組織の問題点」という切り口で執筆いたしましたので、ご覧ください。

「447_2009.pdf」をダウンロード

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2009年4月27日 (月)

「診療研究」(東京保険医協会)2009年5月号:被告人の視点からみた医療司法問題の実際

被告人の視点からみた医療司法問題の実際「診療研究」(東京保険医協会)2009年5月号
に依頼原稿を執筆いたしました。以下のような目次になっています。

はじめに
1.司法警察(員)-フィードバックされない現場刑事の捜査
・任意捜査に先行した内部報告書のメディア暴露
・フィードバックされない現場刑事の捜査と自白の強要-逮捕
2.検察捜査-勉強不足の取調検察官
・警察官よりも医科学知識に劣る検察官
・ローンを抱える私立医大勤務医の保釈金2000万円:算定根拠は
3.公判検事(地検)-科学的事実の証拠隠し
・フィルター調書なし、取説なし。重要人物の調書なし。
・「3学会報告書」の不同意-検察官の知的誠実性の欠如
・破れかぶれの訴因変更
4.地方裁判所-分離裁判の弊害
・検証実験計画に7ヶ月-理科系職員の不存在
・業務上過失致死罪と証拠隠滅罪
・分離裁判と矛盾した判決-「とりわけ上大静脈」の脱血不良の言及なし
5.控訴した検事と公判検事(高裁)
・証拠提出期限を約束違反:裁判の長期化 
・控訴審非専門家“新証人“は一審と同じ証人とその部下
「公務員」検事のモチベーション
6.高等裁判長の退官と新裁判長の充実
・遅々とした裁判進行と定年退官
・「患者家族の願い」と「最終弁論の検察批判」に答えた高裁裁判長
おわりに
 



 

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2009年4月11日 (土)

無罪確定に対する司法記者クラブへのコメント

東京女子医大の院内事故調査報告書は、現在、作成者の東間紘元病院長自身も「科学的でない」「結論に根拠はない」と認めるものです。*この報告書の誤りを指摘しようとした私に対して、黒澤博身元主任教授が行ったパワーハラスメントは、「白い巨塔」を超えるものでした。**

 東京女子医大が早期にこの報告書の誤りを認めていれば、遺族も、私も、長期に渡り苦しむことはなかったはずです。どれほど遅くとも、学界の衆知を集めた3学会報告書***が発表された2003年5月には誤りを認めるべきでした。東京女子医大の報告書に、遺族も検察もメディアも国民も騙されたといっても過言ではありません。

 この事件は、東京女子医大が、自らの事故調査報告書が杜撰なものであったことを認め、東間、黒澤両元教授と共に、遺族と私、そして国民に謝罪しない限り、終わることはありません。

*http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/post-fe25.html

** http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/cat6216890/index.html

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/files/200807.pdf

*** http://www.jsao.org/tools/file/download.cgi/69/vavd_report.pdf

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2009年4月 4日 (土)

本件手術の反省からの提言

はじめに

 100以上の文献と専門書、実験報告書、10人以上の心臓外科医や4人の臨床工学技士、複数の麻酔科医、脳外科医、医学工学博士、医療機器業者らの公判調書や検察調書など膨大な証拠を基に、本件心臓手術事故で患者さんの死亡「原因究明」や人工心肺装置に発生した不具合の「原因究明」が示されました。

 これに対して、心臓外科医としては、「再発防止」策を真摯に検討し、改めて安全な心臓手術手技を確認する姿勢が不可欠です。当事者として、以下の6項目について提言させていただきます。

 下記提言の⑤は、科学的見地から客観的に検証した結果を踏まえて作成された3学会合同陰圧吸引補助脱血体外循環検討委員会中間報告(敬称略:委員長 高本眞一、許  俊鋭、四津 良平、坂本  徹、又吉  徹、見目 恭一)(年32日)として、同月11日、日本心臓血管外科学会、日本胸部外科学会、日本人工臓器学会の全会員に、「陰圧吸引補助脱血体外循環に関する勧告」が、各学会ホームページならびに会員メーリングリストで周知された内容と同一です。同月17日には、厚生労働省が、同勧告の4点の遵守必要性を各都道府県衛生主管部(局)長に通知しました。さらに同年515日第33回 日本心臓血管外科学会学術総会の「3学会合陰圧吸引補助脱血体外循環検討委員会報告」シンポジウム「安全な陰圧吸引補助脱血体外循環を目指して」でも報告されました。

 この3学会報告が、「真相究明」に大きな役割を果たし、東京高裁判決でも肯定的に引用されました。

 また、⑥は、心臓手術手技に直接の関連はありません。しかし、本件手術の「院内事故調査報告書」は、非専門家の3医師が作成し、その責任者自らが「科学的でない」「根拠なく結論づけた」と告白したもので、専門家をいれず、関係者の意見も踏まえずに作成されたため、今回の誤った捜査の原因を作ったものです。患者さん家族にこの報告書が渡される前には、病院幹部数人のみが秘密裏に閲覧したことが冤罪事件の根源となり、また、患者さんの状況について家族に誤った報告を行うことになりました。このような非科学的で不十分な「院内事故調査報告書」が根絶されることを願い、その問題点を指摘する意味で追加いたしました。

本件手術の反省からの提言

1.MICSの部分胸骨切開について

・ 拡大肺動脈形成など肺動脈弁輪遠位部の手術手技を行う場合、第2肋間までの縦切開(I字切開)だけでは、安全な視野確保が困難な時は直ちに、切開を追加し、胸骨全切開や逆L字切開(肺動脈の場合は左側)などを行う。

2.MICS時のカニュレーションについて

・ 小児MICS症例などで部分縦切開(I字)で手術を行う場合、上大静脈へのカニュレーションは、経右心耳(SDN)を基本とし、上大静脈直接カニュレーションは行わない。

・ 右肺静脈上大静脈還流(部分肺静脈還流異常症)や静脈洞欠損型心房中隔欠損症、TCPC等、手技上の理由で、上大静脈直接カニュレーションが必要な場合、胸骨部分縦切開(I字)は行わない。その場合は、胸骨全切開や主たる手術目的にあわせた逆L字切開などを行って、充分に安全な視野を確保する。

・ 上大静脈直接カニュレーションを行う場合は、先端の角度を自由に変えられるカニューレを使用し、角度が固定されているライトアングルのカニューレは極力使用しない。

3.上大静脈圧のモニターについて

・ 完全体外循環(トータルバイパス)を行う場合には、必要に応じて、上大静脈圧のモニターを行う。

4.脱血不良時における吸引回し(サクション回し)について

・ 人工心肺中に脱血不良が発生した際に、通常の脱血管の位置修正などで改善せず、直ぐには原因が判明しない場合、上下大静脈の両方を確実にパーシャルバイパスにして吸引回し(サクション回し)を行う。

 吸引回しの際に、脱血管を閉塞する処置が必要な場合は、特に上大静脈側から右房(situs solitus)への充分な静脈還流を確認し、不充分な場合は、上大静脈のカニューレを一旦抜去する。

5.陰圧吸引脱血法について(陰圧吸引補助脱血体外循環に関する勧告)

・ 陰圧吸引補助ラインにはガスフィルターを使用せず、ウオータートラップを装着する。

・ 陰圧吸引補助ラインは毎回滅菌された新しい回路を使用する。

 陰圧吸引補助を施行する際には専用の陰圧コントローラーを使用する.

6.心臓外科手術事故調査について

 心臓外科領域における医療事故調査は、複数の心臓外科医を委員として参加させる。

 事故調査報告を終える前に、当該医療事故死等の原因に関係あると認められる者に対し、意見を述べる機会を与えなければならない。また、その者による意見を報告に取り入れない場合でも、どのような意見があったかを報告書の末尾等に資料的に記載する(参考:医療安全調査委員会設置法案(仮称)大綱案(平成206月)第21条「意見の聴取」)

以上

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2009年3月29日 (日)

控訴審無罪報道の読み方

今3月28日の各紙朝刊を読んで驚愕しました。一審判決後控訴審終結までは、南淵証人が4回も出廷するなどあまりに長く、その間に父は亡くなりました。父は新聞記者だったので、私は学生当時から各紙新聞の読み比べや全国紙、地方紙に投稿もし、それなりの研究もしてきました。新聞に対する思いは人一倍強いと思っています今回報道で一番公正な視線は、産経新聞(地方紙はまだ読んでいません)。将来の展望としてもよい。後の新聞は、各社の医療報道に対する意識が強く、それを主張するためのツールとして、本件事件を利用しているかのような恣意的なものを感じました。

私が、記者会見で、「内部報告書」は非専門家が書いたもので、書いた人自らが「科学的でない」「根拠なく結論を書いた」といっていることや、ご家族に渡された時点でこの「内部報告書」は、委員の3人と理事長、理事、院長、医事課長、心研所長の7人程度の人間にしか知らなかったような秘密裏に作成されたものだ、3学会報告書で科学的に排斥されたものだ、ということを強調するべきだったのかもしれません。

もっと明確なメッセージを残せばよかったと悔いています。

新聞報道では、高裁判決文、3学会報告書、一審判決、検察の主張、女子医大内部調査報告書のそれぞれの記載内容を理解できていないまたは、内容を誤って報道がされています。学術レベルが高い3学会報告書や莫大な証拠をもとに作成された控訴審判決をなぜそのような女子医大内部報告書と並べて比較できるのでしょうか。

もっと真剣に本件事件自体ををよく調べて報道してもらいたいものです。

これでは、心臓外科医でも誤って本件判決を理解をしてしまうでしょう。

判決要旨が公開されています(判決全文はまだ私の手にもありません)。

判決では、3学会報告書の内容は全く否定されていないことを明記させていただきます。判決要旨にも5頁に3学会報告書の結果が尊重されています。

3学会報告書はあくまで、「陰圧吸引補助体外循環検討会」であって、体外循環装置事故そのものの研究を真摯に行っています。しかし、カルテは既に押収されていたのですから死因を検討するには無理があります。「女子医大心臓外科手術死因検討委員会」ではないことをメディア、特にY新聞は理解していません。

大野病院事件初公判の時にも、感じましたが、やはり、新聞社の医療裁判報道はバイアスが強いと思います。その意味で私が書いた「傍聴記」http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/post_ace1.htmlは意味があったと思います。

私は、以前の第37回 日本心臓血管外科学会学術総会心臓血管外科専門医認定機構医療安全講習会でも「悪しき医療報道」http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/02/post_12a3.htmlについてフロアから述べました。安全講習会の講師が「最初に、『女子医大の事件の件はマスコミ報道で、皆さんご存知だと思いますが・・・。』と述べられましたが、これが一番、危険な考え方です。」

その点、医療報道のみを専門として、記者会見にも出席された橋本佳子さんがSo-net M3 20090327日で淡々と書かれているものがありますので、でコピーペーストさせていただきます。

但し、橋本さんが書かれてことに少し補足が必要です。

重要なことは、争点が二つあることです。

逆流の発生機序とその原因、佐藤に予見可能性があったか否か。

逆流が発生したときにすでに脳障害があったか否かです。

一審の判決は、①を詳細に検討して、②を「明確に認定することを避け」た形で、無罪となりました①の発生機序は、検察の主張した「吸引ポンプの回転数の上昇」は全く関係なく、3学会報告書の通り「フィルターの閉塞」です。

しかし、それではご家族の納得がいきません。

二審では、①は一審と全く同じで書く順番が後に回りました。そこで、②の詳細を先に判示しました。②が認定されたため、死因はSVC症候群となりましたが、仮に②が否定されても①があるから無罪という判決文です。

以下が橋本さんの記事の引用です。http://mrkun.m3.com/mrq/top.htm?tc=concierge-header

327日、東京高裁において、東京女子医大事件の刑事裁判の控訴審判決があり、業務上過失致死罪に問われていた佐藤一樹医師は、一審同様に無罪となりました。

 判決後に開かれた記者会見の冒頭、佐藤医師は次のように語りました。

 「一審の無罪判決後、ブログで主張してきたことがほぼ100%認められた判決。医療事故においては、原因究明と再発防止が非常に重要になってきますが、そこまで踏み込んで判決を書いていただいて、いい判決文だと思っています。裁判長が最後に『医療事故にかかわった一人として、またチーム医療の一員として、この事故を忘れずに今後を考えていただきたい』とおっしゃいました。この再発防止についてはブログでも書いており、また今年10月の日本胸部外科学会の医療安全講習会の講師を私は務めます。院内調査報告書がテーマで、心臓外科医として死因はどうであったか、今後の再発防止にはどうすればいいかを学術的にも発表していきます」

 この事故は、20013月、東京女子医大の当時の日本心臓血圧研究所(心研)で12歳だった患者が心房中隔欠損症と肺動脈狭窄症の治療目的で手術を受けたものの、脱血不良で脳障害を来し、術後3日目に死亡したというもの。事故が明るみになったのは同年の年末で、心臓疾患の治療では全国でもトップクラスの女子医大でのケースだったために、全国紙をはじめ、様々なメディアで報道されました。

 人工心肺装置の操作ミスが脱血不良の原因であるとされ、操作を担当していた佐藤医師が業務上過失致死罪で、また医療事故を隠すためにカルテ等を改ざんしたとして別の執刀医が証拠隠滅罪で、20026月に逮捕、翌7月に起訴されました。執刀医に対しては、2004322日に懲役1年執行猶予3年の有罪判決が言い渡されています(控訴はされず確定)。

 一方、佐藤医師については、20051130日に無罪判決が出されています。その控訴審判決でも無罪となったわけです。

 佐藤医師の起訴事実の「操作ミス」とは、人工心肺装置を高回転で回したことが脱血不良を招いたというもの。しかし、一審判決では、水滴等の付着による回路内のガスフィルターの閉塞が脱血不良の原因であるとし、それは予見できなかったとして、無罪としています。

 今日の控訴審判決では、「無罪判決を言い渡した原判決は結論において正当である」としたものの、その理由は一審とは異なっています。

 判決の焦点は、(1)死因は何か、(2)水滴等の付着によるガスフィルターの閉塞が脱血不良につながる機序について、予見できたか、の2点。

 (1)で、患者の死因は上大静脈の脱血不良は、フィルターの閉塞ではなく、「脱血カニューレの位置不良」であり、それが原因で循環不全が起こり、頭部がうっ血し、致命的な脳障害が起きたとされました。この「脱血カニューレの位置不良」は、人工心肺装置を操作していた佐藤医師の行為に起因するものではないため、過失はないとされたのです。

 刑事事件において、過失は、ごく簡単に言えば、死亡原因と医師等の行為との間に因果関係があるか、因果関係がある場合に「予見できたか」(予見できたのにそれを回避しなかったときに過失が認定)という形で判断されます。

 つまり、「そもそも佐藤医師の行為と、患者の死亡との間には因果関係なし」とされたわけです。控訴審判決を受け、主任弁護人の喜田村洋一氏は、「裁判所に『因果関係がない』と判断されるような、誤った起訴を検察がしてしまったことが、本件の最大の問題。無罪になったものの、2002年の逮捕・起訴から、約6年半も経過しています。長い間、被告人という立場に置かれていた。無罪になったものの、依然としてマイナスの状態」などと検察の起訴を問題視、慎重な態度を求めました。

 この女子医大の事件は、昨年8月に担当医に無罪判決が出た「福島県立大野病院事件」と類似しています。一つは、「医師逮捕」という形で事件が公になった点。もう一つは「院内の調査委員会報告書」が医療事故が刑事事件化するきっかけとなったという図式です。これらの点と、判決の詳細はまたお届けします。

 最後に、「遺族への思い」を記者から聞かれた佐藤氏のコメントをご紹介します。

 「なぜ亡くなったのかを知りたいという思いを、裁判所が示してくれたことは、ご家族への礼儀になったのではないかと思います。女子医大が作成した(事故調査原因に関する)内部報告書は、患者さんの死因を科学的に考えなかった、あるいは根拠なく書いてしまった*。その態度を女子医大に反省していただきたい。僕も同じ病気(心房中隔欠損症)だったのであり、子供を亡くす親の気持ちは計り知れないものがあります。せめて今回、死因が分かったということに関してはご家族にもほんの一部ですけれども納得ができたのではないかと思っています」

*否定された内部調査報告書ー「ルポ 医療事故」朝日新書http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/post-fe25.html

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