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2008年1月

2008年1月23日 (水)

刑事控訴審続報 執筆予定

 刑事控訴審について、ブログを書き始めたところ、閲覧数が増えています。現在、訴訟に必要な重要な書類を作成していますので、来週以降に続報を小出しに書いていこうと思います。(あるブログの読者に、大作を数少なく書くより小出しにして回数を多くした方がよいのではとの意見もいただきましたので)

執筆予定

1. エセ・ブラックジャックとお金の話

 「この手術室にゼニが埋まっている」-高貴なる義務はどこに

2.エセ・ブラックジャックと学会と経歴詐称

 「『学会いわば寡頭制に陥った組織による3学会報告書』より『女子医大内部報告書』が役に立つ」-心臓血管外科学会より女子医大大学幹部

3.エセ・ブラックジャックの冠動脈吻合

 ビデオが可動されていなかったことを知り、吻合途中で糸を切り再吻合。患者死亡。

 「・・ビデオの撮影スイッチがオフになったままであることに気づいた。・・・丁川医師は、被告に対し、「すいません、撮れてませんでした。」と告げた。被告は、丁川医師の顔を見て、えっという表情を浮かべ、いらいらした様子を見せながら縫合をさらに二、三針進めた後、縫合する手を止め、数秒間考える様子を見せた後、縫合していた糸を切ったが、一度針をかけて糸を通した冠状動脈の辺縁はぼろぼろの状態となっていた。その後、被告は、グフトと動脈の再度の吻合を行った。医師らは、被告が上記のとおり吻合の途中で縫合の糸を切って吻合をやり直したことにつき、・・・ビデオ撮影がされていなかったことから改めてビデオを撮影するため吻合をやり直したのではないかとの印象があった。(10000人が10000人ともにそう思うだろう)・・・被告は、最初の縫合は吻合の具合が悪かったために糸を切り、吻合をやり直したと説明。(そんなことをした心臓外科医は世の中に二人はいないだろう)。なお、丙山は手術後5日目に死亡したが、その死因は脳出血によるもとされた。

4.エセ・ブラックジャックと”破裂”心臓外科テクニック

 「人工心肺技士に送血を止めろ,どうしたんだという前に、送血管をクランプするのは全世界の心臓外科医に共通」-回路が破裂して『全世界の心臓外科医』は訴えられる

5.エセ・ブラックジャックの間違えだらけの解剖学

 「下大静脈弁は、脱血管の逆流防止に役立つ。脳以外の静脈には弁がある。」-医学部1年目で習う明らかな嘘

6・エセ・ブラックジャックの間違えだれけの物理学

「女子医大内部報告書の『圧の不等式』を支持」-中学生も大笑い

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2008年1月19日 (土)

第5回控訴審速報 その2 「当てずっぽう」「いい加減な性格の」証人の供述の変遷と信用性

「証人の供述等の変遷」目次

はじめに

1.平成16年12月15日 東京地方裁判所において

2.平成17年 1月31日 東京地方裁判所において

3.平成1712 1日(「無罪判決」翌日の言い訳)

4.平成18年 2月17日 東京地方検察庁において(検察側証拠 不同意)

5.平成19年 7月 4日 東京高等裁判所において

6.平成20年 1月16日東京高等裁判所において

参考

http://d.hatena.ne.jp/suehiro3721p/20040806#1091796554

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/01/5_de20.html

はじめに

一般に供述の変遷は、それだけで供述内容の信用性を減殺されます。目まぐるしく変転している場合には、供述全体について信用性を認めることができません。ましてや、他の民事裁判で、「真実でない、真実と誤ってしまう相当性もない」と判断され人間であれば、なおさらでしょう。

なお、証人は自分について、a「当てずっぽう」b「いい加減な性格c「単なる空想」「自分勝手ないいとこどり」と自己評価しています。自分で自分は信用性がないと宣伝しているようなものです。

a「当てずっぽう」―控訴審第3回公判(証人と弁護人のやりとりより)

(証人以下、証人の供述等はこの色文字)・・・そういった麻酔記録からの確たる根拠としての10分間という話ではないのであって,大体の当てずっぽうで想定で10分くらいではないかと言ったと言われればそのとおりであります。

     ・・

(弁護人)証人は現在は10分程度人工心肺が止まったというふうにお考えなんですか,それとももう10分についてもかなり当てずっぽうに近いものだというようなお考えなんですか。

先ほど申しましたけど,本件の事象がとにかく逆流も生じ,それが例えば最低限どれくらい起こればこういったことが説明できるのか,逆流の程度ということが何分間生じた,そういったデュレーションにかかわってくると思うんですけれども,恐らく5分以内,そういった逆流が生じ始め,・・・5分と10分,あるいはそれ以上なのか,そのような印象ですね,それを喜田村先生がおっしゃるように当てずっぽうと言われれば当てずっぽうなんですけれども私としては思っている次第です。

当てずっぽうと言ったのは私が最初じゃありませんからね,その点だけは確認しておきます。(喜田村先生も、楽しいこといってくれますね。-管理人)

b「いい加減な性格」-控訴審第4回公判(証人の麻酔記録に対する態度)

「正直申し上げて,ここの記載がどの程度であるかというのは,僕自身のいい加減な性格なのでしょうか,全く気にはしていませんでした。」

c「単なる空想」「自分勝手ないいとこどり」」控訴審第4回公判(弁護人に対する証人の返答より)

「・・・だからといって単なる空想をそのままに,そうかもしれませんね,そうかもしれませんね,では真実の解明からは当然程遠い,だれかが被るべきでない不利益を被るということもあり得るわけで,私としましては本日も前回もずっといろいろと喜田村先生のほうからそういった時系列うんぬんに関して尋ねられておりまして四苦八苦しながらお答えしているというのは明らかであり,よく皆さん御理解いただいていると思うんですけれども,なかなかその点に関して正直申し上げて確証を持ってこうだと言うことはできないし,余りこういった記録からこれが事実に違いないというのは僕自身,自分の勝手ないいとこ取りだけしておまえの勝手な考えを作りやがってと言われるかもしれませんけれども,そうなると本当に自己矛盾ではあるんですけれども,意味がないというよりも,非常に,どう考えても困難さにぶち当たるのではないかと思うのですけれども。」

これに対して、一回供述したことに対して、その供述に嘘がないことを確認した場合はどうでしょうか。

 以下同じ証人の供述などを考察してみます。

前提として、争点は「フィルターの閉塞は予見可能かどうか」ということでした。」フィルターが、薬事法上違反のものが使用されていたとか、一回限りの使用法のものを繰り返し使用していたことは、無視されて尋問されています。

1.平成16年12月15日 東京地方裁判所において

「(検察官)つまり私が聞きたいのは、今、証人がおっしゃったような、そのガスフィルターの特性とか、あるいは陰圧回路に関する基本的な理解、これがあれば、現実に起こるかどうかは置いておくとして、こういう事態になるだろうなということは予測できるかどうかということなんですが、それはできるというお話でよろしいんでしょうか。

・・・興味本位的に水を流したらどうなるかというふうな、正に興味本位な実験みたいなものですから、そのときに、ある人は、いや水が通るんじゃない、ある人は、やっぱり水通さないんじゃないというふうな、いわゆる教育テレビでやってるような小学生の理科の実験のような、そういうふうなレベルじゃないかなと僕は思うんですけ。だから、医学的知識を持って通常に考えて、絶対にこんなものは水を通さないというふうに、今日思うかもしれないけれどもあしたは思わないかもしれないというふうなレベルであって、思うにしても、それなりの、目が細かいし、本来水を通さないわけだから、そこに湿った空気、あるいは結露、あるいは水が流れてくれば、恐らく遮断されるんじゃないかというふうな印象は、まあ持つんじゃないかなとは思うんですけどもね」(原審45回30頁)

「(検察官)・・・そこが、結露がもし生じたとしたら、その結露によって詰まってしまうということは予想できたと思いますか

予想・・・、詰まるだろうなということでは、さっきも言いましたけれども、正直申し上げて、ないと思います。そういう意味では予想ではないんですけれども  ・・・」(原審45回31頁)

    「(検察官)今証人がちょっとおっしゃった脱血が止まるというのは、そういうことをおっしゃっているんでしょうか。

そうです。しかし、ここにも落差が存在しますので、どの程度の落差が機能する、あるいは全くしないのか、これはだれにも予想つかない状況になると。

そこについては証人は分からないと、落差が効くのか、効かないのかということですね。

だから、その状況は分からないけれども、その状況が分からないという状況に立たされてしまうということは予測できるということです」(原審45回33頁)

    「(検察官)今証人に見ていただいているような陰圧の回路を見せられたりしたとしたら、ガスフィルターが回路内の結露によって閉塞することを予想できたかどうかということについては証人はどう思いますか。

・・・閉塞といいましても完全にぴたっと閉塞するのか、あるいは、すごく抵抗はあるけれども、ちょろちょろとは気体がまだ通過するのか分からないんですけれども、・・・。

予想できないというのは、フィルターが詰まっちゃった後がどうなるかということをおっしゃっているんですか。

        そうです。・・・一体全体、どういうふうな状況になっていくのかというのは、正確に、あるいは常識として必ず詰まるんだというふうな結論をみんなが持ったとは思いませんが、しかし、そこで、いや、結露して完全に閉塞して詰まったんだよというふうなことに対しては、ああ、それはそうだね、当然そういうことが起こるだろうねというふうな認識はみんな持ったと思います(原審45回33~34頁)

2.平成17年1月31日 東京地方裁判所において

「(弁護人)主尋問で、ガスフィルターということについていろいろお答えになってましたけれども、先生が主尋問でお答えになっていたガスフィルターということを想定してお答えいただいて結構なんですけれども、水蒸気になっているときにそのガスフィルターを通過するかどうかは、どうでしょう。

・・・ただ水蒸気が通過しない、完全にトラップされるという現象が起こっても不思議ではないし、通過するという事実を結果として見せられても、なるほどそうかなと思う事実でもあるし・・・したがって、可能性の問題としてどちらとも言える、通過するかしないかはやってみないと分からないというのが答えです」(原審46回10頁)

「(弁護人)前回の御証言ですけども、水を通すかどうかということに関連して、絶対にこんなものは水を通さないというふうに、今日思うかもしれないけれども、あした思わないかもしれないというふうなレベルということを、前回調書30ページでおっしゃっておられるんですけれども、まあ、詰まる可能性はあるけれども、詰まると確定的には言えないということなんですか、もう少しかみ砕いて説明していただけませんか、ここを。

そのとおりなんですけれども。・・・詰まるのか詰まらないのか、どの程度で、じゃあ、詰まるのかということに関しての、実際の予測に関しては、事前には全く分からない、想像の域を出ない、つまり、詰まったとしても不思議はないし、いや、水蒸気、がんがん流れていきましたけど、フィルターは全く詰まらなかったですよというふうな事態が起こったとしても、ああ、それはそういうものなのかなというふうに考えるであろうという内容の、僕の趣旨の証言です」(原審45回18頁)

詰まるか詰まらないかも、まあ、両様に考えられるし、仮に詰まるとした場合に、どの程度の水の量で詰まるのかについても、お分かりにならないというふうにお聞きしていいんですね。

ええ、そのとおりです。ただし、フィルターですから、それが水であろうが何であろうが、フィルターをそこに置いた限りにおいては、何らかの影響で詰まってしまう、あるいは場合によっては、めちゃくちゃ極論ですけれども、製品が不備であって、最初から何も通さない、そんなフィルターが、箱を開けてくっつけたら、存在するかもしれないぐらいの、つまり、フィルターというものは詰まる可能性のあるものであって、それに関しては、詰まる可能性があるというふうに、可能性に関しては厳然として存在するものだというふうに思いますけれども。

    同じく主尋問のお答えですが、34ページですが、閉塞といいましても完全にぴたっと閉塞するのか、あるいは、すごく抵抗はあるけれども、ちょろちょろとは気体がまだ通過するのか分からないんですけれども、そういう、とにかく予測できない事態であるということをおっしゃっておられますけれども、閉塞するかどうか、それが部分的かどうかということについても分からないということですね

はい、全くそのとおりです

仮に、詰まってるということがあると仮定して、徐々に詰まっていくのかどうか、あるいは、いきなり詰まるのかということについてはどうでしょうか。お分かりになりますか。

これも分からないと思います。・・・どれぐらい詰めれば、全体の外形的な機能というものがなくなる、つまり、完全に詰まってしまう、あるいは、流れにくいものになっているのかという程度に関しても分からないと思います。

仮に徐々に詰まっていくというようなことがあったとして、その間、脱血がどうなるのか、影響があるのかないのかというようなことについては、何かお分かりになりますか。

最初から申し上げておりますように、この吸引補助脱血に関しては、概念で理解していただけでありますし、また、実際に自分で人工心肺を操作したことがないということもあるんですけれども、フィルターが詰まったという状況で、実際に、次にどういう現象が、どういう形で起こっていくのかということに関しては、僕自身の今の知識からすると、すぐに頭の中に浮かんでくるものではないと思います。つまり、それは、その場の現象として何が起こるかというのは、具体的に余り想像できないということです。

主尋問のお答えをお聞きしてますと、仮に詰まったとして、脱血が全体としてできなくなるのか、落差だけはできるのかというようなことについても分からないというようなお答えかなと思ったんですが、そういう理解でよろしいですか。

はい、そのとおりです

34ページのところですが、常識として必ず詰まるんだというふうな結論をみんなが持ったとは思わないけれども、結露して完全に閉塞して詰まったんだよというふうなことに対しては、ああ、それはそうだね、当然そういうことが起こるだろうねというふうな認識はみんな持ったと思いますと、こういうお答えなんですけれども、振り返ってみれば、当然そういうこともあるだろうねと、こういうことですかね

まあ、そういう御趣旨の質問ですと、そのとおりということです・・・湿度の高い空気がフィルターにどんどん流れていくことによって、フィルターは、ガスフィルターは詰まる可能性があるということに関しては、多くの人は知らなかったし、想像もつかなかったかもしれないけれども、実際にこういうことがあったんだという事実を突き付けられれば、なるほど、そういうこともあるんだろうなとういふうに理解するだろうということです」(原審46回17~20頁)

3.平成17121日(無罪判決翌日=弁護側証拠 第1号)

前略

11月30日の無罪判決につきまして、おめでとうございます。

当方のことを、「検察に迎合したお調子者」と評価されているかもしれません。

が、テレビで佐藤先生の顔を見て、自分なりの言葉を伝えたいと思い、お手紙差し上げた次第です。あえて今回の判決の意義を申し上げますと、まず、「個人の勝利」が挙げられると思います。裁判の内容や事件の性質は別として、孤立無援の状態で、ほとんど徒手空拳で裁判を戦い抜いた佐藤医師の根性は、誰もが目を見張ることでしょう.昨年の暮れ、検察から裁判の話を聞いたとき、そして初めて電話で話したとき、当方は孤軍奮闘する佐藤医師の熱気に圧倒されました。おそらく自分であったら、「もうどうでもええわ…」となっていたことでしょう。そうさせなかったパワーはどこにあるのか、誰もが尊敬するところでしょう。そしてそれは「無罪判決」として結実したようです。

大学病院から「切られた」かたちで戦い抜いた佐藤医師を批判する人はいないと思います。報道も「操作した佐藤医師」ではなく大学病院に批判が向けられています。

おそらく佐藤先生には「自分としてはやるだけやったから結果はどうでもいい」と言う感じの、投げやりではない、充実感ゆえの達観した気分で判決を迎えたのではないでしょうか。テレビで見受けられた「高ぶらない」表情から、そんな心境が読み取れました。

全部が自分に敵として向かってきている、当事者である大学組織が自分をのけ者にして忘れ去ろうとしている。これに対する憤りは誰もが容易に理解できるものですが、実際に行動を起こす人はいないでしょうし、起こせる立場にいる人もいないと思います。

今回の判決は一般論として、医療現場において「事故が事故として、結果だけで判断されず、しっかりと責任の所在が「組織にある」と認められたこと」で、組織が責任逃れすることはできないという前例を作ったことになりますが、それ以上に、一人の医師の孤軍奮闘振りには、杜会は無言で、畏敬の念を抱いていることは間違いありません。

地獄を見た奴は強い、地獄から帰ってきた奴には勝てない!見たくてみた地獄ではないでしょうが、これからの佐藤医師の人生にとって絶大なるパワーの源となることはまちがありません。ご自分でも気がつかないでいる、自分の中に備わった無限のパワーがこれから先の将来、随所で威力を発揮することでしょう。楽しみにできるのではないでしょうか。そして、これからは今までの100万倍も充実した時間を過ごされることを確信する次第で

す。

草々

4.平成18年2月17日 東京地方検察庁において(検察側証拠 不同意)

1.昨年の11月末に,今回の東京女子医大で起きた事件で無罪判決が出た後,検事から,判決文の写しを送ってもらい、私の証言に対する判決の評価を見ました。

 率直に言って,その判決を読んでとても心外だったというのが私の感想です。というのも,私としては,今回の事件を知る前の私の知識や経験からして,仮に,私自身が本件手術で使われた人工心肺回路を操作する立場に立たされた場合には,ガスフィルターが水や水蒸気を多く含む湿った空気によって詰まる可能性があるので,危険であると感じたはずであると証言したつもりでした。

 しかし,判決文によると,裁判官には私の証言の趣旨が正確には理解されなかったようで,ガスフィルターが詰まるという事態が発生するであろうという予測をすることができるとした私の証言は,今回の事故が起きた後の事後的な判断にたって,いわば結果論として被告人の佐藤医師の措置を不適切と評するものだと言われてしまいました。

このような判決の私の証言に対する評価については,私としては納得がいきません。

2  私は,証人尋問の際にも述べましたように,本事故の前から,ガスフィルター自体は,気体の中の微少な異物を取り除くという役割を果たす物なので,液体も取り除くであろう,仮に水が引っ張られてくれば、ガスフィルターは詰まるであろうと思っていました。

証言でも例をあげたように,日常生活の中で気体の中の塵などを取り除く役割を果たすフィルターとして思い浮かぶものとして,煙草に付いているフィルターや電気掃除機に付いているフィルターやエアコンに付いているフィルターなどがありますが,これらのフィルターなどを考えてみても,水が流れていくと,全く通過しないのか,それとも少しは通過するのかは,実験してみないと分かりませんが,いずれにしてもフィルターが水びたしになってしまえば,水が邪魔になって詰まってしまい,気体を通さなくなって機材の本来の機能を果たさなくなることは容易に予想できることと思います。また,本件事故前の私の知識によっても,水蒸気を多く含んだ湿度が高い空気がガスフィルターにどんどん流れていくという状況であれば,ガスフィルターの表面で水蒸気が結露して水となり,ガスフィルターが詰まってしまうだろうということは理解していました。

私は大学の医学部時代や医師になってからも,特別物理や化学を深く勉強したという訳ではありませんが,高校時代までに勉強した物理や化学の知識から,水蒸気がガスフィルターで結露して詰まるだろうと理解していました。

ただ,本件事故の前に,私自身が,陰圧吸引補助脱血法によって人工心肺を操作した経験はありませんでしたし,ましてや,東京女子医大の心研で使われていた陰圧吸引補助脱血法の人工心肺を操作した経験もありませんでした。

また,今回の事故の際に使われた人工心肺装置で陰圧吸引補助脱血法を続けた場合でも,一体どれぐらいの時間それを継続すれば,ガスフィルターが水や水蒸気で詰まってしまうのか実験をやって確認したわけでもありませんでした。

・・・

しかし,判決文では私が断定することを避けた部分を過剰にクロ一ズアップし,私の証言の要約として,ガスフィルターは「本来あるべきものではないので,そこに水分が貯まれば閉塞するであろうことは理解できるが、現実にその可能性があるかどうかを予想できるとまでは言いにくいし,水蒸気でガスフィルターが閉塞するかどうかは,やってみなければ分からない」などと要約されてしまったのだと思います。

     ・・

ですから,本件事故の当時私がこの人工心肺を操作する立場にあったならば,ガスフィルターが水や水蒸気によって詰まることを予測ことができたかと聞かれれば,予測することはできたという答えになります。

付録

―ある医療過誤研究家の意見―

「何ですかこのNBという人は!

私が未熟であることも原因なのでしょうが、見事に欺かれました。怒りでキーボード打つ手が震えます。

医療過誤を研究していたこともあり、私も大学医学部の先生方や、一般の開業医の方などとお話する機会が少なからずありましたが、このような方ははじめてです。メディアに対する発言も、多くの医師が医療への信頼を高めようと努力している中で、医師としてあるまじきものではないでしょうか。」

-ある心臓外科医の意見―

NB先生の文ですが、自信過剰で肩で風切って歩く外科医にありがちな、教養を感じさせないつづり間違いだらけのカルテや、慇懃無礼で謙虚さのかけらもない強引なムンテラを想像させるいかにもお粗末な意見書という読後感です。マスコミや似非文化人におだてられているだけなのに、たかだかバイパスという一芸に秀でているという自信が、驚くほど不勉強でも素人をけむに巻いておけばみんな頭を下げるだろう、と高をくくった安易な処世術を構築していていかにも貧しく、これくらいでよかろうという不遜ともいえる傲慢さと低劣な根性が行間に見て取れます。魂の貧困、おいたわしや日本国民。自分で自分を褒めちぎる品格のなさになぜ皆嫌悪を抱かないのでしょう。

5.平成19年7月4日 東京高等裁判所において

自分自身としてはこういった件にたまたま何かの御縁でかかわらせていただいたことに関して,'非常に,自分が心臓外科をやらせていただいてきたことに対する社会に対する恩返しだと思いますし,本件のこういった記録は当然残るものでありますし,第三者の目に残るものでもありましょうし,心臓外科医の同業者が,被告医師でもない,被告人の勤務していた女子医大でもない,私も全く関係ない,あるいは遠い未来に僕の証言を聞いて何らかの感慨を得るであろうという想定の下に,決して偏ったものではない証言を自分としては努めたすもりであります。

    

(通常、宣誓してまで、証言した証人は「決して偏ったものではない証言を自分としては努めたすもりであります。」なんて言う必要がないはずですが、敢えて供述しているのですから、通常はその「逆」で、「自分の言っていることは、通常は、偏った証言に聞こえる」と告白していることになると思います。・・・管理人)

付録

-ある現役検事の傍聴後の意見―

あきれ返って帰ってきた。検事として目が点、というか点々になった。新規の論点など何もないどころか、何故この証言がトップバッターなのか。全く意味不明、自慢話・正義感を交えた証言で、人となりの大体のことは分かった。

―ある医療過誤研究家の意見―

一審からの証言を全て聞いておられる喜田村先生が、法廷で冷静に対応されていた態度にはプロフェッション魂を感じます。もし私が事前に資料を読んでいたら、傍聴席から野次をとばしていたかもしれません。「弁護人によって一蹴」という表現も、あのような思想的な証言は当然弁護人は一蹴するであろうという認識です。」

6.平成20年1月16日東京高等裁判所において(以下、メモと記憶から。概ね以下の通り)

(弁護人)地裁での証言で撤回する部分はありますか。

        ありません

すべてそのとおりと理解してよいですか。

        はい

検察官の、『つまり私が聞きたいのは、今、証人がおっしゃったような、そのガスフィルターの特性とか、あるいは陰圧回路に関する基本的な理解、これがあれば、現実に起こるかどうかは置いておくとして、こういう事態になるだろうなということは予測できるかどうかということなんですが、それはできるというお話でよろしいんでしょうか。』という尋問に対して、『だから、医学的知識を持って通常に考えて、絶対にこんなものは水を通さないというふうに、今日思うかもしれないけれどもあしたは思わないかもしれないというふうなレベル』とこれでよいですね。

        はい。

「検察官の・・『そこが、結露がもし生じたとしたら、その結露によって詰まってしまうということは予想できたと思いますか。尋問に対して『予想・・・、詰まるだろうなということでは、さっきも言いましたけれども、正直申し上げて、ないと思います。』と答えていますが、その通りですね。

        はい

「検察官の、『今証人がちょっとおっしゃった脱血が止まるというのは、そういうことをおしゃっているんでしょうか。』に対して『そうです。しかし、ここにも落差が存在しますので、どの程度の落差が機能する、あるいは全くしないのか、これはだれにも予想つかない状況になると。そこについては証人は分からないと、落差が効くのか、効かないのかということですね。だから、その状況は分からないけれども、その状況が分からないという状況に立たされてしまうということは予測できるということです』と答えていますがそれでよいですね。

        はい

「検察官の、『予想できないというのは、フィルターが詰まっちゃった後がどうなるかということをおっしゃっているんですか。』の尋問に『そうです。・・・一体全体、どういうふうな状況になっていくのかというのは、正確に、あるいは常識として必ず詰まるんだというふうな結論をみんなが持ったとは思いませんが、しかし、そこで、いや、結露して完全に閉塞して詰まったんだよというふうなことに対しては、ああ、それはそうだね、当然そういうことが起こるだろうねというふうな認識はみんな持ったと思います』と答えましたが、これでよいですね。

        はい

「私の『水蒸気になっているときにそのガスフィルターを通過するかどうかは、どうでしょう。』に対して、『通過するかしないかはやってみないと分からないというのが答えです』と答えましたね。

        はい

「私の『前回の御証言ですけども、水を通すかどうかということに関連して、絶対にこんなものは水を通さないというふうに、今日思うかもしれないけれども、あした思わないかもしれないというふうなレベルということを、前回調書30ページでおっしゃっておられるんですけれども、まあ、詰まる可能性はあるけれども、詰まると確定的には言えないということなんですか、もう少しかみ砕いて説明していただけませんか』に対して『詰まるのか詰まらないのか、どの程度で、じゃあ、詰まるのかということに関しての、実際の予測に関しては、事前には全く分からない、想像の域を出ない、つまり、詰まったとしても不思議はないし、いや、水蒸気、がんがん流れていきましたけど、フィルターは全く詰まらなかったですよというふうな事態が起こったとしても、ああ、それはそういうものなのかなというふうに考えるであろうという内容の、僕の趣旨の証言です』でよいですね。

        はい

『閉塞するかどうか、それが部分的かどうかということについても分からないというこですね。』に対して『はい、全くそのとおりです。』でよいですね。

        はい

仮に徐々に詰まっていくというようなことがあったとして、その間、脱血がどうなるのか、影響があるのかないのかというようなことについては、何かお分かりになりますか。』に対して『最初から申し上げておりますように、この吸引補助脱血に関しては、概念で理解していただけでありますし、また、実際に自分で人工心肺を操作したことがないということもあるんですけれども、フィルターが詰まったという状況で、実際に、次にどういう現象が、どういう形で起こっていくのかということに関しては、僕自身の今の知識からすると、すぐに頭の中に浮かんでくるものではないと思います。つまり、それは、その場の現象として何が起こるかというのは、具体的に余り想像できないということです。』でよいですね。

        はい

『主尋問のお答えをお聞きしてますと、仮に詰まったとして、脱血が全体としてできなくなるのか、落差だけはできるのかというようなことについても分からないというようなお答えかなと思ったんですが、そういう理解でよろしいですか。』に対して『はい、そのとおりです。』でよいですね。

        はい

『34ページのところですが、常識として必ず詰まるんだというふうな結論をみんなが持ったとは思わないけれども、結露して完全に閉塞して詰まったんだよというふうなことに対しては、ああ、それはそうだね、当然そういうことが起こるだろうねというふうな認識はみんな持ったと思いますと、こういうお答えなんですけれども、振り返ってみれば、当然そういうこともあるだろうねと、こういうことですかね。』に対して『まあ、そういう御趣旨の質問ですと、そのとおりということです・・・湿度の高い空気がフィルターにどんどん流れていくことによって、フィルターは、ガスフィルターは詰まる可能性があるということに関しては、多くの人は知らなかったし、想像もつかなかったかもしれないけれども、実際にこういうことがあったんだという事実を突き付けられれば、なるほど、そういうこともあるんだろうなとういふうに理解するだろうということです」』でよいですね。

        はい

(さすがに、自らが一審で証言したことを否定はできなかったということです-管理人。)

まだまだ資料の山

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2008年1月17日 (木)

検察官の異議申し立ては棄却! 第5回控訴審速報 自ら報告

1.本日の控訴審でのやりとり-検察官、裁判長に叱責される

弁護人 弁護側証拠第9号証 「横浜地裁2004年8月4日判決」(巻末添付)を証人に示します。この判決では、「勤務医が、自分の勤めている病時の医療過誤により死亡した元患者の遺族に協力したため解雇された等と発言したため、病院がこの勤務医を名誉毀損で訴えた事案。判決では、この勤務医が無断で他の病院でアルバイトをしたり、ベンツの供与を受けていることが発覚したために退職を求められ、本人もこれを了承して退職したと認定し、勤務医の発言は真実ではなく、真実と信じるについて相当の理由もないとして名誉毀損の成立を認めた。」とありますが、この、被告は証人ですか?

という尋問をしようとして、証拠を検察側証人に提示したところ。

検察官 異議があります。弁護人は何を立証したいのですか。意図がないので尋問はさせない旨の発言。

裁判長 よいですよ。尋問を認めます。弁護人の尋問を認めます。

検察官 何を立証しようとしているのか。

弁護人 この判決と証人の同一性です。

検察官 同一性というのは、この判決を書いたのは証人かどうか・・・。

裁判長 (相当な勢いで、検察官をにらみつけて、)いいですよ。弁護人続けてください。

検察官 ですから、同一性・・・

弁護人 今、検察官は、裁判長から異議の申し立てを棄却されたはずですが、・・

検察官 棄却とはいわれていない・・・

(とうとう冷静な裁判長も爆発。叱責するように)

裁判長 何いっているのですか。とにかく、検察官のいうことは認めません。弁護人続けて。

弁護人 はい。・・・

といった流れ。痛快。さすがに検察官は、校長先生に睨まれて、廊下に立たされて「しゅん」となった男子小学生のようでした。

検察官は、弁護人がこれから、尋問や主張をしようとするときに、先走って尋問内容を勝手に予想して、異議申し立てをすることがあります。もちろん弁護人の尋問というのは、事前に十分練ってからされているものがほとんどですから、落ちはない。当然、ジャッジする立ち場の裁判長は、弁護人の質問を認めます。これは、私の以前のブログ「速報 大野病院初公判傍聴記」http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/post_ace1.html 「14.国民的注目を無視」にも同じような場面があります。

2.被告はいつも「甲野太郎」-判例時報の読み方

 私は、「判例時報」「判例タイムス」「ジュリスト」他相当数の刑事判決、民事判決を読んできましたば、最初は、「あれ、また被告が甲野太郎が被告だ」と疑問に思っていました。今日の証人も知らなかったようです。

弁護人 「勤務医が、自分の勤めている病時の医療過誤により死亡した元患者の遺族に協力したため解雇された等と発言したため、病院がこの勤務医を名誉毀損で訴えた事案。判決では、この勤務医が無断で他の病院でアルバイトをしたり、ベンツの供与を受けていることが発覚したために退職を求められ、本人もこれを了承して退職したと認定し、勤務医の発言は真実ではなく、真実と信じるについて相当の理由もないとして名誉毀損の成立を認めた。」とありますが、この、被告は証人ですか?

証人  えーと、これは、「判例時報」という雑誌のようですが、被告には、「甲野太郎」とありますが、

裁判長 被告の本名を避けるために「甲野太郎」と仮になっているのですよ。

弁護人 要するにここにある「横浜地裁2004年8月4日判決」を受けた被告は証人あなたですか。

証人  (弁護人の尋問には明確な回答せず)仮にこの被告が私だったとすると、弁護人は、このような判決を受ける人間は、この刑事事件の証人として出廷する資格がないといったことを言いたいのかもしれませんが、それでは、なぜ裁判が始まる前に、証人には資格ないとか言ってくれなかったのですか云々(いか本当に涙を浮かべて土下座するような勢いで泣き言をいっているが、意味不明)

弁護側は、証人が客観的に証人にふさわしくないことは、十分主張していた。何しろ証人は、

        本件手術で使用された、陰圧吸引法(人工心肺の脱血法)は、一回も経験したこともなければ、見たことすらない。

        本件1995年頃から開発されて論文で発表されたものなのに、法廷に来る前に論文も読んだことがなければ、この方法を知ったのは、21世紀に入ったころで、それもこの方法を使用している医師から話しを聞いただけ。

        日本心臓血管外科学会や日本人工臓器学会には所属していない。

        一審で重要な証拠となった「3学会報告書」は日本心臓血管外科学会と日本人工臓器学会と日本胸部外科学会によって作成されたものであるが、証人は、日本人工臓器学会は関与しておらず、日本血管外科学会が参加していると思っていた。

        証人は、本件で行われた、小児の第2肋間までの胸骨部分切開の手術経験はない。

        証人が、一審の公判調書(被告公判、相被告人公判、術野医師公判、麻酔医師公判、看護師公判、臨床工学士公判、人工心肺記録者公判等)は、通しで読まずに検察から提示された部分のみしか読んでいない。

等、山のようにあった。検察が、学会の重要人物を検察庁に呼んで話を聞いたことは知られている。もちろん、まっとうな心臓外科医だったら、私に過失にあったという人はいないので、証人として出廷させなかたのであろう。

 今日の証人が決定したときに、私はまた公判が長引いて迅速に裁判を受けられないことに腹を立てていたが、心臓外科の後輩はこういっていた。

「またあの人が出てくるんですか。よかったじゃないですか佐藤先生。あんないい加減なやつのいっていることを裁判官が信ずるはずないですよ。」いわれればそうだが、一審でも出廷した証人がまた出てきて、裁判が長引くことには変わりがない。

3.同一証人の一審公判-すでに種まき

 今日の証人は一審でも公判で証言した。弁護人は、この時点で「弁護側証拠第9号」を入手していたが、一審では提出しなかった。一審公判は50回あり、科学的医学的論証に、このような証拠は全く必要なかったのが大きな理由。だが、品を失いたくなかったというのもある。

ただし、「種まき」はしてあった。法曹界の人のほとんどが読んでいる「判例時報」には、「本判決は、特に目新しい判断を示したものではないが、問題の医師は、人気漫画「ブラックジャックによろしく」に登場する心臓外科医のモデルで、「ブラック・ジャック解体新書」などの著書がある医師であるとして知られ、社会の関心を集めたケースであるので、事例的意義があるものとして紹介する。」とあったので、以下の尋問で十分だった。

 

弁護人 漫画というのかコミックというのかな,「ブラックジャックによろしく」というコミックがありますが,そのモデルに目されているのが先生だと,こういう理解でよろしいでしょうか。

 証人  その中に出てくる,「ブラックジャックによろしく」というコミックの中に出てくる,ある心臓外科医が,まあ,私の現在の状況をヒントに描かれたものであるというふうに僕自身も認識しております。

法曹界ではこの心臓外科医は、無断で他の病院でアルバイトをしたり、ベンツの供与を受けていることが発覚したために退職を求められ、本人もこれを了承して退職したと認定し、勤務医の発言は真実ではなく、真実と信じるについて相当の理由もないとして名誉毀損で敗訴した医者という認識である。

4.傍聴席から

 ある重要な医療事故裁判の弁護団の一員で、私の医療事故裁判をよく研究さえている弁護士さんが、公判終了後に質問されました。

傍聴者 「今日の証人がいっていた、『空気が上大静脈側から頭に逆流して詰まった』という話は、判決は公判でありましたっけ。争点じゃないですよね。」

私   「そんなこと今まで主張した人誰もいませんよ。もちろん検察官もいっていないし、誰一人もいっていません。今日の証人が控訴審になってから勝手にいっている話で、一審ではこの証人すら話してません。」

傍聴者 「本当に変な人ですね。・・・」

控訴審はこのようにして続いています。

(なお、以上の法廷でのやりとりは、メモや記憶に基づくもので、文言は一字一句正確ではありませが、主旨は誤りありません)

控訴審 弁護側証拠 第9号

判例時報 1875号 119-129頁

▽医療法人の経営する病院に勤務する医師が無断アルバイトを理由に退職したにもかかわらず、医療過誤の事実を患者側に伝えて解雇されたなどと週刊誌の取材やテレビで発言した場合、病院の社会的評価を低下させたとして、医療法人の医師に対する損害賠償請求が認容された事例

(損害賠償請求事件 横浜地裁 平成13年(ワ)961

平成1684日 民事第5部判決(控訴<控訴取り下げ>・確定)

 一 X(原告)は、複数の病院及び診療所を設置運営している医療法人であるところ、平成883日付で無断アルバイトが発覚してA病院を退職した医師Y(被告)が、週刊誌の取材やテレビ番組などで、同病院の医療過誤により死亡した元患者の遺族に協力したため解雇されたなどと発言したため、右発言により名誉を毀損されたと主張し、Yに対して、3500万円の損害賠償を請求した。

 これに対し、Yは、(一)Yの発言内容は、真実であるか、真実と信ずるにつき相当の理由があるから、その発言には違法性がなく、また、Yには名誉毀損の故意・過失がない、(二)Yは、突然に解雇され、かつ、虚偽の事実を流布されたことにより名誉を毀損されたものであり、右発言は、これを回復・擁護するために必要なものであったから、違法性はない、などと主張した。

 二 本判決は、(一)Yが無断で他の病院でアルバイトをしたり、ベンツの供与を受けていることが発覚し、院長から退職を求められ、これを了解して退職したのにかかわらず、週刊誌の取材やテレビ番組などで、病院の医療過誤により死亡した元患者の遺族に協力したため解雇されたとの印象を与える発言は、真実であるとは認められず、また、そう信ずるに相当の理由も存在しない、(二)医療過誤事件での出廷する日が近づくと医療法人から執拗な嫌がらせがあり、病院側の代理人が何度も電話をかけてきたりしたとの発言は、真実とは認められず、また、そう信ずるにつき相当の理由も存在しない、(3)病院の医療過誤で患者が死亡しても、その死因などを説明することは病院ではタブーだった旨の発言も、それが真実と認められない以上、公正な意見・論評とは認められない、などと判断したうえ、右発言は、いずれもXの社会的評価を低下させる名誉毀損行為に当たり不法行為が成立するとし、Yに対して、慰謝料400万円と弁護士費用40万円の支払を求める限度で本訴請求を認容した。

 三 人の名誉は、古くローマ法の時代から人格権の中でももっとも重要な権利として不法行為法の保護を受けてきたが、名誉毀損と不法行為の成否については、摘示された事実が真実であると証明されたとき、あるいは真実と信ずるについて相当の理由があるときには、不法行為が成立しないとするのが確定した判例理論である(最一判昭41623民集2051118、本誌45329)

 そこで、本件では、主として、もとA病院に勤務していた医師Yの、同病院の医療過誤により死亡した元患者の遺族に協力したため解雇されたなどとする発言の内容が真実であるかどうかが争われたが、本判決は、関係証拠を検討の上、右発言内容は真実であるとは認められず、また、そう信ずるにつき相当の理由も存在しないと判断し、Yの不法行為責任を肯認した。

 本判決は、特に目新しい判断を示したものではないが、問題の医師は、人気漫画「ブラックジャックによろしく」に登場する心臓外科医のモデルで、「ブラック・ジャック解体新書」などの著書がある医師であるとして知られ、社会の関心を集めたケースであるので、事例的意義があるものとして紹介する。

〈参照条文〉民法709条・710条・723

〈当事者〉

原告                                  医療法人社団 愛心会

同代表者理事長          高橋良裕

同訴訟代理人弁護士        

被告                          甲野太郎

同訴訟代理人弁護士 

【主文】 

一 被告は、原告に対し、440万円及びうち金100万円に対する平成121126日から、うち金150万円に対する平成121224日から、うち金150万円に対する平成1237日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

二 原告のその余の請求を棄却する。

3 訴訟費用はこれを20分し、その3を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

(以下、判決文というものの型どおりに書かれたものを読むと、何が真実であるか判定されたかが、あまりに後から出てくるので飽きてしまいます。

「第三 当裁判所の判断」だけを最初に読むのがコツです。後からじっくり全部を読みましょう。・・・ブログ管理者)

【事実及び理由】

第一 請求

一 被告は、原告に対し、3500万円及びうち金3000万円に対する平成121126日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

二 訴訟費用は被告の負担とする。

三 第一項につき仮執行宣言

第二 事案の概要

 本件は、原告が、平成121126日発行の会報誌「考心」に掲載された被告の寄稿文並びにそのころ被告が取材を受けることにより掲載された同年1224日発行の「読売ウイークリー」の記事及び平成1337日放送の日本テレビ「きょうの出来事」の放送内容に、原告の設置運営する乙山病院(以下「原告病院」という。) における医療過誤により死亡した元患者の遺族に被告が協力したため原告病院を解雇されたなど、原告の社会的評価を低下させる表現が含まれており、被告は故意に原告の名誉を毀損したものであると主張して、被告に対し不法行為に基づく損害賠償として3500万円及びうち3000万円に対する不法行為の日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを請求した事案である。

 前提となる事実(証拠の引用のないものは当事者間に争いがない。) <編注・本誌では証拠の表示は省略ないし割愛します。>

(1) 当事者等

 原告は、医療法人社団徳洲会グループに属する医療法人社団であり、神奈川県下において、原告病院を含む複数の病院及び診療所等を設置運営している。

 被告は、平成510月一日から平成8813日まで原告病院心臓血管外科に勤務していた医師であり、現在は、医療法人社団丙川会の設置運営する丁原病院心臓病センターの心臓外科部長である。

(2) GVHD裁判

ア 平成512月、被告が主治医を務めていた戊田松夫(以下「戊田」という。)は、原告病院において冠状動脈バイパス手術及び僧帽弁置換術を施行され、手術時の出血量が多かったために、血小板輸血を受けた。戊田は、輸血後、移植片対宿主病(GVHD)を発症し、術後14日目に肺炎を併発し、呼吸不全により死亡した。

イ 戊田の遺族は、平成83月ころ、戊田の死亡は日本赤十字社及び原告病院医師の過失によるものであるとして、日本赤十字社及び本訴原告である医療法人社団愛心会に対し損害賠償を求める訴え(以下「GVHD裁判」という。)を横浜地方裁判所に提起した。

ウ 平成101030日、GVHD裁判第=回口頭弁論期日において、被告は、戊田の遺族らの申請証人として出廷し、証言を行った。

エ 平成121117日、横浜地方裁判所は、GVHD裁判につき、日本赤十字社に対する請求を棄却し、本訴原告である医療法人社団愛心会に対し4000万円の支払を命じる判決を言い渡した。本訴原告は上記判決に対して控訴せず、上記判決は確定した。

(3) 被告の退職

 被告は、原告病院を平成8813日付けで退職した。

(4) 「考心」掲載内容

「考心」は、被告による心臓外科手術を受けた患者及びその家族らにより構成される「心臓手術後の生活を考える会」(略称「考心会」)の会報誌である。

 平成121126日付「考心」には、下記の部分を含む被告の寄稿文が掲載された。

(ア) ある裁判の判決が20001117日にありました。「GVHD裁判」と呼ばれる裁判です。私はこの裁判に大きくかかわって来ました。

(イ) 私が甲田市の徳洲会病院に赴任してまもなく、冠状動脈バイパス手術と僧帽弁置換術をお受けになったM氏が、術後十四日目に肺炎で亡くなられました。直接の死因は肺炎ですが、GVHDという輸血による合併症を発症した状態での死亡でした。

(ウ) S医師はその後、私がその甲田市の病院を突然に解雇された直後、その病院の常勤医師になりましたが、当時外部医療機関に勤務していたS医師がM氏を執刀したのは病院の方針でした。

(エ) M氏のご遺族は日赤と徳洲会を相手取り訴訟を提訴されました。

(オ) 私は甲田市の病院の院長から「どうして事実を家族に話したんだ!おまえはそういうところがまだまだ未熟な人間だ!」と叱られました。

(カ) 当時、GVHDで患者が死亡しても、まともに死因などを説明する医師は日本にはいなかったようです。またそうすることはむしろ医師社会、特に営利や選挙活動を主体とする病院ではタブーだったのです。私は同じ年の7月に甲田市の病院から突然クビを言い渡されました。私が現在の病院に移ってしばらくして、異例なことですが、原告側の裁判の証人として私は出廷することになりました。

(キ)出廷する日が近づくと徳洲会からの執拗な嫌がらせが丁原病院に勤務する私や病院を襲いました。徳洲会弁護士のI氏からは何度も電話がかかってきました。

(ク)M氏の裁判は日赤を動かし、多くの人の命を救ったといえます(私はクビになりましたが)

(5) 「読売ウイークリー」掲載内容

 読売新聞社は、平成121224日付け発行の「読売ウイークリー」に、「白い巨塔と闘う」「医師たちの良心」「医療ミスで証言台に立つ勇気」と題して、下記の部分を含む記事を掲載した。

(ア) Mさん(当時65)19931229日、神奈川県甲田市の総合病院で、HIV感染と思い込んだまま亡くなった。

(イ) Mさんは狭心症のため、同病院で冠状動脈バイパス手術を受けた。同病院は、近隣の大学病院からも患者が紹介されてくるような、全国的にも心臓外科の最先端をいく病院として知られており、Mさんもほかの病院から転院してきた。主治医は、赴任したばかりの福山晴夫医師(仮名=42)で、実際に執刀したのは、当時、他の病院に勤務していた同病院顧問のS医師だった。

(ウ) 福山医師は意を決し、遺族に対してGVHDだったことを明かし、次の3点を説明した。①輸血で起こるかも知れないGVHDという合併症のことは、85年ごろから医師の間では周知の事実だったこと②そういった危険な輸血成分(血小板)の投与に関与した自分にも責任があること③いったんGVHDになると有効な治療法はないが、日赤、あるいは病院が事前に放射線照射をしていれば、予防できた可能性が強い。だが、この病院は照射装置を備えていなかったこと。

(エ) 病院の院長は、福山医師に対して「どうして事実を家族に話したんだ!お前のそういうところが未熟なんだ」と、烈火のごとく怒鳴りまくったという。同年7月には、「君の手術は、だれも手伝わない」と院長から事実上の解雇宣告を受けた。

(オ) そして、その二年後。同じ神奈川県内の病院に移っていた福山医師は、原告側の証人として出廷することを申請された。出廷する日が近づくと、福山医師の周辺で、医療機器納入業者などが事実無根のイヤガラセ情報を流したり、病院側の代理人が何度も電話をかけてきたりしたそうだ。

(6) 「きょうの出来事」放送内容

日本テレビは、平成1337日、「きょうの出来事」中で、「医療ミスで患者を死なせてしまった医師。遺族に全てを話し、病院を追われた彼は、ある決断をします。医師と患者、そして病院のあるべき姿とは。今日の特集です。」とのアナウンスの後に、「8年前、ある病院で患者の死亡事故がありました。原因は医療ミス。遺族に真実を告白した医師は病院を追われてしまいます。患者に対する責任を自らに問い続けた一人の医師を取材しました。」とのナレーションを入れ、被告本人の説明する映像を交え、GVHD裁判及びこれに被告が協力したことを紹介する内容の番組を放映した。上記番組中には、「ある日、甲野医師が出勤すると、机の上には何もなくなっていた。病院の院長は、『君の手術にはもう誰も協力しない。』と告げたという。事実上の解雇通告だった。」とのナレーションが入る部分があった。

二 争点

(1) 「考心」、「読売ウイークリー」及び「きょうの出来事」の表現は原告の社会的評価を低下させる名誉毀損にあたるか。

(2) 上記各表現は真実であり若しくは真実と信ずるにつき相当の理由があるか。また、公共の利害に関する事実にかかり、公共の利益を図る目的でなされたものか。

(3) 被告が、上記各表現を行い若しくは各表現の情報を報道機関に提供したのは、原告の行為によって損なわれた被告自身の名誉の擁護・回復のためになされた必要範囲内の行為か。

(4) 「読売ウイークリー」掲載内容及び「きょうの出来事」放送内容につき、被告による報道機関への情報提供行為との間に相当因果関係があるか。

(5) 損害の発生の有無及び損害の発生があるとすればその額。

三 争点に対する当事者の主張

(1) 争点(1)について

(原告)

 上記第二の一「前提となる事実」(4)ないし(6)の各記事ないし放送内容のうち、名誉毀損にあたるのは以下の部分(以下、下記アないしウを「本件表現」という。)である。

ア 「考心」について

(ア) 「私がその甲田市の病院を突然に解雇された」

(イ) 「私は甲田市の病院の院長から『どうして事実を家族に話したんだ!おまえはそういうところがまだまだ未熟な人間だ!』と叱られました。」

(ウ) 「またそうすることはむしろ医師社会、特に営利や選挙活動を主体とする病院ではタブーだったのです。」

(エ) 「私は同じ年の7月に甲田市の病院から突然クビを言い渡されました。」

(オ) 「出廷する日が近づくと徳洲会からの執拗な嫌がらせが丁原病院に勤務する私や病院を襲いました。徳洲会弁護士のI氏からは何度も電話がかかってきました。」

(カ) 「(私はクビになりましたが)

イ 「読売ウイークリー」について

(ア) 「病院からの数々の圧力」

(イ) 「病院の院長は、福山医師に対して『どうして事実を家族に話したんだ!お前のそういうところが未熟なんだ』と、烈火のごとく怒鳴りまくったという。同年7月には、『君の手術は、だれも手伝わない』と院長から事実上の解雇宣告を受けた。」

(ウ) 「出廷する日が近づくと、福山医師の周辺で、医療機器納入業者などが事実無根のイヤガラセ情報を流したり、病院側の代理人が何度も電話をかけてきたりしたそうだ。」

ウ 「きょうの出来事」について

(ア) 「遺族に全てを話し、病院を追われた彼は」

(イ) 「遺族に真実を告白した医師は病院を追われてしまいます。」

(ウ) 「ある日、甲野医師が出勤すると、机の上には何もなくなっていた。病院の院長は、『君の手術にはもう誰も協力しない。』と告げたという。事実上の解雇通告だった。」

 上記のとおり、本件表現は、原告病院において医療過誤が発生したことを前提に、その患者側に協力した医師を叱責し、解雇し、かつ、上記医師が証人として出廷するにあたり嫌がらせ行為を行ったとの内容であるところ、医療過誤につき社会的関心が高まりつつあり、マスコミでも頻繁に取り上げられている社会状況下において、上記のような表現は、原告に対し、医療過誤があった場合に解雇・嫌がらせ等の手段を用いてでも過誤事実を隠蔽する医療機関であるというイメージを植え付けるものであって、原告の医療機関としての信用及び名誉を著しく毀損するものである。よって本件表現は原告の社会的評価を下落させるものであり、名誉毀損行為にあたる。

(被告)

原告の主張を否認する。

「考心」では、被告がGVHD裁判が原因で解雇されたことを明確に述べた部分はなく、このような意味において原告の社会的評価が低下することはない。

 また、本件表現のうち、「考心」掲載文においては被告は原告病院につき「甲田市の病院」と記載してその名称を明らかにせず、「きょうの出来事」の放送においても原告病院の名称及び原告病院を特定しうるような情報は放送されず、「読売ウイークリー」掲載記事においても、原告病院の名称は明らかにされず、被告名すら仮名であって、その掲載内容中に原告病院につながる情報はなかった。

 以上のとおり、本件表現により原告病院を特定することはできず、そうである以上本件表現によって原告の社会的評価が低下することもありえないのであるから、本件表現は名誉穀損にあたらない。

(2) 争点(2)について

(被告)

ア 本件表現のうち事実を摘示した部分については、真実であり、または被告が真実と信ずるにつき相当の理由がある。

 すなわち、①戊田の遺族に対して事実をありのままに話したことで原告病院長の強い叱責を受けたこと、②被告が原告病院長から「君の手術は誰も手伝わない」等と告げられたり、机を無断で片づけられたりしたことにより、やむをえず原告病院を退職したこと、③医療機器納入業者に対して圧力がかかったり、GVHD裁判の証人として出廷する前に病院側代理人から何度も電話がかかってきたりしたこと、④被告が、戊田の遺族に協力したことで原告病院を事実上解雇された(すなわちクビになった)ことは真実であるし、また、そうでなくとも、真実であると信ずるにつき相当の理由がある。特に上記④については、上記①ないし③の事実や、原告が被告の退職理由として挙げる兼職行為が原告において禁止されていた事実や丙山梅子の冠状動脈バイパス手術においてビデオ撮影のために再切開再吻合を行った事実がなく、被告が原告病院を退職しなければならない理由が見当たらないことに照らすと、真実であると被告が信ずることには相当な理由があるものである。

また、本件表現のうち「またそうすることはむしろ医師社会、特に営利や選挙活動を主体とする病院ではタブーだったのです。」との部分については、上記の真実である事実及び真実であると信ずるにつき相当の理由がある事実に基づいた被告自身の公正な意見ないし論評である。

イ 社会一般の人々にとって、医療現場の事実隠蔽体質の有無は、適切な医療を受けるために医療の質を問う前提として、大きな関心事であるから、本件表現行為は公共の利害に係る事実に関する記述・発言である。

 また、被告は、患者に対して説明義務を尽くし、患者に対する医療の透明性を確保し、ひいては医療の質を向上させようとする被告の信念に基づいて寄稿文を作成し、または報道機関への情報提供を行ったから、これらに基づく本件表現は公益を図る目的でなされたものである。

ウ 以上により、本件表現には事実の公共性、目的の公益性及び真実性があり違法性がなく、また、そうでなくとも、真実と信ずるにつき相当の理由があるから被告には名誉毀損の故意・過失がない。

(原告)

ア 被告の主張を否認する。

イ 本件表現のうち事実を摘示した部分は全て虚偽である。すなわち、①被告が戊田の遺族に対して戊田の死因等を話したことにつき、原告病院長が「どうして事実を家族に話したんだ」などと被告を叱責したことはない。原告病院長は、平成512月ころ、被告から、戊田の遺族に対して説明を行ったこと及び訴訟にはならないと思うとの報告を受けた際に、見通しが甘い旨告げたことがあるのみである。また、②被告に退職を迫る方策として原告病院長が「君の手術はもう誰も手伝わない。」旨述べたり、被告の机の上を突然何もない状態にしたりしたこともない。被告が後述する丙山梅子の手術における再吻合の事実を疑われ、原告病院長に問いただされた際に、原告病院長が「そんなことをしていると誰も君の手術を手伝わなくなるぞ。」と話したことや、被告が辞表を提出した後、被告が事実上使用していたカンファレンスルーム机上の原告病院備品類を被告の同僚らが整頓したことがあるのみである。また、③原告病院長はGVHD裁判の進行状況を全く知らず、被告が証人として証言することも知らなかったのであるから、原告が被告に対してGVHD裁判に関して何らかの働きかけを行うことはありえず、従って、被告がGVHD裁判で証人として出廷するにあたり、原告が何らかの圧力を被告に対して加えた事実も一切ない。さらに、④被告が戊田の遺族に協力したことで原告病院を解雇されたという点も事実に反する。被告は、原告病院で禁止されている兼職行為を行っていることにつき再三注意を受けたにもかかわらずこれをやめなかったこと、兼職先からベンツの供与を受けていたことが発覚したこと、及び、丙山梅子の手術において動脈グラフト四カ所のうち一本を吻合中株式会社ゲッツブラザーズ(以下「ゲッツブラーズ」という。)に提供する予に気付き、吻合部分を再切開した上再吻合し、これについて同僚らに非難されたこと等により原告病院にいたたまれなくなって原告病院を自ら退職したものである。

 なお、①ないし④の事実は被告自身が経験した事実そのものであり、真実か否かは被告自身が熟知している事項であるから、真実と信ずる相当な理由が存在することはありえない。

 よって本件表現は虚偽であり、かつ、真実と信ずるについて相当の理由もないものである。

ウ 本件表現は、被告が解雇された理由について摘示するものであるところ、これは被告の個人的な問題であり、事実の公共性は認められない。

また、被告は、GVHD裁判の意義を利用して被告の退職理由にすり替えることにより、被告を正当化・美化する目的で名誉毀損行為を行ったものであり、目的の公益性は認められない。

(3) 争点(3)について

(被告)

 被告は、原告により突然に解雇され、かつ、虚偽の事実を流布されたことにより、名誉を段損されており、本件表現はこれを回復・擁護するために必要なものであった。よって本件表現に違法性はない。

(原告)

 被告の主張を争う。

 被告は、原告病院を退職せざるをえなくなったことを隠蔽・正当化するために本件表現を行ったものである。

(4)争点(4)について

(原告)

 「読売ウイークリー」及び「きょうの出来事」の報道内容は、「考心」とほとんど同一であることから、被告による報道機関への発言及び主張が上記報道内容に直結したものと認められ、被告による情報提供行為と「読売ウイークリー」及び「きょうの出来事」の報道内容との間には相当因果関係が存在する。

 なお、報道機関について当該報道のもととなる情報提供を行った者が、当該情報提供について独自に名誉毀損責任を負うことは十分にあり得ることであり、その場合に、報道機関のみを被告とするか、報道機関とともに情報提供者を被告とするか、あるいは情報提供者のみを被告とするかは、原告による被告選択の問題であって、名誉毀損責任の成否に影響を与えるものではない。

(被告)

 原告の主張を否認する。

 本件において、被告が報道機関に対して提供した情報は、争点②記載の被告の主張するア①ないし③の事実のみであり、④GVHD裁判が退職に影響していることについては不確かな情報として語ったに過ぎないし、「読売ウイークリー」の表現に含まれている「医療機器納入業者などが事実無根のイヤガラセ情報を流した」との事実については、述べたこと自体ない。よって、「読売ウイークリー」及び「きょうの出来事」の報道は被告の情報提供に基づくものではなく、被告の情報提供行為との間に因果関係はない。

 また、「読売ウイークリー」及び「きょうの出来事」については、報道機関は被告に対する取材のほか、種々の取材を行った上で、報道すべき事実を取捨選択し、構成し、かつ、脚色しているのであって、「読売ウイークリー」及び「きょうの出来事」の報道は、各報道機関の責任において独自に行われたものであるから、取材源である被告の情報提供行為と「読売ウイークリー」及び「きょうの出来事」の報道内容との間に相当因果関係はないものである。

(5)争点(5)について

(原告)

 本件表現行為によって原告が被った損害は、本件表現行為の内容が虚偽であること、その影響の大きさ、動機と態様の悪質性等に鑑み、金3000万円を下回らない。

 また、原告は、本訴の提起及び追行を原告訴訟代理人らに委任し、その着手金及び報酬として合計5〇〇万円の支払を約したところ、これも本件表現行為に基づく損害に含まれるものである。

(被告)

 原告の主張を否認する。

 「読売ウイークリー」及び「きょうの出来事」では原告の特定すら困難であり、また、「考心」はごく規模の小さい限定された親睦会の会報誌であるから、本件表現により原告に損害が生じたとは考えられず、かつ、本件表現の前後を通じ、原告病院の入院患者数や売り上げが落ちた事実がないことは原告病院長も自認している。よって原告には本件表現により何らの損害も生じていない。

第三 当裁判所の判断

一 争点(1)について

(1) 「考心」について

ア 上記第二の一「前提となる事実」(4)のとおり、平成121126日付け「考心」掲載文は、原告が名誉段損にあたると主張する表現を含んでおり、かつ、一般の読者が普通の注意と読み方をもって上記表現に接した場合、原告が医療過誤を起こした上、その事実を隠蔽する方針を採り、この方針に従わず医療過誤の事実を患者の遺族に説明した医師を叱責し、かつ解雇し、当該医師の医療過誤訴訟における証言により医療過誤の事実が明らかになることを嫌って執拗な嫌がらせ行為を行ったとの印象を持つものであって、医療機関である原告にとってその社会的評価を低下させるものであると認められる。

イ この点につき、被告は、「考心」において解雇の原因とGVHDの件を明確に関連づける表現はないと主張するが、「考心」掲載文のテーマが「GVHD裁判」であるにもかかわらず、被告が解雇された事実が3箇所にわたって掲載されていること、「死因を説明する医師は日本にはいなかった。」との記載の後に、「そうすることは」「病院ではタブーだったのです。」との記載が続いており、死因を説明したことを病院長から叱責されたとの事実の摘示の後に「突然クビを言い渡された」との記載が続いていること、GVHD裁判の意義を述べた記載の後に「私はクビになりましたが」との記載が続いていることからすれば、原告が名誉毀損にあたると主張する記載部分が、他の部分と相侯って、上記アの印象をその読者に与えるものであることは明らかであって、被告の主張は採用できない。

 また、被告は、「考心」掲載文中で原告の名称は明らかになっておらず原告を特定できないから原告の社会的評価は下落しえないと主張とするが、「考心」掲載文中には「甲田市の徳洲会病院」「徳洲会」との記載があり、これにより原告が明らかに特定されているから、この点についての被告の主張も採用できない。

ウ よって、「考心」における上記表現は、原告の社会的評価を低下させる名誉毀損にあたる。

(2) 「読売ウイークリー」について

 上記第二の一「前提となる事実」(5)のとおり、平成121224日付け「読売ウイークリー」掲載記事は、原告が名誉毀損にあたると主張する表現を含んでおり、一般読者の普通の注意と読み方を基準として上記表現を解釈した場合、上記表現は、表現中に記載された病院につき、「考心」におけると同様の印象を読者に与え、その社会的評価を低下させるものであると認められる。

 そして、「読売ウイークリー」掲載記事には、「神奈川県甲田市の総合病院」「近隣の大学病院からも患者が紹介されてくるような、全国的にも心臓外科の最先端を行く病院」との記載が含まれており、当時甲田市内に心臓外科手術をする総合病院は原告病院以外になかったことから、不特定多数の読者が上記記載により原告病院を特定可能であったと認められるから、「読売ウイークリー」の上記表現は、原告に対する名誉毀損にあたるものである。これに反する被告の主張は採用できない。

(3)「きょうの出来事」について

上記第二の一「前提となる事実」(6)のとおり、平成1237日放送の「きょうの出来事」放送内容は、原告が名誉毀損にあたると主張する表現を含んでおり、上記表現は、一般視聴者が普通の注意と関心をもって上記放送内容を視聴した場合に、放送中に指摘された病院につき、医療ミスについて遺族に真実を告白した医師をこのことを理由に解雇したとの印象をもつものであり、原告の社会的評価を低下させるものであると認められる。

 そして、「きょうの出来事」においては、被告の実名及び被告の映像が放映され、上記病院につき、「8年前」「被告が当時いた病院」との情報が提供されており、被告が複数の大学の講師を務め、講演を行うことも多く、新聞・週刊誌等に名前が出ることもあるなど、心臓外科分野において著名な医師であることや、被告が経歴を公表していることから、上記の情報により、不特定多数の視聴者が原告病院を特定可能であると認められ、「きょうの出来事」の上記表現は原告に対する名誉毀損にあたるものである。これに反する被告の主張は採用できない。

二 争点(2)について

<証拠略>によれば、被告とGVHD裁判との関わりや、被告が原告病院を退職するに至るまでの経緯及びその前後の事情は以下のとおりであったことが認められる。

ア GVHDによる戊田の死亡と被告の遺族への説明

(ア)平成512月、被告が主治医を務めていた戊田が原告病院において冠状動脈バイパス手術及び僧帽弁置換術を受け、出血量が多かったために血小板輸血を受けた数日後から、手術創の周囲が発赤し始めた。このため、被告は、GVHD発症を疑い、原告病院の乙野竹夫院長(以下「乙野院長」という。) にこのことを報告するとともに、同院長の了解のもとに日本赤十字社に確定診断を依頼しその結果、GVHD発症が確定した。被告は、乙野院長にその旨報告し、戊田の家族に対しても病名及び症状について説明した。戊田は、術後14日目に肺炎を併発し、呼吸不全により死亡した。

(イ)戊田の死亡後、被告は、戊田の遺族に対し、戊田の死因がGVHDであることや、放射線照射を行わない血小板を輸血するとGVHDを発症する可能性があるが、輸血用血液の供給元である日本赤十字社でも原告病院でも輸血用血小板について放射線照射を行っていなかったことを説明した。また、被告は、医療現場の実態からして、このような放射線照射を行う責任は日本赤十字社にあり、原告病院にはそのような責任はないとの見解を有しており、戊田の遺族に対してもこのような見解に基づいた説明をした。戊田の遺族らは、被告の了解を得て、このような被告の説明をテープに録音した。

(ウ)被告は、戊田の遺族に対して上記のような説明を行ったことを乙野院長に報告するとともに、輸血用血液に放射線照射を行うべき責任は日本赤十字社にあり原告病院にはないことを遺族に説明したので訴訟にはならないと思うとの意見を述べた。

(エ)乙野院長は、原告病院においては、医療過誤の可能性のある事案に関しては、医師の報告を受け、病院としての対処方針を決定し、この方針に従って対応することとしているので、被告の行動は病院としての対処方針が決定されない段階で、遺族に対し被告の独断で説明を行った点で原告病院の方針に反するものであることを指摘し、この点につき被告を叱った。また、被告が輸血用血液に放射線照射を行うべき責任は日本赤十字社にあり原告病院にはないことを遺族に説明したので訴訟にはならないとの意見を述べたことについては、そのように甘いものではなく、被告の考えは未熟であると述べた。

(オ)その後、乙野院長らと被告の間でGVHDによる戊田の死亡の件が話されることはなかったが、平成83月に至って、戊田の遺族らが原告と日本赤十字社を相手どって訴訟を提起し、その訴状が原告病院に届けられた際に、乙野院長は被告を呼んで、やはり被告が考えたように甘いものではなかったと告げた。ただし、乙野院長は、当時、輸血用血液に放射線照射を行うことは大学病院を含めてほとんど全く行われていなかったことから、原告病院の固有の問題というよりも、日本赤十字社や輸血を行う病院全体の問題であると考えており、また、放射線照射を行うことによりGVHDによる患者の死亡を防ぐことができるなら望ましいことでもあると考えていて、この訴訟対策にはほとんど関与しなかった。

イ 丙山梅子の手術について

(ア)被告は、平成8126日、原告病院において、執刀医として丙山梅子(以下「丙山」という。)に対し冠状動脈バイパス手術を施行した(以下「丙山手術」という。)。上記手術の助手は丁川医師と戊原医師であり、麻酔医は甲川医師であった。

(イ)原告病院においては、手術経過につき手術室上方からビデオ撮影を行うことを常としていたが、被告は、これとは別に、自己の行う心臓外科手術について手術経過の詳細を鏡視下スコープカメラを用いてビデオ撮影することとしていた。また、被告は、原告病院に医療機器を納入する業者であるゲッツブラザーズとの間で、報酬90万円で被告の執刀する動脈グラフトを使用した心臓外科手術手技ビデオ30本を製作して同年3月末日までに同社に提出するとの内容の業務委託契約を締結していた。

(ウ)被告は、丙山手術についても、鏡視下スコープカメラを用いてビデオ撮影することとして、手術中のビデオ操作を丁川医師及び乙原技師に行わせた。丁川医師及び乙原技師は、手術の重要部分のみビデオ撮影を行うこととし、丁川医師が指示して乙原技師がビデオの撮影スイッチの操作を担当した。

(エ)丙山手術は、バイパスグラフトと冠状動脈を四箇所にわたり吻合することを主内容とする難度の高い手術であったところ、被告が上記のうち一箇所の吻合をすべくグラフトと動脈を糸で縫合していた際、乙原技師は上記ビデオの撮影スイッチがオフになったままであることに気づいた。グラフトと動脈の吻合作業は、丙山手術のうち、非常に重要な部分であったので、丁川医師は、被告に対し、「すいません、撮れてませんでした。」と告げた。被告は、丁川医師の顔を見て、えっという表情を浮かべ、いらいらした様子を見せながら縫合をさらに23針進めた後、縫合する手を止め、数秒間考える様子を見せた後、縫合していた糸を切ったが、一度針をかけて糸を通した冠状動脈の辺縁はぼろぼろの状態となっていた。その後、被告は、グラフトと動脈の再度の吻合を行った。

(オ)丙山手術終了後、助手を務めていた丁川医師や戊原医師らは、被告が上記のとおり吻合の途中で縫合の糸を切って吻合をやり直したことにつき、確信は持てないものの、ビデオ撮影がされていなかったことから改めてビデオを撮影するため吻合をやり直したのではないかとの印象があったため、同人らや原告病院心臓外科において同人らとチームを組んでいた丙田医師や丁野医師らとの間で、もし本当にそのような事実であったとすれば残念だと話し合った。なお、丙山は手術後5日目に死亡したが、その死因は脳出血によるもとされた。

(カ)乙野院長は、丙山手術に立ち会った医師らが上記のように話し合っていることをほどなく知り、被告に事情を聞いたが、被告は、最初の縫合は吻合の具合が悪かったために糸を切り、吻合をやり直したと説明し、以後はこのような誤解を受ける行為は決して行わないと述べたことから、乙野院長も、それ以上にこの問題について調査したり、被告の責任を問う動きを見せることはなかった。

ウ アルバイト問題と被告の退職

(ア) 被告は、平成7年末ころ、年内に緊急に心臓外科手術の必要な患者について、原告病院に搬送して手術を行う順番を待っていたのでは年を越してしまうので、被告が手術の助手となる医師や手術用の人工心肺装置を操作する技師らを含む手術チームを伴って丁原病院に赴いて手術を行うことを認めてほしいと乙野院長に申し出た。乙野院長は、この件については緊急の必要性があるとのことで許可したが、あくまでもこの件に限ってのことであって、以後、恒常的に被告が他の医師や技師らを伴って丁原病院に出かけて手術を行うことを許可したわけではなかった。

(イ)ところが、被告はその後も、乙野院長らの許可を得ないまま、原告病院で心臓外科手術を行わない日となっていた木曜日に頻繁に手術チームと連れて丁原病院に出かけて手術を行っては一回あたり約10万円の謝礼を受け取るようになった。また、このような手術に加わった他の医師や臨床工学士らも丁原病院から謝礼を受け取っていた。

(ウ) 乙野院長は、平成84月ころ、被告が原告病院の勤務時間中にこのように頻繁に原告病院の手術チームを連れて丁原病院に出かけて心臓手術を行っていることを知り、被告や他の医師らに対してこのようなアルバイト行為を止めるように強く注意した。これに対し、被告も他の医師らも以後はこのようなことは止める旨述べ、実際に被告以外の医師や技師らはこのようなアルバイト行為を取りやめたが、被告は、その後も単身で病院に出かけて同病院で手配した医師や技師らとともに心臓外科手術を行うことを続けていた。

(エ) 同年6月ころから、原告病院の職員用の駐車場に駐車の登録のなされていないベンツが駐車されていることが問題となり、被告がこれに乗っていたことから、職員が尋ねたところ、被告は自分で買ったものであると答えていた。

 その後、同年723日に原告病院の事務担当者がこの車の登録事項等通知書を取り寄せたところ、丁原病院を設置運営している医療法人社団丙川会が同年425日に登録した車であり、約680万円もするものであることが判明した。そこで、乙野院長が同年83日ころに被告を呼んで、被告はアルバイト行為をまだ継続しているのではないか、また、アルバイト先である丁原病院からベンツを供与されているのではないかと問いただしたところ、被告は、当初は、アルバイト行為はもうしておらず、ベンツは自分で買ったものだと主張していたものの、上記登録事項等通知書を示されると、態度を改め、丁原病院でアルバイト行為を継続していること及びアルバイト先である丁原病院からベンツを供与されていることを認めて陳謝した。

 そして、被告は、今後は丁原病院に出かけて心臓外科手術を行うことを止め、ベンツも返還すると申し出たが、乙野院長は、アルバイト行為をやめるよう注意したにもかかわらずその後も恒常的に他の病院にでかけてアルバイト行いベンツの供与まで受けていた以上、一緒にやっていくことはできないので辞めてもらいたい旨を告げた。すると、被告は、一旦は、「訪問看護でも何でもしますから原告病院において下さい。」などと述べ、涙を流して土下座するなどしたが、乙野院長が、乙野院長個人の判断だけでなく、従前の丙山手術のこともあり、今回のアルバイト問題とあわせて、他の医師や職員らの信頼が失われているので他の医師や職員らとチームワークを組んで仕事をすることができない旨を告げると、被告も退職を受け入れた。

(オ) 被告は、週明けの同月5日、乙野院長に辞表を提出したが、この辞表には、「私こと、甲野太郎は、一身上の都合により、医療法人社団愛心会乙山病院心臓血管外科部長の職を辞任させていただきたく、ここに請願いたします。尚、後任には丙田春夫医師を強く推薦させていただきます。」と記載されていた。

(カ) なお、そのころ、被告が使用していた机から、上記の通り被告がゲッツブラザーズとの間で締結していたビデオ制作に関する業務委託契約書が発見されたことから、乙野院長は、はゲッツラザーズの担当者を原告病院に呼び出し、原告病院に断りなく被告との間でこのような業務委託契約を締結していたことを責め、ゲッツプラザーズは、以後六か月間、原告病院に対する心臓血管外科製品の納入を自粛することとなった。

(キ)被告は、同月31日付で原告病院を退職し、同年1021日、退職金を受領した。

エ 退職後の事情

(ア) 被告は、原告病院を退職した後、同年9月から丁原病院に勤務するようになり、同病院に心臓外科を開設し、心臓外科手術を続けている。

(イ) 被告が原告病院を退職してから約一年半が経過した平成10127日、GVHD裁判の第10回弁論期日において、同裁判の原告であった戊田の遺族らは、被告を証人として申請し、同年728日、同裁判の第四回準備的口頭弁論期日において採用され、同年1030日、同裁判の第11回口頭弁論期日において被告の証人尋問が実施された。被告は、戊田に対する手術の経過、輸血当時のGVHDに対する認識、原告病院にGVHDを予防する放射線照射装置がなかったことや、輸血用血液に対する放射線照射は血液供給元である日本赤十字社が行うべきであると被告自身は考えていること等を証言した。

(ウ) この間、同年415日、ゲッツブラザーズの担当者から、被告に対し、「先生にHeart port訪問/見学をしていただいた件が乙山の戊山技師に伝わり、院内で『ゲッツは何事につけ秘密に裏で行動する会社である。』との批判を受け、やっと一部使用再開していただいた人工弁にも影響すると、営業サイドから相談が持ち込まれました」との内容のメールが送信されたことがあったが、このことが、被告がGVHD裁判で証人申請されていたことと何らかの関連があると認めるべき証拠はない。

(エ)また、同年10月ころ、被告がGVHD裁判において証言を行う前に、丁原病院心臓病センターに徳洲会の弁護士のイケグチと名乗る人物から四回ほど電話があり、被告の秘書が電話を受け、被告に取り次ごうとしたが、被告は電話に出なかった。したがって、この電話がいかなる用件についてであったのかは被告は把握していない。

(2) 上記認定事実に照らして、本件表現の真実性及び真実と信じるについての相当の理由の有無につき以下に順次検討する。

ア 上記認定のとおり、①平成512月、被告が戊田の遺族に対してGVHD発症の原因や日本赤十字社や原告病院の責任の所在等について説明した旨乙野院長に報告した際、同院長が、原告病院においては、医療過誤の可能性ある事案に関しては、医師の報告を受け、病院としての対処方針を決定し、上記方針に従って対応する方針を決定し、上記方針に従って対応することとしているのに、被告の行動は病院としての対処方針が決定されない段階で、遺族に対し責任の所在にも及んだ説明を行った点で、原告病院の方針に反するものである点を指摘し、この点につき被告を叱ったこと、②被告が輸血用血液に放射線照射を行うべき責任は原告病院にはないことを遺族に説明したので訴訟にはならないとの意見を述べたことについては、そのように甘いものではなく、被告の考えは未熟であると述べたこと、③その後、平成83月に至って、戊田の遺族らが原告と日本赤十字社を相手取って訴訟を提起し、その訴状が原告病院に届けられた際に、乙野院長が被告を呼んで、やはり被告が考えたように甘いものではなかったと告げたことは、いずれも事実である。しかし、このような乙野院長の発言は、GVHD発症の原因を遺族に隠蔽すべきであるとの立場に立って、被告がGVHD発症の原因を遺族に説明したこと自体を叱責したり、未熟な人間であると非難したものでなかったことは明らかである。従って、本件表現中の、「私は甲田市の病院の院長から『どうして事実を家族に話したんだ!おまえはそういうところがまだまだ未熟な人間だ!』と叱られました。」との記載(「考心」)及び「病院の院長は、福山医師に対して『どうして事実を家族に話したんだ!お前のそういうところが未熟なんだ』と烈火のごとく怒鳴りまくったという。同年7月には、『君の手術は、だれも手伝わない』と院長から事実上の解雇宣告を受けた。」との記載(「読売ウイークリー」)はいずれも真実ではなく、また、そう信ずるにつき相当の理由も存在しないものである。

 なお、被告本人尋問の結果中には、上記の事実が真実であるとの被告の主張に沿う供述部分があるが、戊田の生存中、すでにGVHD発症の事実については、戊田の家族に話しており、その段階では原告病院長に何もいわれなかったとしながら、戊田が死亡した後にGVHDで戊田が死亡したことにつき戊田の遺族に話したことで激しく叱責されたとするのは不自然である上、証人乙野竹夫の証言に照らしても採用できない。

イ 次に、被告が原告病院を退職するに至った経緯は、上記認定事実のとおりであり、被告は原告病院の許可を得ないまま、原告病院の勤務時間中に頻繁に他の医師やその他の手術チームを連れて丁原病院に出かけて手術を行って謝礼をもらっており、このことを知った乙野院長がこのような行為をやめるように強く注意した後も、被告一人で丁原病院に出かけて心臓外科手術を行うことを恒常的に続けたばかりか、丁原病院からベンツの供与まで受けていたことが発覚したことから、丙山手術について他の医師らの疑いを招いていたこととあわせて、乙野院長から退職を求められ、被告もこれを了解して退いたものである。従って、本件表現中、他の表現とあわせることによって被告がGVHD裁判に関して戊田の遺族に協力したことを原因として原告病院から解雇されたとの印象を与える表現である「私がその甲田市の病院を突然に解雇された」「私は同じ年の七月に甲田市の病院から突然クビを言い渡されました。」「(私はクビになりましたが)。」(「考心」)、「『君の手術は、だれも手伝わない』と院長から事実上の解雇宣告を受けた。」(「読売ウイークリー」)及び「遺族に全てを話し、病院を追われた彼は」「遺族に真実を話した医師は病院を追われてしまいます。」「ある日、甲野医師が出勤すると、机の上には何もなくなっていた。病院の院長は、『君の手術にはもう誰も協力しない。』と告げたという。事実上の解雇通告だった。」(「きょうの出来事」)との各表現は真実であるとは認められず、また、そう信ずるにつき相当の理由も存在しないものである。

 この点について、被告本人尋問の結果中には、被告の退職当時の状況に照らし、被告が退職する理由がGVHD裁判の件を除いて他に存在しないから、被告がGVHD裁判に関して戊田の遺族に協力したために原告病院を解雇されたとの表現は真実であり、または真実であると信ずるにつき相当の理由があるとする供述部分がある。しかし、被告が退職した理由は上記認定のとおりであり、また、被告が戊田の遺族に対してGVHDの発症やその原因について説明してから被告の退職の時期までは二年半以上が経過していることや、被告の退職の前後に原告病院の側からGVHD裁判に関して被告を責めたり、同裁判について戊田の遺族に協力しないでもらいたいなどという言動が一切なされていないことに照らしても採用しがたい。

ウ 次に、上記事実によれば、①平成98月ころ、原告病院への医療機器の納入業者であるゲッツブラザーズが原告病院の知らないうちに、被告との間で報酬90万円で心臓外科手術手技のビデオ製作・提供に関する業務委託契約を締結していたことが発覚し、原告病院からこのことを責められたことから心臓血管外科製品の納入を一時自粛していたこと、②その後、平成104月ころ、ゲッツブラザーズから被告に対し、上記(1)のエの(ウ)の内容のメールが送信されたことがあったこと、③被告がGVHD裁判の証人として出廷する前の時期に被告に対して徳洲会の弁護士と名乗る人物から四回ほど電話がかかってきたことがあったことは、上記(1)に見たとおりである。しかし、上記①の事実は、被告がGVHD裁判の証人として申請さるよりも約一年半も前のことであり、被告が証人として出廷することとなんらの関係のないことはその時期の点に照らしても明らかである。また、上記②の事実もメール内容に照らしても被告がGVHD裁判の証人として出廷することと何らかの関係があるものとは見られず、他にこの点を認めるべき証拠もない。更に、上記③の点についても、被告は結局電話には出ていないのであって、上記電話がどのような用件であったかは不明であり、嫌がらせのための電話であったとは決めつけることは到底できないものである。

 そうすると、本件表現のうち、「出廷する日が近づくと徳洲会からの執拗な嫌がらせが丁原病院に勤務する私や病院を襲いました。徳洲会弁護士のI氏からは何度も電話がかかってきました。」(「考心」)、「被告からの数々の圧力」「出廷する日が近づくと、福山医師の周辺で、医療機器納入業者などが事実無根のイヤガラセ情報を流したり、病院側の代理人が何度も電話をかけてきたりしたそうだ。」(「読売ウイークリー」)との表現は真実であると認められず、また、そう信ずるにつき相当の理由も存在しないものである。

エ また、上記各表現が真実であると認められない以上、これらが真実であることを前提とした被告の意見である「またそうすることはむしろ医師社会、特に営利や選挙活動を主体とする病院ではタブーだったのです。」(「考心」)との表現は、公正な意見・論評であるとは到底認められない。

オ 以上によれば、その余の本件表現の公益性や公益目的等の点について判断するまでもなく、本件表現が違法性を阻却される余地はなく、また、被告に名誉毀損の故意または過失がなかったと認める余地もないものである。

三 争点(3)について

上記二の(1)に認定した各事実に照らし、被告が原告を突然に解雇され、かつ、虚偽の事実を流布されたものと認めることはできず、被告が原告により違法に名誉を毀損されたと認めるに足りないから、本件表現が被告の名誉を回復擁護するために必要なものであったとはいえず、これを理由に本件表現につき違法性が阻却されることはない。

四 争点(4)について

(1)上記第二の一の「前提となる事実」(4)に見たところと〈証拠略〉をあわせると、「読売ウイークリー」掲載内容及び「きょうの出来事」放映内容と、「考心」掲載内容は、被告がGVHD裁判に協力したため解雇されたとの印象を読者または視聴者に与える点で共通しており、また、「考心」掲載の病院長の叱責文言と、「読売ウイークリー」掲載の病院長の叱責文言は酷似していること、「読売ウイークリー」掲載の事実上の解雇通告文言と「きょうの出来事」放映の病院長の「事実上の解雇通告」文言は酷似していることが認められる。そして、「考心」掲載文が被告の寄稿文すなわち被告が「考心会」に対し提供した情報そのものであることから、被告が読売新聞社及び日本テレビに対して提供した情報も「考心」寄稿文とほぼ同一の内容であったことが推認される。

 そうである以上、「読売ウイークリー」及び「きょうの出来事」で、被告がGVHD裁判に協力したため原告病院を解雇されたこと等を内容とする報道がなされたのは、被告の情報提供に基づいてなされたものであると認められ、被告の情報提供行為と「読売ウイークリー」掲載内容及び「きょうの出来事」放送内容との間には因果関係が存在するものと認められる。また、「きょうの出来事」には、上記第二の一「前提となる事実」(6)のとおり、被告本人が説明する映像が放送されており、この点からも「きょうの出来事」放映内容が被告の情報提供に基づいて製作されたことが認められる。

 なお、「読売ウイークリー」には「医療機器納入業者などが事実無根のイヤガラセ情報を流した」とする部分があり、上記部分は「考心」にはなく、被告が提供した情報と相違した報道がなされたと認められるが、これは被告の提供した「被告に関わりのある医療機器納入業者に対し圧力をかけられるなどの嫌がらせを受けた」との情報を取り違えて報道したものと容易に認められるのであって、被告の提供した情報を元にした報道である点及び被告による情報提供がなければ報道されることはなかった点では他の部分と変わらないのであり、かつ、GVHD裁判の証人として出廷するに際し被告に対して圧力がかけられたとの印象を与える点において、上記部分は、被告により提供された情報がそのまま報道されていた場合と変わりないのであるから、この部分についても被告による情報提供行為と報道との間に因果関係を認めることができる。

(2)そして、被告提供にかかる上記情報は、①被告の個人的経験にかかる事実に関するものであり、被告により提供されなければ報道機関がこれを知り、報道することはなかったと認められること、②提供された情報は、医師である被告自身が主治医として関わった患者の死亡事故や裁判に関するものであり、その内容にも照らしても、このような情報提供を受けた報道機関にとってこれが虚偽の情報であると疑う余地の乏しいものであった上、情報の性質上、被告からの情報提供を受ける他にこれを裏付ける取材を行うことが困難なものであったこと、③情報の内容自体、医療事故及びこれに対する医療機関の姿勢についての関心が高まりつつあった社会風潮と合致するものであり、一旦報道機関に提供されれば、報道機関が報道することが強く予測されるものであったことが認められることに照らすと、被告による上記情報提供行為が「読売ウイークリー」及び「きょうの出来事」の本件表現部分につながることは通常予想が可能と認められるものである。

 そうすると、被告による情報提供行為と「読売ウイークリー」及び「きょうの出来事」の本件表現部分との間には相当因果関係が存在すると認められる。

(3)なお、この点に関し、被告は、「読売ウイークリー」及び「きょうの出来事」における本件表現部分は報道機関の独自の責任において報道されたものであり、被告による情報提供行為との間に相当因果関係は認められないと主張するところ、確かに、雑誌記事及びテレビ番組の編集は報道機関に委ねられているから、報道機関に対し情報提供を行った場合に、編集により取捨選択され、報道されない可能性も一般的には認められるが、本件においては、上記のとおり提供された情報自体がそのまま報道される可能性の高い性質のものであるので、報道機関が介在することにより相当因因果関係が否定されることはないものであり被告の主張は採用できない。

五 争点(5)について

(1) 本件表現が、いずれも原告の社会的評価を低下させる名誉毀損行為にあたることは上記一に見たとおりであるが、これらの表現がなされた形態は、被告の執筆した文章によるもの(「考心」)、被告の情報提供行為に基づいて週刊誌の記事として掲載されたもの(「読売ウイークリー」)、被告の情報提供行為に基づいてテレビで放送されたもの(「きょうの出来事」)とそれぞれ異なっており、また、その発表された時期も相当異なっていることから、これらを一個の不法行為と見ることはできない。

 そこで、以下、これらの個別の名誉毀損行為によって原告の被った損害額を検討する。

 なお、被告は、本件表現がなされた時期を境に原告病院の入院患者数や収益が低下するなどの経済的損失を原告が受けたことはなかったことから、原告には損害が生じていないと主張するが、本件表現によって原告の名誉が損なわれたことによる損害は、その名誉毀損のなされた時期を境にして直ちに現れる収入の差額に尽きるものではなく、信用及び名誉を毀損されたことによる無形の損害も含まれるものであるから、被告の主張は採用することができない。

(2) 「考心」掲載文について

 上記第二の一及び第三の一のとおり「考心」掲載文には、原告が医療過誤の事実を隠蔽しようとしたこと、被告が医療事故の事実を患者に説明したことを叱責した上で解雇したこと、被告がGVHD裁判で証言するにあたり嫌がらせを執拗に行ったこと等が直接的な表現で記載されており、かつ、「(死因などを説明することは)タブーだったのです。」など、原告が医療過誤の事実を隠蔽することを常としているかの如き記載もあり、これらの表現は、医療機関である原告の信用及び名誉を著しく毀損するものであると認められる。

 他方で、〈証拠略〉によれば、「考心」は被告による心臓手術の執刀を受けた患者及びその家族で構成される被告を中心とした団体であり、平成13年において会員数、約四〇〇名からなる比較的小規模な団体の会報誌であり、上記表現が流布する範囲は限られていると認められることや、その他の本件にあらわれた一切の事情を考慮すると、「考心」掲載文に関する原告の慰謝料と、「考心」掲載文に関する原告の慰謝料は100万円が相当である。

(3) 「読売ウイークリー」について

上記第二の一及び第三の一のとおり、「読売ウイークリー」掲載記事は医療機関たる原告の信用及び名誉を毀損する表現を含んでおり、かつ、「読売ウイークリー」は全国に頒布されている週刊誌であり、購読者数も少なくないと考えられるが、他方で、同記事中において原告名が明示されてはおらず、被告名も仮名であることが認められるのであって、これらの事実のほか本件にあらわれた一切の事情を考慮すると、「読売ウイークリー」掲載記事に関する原告の慰謝料は150万円が相当である。

(4) 「きょうの出来事」について上記第二の一及び第三の一のとおり、

「きょうの出来事」放送内容は医療機関たたる原告の信用及び名誉を毀損する表現を

含んでおりかつ、上記表現はテレビ放映という方法を採ってなされたものであり、視聴者に対し強い印象を与えるものであると考えられる上、「きょうの出来事」は全国的に放送されているテレビ番組であり、視聴者数も多いと考えられるものであるが、他方で、上記番組中で原告名は明示されていないのであって、これらの事情のほか本件にあらわれた一切の事情を考慮すると、「きょうの出来事」放送内容に関する原告の慰謝料は150万円が相当である。

(5)弁護士費用

<証拠略>によれぱ、原告は本件訴訟の追行を原告訴訟代理人に委任したことが認められるところ、本件事案の内容、審理経過と、「考心」掲載文に関する原告の慰謝料過、認容額等に照らすと、弁護士費用とし

第四 結論

 したがって、原告の請求は、被告に対し

440万円及びうち金100万円に対する平成121126日から、うち金150万円に対する平成121224日から、うち金150万円に対する平成1237日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西村則夫 裁判官 三木勇次 杉崎さつき)

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2008年1月12日 (土)

「それでもボクはやっていない」と裁判長の交代

先日のブログで、痴漢冤罪事件についての記事を書き、映画「それでもボクはやっていない」をお勧めしたばかりですが、あまりにタイミングよく、キネマ旬報2007年の1位となりました。

 私は最近の邦画はあまりみませんが、加瀬亮と別役広司の抑制の効いた実力派演技に比べて、瀬戸朝香の大根ぶりが作品を壊しかねないなと思いましたが、見事作品賞第1位となりました。

 この映画のポイントのひとつに、[裁判長の交代]があります。裁判官も公務員ですから、しょっちゅう転勤があるようです。私の刑事訴訟第一審では、3年間東京地裁刑事第15部の岡田雄一裁判長は変わりませんでした。6年目に入っていた「オウム真理教の重要なポストにいた被告人Xの判決を書くまでは変わらないだろう」といわれていましたが、東京地方裁判所の所長代行に昇進されたあともさらに延長して、最後は、私の裁判の判決を書くためだけに第15部を兼任されていた様子です。最近では、裁判員制度の再開にあたりテレビ出演されて解説されていたのを見ましたが、地裁最後を無罪判決でスマートに終えて、すっきりと重要なポストに向かわれたことでしょう。

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2008011090180110.html

東京新聞 TOKYO  Web

「それでもボクはやってない」が1位  07年キネマ旬報ベストテン

2008110 1806

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2008年1月11日 (金)

講談社との間で和解 「2007年『偽』の年 仕事納め」 再掲載

私が提訴した、読売新聞の記者の著作に関連した訴訟で、講談社との間で和解が成立しました。

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医療事故関連書籍、「偽」報道に対するコメント

1.医師を中心としたブログより

 医学知識に乏しく、科学的方法論を用いることのない社会部新聞記者が、充分な取材もせずに、医療関連の報道やレポートを平然と書いていることがあまりに多いことに憤慨する医師の意見をよく聞きます。これに関連して明確な目的を有するブログ「医療報道を斬る」http://plaza.rakuten.co.jp/tinyant/ や医師ばかりでなく相手のジャーナリストまで交えて問題を学術研究レベルまで高めようとしている「東京大学 医療政策人材養成講座」http://www.hsp.u-tokyo.ac.jp/forum.html の「報道は医療をよくできるか?」「医療を良くするために、医療車と報道者ができること」などのフォーラムの紹介をしてきました。

2.記者とProfession

 記者達は何故そのように安直な「偽」記事を書くのでしょうか。一言でいえば、「Profession」の自覚と責任感が欠如しているからと考えます。医師達が手術室やICUや病床のまさにベッドサイドで、夜通し立ちながら患者さんの診療を行い、先輩医師や同僚と悩みながらひとつひとつ経験して、血や肉として体得した医療知識。臨床現場や研究室で得た研究成果を外国の学会でたった一つ発表するために、数十もの原著論文を読み権威や先輩医師と討論、考察して得られた結論。高度な統計学でしか表現できない科学的事実の発表。このような厳しい状況の中でしか得られない経験が、記者達には全くないことが一つにあると思います。

3.「偽(エセ)専門家」を見破れ

 このような記者の好む、彼らのいうところの「専門家」とは、単なるおしゃべりで、科学的背景なく、論法もいい加減で非論理的にどんどん適当な話しをする輩が多いことに医師達は気づいています。(このことは、医学にかぎらず、法曹界でもその傾向があるようです。)論理などはさておき、記者達に専門知識が無いことをいいことに、「真」の専門家からみれば、的はずれの例示等をしながら、本当にあったのか作り話なのかわからない自慢話などを交えて、○×でものをいうような「偽(エセ)専門家」が好まれる傾向にあります。記者達は、本当の専門家の論文や意見の存在すらも調査せずに「偽情報」を大切にする上、修飾を加えて記事にします。

 陰圧吸引脱血法の事件なのに、その方法を一回も使用したこともなく、さらに見たこともなく、論文も読まず、学会に参加もせず、事件の証拠や公判についての知識を得ようともせず、噂レベルの話しを聞きた程度なのに、「専門家」と呼んで、彼らの語ることを鵜呑みにする記者達。欧米の一流紙にこのようなレベルの人間が存在するはずありません。パパラッチレベルのゴシップ記事がどうどうと全国紙にかかれたり、一流出版社から出版されたりする現実。是非「偽」を見破って記事を書いてもらいたいものです。

4.記者達への伝言

 医療崩壊、医療限界が叫ばれていますが、医療関連報道を正すことも我々の急務だと思っています。「生き方上手」の著者であり、日本人医師の鏡である聖路加病院の日野原重明先生のお言葉です。「「Profession」という言葉には、神に告白(Profess)する、約束する、契約するという意味があります。神学と法学と医学のプロフェッションには、明らかにその精神が垣間見える。底通するのは、学問を修めるにとどまらず、持っている能力を社会の繁栄と人々の幸福のために活かすと神に誓うから「プロ」であるという精神。欧米で、神職者、法律家、医師が、専門職能集団の中でもトップのプロフェッショナルな集団とされてきた理由はそこにあります。そして、使命感を持った人が公言し、神と約束しているわけですから、第三者が彼らの仕事の内容を批評するのも当然のこと。

 記者は「偽」記事を書いても書きっぱなしで、「第三者が彼らの仕事の内容を批評」を受けることがほとんどないのが現状でしょう。たとえ、「偽」記事を書いても、「『偽専門家』を取材して彼がいったことを書いた」と言い逃れる。しかし、これは、「自分の心」=「神」との約束に反しています。

 私は、この「第三者」に対して医療情報を提供する記者の仕事も重要な「Profession」であることを自覚し、誤った記事を書いた場合は謙虚に責任をとるべきであると考え、彼らの今後に期待します。

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痴漢冤罪事件ー検察の「勾留請求」が却下される率

国際人権の視点から米兵身柄引き渡し問題を考える http://www.jinkennews.com/column14.htm の頁によると

「(1)無罪率(刑事事件で無罪判決のでる率)。
地裁 0.06%
簡裁 0.17%

※通常第一審における無罪率(全部無罪人員、一部無罪人員(主文において有罪と無罪の裁判があった者)及び全部無罪人員の、判決人員(有罪人員と無罪人員の合計)に対する割合)

(2)逮捕状の請求が却下される率。
地裁及び簡裁全体での通常逮捕状請求に対する却下率  0.03%
          緊急逮捕状請求に対する却下率  0.09%

(3)検察の「勾留請求」が却下される率。
地裁での却下率(却下数/請求件数) 0.65%
簡裁での却下率           0.14%

(4)身柄率(逮捕された状態で裁判が始まる率)
平成11年における地裁での勾留率 63.0%
簡裁      61.0%

※同一人に対しての「身柄率」については、同文献にはデータなし。
勾留率(その年中に勾留状が発付された人員/新受人員)であれば、以下のとおり。

(5)保釈率(保釈が認められる率)
地裁      14.6%
簡裁       7.4%

※保釈率(通常第一審終局前にその年中に保釈が許可された人員/新受人員)」

とのことです。

前回のブログ「また無罪判決です」では、有罪率を99.7%と書いてしまいましたが、(1)によれば、「一審の有罪率は99.94%」ということになるようです。

 私が、以前から良い記事を書いていると思い注目している東京新聞の記事には、「検察側の拘置請求は却下され、男性は釈放された」とあります。これは鋭い指摘だと思います。拘置請求を却下させたのもやはり弁護士さんの実力でしょう。私は無罪判決に注目していましたし、一般に無罪判決は報道されるのでいやでも注目されます。が、拘置請求が却下されたという話しは聞いたことがありませんでした。拘置請求が却下されたのにもかかわらず、在宅起訴して無罪という判例があるのでしょうか?検察官の強引さが強調されていると思います。

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2008年1月 8日 (火)

また無罪判決です

 ご存知のように、起訴された被告人の99.7%(期間は不明)は有罪になる刑事事件。東京地裁でも年に数人いるかいないか。弁護士さんでも生涯に一回も無罪判決を経験しない方がほとんどのようです。無罪を勝ち取った弁護士さんにとってはひとつでも勲章になるという話です。これに対して私の弁護人である喜田村洋一先生はある年に、最高裁、高等裁判所、地方裁判所の全てで無罪を勝ち取る「グランドスラム」を達成したり、数々の有名事件で無罪を勝ち取っています。そして、また無罪判決です。

 「右手でかばんを持って、左手でつり革をもっていた人に痴漢ができるはずがない。」

 以下の無罪記事を読んだ閲覧者は、「それでもボクはやっていない」 http://www.soreboku.jp/index.html という映画を是非みてください。冤罪こそ検察官の大犯罪だと私は思います。http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/11/post_a44d.html http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/post_ace1.html http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2006/08/__100b.html

毎日新聞 東京朝刊

痴漢:起訴の男性に無罪判決--東京地裁

電車内で痴漢行為をしたとして、東京都迷惑防止条例違反に問われた男性会社員(39)に対し、東京地裁は7日、無罪(求刑・懲役6月)を言い渡した。伊藤敏孝裁判官は「被害女性は犯人を直接見ていない。車内は満員状態で、犯人は別にいる可能性がある」と述べた。

 男性は06年4月、世田谷区の池尻大橋-三軒茶屋駅間を走っていた東急田園都市線の車内で、立っていた女性の両足の間に自分の足を入れ、太ももを手で触るなどしたとして起訴された。

 男性は公判で一貫して無罪を主張。最終意見陳述では「絶対に痴漢行為は行っていない。毎日の通勤電車では今も恐怖におびえている」と訴えていた。【銭場裕司】

asahi.com.

痴漢容疑男性に無罪 長時間取調べで任意性に疑い 東京

2008年01月08日07時05分

電車内で女性の太ももを触るなどしたとして東京都迷惑防止条例違反の罪に問われた会社員男性被告(39)に、東京地裁は7日、無罪(求刑懲役6カ月)の判決を言い渡した。伊藤敏孝裁判官は女性の痴漢被害は認めたが、「第三者が犯行に及んだという疑いがぬぐい去れない」と判断した。 

男性は06年4月15日未明、東急田園都市線池尻大橋―三軒茶屋駅間で痴漢行為をした疑いで現行犯逮捕された。逮捕当日に犯行を「自白」する調書に署名したが、公判では一貫して否認。伊藤裁判官は「逮捕直後からの長時間の取り調べで作られたもので、任意性に疑いがある」と自白調書を採用しなかった。

東京新聞

電車内痴漢で無罪判決 「ほかに犯人の可能性」

2008年1月7日 19時53分

電車内で痴漢行為をしたとして、東京都迷惑防止条例違反の罪に問われた男性会社員(39)に東京地裁は7日、「被害女性は男性が痴漢をしているところを直接見ておらず、ほかに犯人がいる可能性もある」として無罪判決を言い渡した。

伊藤敏孝裁判官は判決理由で、痴漢行為があったことを認定した上で「どこを触られたかなど、事件直後と公判で女性の供述が変わっている。当時の車内は超満員で、男性が近くにいたとしても犯人とはいえない」と述べた。

男性は2006年4月15日午前0時20分ごろ、東京都世田谷区を走行中の東急田園都市線電車内で、立っていた女性の両足の間に、右斜め後ろから自分の足を入れ、太ももを手で触るなどしたとして逮捕された。

検察側の拘置請求は却下され、男性は釈放されたが、東京地検は在宅のまま起訴し、懲役6月を求刑。男性は昨年12月の公判で「絶対に痴漢行為をやっておらず、本当に悔しい」と最終意見陳述をしていた。 (共同)・・・クレジットつきです。 http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/09/3_abf9.html

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