« 勝訴 対 週刊女性 「主婦と生活社」 第一報 | トップページ | 勝訴 フジテレビ訴訟 本人訴訟第1号 »

2007年8月25日 (土)

フジテレビ訴訟 判決

2007827日 月曜日 1310分 東京地方裁判所 民事第6部

 フジテレビ訴訟の判決が下ります。

以下にこれまでの約一年半に渡る訴訟の経過の一部を記載します。

現在テキスト化されて残っているもののみになりますので、全体の書類の3分の2程度になります。被告の準備書面第2,3がありませんので、どちらが優位か正確は判断はできないと思いますが、訴訟の争点などは伝わると思います。

 簡単に「名誉毀損で訴えてやる。」と口にする人もいますが、実際一人でやるとなると結構大変です。事務手続きや連絡なども毎回必要ですので、労力はいります。とはいっても、刑事訴訟の100分の1程度の負担かもしれません。

 最後まで読み切る暇な人も稀かもしれませんが、私の訴状、準備書面、陳述書を読むだけでも大きな流れはわかると思いますので、ご意見があればコメントお願いいたします。

 勝訴しても敗訴しても報道はされると思いますので、その報道に対するコメントでも結構です。

平成18年(ワ)第5889号 損害賠償請求事件

原 告 

佐藤一樹

被 告 株式会社フジテレビジョン

訴    状

2006年3月22日

東京地方裁判所 御中

原 告      佐藤一樹

当事者の表示

別紙当事者目録のとおり

損害賠償請求事件

訴訟物の価額 金15,000,000円

貼用印紙額  金    65,000円

第1 請求の趣旨

1 被告は,原告に対し,金15,000,000円及びこれに対する2005年12月2日から完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

第2 請求の原因

1 当事者

(1) 原告は,東京女子医科大学病院(以下「女子医大」という)に勤めていた医師であり,女子医大日本心臓血圧研究所(以下「心研」という)において2001年3月2日に施行された平栁明香氏(以下「本件患者」という)に対する心房中隔欠損症及び肺動脈弁狭窄症の手術(以下「本件手術」という)の際に人工心肺装置の操作を担当していた医師である。

(2) 被告は,テレビ番組放送等を目的とする会社であり,報道番組「FNNスーパーニュース」並びに情報番組「めざましテレビ」及び「とくダネ!」を制作・放送している。

2 本件ニュース

(1) 被告は,2005年11月30日午後4時55分からの「FNNスーパーニュース」において,同午後6時1分ころ同4分ころまでにわたって,原告に関するニュース(甲1-1,1-2-①~⑰,1-3。以下「本件ニュース1」という)を放送した。

(2) 被告は,同年12月1日午前5時25分からの「めざましテレビ」において,同午前5時38分ころから同39分ころまでにわたって,原告に関するニュース(甲2-1,2-2-①~③,2-3。以下「本件ニュース2」という)を,そして,同番組の同午前7時8分ころから同9分ころまでにわたって,原告に関するニュース(甲3-1,3-2-①~③,3-3。以下「本件ニュース3」という)を放送した。

(3) 被告は,同日午前8時00分からの「とくダネ!」において,同8時52分ころから同57ころまでにわたって,原告に関するニュース(甲4-1,4-2-①,②,4-3。以下「本件ニュース4」という)を放送した。

(4) 本件ニュース1ないし4は,いずれも東京地方裁判所の所内と考えられる場所を原告が歩いている場面を映した映像(以下「本件映像」という)を含むものである(甲1-1,甲1-2-①~⑫,甲2-1,甲2-2-①,甲3-1,甲3-2-②,甲4-1,甲4-2-①)。

(5) 本件ニュース1には,次のとおりのナレーション(N),テロップ(T)およびインタビュー発言(I)が含まれている。

T①:「『過失責任 問えない』東京女子医大元医師『無罪』 心臓手術で少女死亡」(以後本件ニュース1の最後まで右上に表示。甲1-1,甲1-2-①~⑰)

T②:「当初罪を認め遺族に謝罪し示談が成立」(甲1-2-⑬)

N①:「佐藤被告は,この手術で人工心肺装置の操作を担当しており,ポンプの回転数を不適切に上げるなどして血液の循環を悪くさせ,脳障害で死亡させたとして起訴されていました。」

T③:「当初罪を認め遺族に謝罪し示談が成立」(甲1-2-⑭)

N②:「佐藤被告は当初罪を認めて遺族に謝罪し,示談が成立」

T④:「法廷では一転して過失を否定」(甲1-2-⑮)

N③:「しかし法廷では,一転して過失を否定してきました。立証の難しい医療過誤で医師が逮捕されることは極めて異例であり,当時,高度な医療を行う特定機能病院に承認されていた東京女子医大は,この事件でその承認を取り消されています。また,この事故では手術後にカルテを改ざんしたとして証拠隠滅罪に問われた医師には,懲役1年執行猶予3年の有罪判決が言渡されています。

       なぜ改ざんした医師が有罪になり,機器を操作した佐藤被告が無罪になったのでしょうか。」

(西田研司弁護士と電話している映像)

T⑤:「さまざまな危険を回避する義務があるがそれを放置し」(甲1-2-⑯)

I①:「いろんな危険を回避する義務というのはやっぱりあると思うのですね。」

T⑥:「おこたって未熟な医師に扱わせた」(甲1-2-⑰)

I②:「それを放置して,まああのそういうことを怠ってですね,未熟な医師にあの二重三重にそういうことが起こらないように,あの予防体制をとりながら本当はやるべきだったでしょうと...」

(本件患者父の会見の映像)

I③:「非常に医師に対して甘い判決だなあと思って,本当にがっかりしています」

(6) 本件ニュース2には,「東京女子医大医療過誤事件 元医師に無罪判決」というテロップ及び「事故は予期出来なかったとして元医師に無罪を言い渡しました。」,「業務上過失致死罪に問われた元医師の佐藤一樹被告に対して,東京地方裁判所は無罪を言い渡しました。」というナレーションが含まれている(甲2-2-①,②,甲2-3)。

(7) 本件ニュース3には,「東京女子医大 医療過誤事件 元医師に無罪判決」というテロップ(T⑦)及び「女子医大 医療過誤 元医師に無罪判決」というテロップ(T⑧)並びに原告に無罪判決が出たことを報じる「医療事故の元医師に無罪判決。(中略)元医師の佐藤一樹被告に対して東京地方裁判所は無罪を言い渡しました。」というナレーション(N④)及び「相変わらず医療事故に対する刑事責任の追及の難しさを物語っています」というナレーション(N⑤)が含まれている(甲3-2-①~③,甲3-3)。

(8) 本件ニュース4には,「一方,佐藤元医師に関しましては,被告に関しましては業務上過失致死罪で今回は無罪。」というナレーションが含まれている(甲4-3)。

3 原告に対する名誉毀損及び肖像権侵害

(1) 本件ニュース1が一般視聴者に伝える意味

 本件ニュース1は,以下のような意味を一般視聴者に伝える。

・原告は,当初自己のミスを認めて遺族に謝罪しており,遺族との間で示談も成立している(T②,T③,N③)。

・それが,法廷では,原告は一転して態度を変えて過失を否定し始めた。医療過誤では立証が難しく,医師に否認されると有罪にするのが難しい(T④,N③)。

・医師にはさまざまな危険を回避する義務があるが,原告が未熟であったために,危険を回避できなかった(T⑤,T⑥,I①,I②)。

・本来であれば有罪になるべきであるのに,医師に対して非常に甘い判決であったために無罪になった(I③,N③)。

・原告は,本件事故の責任をとって,自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられており,それゆえ「元医師」と表示されている(T①)

(2) 本件ニュース2が一般視聴者に伝える意味

 本件ニュース2は,本件事故の責任をとって,原告は,自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられており,現在は医師ではないという印象を与える。

(3) 本件ニュース3が一般視聴者に伝える意味

 本件ニュース3は,以下のような意味を一般視聴者に伝える。

・原告は,本件事故の責任をとって,自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられており,それゆえ現在は医師ではない(T⑦,T⑧,N④)。

・原告に対して無罪判決が出されたのは,医療事故に対する刑事責任追及が難しいためであって,本来であれば原告は有罪になってしかるべきであった(N⑤)。

(4)  本件ニュース4が一般視聴者に伝える意味

 本件ニュース4は,本件事故の責任をとって,原告は,自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられており,現在は医師ではないという印象を与える。

(5) 上記による原告の社会的評価の低下

 上記はいずれも,専門性を有するべき医師が,未熟であったために手術中のミスによって本件患者を死亡させたという印象を生じさせるものであり,原告の社会的評価を低下させる。

(6) 本件ニュースによる肖像権侵害

 本件映像は,原告の承諾なしに,本来撮影の認められない場所で原告の容ぼうを隠し撮りしたものであって,みだりに原告の容ぼうを撮影かつ公表したものであるから,原告の肖像権を侵害する。

4 被告の責任

 被告は,本件ニュース1ないし4において,上記のとおり,原告の名誉を毀損するテロップやナレーション及び原告の肖像権を侵害する映像を繰り返し流したのであるから,これによって原告に生じた損害を賠償する責任を負う。

5 救済

(1) 原告は,高い専門性を有する心臓外科医であるが,本件ニュースによって,未熟な医師であり,ミスによって患者を死亡させたとの誤解が社会に広まった。

(2) 本件ニュースによって原告が蒙った名誉毀損に対する慰謝料は,金10,000,000円を下らない。

(3) 本件ニュースによって原告が蒙った肖像権侵害に対する慰謝料は,金5,000,000円を下らない。

6 結論

 よって,原告は,被告に対し,民法709条および710条に基づき,本件ニュースの放送によって原告が蒙った損害の賠償を求めるため,請求の趣旨記載のとおりの損害賠償金の支払を求め,あわせて本件ニュースが放送された2005年11月30日及び同12月1日より後の日である同年12月2日から完済に至るまで民事法定利率である年5分の割合による遅延損害金の支払を求めて本訴に及んだ。

附属書類

1 証拠説明書                                                                                                 1通

1 甲第1号証ないし4号証の3                                                                    各1通

1 資格証明書                                                                                                 1通

当事者目録

〒●●●-●●●●                         東京都●●区●●●●丁目●●番●●号

                                                        ●●●●●●号(送達場所)

                                                        電話:               ●●-●●●●-●●●●

                                                        ファクシミリ:●●-●●●●-●●●●

                                                        原  告                            佐藤一樹

〒137-8088                         東京都港区台場2丁目4番8号

                                                        被  告              株式会社 フジテレビジョン

                                                        代表者代表取締役              ●● ●

証拠説明書(1)

                        2006年3月22日

東京地方裁判所 御中

原 告      佐藤一樹


                        号 証

標     目

(原本・写しの別)

作 成

年月日

作成者

立 証 趣 旨

備考

甲1-1

「FNNスーパーニュース」(20051130日放送分)映像

2005.11.30

被告

本件ニュース1の内容及び被告が本件ニュース1を放送したこと

CD-Rに収録

甲1-2-①~⑰

甲1の1の静止画(抜粋)

同上

同上

同上

甲1-3

甲1の1の反訳

-

2006.3

原告

本件ニュース1の内容

甲2-1

「めざましテレビ」(2005121日午前538分ころより放送分)映像

2005.12.1

被告

本件ニュース2の内容及び被告が本件ニュース2を放送したこと

CD-Rに収録

甲2-2-①,

甲2の1の静止画(抜粋)

2005.12.1

同上

同上

甲2-3

甲2の1の反訳

2006.3

原告

本件ニュース2の内容

甲3-1

「めざましテレビ」(2005121日午前78分ころより放送分)映像

2005.12.1

被告

本件ニュース3の内容及び被告が本件ニュース3を放映したこと

CD-Rに収録

甲3-2-①~③

甲3の1の静止画(抜粋)

同上

同上

同上

甲3-3

甲3の1の反訳

2006.3

原告

本件ニュース3の内容

甲4-1

「とくダネ!」(2005121日放送分)映像

2005.12.1

被告

本件ニュース4の内容及び本件ニュースを被告が放送したこと

CD-Rに収録

甲4-2-①,

甲4の1の静止画(抜粋)

同上

同上

同上

甲4-3

甲4の1の反訳

2006.3

原告

本件ニュース4の内容

以  上

甲第1号証の3  

2005年11月30日放送 「FNNスーパーニュース」

6:01pm

(西山喜久恵アナウンサー)

「4年前に東京女子医大病院で心臓の手術を受けた当時12歳の少女が死亡した医療過誤事件で、東京地裁は今日、当時の担当医に無罪の判決を言い渡しました。

遺族は先ほど会見を行い怒りを露わにしています。」

(以後、右上に『「過失責任は問えない」東京女子医大元医師「無罪」心臓手術で少女死亡』の表示)

(平栁明香さんの父)

「最初聞いたときは頭の中が真っ白になった。というのが本当にあの場にいての雰囲気でした。」

(女性の声〔西山アナウンサーとは別の姿の見えないアナウンサーの声〕)

「無念の思いを語る遺族。現職の医師が逮捕され医療界に衝撃をもたらした東京女子医大の医療過誤事件。

(原告が裁判所内と思われる場所を歩いている映像と「佐藤一樹被告(42)」の文字)

この事件で業務上過失致死に問われていた佐藤一樹被告に対する判決が今日午後言い渡されました。

6:02pm(裁判官等法廷の映像)

東京地裁が言い渡した判決、それは無罪。その理由として、人工心肺の構造に問題があったことを指摘。事故を予見することが出来たとは認められず、過失責任を問うことはできないというものでした。事故が起きたのは2001年3月。当時12歳だった平栁明香さんが、東京女子医大病院で心臓手術を受け、その3日後に死亡したのです。

(上記の原告が歩いている映像)

佐藤被告はこの手術で人工心肺装置の操作を担当しており、ポンプの回転数を不適切に上げるなどして血液の循環を悪くさせ、脳障害で死亡させたとして起訴されていました。

(原告が他の医師と並んで座っている静止画「当初罪を認め遺族に謝罪し示談が成立」の表示)

佐藤被告は当初は罪を認めて遺族に謝罪し、示談が成立。

(原告のアップの静止画「法廷では一転して過失を否定」の表示)

6:03pm

しかし法廷では、一転して過失を否定してきました。立証の難しい医療過誤で医師が逮捕されることは極めて異例であり、当時、高度な医療を行う特定機能病院に承認されていた東京女子医大は、この事件でその承認を取り消されています。また、この事故では手術後にカルテを改竄したとして証拠隠滅罪に問われた医師には、懲役1年執行猶予3年の有罪判決が言い渡されています。

(原告のアップの静止画)

何故改竄した医師が有罪になり、

(原告が他の医師と並んで座っている静止画)

機器を操作した佐藤被告が無罪となったのでしょうか。」

(西田研司弁護士と電話している様子)

(「様々な危険を回避する義務があるがそれを放置し」の表示)

「いろんなあの危険を回避する義務というのはやっぱりあると思うのですね。

(「おこたって未熟な医師に扱わせた」の表示)

それを放置してまああのそういうことを怠ってですね。未熟な医師にあの二重三重にそういうことが起こらないようにあの予防体制を取りながら本当はやるべきだったでしょうと・・・。」

6:04pm

(女性の声)

「判決の後、明香さんの両親は40分にもおよぶ会見を行いました。」

(平栁明香さんの父)

「非常に医師に対して甘い判決だなあと思って、本当にがっかりしています。」

甲第2号証の3  

2005年12月1日放送 「めざましテレビ」

5:38am

(女性キャスター)

(原告の写真の下に「医師“無罪”」の表示)

「事故は予期出来なかったとして元医師に無罪を言い渡しました。

(真ん中下の方に「東京女子医大医療過誤事件 元医師に無罪判決」の表示)

東京女子医大病院で2001年心臓手術を受けた当時12歳の平栁明香ちゃんが死亡した事故で、

(原告が裁判所内と思われる場所を歩行している映像)

業務上過失致死罪に問われた元医師の佐藤一樹被告に対して、東京地方裁判所は無罪を言い渡しました。」

(原告)

(原告の映像の左に「佐藤一樹元医師」の表示)(以後右上に「東京女子医大医療過誤事件 元医師に無罪判決」の表示)

「ほとんど不安なく無罪だと思っていました。」

(平栁明香さん父)

「最初聞いたときは頭の中が真っ白になった。非常に医師に対して甘い判決だなあと思って、」

(女性の声)

「東京地裁は判決の理由として、客観的にみて人工心肺の構造には問題があったと指摘した上で、被告が事故を予見することは出来なかった等としています。」

5:39am

(男性キャスター)

「そうすると構造的には問題のあった人工心肺を何故使わせたのかという問題が残りますよね。」

甲第3号証の3  

2005年12月1日放送 「めざましテレビ」

7:08am

(男性の声)

「医療事故の元医師に無罪判決。

(真ん中下の方に「東京女子医大医療過誤事件 元医師に無罪判決」の表示)

東京女子医大病院で2001年心臓手術を受けた当時12歳の平柳明香さんが死亡した事件で、業務上過失致死罪に問われた

(原告が裁判所内と思われる場所を歩行している映像)

元医師の佐藤一樹被告に対して東京地方裁判所は無罪を言い渡しました。」

(原告)

(原告の映像の右に「佐藤一樹元医師」の表示)(以後右上に「東京女子医大医療過誤事件 元医師に無罪判決」の表示)

「ほとんど不安無く無罪だと思っていました。」

(平栁明香さん父)

「最初聞いたときは頭の中が真っ白になった。非常に医師に対して甘い判決だなあと思って、」

(男性の声)

「東京地裁は、判決の理由として、客観的にみて人工心肺の構造には問題があったと指摘した上で、被告が事故を予見することは出来なかった等としています。」

(男性キャスター)

7:09am

「相変わらず医療事故に対する刑事責任の追及の難しさを物語っています。

(以後右下に「東京女子医大医療過誤事件 元医師に無罪判決」の表示)

人工心肺装置そのものに欠陥があったのではないかという指摘ですけれども、ではそれを使った病院側の責任もないのかということも余地が残されていますよね。」

甲第4号証の3  

2005年12月1日 「とくダネ!」

8:52am

(男性キャスター)

「この医療ミス問題はインサイドウオッチでもとりあげました。判決が下ったのですが。」

(平栁明香さん父)

「最初聞いたときは頭の中が真っ白になった。」

(男性キャスター)

(右上に「手術で女児死亡 責任誰に 医師無罪」の表示)

「昨日東京地裁でくだされた判決。平栁明香さん当時12歳。明香さんの心臓には生まれつき孔が開いていました。

8:53am

中学入学を目前に控えた明香さんは簡単な手術だから入学前にと手術を受ける決心をしたのです。」

(女性の声)

「死ぬことはないよね。」

(男性キャスター)

「手術するには心臓を一時的に止めなくてはなりません。この日明香さんは人工心肺装置を使用しました。人工心肺装置とは全身から心臓に戻る血液等をポンプで吸い取り、一旦貯めて再び体内に戻すという装置です。しかし、手術中にこの装置にトラブル発生。手術室がパニックになりました。明香さんは手術後一度も意識を取り戻すことなく3日後に死亡。両親は医療過誤があったとして手術を担当した医師ら5人を刑事告訴しました。」

8:54am

(平栁明香さん父)

「家族の怒りっていうのが、簡単にいうと死んでしまったものは、帰ってこないんだと。その悲しみはあるけれども、そのいっそう腹が立つことはそれを隠したり嘘を言い続けようとする人達の方が、もっと腹が立ち、まあ、罰せられていいのではないかと思っております。」

(男性キャスター)

(原告が裁判所内と思われる場所を歩行している映像)

「そして、執刀医と人工心肺装置を操作していた医師二人が逮捕。

(一旦女子医大の映像)

さらに東京女子医大は特定機能病院の承認を取り消されるという異例の事態へと発展したのです。

(原告が裁判所内と思われる場所を歩行している映像)

裁判の焦点は、手術で人工心肺装置の操作を担当し業務上過失致死罪を問われていた佐藤一樹被告が装置の不具合を予見できたかどうかでした。その判決は。」

8:55am

(別の男性の声)

「被告人は無罪。開発者でもない医師が、装置の危険性について気づかなかったとしても責めるのは酷。」

(男性キャスター)

「判決は、人工心肺装置そのものに事故の危険性があり、佐藤被告の責任は問えないというものでした。」

(原告)

(「佐藤一樹医師(42)」の表示)

「最初から無罪とは思っておりました。」

(男性キャスター)

「一方、明香さんの両親は判決後やりきれない思いを語りました。」

(平栁明香さん母)

「人工心肺の機械は勝手に動いているわけではありませんし、自然に出てきたものではない、作った人がいるし、それを操作していた人間がいるわけで、その人達に何の過失も問えないかという・・・。」

(平栁明香さん父)

「医療裁判というのは難しいでしょうけど、あの、やはり、失ったものが家族側にある以上そのへんを配慮した判決が欲しいと思いますね。」

8:56am

(男性キャスター)

「この医療事故によりまして逮捕された二人の医師の判決は割れました。執刀医。責任をもって手術を行っていました。有罪です。そして、実際に操作ミスをしたのではないかといわれていた人工心肺装置を操作していた医師は無罪でした。何故割れたのか。罪を見ますとはっきりします。実は、執刀医は証拠隠滅罪を問われていました。カルテの改竄をおこなっていたのですね。これ装置がおかしくなって女の子が亡くなってしまった。このことを隠そうとしたことで有罪になっています。一方、佐藤元医師に関しましては、被告に関しましては業務上過失致死罪で今回は無罪。なぜならば、操作ミスという訴えでしたが、判決は装置自体の不具合と考えられて、そのことをあらかじめ佐藤被告は予見できたとは言えないだろう。なぜならば、こちらです。死亡の原因となった人工心肺装置の不具合は当時認識されていなかったので、しかたがないということなのですね。」

8:57am

(男性キャスター 2)

「人工心肺装置が止まったら命にかかわることは誰でもわかるわけですけども、ただ、それが突然不具合を生じても手のほどこしようがなかったとうことなのですよね。今回の例はね。」

(コメンテイター)

「そうですね。結局操作ミスではない。操作ミスであるという検察側の主張は覆されてしまったとうことなんですね。ただ、無罪判決は下ったものの、判決の中で裁判長は、こうした危険な人工心肺装置を使っていた東京医大の管理責任というものは問われることはあると。失礼、女子医大の責任は重いというような内容のことをですね、触れているんですね。言及している。ただ、この点を追及しようにも、検察側が、そこを焦点をあてて裁判を行ったわけではないですし、それから、また、民事の方も、既に、実は、和解が成立しゃっているので、この問題責任の持って行きようがないですね。そこはちょっとやりきれないところです。」

(男性キャスター)

「結局はこの心肺装置の不具合があったら大変な問題じゃないですか。でも当時そのことは認識されていなかったと言われたら、じゃ、どこに怒りをもっていけばいいんですかというのが、遺族の皆さんの気持ちなんですね。」

(男性キャスター 2)

「車だったらリコールというのがあるけでもね。それが亡くなってしまっちゃったわけですからね。」

以上

被告 答弁書

平成18517

東京地方裁判所民事第6部合議B係御中

100-●●●●東京都千代田区●●町●丁目●番●号

弁護士法人●●●●法律事務所(送達場所)

電話

FAX

被告訴訟代理人弁護士●● ●

同●●●● 

同●●●●

同●●●●●

(担当)●●●●

上記当事者間の御庁頭書事件にっいて,原告から提出された2006(平成18)322日付訴状に対し,被告は下記のとおり答弁する。

1請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する

2 訴訟費用は原告の負担とする

との判決を求める。

2請求の原因に対する認否

1 請求原因1の事実は,認める。

2 同2の事実のうち,本件ニュース1ないし4で放映された本件映像が「いずれも東京地方裁判所の所内と考えられる場所を原告が歩いている場面を映した映像」とする点は否認し,その余は認める。本件映像は,平成149251847分ころ,保釈された原告が東京拘置所から出てくる場面を映した映像である。

3 同3(1)ないし(6)の事実は否認ないし争う。

4 同4は争う。

5 同5(1)の事実は否認する。

5(2)及び(3)の事実は不知ないし争う。

6 同6は争う。

3被告の主張

1 名誉段損について

(1)原告は,本件ニュース1ないし4(以下,総称して「本件放送」という。),一般視聴者に対し,「専門性を有するべき医師が,未熟であったために手術中のミスによって本件患者を死亡させたという印象を生じさせるものであり,原告の社会的評価を低下させる」(訴状6)と主張する。

2 しかし,本件放送は,一般視聴者に対し,原告が主張するような印象を生じさせるものではなく,原告の社会的評価を低下させてはいない。

(2)そもそも,本件放送は,業務上過失致死罪に問われていた原告に無罪が言い渡されたことを一般視聴者に伝えるものである。被告は,本件放送において,原告が無罪となったという結果のみを報道したのではなく,原告には事故の予見可能性がなかったという判決理由についても報道している。しかも,被告は,本件放送において,原告が無罪判決となったことに対する批判は行っていない。本件放送によって,一般視聴者は,原告は業務上過失致死罪に問われて起訴されたが,裁判所は予見可能性なしと判断して原告を無罪とした事実を知ることとなる。したがって,捜査段階の報道や起訴された事実の報道等によって低下していた原告の社会的評価は,本件放送によって回復している。少なくとも,原告の社会的評価が,本件放送がなされる前の状態よりも低下していることはない。

(3)原告は,本件放送が無罪報道であることを正しく理解せず,本件ニュース1で使用された「未熟な医師」という言葉や,本件放送において原告を「元医師」としている点などを問題視している。しかし,r未熟な医師」という言葉について言えば,西田弁護士の「未熟な医師にあの二重三重にそういうことが起こらないようにあの予防体制を取りながら本当はやるべきだったでしょうと…。」というコメント中で使用されている言葉であり(甲第1号証の3),東京女子医大病院の管理体制に問題があることを指摘する文脈で使用されていることが明らかである。従って,そのような文脈を超えて,原告が主張するように,「原告には予見可能性があり,本来であれば有罪になるべきである」との印象を一般視聴者に与えるものではない。

また,被告が,原告を「元医師」としたのは,「事故当時は東京女子医大病院の医師であったが,現在は東京女子医大病院の医師ではない」との趣旨であるところ,仮にこの表現が「現在医師ではない」との印象を与えたとしても,原告が主張するように,「本件事故の責任をとって,原告は,自ら医師を辞めたか,あるいはへ医師を辞めさせられ」たとの印象を一般視聴者に与えるものではない。

2 肖像権侵害について

(1)原告は,本件映像が,原告の承諾なしに,本来撮影の認められない場所で原告の容ぼうを隠し撮りしたものであるとして,みだりに原告の容ぼうを撮影かつ公表したものであるから,原告の肖像権を侵害すると主張する。しかし,本件映像は,本来撮影の認められない場所で隠し撮りされたものではない。また,本件映像の撮影当時,原告は撮影されていることを知りながら,撮影されることに異議を述べなかった。

(2)本件映像は,被告の報道スタッフにより,平成149251847分ころ,東京拘置所付近路上において撮影されたものである。このことは,「面会受付」という文字や警備員の姿が映像に含まれていることからも明らかである(甲第1号証の2の⑨ほか)。また,本件映像は,日没後周囲が暗くなった状況下で,原告に対し照明をあてつつ撮影されたものである。つまり,本件映像は,公道上において,原告が撮影を明確に認識しうる方法で撮影されたのであって,およそ隠し撮りの類にはあたらない。しかも,照明をあてるなどして,原告が明確に認識しうる方法で撮影が行われているにも関わらず,原告は,被告の報道スタッフに対して,特段異議を述べることもなく,被告報道スタッフの前を横切り,そのままタクシーに乗り込んだ。

(3)したがって,本件映像は,原告の主張するような,「原告の承諾なしに,本来撮影の認められない場所で原告の容ぼうを隠し撮りしたもの」ではなく,原告の肖像権を侵害するものでもない。

附属書類

1 訴訟委任状     1

原告 準備書面(1)

200667

東京地方裁判所民事第6部合議B係御中

原 告 佐藤一樹

 答弁書に記載された被告の主張に対する原告の反論及び求釈明は以下のとおりである。

第1 被告の主張に対する原告の反論

1 無罪報道と名誉毀損の成否の基準

       被告は, 本件ニュースが原告の社会的評価を低下させているという点を争い、「本件放送において、原告が無罪判決となったことに対する批判は行っていない」、「原告は,本件放送が無罪報道であることを正しく理解せず」等と主張する(答弁書3頁)。

        しかし、抽象的に本件放送が「無罪報道」であるか否かを議論することは,無意味である。重要なことは、どのような視点から無罪報道を行ったか、また、報道に際して、具体的にどのような表現を用いたかである。

       そのような観点からみた場合、本件ニュースによる原告の社会的評価の低下は、すでに訴状で記載したとおり明らかであるが、以下、若干の補足をする。

(ア)無罪報道への批判的視点

 本件ニュースが、無罪報道に対して批判的視点で描かれていることは明らかである。この点を本件ニュース1に即して述べる。

 本件ニュース1は、冒頭において東京地裁が無罪の判決を言渡したことを簡単に告げた後、すぐに遺族のナレーションを紹介するとともに、そのことについて、「遺族は先ほど会見を行い怒りを露わにしています」「無念の思いを語る遺族」とコメントしている。

 その後、本件ニュース1は、「当初罪を認め遺族に謝罪し示談が成立」というテロップを流すとともに、音声でも「佐藤被告は当初は罪を認めて遺族に謝罪し、示談が成立」と紹介し、「しかし法廷では、一転して過失を否定してきました。立証の難しい医療過誤...」と伝えて、原告が態度を変えたことを前提に(なお、そのこと自体誤りであるが、その点は真実性・相当性に関する被告の主張を待って述べる)、そのことに批判的ニュアンスをこめている。さらに、「何故改竄した医師が有罪になり、機器を操作した佐藤被告が無罪になったのでしょうか」という疑問を投げかけ、「様々な危険を回避する義務があるがそれを放置し」、「おこたって未熟な医師に扱わせた」というテロップを流し、弁護士のコメントとしても、「未熟な医師に...」と言わせている。そこでは、なぜ原告が無罪になったかについて明確な答えは示されていないのであって、本件ニュース1を見た一般視聴者は、原告が無罪になったことについての疑問は解消されないものと受け取る。

 そして、本件ニュース1は、最後に「判決の後、明香さんの両親は40分にもおよぶ会見を行いました。」と紹介し、本件患者の父親による「非常に医師に対して甘い判決だなあと思って、本当にがっかりしています。」というコメントで締めくくられている。

 このように、本件ニュース1では、取材した弁護士や本件患者遺族の口を通じて、無罪判決が医師に対して甘いものであり、本来は危険を回避する義務があるのに、それができなかった未熟な医師を無罪にしたという批判的視点に立っていることが明らかである。さらに、取り上げ方としても、他の報道機関では、無罪判決を受けて記者会見をした遺族と、同様に記者会見をした原告とを並列的に扱っているのに対し、本件ニュースでは、原告の記者会見の模様は一切用いず、過去の映像のみを用いている。そして、ニュースの最初と最後に、判決に批判的な遺族のコメントで構成しているのであるから、これを見た一般的な視聴者も、本件ニュースが判決に批判的であることを容易に理解するものである。

(イ)   未熟な医師

        被告は, 「1名誉毀損について」(3)で,「『未熟な医師』という言葉について言えば,西田弁護士の『未熟な医師にあの二重三重にそういうことが起こらないようにあの予防体制を取りながら本当はやるべきだったでしょうと。』というコメント中で使用されている言葉であり (甲第1号証の3 ) 東京女子医大病院の管理体制に問題があることを指摘する文脈で使用されていることが明らかである』と主張する。

        (テレビジョン放送による報道に関する最高裁平成151016日第一小法廷判決・民集5791075)「テレビジョン放送をされた報道番組において,その内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべきである。そして,新聞記事等の場合とは異なり,視聴者は,音声及び映像により次々と提供される情報を瞬時に理解することを余儀なくされるのであり,録画等の特別の方法を講じない限り,提供された情報の意味内容を十分に検討したり,再確認したりすることができないものであることからすると,当該報道番組により摘示された事実がどのようなものであるかという点については,当該報道番組の全体的な構成,これに登場した者の発言の内容や,画面に表示されたフリップやテロップ等の文字情報の内容を重視すべきことはもとより,映像の内容,効果音,ナレーション等の映像及び音声に係る情報の内容並びに放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して,判断すべきである」こと鑑みれば、原告を「未熟な医師」と断言しそのことを前提としている西田弁護士のコメントを含む放送は名誉を毀損する。

       西田弁護士のコメントの直前には,原告のアップの静止画とともに「何故改竄した医師が有罪になり,機器を操作した佐藤被告が無罪となったのでしょうか。」というナレーションによる問いが放送されている。これに対する答えを西田弁護士に求める構成となっている。被告の言葉を借りれば,原告の「無罪判決」報道において,話題は「原告が無罪となった理由」になっている。したがって,原告についての放送が中心となっているところに突然「東京女子医大病院の管理体制について問題」が持ち出されるはずがない。また,西田弁護士のコメントには「東京女子医大病院」や「管理体制」という言葉は存在しない。したがって,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方では,東京女子医大病院の管理体制に問題があることを指摘」していると理解することはできない。

        さらに,「未熟な医師」発言の直前には,「いろんな危険を回避する義務というのはやっぱりあると思うのですね。」のインタビューが存在し,この一連の文脈からは,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方でからすれば,「危険回避義務があるのに、それを怠ったのは原告である。」と理解される。

       いずれにせよ、この文脈において、「未熟な医師」イコール「原告」を意味していることは明らかであり、かつ、原告が「未熟な医師」であること、危険回避義務を怠ったということは断言されている。

       以上より,被告の主張は誤りである。

(ウ)   元医師

        被告は, 「1名誉毀損について」(3)で,「被告が,原告を『元医師』としたのは,『事故当時は東京女子医大病院の医師であったが,現在は東京女子医大病院の医師ではない』との趣旨である」と主張する。

        報道機関が正しい日本語文法を用いて,上記のような事実の趣旨を一般視聴者に伝えるためには,「元東京女子医大医師」「元女子医大医師」等,あるいは役職を使用して「東京女子医大元助手」「女子医大元助手」等とするのが,通常である。現代国語の教科書を紐解くまでもなく,普通名詞「医師」の直前に接頭語「元」を伴った「元医師」という日本語は,「以前は医師であったが現在は医師ではない人」を指す。

        上記のような「元東京女子医大医師」「東京女子医大元助手」等の放送を一切せずに,「元医師」と放送すれば,一般視聴者は,本件ニュースが放送された当時の原告が「元医師」であると理解することは明らかである。原告は,医師免許を取得し医師となってから,医師免許を失ったことは一回もない。また,本件ニュースが放送された20051130日の午前中も現役の医師として診療を行い,同年12月1日には,終日診療を行った。したがって,20051130日および,同年12月1日に原告を繰り返し「元医師」と放送した本件ニュースは誤りであり,放送による被害は甚大である。

(エ)   現在は医師でない理由

        被告は, 「1名誉毀損について」(3)において仮にこの表現が「現在医師ではない」との印象を与えたとしても,原告が主張するように,「本件事故の責任をとって,原告は,自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられ」たとの印象を一般視聴者に与えるものではない。」と主張する。

        国家資格を要する専門職,特に医師として就業していた人物が,医師ではなくなり「元医師」となることは例外的である。特に本件ニュース放送当時の原告の年齢である42歳以前であれば,極めて稀である。一般視聴者が,「4年前の本件手術において医師として診療していた原告が,42歳の現在医師ではない」という印象を持てば,「本件手術後から判決までの間に何らかの誘因があり,『自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられ』たという印象を持つ」ことは自然なことである。

        また,原告がこの本件手術後から判決までに,「診療を続けられないほど健康を損なった」とか,「転職して自ら医師を辞めた」とか,「行政処分を受けて医師免許を剥奪された」といった事実もその報道も存在しない。したがって一般視聴者は,上記②の「本件手術後から判決までの間の何らかの誘因」は,「本件事件に関連している」以外には考えられないのであり,本件ニュースは「本件事故の責任をとって,原告は,自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられ」たとの印象を一般視聴者に与えることは明らかである。

(オ)以上のとおり、無罪判決に批判的視点に立った本件ニュースの全体的なトーン、その文脈における「未熟な医師」、「元医師」といった具体的な表現などに照らすならば、本件ニュースが原告の社会的地位を低下させることは明らかである。

2. 答弁書 第3,「2肖像権の侵害について」

(ア)   映像の撮影日時,場所

        被告は答弁書 第2の2において,原告が「いずれも東京地方裁判所の所内と考えられる場所を原告が歩いている場面を映した映像」は,「平成149251847分ころ,保釈された原告が東京拘置所から出てくる場面を映した映像」ということを前提として,本件放送が隠し撮りしたものではないと主張する。

        しかし、詳しくは後記求釈明に対する釈明を待って主張するが、本件映像が、原告が東京拘置所を出た後の公道を歩いている場面のみを撮影したものとは思われない。また、仮に本件映像が,被告の指摘した日時場所であったとしても,被告が原告の肖像権を侵害したことに変わりはない。

(イ)   撮影に対する異議

        被告は,「原告が,撮影されていることを知りながら,撮影されることに異議を述べなかった」「照明をあてるなどして,原告が明確に認識しうる方法で撮影が行われているにも関わらず,原告は,被告の報道スタッフに対して,特段異議を述べることもなく, 被告報道スタッフの前を横切り,そのままタクシーに乗り込んだ」という記載している。

        この記載が仮に,事実だとしても,それによって,何を主張しようとしているかは判然としない。原告の承諾なしに,原告が望まない場所での映像を撮影し,それを報道したことは事実である。

        また,仮に本件映像が,被告の指摘した日時場所であったとしても,打ちっ放しの壁を背景に,拘置所の職員と伴に撮影されること(原告が身柄拘束機関の管理下にあるかの印象を与える)を原告が望まなかった。

(ウ)   原告記者会見後の放送

        原告は,20041130日の無罪判決の当日,「東京高裁内 司法記者会」の要請により記者会見を行った。この記者会見は,「午後6時頃からの各テレビ局の放送に間に合うように」と同記者会幹事社に依頼されたため,午後6時の放送までに充分に余裕がある午後4時30分ころから行われた。

        したがって、被告を含めた記者会に属するテレビ局は、午後6時の時点で、無罪判決後の原告の記者会見の映像を入手していた。現に、原告が知る限り,同日午後6時以降に,被告を除くNHKと民放各社が放送した原告の映像は,記者会見中のものだけである。

        本件ニュース報道の違法性は、「個人の肖像写真の撮影及び出版物への掲載により人格的利益が侵害された場合の違法性の判断においては,表現,報道の自由との適正な調整を図る必要があり,当該写真の撮影及びその掲載が,公共の利害に関する事実の報道に必要な手段として公益を図る目的のもとに行われたものか否か,仮にそうだとしても,当該写真の内容,撮影手段及び方法が右報道目的からみて必要性・相当性を有するか否か,という観点から検討しなければならない。」(東京地方裁判所判決/昭和61年(ワ)第13809号 平成元年6月23日)から判断すれば明らかである。

        原告の無罪を報道する目的であれば、無罪となった後の原告の映像は、「原告がその撮影と報道を承諾した映像」であり、「公共の利害に関する事実の報道に必要な手段として公益を図る目的のもとに行われ」たものである。

        しかしながら、この放送の目的によれば、原告の初公判時の映像や、保釈時の映像には、その公共性、公益性はない。また、本件映像が「内容,撮影手段及び方法が右報道目的からみて必要性・相当性」がないことは明らかである。

(エ)   38歳時の映像

        本件映像では,映像とともに「佐藤一樹被告 (42)というテロップが放送された。(甲第1号証の2の①,2の②,2の③,2の④,2の⑥)

        本件映像が放送された20051130日無罪判決時において,原告は42歳である。本件映像が,第一回公判(2002918日:要確認)時に撮影したものであるとしても,保釈時(2002925日)に撮影したものであるとしても、原告はなお,本件映像の撮影時に原告38歳であった。

        したがって、38歳時の原告の映像を放送しながら、「佐藤一樹被告 (42)という誤ったテロップを流していることは、本来報道する正当性や必要性がまったく認められない4年も前の過去の映像を、わざわざ倉庫等から持ち出してきて流したこと、本件映像利用の相当性の欠如を端的に示している。

第2 求釈明

1.撮影場所の詳細について

 被告は、「本件映像は、...東京拘置所付近路上において撮影されたものである」と主張する(答弁書4頁)。しかし、原告は、保釈の際、東京拘置所出口の直近の路上にタクシーを呼んでおき、すぐにタクシーに乗り込んだ。したがって、一定の距離を単独で移動している原告の姿を映している本件映像は、仮に本件映像が被告主張どおり東京拘置所のシーンであるとすれば、東京拘置所附近の公道を歩いている場面ではなく、拘置所内部を歩く原告の姿を映したものと考えられる。そこで、被告に対し、東京拘置所附近のどの地点にカメラを設置し、どの部分を歩く原告の姿を撮影したのかを現場の見取り図等を用いて明らかにすることを求める。あわせて、本件映像の前後の映像(放送しなかった分を含む編集前のもの)を提出するよう求める。

. 「捜査段階のフジテレビの報道や起訴された事実のフジテレビ報道」の録画提出

 被告は,答弁書「1名誉毀損について」(2)において,「捜査段階の報道や起訴された事実の報道等によって低下していた原告の社会的評価は,本件放送によって回復している。少なくとも,原告の社会的評価が, 本件放送がなされる前の状態よりも低下していることはない。」と主張している。しかし、原告は、被告フジテレビによる「捜査段階の報道や起訴された事実の報道等」を見たことがない。そこで、この点について原告として判断・反論するために,被告フジテレビが,

A.捜査段階における原告について

B.起訴された後の原告について

いかなる報道を行ったのかを明らかにすることを求めるとともに、それらを報じた下記①ないし⑥の放送の記録を証拠として提出することを求める。

            ① FNNスーパーニュース

            ② ニュースJAPAN

            「めざましテレビ」の午前五時台の放送

            ④「めざましテレビ」の午前七時台の放送

            ⑤「とくダネ!」

            ⑥ 上記①ないし⑤以外の全ての報道番組

. 西田弁護士のコメント

           被告は、西田弁護士のコメントが、「東京女子医大病院の管理体制に問題があることを指摘する文脈で使用されていることが明らかである」と主張する。そのようには考えられないが、西田弁護士のコメントが、いかなる質問に対する回答としてなされたものであるのかを証拠とともに明らかにされたい。

以 上

被告 準備書面(1)

平成18年8月22

東京地方裁判所民事第6部合議B係御中

被告訴訟代理人弁護士  ● ●  ● 

同           

同           

    同        ● ● ●●●

 同(担当)     ● ● ● ●

上記当事者間の御庁頭書事件について,被告は,下記の通り弁論を準備する。

1名誉段損について

1本件放送の性格

(1) 原告は,「抽象的に本件放送が「無罪報道」であるか否かを議論することは無意味である。重要なことは、どのような視点から無罪報道を行ったか,また,報道に際して,具体的にどのような表現を用いたかである。」とし,「そのような観点からみた場合,本件ニュースによる原告の社会的評価の低下は,すでに訴状で記載したとおり明らかである」と主張する(平成1867日付原告準備書面12)

しかし,答弁書において既に主張したとおり,被告は,本件放送において,原告が無罪となったという結果のみを報道したのではなく,原告には事故の予見可能性がなかったという判決理由についても報道しており,しかも,無罪判決に対する批判は行っていない(答弁書3)。被告は,これらの点も踏まえ,本件放送の性格を明らかにする趣旨で「無罪報道」と述べたのであり,抽象的な議論をする意図で本件放送を「無罪報道」と表現しているわけではない。

(2) 本件放送は,一般視聴者が高い関心を抱いていた東京女子医大の医療事件の帰趨について報道するものであり,原告に対し無罪が言い渡された事実を視聴者に伝えることを目的とするものである。一般視聴者は,本件放送により裁判所による証拠に基づく緻密な審理を経た結果,起訴事実が認定できなかったことを明確に知ることができる。

しかも,本件放送は,無罪という結果のみを報道しただけではなく,原告に事故の予見可能性が認められなかったという同判決の判決理由をも明確に伝えている。具体的には,本件ニュース1では「その理由として,人工心肺の構造に問題があったことを指摘。事故を予見することが出来たとは認められず,過失責任を問うことはできないというものでした」(甲第1号証の3)と報じ,本件ニュース2及び本件ニュース3では,「東京地裁は判決の理由として,客観的に見て人工心肺の構造には問題があったと指摘した上で,被告が事故を予見することは出来なかった等としています。」(甲第2号証の3,3号証の3)と報じ,本件ニュース4では「被告人は,無罪。開発者でもない医師が,装置の危険性について気づかなかったとしても責めるのは酷。」,「判決は,人工心肺装置そのものに事故の危険性があり,佐藤被告の責任は問えないというものでした。」(甲第4号証の3)と報じており,いずれも判決理由を明確に伝えている。一般視聴者は,本件放送により,裁判所が「人工心肺装置の構造に問題があり,原告に事故の予見可能性がない」と判断したこと明確に知ることができる。さらに,本件放送は,無罪判決に対する批判(例えば,証拠評価など事実認定に問題があるとか,論理的な矛盾があるとかの批判)を行っていない。具体的理由や具体的証拠を挙げて,無罪判決の不当性を指摘しているのであれば,原告は本来有罪とされるべきではないかとの印象を一般視聴者が抱くことも考えられる。しかし,本件放送は,そのような批判を行っていないのであるから,一般視聴者が,原告は本来有罪とされるべきではないかとの印象を抱くことは考えられない。

(3) 以上,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準とした場合,本件放送は,一般視聴者に対し,原告に過失はなく,原告に刑事責任はなかったという印象を明確に与える。

2原告の主張とそれに対する反論

(1)本件放送の構成と被告の報道姿勢

ア 原告は,本件ニュース1について,無罪報道に対し批判的視点で描かれていると述べ,本件ニュース1の構成について縷々述べている(平成1867日付原告準備書面2)。しかし,本件ニュース1,無罪報道に対する批判的視点から構成されたものでは断じてない。

 イ 被告は、本件ニュース1において、まず、東京女子医大医療事件(以下「本件事件」という。) について,原告に対し無罪判決が言い渡されたことを報じる。次に,被告は,同判決を受けて行われた遺族の記者会見の模様について報じ,事件の簡単な説明と無罪判決の判決理由について明確に説明する。

その後,被告は,本件事件の事実経過について紹介した後,「立証の難しい医療過誤で医師が逮捕されることは極めて異例であり,当時,高度な医療を行う特定機能病院に承認されていた東京女子医大は,」のくだりから,本件事件全体についての言及を始める。

そして,被告は,本件事件の帰趨として,東京女子医大が特定機能病院の承認を取り消されたこと,証拠隠滅罪に問われた医師に有罪判決言い渡されたことを伝え,「何故改窟した医師が有罪になり,機器を操作した佐藤被告が無罪となったのでしょうか」と事件全体の結末についての問いかけをなした後,東京女子医大は二重三重に予防体制を敷いておくべきであったとする専門家(弁護士)の分析を紹介し,最後に遺族の記者会見での発言を報じている(甲第1号証の3)

ウ かかる構成からも明らかなように,被告は,本件ニュース1において,原告に対し無罪判決が下されたとの情報をいち早く一般視聴者に伝えることを目的としつつも,放送時問という制約の下,本件事件全体の帰趨や専門家の分析等,なるべく多くの情報を一般視聴者に伝え,病院の管理体制に対する問題提起を試みているのであって,一般視聴者に対し判決に対する批判的メッセージを伝えることを目的としているわけではない。

仮に,原告の主張するが如く,被告が判決に対し批判的である

のであれば,その後の報道においても被告は批判的立場から一貫して報道を行っていてしかるべきである。

 しかし,本件ニュース2ないし4を見ても,被告は判決に対し一切批判的な報道をなしてはいない。むしろ,原告の記者会見の模様をも報道しており,原告の主張する公正さにも適う内容となっている(甲第2号証の3,3号証の3,4号証の3)

 原告に対し無罪判決が下されたとの報道を目的としつつ,本件事件全体の帰趨等なるべく多くの情報を一般視聴者に伝えるとともに,原告が無罪となったことを前提として,病院の管理体制につき問題を提起するという被告の報道姿勢は,その後も明確に維持されている。すなわち,被告は,本件ニュース2及び3においては,放送時間が極めて限られていたこともあり,原告に無罪判決が下ったこと及びその判決理由についてのみ報じるにとどまるが,本件ニュース4においては,十分な放送時間をかけ,事件全体の経過や判決の詳細な分析をも言及し,一般視聴者に情報を提供している。また,被告は,本件ニュース2において,「構造的には問題のあった人工心肺を何故使わせたのかという問題が残ります」(甲第2号証の3)と述べ,本件ニュース3においては,「ではそれを使った病院側の責任もないのかということも余地が残されています」(甲第3号証の3)と述べ,本件ニュース4においては,「判決の中で裁判長は,こうした危険な人工心肺装置を使っていた東京女子医大の管理責任というものは問われることはある」(甲第4号証の3)と述べている。このように,一連の本件放送を見れば,被告が判決について批判的立場に立っていないことは明白である。

(2)遺族のコメントについて

       本件ニュース1につき,原告は,まず,ニュースの冒頭と最後に遺族のコメントが紹介されていることをもって,「本件患者遺族の口を通じて,無罪判決が医師に対して甘いものであり,本来は危険を回避する義務があるのに,それができなかった未熟な医師を無罪にしたという批判的視点に立っていることが明らかである」と主張する(平成1867日付原告準備書面3)

しかし,遺族の反応をニュースの冒頭と最後に紹介しているからといって,被告が判決に対し批判的な態度を取っていることにはならない。

そもそも,刑事裁判に関する報道において,犯罪の被害者及びその親族が存在する場合,一般視聴者は,判決の結論及び理由のみならず,「被害者ないしその親族が判決に対しいかなる反応を示したか」,ということにも強い関心を寄せる。とりわけ,本件の如く,まだ年端もいかない少女が医療事故によりその将来を断たれたような場合はそうである。だからこそ,被告は,遺族の反応は非常に報道価値が高いと考え,本件ニュース1の冒頭と最後で紹介したのであって,それ以上の意図はない。「遺族は先ほど会見を行い怒りを露わにしています」,「無念の思いを語る遺族」というコメントも,報道価値の高い遺族の反応を単に描写しているにすぎず,それ以上の意味はない。

  もちろん,被告が,遺族が怒りを露わにしていると報じたり,「非常に医師に対して甘い判決だ」と遺族が発言したことを報じることにより,遺族の無念の思いが一般視聴者に伝わり,遺族に対し一般視聴者が同情を寄せるということはありえよう。また,「遺族はやり場のない思いを抱いている」という印象を一般視聴者が受けることがありうる。

しかし,一般視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準とすれば,遺族の判決に対する発言は,あくまで遺族の立場からの発言であると受け止められるものである。

また,我が国においては,裁判所の裁判は一般的に広く国民から信頼されている。したがって,判決によって不利益を受けた者が判決に対し不満を漏らしたことを報じたとしても,一般視聴者が,そのことだけで判決に疑念を抱くことはない。

  さらに言えば,一般の視聴者が,遺族が不満を漏らしたとの一事をもって,「専門性を有するべき医師が,未熟であったために手術中のミスによって本件患者を死亡させた」という印象を抱くことはありえないのである。

 この点,さらに原告は,「他の報道機関では,無罪判決を受けて記者会見をした遺族と,同様に記者会見をした原告とを並列的に扱っているのに対し,本件ニュース1では原告の記者会見の模様は一切用いず」と述べ,遺族のコメントのみを取り上げた被告の報道を批判している(平成1867日付原告準備書面3)

しかし,本件ニュース1,原告に対し無罪判決が下されたことを冒頭から明確に述べている。無罪判決が下されたということは,原告の言い分が裁判で正式に認められたということなのであるから,無罪判決が下されたという事実を判決理由を明示して報道すれば,原告の記者会見でのコメントを改めて報道せずとも,一般視聴者には原告の言い分が充分伝わる。常に両者の言い分を並列的に取り上げなければ不公平な報道となるというわけではない。

(3)事実経過について

原告は,次に,「「当初罪を認め遺族に謝罪し示談が成立」というテロップを流すとともに,音声でも「佐藤被告は一転して過失を否定してきました。立証の難しい医療過誤・・」と伝えて,原告が態度を変えたことを前提に」,「そのことに批判的ニュアンスを込めている」と主張する(平成1867日付原告準備書面2)

しかし,被告は,一般視聴者にわかりやすいように,取材の結果知りえた本件事件の事実経過を報じたに過ぎない。事実経過について説明するだけでは判決への批判とはなりえない。原告自身,この部分について,批判的「ニュアンス」と主張するのみである。なお,原告は,「佐藤被告は一転して過失を否定してきました。立証の難しい医療過誤・・」という形で本件ニュース1を引用する(平成1867日付原告準備書面2),「立証の難しい医療過誤・・」との説明は,「立証の難しい医療過誤で医師が逮捕されることは極めて異例であり,当時,高度な医療を行う特定機能病院に承認されていた東京女子医大は,この事件でその承認を取り消されています。」という説明の一部である。被告は,立証の難しい医療過誤事件であるから,原告が無罪になったとは一言も述べていない。

(4)未熟な医師との言葉について

 原告は,未熟な医師の点について,「いずれにせよ,この文脈において,「未熟な医師」イコール「原告」を意味していることは明らかであり,かつ,原告が「未熟な医師であること,危険回避義務を怠ったということは断言されている」と主張する(平成1867日付原告準備書面5)

しかし,答弁書にて主張したとおり,「未熟な医師」という言葉はあくまで,東京女子医大病院の管理体制に問題があることを指摘する文脈で使用されている。

西田弁護士のコメントは「いろんなあの危険を回避する義務というのはやっぱりあると思うのですね。それを放置してまああのそういうことを怠ってですね。未熟な医師にあの二重三重にそういうことが起こらないようにあの予防体制をとりながら本当はやるべきだったでしょうと…。」(甲第1号証の3)というものである。

要するに,医療事故というものが起きないように二重三重に予防体制を敷いて危険を回避する義務,,病院側にあったのに,それを放置した,というのが同コメントの内容である。

加えて,テロップにも「様々な危険を回避する義務があるがそれを放置し」,「扱わせた」と表示されており,一般視聴者の普通の注意と視聴の仕方からすれば,言及されている主体が東京女子医大病院であることは容易に理解される。このように,コメントの内容及びテロップを普通にみれば,同弁護士が,東京女子医大の管理体制について言及していることは明快である。

 この点,原告は,「原告についての放送が中心となっているところに突然「東京女子医大病院の管理体制についての問題」が持ち出されるはずがない。」と述べる(平成1867日付原告準備書面4)

しかし、本件ニュース1は、前述のとおり、「立証の難しい医療過誤で医師が逮捕されることは極めて異例であり、当時,高度な医療を行う特定機能病院に承認されていた東京女子医大は,」のくだりから,本件事件全体についての言及が始まっている。そして,本件事件の帰趨として,東京女子医大が承認を取り消されたこと,証拠隠滅罪に問われた医師に有罪判決が言い渡されたことについて言及がなされ,「何故改窟した医師が有罪になり,機器を操作した佐藤被告が無罪となったのでしょうか」と事件全体の結末についての問いかけがなされた後,東京女子医大病院は二重三重に予防体制を敷いておくべきであったとの西田弁護士のコメントが,法律の専門家のコメントとして引用されている。

つまり,上記「東京女子医大は,」のくだりから,放送の中心は原告から本件事件全体に移っている。したがって,東京女子医大病院の管理体制についての問題が持ち出されても違和感はなく,むしろ自然である。

(5)元医師の点について

ア 答弁書にて主張したとおり,被告は,「事故当時は東京女子医大病院の医師であったが,現在は東京女子医大病院の医師ではない」という趣旨で原告を「元医師」としている。

イ 上記は、本件ニュース1において、①冒頭部分で、音声により「東京地裁は今日、当時の担当医に無罪の判決を言い渡しました。」と放送していること(甲第1号証の3)、及び②映像上もテロップ文字で「過失責任は問えない「東京女子医大元医師「無罪」」と放送していること(甲第1号証の2の①~⑰)、から明らかである。一般視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断した場合,一般視聴者は「当時の担当医」という意味で「元医師」と表現しているとの印象を受ける。

 なお、本件ニュース2以降は、単に「元医師」としているが、これは繰り返し使用される言葉を短縮して表現したものであり、その趣旨は本件ニュース1と変わるものではない。

2 肖像権侵害について

1 本件映像が撮影された場所について

本件映像は,平成14925日午後647分ころ,被告報道局のスタッフによって撮影された。

 撮影場所は,東京拘置所南側にある面会差入受付入口に近接した同拘置所の門の外側の公道上である(乙第1号証,2号証)。同スタッフは,原告が同拘置所を出所し,タクシーに乗って立ち去るまでを撮影した。

 このように,同拘置所の門の外側の公道上にて,同拘置所を出所する刑事被告人を撮影することは,世間の耳目を集める刑事裁判の報道において通常行われていることである。

 東京拘置所も,公道上で撮影が行われていることから,このような撮影を禁じておらず,本件映像撮影の際も,同拘置所の衛視は,被告報道局のスタッフに対し,所属している報道機関の名称を尋ねただけで,特段撮影の中止等を申し入れてはいない。

2 肖像権侵害の成否について

(1) 答弁書において既に主張したが,被告報道局スタッフは,本件映像を,日没後周囲が暗くなった状況下で,原告に対し照明をあてつつ撮影した。つまり,原告が撮影を明確に認識しうる方法で撮影が行われたものである。およそ隠し撮りの類にはあたらない。しかも,本件映像を撮影する際,同スタッフは,被告の名称が記載された腕章を着装しており,同スタッフが報道目的で撮影を行っていることは誰の眼にも明らかであった。

 このように,本件映像は,報道目的で撮影が行われていることが明らかな態様で撮影されており,しかも,原告自身その旨明確に認識していたにも関わらず,原告は,手のひらで顔を隠したり, 撮影の中止を申し出る等,撮影について特段異議を述べることもなく,淡々と同スタッフの前を横切り,そのままタクシーに乗り込んだ。

 このような原告の行動からすれば,本件映像の撮影につき原告において黙示的承諾があったと考えざるをえない。

(2) また,原告は当時,世問の耳目を集める東京女子医大医療事件裁判の被告人であったのであって,同裁判に関する事実は公共の利害に関する事実である。したがって,その報道にあたり,仮に原告の明示的承諾がなかったとしても,被告人たる原告の行動を撮影した映像を報道することは許される。この点,殺人容疑で逮捕された被疑者の写真を週刊誌等に掲載したことが,被疑者の肖像権を侵害するか争われた事案において,裁判所は,被疑者の自宅前における歩行中の写真につき,「原告(引用者注:被疑者のこと)B殺害の容疑で逮捕されたことは公共の利害に関する事実であり,その報道にあたり被逮捕者たる原告の写真を掲載することは許されるものであって,しかも,本件においては,右写真は,原告に無断で撮影されたものであるとはいえ,その内容は格別原告に差恥,困惑等の不快感を与えるものではなく,撮影の方法も自宅前を歩行中の原告を屋外から撮影したものと認められるから,被逮捕者たる原告においてもこの程度の写真撮影は受忍すべきであり,したがって,右写真の掲載が違法であるということはできない」と判示している。また,被疑者がアメリカの裁判所に出頭した際の裁判所内における写真につき,同裁判所は,「原告がB殺害の容疑で逮捕され刑事訴追を受けるに至っていたことは公共の利害に関する事実であり,その報道にあたり被逮捕者たる原告の写真を掲載することは許されるものであって,本件において,右写真は,原告に無断で撮影されたものであるとはいえ,その内容は格別原告に差恥,困惑等の不快感を与えるものではなく,撮影の方法も裁判所の許可を得て撮影したものと認められるから(弁論の全趣旨),被逮捕者被訴追者たる原告においてもこの程度の撮影は受任すべきであり,右写真の掲載は違法性を欠くものというべきである」と判示しているものである(東京地判平成6131日判タ856186)

 この判例からも明らかなように,世間の耳目を集める刑事事件の被疑者・被告人においては,その撮影された内容や撮影の方法が相当である限り,自らの容貌を撮影されることは受任するべきであって,撮影をした報道機関において肖像権侵害の不法行為は成立しない。

 したがって,本件においても,被告につき,肖像権侵害に基づく不法行為は成立しない。

 

原告 準   面(2)

2006920日 

東京地方裁判所民事第6部合議B係御中

原 告 佐藤一樹

 準備書面(第1)に記載された被告の主張に対する原告の反論は以下のとおりである。

第1 「名誉毀損」に関する被告の主張に対する原告の反論

 本件放送は、原告が「当初罪を認め遺族に謝罪」していたが裁判では「一転して過失を否定」したという誤った内容を報じるとともに、被告を「未熟な医師」と評し、「元医師」という誤ったナレーションと伴にテロップを付すなどするものであり、その内容において、一般視聴者に対して、専門性を有するべき医師が未熟であっために手術中のミスによって本件患者を死亡させたという印象を生じさせることは明らかである。

 被告は準備書面(第1)において、原告の社会的地位の低下を否定するための反論を縷々述べるが、その主張は事後的な「元医師」の解釈を初めとしてこじ付け的なものが多く、これまでに原告が主張したことに対する有効な反論にはなりえていない。その意味で、基本的に被告の反論に対する再反論の必要はないと考えられるが、念のため以下の点を補足する。

1. 自白に相当する事実の摘示

(ア)   無罪判決への批判的視点

被告は、「本件放送において、原告が無罪となったという結果のみを報道したのではなく、原告には事故の予見可能性がなかったという判決理由についても報道している」と述べるが、「結果と判決理由のみ」を報道したのでもない。被告が、無罪判決への批判的視点に立ち、「佐藤被告(原告)は当初罪を認めて遺族に謝罪し、示談が成立。しかし法廷では、一転して過失を否定してきました。立証の難しい医療過誤で・・」という報道で、真実ではない事実(下線部)を摘示する等して、原告の名誉を毀損したことは、200667日付け原告準備書面(以下、単に「準備書面」) 第1の1の(ア)で既に述べた。 

一般的に、刑事被告人が罪を認め、被害者に謝罪するという行為は、自白に相当する。そのような重要な事実が報道されれば、一般視聴者はそれが、真実だという印象を受ける。さらに、被告人が後に一転して無罪を主張し、無罪判決が言い渡されたとしても、この自白に相当する事実の報道から、本当は、有罪であるとの印象を受ける。さらに、「立証の難しい医療過誤...」と続けば、医療過誤事件は立証が困難なので、医師に否認されたために本来有罪とされるべきところ無罪となったという印象を受けるのは自然なことである。

被告は、平成18822日付け準備書面(第1) 第1の1において「一般視聴者が、原告は本来有罪とされるべきではないかとの印象を抱くことは考えられない。」「一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準とした場合、本件放送は、一般視聴者に対し、原告に過失はなく、原告に刑事責任はなかったという印象を明確に与える」等縷々述べているが、これは客観性を失った主張である。

(イ)   真実性

 原告は、第一回期日2006517日法廷において、既に、被告による真実性・相当性の立証の必要性を口頭で述べ、6月7日付け準備書面では、その該当部分を特定し「(なお、そのことを自体誤りであるが、その点は、真実性・相当性に関する被告の主張を待って述べる)」と明確に記載し、822日まで2ヶ月半の間待機した。しかしながら、被告は、準備書面(第1)では、「取材の結果知りえた本件事件の事実経過」程度の記載があるのみで、何ら真実性と相当性を立証しようとすらしていない。このことは、「裁判の円滑な進行を故意に妨げている」または、「真実性・相当性に関する主張をしない」のいずれか、と受け取れる。前者であれば、被告は早急に真実性・相当性の立証を行うべきであり、後者であれば、裁判所には次回期日から証拠調べを行っていただくことを要望する。

(ウ)  他社報道との比較

なお、原告は、20051130日に放送されたNHK総合、NHK-BS、日本テレビ、TBS、テレビ朝日の報道番組の放送と同日に発信された朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、及び共同通信社が配信する新聞社等のインターネット上のウエッブニュースを可能な限り調べたが、原告が「当初は罪を認めて謝罪したが、法廷では一転して無罪を主張した」旨の報道はなかった。

2. 未熟な医師

(ア)  「未熟な医師」イコール「原告」

被告は、原告の「『未熟な医師』イコール『原告』を意味する」という指摘に対して、「『未熟な医師』という言葉はあくまで、東京女子医大病院の管理体制に問題があることを指摘する文脈で使用されている。」と述べるだけで、否定はしていない。「管理体制」の文言が皆無である放送の該当部分がどのような分脈で事実を摘示したかは置くとしても、西田弁護士が「未熟な医師」と呼ぶ医師が、「原告」以外にいないのは明らかである。このことは、仮に文脈に東京女子医大の管理体制の批判がこめられているとしても、「『未熟な医師』イコール『原告』を意味する」ことと両立するのであるから名誉毀損は成立する。

(イ)  「危険回避義務」を怠ったのは「原告」

原告は、原告準備書面 5頁 第1の1の(イ)④において、「『危険回避義務があるのに,それを怠ったのは原告である。』と理解される。」と主張したが、被告はこのことに関しては、なんら反論していない。すなわち、「危険回避義務」を怠ったのは「原告」であることを認めているのであるから、その直後の発言の「未熟な医師」もイコール「原告」ということになるのは当然である。

3. 元医師

(ア)  「当時の担当医」と「現在の元医師」

 原告は「元医師」の解釈が「以前は医師であったが現在は医師ではない人」以外にあり得ないことを既に充分論じた。これに対し被告は、音声による「当時の担当医」とテロップ文字による「東京女子医大元医師『無罪』」を放送すると一般視聴者が「当時の担当医」という意味で「元医師」と表現している印象を受けると主張する。何の説明もなくそのような印象を受ける視聴者がいるはずがない。

 時間軸に沿い、手術日を「当時」、約49ヶ月後の『無罪判決』の日を「現在」とすれば、「当時は担当医」で、「現在は元医師」という関係になるのであるから、両者は両立し当時の「担当医」が現在では「元医師」と考えるのが自然である。

 また、冒頭から次々と提供される情報の中で、一瞬で消える音声の「当時の担当医」という情報が印象として残る理由もなく、その直後から250秒間「東京女子医大元医師『無罪』」とテロップが表示されているのであるから、一般視聴者が、「元医師」の放送は「当時は医師であったが、現在は医師でない人」との印象を持つ。

(イ)  「担当医」でも「元医師」でも3文字

 仮に、「当時の担当医」という意味の表示をしようと思えば、「担当医」と短縮すれば3文字で、「元医師」の3文字と同じである。したがってニュース2以降は単に「元医師」としているが、「これは繰り返し使用される言葉を短縮して表現したものであり、その趣旨は本件ニュース1と変わるのもではない。」という「短縮理論」は成り立たない。

(ウ)  個別のニュース1ないし4とニュースJAPANの「担当の医師」

 さらに被告の「繰り返し使用理論」の抗弁について論じる。ニュース1ないしニュース4は、あたかも一連のつながりがあるように扱っているが、個別の報道であることは、一つ一つの内容が違うことから明らかである。一般の視聴者が1130日の1801分に放送された冒頭ナレーションの一瞬の「当時の担当医」を印象深く記憶しながら、翌日121日の早朝午前538分からのニュース2及びニュース3や午前9時近くまでのニュース4を視聴し、なおかつそこで、「元医師」テロップで表示されているのを見たり、発言されたりするのを聞いて、「元医師」とは「当時の担当医」を表現している印象を受けるはずはない。

 また、ニュース1とニュース2の時間帯の間に放送された、ニュースJAPANのフラッシュのテロップでは、「担当の医師は―」や「女児死亡事故 医師は“無罪”」と表示し、ナレーターも、「業務上過失致死の罪に問われた医師」と発言している。このことからも、ニュース2以降がニュース1と一連の連なりをなしていないことが理解され、「繰り返し使用理論」による抗弁はなりたたない。

第2「肖像権侵害」に関する被告の主張に対する原告の反論

本件映像は、「撮影の段階」「放映の段階」のいずれにおいても不当であり、公共性・相当性は認められず、不法行為を構成する。以下、被告の準備書面(第1)に記載された撮影場所を踏まえて反論する。

1. 撮影の段階

(ア)   撮影場所

本件映像を撮影した人物が立っていた場所は、公道上であるが、本件映像で撮影された場所のほとんどは、拘置所敷地内であり、映像には、拘置所施設を背景に歩行する原告と原告につきそう拘留関係者が同時に映っている。

(イ)   撮影された状況-領置品の先行搬入

 原告が保釈決定を知ったのは、2002925日夕食後であった。保釈と共に領置されていた所持品を整理しまとめたが、書籍が数十冊、刑事事件関係書類も千枚以上であっため、全ての荷物は、一回で両手に持ち運べる量ではなかった。この為、拘置所施設面会口(乙第2号証)から拘置所敷地内を通って、門外に運び出すには、時間がかかる状況であった。

 一回目に面会口のドアが開かれた時に、屋外は夕闇により暗い状況であったが、その瞬間に原告の目には、強いライトが当てられた。その状況では、ライトの光は強烈であり、人と人が通常の会話ができるような距離でなかったため、人が撮影機器を使用してこちらを撮影していることは認識したが、どのような人物が撮影したかも確認できず、腕章をしているかどどうかも認識できなかった。

 拘置所の職員は「あいつらもう来ていやがる。」と言い原告と会話を始めたことからも、撮影しているのはおそらく報道関係者であると思った。しかし、同日夕刻に保釈されて拘置所で身柄をとかれた立場にある者としては、撮影された経路以外に、出所する経路の選択余地はなかった。既に妻がタクシーを停車させていることを原告は認識していたことも相まって、乙第2号証に示されている経路で拘置所内敷地を出ることとした。この時点で同経路を歩行した場合、確実に撮影されるので、それに対して嫌悪感を持ったが、ここで、大きな声を出す等して撮影者に抗議することは、理由があって断念した。これについては後述する。

 せめて撮影される時間を短縮しようと策を講じ、一旦面会口から離れ、領置品は拘置所職員が門の外に運び出し、時間をおいて、それを妻がタクシー内に搬入した後に、原告が面会口を出てタクシーに乗り込むこととした。

(ウ)   撮影現場の状況-妻の撮影に対する抗議

①報道関係者との接触

 原告は、本件事故が報道された200112月から、報道関係者との直接的な接触を行わなかった。報道直後から弁護士に相談し、20021月上旬には、報道関係者に対する方針を決定した。すなわち、報道関係者からの接触や取材の申し込み等があった場合は、妻が対応し、「佐藤(原告)は報道関係者に直接接触したり、会話したりはしないので弁護士さんの氏名と連絡先を報道関係者に伝える」方針としたのである。

②妻と撮影者の会話

 原告の妻は、領置品をタクシーに搬入する際に、複数いた撮影者に「撮影しないでください。」旨、異議を申し立てた。これに対して、ある撮影者は妻と会話した。妻は最終的に「撮影されたくないんです。」と明確に理由も述べた。 

(エ)被撮影者の心理-皇太子妃候補の抗議映像等

 原告は、報道映像の撮影者が、被撮影者が撮影されることを拒否しても撮影を強行し、それが放映された場面を報道番組のテレビ映像で何回も視聴した。その「撮影拒否場面の放送」が被撮影者の印象を悪くすると考えていた。「エイズ事件刑事被告人(無罪)安部 英医師」や「オウム真理教教祖の弁護人 横山昭二弁護士」や「ロス事件の殺人事件刑事被告人(無罪)三浦和義氏」らが、報道関係者の撮影を拒否したり、抗議したりする場面が放送されるのを見て、これら被撮影者の態度が人格的に悪い印象として感じた。特に現皇太子妃雅子妃殿下が、婚約発表前に報道関係者に、撮影者の放送局名を訪ね撮影をやめるように厳しい表情で強く要望した場面を報道番組で視聴し、当時の小和田雅子妃殿下候補に対して人格的に悪い印象を持った。

 このため、原告は、逮捕以前から、自分が報道関係者に撮影されることがあった場合は、自らが直接撮影者に対して、撮影に対する拒否行動を起こしても、撮影に中止や異議を申しでても、他どんな行動を起こしてもそれが放送されることが免れないので、せめてその放送により、自らの印象が悪くなることを回避するように行動することを決めていたのである。

 原告は、通常会話の声では届かない場所から、拘置所敷地内に向かって撮影を行っている何処の放送局の何者かも分からない撮影者に対して大きな声を出して抗議しても、どの場面で抗議しても、その行為自体が放送されると、視聴者が原告の人格に悪い印象を持つと考え、顔を隠さず、撮影者に何も述べずに淡々とタクシーに乗り込んだ。

(オ)「撮影の段階」ので不法行為

 撮影に嫌悪感をもった原告が、一旦は面会口から顔を出したがそのまま外には出ず、領置品だけが先に外に出され、時間が経過した後に、面会口から拘置所敷地内に出てきた場面の一部始終を見た撮影者は、原告の妻から撮影の拒否とその理由を聞かされたにもかかわらず、原告を撮影した。このことから、原告において黙示的承諾がなかったことは明らかであり、本件映像の「撮影」は不当であり不法行為を構成する

2. 放映の段階-放送の正当性、公共性、公益性、必要性、相当性の欠如

(ア)「無罪判決報道」と「拘置所出所」

 原告は、200667日付け準備書面 8頁~9頁「(ウ)原告記者会見後の放送」と「(エ)38歳時の映像」において、本件ニュースにおける映像の正当性、公共性、公益性、必要性、相当性の欠如について述べた。被告自ら「無罪判決報道」と呼ぶニュース番組において、原告が行った記者会見の映像を入手していた被告が、拘置所を出所する際の原告が拘置所敷地内から外に出るところを撮影した4年前の映像をわざわざ放送したことを指摘した。

(イ)「殺人容疑で逮捕された被疑者」と「無罪判決を言い渡された被告人」

 被告は、放送の正当性の欠如、公益性の欠如、必要性の欠如及び相当性の欠如に対する反論を直接は行わずに「殺人容疑で逮捕された被疑者の写真掲載」に係わる事案の下級審判例を提示するのみで何の説明もなく「明らかなように・・・不法行為は成立しない」と述べている。

本件放送時点において、原告は、被疑者でもなく、この時点では無罪判決を言い渡された被告人であった。その立場になった原告の映像を入手しながら、拘置所を出所する際の原告の映像を放送することの公益性、必要性及び相当性は存在せず、放送の正当性はない。

 また、「世問の耳目を集める東京女子医大医療事件裁判の被告人であったのであって,同裁判に関する事実は公共の利害に関する事実である。」と述べているが、「拘置所を出所した事実」は裁判とは直接の関係がないので、「公共の利害に関する事実」ではない。

(エ)   「放映の段階」ので不法行為

以上より、無罪判決時の「放映」として本件映像は不当であり、「撮影」「放映」のいずれもが不法行為を構成する。

以上

原告 準 備 書 面(3

20061215日 

東京地方裁判所民事第6部合議B係御中

原 告 佐藤一樹

準備書面(第2)に記載された被告の主張に対する原告の反論は以下のとおりである。

第1 「名誉毀損」に関する被告の主張に対する原告の反論

 被告は準備書面(第2)においても、原告の社会的地位の低下を否定するための反論を縷々述べるが、その主張には矛盾があり、客観性を欠いた報道姿勢を露呈し、釈明のための事後的解釈に終始している。

また、被告に挙証責任がある真実性や誤信相当性の主張には、被告自身による具体的な取材経過が示されていないため、被告の不法行為を否定するには程遠い。

以下、詳細に論じる。

1. 無罪判決理由

(ア)  「無罪判決理由放送」の繰り返し主張

被告は、準備書面(第2)第1の1の「(1)人工心肺に構造上の問題があったことを報道したこと」の項では、その題名を主張するために、2頁11行目ないし12行目、同頁17行目、同頁26行目、3頁1行目、同頁3行目ないし4行目、さらには、(2)の項にまで入ってからも、同頁13行目、同頁16行目と7回も繰り返し『人工心肺の(には)構造(上)に(の)問題』とう文言を使用している。要は、被告が「『無罪判決という事実』と『その理由は人工心肺の構造に問題があったこと』の両方を報道した」ことを繰り返して強調しているだけの主張である。「人工心肺の構造に問題があった」という指摘自体に疑義を挟んでいるという解釈の余地もあるし、人工心肺の構造に問題があったとしても、結果は予見できたという判断もありえるのであるから、構造の問題を繰り返し指摘したからといって、ただちに原告による過失の不存在を一般視聴者に印象づけることにはならない。

(イ)  無罪推定の原則をわきまえない報道と視聴者の印象と本件放送

本邦では、一般に国民の裁判所に対する信頼は厚い。しかしながら、被疑者・被告人に対する犯人視報道が、刑事裁判における判断に少なからず影響を与えることや最初の犯人視報道に接した者が、その印象が消えずにこれを基準として判断し、逆に公判廷で明らかにされた方が間違っているのではないかという不信感を持つ者が存在することを、裁判所自身が示唆、指摘している。

すなわち、「週刊誌や芸能誌、テレビのワイドショーなどを中心として激しい報道が繰り返されたが、こうした場面では、報道する側において、報道の根拠としている証拠が、反対尋問の批判に耐えて高い証明力を保持し続けることができるだけの確かさを持っているかどうかの検討が十分でないまま、総じて嫌疑をかける側に回る傾向を避け難い。・・・ところで、証拠調べの結果が右のとおり微妙であっても、報道に接した者が最初に抱いた印象は簡単に消えるものではない。それどころか、最初に抱いた印象を基準にして判断し、逆に公判廷で明らかにされた方が間違っているのではないかとの不信感を持つ者がいないとも限らない。そうした誤解や不信を避けるためには、まず公判廷での批判に耐えた確かな証拠によってはっきりした事実と、報道はされたが遂に証拠の裏付けがなく、いわば憶測でしかなかった事実とを区別して判示し、その結果、証拠に基づいた事実関係の見直しを可能にすることの重要性が痛感される。」(東京高等裁判所平成100701日判決・高等裁判所刑事判例集 512129頁 下線は原告)がそれである。

この判決文に鑑みれば、逮捕後の報道や起訴後の報道等によって犯人視されていた原告の無罪判決とその理由を報道したとしても、原告に対する犯人視報道を基準にして判断し、無罪判決に対して不信感を持つ一般視聴者の存在は否定できない。さらに、無罪判決理由に続いて、原告が「当初罪を認め遺族に謝罪」していたが裁判では「一転して過失を否定」したという自白に相当する事実のを摘示し、「危険を回避する義務を放置し怠った」とか原告を「未熟な医師」と評し、「元医師」というナレーション、テロップを放送すれば、一般視聴者に対して、「専門性を有するべき医師が未熟であっために手術中のミスによって本件患者を死亡させ、それに関連して現在は医師ではない」という印象を生じさせることは明らかである。

(ウ)  無罪判決理由に対する関心

「(2)被告の報道姿勢について」では、この「人工心肺の構造に問題があった」という理由が判決で述べられていると報じた「被告の関心は、『では誰に責任はあるのか』とか「『このような事態は防げなかったのか』という問題にあ」ると被告は主張する。

しかし、判決が受け入れている「人工心肺に構造上の問題」と「予見可能性が否定される」ことも受け入れているのであれば、そのような構造上の問題をかかえた人工心肺の操作者は、誰であろうと結果発生を防げないのだから、「未熟な医師」かどうかはまったく関係がないはずである。したがって、批判的立場に立たなければ、「人工心肺の構造の問題」に関連して「被告の関心は、『では誰に責任はあるのか』とか「『このような事態は防げなかったのか』という問題にあった」といえるはずがない。以上より被告の説明には矛盾または虚偽があると言わざるを得ない。

構造上の問題を前提にするならば、女子医大の管理体制や予防体制も、そのような構造上の問題ある人工心肺が作られたり、使われたりしないようにすることに焦点が当てられるべきである。この点において被告の説明と実際の放送には齟齬がある

また、被告が主張するように「どのような判決が下るかわからない状況下(乙第4号証)」の無罪判決後に、「人工心肺の構造に問題があった」という判決理由を知った「法律の専門家(被告準備書面(第1)10頁)」が、突如として判決理由とは全く関係のない「東京女子医大病院の管理体制」や「『未熟な医師』を問題視する発言」をするとは通常考えられない。したがって、「西田弁護士にコメントを求めた時刻については、本件刑事裁判の判決日の判決言渡後であることにおそらく間違えない」(乙第4号証1頁)の神谷祐輝ディレクターの発言内容は極めて疑わしい。

(エ)  無罪判決に対する批判的立場と一般視聴者の受ける印象

 したがって、西田弁護士の「いろんなあの危険を回避する義務というのはやっぱりあると思うのですね。」「それを放置してまああのそういうことを怠ってですね。未熟な医師にあの二重三重にそういうことが起こらないようにあの予防体制を取りながら本当はやるべきだったでしょう」というコメントは、①「無罪判決の理由を知らずに、原告に対して批判的に述べた」または、②「裁判所の認定事実を無視して、無罪判決に批判的立場で述べた」のいずれかと推測される。いづずれにしても、「音声及び映像により次々と提供される情報を瞬時に理解することを余儀なくされる」一般の視聴者は、原告が「危険を回避する義務を放置し怠った未熟な医師」であるという印象を受ける。(2006年6月7日 原告準備書面4頁 第1の1(イ)未熟な医師 ③参照) 

2. 真実性の不存在

(ア)  乙第3号証の新聞記事の「真実でない事実」

 被告は、テロップ(甲1-2-⑬~⑮)と伴に「佐藤被告は当初罪を認めて遺族に謝罪し,示談が成立しかし法廷では,一転して過失を否定してきました。(甲1-1)とナレーションした放送内容に対する真実性の立証として、乙第3号証・平成14629日毎日新聞の記事を証拠としているが、この記事には「真実でない事実」が書かれている。このため、原告は毎日新聞社に対しても民事訴訟を提訴し弁論審理中である。以下に本件に関連した記事の中で真実ではない内容の部分を列挙し説明する。

①「平柳さんの家族によると、その際、両容疑者はいずれも『医者をやめたい』と話していたという。」という記事のうち、平柳さんの家族が何を言ったかは知らないが、「両容疑者はいずれも『医者をやめたい』と話していた」という部分は真実ではない。原告はその時に「医者をやめたい」とは絶対に話していないし、現在まで生涯に一回も「医者をやめたい」と話したことはない。

②「その後、本堂に6人が正座して並び、順に謝罪した。」という記事のうち「順に謝罪した。」というのは真実ではない。「順に言葉を述べた」ことは真実である。原告は、この時に、原告も死亡した患者さんと同様に心房中隔欠損症の根治手術を受けたことと今後の抱負を述べただけで、謝罪はしていない。後にこのこと関連した事柄を述べる。

③「佐藤容疑者も『もう医師は続けられない』とつぶやいたという。」という記事は真実ではない。原告はその時に「もう医師は続けられない」とは絶対につぶやいていないし、現在まで生涯一回も「もう医師は続けられない」とつぶやいたことはない。

④「この際、事務職員が謝罪は終わったとして、『あとのことは弁護士同士の話しにしましょう』と示談を持ちかけてきたという。」という記事については、真実かどうかは不明であるが、家族が「お金が早急に欲しいのに弁護士をつれてこないとは何事か。」旨、女子医大管理二課次長を激怒し叱責したと、同次長が発言している。 

(イ)  傍聴の家族から「謝罪していない原告」に対する接近

2002年1月31日の刑事公判の傍聴をされた、平柳利明氏は、「瀬尾さんからは謝罪をしてもらったが、佐藤さんからは謝罪してもらっていない。刑事判決が出たときに医道審議会に対して瀬尾さんには、嘆願書を出して医業の停止期間を短くしてもらうつもりである。佐藤さんは謝罪してもらっていないので、嘆願書は出せない。だから、罪を認めて謝罪して欲しい。そして、いっしょに今井(今井教授)と闘いたい。」旨述べ、原告から電話連絡をして欲しいと電話番号が記載されたメモを残した。以上の事実からも、原告が謝罪していないことは明らかである。

(ウ)  2002628日の逮捕と2001128日の罪

 被告の準備書面(第2)5頁によれば、被告が報道した「当初罪を認めて謝罪した」のは、2001128日と受け取れる。そもそも原告は、その時点では何の罪にも問われていない。「罪を認めて」いるからには「罪に問われている」はずであるが、警察捜査すら開始されていなかった200112月に原告が罪に問われることはあり得ない。原告が被疑者になったのは、逮捕され2002628日である。したがって、2001128日に罪を認めることは絶対にあり得ない。

 なお、20021月に原告らが告訴された旨、新聞紙上等で報道された。このため、原告は逮捕前に弁護人選任届けを担当の司法警察に提出しようとしたが、「信じる信じないは原告の勝手だが、『告訴状』は受理していない。『被害届』が出ているだけなので、原告は「被疑者」ではなく「参考人」である。」旨、警察から説明を受け、選任届けは受理されなかった。

3. 相当性の不存在

(ア)  「独自の取材」と「新聞記事の伝聞」

 被告から、原告に対する取材申し込みは、現在に至るまで一回もない。準備書面(第2)では、原告の刑事事件の代理人に対する取材についても言及がない。報道内容に関する名誉毀損の裁判において、原告に対する被告独自の取材がなく、新聞記事というあくまで伝聞にすぎない情報源に安易に依拠しただけであって、独自の取材もしていないような場合に誤信相当性が認められるとは思われないが、被告が相当性の抗弁を行っているのでこれに反論する。

(イ)  病院側の謝罪の事実の明言

 被告は、「前述のとおり、病院側も謝罪の事実を明言している。」旨(被告準備書面(第2)63行目ないし4行目)述べている。この前述とは、同書面5頁10行目ないし13行目で「原告及び関係者らを引率した林院長は、同年1229日、記者会見の場において、「本年12月に担当医らを同行の上、院長、心臓血圧研究所長、黒澤がご遺族に対し謝罪を申し上げました。」とある点を指していると思われるが、この「林院長の述べた」内容については、証拠がない。さらに、この記載によれば、「謝罪を申し上げました」の主語は、「院長、心臓血圧研究所長、黒澤」の3人である。したがって、「(原告が)謝罪し(た)」、ましてや当時罪を問われてもいなかった「(原告が)当初罪を認め遺族に謝罪し(た)」と誤まった事実を信じた相当性も存在しない。

(ウ)   民事訴訟を考え示談を急いだ家族‐「罪を認め(た)」と言った証拠はない

 また被告は、「まだ年端もいかない娘を失った遺族が、謝罪を受けていないにもかかわらず謝罪を受けたと虚偽の発言をすることはありえないので、遺族が謝罪の事実を明言したことは、極めて信頼性の高い情報である。」と述べる。

遺族は、刑事裁判の証人として法廷おいて、「最初は民事を考えていた」旨述べた。そして、実際に民事レベルの交渉を女子医大側と開始し、その後に刑事告訴を計画し、その結果、被害届けを提出した。そして、原告が全く関与しないところで、2002215日に東京女子医大との間に示談書を交わし、合計71463052円を手にした。(なお、報道関係者に公表された示談書には金額は伏せられていた。)したがって、遺族が示談交渉を有利に進めたり、示談成立の正当性を主張したりするために「虚偽の発言」をすることは十分に考えられる。

さらに、謝罪したとされる者が1名の場合でなく、複数の関係者がいる場合には、遺族としては、そのうちの一部を意図していたが、伝聞の過程で正確性が失われた可能性なども十分に考えられる。

仮に、被告が2002629日に毎日新聞の記事を読んで、「謝罪した」という伝聞を盲目的に真実だと考えたとしても、「当初罪を認め(た)」ことは遺族が話した証拠もないので(原告はこの時点で罪を問われていないので当然だが)、誤信相当性もない。

また、被告が本件放送でも「法廷では」「(原告が)過失を否定」と報道しているように、20051130日までには、原告が起訴事実を否認していることを被告は認識していたのであるから、その3年以上の期間に、被告が、原告本人や刑事弁護人に取材する時間は充分あったのである。しかし、被告は、一切そのような取材努力を怠ったのである。したがって、誤まった事実を信じた相当性はない。

4. 『未熟な医師』

(ア)  危険回避義務を怠ったのは原告

 被告は、準備書面(第26頁で、「『危険回避義務』を怠ったのは『原告』ではなく『主体は東京女子医大である』」旨述べるが、刑事事件の被告は、飽くまで「個人」である。刑事事件判決について、法律の専門家が「危険回避義務」に関して述べるコメント内で、一言も出てこず、しかも「個人」ででない「学校法人東京女子醫科大学(東京女子医大)が主体であるはずがない。一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方からすれば、「危険回避義務を怠ったのは原告」という印象を受けるのは明らかである。(200667日原告準備書面 3頁ないし4頁 第11の(イ)未熟な医師 ③および④参照)

(イ)  西田弁護士のコメントの趣旨

 被告は、準備書面(第271行目ないし3行目では、西田弁護士のコメントにでてくる「未熟な医師」が原告を指していないという口実として、「仮に未熟な医師がいたとしても・・・」と破れかぶれのこじつけ論を持ち出した。この放送を視聴するにあたり、原告の無罪判決言と判決理由を聞いた法律の専門家が、原告のことについて全く言及せずに、一般論や仮定の話をしているという印象を受けるはずがない。

(ウ)  「未熟な医師」一言で名誉毀損は成立

 西田弁護士は、原告を未熟な医師と評価し、被告はそれを放送した。そのこと自体が名誉を毀損する。

 被告はさらに同頁8行目ないし13行目で「『未熟な医師』の一言で、無罪判決言渡し事実や判決理由の情報等が忘れさられ、『原告のミスによって本件患者を死亡させた』という印象が与えられることはない。」旨を述べるが、前述の東京高等裁判所平成100701日判決に鑑みれば、「公判廷で明らかにされた方が間違っているのではないかとの不信感を持つ者」が「原告は未熟な医師であった」という情報一つだけでもその不信感は増大する。また、その様な不信感を持っていなかった者も「未熟な医師」の情報により、不信感を持ち、さらに「原告は当初罪を認め遺族に謝罪し示談が成立した」「危険回避義務を怠ったのは原告」という情報を次々と放送されれば、『原告のミスによって本件患者を死亡させた』という印象が与えられることになる。

5. 『元医師』

(ア)  「元東京女子医大医師」と「元医師」

 被告は、あたかも、一般視聴者はさておき、「被告は,『事故当時は東京女子医大病院の医師であったが,現在は東京女子医大病院の医師ではない』という趣旨で使用している。」とか、「本件報道は,東京女子医大を舞台とした医療事件の続報であり,話題の中心は東京女子医大であるから、『元医師』といえば東京女子医大に元いた医師を指す。被告にそれ以上の意図はない。」(下線部は原告)等と『被告の事情』ばかりを主張している。日本語を理解する一般視聴者は、「元医師」といえば「以前は医師であったが現在は医師ではない人」と理解する。「事故当時は東京女子医大病院の医師であったが,現在は東京女子医大病院の医師ではない」という趣旨を伝えるのであれば、「元東京女子医大医師」「東京女子医大元助手」等と表示したりナレーションしたりするはずである。(200667日原告準備書面 5頁ないし6頁 第11の(ウ)元医師 ②および③、原告準備書面(2)4頁 第1の3.元医師 参照)

(イ)  国家資格と職業

 被告は準備書面(第2)でもこじつけ的な言い訳や持論を縷々展開しているが反論のレベルに達していない。

「医師」は職業名であり国家資格でもある。

通常、多くの視聴者「原告が元医師」であると理解した視聴者は、原告が「国家資格である医師としての資格を失った」すなわち「医師を辞めさせられ」という印象を持つ。医師が刑事事件等を理由に医道審議会等で、医師免許を停止されたり剥奪されたりすることがあることは、一般視聴者にも知られている。医師としての国家資格を失うということは、それと同等以上の理由がない限りあり得ない。原告が医師を辞めさせられるような理由が、他に報道されていない限り、一般視聴者は本件に関連して医師の国家資格を失ったという印象を持つ。

仮に、一般視聴者が、「元医師」を「国家資格は失っていないが、医師を職業としていない」という印象をもったとする。通常、社会的地位が確立し収入も悪くない医師として就業していた人物が42歳以前に「職業としての医師」を辞めるにはよほどの理由があるはずであると考える。被告は、「当初は罪を認め」等と報道しているのであるから、「本件手術後から判決までの間に本件手術に関連した何らかの誘因におより『自ら医師を辞めた』という印象を持つ」と考えることは自然である。

「元医師」の表示およびナレーションが名誉を既存毀損することは、200667日原告準備書面 6頁 第11の(エ)現在は医師でない理由 ①②③で既に十分に述べ、原告準備書面(2)4頁第13.元医師でも補足した。 

第2 肖像権侵害 

1. 総論-憲法21条と人格的利益の侵害

(ア)  憲法13条との関連

被告は、「原告が逮捕され,東京拘置所にて身柄を拘束されていたのはまぎれもない事実である。また原告が保釈により東京拘置所を出所したこともまた、まぎれもない事実である。原告が身柄を拘束されていたこと,原告が保釈されて拘置所を出所したことと、原告に無罪判決が下ったことは完全に両立する。身体を拘束されていた原告につき無罪判決が下ったと報道することは何ら矛盾していない。(準備書面(第213頁)」と関連のある事実であれば、何時どんな内容のものでも公表できるかのように主張し、さらに「そもそも、取材の結果適法に取得した映像のうち、どの映像を用いて報道を行うかということは、憲法21条のもと,報道機関の自由である。」と憲法21条を楯に開き直った主張を行っているが、「憲法一三条は、『すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。』と規定しているのであつて、「人は,みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する(最高裁昭和40年(あ)第1187号同441224日大法廷判決・刑集23121625頁参照)」のであるから、本件のように、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影し公表することは、憲法13条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。

(イ)  真実性は抗弁にならない

 そもそも、被告は「東京拘置所を出所したことは事実」旨等の主張を行っているが、プライバシー侵害や肖像権侵害では、真実性は抗弁の一要素にはならないので、被告のこの主張は無意味である。

2. 本件放送の不法行為

被告は「みだりに」原告を撮影し、「みだりに」放映(公表)した。以下、被告も準備書面(第2)9頁で引用している最高裁平成15()281号同171110日第一小法廷判決・民集 第5992428頁および同準備書面9頁下級審判決の引用をに鑑み、撮影の正当性の欠如、および公表(放映)の正当性、公共性、公益性、必要性、相当性の欠如について、以下の(ア)ないし(カ)で項目別で主張する。

(ア)  被撮影者の社会的地位

撮影時の原告は刑事事件の被告人であったことは否定しない。ただし、放映時の原告は、無罪判決を受けた医師であり、公訴提起前でないことはもちろんのことであるし(刑法230条の22項参照)、当日も診療をおこなった現役の医師であることが考慮されるべきである。また、手術の行われた東京女子医大は、社会的にも影響力のある有名かつ巨大な組織であるが、原告自身は、その組織における一介の勤務医に過ぎず、社会的な公人でも有名人でもない。

(イ)  被撮影者の活動内容

①時間と場所:強烈なライトを当てないと撮影できない時間帯で面会時間終了後の時刻の拘置所敷地内である。この1847分頃には拘置所を訪れた者誰もが自由に出入りできるような場所ではない。拘置所職員または出廷や保釈等特別な理由をもった被勾留者のみが歩ける場所である。

②活動の背景と行動:打ちっぱなしのコンクリートを背景に明らかに原告を勾留する制服をきた検察庁職員とともに、歩行している。特定管理権者の管理下、すなわち裁判所であっても拘置所内であっても、打ちっぱなしのコンクリートを背景に制服をきた検察庁職員とともに、歩行する行為は、一般的な公共の場所に市民が身を置いている容貌・様態や一般人が通常とっている行動とは全くことなり、心理的負担が生じることは明らかである。本件放送は、一般人が通常とらない行動や一般人の感受性を基準として撮影・放映を好まない背景での行動の撮影・放映であり、「みだりに」該当する。 

(ウ)  撮影・放映の目的

 被告準備書面(第2)1014行目によれば、撮影の目的は「保釈の事実」である。しかしながら、「医療事故に関連した事件の被告人の保釈の事実」が、「社会の正当な関心事」であるとは思われない。ことに、当該刑事事件における無罪判決報道時にはなおさらである。したがって、撮影の公共性、公益性、必要性等があるとは思われない。

また被告準備書面(第21211行目、被告に放映の目的は、「無罪判決が下された(刑事)被告(人として)の容ぼうを特定するだけ」であると主張する。

 しかし、本件ニュース2の午前5時38分(甲第2号証の2の①)や本件ニュース3の午前7時8分(甲第3号証の2の②)や本件ニュース4の午前854分(甲第4号証の2の①)では、「拘置所敷地内を歩行する38歳の原告」を放映し、その直後には、「記者会見でコメントする42歳の原告」を放映しているのである。「容ぼうを特定するだけ」の目的であれば、後者のみ放送すれば足りるのである。被告以外の放送局で、無罪判決の報道にあたって保釈時の映像を流した放送局は一切ないし、そもそも、保釈時においてすら、そのことを報じた放送局や新聞社は、原告の知る限り一切ない。したがって、「容ぼうを特定するだけ」という被告の主張は、ニュース1の抗弁として後から考えたものであることがわかる。

「そもそも、取材の結果適法に取得した映像のうち、どの映像を用いて報道を行うかということは、憲法21条のもと、報道機関の自由である。」と開き直った主張をしているが、上記憲法13条を考慮していない自己中心的な主張である上、肖像権侵害では、真実性は抗弁の一要素にはならない。

200667日原告準備書面 9頁第12の(エ)38歳時の映像 原告準備書面(2)7頁第22.放映の段階 でも既に述べたように、本件映像は、「38歳時の拘置所敷地内を歩行する原告」である。放映時は、「42歳時の無罪判決言渡し後の記者会見でコメントする原告」の映像を被告は入手しているのであるから、「無罪判決が下された(刑事)被告(人として)の容ぼうを特定するだけ」の目的であれば、この映像を放映するのが相当であり敢えて「38歳時の拘置所敷地内を歩行する原告」の映像を使用する相当性はない。

(エ)  撮影・放映態様 

       被告は、他社撮影者とともに、所謂メディアスクラムを組んで、原告が拘置所内施設の扉を開けた瞬間に撮影者の様子も分からないほど、強烈なライトを当て、精神的肉体的圧迫感を与えた。このため、原告が一旦姿をくらました拘置所から出るのをやめた上、原告の妻が、そのメディアスクラムの一員である撮影者(所属社名は不明)に対して、撮影に異議を申し立て、撮影の中止とその理由の訴えがあったのにもかかわらず撮影を中止しなかった。再び姿を現した原告に承諾を受けることなく、打ちっ放しのコンクリートの壁を背景に拘置所敷地を勾留関係者と認識できる制服を着た人物とともに撮影した。

 なお、被告は「被告の調査によれば、そもそも被告の報道スタッフが、原告の妻から異議を申し立てられたり、原告の妻と会話したりした事実はない。」と主張しているが、そもそも原告は妻が異議を申し立てたり会話したのは被告スタッフであるという主張はしていない。ただし、当時の状況から、誰に対して異議を申し立てたとしても、その場にいた者としては、異議が申し立てられことを了解できたはずである。

 撮影の態様からも、被告の撮影はり正当性もないのであり、その放映も正当性がない。

(オ)  撮影・放映の必要性

 本件刑事事件は医療事故に関するものであり、国民の関心事は事故そのものであり、原告が保釈されたという事実を撮影する必要性はない。

 さらに、被告が主張するように、無罪判決放映時に、無罪判決直後の42歳の原告の映像を取得していた被告が、「無罪判決が下された(刑事)被告(人)の容ぼうを特定する」のにあたり、38歳の原告が保釈された映像を放映する必要性は全くない。

3. 承諾の不存在

(ア)  妻の撮影に対する抗議

    原告準備書面(2)6頁 第2の1の(ウ)撮影現場の状況-妻の撮影に対する抗議で述べたように、原告は報道関係者との接触や取材に関しては妻が対応することとしていた。妻は、多数いた撮影者のひとりひとりにわざわざ異議を申し立てた訳ではないが、被告の撮影スタッフのその一員であるメディアスクラムの任意の1人に対して、異議を申し立てたのである。神谷ディレクターのようにたかだか数か月前の重要な放映を記憶していないと主張する被告のスタッフが、3年以上も前の原告の妻の短い会話の有無を記憶しているはずがない。

(イ)  被撮影者の人格的利益と損害増大の防止

    被告は原告自身が黙示の承諾を与えていたと考えられる旨、主張しているが、その論理は、被撮影者の人権を無視した主張である。原告は、被告の撮影により不法行為が行われることを回避することが不可能であると認識し、その不法行為による損害が増大するのを防止するために、「あえて厳しい表情で要望したり」,「大きな声で抗議したり」「手で顔を覆ったり」「顔を背けたり」「うつむき加減で歩いたり」しなかったのである。

 妻が異議を唱え、一回撮影者の前に現れた原告が一旦姿を消したことにより、原告が撮影されたくない行為を示したに対し、被告は無視して「みだりに」撮影行為を行ったのであるから、原告の人格的利益である肖像権を侵害したのである。

(ウ)  NHK所属カメラマン

 原告の叔父、すなわち原告の母の義理の弟は、NHKのカメラマンであったが定年退職した。1970年に日本人がエベレストに初登頂した時のNHKの撮影隊に所属する他、東京拘置所から出所する人物を撮影するスタッフでもあった。

 被告は、あたかも「手で顔を覆ったり、顔を背けたり、うつむき加減で歩くなどして、撮影されたくないという自らの意思を表示する行為を行えば、撮影は行わない」かのような主張を行っているが、叔父の話では、「出所時は、各社が無条件で撮影は行った」とのことである。

(エ)被撮影者個人とメディアスクラム

 被告準備書面(2)第2 6頁 第21の「(エ)被撮影者の心理―皇太子妃候補の抗議映像等」 で述べたように、皇太子妃であろうが、被告人であろうが、法曹関係者であろうが、公人であろうが、私人であろうが、メディアスクラムを組んだ放送局は、被撮影者が撮影に対する拒否行動を起こしても、撮影に中止や異議を申しでても、撮影を行ってきた。この現状をに鑑みれば、報道カメラマンの撮影対象になった被撮影者が撮影を免れることが不可能である。従って、撮影の同意に対する争いが生じた場合は、その同意については厳格に判断されるべきであり、その撮影されたものの公表の目的、公表の態様、公表の時期に関してはなおさら厳格に判断されるべきである。

 以上により、本件映像の「撮影」は不当であり、無罪判決時の「放映」としては、なおさら不当であるから、当該映像の放映は不法行為を構成する。

第3 証拠の提出と人証の必要性

1. 原告が「罪を認めたこと」

 被告は、原告が「謝罪したこと」に限れば、伝聞ではあるが形式的に毎日新聞の記事を証拠として提出し、真実性、誤信相当性について抗弁している。

 これに対して、「罪を認めたこと」に関しては、何の証拠も提出していない。原告が「罪を認めたこと」に関して、被告は、「原告がいつ、どこで、どのような状況で、何の罪を、誰に対して、どのような文言で認めた」のか証拠を提出するべきである。

2. 原告が①謝罪したこと②「医師をやめたい」と話したこと③「もう医師は続けられない」とつぶやいたこと。

 被告は、この①②③について、真実性や誤信相当性を抗弁しているが、その証拠は新聞記事であり伝聞である。

 この①②③についても「原告が、いつ、どこで、どのような状況で、誰に対して、どのような文言で」①謝罪し②話し③つぶやいたのか証拠の提出をすべきである。

3. 神谷祐輝ディレクターの左手で書いたメモの証拠提出と人証

 ニュース1の映像では、神谷ディレクターは右手に受話器を持ちながら、左手でメモを取っている。乙第4号証「事情聴取報告書」では、取材経過についてはほとんど記憶していない旨記載されているが、「コメントをしてくれる弁護士がなかなか見つからず、弁護士のコメントを取得するのに相当手間取り、本件ニュース1の編集作業にぎりぎり問に合ったという記憶がある」という。本件放送(2005年11月30日)から提訴(2006年3月22日)までは4ヶ月弱であり、提訴から真摯な態度で本件放送を直ぐに振り返りを行えば、「コメント取得に相当手間取った」記憶があるのであれば、「相当手間取りやっと取得したコメント」自体の録画を見れば、取材経過の記憶が喚起されるはずである。

 本件において、争点となっている放送部分に含まれるのであるから、このメモの提出および神谷祐輝ディレクター本人の人証を求める。

4. 西田弁護士の人証

 西田弁護士のコメントが争点になっているのであるから、これを明らかにするために人証を求める。

5. 原告を撮影した現場にいた被告スタッフの人証

 撮影状況や妻の発言の有無については、撮影を直接おこなったスタッフの人証を求める。

以上

原告 準 備 書 面(4

200736日 

東京地方裁判所民事第6部合議B係御中

原 告 佐藤一樹

準備書面(第3)に記載された被告の主張に対する原告の反論は以下のとおりである。

第1 名誉毀損について

6. 本件放送が原告の社会的地位を低下させたこと

(ア)被告の主張について

被告は準備書面(第3)においても、本件放送が原告の社会的地位を低下させたことに対する、こじつけによる言い訳、釈明のための事後的解釈を縷々述べるが、その主張は、被告準備書面(第1)、被告準備書面(第2)の主張の繰り返しであり、原告の主張したことに対する有効な反論は見あたらない。

(イ)   本件放送が一般視聴者に与える印象

本件放送は、原告が「当初罪を認め遺族に謝罪」していたが裁判では「一転して過失を否定」したという誤った内容を報じるとともに、被告を「未熟な医師」と評し、「元医師」という誤ったナレーションと伴にテロップを付すなどするものであり、その内容において、一般視聴者に対して、専門性を有するべき医師が未熟であっために手術中のミスによって本件患者を死亡させたという印象を生じさせ、その責任をとって原告が医師でなくなった印象を生じさせることは200667日付け原告準備書面、準備書面(2)、準備書面(3)で陳述した通り明らかである

(ウ)無罪判決報道に対する被告の基本姿勢

被告は、原告の引用した「東京高等裁判所 平成100701日判決・高等裁判所刑事判例集 512129頁」に対しては、準備書面(第3)2頁ないし3頁において、「『不信感を持つ者がいないともかぎらない』と述べているにすぎず、不信感を持つ者が一般的であるなどとは全く言っていない。」と本質的な内容についての、言及や議論を放棄し、修辞的な文言に対する言いがかりに終始している。このような被告の主張自体が、無罪判決報道における被告の真摯な報道姿勢の欠如を露呈しており、きわめて遺憾である。そもそも原告は、「一般的である」等とは陳述していない。

(エ)人証申請

西田弁護士に対する神谷ディレクターの取材経過とその内容については、未だ被告が明確な陳述を行っていない。従って、両者の人証申請を行う。

7. 真実性について

(ア)「罪」の解釈

 被告準備書面(第3)4頁では、「『罪を認めて謝罪』という言葉における『罪』という言葉は、自らに非があること、自らに責任があることを指す。」と嘯いているが、本件放送は、業務上過失致死罪に問われた原告の無罪判決についての放送であり、「罪」といえば、「業務上過失致死罪」を指す。ましてや、原告が被疑者になった時期や、いつ誰と誰の間に示談が成立したかの説明も放送せずに「佐藤被告は当初罪を認めて遺族に謝罪し、示談が成立」と放送すれば、その罪は、「一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方」からすれば、業務上過失致死罪としか理解されようがなく、示談の主体も原告であるという印象を受ける。

 さらに、原告は、実際にいかなる「罪」についても謝罪もしていないのであるから真実性は全くない。

(イ)   原告が謝罪したという証拠はない

 原告が「遺族に謝罪していない」ことは、原告準備書面(3)の4頁ないし6頁で述べた。ここで、乙第3号証には真実性がないことを陳述し、さらに、6頁ないし8頁でその相当性もないことを述べた。これに対し、被告は準備書面(第3)5頁において、性懲りもなく繰り返し乙第3号証を真実性の根拠としているが、伝聞にすぎない新聞記事である乙第3号証には真実性を立証する能力は全くない。

 被告は今回「20011229日の林直諒病院長会見」(乙第6号証)を提出しているが、ここでは、「本年12月に担当医らを同行のうえ、院長、心臓血圧研究所長、黒澤がご遺族にたいして謝罪を申し上げました。・・・」との記載があるが、「謝罪を申し上げた。」の主語は、「院長、心臓血圧研究所長、黒澤」であって、原告は含まれない。

 乙第7号証の陳述書を書いた株式会社バンエイトの梅澤通浩氏は、上記林院長会見が行われた翌日の同年1230日に平柳利明氏を取材している。従って、前日の記者会見の内容を知っており、原告が謝罪したかどうかを取材により明らかにできたはずである。しかしながら、原告が謝罪したかどうかの取材については言及がない。このように、「原告が謝罪した」という証拠はどこにもないのに、(平柳氏が)「院長らが謝罪したにもかかわらず原告は謝罪しなかった旨の発言は一切していない。」ことを理由に真実性を主張しているが、平柳氏が「原告が謝罪した」旨の発言をした証拠も一切ないのである。

 また、乙第7号証 2頁には、「院長らが謝罪した・・・」と書かれているのに、「被告原告スタッフに対して、・・・原告らからの謝罪を受けたと述べているのである。(被告準備書面(第3) 7頁9行目)」等と言い換える姑息な手段を用いて、原告が謝罪したかの真実性(や相当性)を主張しているのは極めて遺憾である。

 原告準備書面(3) 5頁下から3行目ないし6頁5行目で述べたように、平柳氏はむしろ、原告が謝罪していないことを理由に謝罪することを求めてきたのである。

(ウ)調査報告書の虚偽内容

 被告が、調査報告書の内容についての真実性について争うのか否かは不明であるが、調査報告書の内容に真実性がないことは、複数の資料から明らかである。このことは、被告の主張する相当性にも関わるので、本項で詳説する。

 特に、調査報告書の主旨でもあり、被告が、乙第5号証の立証趣旨に記載した「術野からの吸引の回転数を上げた場合静脈貯血槽や脱血回路内が陽圧になる可能性」等は全くない。調査報告書における、原告に本件医療事故の責任があるかの内容に真実性がないことは、本件刑事事件で証拠採用された、本件事故以前に発表された大阪大学、埼玉医科大学、静岡県立こども病院、大垣市民病院の学術論文のように、高度の専門的知識を要する文献を引用するまでもなく、以下の4証拠から明かである。

a.       3学会合同陰圧吸引補助脱血体外循環検討委員会報告書(甲7

(ア) 本件手術は人工心肺装置を用いた心臓外科手術であるが、関連分野における日本の学会である日本胸部外科学会(会員数8313名)、日本心臓血管外科学会(会員数3905名)及び日本人工臓器学会(会員数約3800名)(以下「3学会」という)は、本件手術にともなって発生した事故を契機として安全な陰圧吸引補助脱血体外循環法を検討する目的で、3学会合同陰圧吸引補助脱血体外循環検討委員会を合同で立ち上げた。同委員会の委員長(日本心臓血管外科学会現理事長 東京大学教授 高本眞一)、委員(日本人工臓器学会理事長(当時) 埼玉医科大学教授 許俊鋭、慶応義塾大学教授 四津良平、東京医科歯科大学教授 坂本 徹)及び協力員(日本体外循環技術研究会理事長 埼玉医科大学 見目恭一、慶応義塾大学 又吉 徹)の構成を見ればわかるとおり、この報告書は、人工心肺に関する現在の日本の最高権威によって、作成されたものである。

 同委員会は、9回の委員会(うち2回はシミュレーション実験)を開催した後、2003年5月に、「3学会合同陰圧吸引補助脱血体外循環検討委員会報告書」(以下「3学会報告書」という)を出した。

(イ) 3学会報告書では、吸引ポンプの回転数に関する調査報告書の記載に触れた後、「吸引ポンプの回転数が本当に静脈貯血槽の内圧に変化を起こす可能性があるのかどうか検討する必要が出てくる」という問題提起を行い(甲7、12頁)、模擬回路を用いた実験を経たうえで、吸引ポンプの回転数は静脈貯血槽の内圧に変化を起こさない(吸引ポンプの回転数を上昇させての装置に異常は生じない)という結論を出している。すなわち、3学会報告書は、「陰圧吸引補助脱血法では、サクション・ベントポンプを100回転以上で使用していても静脈貯血槽は陽圧にはならない」(甲7、18頁)、「本委員会の検討により、東京女子医大で起こった事故は本来陰圧であるはずの静脈貯血槽が急激に陽圧になったためであり、その原因は吸引回路の回転数が非常に高かったためではなく、陰圧吸引補助ラインに使用したフィルターが目詰まりを起こし閉塞した可能性がある」(甲7、25頁、末尾訂正は東京女子医大黒澤教授からの圧力によるものである)という結論を出している。

(ウ) 3学会報告書又はその抜粋は、学会誌「人工臓器」、「Clinical Engineering」といった専門誌で発表されただけでなく、3学会の学術集会でそれぞれ配布され、また、日本心臓血管外科学会専門医認定施設約500施設に配布された。特に、平成15年5月15日の第33回日本心臓血管外科学会学術総会では、学会出席者全員が一同に会することが出来る時間帯と会場において、「3学会報告書」が配布され、NHKの全国放送ニュースでもその様子が放映された。さらに、同報告書中に含まれる勧告(甲7、25頁)は、上記3学会の各専門誌及びホームページに収録されるとともに、厚生労働省の科学研究である平成14年度厚生科学研究医療における危険領域のリスク分析とフェイルセーフシステムに関する研究分担研究『人工心肺の安全マニュアル作成に関する研究報告書』(平成15年3月)にも収録された。いうまでもなく、ホームページは、本件放送当時も万人が閲覧することが可能であった。

b.       本件刑事事件判決 (甲 6

東京地裁刑事15部は、2005年11月30日、本件刑事事件について被告人を無罪とする判決(以下「本件刑事事件判決」という)を出した。

 本件刑事事件における公訴事実では、業務上過失致死罪を構成する注意義務違反の前提として、①吸引ポンプの回転数を高回転に上げると陰圧吸引力が減少して脱血不良を招く危険がある、②陰圧吸引脱血法を長時間継続すると、回路内に発生した飽和水蒸気や水滴によりガスフィルターが閉塞して静脈貯血槽内を陽圧化させて脱血不能になる危険がある、という2つの事実が主張されていたが、東京地裁刑事15部は、「本件ガスフィルターの閉塞という状況がなかったとしても、被告人が吸引ポンプの回転数を高回転に上げたままにしたことにより、流入総体積と流出総体積のバランスが崩れ、これが原因となって脱血不能の状態に立ち至ったという事実を認定することは困難である。他方、本件ガスフィルターが閉塞した場合には、壁吸引による人工心肺回路内からの空気の流出(吸引)が皆無になるのであるから、吸引ポンプからの吸引が継続される限り、回路内の陰圧が次第に減少していき、最終的には陽圧の状態に立ち至るということは明らかであり、したがって、本件事故の際に、人工心肺回路における脱血不能の状態を惹起した直接的かつ決定的な原因は、水滴等の吸着による本件ガスフィルターの閉塞であったと考えるのが合理的である。」と判示している(甲6、35,36頁)。

 本件刑事事件判決は、3学会報告書と同様の判断をしたものであり、吸引ポンプの回転数を上げても問題は生じないことを認定している。

c.       東京女子医大の回答書(甲10

 3学会の上記検討委員会が、東京女子医大に対して資料提供の依頼をしたところ、東京女子医大自身(東京女子医科大学付属日本心臓血圧研究所心臓血管外科 黒澤博身(代 新岡俊治))が作成した回答書には、「実地検分の結果 内部調査委員会の施行した検分は不十分で、しかも具体的なデータが残っていません」という記載があった。このように、東京女子医大自身が、内部調査委員会が実施した実験が不十分で具体的データも残っていないことを認めている。

d.       「バキュームアシスト(陰圧吸引脱血)」と題するパンフレット(甲 9

 バクスター社は、1998年ないし1999年までに、「バキュームアシスト(陰圧吸引脱血)」と題したプレゼンテーションのパンフレットを作成し、同脱血法を採用した施設の医師や臨床工学士等に対してプレゼンテーションを行っていた。

 このプレゼンテーションの57ページには、「リザーバに流入するベントやサクションの流量のバキュームに対する影響は?」すなわち、「静脈貯血槽に流入する吸引ポンプの流量(回転数)に対する影響は?」という問いに対し「バキュームコントローラは-20mmHgの設定で毎分15~20Lの流入するエアーに対応する能力があるため、サクションやベントの流量は全く問題にならない」と答えている。

 本件手術で、使用された、吸引ポンプの一回転あたりの流量は毎分13mlである。また、このプレゼンテーションにおけるバキュームコントローラと本件手術で使用されたレギュレータ(オメダ社製)は、「基本的に同じ」であると本件刑事事件第42回公判に出頭したオメダ社の技術責任者は述べている。

 このことを鑑みれば、本件吸引ポンプの回転数が100回転だと流量は毎分13mlx100=1300ml=1.3Lであるので、全く問題にならない。なお、本件の吸引ポンプは最大250回転まで上昇させることが可能である。仮に、刑事判決(甲第6号証)52頁の図にある吸引、ベントを最大回転数の250回転で4台使用したとしても、毎分13mlx250x4=13000ml=13Lであるから、本件手術においては、吸引ポンプの回転数を幾らに上昇させても、問題は起こりえないのである。

小括 以上より、吸引ポンプの回転数を100回転以上に上げても人工心肺装置に問題は何ら生じないことは、3学会報告書、本件刑事事件判決、バクスター社のプレゼンテーションによって明らかである。また、調査報告書が実施した実験については、東京女子医大自身が不十分であったことを認めているのであって、これに反する調査報告書の真実性が認められないことは明らかである。

8. 相当性について

(ア)   原告が謝罪したことを信ずる相当性がないこと。-2001年の2日間の取材と2005年の2日間の放送-

 被告は、準備書面(第3)において、「被害者に対する原告らの墓参は、故平柳明香殿死亡原因調査委員会が調査報告書をとりまとめた後、行われたものである。つまり、事故の原因が実質的に原告らにあり、本件事故は医療過誤により引き起こされたものであるという認識が、病院関係者及び遺族に共有されている状況下での、墓参であり、面会であった。」と勝手な解釈をしているが、上記「2.真実性について」で述べた明かな証拠以前に、ほかならぬ原告自身が、内部報告書を最初に読んだときからその内容が誤っていることを認識していた。

 被告は本件放送でも「法廷では」「(原告が)過失を否定」と報道しているように、遅くとも、2002919日の公判開始以後、原告が過失を否認していることを認識していた。よって、「原告の吸引ポンプの回転数の上昇した操作に責任がある」という主旨の内部報告書のことを否認していることも認識していたのである。そしてその後も原告が、一貫して被疑事実を否定していることを認識していた。

 しかし、被告準備書面(第3)の4頁~8頁では、原告本人や刑事弁護人はおろか、他には何も取材をせずに、20011229日と同年1230日のたった2日の取材を「十分な資料・根拠(723行目)」として「原告が謝罪した」という相当性を主張している。すなわち、2002年以後の取材に裏付けられた事柄なしに20051130日、121日に報道を行ったのである。

 被告準備書面(第3)は、「原告が・・・組織の意向に逆らうような態度を示すことは考えられない。(7頁4~5行目)」、「原告は・・・遺族に対し自らの責任を認めて謝罪する形をとったと考えるのが極めて自然である。(75~7行目)「・・・自らの責任を認めて遺族にわびるものであると考えるのが自然である。(7頁1819行目)」と、2001年年末に2日間だけ取材した事柄を元に20051130日から2日間に「考えたこと」を繰り返し主張しているが、このことは、約4年間「直接の取材を行わずに本件を放送したこと」の告白に過ぎない。

(イ)   調査報告書は相当性の根拠たりえないこと 

 被告は、「調査報告書の内容そのものを信じたのにも相当性」があり、これが、「原告が謝罪したことの相当性」根拠にもなっているかのような主張もしているので、内部報告書にも誤信相当性がないことを論ずる。

(1)当事者が作成した調査報告書

この調査報告書は、東京女子医大が、公正中立の立場から、科学的ないし医学的視点に立って本件事故の原因を究明したものではなく、同大学が、紛争の一方当事者という立場で、自らの立場を弁解するために作成した書面に過ぎない。

すなわち、調査報告書は、本件患者の遺族から医療過誤であるとして責められていた東京女子医大が、加害者という立場に立ったことにより、本件患者の遺族との示談等を念頭におきつつ、大学としての責任を回避しながら、遺族の東京女子医大に対する怒りや不満を抑えるため、本件患者の死亡原因に全責任を負うのは組織の末端に位置する一人の医師(原告)に過ぎないものと遺族に印象づけるために作成したものである。

もともと、この報告書は、東京女子医大が当初から対外的に公表することを予定して作成した文書ではなく、東京女子医大が本件患者の遺族に交付したところ、遺族がマスコミに公表したために、その存在及び内容が世間に知られるようになったものにすぎない。すなわち、この調査報告書は、上記のとおり、遺族の了解を得るためだけに作成されたものであり、外部から科学的検証を受けることを目的としたものではなかった(その内容が科学的検証に耐えるものでなかったことは、以下に述べるとおりである)。

このように、調査報告書は、東京女子医大という組織が自己防衛の目的で作成した書面であって、紛争の一方当事者たる立場で作成したものに過ぎない。これは医事紛争などに際して、公正中立の立場にある医師が客観的・専門的な立場から作成する鑑定書などとは、およそ性質が異なるものであり、紛争の一方当事者の主張書面に近いものである。

(2) 外部専門家による調査の必要性

このように紛争の当事者、あるいは加害者の立場にあるものが、当該紛争の原因を解明すると称して、内部の者だけによる委員会を発足させ、その結果を公表したとしても、一般社会は、その委員会を公正中立なものとは理解しないし、その結論も権威あるものと考えないのが普通である。

 すなわち、紛争当事者の内部にいる人間が原因究明ないし改善策の提言を行っても、これについては「内部の者による」という一事をもって疑問視されるのが常識となっているのである。

(3) 社会保障審議会での調査報告書に対する疑問

このようなとらえ方は、ごく最近になって生じたものではなく、本件事故が起きた2001年頃の段階でも全く同様であった。

たとえば、本件手術に関連して東京女子医大からのヒアリングを行った厚生労働省の「第3回社会保障審議会『医療分科会』」(2002年2月28日)において、ある出席委員は、調査報告書に関連して、東京女子医大側との間で以下のようなやり取りを行っている。

「委員 いろいろ専門的な詳しいお話も伺いましたが、これからしばらく質疑応答の時間にしたいと思います。ご質問があればお願いいたします。

委員 質問というか教えていただきたいのですが、『より詳細な調査を学内第三者が行うことを決定した』とありますが、『学内第三者』というのはどういう意味ですか。私が聞きたいのは、心研にいなければ学内第三者だという解釈なのかどうかです。

(女子医大) そのつもりで書きました。

委員 それを第三者と言いますか。メンバーを見ると、私どもの知っている先生もだいぶいらっしゃいますので、女子医大の中の方だと思うのですね。こういうのを学内でやっても、国民はあまり信用しないということを私は言いたいのです。

例えば、日本医大でもややこしい事件があったときに、学内の先生は全部外して、学外の先生でやったのですが、そういうやり方は女子医大では話が出なかったのかどうかも伺いたいのですが。

(女子医大) これは訂正させていただきます。かなり緊急を要するという判断があり、6月20日で検討しました結果、とにかく虚偽隠ぺいなきように、極めて第三者的な立場でやれということは申しましたが、確かにご指摘のとおり、純粋な意味では第三者ではなかった、それは反省しております。」(甲8・5頁。下線原告)

このように、厚生労働省での検討においても、委員からは、「東京女子医大の委員の構成が中立でないのではないか」という疑問が真っ先に投げかけられたのである。それ以前までに世間を賑わした各種の会社不祥事において、当初の社内調査に基づく認定が不十分であり、問題点を正しく把握したものでなかったという例は枚挙に暇がない。上記の委員は、そのような事例を念頭に置きつつ、「こういうのを学内でやっても、国民はあまり信用しないということを私は言いたいのです」と発言したのである。これは極めて常識的な反応であり、調査報告書を中立的な文書と理解することができないことは、このやり取りからも明らかである。

なお、この医療分科会は2002年2月28日に開催されているのであり、厚生労働省記者クラブに記者を配属している放送局としては、この分科会でのやり取りを本件放送の作成前に当然知っていた。一般論としても、紛争当事者が内部で作成した報告書の価値が低いものであることは熟知していたはずである。ましてや、医療分科会における上記のような指摘に接した被告が、内部報告書を中立的で信頼できる文書として取り扱うことは許されない。

 (4) 非専門家の委員選任

調査報告書に科学的・医学的視点が欠如していることは、これを作成したメンバーの人選にもあらわれている。調査委員会は、東間紘、楠元雅子、尾崎眞の3名から構成されているが(乙5)、東間の専門は泌尿器科、楠元の専門は循環器内科、尾崎の専門は麻酔科であって、本件手術に関わる心臓外科あるいは人工心肺装置の専門家は一人もいない。

そもそも、委員が東京女子医大内部の者だけから成るという構成が根本的に誤っていることは上に見たとおりであるが、たとえ内部者だけで構成するとしても、心臓手術あるいは人工心肺装置の操作にミスがあったかどうかを判断しなければならないのであるから、その専門家が入っていなければならないのは当然である。東京女子医大は、対象となった手術が行われた日本心臓血圧研究所(心研)の関係者を除外したと説明しているが、東京女子医大には、心研に所属しない心臓外科ないし人工心肺装置の専門家は複数存在しているのであるから、このような「素人」を選定したことは意図的なものである。

 そして3名の医師の氏名は調査報告書に記載されているから、これを作成した調査委員会に心臓外科あるいは人工心肺の専門家が一人も含まれていないことは、容易に知りえたことである。

 しかも、これらの委員は、調査委員会報告書の作成にあたって、本件手術の関係者以外の心臓外科や人工心肺の専門家から意見を聞くといったことを一切していない。そのことも、これらの委員に対して、必要かつ適切な取材をすれば、容易に知りえたはずのことである。

 (5) 調査報告書における科学性の欠如

調査報告書は内容的にもさまざまな点で誤りを含んでいるが、それにとどまらず、そもそも科学的な書面とすら言えないものであることは、これを一読すれば明らかである。明白なものとして、以下の点が挙げられる。

ア 結論の理由が示されていないこと

 調査報告書は、「脱血不良の直接の原因として考えられることは、a. 術野からの吸引ポンプの回転数を上げたままで人工心肺が作動していたことによる脱血回路内の圧上昇、b. 陰圧吸引補助脱血回路のフィルターの目詰まり、の2つであるが、a.が基本で、b.は促進因子と考えられる」と結論づけている(乙5・14頁)。ところが、調査委員会報告書は、なぜ「a.が基本で、b.が促進因子と考えられる」のか根拠を示していない。

  このように、調査報告書は、最も重要な脱血不良の直接の原因に関する結論において、なぜそのような結論に至ったか理由を示していないのであって、その非科学性・不適切性は明白である。

 この点については、本件事件の刑事事件判決でも、「〔調査報告書〕において、なにゆえ吸引ポンプからの流入量増加に伴う圧の上昇が基本であるとされたのかについては、必ずしも明らかではない上、同委員会の行った再現実験でも、陰圧吸引回路を閉塞して初めて、脱血回路内に空気の逆流が見られた(すなわち、脱血不能の状態と同じ状態を再現することができた)というのであるから、結局、本件ガスフィルターの閉塞がないという条件の下で、吸引ポンプからの流入量の増加に伴う圧の上昇のみにより、脱血不能の状態にまで立ち至るということは確認されていないというほかはない」と指摘している(甲6・31頁)。

  さらに、上記刑事事件判決では、「このような客観的にみて危険で瑕疵がある構造〔原告註:回路中にフィルターを設置していたことを指す〕というほかはない人工心肺回路を設置し、心臓手術での使用に供していたことにつき、女子医大の責任が問題となる余地がある点はともかく・・・被告人〔原告〕の注意義務違反を問題とするのも相当ではないと考えられる」(甲6・49頁)と述べ、東京女子医大は危険で瑕疵がある構造の人工心肺回路を設置していたと認定し、この点について同大学に責任があることを実質的に認めている。

このように、本件刑事判決では、本件患者が死亡した原因は、吸引ポンプの回転数を上昇させたことではなく、回路内にフィルターを設置したためとされている。そして、これについて責任を負うのが、当該回路の設計等に何ら関与していない原告ではなく、当該回路を設置した東京女子医大であることは、刑事判決が述べるとおり明らかである。

しかるに、調査委員会は、患者の死亡原因は吸引ポンプの回転数を上げたことが基本であるとして、原告の人工心肺操作が誤っていたことが主原因であるかのように述べ、これによって組織としての東京女子医大の責任を回避しようとしたのである。

本来、科学的な報告書であれば、ある結果に対する原因が2つ考えられるとき、どちらかが主で、他方は従と認定するのであれば、その根拠を明示するのが当然である。しかるに、調査報告書では、上に述べたとおり、何の説明もなく、吸引ポンプの回転数を上げたことが基本因子で、フィルターは促進因子と断定している。これが科学的報告書として許されないものであることは明らかであるが、調査委員会が敢えてこのような異常な報告書を作成したのは、既に述べたとおり、この報告書が大学の責任を回避するという目的で作成されたためである。

このように、この調査報告書は、科学的論述の体すら成していないものであり、このことは虚心坦懐にこの報告書を読めば、医学的知識の有無を問わず、容易に理解できるものであった。

イ 具体的データも残っていないこと

調査報告書が、科学的な実験と観察に基づくものであれば、どのような実験を行い、どのような数値が得られ、そこからどのような推論を経て、どのような結論が導かれるのかが明らかにされていなければならない。被告の中で本件取材にあたった記者がどの程度の科学的素養を有しているのか原告には不明であるが、たとえ科学報告書に記載された実験方法や数値を理解できないとしても、実験方法や数値が記載されていないものは科学報告書として異様なものであることはすぐに理解できたはずである。

 (6) 裏付け取材による調査報告書の誤りの発見

上に見たように、調査委員会の構成及び調査報告書の内容には、上記のとおり一見して明らかな疑問点が多数存在していた。

このような欠陥を有する調査報告書については、中立の第三者に取材してその科学的価値について見解を求めるべきであった。

たとえば、調査報告書は、患者の「死亡原因は、人工心肺中に生じた脱血不良による脳循環不全による重度の脳障害」であるとしたうえで、患者の死亡をもたらした「脱血不良の直接の原因として考えられることは、a. 術野からの吸引ポンプの回転数を上げたままで人工心肺が作動していたことによる脱血回路内の圧上昇」を挙げ、これが基本であるとしている(乙6・14頁)。

この点は調査報告書の結論とされているところであるから、少なくともこの結論が妥当なものであるかどうかについては、外部の専門家に取材するなり、関係する資料を調査すべきである。そうすれば、たとえば「体外循環における補助脱血方法 バキュームアシスト(陰圧吸引脱血)」(甲9)というバクスター株式会社(医療製品の輸入、製造、販売会社)が配布しているパンフレットを容易に参照することができたはずであり、その中で、

「リザーバーに流入するベントやサクションの流量のバキュームに対する影響は?

バキュームコントローラーは20Hgの設定で毎分1520Lの流入するエアーに対応する能力があるため、サクションやベントの流量は全く問題にならない」(甲9・57頁)

と明記されていたことも確認できたはずである。ここでは先に述べたように、吸引ポンプなどの「サクションやベント」からの流量がどれほど増えても、陰圧(バキューム)に対する影響はないということであり、調査報告書の上記結論が誤っていることを明確に示すものである。

そして、現実に陰圧吸引脱血法で人工心肺を操作したことのある医師にこの点を尋ねれば、百人が百人、上記パンフレットの記載内容が正しいことを確認するはずである。調査報告書の作成に関与した委員は、心臓外科の専門家ではなく、人工心肺を操作したことすらない者たちばかりである。そのような委員の出した結論が正しいと言えるかどうかは、専門的な医学論文にあたるまでもなく、上のようなパンフレットを入手し、そこに記載されている内容を人工心肺の経験がある医師に確認すれば、直ちに判明したのである。

このような一挙手一投足の調査を省き、「大学が作成したものだから」という理由だけで調査報告書の内容を真実と信じた被告は、

・東京女子医大は加害者であること

・その加害者性を隠蔽するために非専門家の委員が選任されたこと

・非科学的な調査報告書が作成されたこと

・東京女子医大と原告は利害が対立すること

を看過したものである。

被告が調査報告書の内容を真実と信じるについて相当の理由を有していなかったことは明らかである。

第2 肖像権侵害 

 肖像権侵害に対する被告準備書面(第3)の主張も今までの被告の主張の繰り返しや焼き直しであるが、以下2点について補足する。

4. 違法映像と放送

 被告は、準備書面(第3)9頁において、「そもそも、写真や映像は、いったん適法に取得されたのであれば、・・・どのような写真や映像を用いて報道を行うかということは、憲法21条のもと報道機関の完全な自由である。」と述べるが、本件では、そもそも「撮影の段階」で「適法に取得された映像」ではないので、被告の主張の前提が存在しない。「撮影の段階」が不当であることは、原告準備書面(2)5頁~7頁において述べた。

 被告準備書面(第3)では、事後的な釈明のために、言葉の定義も示さずに「準公共的スペース」という新語を作成しているが、撮影された場所は、公共的なスペースではない。撮影は、原告を勾留する敷地内で、勾留する施設を背景に、明らかに勾留者を管理する職員と伴に、一般の面会者などが入ることのない時間帯にメディアスクラムを組み、照明を当てて原告に精神的な圧迫を加え、原告の承諾がないのは勿論、原告の妻の撮影に対する抗議を無視し「みだりに」行われた。

 「放映の段階」においても正当性、公共性、公益性、必要性、相当性が欠如していることは、準備書面(2)7~8頁および準備書面(3)13~16頁においてすでに述べた。

5. 国民の関心事

 被告は準備書面(第3)10頁において、「原告の刑事裁判は未だ確定しておらず、原告は未だ刑事事件の被告人でもある。」等と記載しているが、放送が行われた、2005年11月30日から12月1日の時点では、控訴もされていないので、「無罪判決を受けた一審の被告人」であった。

 被告は、本件無罪判決報道時、「放送目的が何であろうと、常に社会の関心事は、逮捕と保釈である」かのような主張を行っているが、明らかに一般視聴者とはかけ離れたのぞき見的興味本位の主張である。無罪判決時において、原告が保釈されたことは自体は、放送の正当性、公共性、公益性、必要性、相当性が欠如している。このことは、被告以外の放送局は、原告の無罪判決報道において原告の保釈時の映像を用いなかったことを鑑みても明かである。

以上

原告 証拠説明書(3 

                              200736

東京地方裁判所民事第6部合議B係御中

原 告      佐藤一樹


                        号 証

標     目

(原本・写しの別)

作 成

年月日

作成者

立 証 趣 旨

備考

7

3学会合同陰圧吸引補助脱血体外循環検討委員会報告書

2003.5

日本胸部外科学会、日本心臓血管外科学会、日本人工臓器学会3学会合同陰圧吸引補助脱血体外循環検討委員会

調査委員会報告書の主旨が、誤っていること(陰圧吸引補助脱血法において、吸引ポンプの回転数を100回転以上に上げても人工心肺装置に問題は生じないこと等)

8

「第3回社会保障審議会『医療分科会』」

2002.2ころ

厚生労働省

調査委員会報告書は東京女子医大内部で作成したものであり、国民から信用されないものであること(8頁目)

9

「バキュームアシスト(陰圧吸引脱血)」と題するパンフレット

不詳(1999年以前)

バクスター株式会社

調査委員会報告書の主旨が、誤っていること(陰圧吸引法ではサクション、ベントの流量は全く問題にならないことなど)

10

回答書

2002.8ころ

東京女子医科大学付属日本心臓血圧研究所心臓血管外科黒澤博身(代新岡俊治)

東京女子医大自身が、内部調査委員会が実施した実験が不十分で具体的データも残っていないことを認めること

11

陳述書

2007.3.5

佐藤●●

原告の妻が、撮影の中止を求めたこと。

以  上

11

(原告の妻の)陳 述 書

200736

東京地方裁判所民事第6部合議B係御中

 私は、都立西高等学校に入学し、そこで夫と知り合い、19951029日に結婚しました。夫が保釈された時の話と、亡くなられた平柳明香さんの御家族が裁判所で私に話しかけてきたときのことを述べます。 

 夫は2002年6月28日の朝に突然逮捕されてしまいました。私は医学の知識はありませんが、以前から夫は、「自分の責任で患者さんが亡くなったのではない。」と話していたので、無実の罪で逮捕されたと思っていました。しかし、逮捕直後から、接見することもできずに起訴されてしまいました。その後、何回も保釈申請をしましたが、なかなか認めてもらえませんでした。一旦、1500万円の保釈金で保釈されることが、決定されました。私の親の遺産と夫の父や親戚に借金をしてなんとかお金を工面して裁判所まで現金を運びましたが、検察側の準抗告が認められ泣く泣く帰宅したこともありました。

 2002年9月25日の夕方になって、今度は2000万円の保釈金でやっと保釈されることが決定いたしました。タクシーを止めて東京拘置所から夫が出てくるのを待ちました。しかし、夫が出てくる前に、ぞくぞくとテレビカメラが拘置所の門のところに集まってきて撮影をはじめました。やっとの思いで保釈が現実となって、3ヶ月ぶりに自由の身になれる喜びもつかの間で、撮影者達は、夫が荷物を持って出てくるところを煌々と照明を当てて、撮影していました。夫は一旦拘置所内にもどって、先に荷物をタクシーに運び込むことにしました。夫の「撮影をされたくない」という気持ちが私にはよくわかりましたので、荷物を搬入するときに、大勢の撮影者の中で、「撮影しないでください。」といいました。随分前のことですので、具体的には記憶していませんが、私の話しが聞こえた人が、何か言い訳をしていました。私は「撮影されたくないんです。」といいましたが、その人をはじめとして、周りにいた人達は私の言葉を無視するように撮影を続けました。 

 今回、フジテレビは、長い年月の裁判の結果、無罪の判決が出たのにもかかわらず、夫がまるで、「本当は罪を認めていて、有罪であるはずなのに無罪の判決が言い渡された」かのような放送を行ったので極めて遺憾です。他のテレビ局で、そのような放送をした局はありませんでした。しかも、何年も前の拘置所からの出所の場面をわざわざ引っ張り出してきて繰り返し放送したことは、夫の人権を無視した扱い方だと思います。フジテレビには、今回の放送と最近の不祥事も併せて反省していただき、会社としての基本的な方針を考えなおしていただきたいと思います。

 次に、夫が起訴された刑事事件の裁判で、2002131日の森嶋克昌医師が出廷された第9回公判を傍聴したときに、平柳利明さんに話しかけられたことをお話します。当時、夫は保釈条件で、事件の関係者との直接的な接触は禁じられていました。このことを平柳さんが認識されていたかどうかは存じ上げませんが、平柳さんは、裁判所の廊下で私に話しかけてきて、私を通じて夫に伝言をするようにおっしゃいました。言葉を一字一句正確に記憶しているわけではありませんが、大体は記憶しています。

「まだあの弁護士を雇っているのか。早く辞めるべきだ。瀬尾さんからは謝罪してもらったが、佐藤さんからはまだ、謝罪してもらっていない。刑事判決が出た後に医道審議会で行政処分されるが、瀬尾さんには、嘆願書を出して医業の停止期間を短くしてもらうつもりである。佐藤さんは謝罪してもらっていないので、嘆願書を出すことはできない。亡くなってしまったものは帰ってこないので、死因は詳しくわからなくともいい。無罪を主張すると裁判が長くなるから、佐藤さんも早く罪を認めるべきだ。そして謝罪してくれれば、嘆願書を出して行政処分を短くしてもらう。だから、あの弁護士を解任して、罪を認めて謝罪して欲しい。そして、いっしょに今井(今井教授)と闘いたい。」と話していました。そして、電話番号が書かれた、黄色でやや大きめのポストイットを渡され、「佐藤さんから私に電話して欲しい。」といっていました。お願いされた通り、このポストイットを夫に渡しました。私は、遺族の方がこの様な衝撃的なお話をされたので、大変驚きました。このため、話された内容については、よく記憶しています。

以上

陳  述  書

2007511

原 告  佐藤一樹

第1 報道被害者として

はじめに

 私には理由があって、本件訴訟を自分自身で提訴しました。法律の専門家ではない私が、素人なりに名誉毀損と肖像権侵害の法理や判例を調べて、訴状や準備書面を自分の言葉で書いてきました。その訴状や準備書面の中で、私が主張したいことは、既に述べてきましたが、裁判所から本人尋問の機会を与えていただきましたので、改めて報道被害者本人の立場から陳述させていただきます。

心臓外科学と私

 私は、末尾に添付させていただきました東京新聞、産経新聞、セキュリティー産業新聞の各記事コピーにありますように、自分が本件患者さんと同じように先天性心房中隔欠損症のため心臓外科手術を受けたことをきっかけに、心臓外科医になりたいと思い医学を志し、この道に進みました。

 そして、逮捕されるまで10年以上心臓外科学に従事してきました。時には一週間の平均睡眠時間が1時間程度になっても手術室や集中治療室で患者さんの診療を行い、研究室で心臓外科の研究に没頭し、国内だけでなく国際学会でも研究成果を発表し心臓外科学の発展に寄与してきました。小児心臓外科学研究により医学博士を取得し外科学会の認定医や胸部外科学会の認定医、心臓外科専門医の資格も取得しました。

 これに対し、何の取材の努力もしない放送局の誤った認識によって、いとも簡単に、私が未熟な医師であって、当初は罪を認めていたのに裁判になって一転して無罪を主張、本来は有罪であるところ、無罪判決を言い渡された元医師で、現在は医師でない人間との印象が全国の視聴者に植え付けられてしまったのです。

 科学的素養も有さない、何の医学知識もない、心臓外科医に対して何の取材も行わなかったフジテレビが、何故今回のような放送をすることができるのでしょうか。

 そもそも、事件の当事者であり、心臓外科医である私に対する取材を一切行なおうともせずに、このようないい加減な放送を行う姿勢は、許されるものではありません。 

本件放送視聴者の印象

  今回、最末尾に添付いたしました、ブログ「シーガルアイ公式ブログ 『カモメの目』」気になる記事から(11月30日)には、「当初この医師は、自分のミスを認め遺族に謝罪したそうです。ところが裁判になると一転、自分に過失はないと主張し無罪を勝ち取りました。医療裁判というのは、こんな違和感のある行動をした医師すら罰することができないくらい難しいのでしょうか?「無罪」はないんじゃないかなぁ~。」との書き込みがあります。この書き込みは、2005年11月30日の「FNNスーパーニュース」を視聴したブログの筆者が、その放送から受けた印象をブログに書いたとしか思えません。私は、2005年11月30日の全国ネットのテレビ報道番組と新聞社や通信社が発信するネットニュースの記事を可能な限り全てチェックしましたが、「当初この医師は、自分のミスを認め遺族に謝罪したそうです。ところが裁判になると一転、自分に過失はないと主張し無罪を勝ち取りました。」といった印象を与える放送した放送局や新聞社、通信社はフジテレビ以外には皆無だったからです。

 準備書面でも高等裁判所刑事判例集からの引用を陳述しましたように、「「週刊誌や芸能誌、テレビのワイドショーなどを中心として激しい報道が繰り返されたが、こうした場面では、報道する側において、報道の根拠としている証拠が、反対尋問の批判に耐えて高い証明力を保持し続けることができるだけの確かさを持っているかどうかの検討が十分でないまま、総じて嫌疑をかける側に回る傾向を避け難い。・・・ところで、証拠調べの結果が右のとおり微妙であっても、報道に接した者が最初に抱いた印象は簡単に消えるものではない。それどころか、最初に抱いた印象を基準にして判断し、逆に公判廷で明らかにされた方が間違っているのではないかとの不信感を持つ者がいないとも限らない。」のです。

 このような状態であった視聴者が、さらに「FNNスーパーニュース」の放送を視聴すれば、上記ブログのような印象を持つと思います。

 さらに、このブログを読んだ不特定多数の閲覧者も、ブログの内容が真実であるという印象を持ったと思いますので、フジテレビの放送自体の視聴者とブログ等二次的な波及によってこの内容が真実であるとの印象を持った人は、莫大な数に上ると思います。

「未熟な医師」「元医師」

 いままでの準備書面でも繰り返し述べてきましたが、「未熟な医師」と評されたことは、専門家としての心臓外科医として、耐え難いことであり大変苦痛を感じました。

 また、判決当日の午前中にも診療を行っていたにもかかわらず、「元医師」と繰り返し何回も放送されたことはさらに腹立たしいことです。視聴者は、私が本件刑事事件に関連して、「医師免許取消処分を受けた」または、「医業停止処分を受けた」等の印象を持つと思います。そもそも、医師として就業している私を「元医師」と評すること自体が、私の社会的信用を低下させる上、私の医療行為の妨害にもなります。

 先日、私が提訴している別の本人訴訟裁判を傍聴された慶応義塾大学の学生8人とお話する機会がありました。彼らは皆私が、刑事事件で無罪判決を言い渡されたことを知っていながらも、医師として勤務していないと思っていた様子で、「現在はどのようにして生計を立てているのですか?」と質問されました。このことは、私が「元医師」と繰り返し放送されたことにも関連すると思います。

待望の判決日

 私は、2005年11月30日の判決の日を楽しみにしていました。

 そもそも、手術直後に、私のミスで患者さんが死亡したと考える人は、私を含めた東京女子医大の心臓外科医にはいませんでした。そして、熱心な審理を3年以上重ね、甲第7号証の「3学会合同陰圧吸引補助脱血体外循環検討委員会報告書」を読み、東京女子医大で行った検証実験を目の当たりにした東京地裁刑事第15部の裁判官は、絶対に無罪判決を言い渡すと信じていたからです。特に、最終弁論要旨が完成した後は確信していました。

 楽しみにしていた理由は、無罪判決が言い渡された後には、以前に私が逮捕、起訴され、マスメディアに散々虚偽の事実を報道されて、完全に心臓外科医としての社会的信用を低下させられたことが、少しは回復する報道がされると思っていたからです。

記者会見

 判決の何ヶ月も前から、絶対無罪判決が言い渡されると予想していていましたので、判決直後にメディア側から取材が申し込まれ、記者会見を行うことになることも予想していました。私は、その場において、少しでも自分の名誉が回復できるように、自分自身の言葉で無罪について語ろうと考えていました。

 実際、東京高裁記者クラブにおいては、「午後6時からのニュース番組に間に合うように」と急いで私に対する質問が開始されました。

 この記者会見が終了してから、記者さんたちから個別の取材を受け、しばらく時間が経過した後に、私は、千代田区紀尾井町にある「千代田放送会館」に行きました。ここで、NHKの6時からのニュース番組を視聴いたしましたが、ここでは、既に私の記者会見も模様が放送されていました。

各局の放送

 友人の協力等を得て、2005年11月30日17時から12月1日午前中に東京地区で放送された全国ネットの各テレビ局のニュース番組の録画を可能な限り手に入れました。

 それらの内、フジテレビ以外の放送で、亡くなった患者さんの遺族の記者会見だけを一方的に放送したり、私に対して悪意を感じさせるような放送したりものはありませんでした。

アナウンサーの表情

 しかし、FNNスーパーニュース」に始まるフジテレビ一連の放送は、私に対して悪意をもって個人攻撃をしたように感じました。

 まず、「FNNスーパーニュース」の冒頭には、西山喜久恵アナウンサーが登場しています。この西山アナウンサーが話す様子は、怒りをこめて険しい表情であり、以前に他の番組で見た同アナウンサーとは全くの別人に見えました。

家族の記者会見

 この放送では、家族の記者会見の様子が、冒頭と最後に二回もあるのに対して、私が記者会見した様子については全く放送がありません。このような一方的な放送を行った放送局は他にはありませんでした。

勾留されていた私の映像

 放送では、拘置所敷地内で、勾留する側の職員といっしょに歩行する38歳当時の私の容貌の映像が、撮影され放映されたことにより、私の肖像権が侵害されました。

 なぜ、無罪判決を受け、まだ控訴も未だされていない42歳当時の私の記者会見の映像を入手しているのに、このような映像をわざわざ掘り起こして放送する必要があるのでしょうか。

 被告は、そもそも、保釈当時にこの映像を流したということも明らかでないのに、何故この映像を無罪判決後に流すことの正当性や必要性、公共性、公益性を主張できるのでしょうか。

 保釈時の撮影状況は、2006年6月7日付け準備書面、準備書面(2)準備書面(3)、甲11号証 私の妻の「陳述書」にも書かれていますので、繰り返しはなるべく避けますが、故安部医師、三浦和義氏、皇太子妃の例で示した、被撮影者がどのような態度で対処しても、結局放送局は、衝撃的な映像を求めてこれを撮影し、放映してきました。妻が撮影を中止するよう求めても、撮影、放映は行われ、肖像権の侵害はなされてしまうのです。この映像は「めざましテレビ」「とくダネ!」でも繰り返し放送されました。

 なお、証拠として録画映像を入手できませんでしたが、フジテレビが放送した同年 2005年12月3日放送「土曜LIVE ワッツ!?ニッポン」<THE・VOICE>「東京女子医科大学医療事故裁判・担当医に無罪判決」という放送でも午前11時4分46秒からと11時7分21秒からも、私の保釈時の映像が放映されたのを視聴しました。

「当初罪を認め遺族に謝罪し示談が成立」

 上記のようなテロップを表示して、「佐藤被告は当初は罪を認めて遺族に謝罪し、示談が成立。」とう放送に対しても大変憤慨しました。これも準備書面で再三述べてきましたように真実ではありません。このような放送では、私があたかも、業務上過失致死罪の罪を認めて謝罪したため、遺族が私に対して求めた損害賠償請求に対して示談が成立したという印象を視聴者に与えますが、そのような事実はありません。

「法廷では一転して過失を否定」

 さらに自白に等しい行動をとっていた私が、裁判では一転して過失を否定したような印象を与える放送になっていますが、これも真実ではありません。私だけでなく、事件当時、心臓血圧研究所に所属していた心臓外科医は、皆私に過失があるとは考えていませんでした。事故当時から現在まで、一貫して、過失を認めていないのです。

判決文を無視した西田弁護士の意見

 本件訴訟における、被告の主張からは、西田弁護士さんが、この放送の前に、判決文の内容や、判決要旨を把握していたか否かは、全くわかりません。私には法律の専門家である西田弁護士さんが、判決の要旨の情報を得た後に、判決とは関係のない以下のような話しを迂闊にするとは思えないのです。

「①いろんなあの危険を回避する義務というのはやっぱりあると思うのですね。②それを放置してまああのそういうことを怠ってですね③未熟な医師にあの二重三重にそういうことが起こらないように、④あの予防体制を取りながら本当はやるべきだったでしょうと・・・。」

 このような口語、話し言葉を視聴すると、①の時点では、「危険を回避する義務」があったのは私であるという印象しか残りません。そもそも刑事事件とは、個人の過失が問われるのですから、「危険を回避する義務」は私にかかるとしか思えません。②も同様で、「危険を回避する義務」を放置し、怠ったのは私と理解されます。③でも明らかに未熟な医師は私を指します。被告準備書面(第2)7頁1行目では、「仮に未熟な医師がいたとしても・・・とういのが西田弁護士のコメントの趣旨である。」と述べられていますが、私はこのような主張をおこなう被告の態度に呆れ返りました。私が罪を問われた判決の話をしている最中に、そのような未熟な医師存在を仮定して話をするはずがありません。この準備書面は、西田弁護士さんが本当にそのような趣旨でコメントしたかどうかを確かめてから書かれたものとは思えません。

繰り返される「元医師」保釈時映像

 フジテレビが判決日の深夜に放送した、「ニュースJAPAN」の中の「Flash JAPAN」では、保釈時映像の放映もなく、「医師」と放送しています。これに対し、翌日の「めざましテレビ」「とくダネ!」においては、再び保釈時映像の放映を行い、「元医師」と放送を繰り返しています。このことから、フジテレビの会社としての一貫性のなさが見受けられます。

以下、放送とは直接の関係はありませんが、「なぜ私が逮捕までされてしまったのか」に関連して知っていただきたいので、第2では「逮捕までの経過」を述べ、第3「まとめ」としました。

第2 逮捕までの経過

1.         本件手術と脳障害とフィルターの閉塞について

私は、2001年3月2日の本件手術、すなわち心房中隔欠損症と肺動脈狭窄を有する12歳の患者さんに対する根治手術において人工心肺装置の操作を担当し、その中で陰圧吸引脱血法を用いました。

本件手術中に、脱血不良が発生したことは事実です。しかし、患者さんには肝臓をはじめとして下半身には全く脱血不良による症状がなかったのに対し、上半身には、顔面の浮腫を伴った脳障害が出現しました。患者さんの下半身に症状が出なかったにもかかわらず、頭部に障害が出たのは、脱血不良の原因が、人工心肺装置の操作を誤ったためではなく(この場合には、患者さんの下半身にも症状が出ます)、上大静脈からの脱血が十分でなかったためであることを示しています。

また、血液が逆流する脱血不良が発生したこと自体は、フィルターが閉塞したことによるもので、このことは、人工心肺終了後すぐに技士の点検で明らかになり、手術当日の段階で心臓外科医と臨床工学士の間では全員がこの認識になっていました。

2.         調査報告書(乙第5号証)の作成者とその後について

前心臓血管外科の教授が退官され、教授が不在の間、東京女子医大の心臓血圧研究所の循環器内科笠貫 宏教授は、この事故に対して原因を追究する遺族の要求を受けて、死亡原因調査委員会を発足させました。ところが、本件さらに、心臓手術についても人工心肺についても素人同然のこの委員会は、心臓外科医に何の意見も求めることなく報告書を作成し、遺族にこれを渡したのです。事故が心臓手術中に生じたものであったにもかかわらず、この会の委員(3人)には心臓外科医が1人も含まれていませんでした。もちろん、人工心肺を操作した経験のある医師もいません。

私が、この報告書の存在を知ったのは、報告書が遺族に渡された後でした。もちろん、内容を読んだのも遺族に渡された後ですが、その内容のいい加減さには驚きました。大学側と私の連絡窓口であった管理課金子次長に内容について苦情をいいましたが、遺族に既に渡してしまったからという理由で取り合ってもらえませんでした。

3.         調査報告書の誤りについて

調査報告書の記述の誤りは、陰圧吸引脱血法を一回でも操作したことがある医師や臨床工学技士であれば容易に分かることです。刑事事件では、58箇所について意見を述べた34ページに渡る「故平柳明香殿死亡原因調査委員会調査報告に関連する意見書」を提出しましたが、ここでは、根本的な誤りのいくつかにとどめます。

         報告書12頁20行目「もちろん静脈貯血槽内の圧は、(脱血管からの血液流入圧+術野からの吸引流入圧)-(送血圧+壁吸引圧)の総和で表され」という記載は、「圧力とは表面のある一点で垂直におよぼす、あらゆる方向に均一に作用する単位面積あたりの力のこと」や高校理科で学ぶニュートンの法則を理解していれば、全く誤りであることがわかります。圧力は、長さや重さといった「量」ではありませんから、これを足したり引いたりすることはできないのです。さらに、そもそも「静脈貯血槽」を「静脈貯留槽」と平気で記載し間違えていること自体が、人工心肺についての無知のあらわれです。

         報告書12頁25行目「したがって脱血管からの脱血量がたとえ減少していても、術野からの吸引量が多ければ静脈貯留槽内の見かけの液面はあまり変化しないこともあり得るわけである。しかしこの場合静脈貯留槽内の圧は上昇しており、そのためにますます脱血管との圧較差は小さくなりついには全く脱血されなくなり、さらには逆に脱血管内へ静脈貯留槽から空気や血液が逆流することも起こりえるわけである。」などと書いてありますが、人工心肺の基本を全く理解していない記載です。「液面が変化しないこと」そのものが、良好に人工心肺が運転されている証拠です。そして、「しかしこの場合静脈貯留槽内の圧は上昇しており、」とされる理由が全く説明されていません。良好に人工心肺が運転されていて、液面が変化しない安定した状態から、「さらには逆に脱血管内へ静脈貯留槽から空気や血液が逆流することも起こりえる」わけがないのです。「吸引ポンプを上昇させたこと」と、「脱血管内へ静脈貯留槽から空気や血液が逆流すること」は全く関係がありません。

         「静脈貯血槽内の圧は槽内の血液面の上下する動きで間接的に知ることができるだけであり」という記載も、誤りです。どんな脱血方法であっても、静脈貯血槽の液面の上下は、脱血管ないし吸引ポンプから静脈貯血槽に流入してくる血液量及び送血により静脈貯血槽から出て行く血液量のバランスによって生じるものに過ぎないので、圧の上下とはまったく関係がないことなどは、人工心肺を扱ったことがある医師や臨床工学士なら誰でも知っていることです。

4.         調査報告書の誤りと客観的資料

陰圧吸引脱血法において「吸引ポンプの回転数をあげても静脈貯血槽が陽圧化することはない」ことが書かれている医学論文は、陰圧吸引法に関して外国の医学雑誌にも投稿がある大阪大学の論文や、人工臓器学会の当時の理事長が教授を勤める埼玉医科大学の論文や静岡県立こども病院の論文等があります。

また、甲第9号証の医療機器関連会社であるバクスター株式会社は、「陰圧吸引脱血法」による人工心肺装置に関するプレゼンテーションを1999年以前から行っていました。そのプレゼンテーション57頁にも「バキュームコントローラは-20mmHgの設定で毎分15~20Lの流入するエアーに対応する能力があるため、サクションやベント*の流量は全く問題にならない」ことが記載されています。なお、吸引ポンプの回転数は最高で250回転まで上昇させることが可能です。そして、本件の吸引ポンプは一回転で、13mlのエアーないし血液を人工心肺内に取り入れますから、1分間100回転では、1.3Lということになります。仮に本件の人工心肺に設置してある4つの吸引ポンプをフル回転させると250回転X4=1000回転になりますが、これは13mlX1000=13000ml=13Lに当たりますので、この程度の流量であれば、全く問題ありません。(*サクションやベント:吸引ポンプの名称のこと。乙17号証の末尾の図「陰圧吸引補助脱血法」の「吸引、ヘント」のこと。なお、「ベント」が正しく「ヘント」は誤りです。)

5.         原告および医局員による調査報告書の批判

 調査報告書に対する批判は、大学側の管理課金子次長にいっても取り合ってもらえなかったことは、先に書きましたが、2001年12月末に、本件が報道された後、私は、女子医大の医局員と共に、この報告書に対して批判をしようとしました。そのことを知った黒澤教授(現心臓血管外科主任教授)は、医局員と私に「調査報告書」を批判しないように様々な手段で圧力を加えました。

 2002年4月22日、黒澤教授は私に、「君も日本国内で心臓外科を続けたいのなら、私(黒澤)の言うことを聞いて「調査報告書」を批判しないように。批判をすると私の力で君は心臓外科を続けられなくなるだろう。」旨発言しました。

 2002年4月30日、女子医大心研一階の応接室において、私と喜田村洋一弁護士と二関辰郎弁護士が、心研医局員(現エール大学教授)と「『調査報告書』に記載された実験結果は虚偽であり、内容が理論的にも誤っている」と指摘する書類(なお、この書類には追って確定日付をもらう予定でいました)を作成しようとしたところ、最後の署名と捺印で完了しようとする直前になり、黒澤教授に阻止されました。書類に署名をしてくれる予定であった医局員を待っていたところに、黒澤教授が女子医大側の弁護士と現れ、「『調査報告書』は厚生労働省に提出した。今、女子医大は、特定機能病院の認定を剥奪されるかどうかのぎりぎりのところである。『調査報告書』は間違っているが、こんな大切な時に女子医大心研の内部に別の意見があって、『調査報告書』を批判する動きがあることがマスコミに知られたら大変なことになる。特定機能病院の問題が終了するまでは、『調査報告書』を批判する書類を作成してはいけない。」旨、発言しました。「調査報告書」が誤っていることを自ら認めたにもかかわらず、医局員の書類作成を阻止したのです。

 以上の経過から、東京女子医大は、薬事法上適応外のフィルターを一回限りで使用しなくてはならないところ、これを繰り返し使用して閉塞してしまったことの、大学病院の責任を回避するため、非科学的な理由をこじつけて私個人の責任にしたことが推測されます。遺族に対して、大学の責任を、私個人の責任にすり替えようとしたのだと思います。

6.         警察の任意捜査段階 

逮捕前の本件刑事事件初期の警察捜査における主任であった警視庁捜査第一課の白鳥陽一警部補は、私に過失責任がないということを認識していた様子でした。

 2002年2月9日、5回目の事情聴取の最中、私の取調べ担当であった牛込署の諏訪警部補と白鳥警部補がいっしょになって「吸引ポンプの回転数を100回転以上にすると静脈貯血槽は陽圧化するのではないか。」という女子医大の調査報告書の主旨を根拠に、私に過失があることを認めさせようとしましたが、私は図が描かれた紙を利用して、「吸引ポンプの回転数を上げても、その空気はレギュレータを通して壁吸引に吸引されるので、陽圧化しない。」ことを説明しました。

2002年4月20日11回目の事情聴取の最中、18時頃、白鳥警部補は、「もう遺族との示談も済んでいるが、これだけ大きく報道され社会問題になると、誰かが悪者にならなければいけないんだ。おまえは、心臓外科をやめてはいけない。これからはこんなに辛い科を選ぶ人間がいなくなる。10年かけて医者をトレーニングすることは大変なことなんだ。」旨、感情的に興奮しながら話していたことを記憶しています。

一方では、先の心研医局員(現エール大学教授)が、韓国で行われた学会に参加している間に、元循環器小児外科主任教授や東京女子医大濱野専務理事に、「心研循環器小児外科の医局員が『調査報告書』の批判をしようとしていて、困る。」旨連絡を入れて圧力をかけたと聞きました。

以上のことから、警察官も「調査報告書」には誤りがあることを認識していたにもかかわらず、私を逮捕したと考えられます。

第3 まとめ

現在、文部科学省科学技術振興調整費による東京大学医療政策人材養成講座では、医療者・報道者が参加して「医療報道内容の評価」を行っています。この中で、「悪しき医療報道」と評価される報道には、「医療事故報道」があり、特に「東京女子医大事件」が取り上げられました。この講座では、「悪しき医療報道」と評価をうける報道は、社会部等の「事件ジャーナリスト」に多いといわれています。

国民の尊い生命を扱う医療に関する報道は、科学的であり、正確である必要があるのに、高度に専門化された医療に関して、専門家の意見を聞かずに、センセーショナルな事故として医療報道を行うメディアは、国民になんの利益も与えません。

今後、フジテレビが国民の利益になる正確な医療報道を行うためには、本件を担当した担当者の取材方法を根本的に改めるか、スタッフを一新して、医学や科学に関する取材がしっかりできる担当者による報道を行うべきだと思います。

 今回の私の人権を無視した名誉毀損報道、不必要な放映による肖像権侵害放送を考え直していただき、最近報道された不祥事も併せて反省していただき、会社としての基本的な方針を考えなおしていただきたいと思います。

以上

|

« 勝訴 対 週刊女性 「主婦と生活社」 第一報 | トップページ | 勝訴 フジテレビ訴訟 本人訴訟第1号 »

「本人訴訟」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/87351/7662456

この記事へのトラックバック一覧です: フジテレビ訴訟 判決:

« 勝訴 対 週刊女性 「主婦と生活社」 第一報 | トップページ | 勝訴 フジテレビ訴訟 本人訴訟第1号 »