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2007年11月

2007年11月16日 (金)

検察官の証拠隠し

はじめに

 昨日、20071114日に第4回控訴審公判がありました。一審で無罪判決が言い渡されてから、検察官が控訴審での証拠提出を1年2ヶ月後に行うと自ら約束したのに、実際に提出したのは、その2ヶ月後。そしてやっと公判が開始された後も、とても意味のある証拠調べとは思えない公判が開かれ、だらだらと時間が過ぎています。私は自分がやりたいことも抑えてこれに対峙し、無駄な時が経過していくばかりです。

 私の席の前には、証言台を挟んで、検察官の席があります。

第1 「検察官の証拠隠し」と3つの事件

1.東京女子医大事件

 検察官。一般の読者は、「東京地検特捜部」等のイメージから、社会正義の代表のように検察官をイメージしているのではないでしょうか。しかし、私が見てきた検察の活動はそのようなイメージとは全く異なるものでした。

 東京女子医大事件では、「フィルターの閉塞」が原因でしたが、このフィルターは、薬事法上適応外のもので、しかも、パッケージに「一回限りの使用」と注意書きされているにも関わらず、繰り返し使用されていました。このようなことは、当然警察官が調べて調書にしているはずですが、検察官は最初から最後まで、これを提出せず証拠を隠しました。勿論弁護側は、このフィルターを独自に調査し、これを証拠として提出し、純正フィルターについての説明書きも提出しました。

 一審では、検察官の請求で、裁判所は検証実験を行いましたが、これは準備実験と本番の実験の他に検察官だけの事前実験が行われています。勿論、国費によるものです。実験の内容は、約6ヶ月の時間をかけて、検察側実験とそれを弾劾する弁護側の実験が行われ、その結果は、詳細な記録と3本のビデオテープの録画になっています。実験と記録のための経費は、推定では軽く100万円は越えますし、警察の写真班や裁判所職員を休日に呼び出すなど人件費も考慮すると相当の額になります。勿論その結果は、弁護側の予想どおりになり、無罪判決の重要な証拠になっています。しかし、控訴趣意書では、検察官はこの検察官自身が請求して行った実験結果に「信用性がない」旨を述べています。こんな馬鹿なことが許されるのでしょうか。

2.血友病エイズ事件

 検察の失当について、正面から物言う気概のある新聞記者はいません。「新聞、テレビ、雑誌にはそれぞれのタブーがある。新聞は徹底的にタテマエジャーナリズムで、たとえば検察がクロとにらんだ人物、鈴木宗男や辻本清美、古くは田中角栄や藤波孝生の訴えや彼らなりの立場表明に耳を貸そうとはしない。」(別冊 追悼!噂の真相 54頁 田原総一朗氏)ことを、本ブログ「大野病院事件」初公判に向けてのエール 「医療事故と検察批判 」―東京女子医大事件、血友病エイズ事件、両無罪判決より-http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2006/08/__100b.html に書きました。ここには、「血友病エイズでの帝京大安部英医師に対する刑事訴追は、冷静に考えればあまりに無茶であり、日本以外のどこの国もやらなかったことである。まったく同じ被害が世界中で生じたのであるが、何処の国でも臨床医の責任追及などという馬鹿げたことをしようとはしなかった。それにもかかわらず、日本では、敢えて世界情勢に目をつぶって、1人の医師をなぶりものにしたのである。」とうい

弘中惇一郎先生が上記「噂に真相」に投稿された文章を引用させていただきました。

3.大野病院事件

 また、私自身の言葉で綴った「『速報大野病院事件初公判』傍聴記」http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/post_ace1.html では、「検察官の証拠隠し」について、「12.弁護側の冒頭陳述―合法だが卑怯な証拠隠し」の章で書きました。この内容に対する医療界の反応はとても大きな物でした。ブログのコメントやパーソナルにもいろいろなお話をいただきました。

 「周産期医療の破壊をくい止める回のホームページ」http://plaza.umin.ac.jp/~perinate/cgi-bin/wiki/wiki.cgi?page=%C2%E8%B0%EC%B2%F3%B8%F8%C8%BD%A4%CB%A4%C4%A4%A4%A4%C6%2807%2F1%2F26%29 佐藤章先生の 「第一回公判について」の、「7.弁護側冒頭陳述」の内容は、私のブログでしか知り得ない事柄が書かれています。この中で、「証拠調べ請求に対する検察官の不適当な対応」とう極めて理性的な文言で書かれていることは、私の言葉では、「合法だが卑怯な証拠隠し」のことです。佐藤章先生の文章を読まれた小松秀樹先生が、著書「医療の限界」でこの「検察官の証拠隠し」について触れられている他、検察官こそ隠蔽体質があることを指摘されています。

第2 人権派の弁護士の書いた「証拠を隠す検察官」

 私のブログには、高校の同級生をはじめとして、何人かの弁護士さんの話しが出てきますが、「大野病院事件の傍聴メモができたのも「先生」のおかげ」http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/02/post_ed65.html では、朝日新聞の「反権力の精神 息子らに」 ニッポン人脈記 弁護士の魂⑦ を引用させていただきました。この中では、自由人権協会の代表理事としての弘中惇一郎先生や、最高裁大法廷での二つの勝訴を勝ち取った同協会理事 喜田村洋一先生の話しが書かれています。(ちなみに私の同級生も理事です)

 この自由人権協会が創立60周年の記念として、

「市民的自由の広がり」 JCLU人権と60年 社団法人 自由人権協会編

を出版したことは、11月13日のブロクで紹介しました。

 この中に、「検察官の証拠隠し」について、坂井眞先生が書かれている文章があります。医療関係者としては、小松秀樹先生の「医療の限界」の「検察官の証拠隠し」と伴に一読することを薦めます。以下、第10章の一部を引用させていただきますが、この部分以外にも読むべき内容が満載されていますので、是非購入してください。

第2部           現代社会における多様な声

第10章 市民の生活と被疑者・被告人の権利・・・坂井眞

3証拠を隠す検察官

 非加熱濃縮製剤によるHIV感染事件(いわゆる薬害エイズ事件)をご存じだと思う。その被告人であった安部医師の弁護団の一員として経験した事実に触れてみたい。この事件で、検察官はこれから述べるような「証拠隠し」を平然と行ったのである。

この事件はメディアが客観的な事実を無視して騒ぎたてたが、東京地方裁判所の第一審判決で無罪の判断が下され、検察官控訴により東京高等裁判所で審理中、被告人が死亡したため裁判が終了した。事件の内容に細かく触れるのは本稿の趣旨ではないが、検察官の行為の不当性を理解するのに必要な範囲で簡単にまとめる。

 安部医師は、19856月に帝京大学病院の研修医が非加熱濃縮製剤を投与した行為について、業務上過失致死罪で1996年に起訴された。ちなみに安部医師自身はこの患者に非加熱製剤を投与してしたいない。

 問題の核心は・この当時までにエイズ原因ウィルスについて科学的にどの程度の事実が明らかになっていたのか、そして、その知見を前提として、この当時の日本での血友病治療法の水準がどのようなものであったかである。

 原因ウィルスに関する知見の点は、科学的知見の到達点の問題なのまで、世界中の過去の論文や学会での講演、議論の記録を調べれば客観的に明白にできる。

 そのようにして法廷で明らかになったのは、エイズの原因ウィルスが現在のHIVであるとの認識が科学的知見となったのが早くとも19854月以降であり、エイズの感染率、発症率、死亡率などについての知見が確定したのはさらに後になってからのことであった事実、そして、日本の血友病専門医は1985年の8月に加熱製剤が販売されるまで非加熱濃縮製剤を血友病の治療に用いてしたという事実であった。

 従って、19856月当時日本及び世界の血友病治療の水準であった非加熱濃縮製剤を使用した医師の中で、ひとり安部医師のみが刑事責任を問われることは論理的におかしい。一審判決も同様の論旨で無罪判決を下した。

 ところで・検察官は・この事件の主要な争点の一つである科学的知見にかかわる立証として、エイズ原因ウィルスの確定にかかわった研究者であるフランスのシヌシ博士・アメリカのギャロ博士の嘱託尋問調書を入手しておきながら、その内容が自己にとって不利なものであったため、これを隠蔽しようとした。(下線はブログ主)

 シヌシ博士は、エイズ原因ウィルスを確定したモンタニエ博士の共同研究者である。彼女は、血液製剤によるエイズ感染に関して行政の不作為を問題として起訴された本件当時の厚生省生物製剤課長であった松村明仁氏の刑事裁判に証人として出廷した一の法廷で彼女は「それ以前にフランスで「日本人の法律家たちのいらっしゃるところで、フランスの裁判官より面接を受けたことがあります。その面接というのは、安部教授の件に関係したものであったと私は記憶しております」と証言をした。それは、検察官がフランスまでシヌシ博士の話を聞きにいったことを意味するから、彼の知で嘱託尋問調書を作成していないはずはない。しかし、その調書は、安部医師の法廷にも、松村氏の法廷にも提出されていなかったこれらの事実は、検察官の手許にある調書の内容が検察官にとって不利なものであるということを意味する。そこで安部医師の弁護団は、裁判所に証拠開示の申し立てをしたところ、やはり検察官の手許にはシヌシ博士の嘱託尋問調書があり、その内容は、予想どおり安部医師に有利なもので、「1984年秋当時安部医師にはエイズ発症とそれによる死亡について予見するに足るエイズ原因ウイルスに関する知識は無かったと思う」という趣旨のものだった。弁護団は、検察官がそのような活動をしていたならば、モンタニエ博士と同じくエイズ原因ウィルスの確定者であるギャロ博士の嘱託尋問調書もあるはずだと考え、証拠開示を申し立てた。結果はシヌシ博士と同様で、予想通り調書はあり、その内容は、安部医師の責任を否定するものだった。

 このように、検察官は、公正な立場で真実を追求することが義務であるにもかかわらず、多額の国費を使ってフランスとアメリカまで行き、エイズ原因ウィルスを確定した研究チームのメンバーの嘱託尋問調書を取り付けておきながら'それが自らの主張に不利な内容であったため、これを隠蔽しようとした。

 検察官のこの事件でも立証活動の姿勢は、公益の代表者であるはずの検察官が、真実を追究するのではなく、被告人に有利な証拠を隠してでも有罪判決を得ようとする場合があることをよく表している。検察官は、刑事裁判の一方当事者であると同時に、公益の代表者として国費を使って真実を追求すべき立場にもある。そのような観点からは、被告人側に有利な証拠の検察官による隠蔽行為は許されるものではない。ちなみに、冒頭で触れた日弁連のオーストラリア調査の際入手した検察局の年次報告には、検察官の役割について「裁判所が真実に到達することを補助すること、及び法律と公正の理論に従って、社会と被疑者と正義が行われるようにすることである」、「正義が公正な方法で行われるようにするべきで、有罪評決をとることが役割ではない」とされていた。

 しかし、日本の現実は、検察官がその当事者的立場にのみ拘り、起訴した事件は99%超が有罪となるという状況の下で、公益の代表者にあるまじき振る舞いをすることがあるということである。そのような現実を見据えたとき、無罪推定の原則、被疑者・被告人の権利の保障を実質化していくことの重要性が理解されるはずである。

 そして、上記のような実例を見れば、公益の代表者として国費をもって収集した検察官手持ち証拠の全面的開示の必要性は明らかであるというべきであろう。

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2007年11月13日 (火)

「市民的自由の広がり」

自由人権協会から2007年11月5日に

「市民的自由の広がり」 社団法人 自由人権協会編 新評論社

が出版されました。医療関係者、一般市民にかかわらず、誰もが関心をもてる内容になっています。大変読む価値のある書籍だと思います。

 米国のアメリカ自由人権協会は、大統領選を左右するほど、市民の関心が高い団体ですが、日本の自由人権協会は、「テレビのワイドショーで、言及されたり、新聞の社会面に登場することは、今のところ、ありません。」「日本ではアメリカほど『人権』が危機的状況にさらされていない」と序文に書かれています。

以下、私にとって興味がある章を列挙します。

「市民的自由の広がり」

はじめに

第1部 人権擁護の国政的広がり

第1章 憲法を実現した人達 海外有権者13年の闘い

第2章 「女性の権利は人権」 グローバル化する世界と女性の人権をめぐって。

・・・

第2部 現代社会における多様な声

・・・

第10章 市民の生活と被疑者・被告人の権利

第11章 代理懐胎の行方

第3部 情報をめぐる権利の諸相

第12章 放送の自由と自律

第13章 取材被害 いわゆるメディア・スクラムの違法性について

第14章 表現の自由のジレンマ

第15章 監視カメラの問題点

第16章 裁判所の情報公開と刑事記録の情報公開

・・・

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