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2007年1月

2007年1月30日 (火)

『大野病院事件』-支援戦略再考 草案執筆中

加藤先生の無罪が最優先

1.はじめに

 20066月から私はブログを始めました。現在までに90000を越える閲覧があり、平均すると一日3152007126日までは、一日の閲覧数が1000を越えることは数えるほどで、最高でも1600強でした。

 大野病院事件の傍聴記を書いたところ、129日は6854の閲覧があり、この4日間で26500の閲覧がありました。いかにこの事件が注目されているかを数字で実感しています。これだけの人数がいれば、何かができる。それは何か。

2.支援の方法論の再検討

 閲覧者の皆さんからのコメントやご意見を多数いただきました。私のブログや自分のブログだけでなく、私の電子メールアドレスにも直接ご意見をいただいております。

実際に公判で検察側の「公訴事実」と「冒頭陳述」を傍聴したことと、皆様のご意見がヒントになり、

「今まで数多く出された『声明文』に加え、『追加声明文』を出す必要があるのではないか。」

と考えるようになりました。

 「周産期医療の崩壊をくい止める会のホームページ」http://plaza.umin.ac.jp/~perinate/cgi-bin/wiki/wiki.cgi?page=FrontPage

には、本邦における重要な医学、医療関係の団体の「声明文」が掲載されています。

 これらの立派な「声明文」は大変重要な役割を果たしたとは思いますが、次の段階に移る必要があると思います。(残念ながら、私は来週2つの本人訴訟(民事)と、控訴審(民事)と重要な提訴の予定がありその準備に追われています。これと平行して、各「声明文」を再読し分析し本稿を書きたいと思います。)

3.われわれは何を目ざしているのか

 戦略を練るためには、明確な目標を掲げなければなりません。この明確化が必要です。

私は先ず最初に

              「加藤先生の無罪を勝ち取る」

ことを挙げたい。「現場の医師が萎縮するので、有罪にすべきではない。」とか「産婦人科医が少なくなるから有罪にするな。」とか「過酷な医療環境を放置した行政に問題があるのだから無罪にしろ」「地域における医療体制の不備によって患者さんが亡くなったのだから不可抗力的事例だ」「予測困難な癒着胎盤症例だから・・・」という主張は、一見重要だが、検察官にとっては、「そんなことは本件刑事事件判決とは、関係ない。」のである。法廷は検察官の土俵上である。99.7%が有罪になる大横綱である。したがって、われわれは、検察官を彼らの土俵から引きすり落とし、「医学」のリング上に引っ張りこまなければならない。そこで、

次に、

「現在検察が『不同意』としている教科書、専門書、論文、鑑定書に『同意』させること。」

を挙げる。これがない限り、この裁判は長期化する。

このことは、現行法の下で、「通常の医療行為を行った医師が、結果的に患者さんを失ったために『逮捕』『「起訴」された全てのケース』に必要になってくる。起訴された全科の医師に共通したテーマになるはずだ。

「第三者の専門家(医師、医療従事者)による医療事故の真相解明および医療過誤の判定の制度化」「医師法21条の再検討」は大切だが、プロジェクトとしては大切であるが、二の次である。・・・

前回のブログのように、このテーマの本稿は再構築し発表する予定。しばしの間、私事の準備に移らせていただきます。

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2007年1月28日 (日)

速報 大野病院初公判傍聴記

「証拠隠しの検察官―専門家と国民の注目を無視」

はじめに

 ご存じの方も多いとは思いますが、この裁判の今までの概要を把握するためには、

「周産期医療の崩壊をくい止める会のホームページ」http://plaza.umin.ac.jp/~perinate/cgi-bin/wiki/wiki.cgi?page=FrontPage をザッと読まれるとよいと思います。弁護団のプレスリリースや加藤先生が所属する福島県立医科大学 産婦人科学 佐藤 章教授の名前で、公判前手続きの報告がしっかり掲載されているので初公判までの流れや争点が分かり易いと思います。

1.             傍聴の決意

 私は、2006年8月15日にhttp://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2006/08/index.html 「『大野病院事件』初公判に向けてのエール『医療事故と検察批判』―東京女子医大事件、血友病エイズ事件、両無罪判決より-」において、この事件について簡単に言及しました。ここでは敢えて、「検察が起訴したことはおかしい。」とか「加藤先生は無罪だ。」と強く主張をしませんでした。自分が関与しない事件では「原資料」を直接閲覧しない限り、責任をもった意見を主張できる立場にないと考えるからです。(勿論、逮捕は不当だと思っていました。)

 当事者でない限り、通常の医療事故情報はメディアからしか手に入りません。メディア以外に情報発信源がなければ、「何が起きたか」の判断材料はメディア情報に依拠することになります。本件でも、医師会、学会等が情報を発信していない初期の段階では、メディア報道が唯一の情報源だったはずです。

 このブログの読者ならご存じの通り、私は、医療事故におけるマスメディア情報がいかにいい加減なものであるかを実感しています。一般に「医師は、学会、医師会等が発信した医療事故関連情報を得ると、その情報を尊重する傾向になる。」といえると思います。一方的にそれを支持するかどうかを慎重に判断するとしても、概ねその情報は正しいと予測されます。この段階にくれば、起訴以前のメディアというフィルターを通しての警察発表情報は無視できると思います。

 しかしながら、臨床医療現場で発生した事故に警察、検察が介入することの是非はさておき、現行の法律上、裁判でどのような判断がされるのかを考えるにあたり、実際に起訴した検察官の起訴状、冒頭陳述そのものは絶対に無視できません。検察官がこの起訴状や冒頭陳述の内容について、「合理的な疑いを容れる余地のない証明をなしえるかどうか」が勝負になるからです。メディアがいい加減に報道したことを責め立てることに躍起になること以前に、検察官の起訴状、冒頭陳述に矛先を向けるべきです。

 私は、一審無罪ではあったものの、控訴されています。現在、逮捕され刑事被告人の立場にある医師(有罪は除く)は全国でも少ないはずです。加藤先生と同じ立場から応援できる数少ない人間として、直に応援したいと思いました。そして、応援を単なるエールだけで終わらせずに、マスメディアとは異なった視点からこの初公判を伝えたいと思ったのです。

 

2.             傍聴券とロシアンルーレット

 一言に「傍聴する」といっても、私個人が傍聴するとなると、限りある傍聴席を抽選で手に入れないと始まりません。これだけの大きな事件になると、多数の傍聴希望者が殺到することが予想されました。知られているように、一般の傍聴希望者よりも多いのは記者席を確保できなかったメディアが依頼したアルバイトの人達が傍聴券を狙っています。

 私は事前に「この初公判の取材は、全国紙でも本社の記者ではなく、現地の記者が取材する。」という情報を得ていたので、傍聴席の倍率はそう高くないだろうと予測し福島にいくことにしました。

 「学会の上層部はみんな『佐藤君は、ロシアンルーレットに当たった。』と言っているよ。』私の刑事裁判が開始されたころ、私の恩師である常本實先生(2006年6月2日「はじめてのブログ」 http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/cat3890205/index.html  参照)がおっしゃっていた。「あの人工心肺を使用していたら誰かが最後には事故に遭遇することになっただろう」とおっしゃっていた。そんな「ロシアンルーレットに当たった自分が、たかだか数倍であろう傍聴券の抽選に当たらないはずがない。」と勝手に思いこんで上野駅をたった。

 午前8時ちょうどに、福島駅からタクシーに乗り込む。運転手さんは、「今日は何か大きな裁判があるのですかね。前の二台もきっと裁判所に行きますよ。」確かに前の二台のタクシーは列をなして裁判所の方に向かっていった。

 裁判所の玄関に着くと、報道陣が集まっていた。私がタクシーを降りると、写真のカメラマンが4人とテレビ放送のカメラマンが2人近づいてきて、私に向かって撮影をしている。「おそらく私が誰だか知らずに撮影しているはずだ」と判断し、彼らを無視して当たり見渡すと傍聴者と思える人影はない。裁判所の腕章をしている職員に尋ねて裁判所の裏手の北側駐車場に向かった。パイロンとテープで列を作るための用意はされていたが、中年の女性が1人だけ並んでいた。9時15分の整理券配布の時間まで、約1時間だったが、私は列の二人目整理番号2番として並んだ。寒かった。手紙を書くには手がかじかんだ。

 

3.             モナリザのクリアファイルと「349分の26」のPC抽選

 この段階で、「増えても数十人程度かな。」と考えたのは甘かった。9時10分ごろには、裁判所職員が拡声器を使用しないと傍聴希望者を整理できなくなってきた。通称「ドカジャン」を来た人や、会社名がプリントされたおそろいのダウンジャケットを着た一団など、実際に法廷で傍聴をするにはふさわしくない服装の人が多い。明らかにアルバイトで並んでいる人達ばかりだ。恐らく300人は越えている。さすがに心配になった。「傍聴できなくとも、私がここまで応援にきたという事実だけでも加藤先生に伝えよう。」と思った。裁判所内に入れないのであれば、「傍聴券が当たった人に依頼して手紙を加藤先生に渡してもらう。」しか手段がなかった。 (関連したことが、医と健康のフリーマガジン Lohas Medicalのブログにも掲載されている。 http://lohasmedical.jp/blog/2007/01/post_431.php

 裁判をやっていると、重要な書類が多くなってくる。重要な書類が多いと、「今一番必要な重要な書類」がなかなか見つけられなくなる。私は、そんな書類が直ぐ見つけられるように「モナリザがプリントされたクリアファイル」を使用していた。

 大量の書類を要する医療裁判の初公判で、緊張している被告人が、見ず知らずの人にただ紙を渡されるだけでは、絶対読んでもらないだろう。傍聴人が直接被告人に手紙を渡すことは物理的に不可能。弁護士さんを通じて渡すことになるはず。「女子医大事件の被告人」からの手紙だと分かれば読んでもらえるはずだが、それ以前によっぽど目立つものでないとダメだ。」と思い、短い手紙を書いて、「モナリザ」にこれを入れて渡すこととし抽選を待った。

 9時15分に整理券の配布が終了した。裁判所職員は拡声器で、「傍聴席は26席で、今日は349人の人に整理券を配りました。」後方からは、拡声器でも言っていることが聞こえないというブーイングがあった。いよいよPCによる抽選開始。結果は一瞬にして出た。

 発表。349人は静まりかえる。私の整理番号は2番なので、当たればおそらく最初に呼ばれる。「発表します。2番。」呼ばれてみれば当然のように一気に4段ほどの石段を駆け上がり「傍聴券 1番」を受け取った。なぜだか「オー」という歓声があがっている。勝てば官軍。「当たり前だ。俺が当たらずに誰が当たるか!」。「次。23番26番56番・・・」

 26人が控え室にはいったが、多くは「今年の運は使い果たしたな。」「今度の競馬まで運をとっとけばよかった。」「金一封っていくらだろう。」「内(おそらく会社)は3人も当ったじゃん。」という会話で盛りあがっていた。その内の19人が他の人間に入れ替わった。

       

4.             開廷直前の動いたら負け

 福島地方裁判所2階の第一法廷。明るい。南側は窓ガラスで光りが差し込む。周り全てが壁の東京地裁の法廷とは違う。比較的広い法廷だが、傍聴席は横12列縦4列。後ろにベンチが二つ。前二列が記者専用。私は三列目の右から6番目の裁判長と相対する真ん中の席に陣取った。「駿台予備校」を思い出させるような詰め込み方だ。

 裁判長は男性。裁判官は高い位置にいるので、実際はそうでなくとも体が大きく見える。風貌は学者タイプ。左右陪席は両方とも女性だった。二人とも、胸に「カサブランカ」の花を咲かせたように真っ白なリボンが目立っている。どの学校に進学しても学級委員長とか生徒会長になる優等生。単に裁判所の人員の関係だとは思うが、「女性が二人とは産婦人科領域に関係する事件だという関連もあるのだろうか」と考える。被告人にとって裁判官がどのような人間であるかということは重要な関心事である。

 かたや、裁判官に向かって左側の窓側に検察官。4人。テーブルも二つ並んでいるのは今回のために特別に付けしたか?後ろに修習生と思われる3人。(私の公判検事は毎年交代していたが、担当は2人でたまに管理職的検察官が参加した。)検察官は調書をハードカバーのファイルに綴じてこれを本棚に立てるように置いている。お馴染みの置き方だ。風呂敷からだされた山のように積まれた書類を含めれば5000枚は越えると思われる。

 此方、通路側の弁護士団は4人二列の8人。前列裁判官側に主任弁護人。年齢から判断するとひとりおいて副主任弁護人が座していると思われる。テーブルには5つのPC。ちなみに私の弁護団は2人だが、不足していると感じたことは一回もない。

 裁判官の両側には傍聴者用に巨大なモニターがそれぞれ置かれている。私の公判では傍聴席の一番前等に17インチ程度のモニターが複数おかれていた。

 被告人席のテーブルはU字型で小さい。弁護人のテーブルの前にちょこっと置かれている。大量の資料を置くにはさぞ不便であろう。私の初公判では被告人のためのテーブルはなかったが、それでは困るので裁判所に申請したら第2回公判からは3m以上あるテーブルが用意された。この段階で被告人は法廷にいない。法廷内でのテレビ撮影が公判開始前にあるから、人権上被告人は映らないように配慮されているからだ。

 「撮影始めます。」「30秒です。」「1分です。」「残り30秒です。」「2分。撮影終了です。」職員の声だけが響く中、法廷内では誰1人として動こうとしないし話をしない。「動いたら負け」のゲーム。緊張した雰囲気がさらに堅くなる。

  

5.             涙でかすむ立ち姿―人定質問

 加藤先生が入廷。黒めのスーツに地味なネクタイ。清潔感のある短髪で知性のある凛々しい顔つき。体は大きくないが、下を向くことなくしっかりした姿勢、茶色がかった力のある瞳の視線に揺るぎがない。緊張は手にとるようにわかるが、高ぶっていない。冷静である。闘いに疲れている様子もない。その立ち姿を見て涙腺が緩んだ。涙がこぼれないようにした仕草を、周りの傍聴者に気づかれかもしれない。「何故この人が、刑事被告人としてこんなところに立たされなければならないのか。」

 自分の時を思い出す。私の初公判は保釈前でまだ勾留中だった。手錠と腰縄、サンダル履き、ノーネクタイ、ベルトもなしの姿で、法務省職員に腰縄を持たれて入廷を控え室で待った。妻と父も含めた傍聴者のいる中、法廷に入ってから、手錠と腰縄を外された。留置所、拘置所外で手錠腰縄フリーとなったのは、勾留83日目にして初めてのことだった。妻は裁判長を見ていたという。「無実の人間が入ってきたという目で見ていたよ。」といっていたが、どんな表情だったのだろう。

 私は涙もろい方で、映画やスポーツ中継を見ていても涙が出ることがよくあったが、逮捕されてから無罪判決が出るまでの間は怒りが先立ち涙を流すことはなかった。(保釈決定後、拘置所から出所して妻に最初に会えたら涙が出るかと思っていたが、フジテレビ等の撮影隊が多数押し寄せてそれどころではなかった。)それが何故、今泣けてくるのだろう。

 型のごとく冒頭手続き開始。人定質問。生年月日、本籍、現住所、職業を聞かれる。先生は無職ではなかったのでホットした。私は千葉県の規定で逮捕されたため退職。女子医大が1ヶ月だけ雇った形になったが、虚偽の「内部報告書」で犯人扱いし、それに依拠した検察に起訴されたとして直ぐに諭旨退職。「医師の資格はありますが、現在は無職です」と答えた。

6.             いきなり臍帯を「ジンタイ」と読んだ起訴状の公訴事実

 起訴状の公訴事実は一般にそう長くはない。被告人は立って聞く。

起訴状を読んだのは、裁判官側にいた比較的若手の検事。昔の漫才コンビ「ぼんち」のおさむちゃんが古典芸能を継承したらこのような雰囲気になっただろうと思わせる風貌の検察官。「おさむP」と呼ぼう。

 報道されているように、起訴状で問われている罪は二つで、業務上過失致死と医師法(異常死体の届け出義務)違反。

 主旨は、「癒着胎盤と診断した時点で胎盤を子宮から剥がすことを中止し、子宮摘出をすべきであったのに、そのまま剥がすと大量出血する可能性を認識していたにもかかわらず、クーパーを使用して漫然と胎盤剥がしたため大量出血となり患者が失血死した。」「異常死であるにもかかわらず病院長に異常死ではないと報告し、自分でも警察に届け出をしなかった。」ということである。

 起訴状とは「検察官が被告人を罪人にするために作成した作文」である。科学分野の報告書や論文とは全く違う。検察官が作成した検察製事実が書いてあるだけで、その根拠について詳細は書かれていない。したがって、この起訴状に対しては、黙秘権告知の後に被告人自身が罪状認否をおこなうので、弁護団はまだ反論する必要がない。

ところが、早くも弁護団から異議が申したてられた。

 私もおかしと思っていた。学生時代に習った産婦人科の解剖では、陰部の筋肉や靱帯について勉強した記憶があるが、おさむPは、「ジンタイを左手で引っ張りながら、右手で胎盤を剥離云々」といっている。どこのジンタイだ?

 弁護団には当然手元に「起訴状」がある。主任弁護人から「今、検察官がジンタイと読んだのは、臍帯(サイタイ)の読み間違えではないですか。」旨の主張。起訴は10ヶ月も前にされた。臍帯血が治療に使用されていることは、小学4年生の私の甥っ子でも知っている。産婦人科専門医を被告人にしている裁判の公判担当検事が「臍帯」を正確に読むことが出来ないことは、検察官の基本的な不勉強を露呈しているというより馬鹿にしている。

 私の公判でも同様なことは沢山あった。「新」を「シン」と読むところを平気で「ニイ」と読んでいたり、論告求刑の段階になっても「DCの回数」と書くべき所を「DCビートの回数」と世の中に存在しない術語を作り出して平気で書いたりしていた。http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2006/08/index.html 「大野病院事件」初公判に向けてのエール「医療事故と検察批判 」―東京女子医大事件、血友病エイズ事件、両無罪判決より- 2-2弁論要旨 「第1 序」 より 2本事件の特質 (2)検察官の態度 ウ DCビート 参照)

 私の起訴状の公訴事実は裁判の途中で訴因変更された。刑事訴訟法上合法な手段(刑事訴訟法312条)ではあるが、検察官にはとっては、非常にカッコ悪い状況。人を逮捕して起訴し、「その起訴した理由である公訴事実の内容は裁判が進むにつれて、誤っていることが判明したので、修正します。」ということだ。検察官は最初「吸引ポンプの回転数を上昇させると静脈貯血槽が陽圧化する。」と主張していたのが、「そんな馬鹿なことは起こりようがない」ことを裁判が始まって一年以上たってからやっと理解したのだ。すなわち女子医大の「内部報告書」の主旨に依拠して、起訴したのに、それをあっさり捨て去った。このとは、検察は一旦起訴すると、「恥も外聞も気にせずに勝負してくる」という基本方針を貫ぬくこと示している。この大野病院事件も訴訟が進行するにあたり、検察が公訴事実を変更してくる可能性もあり得る。

7.             裁判長による黙秘権の通知

 映画の法廷シーンで、お馴染み。裁判長が被告人に「自分の意思に反して供述をする必要がない」旨が告げられた。逆に、「法廷で供述したことは全て証拠とされるので、そのことを良く認識して供述する」旨も告げられた。

 私の場合は、公判では一回も黙秘権を行使しなかった。その必要性がなかったから。やはり、裁判官の前では全てを真摯に話した方が印象がよいのではないかと考えてもいた。

8.             被告人の罪状認否

 被告人があらかじめ準備した書類を陳述。私も同じでした。その内容は他の陳述とともに事前に裁判官、検察官にも書類が渡されているはずです。

 加藤先生は帝王切開手術をした事実、胎盤を剥離した事実、途中から子宮摘出手術に切り替えた事実、患者さんが死亡した事実等の当たり前の前提は認めていましたが、その他の公訴事実ははっきり否認されました。

 私の場合は、相被告人との関係もありかなり複雑な状況でしたので、認める部分と完全に否認する部分と留保する部分に分けかなり簡単に答えました。

 今回の罪状認否はある程度説明がされていました。今回の裁判では、起訴から初公判までに公判前整理が6回も行われていたことが理由だと思います。

 メディア(記者クラブ)は後の休憩時間に、弁護団から弁護側の書類をもらっていました。この中に罪状認否があったかどうかわかりませんが、概ね以下のようなことを陳述していました。(以後、私のメモと記憶からの記載が主となりますが、誤りもあるかもしれません。明らかに誤りがあるようでしたら読者は御連絡ください。修正いたします。)

     術前の超音波検査やカラードップラーによる診断を繰り返し行った。

     (全前置胎盤の手術としてという前提?)手術前の準備血は、テキスト通りに1000mlの充分な量を準備した。

     開腹後に子宮に直接超音波検査をおこないカラードップラーも使用して通常以上に慎重に診断した。

     用手的に胎盤を剥離できる部分がかなりあった。

     出血を止めるためには、胎盤を剥がす必要があった。

     経膣分娩でクーパーを用いると盲目的な操作になるが、充分な視野が得られている帝王切開においては可及的にクーパーを用いて剥離すべきであると判断した。

     胎盤を摘出した後、剥離面の圧迫止血や薬剤投与により止血を試みたが困難であった。

     患者さんは「もう1人子どもが欲しい」ということで、子宮温存の希望があったが、子宮摘出の可能性も手術前に説明し、子宮摘出を決断した。

     追加の輸血が到着して血圧が上昇してから子宮を摘出した。

     子宮摘出後は損傷した膀胱(またはその付属の組織?)を縫合しているときに安定していた血圧が突然低下した。

     心室頻拍(メモではVfとありましたが記憶ではVT)となったため、心肺蘇生を麻酔科医とともにおこなったが死亡した。

     輸血後は血圧が安定していた。

     病院長に死亡までの経緯を他の医師とともに話し、医療過誤でないので、届け出はしないと判断された。

     1人の医師として自分を信頼してくれた患者を亡くしたことは非常に残念で、心からご冥福をお祈りします。切迫した状況で、冷静にできる限りのことをやったことをご理解いただきたい。

     信頼してくれた患者さんが亡くなったことに関しては心からご冥福をお祈りいたします。

 

9.             主任弁護人の補足

 主任弁護人が被告人の罪状認否について補足しました。品の良い感じの弁護士さん。しかし、力強く、感情を込めてする話方も計算ずくの様子。私のメモと記憶から。

     事実関係は概ね被告人が罪状認否した通り。

     手術前に予見義務はない。術前に後壁の胎盤癒着は診断が不可能である。

     用手剥離しようとして胎盤が剥離できないからといって癒着は診断できない。

     胎盤を剥離しないと止血はできない。

     癒着胎盤と診断したからといって子宮摘出が全てに適応されない。

     すでに出血しているので、剥離を進めて止血するべき。

     臓器摘出は最終手段。

     患者にとって臓器摘出は侵襲。

     死因は出血死以外に羊水塞栓症の可能性がある。

     異常死にはあたらない。疾患に起因する死亡。

     病院長が届け出を行うものである。

     医師法21条は何が異常死かが曖昧。

     本件の真相を明らかにするように。

これは、当たり前の話である。私の弁護人も同様のことを最終弁論で陳述している。

すなわち、

「本件は、医師がその業務として行った手術が、刑法の業務上過失致死に当たるかが争われている事件である。・・・被告人・弁護人は、裁判所に対し、2つの点、すなわち、判決にあたっては、

・ 事案の真相を明らかにするべきこと

   ・ 医学水準に立脚した認定を行うべきこと

を特に要望しておきたい。」

 実際何が起きたのか。それを曖昧な言葉でごまかしてはいけない。

検察官は「通常は」といった話をしたがるが、「何時、どんな状況においてという条件」を全く無視して話を進めようとする。また、数字で話しをせずに「多い」だとか「少ない」だとかいった話をしたがる。

 ここで、おさむPが名誉挽回のつもりなのか、ちゃちゃを入れ「求釈明」。

10月10日公判前手続きの16頁で、弁護側は胎盤剥離前の出血が羊水を含めて2000mlがごく一般的な出血というくだりがあるが、この話が出てこないようだが、これは維持するのかいないのか云々」「多い」だとか「少ない」だとか「通常は」だとかごたごたと本質的でないことの執着している。弁護人と裁判官から一蹴りされる。弁護人は公判前手続きで予定したことを維持すると主張した。この辺りのやりとりから判断すると、裁判官はおさむPを見下している印象で、正直いえば、めんどくさがっているだろう。

10.      検察官の腕まくりパフォーマンス―冒頭陳述

 検察側の冒頭陳述は傍聴席側にいた検察官が行った。泉谷しげるが25年前にクラッシック音楽の道に進んでいたらこんな感じの風貌だったのではないだろうか。自然なそり込みが印象的なこの検察官を泉谷Pと呼ぶことにする。

 陳述内容は書面にて裁判官、弁護側にも事前に提出されているはずである。陳述内容はモニター大画面においても、文字や図が映しだされ、学会の発表のようにプレゼンテーションが行われた。泉谷Pは近い将来の陪審員制度を意識してか、時には裁判官を意識しながらも、時には傍聴席の方を陪審員に見立てているような感じで、傍聴席を意識しながら、手振りを使ったり、抑揚を付けたりして説明をする。テクニカルタームも言い間違えたり、つっかえたりすることなく、医学用語を英語で言い換えるときも流暢に話す。内容の真偽はともかく、プレゼンテーションは上手である。公判に必要な基本的な解剖、病理の分類も充分理解している様子で、おさむPとはかなり違う。劇場的で洗練されている。この公判担当検事の中では実質上のエースであろう。

 私の刑事公判を担当した検察官は次々と交代して、全部で8人に及んだが、1人だけ人工心肺のことを理解してそうな男前の検察官がいた。他の7人は全く理解していなかった。検察側証人として出廷した「内部調査報告書」の責任者である東間病院長が、弁護人の尋問に対して明らかに誤っていることをひょうひょうと答え続け、実際は火だるま状態なのにその自覚もない姿をみて、男前Pは、天を仰ぐようにしていた。心の中で、「ダメだ、こいつは。」と思っている表情をしているのを私は見逃さなかった。

 しかし、泉谷Pは今のところ男前Pの上をいく勢いだ。話ながら、頭から湯気が出るほどで、強調したい場面では、背広の上着を脱いだり、腕まくりをしたりするパフォーマンスと思える仕草をしていたが、少ししらじらしかった。

 概ね次のように進んでいった。(メモと記憶より。あまりに膨大にあるのでメモしきれず不明確な部分は一部割愛。原本はおそらくメディアが持っているはず。もちろん弁護団は持っている。)

一般の方が読む上での注意:

 ここに書いてある事実は「検察官側の主張する事実」。必ずしもこの事実=真実であるとはいえない。事実認定は裁判官が行う。当たり前のことだが、読んでいると頭にきてしまい冷静さを失ってしまわないように。

検察の陳述については「・」で示しましたが、ところどころに筆者の意見、疑問点を挿入しました。

第1 本件概要

・死因は失血死である。

第2 被告人の身上

・平成8年 医師免許

・平成13年 認定医

・平成16年 1人医長

第3 被害者の身上

・平成13年に帝王切開で出産

・平成16年妊娠33週で術前診断で全前胎盤 帝王切開方針

第4 前置胎盤と癒着胎盤の病理説明

・図入りで胎盤の説明

・前置胎盤の分類

・癒着胎盤病理的診断

・癒着胎盤の分類

・癒着胎盤は大量出血の危険がある-大出血性ショック、母体死亡の可能性

・発生頻度:帝王切開既往1回で子宮前壁(子宮の前回帝王切開創痕)に付着する前置胎盤の場合、約24%の高率で癒着胎盤の発生

(→以前から弁護側が反論。本件では胎盤は前回帝王切開創痕にかかっていないため、約24%の高率で癒着胎盤が発症することはない。)

     癒着胎盤の確定診断は病理診断-剥離後

     癒着胎盤の臨床診断―用手的に剥離できないと診断されたとき

     争点(検察官が「争点である」とことわりを入れている)

     被告人所有の産婦人科のテキストには以下の記載

     用手剥離が無理は場合は大量出血になる可能性があるとか書かれている

     子宮を摘出する必要性が書かれている。

     無理に剥離すると・・・ただちに・・大量出血する

第5 胎盤の状況

     全前置胎盤

     嵌入胎盤

第6 本件

     産婦人科医1人医長

     大野病院は二次救急病院―三次救急の指定ない、特定機能病院指定うけてない

     大野病院には貯血がないので輸血の確保は物理的に困難

     いわき●●センター、双葉厚生病院に一時間で転送できる

     被害者(検察の言葉そのまま)妊娠37週

     子宮口を全部覆う全前置胎盤

     宮の前壁から後壁にかけて付着

     第1子出産時の帝王切開の傷跡に及んでいるため癒着の可能性が高いと診断

     大量出血が予見されるので、全前置胎盤患者はいわき●●センターに転院させてきた

     大野病院で帝王切開する予定となった

     助産師は大野病院で帝王切開するのは不適切でないかと助言したが聞き入れなかった

     助産師は他の産婦人科医の応援要請について言及

     被告人「問題が起きれば双葉厚生病院の医師に来てもらう」。

     先輩医師から大量出血した全前置胎盤症例の経験例を聞いた

     応援医師の派遣を断った。

     術前麻酔科医に「帝王切開の切開部に胎盤かかっていて胎盤が深く食い込んでいるようなら子宮を全摘する」

     子宮の前壁から後壁にかけて付着の全前置胎盤

     全前置胎盤のための輸血量を準備

     出血が多くなる可能性を考え2本ラインをとった。(通常外科医ならメインの他に輸血ラインを別にとるのは当たり前のことだが。佐藤注)

     被害者と夫に病状説明

     全前置胎盤、癒着の可能性、出血大量なら子宮摘出の可能性

     同意を得た

     何かあったら双葉厚生病院の先生を呼ぶと説明。

     手術当日に電話で「帝王切開の傷に胎盤の一部がかかっている可能性があるので異常があれば午後3時ごろ連絡がいく」と話した

     医師は応援を了解した

     手術の状況

     14時26分手術開始子宮Uの字切開

     14時37分女児娩出 子宮切開部ペアンで止血

     子宮収縮剤投与、意識レベル清明、血圧安定

     臍帯ひっぱっても胎盤剥離できない

     14時38分用手的剥離 左手で臍帯引っ張り右手で用手剥離

     用意に三本の指で剥離していたところがっちり癒着した部分

     指を三本二本一本としたが指は入らないので癒着胎盤と診断

     この時点で子宮摘出するべき、回避する手段はない(検察の主張)

     指より細いクーパーならすき間に差し込むことができるのではなどと安易に考えた

     大量出血の輸血追加要請はこの時点ではしていない

     14時40分クーパーで剥離開始(使用されたクーパーの写真モニターに提示)

     この時点での出血は羊水含めて2000ml

     広範囲のわき出るような出血増加

     看護師は総出血量を口頭で報告 輸血をポンピングする

     14時45分血圧低下剥離を10分で終了

     14時50分胎盤娩出 子宮内壁凹凸あり一部断端残存

     14時52分総出血 2550ml

     15時05分総出血 7675ml

     14時20分時 血圧 100/50  80強/40  50弱/30 弱 出血性ショック

     完全に止血できず、子宮摘出を決意

     15時10分追加輸血 子宮動脈ペアンで抑える 圧迫止血施行

     輸血到着待ち

     16時10分総出血量12085ml

     院長が双葉厚生病院の産婦人科医や大野病院の他の外科医の応援を打診

     被告人 断った

     16時20分 血液到着

     16時30分 子宮摘出

     1705分 心室頻拍 心肺停止 心肺蘇生

     争点(検察官がそう言ったか筆者が自己判断でメモしたか不明)

     19時01分 剥離による出血による失血死

    

 14時52分までの最初の26分間の経過は詳細であり、血圧の変動も15時10分までは、陳述された。しかし、15時10分から16時10分までの追加輸血到着までの経過は出血量以外の陳述が欠如している。15時05分から16時10分までの出血量は4410 ml

73.5 ml/分は確かに多いがラインが二本でポンピングするなら、バランスのみを考えるのであれば追いつく。輸血が1000ml入ってもかなりの貧血にはなっていたと予想されるが、この間のHb,Htなどの結果はあったのだろうか。

検察官が失血死と主張するからには、この間のバイタルバランスなどを強調したいと考えるのではないだろうか。麻酔チャートをみればわかることだが。-筆者

     院長に「やっちゃった」、助産師に「最悪」と述べた

第7

     癒着胎盤―前壁、後壁の嵌入

     子宮内には胎盤組織残存あり

     クーパー使用の結果、肉眼でわかる凹凸が生じ、断片はちぎれたような跡

     病理鑑定では、被害者の胎盤は、絨毛が子宮筋層まで食い込んだ重度の癒着胎盤

     術前から癒着胎盤の認識があり麻酔科に癒着の可能性ありと言及した

     術中超音波検査で血流が豊富

     胎盤に指を入れることができない状況

     予見の可能性があった

     大量出血の認識は、情報としてあった。

     剥離を中止し、他の専門医に

     わき出るような出血後直ちに中止し子宮摘出に移行するべき?(この辺りはメモも記憶も不明慮。どの時点で子宮摘出に移行すべきか、胎盤癒着診断直後なのか、わき出るような出血後なのか?)

     クーパーで無理な剥離をしてはならない

     器具の使用は危険(じゃ何を使用してどうするのか。癒着胎盤症例は全例子宮摘出なのか。筆者)

     クーパーにより大量出血 出血性ショック(全体的に出血性ショックの話が薄い。死亡診断書が出血性ショックとなっているので、あまり主張しなくても通ると考えているのか)

     血圧低下しわき上がるような出血(「わきあがる出血」を何回も印象的に陳述」

     出血に起因する出血性ショック死

     癒着胎盤を剥がすためクーパーを使用して出血

     盤剥離でクーパーを使った例を聞いいたことがなかった

     クーパーの使用は不適切ではと心の中では考えたが、「ミスはなかった」と院長に報告

     福島県警平成17年3月31日新聞報道により捜査開始

     家族 絶対ゆるさない

 泉谷Pの熱心なプレゼンテーションは終わった。正直にいえば、私が今まで見てきた公判検事の中では「一番優秀」という評価になる。医学知識のない傍聴席の記者達が圧倒され納得しても全くおかしくない。(休憩時間にご遺族と思われる方々が、泉谷Pの周りに集まった。頼りになると感じているのであろう。)

 この事件は全国の産婦人科医や医師だけでなく福島県民、いや国民的な注目を集めている。少なくとも私が行き帰りにのったタクシー運転手さんは二人とも事件の内容もよく知っていて、事件に対する自分なりの意見を持っていた。

 検察の立場にたてば、この裁判に負けると「縄張り」(2006年8月15日ブログ「大野病院事件」初公判に向けてのエール「医療事故と検察批判 」―東京女子医大事件、血友病エイズ事件、両無罪判決より1-4島(縄張り)争い 照)を医療界に持って行かれるきっかけをつくることになりかねない。検察官の中でも、優秀な検事に担当させたに違いない。

11.      モナリザの微笑み

 この時点で11時30分頃になっていた。弁護側の冒頭陳述に移るか否かを裁判長が検討した。弁護側も「一時間くらいの陳述」だということで、その結果5分間の休憩の後、再開することになった。集中して連続して熱心な冒頭陳述が行われると聞いている方も疲労する。記者達は入れ替わったり、いねむりをしたりしていた記者もいる。

 私が加藤先生と接触できるとしたら、今しかないと思った。保釈中の身では、事件関係者との接見禁止である。直接声をかけて誤解が生じると面倒なので、まず弁護士さんを選んだ。私が副主任弁護人と目している弁護士さんは休憩中も熱心に書類に目を通していたが、経験も豊かそうで理解もありそうなので、声をかけた。「弁護士さん。これを加藤先生に渡していただけますか。」モナリザを渡した。A4一枚の簡単な文章を読んで、驚いた表情。「よく中に入りましたね。」「抽選に当たりました。」「加藤さん」といってモナリザを加藤先生に渡した。

 あくまで冷静な対応で、実直そうで視線がしっかりしている。瞳が美しい。「ブログの先生ですか。」「本人です。」・・・。以下、応援していること、自分も控訴されていること、我々にしかわからないことで協力できることがあったら力になること等を会話。先生は私のことも気づかってくださった。

 学生の時に内科の教授は「産婦人科医は笑うと誤解されるので、笑ってはいけない。」とよくいっていた。常に冷静。新聞報道をあえて信じるとすると、加藤先生がご遺族から「冷静で云々」という評価を受けていたのは間違えないだろう。冷静な判断力と行動力は、緊急対応する全医師にとって重要なことである。

12.      弁護側の冒頭陳述-合法だが卑怯な証拠隠し

 弁護側冒頭陳述は、波乱が二回起きた。検察官が二回異議を申し立て、もの凄い勢いで言い争いになった。テレビドラマなどの演技では絶対に見ることができない、ライブならではの迫力である。どちらか一方が、力のこもった生の声で主張されると、相手も盛りあがって来る様子で裁判官が間にはいらないと収集つかない状態である。

 私も興奮と怒りで聞くことに徹した時間帯もあり、メモはぐちゃぐちゃ、メモをとれない心理状態となり、抜けだらけのメモになった。このためあまり上手な報告を作成する自信がない。陳述終了後に記者クラブが弁護団から冒頭陳述書の写しを何部か渡されている。従ってどこかを探せば内容についてはもっと詳細な報告、報道があるかもしれないのでご存じの方は御連絡ください。

弁護側は8人で、主任さんと副主任さん、女性イソ弁さん、男性イソ弁さんとそれぞれ章別に担当が変わって陳述。

主任さん

第1 はじめに

     本件では通常の医療行為が行われた

     誤った行為をしたり、投薬を間違えたり、医療器具を体内に残したりといった明白な医療過誤事件と異なる。

     臨床現場の医師は、現場状況に即して診断し、判断して最良と信じる処置を行うしかない

     結果から是非を判断はできない

     検察官の請求している証拠は専門的でない

     ①一般病理医に依拠している-胎盤癒着の程度が争点なのに「胎盤病理医」の鑑定ではない。

     ②専門的な産科領域の分野であるのに、「周産期医療」の専門家ではなく婦人科医の腫瘍の専門家の意見に依拠している

     ③検察が引用している教科書の言及とこの症例は合致しない

     ④被告人が過失を認めるような・・・依拠するが・・・損害賠償対する・・で合理的でない(以下メモそのものの写しのみの記述とすることがあります。記憶が曖昧なのと微妙な内容なので)

     ⑤被告人が専門・・・合理的疑いを越えるものではない。

     胎盤病理医の診断による癒着の程度を鑑定すべき

     周産期医療の専門家として3人の教授を証人とする

     事故報告書は被告人の過失としない

     検察官は専門家でもないのに医療の現場を混乱させた

以下のA.B.C.の陳述が終わるか終わらないかのところで、法廷内は騒然となる。泉谷Pが異議をとなえ反論したからだ。私もメモもぐちゃぐちゃになる。(この部分の言及は大切なので、わたしのオリジナルメモと新聞社などで報道された記事を一部参考にさせていただきます。新聞社の報道では明らかに異なる文言が用いられています)

     A.検察官は困難な疾患をもつ患者への施術の是非が問題なのに、弁護士が提出した教科書や専門家の鑑定書や解明に不可欠な弁護側の証拠隠しをして「不同意」としている。

     B.検察官調書の一部から被告人に有利な記載部分を黒塗りにして証拠請求している。

     C.このようなことは前代未聞である。

まず解説します。(法律家ではない私が、私なりの理解で書きます)

 検察側も被告人弁護側もそれぞれの主張を立証するため証拠を提出します。その証拠は「同意」すれば採用され、「不同意」とすれば採用されずに裁判とは関係がなくなります。その他「同意するが、証拠の内容についてはその信用性を争う」という立場をとったり、とりあえず「留保」したりしておいてあとから「同意」することがあります。

 具体的に書きましょう。

弁護側:上記A.について

 弁護側は、「出版されている既存の教科書」と「専門家の鑑定書」を証拠請求したようです。しかし、これを検察が「不同意」とすると裁判官はこの教科書や鑑定書を読まないことになります。裁判官は受け身的で、自分から教科書を探してきてこれを証拠とすることはできません。(探してきて勉強するかもしれませんが、判決には使えません)

 これは刑事訴訟法上正当な手段なのです。しかし、一般人からみればこの「証拠隠し」は「卑怯」以外の何者でもない。産科は、いわば、人類発生のときからの本能や耳学問から始まって、医学の中でも古い学問です。私は専門家ではありませんがおそらく産科の教科書は、人類の長い歴史と産褥で亡くなった女性や死産でこの世に誕生できなかった小さな命の礎と現代科学が生んだ結晶のはずです。これを検察官は、訴訟戦略上の理由で排斥したのです。

 わたしの刑事裁判でも検察官は、人工心肺事故の原因を調査した「3学会合同 陰圧吸引補助脱血体外循環検討委員会 報告書」(委員長 高本眞一 東京大学教授、委員 許 俊鋭 埼玉医大教授、同 四津良平 慶応義塾大学教授、同 坂本 徹 東京医科歯科大学教授。2003年5月、日本胸部外科学会、日本心臓血管外科学会、日本人工臓器学会が発行。)を証拠として2年以上『同意』しませんでした。

 結局、私の刑事事件の場合は、裁判官の裁量で、検察側が「不同意」としていた「3学会合同 陰圧吸引補助脱血体外循環検討委員会 報告書」と弁護側が「不同意」としていた「女子医大内部調査報告書」の双方を「同意するが、証拠の内容についてはその信用性を争う」ということになりました。泌尿器科が専門で人工心肺を操作したこともなければ、実際患者に装着したところを見たこともない女子医大の院長と延べ2万人以上いる3学会会員の代表である各大学の心臓外科教授団の作成した報告書の信用性を争っても勝負は見えていました。

 今後も、検察が教科書や鑑定書を認めない可能性があります。裁判官の裁量でもだめならば、加藤先生の弁護団は「教科書の執筆者や鑑定書の作成を証人として法廷で証言してもらう」ことになるでしょう。教科書を読めば数分で終わるところ、証人尋問をするとなると1人につき午前午後の尋問、あるいは二日間に分けて尋問となると裁判は長期化することになるでしょう。

検察側:上記Bについて

 例えば捜査官が被疑者(起訴前の被告人のこと)や手術室にいた人を尋問して供述調書を作成したとします。これがくせものです。警察が作成すれば警察調書(インメン、KS)、検察が作成すれば検察調書(ケンメン、PS))と呼びますが、これは供述者の名前をかりた警察官や検察官の作文です。

 検察は起訴後に証拠請求をして証拠を弁護側に開示します。検察側の重要な証拠としては、検察調書があります。検察官の作文です。

 例えば、手術室にいたAさんが供述したことを元に検察官は作文しAさんが署名する。プロの検察官が書いた文ですから、Aさんがいったことをちりばめて、いかにも被告人に罪があるようになっている書類です。仮に検察官の意にそぐわない供述調書になってしまったら、開示しなくてもよいのです。弁護側はその存在を知っていれば、開示請求できます。警察調書は存在しても開示してこないことがあったりします。

 たとえば、私の事件では警察はフィルターの製造会社の調べをしているはずですがその調書は開示されていません。また、当時の医局長の調書を作成したことはわかっていましたが、開示していません。警察が開示しなかった書類で、こちらが読みたい調書がいくつかあったので、こちらから開示請求したものもあります。

 しかし、今回の事件では検察官は自分たちが作文した「検察調書」のうち、被告人に有利な部分を黒塗りにして、裁判官に読めないようにして証拠請求したというのです。自分達が作成した調書をまるで、戦前の共産党関係の出版物のようなものにしたのでしょう。一般人からみればこの「証拠隠し」は「卑怯」以外の何者でもない。

上記Cについて、

 私はこの「このようなことは前代未聞である。」というのを聞いて、

 「検察ならこんな手段はよく使うのではないだろうか。確かに卑怯だが違法ではないはず。さすがに主任さん言い過ぎかなー。なんたって自分の事件でも検察は学会の報告書を「同意」しなかったという実例を知っているし。でもさすがに、教科書や論文は英文論文のひとつを除いて全て『同意するが、証拠の内容についてはその信用性を争う』だったな。」と思っていた。「『黒塗り』も卑怯だけど、検察ならあり得るだろう。」

ライブにもどろう。

 泉谷P「異議あり。」立ち上がって反論。手元には当然弁護側の陳述書があるはず。

 裁判長は異議の発言を認める。

 私も興奮してきてメモはない。概ね以下のようなやりとり。不正確かもしれないが伝わってきた印象はこんな感じでした。

泉谷P「調書は開示している。証拠の不同意は問題ない。それを証拠隠しとは不法であるかのような言い方では誤解される。」

主任B「(興奮気味に)教科書や鑑定書の証拠を隠して、不同意にしたのは事実だ。黒塗りも事実だ」

泉谷P「(湯気がでている)前代未聞とは言い過ぎだろう。誤解が生じる。」

場内騒然、自分の刑事事件では経験しなかったような雰囲気。この後、主任さんと検察官のやりとりが続き、私も、思わず「合法でも卑怯だろう。国民は納得しないよ。」と言いそうになり、特に後半の文言は音声になってしまう。おそらく私もかなりの形相で泉谷Pを睨んでいたのかもしれない。その後何回も目線がぶつかった。

結局、裁判長が収拾にはいる。

裁判長「前代未聞というのはいいすぎでは」

主任B「では前代未聞という文言は除きます。」

とういことで、陳述の続行となった。

この後メモはさらにぐちゃぐちゃで、テクニカルタームが断片的にあるだけとなった。

非常に体系的で立派な陳述だったが、再現が困難である。失礼にあたるかもしれないが確認できる要点のみ。

     被告人は過去に1200例の出産を扱い、うち200例が帝王切開。

     大野病院赴任後は、1年10ヶ月で休みは18日間のみ(おそらく休みといっても学会などで医学に従事していたのだろう)

     大野病院でも350の出産と60の帝王切開。

     その6割は夜間か休日で、文字通り365日24時間ON CALL体制

     大野病院には小児科がいない?(常勤医がいない)ので新生児の管理もおこなっていた。(立派だ。私は地方病院の産科の現状を知らないが、循環器小児外科出身者としても父親としても頭が下がる。)

     全前置胎盤の帝王切開も執刀している。

     難しい症例は大学病院や先輩と連絡をとっている。セカンドオピニオン

     術前診断を繰り返した

     患者さんは「もう1人子供が欲しい」と答えたため、被告は子宮温存を希望していると理解しカルテに記入

     術中の超音波検査、カラードップラーを施行。

     前回の帝王切開の切開線に胎盤がかかっていたら癒着の可能性が高まるため、慎重に検査し子宮の後壁付着と診断?(不正確なメモだと思います)

     検察官の言っていることは誤りで、胎盤病理の専門家は被告人を支持している。

     子宮マッサージをしながら、用手的に三本の指を使い分けつつ胎盤剥離

     半分程度はがした時点ではがれにくくなった

     剥離面からにじみ出るような出血があるが、剥離娩出すれば子宮が収縮し、子宮の血管も収縮して止血されるため、胎盤剥離を優先。

     子宮の母体の動脈と胎盤内の血管とは直接つながっていない

     胎盤を剥いでも母体の血管は傷つかない

     胎盤剥離を素早く終焉させるため、手段としてクーパー等の器具を使用

     クーパーの使用は●●博士の医学論文で紹介されている

     胎盤剥離後、子宮収縮剤を打った、あらゆる方法で止血措置を行いその後子宮摘出を行った。

     血圧の安定と血液の到着を待って子宮摘出を一時間後に施行した。

     子宮摘出は問題なく行われた

     18時頃?血圧は安定していたため損傷した膀胱の修復を行っていた

     突然血圧低下、心室頻拍(心室細動)

     麻酔科医師とともに蘇生術をしたが亡くなった

     出血性ショックのみが死亡との因果関係か不明

     失血死であると決めつけられない

     胎盤剥離の継続と死亡とは因果関係を認めがたい

     病理鑑定では、癒着の程度は最も深い部分でも子宮筋層の5分の1程度と浅い癒着

13.      憲法38条と医師法21条

 弁護士さんが変わった。男性イソ弁。開廷時から気づいていたが、私の親友と背丈顔がそっくりだった。ただし、その親友が3週間ヒゲを剃らなかった場合という条件がつく。残念ながら、ヒゲBさんは弁護団でも私から一番遠い位置に席があり、一番裁判官側よりの後ろの席でちょっと声が聞きづらい。内容も法律の理解に関わる内容で、またメモが上手にとれなかった。

 主旨は「医師法21条はそもそも黙秘権の放棄を医師に迫るもので憲法38条に反し、違憲である。」とうことで、壮大な命題である。

医師法

第21条              医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。

憲法

38条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。

2 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。

3 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。

     法令では異常死の解釈がなく各種ガイドラインがあるが定義がまちまち

     都立広尾の最高裁判決は誤りである。(詳細は陳述したが、私には理解しながらメモを取ることがでなかった。

     明治時代に・・・当時の厚生省・・黙秘権は・・・(メモの断片のみ)

     死亡診断書は出血性ショックだが胎盤剥離による出血?(メモも記憶も不鮮明)

     過誤はなかった。

     大野病院のマニュアルでは、院長に届け出義務を課している。

     医師は院長の判断に従った

     患者さんの死亡は異常死ではない

     疾患に起因した死亡。

     適切な医療行為だった。

14.      国民的注目を無視

弁護側の冒頭陳述は

「第5 本件刑事事件が問いかけるもの」という章に入った。

この章にはいると、検察官と弁護団の論争は最高潮に盛り上がった。国民にこの裁判が問いかけるものは大きいものになるだろう。

私が注目していた副主任Bさんが登場。ライブの盛り上がりと内容の興味深さからいくと、この第5章を傍聴するだけでも価値があるというものだった。

残念ながら、また興奮の状態がこちらに伝わり、メモが殴り書きになっている。この章だけでも原本を何かのルートで入手したいものです。

     本件は明らかに自然科学分野で高度に専門化した領域である。

     検察官は、その分野の専門家である「胎盤病理医」「子宮病理医」の鑑定結果の証拠として求めるべきであるのに、それ以外の鑑定医に依拠している。

     検察官の過失は唯一「子宮摘出を・・」と主張しているがその意見を婦人科の腫瘍の専門医の意見に依拠している

     周産期医療の専門家に意見を求めるのが、高度に専門化した医療では相当である

     検察官は(任務を?)尽くしていない。放棄している

     医療行為は患者にとっては、投薬であれ手術であれ身体への侵襲をともなう行為

     法医学会でも医療行為は常に侵襲により死につながる・・・

     裁判官も検察官も弁護士も医学は素人

     真摯に専門家の意見を聞き入れ、これを重要視すべきであり、・・

 私は、これは極めて真っ当な話だと思っていた。私の事件では、ある一面では、「心臓外科領域の話を、ただ医師というだけで、病院内部の専門外の医師が3人集まって作成した「内部調査報告書」に専門性はなく、むしろ虚偽で、延べ数万人の学会員からなる3学会でも長に当たる女子医大外部の専門家4人が作成した「3学会報告書」の専門性が、当然のように正しいとされた。当たり前だ。

 「さらにこの裁判では、一気に専門性が高度化して産科領域の話を婦人科の専門家ではなく周産期医療の専門家に意見を求めるべきであろう。」と通常考える。

このころ副主任Bさんの流れるような陳述をいきなり遮り、初めて管理職クラスと思われる全白髪の検察官が「異議あり」と発言。

裁判長は異議の発言を認めた。

全白髪P「弁護人の陳述は本件と全く関係ない事柄です。」「陳述の停止をもとめる。」(台詞はちがったかもしれませんが、これ以上陳述をさせるなという主旨の発言。)

副主任Bさんは一気に、レッドゾーンへ。

副主任Bさん「関係ないとはどういうことか。これまでも、公判前整理の席において、全白髪Pからは、厳しいご指摘をいただいてきましたが、今陳述していることは、弁論陳述書は事前に提出してご存じのはず。」

全白髪P「本件、刑事事件とは直接関係ない」

副主任Bさんは、この裁判が国民的に注目を浴びて重要なものであり、陳述は正当である旨演説。

検察側も裁判官にこのまま陳述をさせるのか否か問う。

 事前に提出された書面で、この後何が陳述されるか知っている裁判官も参入してバトルロイヤル。弁護人に陳述の正当性の意見を言ってもよいがその意見そのものを手短にして欲しい云々

副主任Bさんもさらにフルスロットルで、陳述の正当性を力説。言い切って一旦着席。

結局、裁判官は弁護側に陳述の続行を認めた。見たことも聞いたこともない凄い展開である。(霞ッ子倶楽部、阿蘇山大噴火、北尾トロさん達が傍聴マニアになるのが分かる。)

     専門家の意見を尊重すべきところ、検察官は弁護側の提出した教科書、参考書、鑑定書に同意しないとは、

     今後の医療事故防止に役立たせるという観点からもこの裁判・・・

私はもうこの時点でメモをしなくなるくらい、副主任Bさんの陳述に引き込まれてしまった。

泉谷Pのプレゼンテーションも立派ではあったが、今日の主役は副主任Bさんだった。

15.      遺族の心情

 午前中の裁判が終了した。1時ちょっと前。2時から再開ということになった。

騒然とした雰囲気から解放された傍聴席の記者達が、通路側に出て、弁護団を囲んでいる様子。

 その中、泉谷Pの元に老夫婦と男性が駆け寄っていた。おそらく亡くなった患者さんの遺族であろう。これを見ると辛い。亡くなった人がやはり中心にいるべきである。この裁判は医療界や検察にとっては大きな意味がある裁判だが、遺族にとっては、悲しさと怒りのやり場でしかないかもしれない。この遺族は、純朴である。いわゆる「民事くずれ」(民事訴訟を有利に進めるために刑事告訴すること)でもないし、マスコミに頻回に登場して顔を写させたり必要以上のコメントをしたりする売名行為のようなこともしていなし、それを政冶活動に利用したりしていない。産婦人科医が1人ならその矛先一点にしか向きようがないだろう。ご冥福をお祈りする以外できることがない。高揚していた状態から醒めた。

16.      加藤先生と弁護団の昼休み

 廊下では、記者達が弁護士さんに群がっていた。号外記事をとりあうような勢いで、弁護側の冒頭陳述書が数通渡された。弁護団に加藤先生に記者会見していただくようお願いしていた。(私の初公判後は、また手錠と腰縄で拘置所帰りだった。房にもどるとゆりの一輪差しがテーブルの上で美しく咲いていたのを思い出す。こんなに一つの花をゆっくり見たことはなかった。)私は弁護団を待った。副主任Bさんが出てきた。もう1人私と同年代と思われる弁護士さんと話しをした。

 私の事件は、よく知っていて、会いたいと思っていたとのこと。判決を読んでいるし、ブログも読んでいる。それどころか、弁護士さんの研究会で、私の事件を扱って、ゲストに臨床工学士さんを読んで説明してもらったという。高裁では何が起こるかわからないので、気を抜かないようにと助言をいただく。

 昼休みは裁判所の中にある一室で、弁護団と加藤先生がお食事をするようであった。その部屋までご一緒した。東京地裁にそんな場所があるのかどうかしらないが、私と私の弁護団は昼食するときは、裁判所の隣の弁護士会館の一室を利用していた。

 福島地裁はやはり牧歌的な感じがする。そういえば、裁判所に入る時の持ち物検査も金属反応検査もなかった。裁判所内でカメラを持っている人も複数いたが、おとがめもない様子。

 加藤先生にはリラックスしていただきたかったので、特にお話はしなかった。東京に帰京する旨をお話して簡単な挨拶をしてお別れした。

17.      一点の医学的疑問

 子宮摘出を終えて、血圧は安定していたというが具体的な数字は言及されていない。ある程度余裕ができたのか膀胱の修復をしていたという。なぜそこからVT, Vf, CPRなのか。CPRの状況も全くわからない。羊水塞栓?肺塞栓?DIC, SIRS関連,?他の臓器出血?いままでの情報からではよくわからない。気管内挿管、全身麻酔に切り替わった場面の言及もなかった。

 産科の先生方なら想像つくのでしょうか。

18.      福島駅行き女性タクシー運転手は全前置胎盤分娩経験者

 私は、17時から夜間予約外来があり、私の名前で予約を入れてくれた患者さんの為に帰京しなくてはならない。裁判所から徒歩で帰る人もいないし、バスもよくわからないので、タクシーを選択する。渡りに舟。というか裁判所に横付けしているタクシーに乗った。運転手さんは、50代の女性。

 裁判の話になった。「昔だったら助からない病気で、お医者さんは一生懸命やってそれを逮捕するなんて酷いね。お医者さんやる人いなくなっちゃうよ。」といった感じで向こうから話を始めた。

 なんと彼女は全前置胎盤の診断で、帝王切開!で子どもを生んだ。話が出来すぎているが彼女は続ける。危険な状態であることを認識させられたという。なにしろ同じ病院にもう1人全前置胎盤の人がいて、その方は亡くなったらしい。そして彼女の夫が今の私と同じ年の43歳で亡くなった。事故にあい、急性硬膜下血腫から障害を受けた。診断がつくまで、うとうとしていておかしいと思っていたが、鎮痛剤でうとうとしているのだと思っていた。リハビリ中に亡くなった。もう少し早く手術すればという思いもあったが、事故が運命で、それが原因だからしょうがないと割り切ったという。女手一つで、帝王切開で生まれた子供を育てた。「鳶が鷹を生んだ。」優秀なので医者になってもらいたいと思っていたらしい。しかし息子は医者とは別の夢を持っていた。第一希望の東京大学農学部に入学。まだ学生だが、農林水産省から全額支給を受けての留学中で、ポルトガル語の学習費用まで支給してもらい、ブラジルの農園で研究しているらしい。

19.      最後に

 私は基本的に日本の裁判所を信頼しています。現在の裁判所では、裁判官が常識的な人物であれば、メディアの虚偽報道が大量であっても判決結果には強く影響を与えないと考えてよいと思います。それぞれの事件は複雑で多様でしたが、メディアが大騒ぎして犯人視した、

三浦和義

さんも、安部 英さんも、私も無罪でした。裁判官がマスメディアの報道に影響されないという根拠は、ロス疑惑事件」判決にあります。

 「・・・激しい報道が繰り返されたが、こうした場面では、報道する側において、報道の根拠としている証拠が、反対尋問の批判に耐えて高い証明力を保持し続けることができるだけの確かさを持っているかどうかの検討が十分でないまま、総じて嫌疑をかける側に回る傾向を避け難い。・・・ところで、証拠調べの結果が右のとおり微妙であっても、報道に接した者が最初に抱いた印象は簡単に消えるものではない。それどころか、最初に抱いた印象を基準にして判断し、逆に公判廷で明らかにされた方が間違っているのではないかとの不信感を持つ者がいないとも限らない。そうした誤解や不信を避けるためには、まず公判廷での批判に耐えた確かな証拠によってはっきりした事実と、報道はされたが遂に証拠の裏付けがなく、いわば憶測でしかなかった事実とを区別して判示し、その結果、証拠に基づいた事実関係の見直しを可能にすることの重要性が痛感される。」(東京高等裁判所平成10年07月01日判決・高等裁判所刑事判例集 第51巻2号129頁 

 患者さんが亡くなった事は大変悲しいことです。しかし、真相を解明することなく、「一臨床医の過失で亡くなった」だけでは医学の発展はなく、患者さんは討ち死にです。亡くなった真相を把握せずに、一臨床医に対して罪罰を与えることを亡くなった患者さんが望んでいるのでしょうか。真相を科学的に解明できるのは専門家の医師です。医療関係事件の解明に専門医が無視されては絶対にいけない。

 もちろん医師に過失がある事件の存在は無視できません。しかしながら、専門家の医師が「過失はない」と判断する事故で、医師が逮捕されるような国の制度を放置するべきではないと考えます。この裁判で加藤先生が無罪を勝ち取ることによって、医療界は改めてそして強く一般国民に「医療過誤の判断を警察検察がおこなうことは大きな問題がある」と主張できると思います。

私が敬愛する弁護士さんの最終弁論の最後の言葉です。

10章 結論

われわれは、冒頭、2つのこと、すなわち、

・ 事案の真相を明らかにするべきこと

・ 医学水準に立脚した認定を行うべきこと

を要望した。

弁論を終えるにあたり、これに加えて、もう1つ、「疑わしきは被告人の利益に」を要望しておきたい。

 これまで述べてきたとおり、われわれは、事案の真相を完全に明らかにしたと信じており、それによれば被告人が無罪であることは疑いがない。

 しかし、刑事裁判の最終的な判断は、検察官が合理的な疑いを容れる余地のない証明をなしえたかどうかである。どれほど抑制的に述べたとしても、本件において検察官がこのような証明を果たしていると言い得ないことは確実である。したがって、本件における判決は被告人の無罪を明らかにするもの以外にはありえない。

 そして、3年間の熱心な審理を行ってきた裁判所がこの結論に到達することについてもわれわれは確信している。

以上

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2007年1月26日 (金)

速報 大野病院初公判傍聴記(執筆中-内容追加予定)

13.4倍の傍聴券を当然のように引き当てて傍聴してきました。

検察官と弁護団のやり取りは、ライブでしかわからない凄い迫力で、法廷内は騒然。この裁判が国民に注目されていることが意識されているのでしょう。

私にしかできない報告書を書く予定です。

とりあえず、ブログに章立てをしました。

あとでしっかり書き直します。楽しみにしていてください。

「証拠隠しの検察官―専門家と国民の注目を無視」

1.        傍聴の決意

2.        349分の26の傍聴券とロシアンルーレット

3.        モナリザのファイルシートとPC抽選

4.        開廷直前の動いたら負け

5.        涙でかすむ立ち姿―人定質問

6.        いきなり臍帯を「ジンタイ」と読んだ起訴事実

7.        検察官の腕まくりパフォーマンス―冒頭陳述

8.        モナリザの微笑み

9.        合法だが卑怯な証拠隠し

10.                          国民的注目を無視

11.                          遺族の心情

12.                          加藤先生と弁護団の昼休み

13.                          一点の医学的疑問

14.                          福島駅行き女性タクシー運転手は全前置胎盤分娩経験者

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2007年1月23日 (火)

娑婆の行き帰り-名誉毀損と肖像権侵害訴訟

法律の素人が「名誉毀損と肖像権侵害で、メディア相手に本人訴訟をやっています。」といっても、一般の専門家からみれば、「お好きにどうぞ。」といった程度の扱いかもしれません。名誉毀損も肖像権侵害も非常に大きなテーマで素人が一般論を語れるはずもありません。

 前回、姉歯元一級建築士が東京拘置所を出所するにあたり、その映像が放送されました。私が名誉毀損に加えて肖像権侵害で提訴している訴訟の場面と比較して語ろうと思っていましたが、姉歯被告の有罪判決からも時間が経過してしまったので、自分の訴訟の概略をお話します。

1.            娑婆から-逮捕直前映像-NHK訴訟

概略:(肖像権侵害の部分のみ)

2002628日午前5時

 NHKの車が公道から、正門または通用門を通り千葉県千葉こども病院敷地内に病院の許可を得ずに侵入。

敷地の一番北東に位置する医師官舎その西側の女性看護師宿舎の間の通路から医師官舎の北側の敷地(行き止まり)にまで入り込みカメラマンを乗せたその車は待機。

午前9時。警視庁司法警察員(刑事)が、私の自宅をノックし、「ちょっと話が。」と言われたため、寝間着として着用していたTシャツ、短パン姿のまま官舎建物から出て、病院敷地内官舎北側の敷地を歩行するところを、カメラマンが撮影。

車内から撮影に気がつかない私からは当然承諾を得ずまた、病院側から許可を得ずに撮影。

その直後私は、任意同行を求められた。

少なくとも、この映像を当日午後7時からの「NHKニュース7」で放映した。

2.            娑婆へ-拘置所出所映像と放送-フジテレビ訴訟

概略:(肖像権侵害の部分のみ)

撮影の段階:

2002925日午後647

拘置所を出所する私の映像をフジテレビが撮影。

最初に拘置所を出所しようとしたろころ、撮影を強烈なライトを当てられた私は、不快感を覚えたため、一旦所内に戻る。他出所する場所もなく、妻がタクシーを用意していたため、領置品(拘置所内で使用していた私物)が大量であるため、これを先にタクシーに搬送。

妻が撮影拒否の抗議。(但し、会話したカメラマンはどの社の属すか不明)

その後、タクシーに乗り込むため、拘置所職員とともに私の映像を撮影。

放送の段階:

200021130日から12月1日にかけての報道番組で、無罪判決後に記者会見を行った私の映像を入手しているにもかかわらず、フジテレビは、上記映像を放映。

以上、二つの訴訟では、名誉毀損に加えて肖像権侵害で提訴しています。

私の本人訴訟は、3つです。弁護士さんにお願いした訴訟は、一つ増えて8になりました。弁護士さんにお願いした訴訟は全て無罪になる以前の報道における名誉毀損のみで、テレビ局相手も肖像権侵害もありません。

 フジテレビ訴訟は、無罪判決後の報道なので、具体的なサンプルはなし。

NHKも名誉毀損は、類似の訴訟はありますが、テレビ局であること、肖像権侵害であることに関しては、サンプルはありません。

 自分だけでやらなくてはならない世界です。その本人訴訟も佳境に入ってきました。

3.            原告からの尋問第一弾-NHK社会部担当部長(当時警視庁キャップ)

期日:2006271330分~1530

場所:東京地裁 626号法廷 (民事第50部)

尋問:NHK社会部担当部長(当時警視庁キャップ)へのNHKの社内弁護士からの主尋問および佐藤からの反対尋問と主尋問。佐藤本人への裁判所からの尋問。

簡単にいえば、弁護士さんからNHKの記者のへの尋問の後、弁護人のいない私本人、ズブの素人からの尋問があるということです。何のトレーニングも全く受けないままに。

 なにせ、私は、「名誉毀損民事裁判の本人訴訟の尋問調書」は読んだことがありますが「名誉毀損裁判の尋問」は見たこともないし、「民事裁判の尋問」も自分の裁判期日に前後してあった裁判のほんの一部を見たことがある程度です。

 見たこともない名誉毀損の尋問をいきなりやらなくてはならない状況になってしまいました。(弁護士さんにお願いしている訴訟の尋問は未だないのです。)

 

 私は法律の専門教育は受けたことは勿論なく、大学の教養課程で、人文科学系は、「法学」「社会学」「歴史学」「心理学」の単位を取った程度。

 憲法13条と21条、刑法230条と230条の2,民法709条と710条と723条が重要であるということは知っていてもただそれだけ。ここ一年程度で読んだ書籍と判例、弁護士さんが書かれた準備書面や会議で御教示いただいたことを基にやるしかない。

 相手は、国内最大のメディア事業体の担当部長とNHK専属弁護士さんである。傍聴席には、いつものNHK社員と思われる女性他、被告側の人間のみのはずである。こっちの応援席はおそらく誰もいない。(法廷は基本的に子供でも傍聴可能である。妻と一歳の息子でも味方につけるか!)

どこまでできるか。あるいはつぶれるか。未知の世界は不安だが、楽しみでもある。

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