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2007年9月18日 (火)

勝訴 対 地方新聞社事件判決より

配信サービスの抗弁:

勝訴のポイントは、「配信サービスの抗弁」の法理です。このブログの読者にも少なからず法曹界の方がいると思いますが、この方々にとっては、おなじみの法理だと思います。有名な歴史的判決がありますので、本件判決でも引用された最高裁判決につきましては、裁判所のホームページから引用させていただきました。

 簡単にいえば、配信元の配信した記事をそのまま新聞記事にすると、名誉毀損してなおかつその内容が真実でなければ、新聞社は敗訴するということです。

対象になった新聞記事:

2002年6月29日から7月5日までの、上毛新聞、静岡新聞、秋田魁新聞の私に関連した記事。

判決主旨:

1.上毛新聞は、原告に対し、110万円およびこれに対する平成14年7月6日から支払い済みまで年5分の割合による金員を払え。

2.静岡新聞は、原告に対し、165万円およびこれに対する平成14年7月6日から支払い済みまで年5分の割合による金員を払え。

3.秋田魁新聞は、被告株式会社 原告に対し、110万円およびこれに対する平成14年7月6日から支払い済みまで年5分の割合による金員を払え。

他です。

 ちなみに判決には、上記新聞社により賠償金額がことなるのは、発行部数による記載があります。

上毛新聞 約30万部

静岡新聞 約74万部

秋田魁新報 約27万部

判決理由主旨:(一部抜粋。全文は、31ページにわたります)

「・・・・・本件各記事の記載内容は、医師の医療ミスに関して、担当した医師が業務上過失致死等で逮捕されるという極めて異例な事例であったというべきところ、このように、社会の関心と興味をひく事実を内容とする分野における報道については、通信社からの配信記事を含めて、報道が加熱(ママ)余り、取材の慎重さを欠いた真実でない内容の報道がまま見られるのであって、取材のための人的物的体制が整備され、一般的にはその報道内容に一定の信頼性を有しているとされる通信社からの配信記事であっても、我が国においては当該配信記事に摘示された事実の真実性について高い信頼性が確立しているということはできない(最高裁平成7年(オ)第14221号同14年1月29日第三小法廷判決、最高裁平成8年(オ)852号同14年3月8日第二小法廷判決参照。)。

 したがって、定評ある通信社である被告共同通信社から配信を受けた理由としてその内容を真実であると誤信することにつき相当の理由があるということはできないから、この点に関する被告新聞社らの主張は採用できない。・・・・」

最高裁平成7年(オ)第14221号同14年1月29日第三小法廷判決 -ロス疑惑共同通信事件-(最高裁民集56巻1号185頁、判例時報1778号28頁、判例タイムズ1086号96頁、別冊ジュリストメディア判例百選192頁) http://www.courts.go.jp/search/jhsp0030?action_id=dspDetail&hanreiSrchKbn=02&hanreiNo=25250&hanreiKbn=01 判示事項:通信社から配信を受けた記事をそのまま掲載した新聞社にその内容を真実と信ずるについて相当の理由があるとはいえないとされた事例 裁判要旨:新聞社が通信社から配信を受けて自己の発行する新聞紙にそのまま掲載した記事が私人の犯罪行為やスキャンダルないしこれに関連する事実を内容とするものである場合には,当該記事が取材のための人的物的体制が整備され,一般的にはその報道内容に一定の信頼性を有しているとされる通信社から配信された記事に基づくものであるとの一事をもって,当該新聞社に同事実を真実と信ずるについて相当の理由があったものとはいえない。 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/FBD8E85657C78BFC49256BF200267997.pdf

報道:

NIKKEI NET通信社の配信記事掲載3紙に賠償命令・東京地裁

 東京女子医大病院で心臓手術を受けた女児(当時12)が死亡した事故を巡る新聞記事で名誉を傷つけられたとして、同病院の当時の担当医が記事を配信した共同通信社と掲載した地方紙3紙に損害賠償を求めた訴訟の判決が18日、東京地裁であった。綿引穣裁判長は同通信社への請求を退ける一方、3紙に計385万円の支払いを命じる判決を言い渡した。 訴えていたのは医師、佐藤一樹被告(44)=業務上過失致死罪に問われ一審無罪、検察側が控訴。賠償命令を受けたのは静岡新聞社(静岡市)、上毛新聞社(前橋市)、秋田魁新報社(秋田市)。 綿引裁判長は共同通信社について「記事は同病院の調査報告書や捜査本部の記者会見の取材などに基づいており、事実関係を誤信したのには相当な理由があった」として賠償責任を否定。 3紙については「通信社の配信というだけで内容を真実だと信じる理由になるとはいえない。共同通信社の加盟社であっても独立した責任がある」と指摘した。(22:00)

東京新聞 TOKYO WEBより

新聞3社に賠償命令 共同通信記事で名誉棄損

2007年9月18日 22時56分

 東京女子医大病院で2001年、心臓手術を受けた少女が死亡した事故をめぐる記事で名誉を傷つけられたとして、当時の担当医(業務上過失致死罪に問われ1審無罪)が、共同通信と、配信記事を掲載した秋田魁新報(秋田市)、上毛新聞(前橋市)、静岡新聞(静岡市)の3社に計約2000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で東京地裁は18日、新聞3社に110万-165万円の支払いを命じた。 綿引穣裁判長は判決理由で、記事内容は真実ではないとした上で「3社は通信社から配信を受けたことだけを理由に真実と信じたことが相当とは言えない。記事は担当医の評価を著しく低下させた」と指摘。配信記事を掲載しただけの新聞社は免責されるという「配信サービスの抗弁」を認めなかった。 一方、共同通信については「担当医に過失の疑いがあるとした警視庁の発表などに基づき記事を書いており、事実関係を誤信したのには相当な理由があった」と認め、請求を退けた。(共同)

時事通信社より

2007/09/18-20:43 地方紙3社に賠償命令=共同通信の責任は否定-東京女子医大事故報道・東京地裁

東京女子医大病院(東京都新宿区)の医療事故に関する共同通信社の記事で名誉を傷つけられたとして、刑事事件で一審無罪となった医師佐藤一樹被告(44)=検察側控訴=が同社と記事を掲載した地方紙3社を相手に総額2090万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が18日、東京地裁であった。綿引穣裁判長は「通信社からの配信というだけでは、記事の内容が真実だと誤信する理由にはならない」として、3社に計385万円の支払いを命じた。共同通信の責任は認めなかった。3社は秋田魁新報社(秋田市)、上毛新聞社(前橋市)、静岡新聞社(静岡市)。
 綿引裁判長は共同通信について、「警察会見などから佐藤被告の医療ミスが原因と信じる理由があった」と述べた。一方、「一定の信頼性を有しているとされる通信社の配信記事であっても、真実性について高い信頼性が確立しているとは言えない」とする最高裁判例を引用。記事を掲載した新聞社の責任は免れないとした。

毎日新聞 Mainichi INTARACTIVE2007年9月18日 23時12分

東京女子医大訴訟:配信記事で敗訴…3紙に賠償命令

 東京女子医大病院で心臓手術を受けた女児が死亡した事故で業務上過失致死罪に問われ、1審で無罪になった同病院元助手の佐藤一樹被告(44)=検察側控訴=が、記事で名誉を傷つけられたとして事故原因に絡む記事を配信した共同通信社と掲載した3紙に総額2000万円余の賠償を求めた訴訟で、東京地裁は18日、3紙に計385万円の支払いを命じた。綿引穣裁判長は「(3紙は)配信記事を受けただけで、記事を真実と信じる相当の理由があったとは言えない」と述べた。 敗訴したのは▽上毛新聞社(前橋市)▽静岡新聞社(静岡市)▽秋田魁新報社(秋田市)。判決は共同通信については「警視庁の会見などに基づいている」として賠償請求を退けた。しかし3紙については「配信記事の真実性に信頼性が確立しているとは言えない」とする最高裁判例を引用。配信元が明記されていない体裁も踏まえ、各社が責任を持って配信内容の真実性を判断すべきだとの判断を示した。【北村和巳】

YOMIURI ON-LINE

女児術後死亡記事訴訟…共同の責任否定、地方紙に損賠命令

東京女子医大病院で2001年、心臓手術を受けた12歳の女児が死亡した事故で、業務上過失致死罪に問われ、1審で無罪となった同病院元助手の佐藤一樹被告(44)(検察側控訴)が、共同通信社の配信記事などで名誉を傷つけられたとして、同社と配信記事を掲載した地方新聞社3社に損害賠償を求めた訴訟の判決が18日、東京地裁であった。綿引穣裁判長は、記事を配信した共同通信の賠償責任は否定する一方で、地方紙3紙には計385万円の支払いを命じた。問題となったのは、02年7月2日に共同通信が「基本動作ミスが事故招く」などの見出しで自社のホームページに掲載した記事と、共同通信の配信を受けて上毛新聞社、静岡新聞社、秋田魁新報社が同月5日に掲載した別の記事。 判決は、二つの記事について「原告が基本的なミスを犯して患者死亡という結果を引き起こした事実を報じたもの」と認定、「捜査本部の見方などを示したもの」とする共同通信の主張を退け、いずれの記事も真実と認めなかった。しかし、共同通信には、当時の警察当局の記者会見や東京女子医大の報告書などの取材結果から、「事故の原因が原告にあると誤信する理由があった」として、賠償責任はないと判断した。 一方、地方紙3紙について、判決は最高裁判例を踏襲し、「定評のある通信社からの配信を受けたことだけを理由に、記事が真実と信じる理由があったとはいえない」と指摘。さらに、共同通信の定款施行細則で、配信記事には配信元の表示(クレジット)を付けると規定されているのに、3紙がそのクレジットを付けず自社が執筆した記事のような形で掲載していることを踏まえ、地方紙の賠償責任まで否定できないとした。共同通信社の江渡悦正編集局次長の話「記事を配信した共同通信社の賠償責任を否定し、記事を掲載した加盟社に賠償を命じた今回の判決は極めて不当だ。通信社の配信機能を理解しない内容で、到底承服出来ない」(2007年9月18日23時43分  読売新聞)

asahi com. 9月18日24時00分現在なし

Sankei WEB 9月18日24時00分現在なし

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コメント

訴訟継続のためのコスト(金銭だけでなく)を考えると、全く割の合わない賠償金額ですが、だからこそ、通常は泣き寝入りしてしまうのでしょうね。

泣き寝入りせず、勝訴を勝ち取った意義は大きいと思います。おめでとうございます。

投稿: bamboo | 2007年9月19日 (水) 05時48分

しらみつぶしの如き作業ですが、勝訴されましたことお喜び申し上げます。

投稿: 雪の夜道 | 2007年9月19日 (水) 11時58分

おめでとうございます。金額は少ないとはいえ、長い道のりの上勝ち取った勝訴。マスコミにも、これを機会に自らの報道を省みて欲しいものです。

投稿: 山口(産婦人科) | 2007年9月19日 (水) 17時08分

勝訴おめでとうございます!!
応援しています!

投稿: pyonkichi | 2007年9月19日 (水) 19時44分

banboo先生、山口先生、pypnkichi先生コメント有り難うございます。
 私にとって、金額は二の次で、判決のひとつひとつが、名誉回復になればよいと思っています。そして、医療報道について、メディアだけでなく一般の方々が真剣に考える機会になっていただければ、本望です。

投稿: 紫色の顔の友達を助けたい | 2007年9月19日 (水) 21時54分

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東京女子医大事件で無罪判決をうけた、紫色の顔を助けたい先生が、 地方新聞社3者にたいして起こした名誉毀損の裁判で勝訴されました!! http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/09/post_7407.html こうしてひとつづつ、先生の名誉が回復される事を心から応援しています。 女児術後死亡記事訴訟…共同の責任否定、地方紙に損賠命令 2007年9月18日 読売新聞 http://www.yomiuri.co.jp/national/... [続きを読む]

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初めまして。通じるものがあると思い、トラックバックさせていただきました。私は、法曹になるための予備校、「伊藤塾」で、法科大学院入試の勉強をしている者で、ブログにその塾に通う日々を書き綴っています。よかったら遊びにきてください。... [続きを読む]

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