「医者」と「記者」 MedicalとMedia-「医療と報道」 カウントダウン4
プロローグ
このブログの大きなテーマの一つである、「医療報道」について体系的に考え学問的な立場で研究を行っている講座の公開フォーラム(2007年2月3日)に最初の1時間だけ出席してきました。
ここでは私が考えていたことと似かよっている部分が多くありましたので紹介します。
最初に、今年のテーマを選択するにあたり昨年の同フォーラム(2006年1月28日)のについての「おさらい」がありましたが、これをまとめてみます。
(2月6日フジテレビ本人訴訟(弁論準備期日)2月7日NHK本人訴訟 弁論 (証人尋問)と2月8日の準備のため、極めて簡単になることを御考慮お願います。)
なお、ウエッブサイトに詳細がありますので、こちらを参考にしてください。
ただし、実際のフォーラムのプレゼンテーションにはここに記載されていないものもありました。
医療従事者全員が、重要と考える事柄です。
文部科学省科学技術振興調整費 医療政策人材養成
東京大学医療政策人材養成講座
東京大学医学部教育研究棟鉄門記念講堂
2006年1月28日
「報道は医療を良くできるか?」講演録より>
1.医者(医療)と記者 Medical とMecica
(ア) 父と叔父
私の父は「記者」(産経新聞東京本社の文化部。司馬遼太郎は同社大阪本社で同じ部。)でした。母の兄は「医者」(東京医科歯科卒後内科医局入局後、病気などで埼玉医大耳鼻科に転科)でした。生涯独身を通した叔父は、心房中隔欠損症をもった甥である私を大変かわいがってくれました。私の恩師であり主治医でもあった常本先生が埼玉医大の客員教授(当時はどういう身分か不明ですが)であったこともあり、先生との出会いも叔父が関わっています。
月に一回以上は私を訪れる叔父は、父とともに一番身近な「働いている人」で、それが「医者」と「記者」でした。自分も医者になりましたので、職業人としての「医者」と「記者」については、考える機会が山ほどありました。
そして、現在の私の立場になっていよいよ、「ISHA」と「KISHA」、Medical とMedia
と日本語でも英語でも音声的には近い両者の関係について考える立場になっています。
(イ) 医者と記者の類似点-ひとつだけ誤り
今回のフォーラムでは、最初に医療者と報道者の間には、大きな溝と誤解、対立の存在が否定できないので、これを融合して真剣に考え本気で話しあう必要性を前提としていました。弁証法的な考え方で新しい医療政策の方向性を導きだそうとしているのだと理解しました。
しかし、対立している医者と記者は結構、類似点があるのではないかと指摘されています。
・ 組織的弊害
・ 特権的意識
・ 世間知らず
・ 職能集団として世間の疑問に答えていない
・ といくつかあり確かにそうであると思いましたが、この中で「ひとつだけ共通点ではない」と思う項目がありました。
・ 「体系的教育の不在」ですが、医師は、最低医学部レベルでは学問として体系的教育を受けていると思います。
2. 悪しき医療報道とは-「期待は高く、質は低い」医療報道
昨年のアンケート結果では、「現在の医療報道は」おおむね「質が低い」と評価されたことが発表されました。しかしながら影響力は大きいので「期待は高い」。
ここで、プレゼンテーションのモニター上では、悪しき医療報道が具体的に羅列されていました。メモの順番からいくと・・
・ ランキング本
・ 医療政策
・ 医療事故-東京女子医大事件報道
・ あるある大辞典
・ ・・・・・
とありました。
現在もウエッブ上には、
「医療提供者が問題だと考えているもののひとつとして、東京女子医大で心臓手術を受けた女児が死亡した事件があります。私を含めてマスコミは逮捕された医師の人工心肺装置の取り扱いについて問題があったと報道したのですが、一審判決は無罪でした。現在、検察が控訴しており、判決は確定していませんが、今後、医療事故をどのように報道していくべきかを考えるひとつの材料にしたいと思います。」
とあります。
「このプレゼンは去年の1月にされていますので、私の無罪判決の2ヶ月後、「大野病院事件」と「あるある大辞典問題」はまだ報道されていない時でした。
プレゼンテーターは、「東京女子医大事件」とはいわず、「医療事故」とだけいって次に「あるある大辞典」といったので、場内苦笑。
なお、このプレゼンテーションのPC上では「『東京女子医大事件報道』が悪しき医療報道である」と指摘したのは、ある全国紙の記者のように書かれていました。このフォーラムを知ったのは、昨年末です。私が昨年の春に「名誉毀損で提訴しなかった全国紙」が一つだけあります。偶然の一致か、必然か、指摘したのは新聞社の記者でした。
3. 「医療報道の質が低い」と評価するのは「医者」と「医療ジャーナリスト」
医療報道の質の評価をした人は複数の「医療従事者」と「医療ジャーナリスト」「医療政策作成者」「患者」。現在の医療報道の質の評価は真っ二つの傾向。
現在の医療報道の質が高いと評価-「医療政策作成者」「患者」
現在の医療報道の質が低いと評価-「医者」と「記者」
「医療ジャーナリスト」は正直であることがわかりました。
4. 事件ジャーナリストと医療ジャーナリスト
「まず、自己批判も含めてジャーナリストの視点から見てみます。代表的な問題点として、ジャーナリストが、医療事故を報道する際に医療機関と被害者(患者、家族)の対立をあおるかのような報道をすること、倫理観や根拠なしにセンセーショナルな報道をしがちなこと、記者の中に医療に関する専門的な知識がない者が多いことが挙げられます」
全てその通りです。全く正解です。
プレゼンテーションでも、
・「事件ジャーナリスト」の医療報道には「悪しき医療報道が多い」。
・「医療ジャーナリスト」の医療報道には「悪しき医療報道が少ない」。
とう分析でこれも、全くそのとおり。
私の言葉でいいかえれば、
・「科学文化部」「科学班」「文部科学省記者クラブ」「厚生労働省記者クラブ」の医療報道には「悪しき医療報道が少ない」。
・「社会部」「警視庁記者クラブ」の医療報道は、「悪しき医療報道だらけ」である。
.共同通信が配信する、医師のための情報サイトm3.com.では、毎日新聞が医療報道では最悪という評価ですが、「同社会部」には「医療問題調査班」というものがあります。上記発表を鑑みれば、この講座でも最低という評価になるでしょう。
その他、興味深い内容が盛りだくさんでしたが、本ブログの内容とモロニ合致した部分で今日は終えます。
興味のある方は以下サイトを御覧ください。
文部科学省科学技術振興調整費 医療政策人材養成
東京大学医療政策人材養成講座
カウントダウン 4
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コメント
産科医療を行っている以上医療訴訟に巻き込まれるリスクは常に付きまとっています。産科医として妊産婦新生児に予想外の事態が生じた時、それを家族が簡単に受け入れる事が出来ない事や医療不信から訴訟を起こす所までは理解も出来ますし、まだ許容範囲内です。耐えられないのは医療事故が起きた時、詳しく取材をする事もせずに医師を犯罪者のように一方的に報道をするマスコミの姿勢です。報道は時には個人の生命さえも奪う事があります。報道者に真実だけを報道しろとまでは言いませんが、記者として最初から結果あり気の取材、報道ではなく、取材内容からのあくまでも中立的な判断からの報道をして頂きたいと思います。
投稿: 産婦人科開業医 | 2007年2月 5日 (月) 12時56分
元外科医です。私も参加しました。後半に、医療側、ジャーナリスト側それぞれから、相手に対する提言(苦情?)を言い、それに答えるセッションがあったのですが、まだまだ溝は深いと思いました。(いずれホームページにupされると思いますが)しかしこのような試みは少しずつでもgapが解消されるのに役立つのではないかと思いました。
投稿: no more alternative ? | 2007年2月 6日 (火) 11時23分
新聞メディア(特に社会部)は全ての事件の記事のソースを検察や警察のリークに依存しています。したがって社会部は医療事故についてもまず初めに検察や警察の意向に沿った記事を書きます。この構造的な問題を何とかしない限り科学的,中立的な報道など不可能だと思います。
投稿: 開業医 | 2007年2月19日 (月) 10時52分