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2008年3月

2008年3月20日 (木)

検察官の「混乱」と「弁護側証拠に全て『不同意』」-30字と62430字―

1.検察官の混乱

 本日2008年3月19日午後からの刑事裁判公判が開かれました。

証人「いろもの」http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_3432.htmlは前回で終了。本日の公判後に妻がいうには、「前回まではずっと怖い顔していたのに、今日は穏やかだったね。」

 検察官側の主尋問に対して、今回の証人である心臓外科医が医学的にまっとうなお答えをしているのに、それが被告にとってちょっとでも有利な内容(被告に過失はないので当然ですが)であるときの検察官の口癖、

「先生は今混乱されているから、云々」

といった焦りが、今日も出ました。こちらか見れば、特に混乱しているような様子は全くありませんでした。

 以前にも同じような表現があります。

控訴審第2回 証人 NB

検察官  「・・・ちょっと,質問をもう1度聞いていただけますでしょうか。ちょっと混乱されているのかなというふうに思いますので,もう1度お尋ねします。」

裁判長  「証人は別に混乱してないですよ。ちゃんと答えているんですよ。」

2.弁護側証拠に全て『不同意』- 30字と62430字-

 検察官から公判日の前日になって、弁護側が控訴審開始後に提出していた証拠の全てに「不同意」するという「証拠調べ請求に対する意見書」を送付してきました。公判の前日では、それに対して弁護側が会議を開いて話し合いをすることもできません。

 ちなみに、証拠に対する「不同意」は「刑事訴訟上合法的なもので、なんら問題はありません。(これに関しては、「速報 大野病院初公判傍聴記」 http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_3432.html 「12.弁護側の冒頭陳述-合法だが卑怯な証拠隠し」に詳しく書きましたのでご参照ください。)

こんな感じです。

「平成18年(う)第XXXX号

証拠調べ請求に対する意見書

被告人○○○○に対する業務上過失被告事件につき,弁護人の証拠取調べ請求(2007年11月13日付け)に対する検察官の意見は,下記のとおりである。

平成20319

東京高等裁判所第X刑事部 殿

東京高等検察庁 検察官検事 ××××

記「弁1ないし弁9について、いずれも本件と関連性がなく、不同意。」

だけ。全30字。検察官は楽ですね。こちらの証拠9個全部をたった30字で「不同意」ですから。

 ちなみに、弁護側は検察官の新証拠といっている15の証拠からなる「証拠尾説明書」に対して、67頁62430字の「意見書」を提出しています。公正のために書くと「同意」6個「不同意」9個。

なお検察官の「控訴趣意書」に対する「答弁書」は86675字でした。

その弁護側証拠とは、

「証拠請求書

           20071113

東京高等裁判所第X刑事部 御中

       被告人     ○○○○

       上記主任弁護人 ○○○○○

       上記弁護人   ○○○○

 上記事件に付き下記表記載の証拠の取調を請求する。

 記

弁1号証

標目:手紙(200512月1日)

作成者:南淵明宏

立証趣旨:地裁判決及び被告人に対する南淵の評価など

「綾瀬循環器病院佐藤一樹先生御机下

前略

11月30日の無罪判決につきまして、おめでとうございます。

当方のことを、「検察に迎合したお調子者」と評価されているかもしれません。

が、テレビで佐藤先生の顔を見て、自分なりの言葉を伝えたいと思い、お手紙差し上げた次第です。

あえて今回の判決の意義を申し上げますと、まず、「個人の勝利」が挙げられると思います。裁判の内容や事件の性質は別として、孤立無援の状態で、ほとんど徒手空拳で裁判を戦い抜いた佐藤医師の根性は、誰もが目を見張ることでしょう.昨年の暮れ、検察から裁判の話を聞いたとき、そして初めて電話で話したとき、当方は孤軍奮闘する佐藤医師の熱気に圧倒されました。おそらく自分であったら、「もうどうでもええわ…」となっていたことでしょう。そうさせなかったパワーはどこにあるのか、誰もが尊敬するところでしょう。そしてそれは「無罪判決」として結実したようです。大学病院から「切られた」かたちで戦い抜いた佐藤医師を批判する人はいないと思います。報道も「操作した佐藤医師」ではなく大学病院に批判が向けられています。

おそらく佐藤先生には「自分としてはやるだけやったから結果はどうでもいい」と言う感じの、投げやりではない、充実感ゆえの達観した気分で判決を迎えたのではないでしょうか。テレビで見受けられた「高ぶらない」表情から、そんな心境が読み取れました。全部が自分に敵として向かってきている、当事者である大学組織が自分をのけ者にして忘れ去ろうとしている…、これに対する憤りは誰もが容易に理解できるものですが、実際に行動を起こす人はいないでしょうし、起こせる立場にいる人もいないと思います。今回の判決は一般論として、医療現場において「事故が事故として、結果だけで判断されず、しっかりと責任の所在が「組織にある」と認められたこと」で、組織が責任逃れすることはできないという前例を作ったことになりますが、それ以上に、一人の医師の孤軍奮闘振りには、杜会は無言で、畏敬の念を抱いていることは間違いありません。

地獄を見た奴は強い、地獄から帰ってきた奴には勝てない!見たくてみた地獄ではないでしょうが、これからの佐藤医師の人生にとって絶大なるパワーの源となることはまちがえありません。ご自分でも気がつかないでいる、自分の中に備わった無限のパワーがこれから先の将来、随所で威力を発揮することでしょう。楽しみにできるのではないでしょうか。そして、これからは今までの100万倍も充実した時間を過ごされることを確信する次第です。

草々

平成17年12月1日

南淵明宏

心臓外科医

(署名)」

弁2号証 

標目:封筒(200512月1日)

作成者:南淵明宏

立証趣旨:弁1の手紙が封入されていた封筒の記載など

弁3号証 

標目:『患者力』(抄本)(20041130日)

作成者:南淵明宏

立証趣旨:東京女子医大事件の手術について、技士が呼ばれて駆けつけるまで約15分間あるいはそれ以上、12歳の女の子の血液の循環は停止してしまったのではないかと想像します。/その結果、脳障害などが起こり、死亡につながりました。15分間、血液の循環が停止することで脳は確実にやられてしまいますが、他の部分はほとんど影響を受けないはずです。そうなると、例外もあるかもしれませんが、2~3日で亡くなることはまずありません。この点からすると、循環が停止していたのは、15分よりはるかに長く、30分以上だったのではないかと思います」(90頁)と述べていることなど

弁4号証 

標目:『『釣られない魚が大物になる 手術職人の生き方論』(抄本)((2006年5月5日)

作成者:南淵明宏

立証趣旨:南淵が、東京女子医大事件の病院の内部調査について「その後、病院の内部調査で、医療ミスの可能性とカルテの改ざんについては病院側も認めたが、残っている記録のお粗末さもあり、真相の解明にはほど遠いものとも指摘されている」(144頁)と述べていることなど

弁5号証 

標目:『週刊朝日』2002年12月13日号(2002年12月3日号)

作成者:株式会社朝日新聞社

立証趣旨:南淵が、「心臓の筋肉は常に;有酸素運動"なんですよ。冠動脈が詰まって酸素がこなくなると10秒ほどで心室細動に陥ります」と発言していることなど

弁6号証 

標目:『文藝春秋』200210月号(2002910日)

作成者:株式会社文藝春秋

立証趣旨:南淵が、「各学会が認定する専門医の資格も技能も一切問われません。うわべを整えて、『ハーイ』って手を挙げたものが、『じゃ、あんた、専(門医』」と発言していることなど

弁7号証 

標目:『週刊現代』200593日号(2005822日号)

作成者:株式会社講談社

立証趣旨:南淵が「最先端でも高度でもないごくごく普通の心臓外科手術を、私は同僚たちと行っている」と発言していることなど

弁8号証 

標目:『週刊医学新聞』2004216(2004216日)

作成者:医学書院

立証趣旨:南淵が、「この手術室にゼニと名声が埋まっている」と発言したことなど

弁9号証 

標目:横浜地裁200484日判決(判例時報1875119頁)

作成者:横浜地方裁判所

立証趣旨:南淵が、自分の勤めている病院の医療過誤により死亡した元患者の遺族に協力したため解雇された」と発言したため、この発言が名誉毀損に該当するとして、南淵が勤務していた病院が南淵を訴えた裁判で、横浜地方裁判所が、南淵が退職したのは、病r院に無断で他の病院でアル言バイトをしたり、ベンツの供与を受けたりしたことが発覚したためであると認定し、南淵の上記発言は真実でなく、真実と信じるについて相当の理由もないとして、名誉毀損の成立を認めたことなど

判例時報 1875号 119-129頁

▽医療法人の経営する病院に勤務する医師が無断アルバイトを理由に退職したにもかかわらず、医療過誤の事実を患者側に伝えて解雇されたなどと週刊誌の取材やテレビで発言した場合、病院の社会的評価を低下させたとして、医療法人の医師に対する損害賠償請求が認容された事例

(損害賠償請求事件 横浜地裁 平成13年(ワ)961号

平成16年8月4日 民事第5部判決(控訴<控訴取り下げ>・確定)

 一 Xは、複数の病院及び診療所を設置運営している医療法人であるところ、平成8年8月3日付で無断アルバイトが発覚してA病院を退職した医師Yが、週刊誌の取材やテレビ番組などで、同病院の医療過誤により死亡した元患者の遺族に協力したため解雇されたなどと発言したため、右発言により名誉を毀損されたと主張し、Yに対して、3500万円の損害賠償を請求した。

 これに対し、Yは、(一)Yの発言内容は、真実であるか、真実と信ずるにつき相当の理由があるから、その発言には違法性がなく、また、Yには名誉毀損の故意・過失がない、(二)Yは、突然に解雇され、かつ、虚偽の事実を流布されたことにより名誉を毀損されたものであり、右発言は、これを回復・擁護するために必要なものであったから、違法性はない、などと主張した。

 二 本判決は、(一)Yが無断で他の病院でアルバイトをしたり、ベンツの供与を受けていることが発覚し、院長から退職を求められ、これを了解して退職したのにかかわらず、週刊誌の取材やテレビ番組などで、病院の医療過誤により死亡した元患者の遺族に協力したため解雇されたとの印象を与える発言は、真実であるとは認められず、また、そう信ずるに相当の理由も存在しない、(二)医療過誤事件での出廷する日が近づくと医療法人から執拗な嫌がらせがあり、病院側の代理人が何度も電話をかけてきたりしたとの発言は、真実とは認められず、また、そう信ずるにつき相当の理由も存在しない、(3)病院の医療過誤で患者が死亡しても、その死因などを説明することは病院ではタブーだった旨の発言も、それが真実と認められない以上、公正な意見・論評とは認められない、などと判断したうえ、右発言は、いずれもXの社会的評価を低下させる名誉毀損行為に当たり不法行為が成立するとし、Yに対して、慰謝料400万円と弁護士費用40万円の支払を求める限度で本訴請求を認容した。

 三 人の名誉は、古くローマ法の時代から人格権の中でももっとも重要な権利として不法行為法の保護を受けてきたが、名誉毀損と不法行為の成否については、摘示された事実が真実であると証明されたとき、あるいは真実と信ずるについて相当の理由があるときには、不法行為が成立しないとするのが確定した判例理論である(最一判昭41・6・23民集20・5・1118、本誌453・29)。

 そこで、本件では、主として、もとA病院に勤務していた医師Yの、同病院の医療過誤により死亡した元患者の遺族に協力したため解雇されたなどとする発言の内容が真実であるかどうかが争われたが、本判決は、関係証拠を検討の上、右発言内容は真実であるとは認められず、また、そう信ずるにつき相当の理由も存在しないと判断し、Yの不法行為責任を肯認した。

 本判決は、特に目新しい判断を示したものではないが、問題の医師は、人気漫画「ブラックジャックによろしく」に登場する心臓外科医のモデルで、「ブラック・ジャック解体新書」などの著書がある医師であるとして知られ、社会の関心を集めたケースであるので、事例的意義があるものとして紹介する。

〈参照条文〉民法709条・710条・723条

〈当事者〉

原告                    医療法人社団 愛心会

同代表者理事長          高橋良裕

同訴訟代理人弁護士     濱 秀和

                      宇佐見方宏

                      奥田圭一

                      後藤正幸

                      菅沼 真

同                     重 隆憲

同訴訟復代理人弁護士   宮崎良夫

被告                    甲野太郎

同訴訟代理人弁護士      畑山 譲

.                     浜田 薫

【主文】 

一 被告は、原告に対し、440万円及びうち金100万円に対する平成12年11月26日から、うち金150万円に対する平成12年12月24日から、うち金150万円に対する平成12年3月7日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

二 原告のその余の請求を棄却する。

3 訴訟費用はこれを20分し、その3を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

四 この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

【事実及び理由】

第一 請求

一 被告は、原告に対し、3500万円及びうち金3000万円に対する平成12年11月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

二 訴訟費用は被告の負担とする。

三 第一項につき仮執行宣言

第二 事案の概要

 本件は、原告が、平成12年11月26日発行の会報誌「考心」に掲載された被告の寄稿文並びにそのころ被告が取材を受けることにより掲載された同年12月24日発行の「読売ウイークリー」の記事及び平成13年3月7日放送の日本テレビ「きょうの出来事」の放送内容に、原告の設置運営する乙山病院(以下「原告病院」という。) における医療過誤により死亡した元患者の遺族に被告が協力したため原告病院を解雇されたなど、原告の社会的評価を低下させる表現が含まれており、被告は故意に原告の名誉を毀損したものであると主張して、被告に対し不法行為に基づく損害賠償として3500万円及びうち3000万円に対する不法行為の日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを請求した事案である。

一 前提となる事実(証拠の引用のないものは当事者間に争いがない。) <編注・本誌では証拠の表示は省略ないし割愛します。>

(1) 当事者等

 原告は、医療法人社団徳洲会グループに属する医療法人社団であり、神奈川県下において、原告病院を含む複数の病院及び診療所等を設置運営している。

 被告は、平成5年10月一日から平成8年8月13日まで原告病院心臓血管外科に勤務していた医師であり、現在は、医療法人社団丙川会の設置運営する丁原病院心臓病センターの心臓外科部長である。

(2) GVHD裁判

ア 平成5年12月、被告が主治医を務めていた戊田松夫(以下「戊田」という。)は、原告病院において冠状動脈バイパス手術及び僧帽弁置換術を施行され、手術時の出血量が多かったために、血小板輸血を受けた。戊田は、輸血後、移植片対宿主病(GVHD)を発症し、術後14日目に肺炎を併発し、呼吸不全により死亡した。

イ 戊田の遺族は、平成8年3月ころ、戊田の死亡は日本赤十字社及び原告病院医師の過失によるものであるとして、日本赤十字社及び本訴原告である医療法人社団愛心会に対し損害賠償を求める訴え(以下「GVHD裁判」という。)を横浜地方裁判所に提起した。

ウ 平成10年10月30日、GVHD裁判第=回口頭弁論期日において、被告は、戊田の遺族らの申請証人として出廷し、証言を行った。

エ 平成12年11月17日、横浜地方裁判所は、GVHD裁判につき、日本赤十字社に対する請求を棄却し、本訴原告である医療法人社団愛心会に対し4000万円の支払を命じる判決を言い渡した。本訴原告は上記判決に対して控訴せず、上記判決は確定した。

(3) 被告の退職

 被告は、原告病院を平成8年8月13日付けで退職した。

(4) 「考心」掲載内容

「考心」は、被告による心臓外科手術を受けた患者及びその家族らにより構成される「心臓手術後の生活を考える会」(略称「考心会」)の会報誌である。

 平成12年11月26日付「考心」には、下記の部分を含む被告の寄稿文が掲載された。

(ア) ある裁判の判決が2000年11月17日にありました。「GVHD裁判」と呼ばれる裁判です。私はこの裁判に大きくかかわって来ました。

(イ) 私が甲田市の徳洲会病院に赴任してまもなく、冠状動脈バイパス手術と僧帽弁置換術をお受けになったM氏が、術後十四日目に肺炎で亡くなられました。直接の死因は肺炎ですが、GVHDという輸血による合併症を発症した状態での死亡でした。

(ウ) S医師はその後、私がその甲田市の病院を突然に解雇された直後、その病院の常勤医師になりましたが、当時外部医療機関に勤務していたS医師がM氏を執刀したのは病院の方針でした。

(エ) M氏のご遺族は日赤と徳洲会を相手取り訴訟を提訴されました。

(オ) 私は甲田市の病院の院長から「どうして事実を家族に話したんだ!おまえはそういうところがまだまだ未熟な人間だ!」と叱られました。

(カ) 当時、GVHDで患者が死亡しても、まともに死因などを説明する医師は日本にはいなかったようです。またそうすることはむしろ医師社会、特に営利や選挙活動を主体とする病院ではタブーだったのです。私は同じ年の7月に甲田市の病院から突然クビを言い渡されました。私が現在の病院に移ってしばらくして、異例なことですが、原告側の裁判の証人として私は出廷することになりました。

(キ)出廷する日が近づくと徳洲会からの執拗な嫌がらせが丁原病院に勤務する私や病院を襲いました。徳洲会弁護士のI氏からは何度も電話がかかってきました。

(ク)M氏の裁判は日赤を動かし、多くの人の命を救ったといえます(私はクビになりましたが)。

(5) 「読売ウイークリー」掲載内容

 読売新聞社は、平成12年12月24日付け発行の「読売ウイークリー」に、「白い巨塔と闘う」「医師たちの良心」「医療ミスで証言台に立つ勇気」と題して、下記の部分を含む記事を掲載した。

(ア) Mさん(当時65歳)は1993年12月29日、神奈川県甲田市の総合病院で、HIV感染と思い込んだまま亡くなった。

(イ) Mさんは狭心症のため、同病院で冠状動脈バイパス手術を受けた。同病院は、近隣の大学病院からも患者が紹介されてくるような、全国的にも心臓外科の最先端をいく病院として知られており、Mさんもほかの病院から転院してきた。主治医は、赴任したばかりの福山晴夫医師(仮名=42)で、実際に執刀したのは、当時、他の病院に勤務していた同病院顧問のS医師だった。

(ウ) 福山医師は意を決し、遺族に対してGVHDだったことを明かし、次の3点を説明した。①輸血で起こるかも知れないGVHDという合併症のことは、85年ごろから医師の間では周知の事実だったこと②そういった危険な輸血成分(血小板)の投与に関与した自分にも責任があること③いったんGVHDになると有効な治療法はないが、日赤、あるいは病院が事前に放射線照射をしていれば、予防できた可能性が強い。だが、この病院は照射装置を備えていなかったこと。

(エ) 病院の院長は、福山医師に対して「どうして事実を家族に話したんだ!お前のそういうところが未熟なんだ」と、烈火のごとく怒鳴りまくったという。同年7月には、「君の手術は、だれも手伝わない」と院長から事実上の解雇宣告を受けた。

(オ) そして、その二年後。同じ神奈川県内の病院に移っていた福山医師は、原告側の証人として出廷することを申請された。出廷する日が近づくと、福山医師の周辺で、医療機器納入業者などが事実無根のイヤガラセ情報を流したり、病院側の代理人が何度も電話をかけてきたりしたそうだ。

(6) 「きょうの出来事」放送内容

日本テレビは、平成13年3月7日、「きょうの出来事」中で、「医療ミスで患者を死なせてしまった医師。遺族に全てを話し、病院を追われた彼は、ある決断をします。医師と患者、そして病院のあるべき姿とは。今日の特集です。」とのアナウンスの後に、「8年前、ある病院で患者の死亡事故がありました。原因は医療ミス。遺族に真実を告白した医師は病院を追われてしまいます。患者に対する責任を自らに問い続けた一人の医師を取材しました。」とのナレーションを入れ、被告本人の説明する映像を交え、GVHD裁判及びこれに被告が協力したことを紹介する内容の番組を放映した。上記番組中には、「ある日、甲野医師が出勤すると、机の上には何もなくなっていた。病院の院長は、『君の手術にはもう誰も協力しない。』と告げたという。事実上の解雇通告だった。」とのナレーションが入る部分があった。

二 争点

(1) 「考心」、「読売ウイークリー」及び「きょうの出来事」の表現は原告の社会的評価を低下させる名誉毀損にあたるか。

(2) 上記各表現は真実であり若しくは真実と信ずるにつき相当の理由があるか。また、公共の利害に関する事実にかかり、公共の利益を図る目的でなされたものか。

(3) 被告が、上記各表現を行い若しくは各表現の情報を報道機関に提供したのは、原告の行為によって損なわれた被告自身の名誉の擁護・回復のためになされた必要範囲内の行為か。

(4) 「読売ウイークリー」掲載内容及び「きょうの出来事」放送内容につき、被告による報道機関への情報提供行為との間に相当因果関係があるか。

(5) 損害の発生の有無及び損害の発生があるとすればその額。

三 争点に対する当事者の主張

(1) 争点(1)について

(原告)

 上記第二の一「前提となる事実」(4)ないし(6)の各記事ないし放送内容のうち、名誉毀損にあたるのは以下の部分(以下、下記アないしウを「本件表現」という。)である。

ア 「考心」について

(ア) 「私がその甲田市の病院を突然に解雇された」

(イ) 「私は甲田市の病院の院長から『どうして事実を家族に話したんだ!おまえはそういうところがまだまだ未熟な人間だ!』と叱られました。」

(ウ) 「またそうすることはむしろ医師社会、特に営利や選挙活動を主体とする病院ではタブーだったのです。」

(エ) 「私は同じ年の7月に甲田市の病院から突然クビを言い渡されました。」

(オ) 「出廷する日が近づくと徳洲会からの執拗な嫌がらせが丁原病院に勤務する私や病院を襲いました。徳洲会弁護士のI氏からは何度も電話がかかってきました。」

(カ) 「(私はクビになりましたが)」

イ 「読売ウイークリー」について

(ア) 「病院からの数々の圧力」

(イ) 「病院の院長は、福山医師に対して『どうして事実を家族に話したんだ!お前のそういうところが未熟なんだ』と、烈火のごとく怒鳴りまくったという。同年7月には、『君の手術は、だれも手伝わない』と院長から事実上の解雇宣告を受けた。」

(ウ) 「出廷する日が近づくと、福山医師の周辺で、医療機器納入業者などが事実無根のイヤガラセ情報を流したり、病院側の代理人が何度も電話をかけてきたりしたそうだ。」

ウ 「きょうの出来事」について

(ア) 「遺族に全てを話し、病院を追われた彼は」

(イ) 「遺族に真実を告白した医師は病院を追われてしまいます。」

(ウ) 「ある日、甲野医師が出勤すると、机の上には何もなくなっていた。病院の院長は、『君の手術にはもう誰も協力しない。』と告げたという。事実上の解雇通告だった。」

 上記のとおり、本件表現は、原告病院において医療過誤が発生したことを前提に、その患者側に協力した医師を叱責し、解雇し、かつ、上記医師が証人として出廷するにあたり嫌がらせ行為を行ったとの内容であるところ、医療過誤につき社会的関心が高まりつつあり、マスコミでも頻繁に取り上げられている社会状況下において、上記のような表現は、原告に対し、医療過誤があった場合に解雇・嫌がらせ等の手段を用いてでも過誤事実を隠蔽する医療機関であるというイメージを植え付けるものであって、原告の医療機関としての信用及び名誉を著しく毀損するものである。よって本件表現は原告の社会的評価を下落させるものであり、名誉毀損行為にあたる。

(被告)

原告の主張を否認する。

「考心」では、被告がGVHD裁判が原因で解雇されたことを明確に述べた部分はなく、このような意味において原告の社会的評価が低下することはない。

 また、本件表現のうち、「考心」掲載文においては被告は原告病院につき「甲田市の病院」と記載してその名称を明らかにせず、「きょうの出来事」の放送においても原告病院の名称及び原告病院を特定しうるような情報は放送されず、「読売ウイークリー」掲載記事においても、原告病院の名称は明らかにされず、被告名すら仮名であって、その掲載内容中に原告病院につながる情報はなかった。

 以上のとおり、本件表現により原告病院を特定することはできず、そうである以上本件表現によって原告の社会的評価が低下することもありえないのであるから、本件表現は名誉毀損にあたらない。

(2) 争点(2)について

(被告)

ア 本件表現のうち事実を摘示した部分については、真実であり、または被告が真実と信ずるにつき相当の理由がある。

 すなわち、①戊田の遺族に対して事実をありのままに話したことで原告病院長の強い叱責を受けたこと、②被告が原告病院長から「君の手術は誰も手伝わない」等と告げられたり、机を無断で片づけられたりしたことにより、やむをえず原告病院を退職したこと、③医療機器納入業者に対して圧力がかかったり、GVHD裁判の証人として出廷する前に病院側代理人から何度も電話がかかってきたりしたこと、④被告が、戊田の遺族に協力したことで原告病院を事実上解雇された(すなわちクビになった)ことは真実であるし、また、そうでなくとも、真実であると信ずるにつき相当の理由がある。特に上記④については、上記①ないし③の事実や、原告が被告の退職理由として挙げる兼職行為が原告において禁止されていた事実や丙山梅子の冠状動脈バイパス手術においてビデオ撮影のために再切開再吻合を行った事実がなく、被告が原告病院を退職しなければならない理由が見当たらないことに照らすと、真実であると被告が信ずることには相当な理由があるものである。

また、本件表現のうち「またそうすることはむしろ医師社会、特に営利や選挙活動を主体とする病院ではタブーだったのです。」との部分については、上記の真実である事実及び真実であると信ずるにつき相当の理由がある事実に基づいた被告自身の公正な意見ないし論評である。

イ 社会一般の人々にとって、医療現場の事実隠蔽体質の有無は、適切な医療を受けるために医療の質を問う前提として、大きな関心事であるから、本件表現行為は公共の利害に係る事実に関する記述・発言である。

 また、被告は、患者に対して説明義務を尽くし、患者に対する医療の透明性を確保し、ひいては医療の質を向上させようとする被告の信念に基づいて寄稿文を作成し、または報道機関への情報提供を行ったから、これらに基づく本件表現は公益を図る目的でなされたものである。

ウ 以上により、本件表現には事実の公共性、目的の公益性及び真実性があり違法性がなく、また、そうでなくとも、真実と信ずるにつき相当の理由があるから被告には名誉毀損の故意・過失がない。

(原告)

ア 被告の主張を否認する。

イ 本件表現のうち事実を摘示した部分は全て虚偽である。すなわち、①被告が戊田の遺族に対して戊田の死因等を話したことにつき、原告病院長が「どうして事実を家族に話したんだ」などと被告を叱責したことはない。原告病院長は、平成5年12月ころ、被告から、戊田の遺族に対して説明を行ったこと及び訴訟にはならないと思うとの報告を受けた際に、見通しが甘い旨告げたことがあるのみである。また、②被告に退職を迫る方策として原告病院長が「君の手術はもう誰も手伝わない。」旨述べたり、被告の机の上を突然何もない状態にしたりしたこともない。被告が後述する丙山梅子の手術における再吻合の事実を疑われ、原告病院長に問いただされた際に、原告病院長が「そんなことをしていると誰も君の手術を手伝わなくなるぞ。」と話したことや、被告が辞表を提出した後、被告が事実上使用していたカンファレンスルーム机上の原告病院備品類を被告の同僚らが整頓したことがあるのみである。また、③原告病院長はGVHD裁判の進行状況を全く知らず、被告が証人として証言することも知らなかったのであるから、原告が被告に対してGVHD裁判に関して何らかの働きかけを行うことはありえず、従って、被告がGVHD裁判で証人として出廷するにあたり、原告が何らかの圧力を被告に対して加えた事実も一切ない。さらに、④被告が戊田の遺族に協力したことで原告病院を解雇されたという点も事実に反する。被告は、原告病院で禁止されている兼職行為を行っていることにつき再三注意を受けたにもかかわらずこれをやめなかったこと、兼職先からベンツの供与を受けていたことが発覚したこと、及び、丙山梅子の手術において動脈グラフト四カ所のうち一本を吻合中株式会社ゲッツブラザーズ(以下「ゲッツブラーズ」という。)に提供する予に気付き、吻合部分を再切開した上再吻合し、これについて同僚らに非難されたこと等により原告病院にいたたまれなくなって原告病院を自ら退職したものである。

 なお、①ないし④の事実は被告自身が経験した事実そのものであり、真実か否かは被告自身が熟知している事項であるから、真実と信ずる相当な理由が存在することはありえない。

 よって本件表現は虚偽であり、かつ、真実と信ずるについて相当の理由もないものである。

ウ 本件表現は、被告が解雇された理由について摘示するものであるところ、これは被告の個人的な問題であり、事実の公共性は認められない。

また、被告は、GVHD裁判の意義を利用して被告の退職理由にすり替えることにより、被告を正当化・美化する目的で名誉毀損行為を行ったものであり、目的の公益性は認められない。

(3) 争点(3)について

(被告)

 被告は、原告により突然に解雇され、かつ、虚偽の事実を流布されたことにより、名誉を毀損されており、本件表現はこれを回復・擁護するために必要なものであった。よって本件表現に違法性はない。

(原告)

 被告の主張を争う。

 被告は、原告病院を退職せざるをえなくなったことを隠蔽・正当化するために本件表現を行ったものである。

(4)争点(4)について

(原告)

 「読売ウイークリー」及び「きょうの出来事」の報道内容は、「考心」とほとんど同一であることから、被告による報道機関への発言及び主張が上記報道内容に直結したものと認められ、被告による情報提供行為と「読売ウイークリー」及び「きょうの出来事」の報道内容との間には相当因果関係が存在する。

 なお、報道機関について当該報道のもととなる情報提供を行った者が、当該情報提供について独自に名誉毀損責任を負うことは十分にあり得ることであり、その場合に、報道機関のみを被告とするか、報道機関とともに情報提供者を被告とするか、あるいは情報提供者のみを被告とするかは、原告による被告選択の問題であって、名誉毀損責任の成否に影響を与えるものではない。

(被告)

 原告の主張を否認する。

 本件において、被告が報道機関に対して提供した情報は、争点②記載の被告の主張するア①ないし③の事実のみであり、④GVHD裁判が退職に影響していることについては不確かな情報として語ったに過ぎないし、「読売ウイークリー」の表現に含まれている「医療機器納入業者などが事実無根のイヤガラセ情報を流した」との事実については、述べたこと自体ない。よって、「読売ウイークリー」及び「きょうの出来事」の報道は被告の情報提供に基づくものではなく、被告の情報提供行為との間に因果関係はない。

 また、「読売ウイークリー」及び「きょうの出来事」については、報道機関は被告に対する取材のほか、種々の取材を行った上で、報道すべき事実を取捨選択し、構成し、かつ、脚色しているのであって、「読売ウイークリー」及び「きょうの出来事」の報道は、各報道機関の責任において独自に行われたものであるから、取材源である被告の情報提供行為と「読売ウイークリー」及び「きょうの出来事」の報道内容との間に相当因果関係はないものである。

(5)争点(5)について

(原告)

 本件表現行為によって原告が被った損害は、本件表現行為の内容が虚偽であること、その影響の大きさ、動機と態様の悪質性等に鑑み、金3000万円を下回らない。

 また、原告は、本訴の提起及び追行を原告訴訟代理人らに委任し、その着手金及び報酬として合計5〇〇万円の支払を約したところ、これも本件表現行為に基づく損害に含まれるものである。

(被告)

 原告の主張を否認する。

 「読売ウイークリー」及び「きょうの出来事」では原告の特定すら困難であり、また、「考心」はごく規模の小さい限定された親睦会の会報誌であるから、本件表現により原告に損害が生じたとは考えられず、かつ、本件表現の前後を通じ、原告病院の入院患者数や売り上げが落ちた事実がないことは原告病院長も自認している。よって原告には本件表現により何らの損害も生じていない。

第三 当裁判所の判断

一 争点(1)について

(1) 「考心」について

ア 上記第二の一「前提となる事実」(4)のとおり、平成12年11月26日付け「考心」掲載文は、原告が名誉毀損にあたると主張する表現を含んでおり、かつ、一般の読者が普通の注意と読み方をもって上記表現に接した場合、原告が医療過誤を起こした上、その事実を隠蔽する方針を採り、この方針に従わず医療過誤の事実を患者の遺族に説明した医師を叱責し、かつ解雇し、当該医師の医療過誤訴訟における証言により医療過誤の事実が明らかになることを嫌って執拗な嫌がらせ行為を行ったとの印象を持つものであって、医療機関である原告にとってその社会的評価を低下させるものであると認められる。

イ この点につき、被告は、「考心」において解雇の原因とGVHDの件を明確に関連づける表現はないと主張するが、「考心」掲載文のテーマが「GVHD裁判」であるにもかかわらず、被告が解雇された事実が3箇所にわたって掲載されていること、「死因を説明する医師は日本にはいなかった。」との記載の後に、「そうすることは」「病院ではタブーだったのです。」との記載が続いており、死因を説明したことを病院長から叱責されたとの事実の摘示の後に「突然クビを言い渡された」との記載が続いていること、GVHD裁判の意義を述べた記載の後に「私はクビになりましたが」との記載が続いていることからすれば、原告が名誉毀損にあたると主張する記載部分が、他の部分と相侯って、上記アの印象をその読者に与えるものであることは明らかであって、被告の主張は採用できない。

 また、被告は、「考心」掲載文中で原告の名称は明らかになっておらず原告を特定できないから原告の社会的評価は下落しえないと主張とするが、「考心」掲載文中には「甲田市の徳洲会病院」「徳洲会」との記載があり、これにより原告が明らかに特定されているから、この点についての被告の主張も採用できない。

ウ よって、「考心」における上記表現は、原告の社会的評価を低下させる名誉毀損にあたる。

(2) 「読売ウイークリー」について

 上記第二の一「前提となる事実」(5)のとおり、平成12年12月24日付け「読売ウイークリー」掲載記事は、原告が名誉毀損にあたると主張する表現を含んでおり、一般読者の普通の注意と読み方を基準として上記表現を解釈した場合、上記表現は、表現中に記載された病院につき、「考心」におけると同様の印象を読者に与え、その社会的評価を低下させるものであると認められる。

 そして、「読売ウイークリー」掲載記事には、「神奈川県甲田市の総合病院」「近隣の大学病院からも患者が紹介されてくるような、全国的にも心臓外科の最先端を行く病院」との記載が含まれており、当時甲田市内に心臓外科手術をする総合病院は原告病院以外になかったことから、不特定多数の読者が上記記載により原告病院を特定可能であったと認められるから、「読売ウイークリー」の上記表現は、原告に対する名誉毀損にあたるものである。これに反する被告の主張は採用できない。

(3)「きょうの出来事」について

上記第二の一「前提となる事実」(6)のとおり、平成12年3月7日放送の「きょうの出来事」放送内容は、原告が名誉毀損にあたると主張する表現を含んでおり、上記表現は、一般視聴者が普通の注意と関心をもって上記放送内容を視聴した場合に、放送中に指摘された病院につき、医療ミスについて遺族に真実を告白した医師をこのことを理由に解雇したとの印象をもつものであり、原告の社会的評価を低下させるものであると認められる。

 そして、「きょうの出来事」においては、被告の実名及び被告の映像が放映され、上記病院につき、「8年前」「被告が当時いた病院」との情報が提供されており、被告が複数の大学の講師を務め、講演を行うことも多く、新聞・週刊誌等に名前が出ることもあるなど、心臓外科分野において著名な医師であることや、被告が経歴を公表していることから、上記の情報により、不特定多数の視聴者が原告病院を特定可能であると認められ、「きょうの出来事」の上記表現は原告に対する名誉毀損にあたるものである。これに反する被告の主張は採用できない。

二 争点(2)について

<証拠略>によれば、被告とGVHD裁判との関わりや、被告が原告病院を退職するに至るまでの経緯及びその前後の事情は以下のとおりであったことが認められる。

ア GVHDによる戊田の死亡と被告の遺族への説明

(ア)平成5年12月、被告が主治医を務めていた戊田が原告病院において冠状動脈バイパス手術及び僧帽弁置換術を受け、出血量が多かったために血小板輸血を受けた数日後から、手術創の周囲が発赤し始めた。このため、被告は、GVHD発症を疑い、原告病院の乙野竹夫院長(以下「乙野院長」という。) にこのことを報告するとともに、同院長の了解のもとに日本赤十字社に確定診断を依頼しその結果、GVHD発症が確定した。被告は、乙野院長にその旨報告し、戊田の家族に対しても病名及び症状について説明した。戊田は、術後14日目に肺炎を併発し、呼吸不全により死亡した。

(イ)戊田の死亡後、被告は、戊田の遺族に対し、戊田の死因がGVHDであることや、放射線照射を行わない血小板を輸血するとGVHDを発症する可能性があるが、輸血用血液の供給元である日本赤十字社でも原告病院でも輸血用血小板について放射線照射を行っていなかったことを説明した。また、被告は、医療現場の実態からして、このような放射線照射を行う責任は日本赤十字社にあり、原告病院にはそのような責任はないとの見解を有しており、戊田の遺族に対してもこのような見解に基づいた説明をした。戊田の遺族らは、被告の了解を得て、このような被告の説明をテープに録音した。

(ウ)被告は、戊田の遺族に対して上記のような説明を行ったことを乙野院長に報告するとともに、輸血用血液に放射線照射を行うべき責任は日本赤十字社にあり原告病院にはないことを遺族に説明したので訴訟にはならないと思うとの意見を述べた。

(エ)乙野院長は、原告病院においては、医療過誤の可能性のある事案に関しては、医師の報告を受け、病院としての対処方針を決定し、この方針に従って対応することとしているので、被告の行動は病院としての対処方針が決定されない段階で、遺族に対し被告の独断で説明を行った点で原告病院の方針に反するものであることを指摘し、この点につき被告を叱った。また、被告が輸血用血液に放射線照射を行うべき責任は日本赤十字社にあり原告病院にはないことを遺族に説明したので訴訟にはならないとの意見を述べたことについては、そのように甘いものではなく、被告の考えは未熟であると述べた。

(オ)その後、乙野院長らと被告の間でGVHDによる戊田の死亡の件が話されることはなかったが、平成8年3月に至って、戊田の遺族らが原告と日本赤十字社を相手どって訴訟を提起し、その訴状が原告病院に届けられた際に、乙野院長は被告を呼んで、やはり被告が考えたように甘いものではなかったと告げた。ただし、乙野院長は、当時、輸血用血液に放射線照射を行うことは大学病院を含めてほとんど全く行われていなかったことから、原告病院の固有の問題というよりも、日本赤十字社や輸血を行う病院全体の問題であると考えており、また、放射線照射を行うことによりGVHDによる患者の死亡を防ぐことができるなら望ましいことでもあると考えていて、この訴訟対策にはほとんど関与しなかった。

イ 丙山梅子の手術について

(ア)被告は、平成8年1月26日、原告病院において、執刀医として丙山梅子(以下「丙山」という。)に対し冠状動脈バイパス手術を施行した(以下「丙山手術」という。)。上記手術の助手は丁川医師と戊原医師であり、麻酔医は甲川医師であった。

(イ)原告病院においては、手術経過につき手術室上方からビデオ撮影を行うことを常としていたが、被告は、これとは別に、自己の行う心臓外科手術について手術経過の詳細を鏡視下スコープカメラを用いてビデオ撮影することとしていた。また、被告は、原告病院に医療機器を納入する業者であるゲッツブラザーズとの間で、報酬90万円で被告の執刀する動脈グラフトを使用した心臓外科手術手技ビデオ30本を製作して同年3月末日までに同社に提出するとの内容の業務委託契約を締結していた。

(ウ)被告は、丙山手術についても、鏡視下スコープカメラを用いてビデオ撮影することとして、手術中のビデオ操作を丁川医師及び乙原技師に行わせた。丁川医師及び乙原技師は、手術の重要部分のみビデオ撮影を行うこととし、丁川医師が指示して乙原技師がビデオの撮影スイッチの操作を担当した。

(エ)丙山手術は、バイパスグラフトと冠状動脈を四箇所にわたり吻合することを主内容とする難度の高い手術であったところ、被告が上記のうち一箇所の吻合をすべくグラフトと動脈を糸で縫合していた際、乙原技師は上記ビデオの撮影スイッチがオフになったままであることに気づいた。グラフトと動脈の吻合作業は、丙山手術のうち、非常に重要な部分であったので、丁川医師は、被告に対し、「すいません、撮れてませんでした。」と告げた。被告は、丁川医師の顔を見て、えっという表情を浮かべ、いらいらした様子を見せながら縫合をさらに2、3針進めた後、縫合する手を止め、数秒間考える様子を見せた後、縫合していた糸を切ったが、一度針をかけて糸を通した冠状動脈の辺縁はぼろぼろの状態となっていた。その後、被告は、グラフトと動脈の再度の吻合を行った。

(オ)丙山手術終了後、助手を務めていた丁川医師や戊原医師らは、被告が上記のとおり吻合の途中で縫合の糸を切って吻合をやり直したことにつき、確信は持てないものの、ビデオ撮影がされていなかったことから改めてビデオを撮影するため吻合をやり直したのではないかとの印象があったため、同人らや原告病院心臓外科において同人らとチームを組んでいた丙田医師や丁野医師らとの間で、もし本当にそのような事実であったとすれば残念だと話し合った。なお、丙山は手術後5日目に死亡したが、その死因は脳出血によるもとされた。

(カ)乙野院長は、丙山手術に立ち会った医師らが上記のように話し合っていることをほどなく知り、被告に事情を聞いたが、被告は、最初の縫合は吻合の具合が悪かったために糸を切り、吻合をやり直したと説明し、以後はこのような誤解を受ける行為は決して行わないと述べたことから、乙野院長も、それ以上にこの問題について調査したり、被告の責任を問う動きを見せることはなかった。

ウ アルバイト問題と被告の退職

(ア) 被告は、平成7年末ころ、年内に緊急に心臓外科手術の必要な患者について、原告病院に搬送して手術を行う順番を待っていたのでは年を越してしまうので、被告が手術の助手となる医師や手術用の人工心肺装置を操作する技師らを含む手術チームを伴って丁原病院に赴いて手術を行うことを認めてほしいと乙野院長に申し出た。乙野院長は、この件については緊急の必要性があるとのことで許可したが、あくまでもこの件に限ってのことであって、以後、恒常的に被告が他の医師や技師らを伴って丁原病院に出かけて手術を行うことを許可したわけではなかった。

(イ)ところが、被告はその後も、乙野院長らの許可を得ないまま、原告病院で心臓外科手術を行わない日となっていた木曜日に頻繁に手術チームと連れて丁原病院に出かけて手術を行っては一回あたり約10万円の謝礼を受け取るようになった。また、このような手術に加わった他の医師や臨床工学士らも丁原病院から謝礼を受け取っていた。

(ウ) 乙野院長は、平成8年4月ころ、被告が原告病院の勤務時間中にこのように頻繁に原告病院の手術チームを連れて丁原病院に出かけて心臓手術を行っていることを知り、被告や他の医師らに対してこのようなアルバイト行為を止めるように強く注意した。これに対し、被告も他の医師らも以後はこのようなことは止める旨述べ、実際に被告以外の医師や技師らはこのようなアルバイト行為を取りやめたが、被告は、その後も単身で病院に出かけて同病院で手配した医師や技師らとともに心臓外科手術を行うことを続けていた。

(エ) 同年6月ころから、原告病院の職員用の駐車場に駐車の登録のなされていないベンツが駐車されていることが問題となり、被告がこれに乗っていたことから、職員が尋ねたところ、被告は自分で買ったものであると答えていた。

 その後、同年7月23日に原告病院の事務担当者がこの車の登録事項等通知書を取り寄せたところ、丁原病院を設置運営している医療法人社団丙川会が同年4月25日に登録した車であり、約680万円もするものであることが判明した。そこで、乙野院長が同年8月3日ころに被告を呼んで、被告はアルバイト行為をまだ継続しているのではないか、また、アルバイト先である丁原病院からベンツを供与されているのではないかと問いただしたところ、被告は、当初は、アルバイト行為はもうしておらず、ベンツは自分で買ったものだと主張していたものの、上記登録事項等通知書を示されると、態度を改め、丁原病院でアルバイト行為を継続していること及びアルバイト先である丁原病院からベンツを供与されていることを認めて陳謝した。

 そして、被告は、今後は丁原病院に出かけて心臓外科手術を行うことを止め、ベンツも返還すると申し出たが、乙野院長は、アルバイト行為をやめるよう注意したにもかかわらずその後も恒常的に他の病院にでかけてアルバイト行いベンツの供与まで受けていた以上、一緒にやっていくことはできないので辞めてもらいたい旨を告げた。すると、被告は、一旦は、「訪問看護でも何でもしますから原告病院において下さい。」などと述べ、涙を流して土下座するなどしたが、乙野院長が、乙野院長個人の判断だけでなく、従前の丙山手術のこともあり、今回のアルバイト問題とあわせて、他の医師や職員らの信頼が失われているので他の医師や職員らとチームワークを組んで仕事をすることができない旨を告げると、被告も退職を受け入れた。

(オ) 被告は、週明けの同月5日、乙野院長に辞表を提出したが、この辞表には、「私こと、甲野太郎は、一身上の都合により、医療法人社団愛心会乙山病院心臓血管外科部長の職を辞任させていただきたく、ここに請願いたします。尚、後任には丙田春夫医師を強く推薦させていただきます。」と記載されていた。

(カ) なお、そのころ、被告が使用していた机から、上記の通り被告がゲッツブラザーズとの間で締結していたビデオ制作に関する業務委託契約書が発見されたことから、乙野院長は、はゲッツラザーズの担当者を原告病院に呼び出し、原告病院に断りなく被告との間でこのような業務委託契約を締結していたことを責め、ゲッツプラザーズは、以後六か月間、原告病院に対する心臓血管外科製品の納入を自粛することとなった。

(キ)被告は、同月31日付で原告病院を退職し、同年10月21日、退職金を受領した。

エ 退職後の事情

(ア) 被告は、原告病院を退職した後、同年9月から丁原病院に勤務するようになり、同病院に心臓外科を開設し、心臓外科手術を続けている。

(イ) 被告が原告病院を退職してから約一年半が経過した平成10年1月27日、GVHD裁判の第10回弁論期日において、同裁判の原告であった戊田の遺族らは、被告を証人として申請し、同年7月28日、同裁判の第四回準備的口頭弁論期日において採用され、同年10月30日、同裁判の第11回口頭弁論期日において被告の証人尋問が実施された。被告は、戊田に対する手術の経過、輸血当時のGVHDに対する認識、原告病院にGVHDを予防する放射線照射装置がなかったことや、輸血用血液に対する放射線照射は血液供給元である日本赤十字社が行うべきであると被告自身は考えていること等を証言した。

(ウ) この間、同年4月15日、ゲッツブラザーズの担当者から、被告に対し、「先生にHeart port訪問/見学をしていただいた件が乙山の戊山技師に伝わり、院内で『ゲッツは何事につけ秘密に裏で行動する会社である。』との批判を受け、やっと一部使用再開していただいた人工弁にも影響すると、営業サイドから相談が持ち込まれました」との内容のメールが送信されたことがあったが、このことが、被告がGVHD裁判で証人申請されていたことと何らかの関連があると認めるべき証拠はない。

(エ)また、同年10月ころ、被告がGVHD裁判において証言を行う前に、丁原病院心臓病センターに徳洲会の弁護士のイケグチと名乗る人物から四回ほど電話があり、被告の秘書が電話を受け、被告に取り次ごうとしたが、被告は電話に出なかった。したがって、この電話がいかなる用件についてであったのかは被告は把握していない。

(2) 上記認定事実に照らして、本件表現の真実性及び真実と信じるについての相当の理由の有無につき以下に順次検討する。

ア 上記認定のとおり、①平成5年12月、被告が戊田の遺族に対してGVHD発症の原因や日本赤十字社や原告病院の責任の所在等について説明した旨乙野院長に報告した際、同院長が、原告病院においては、医療過誤の可能性ある事案に関しては、医師の報告を受け、病院としての対処方針を決定し、上記方針に従って対応する方針を決定し、上記方針に従って対応することとしているのに、被告の行動は病院としての対処方針が決定されない段階で、遺族に対し責任の所在にも及んだ説明を行った点で、原告病院の方針に反するものである点を指摘し、この点につき被告を叱ったこと、②被告が輸血用血液に放射線照射を行うべき責任は原告病院にはないことを遺族に説明したので訴訟にはならないとの意見を述べたことについては、そのように甘いものではなく、被告の考えは未熟であると述べたこと、③その後、平成8年3月に至って、戊田の遺族らが原告と日本赤十字社を相手取って訴訟を提起し、その訴状が原告病院に届けられた際に、乙野院長が被告を呼んで、やはり被告が考えたように甘いものではなかったと告げたことは、いずれも事実である。しかし、このような乙野院長の発言は、GVHD発症の原因を遺族に隠蔽すべきであるとの立場に立って、被告がGVHD発症の原因を遺族に説明したこと自体を叱責したり、未熟な人間であると非難したものでなかったことは明らかである。従って、本件表現中の、「私は甲田市の病院の院長から『どうして事実を家族に話したんだ!おまえはそういうところがまだまだ未熟な人間だ!』と叱られました。」との記載(「考心」)及び「病院の院長は、福山医師に対して『どうして事実を家族に話したんだ!お前のそういうところが未熟なんだ』と烈火のごとく怒鳴りまくったという。同年7月には、『君の手術は、だれも手伝わない』と院長から事実上の解雇宣告を受けた。」との記載(「読売ウイークリー」)はいずれも真実ではなく、また、そう信ずるにつき相当の理由も存在しないものである。

 なお、被告本人尋問の結果中には、上記の事実が真実であるとの被告の主張に沿う供述部分があるが、戊田の生存中、すでにGVHD発症の事実については、戊田の家族に話しており、その段階では原告病院長に何もいわれなかったとしながら、戊田が死亡した後にGVHDで戊田が死亡したことにつき戊田の遺族に話したことで激しく叱責されたとするのは不自然である上、証人乙野竹夫の証言に照らしても採用できない。

イ 次に、被告が原告病院を退職するに至った経緯は、上記認定事実のとおりであり、被告は原告病院の許可を得ないまま、原告病院の勤務時間中に頻繁に他の医師やその他の手術チームを連れて丁原病院に出かけて手術を行って謝礼をもらっており、このことを知った乙野院長がこのような行為をやめるように強く注意した後も、被告一人で丁原病院に出かけて心臓外科手術を行うことを恒常的に続けたばかりか、丁原病院からベンツの供与まで受けていたことが発覚したことから、丙山手術について他の医師らの疑いを招いていたこととあわせて、乙野院長から退職を求められ、被告もこれを了解して退いたものである。従って、本件表現中、他の表現とあわせることによって被告がGVHD裁判に関して戊田の遺族に協力したことを原因として原告病院から解雇されたとの印象を与える表現である「私がその甲田市の病院を突然に解雇された」「私は同じ年の七月に甲田市の病院から突然クビを言い渡されました。」「(私はクビになりましたが)。」(「考心」)、「『君の手術は、だれも手伝わない』と院長から事実上の解雇宣告を受けた。」(「読売ウイークリー」)及び「遺族に全てを話し、病院を追われた彼は」「遺族に真実を話した医師は病院を追われてしまいます。」「ある日、甲野医師が出勤すると、机の上には何もなくなっていた。病院の院長は、『君の手術にはもう誰も協力しない。』と告げたという。事実上の解雇通告だった。」(「きょうの出来事」)との各表現は真実であるとは認められず、また、そう信ずるにつき相当の理由も存在しないものである。

 この点について、被告本人尋問の結果中には、被告の退職当時の状況に照らし、被告が退職する理由がGVHD裁判の件を除いて他に存在しないから、被告がGVHD裁判に関して戊田の遺族に協力したために原告病院を解雇されたとの表現は真実であり、または真実であると信ずるにつき相当の理由があるとする供述部分がある。しかし、被告が退職した理由は上記認定のとおりであり、また、被告が戊田の遺族に対してGVHDの発症やその原因について説明してから被告の退職の時期までは二年半以上が経過していることや、被告の退職の前後に原告病院の側からGVHD裁判に関して被告を責めたり、同裁判について戊田の遺族に協力しないでもらいたいなどという言動が一切なされていないことに照らしても採用しがたい。

ウ 次に、上記事実によれば、①平成9年8月ころ、原告病院への医療機器の納入業者であるゲッツブラザーズが原告病院の知らないうちに、被告との間で報酬90万円で心臓外科手術手技のビデオ製作・提供に関する業務委託契約を締結していたことが発覚し、原告病院からこのことを責められたことから心臓血管外科製品の納入を一時自粛していたこと、②その後、平成10年4月ころ、ゲッツブラザーズから被告に対し、上記(1)のエの(ウ)の内容のメールが送信されたことがあったこと、③被告がGVHD裁判の証人として出廷する前の時期に被告に対して徳洲会の弁護士と名乗る人物から四回ほど電話がかかってきたことがあったことは、上記(1)に見たとおりである。しかし、上記①の事実は、被告がGVHD裁判の証人として申請さるよりも約一年半も前のことであり、被告が証人として出廷することとなんらの関係のないことはその時期の点に照らしても明らかである。また、上記②の事実もメール内容に照らしても被告がGVHD裁判の証人として出廷することと何らかの関係があるものとは見られず、他にこの点を認めるべき証拠もない。更に、上記③の点についても、被告は結局電話には出ていないのであって、上記電話がどのような用件であったかは不明であり、嫌がらせのための電話であったとは決めつけることは到底できないものである。

 そうすると、本件表現のうち、「出廷する日が近づくと徳洲会からの執拗な嫌がらせが丁原病院に勤務する私や病院を襲いました。徳洲会弁護士のI氏からは何度も電話がかかってきました。」(「考心」)、「被告からの数々の圧力」「出廷する日が近づくと、福山医師の周辺で、医療機器納入業者などが事実無根のイヤガラセ情報を流したり、病院側の代理人が何度も電話をかけてきたりしたそうだ。」(「読売ウイークリー」)との表現は真実であると認められず、また、そう信ずるにつき相当の理由も存在しないものである。

エ また、上記各表現が真実であると認められない以上、これらが真実であることを前提とした被告の意見である「またそうすることはむしろ医師社会、特に営利や選挙活動を主体とする病院ではタブーだったのです。」(「考心」)との表現は、公正な意見・論評であるとは到底認められない。

オ 以上によれば、その余の本件表現の公益性や公益目的等の点について判断するまでもなく、本件表現が違法性を阻却される余地はなく、また、被告に名誉毀損の故意または過失がなかったと認める余地もないものである。

三 争点(3)について

上記二の(1)に認定した各事実に照らし、被告が原告を突然に解雇され、かつ、虚偽の事実を流布されたものと認めることはできず、被告が原告により違法に名誉を毀損されたと認めるに足りないから、本件表現が被告の名誉を回復擁護するために必要なものであったとはいえず、これを理由に本件表現につき違法性が阻却されることはない。

四 争点(4)について

(1)上記第二の一の「前提となる事実」(4)に見たところと〈証拠略〉をあわせると、「読売ウイークリー」掲載内容及び「きょうの出来事」放映内容と、「考心」掲載内容は、被告がGVHD裁判に協力したため解雇されたとの印象を読者または視聴者に与える点で共通しており、また、「考心」掲載の病院長の叱責文言と、「読売ウイークリー」掲載の病院長の叱責文言は酷似していること、「読売ウイークリー」掲載の事実上の解雇通告文言と「きょうの出来事」放映の病院長の「事実上の解雇通告」文言は酷似していることが認められる。そして、「考心」掲載文が被告の寄稿文すなわち被告が「考心会」に対し提供した情報そのものであることから、被告が読売新聞社及び日本テレビに対して提供した情報も「考心」寄稿文とほぼ同一の内容であったことが推認される。

 そうである以上、「読売ウイークリー」及び「きょうの出来事」で、被告がGVHD裁判に協力したため原告病院を解雇されたこと等を内容とする報道がなされたのは、被告の情報提供に基づいてなされたものであると認められ、被告の情報提供行為と「読売ウイークリー」掲載内容及び「きょうの出来事」放送内容との間には因果関係が存在するものと認められる。また、「きょうの出来事」には、上記第二の一「前提となる事実」(6)のとおり、被告本人が説明する映像が放送されており、この点からも「きょうの出来事」放映内容が被告の情報提供に基づいて製作されたことが認められる。

 なお、「読売ウイークリー」には「医療機器納入業者などが事実無根のイヤガラセ情報を流した」とする部分があり、上記部分は「考心」にはなく、被告が提供した情報と相違した報道がなされたと認められるが、これは被告の提供した「被告に関わりのある医療機器納入業者に対し圧力をかけられるなどの嫌がらせを受けた」との情報を取り違えて報道したものと容易に認められるのであって、被告の提供した情報を元にした報道である点及び被告による情報提供がなければ報道されることはなかった点では他の部分と変わらないのであり、かつ、GVHD裁判の証人として出廷するに際し被告に対して圧力がかけられたとの印象を与える点において、上記部分は、被告により提供された情報がそのまま報道されていた場合と変わりないのであるから、この部分についても被告による情報提供行為と報道との間に因果関係を認めることができる。

(2)そして、被告提供にかかる上記情報は、①被告の個人的経験にかかる事実に関するものであり、被告により提供されなければ報道機関がこれを知り、報道することはなかったと認められること、②提供された情報は、医師である被告自身が主治医として関わった患者の死亡事故や裁判に関するものであり、その内容にも照らしても、このような情報提供を受けた報道機関にとってこれが虚偽の情報であると疑う余地の乏しいものであった上、情報の性質上、被告からの情報提供を受ける他にこれを裏付ける取材を行うことが困難なものであったこと、③情報の内容自体、医療事故及びこれに対する医療機関の姿勢についての関心が高まりつつあった社会風潮と合致するものであり、一旦報道機関に提供されれば、報道機関が報道することが強く予測されるものであったことが認められることに照らすと、被告による上記情報提供行為が「読売ウイークリー」及び「きょうの出来事」の本件表現部分につながることは通常予想が可能と認められるものである。

 そうすると、被告による情報提供行為と「読売ウイークリー」及び「きょうの出来事」の本件表現部分との間には相当因果関係が存在すると認められる。

(3)なお、この点に関し、被告は、「読売ウイークリー」及び「きょうの出来事」における本件表現部分は報道機関の独自の責任において報道されたものであり、被告による情報提供行為との間に相当因果関係は認められないと主張するところ、確かに、雑誌記事及びテレビ番組の編集は報道機関に委ねられているから、報道機関に対し情報提供を行った場合に、編集により取捨選択され、報道されない可能性も一般的には認められるが、本件においては、上記のとおり提供された情報自体がそのまま報道される可能性の高い性質のものであるので、報道機関が介在することにより相当因因果関係が否定されることはないものであり被告の主張は採用できない。

五 争点(5)について

(1) 本件表現が、いずれも原告の社会的評価を低下させる名誉毀損行為にあたることは上記一に見たとおりであるが、これらの表現がなされた形態は、被告の執筆した文章によるもの(「考心」)、被告の情報提供行為に基づいて週刊誌の記事として掲載されたもの(「読売ウイークリー」)、被告の情報提供行為に基づいてテレビで放送されたもの(「きょうの出来事」)とそれぞれ異なっており、また、その発表された時期も相当異なっていることから、これらを一個の不法行為と見ることはできない。

 そこで、以下、これらの個別の名誉毀損行為によって原告の被った損害額を検討する。

 なお、被告は、本件表現がなされた時期を境に原告病院の入院患者数や収益が低下するなどの経済的損失を原告が受けたことはなかったことから、原告には損害が生じていないと主張するが、本件表現によって原告の名誉が損なわれたことによる損害は、その名誉毀損のなされた時期を境にして直ちに現れる収入の差額に尽きるものではなく、信用及び名誉を毀損されたことによる無形の損害も含まれるものであるから、被告の主張は採用することができない。

(2) 「考心」掲載文について

 上記第二の一及び第三の一のとおり「考心」掲載文には、原告が医療過誤の事実を隠蔽しようとしたこと、被告が医療事故の事実を患者に説明したことを叱責した上で解雇したこと、被告がGVHD裁判で証言するにあたり嫌がらせを執拗に行ったこと等が直接的な表現で記載されており、かつ、「(死因などを説明することは)タブーだったのです。」など、原告が医療過誤の事実を隠蔽することを常としているかの如き記載もあり、これらの表現は、医療機関である原告の信用及び名誉を著しく毀損するものであると認められる。

 他方で、〈証拠略〉によれば、「考心」は被告による心臓手術の執刀を受けた患者及びその家族で構成される被告を中心とした団体であり、平成13年において会員数、約四〇〇名からなる比較的小規模な団体の会報誌であり、上記表現が流布する範囲は限られていると認められることや、その他の本件にあらわれた一切の事情を考慮すると、「考心」掲載文に関する原告の慰謝料と、「考心」掲載文に関する原告の慰謝料は100万円が相当である。

(3) 「読売ウイークリー」について

上記第二の一及び第三の一のとおり、「読売ウイークリー」掲載記事は医療機関たる原告の信用及び名誉を毀損する表現を含んでおり、かつ、「読売ウイークリー」は全国に頒布されている週刊誌であり、購読者数も少なくないと考えられるが、他方で、同記事中において原告名が明示されてはおらず、被告名も仮名であることが認められるのであって、これらの事実のほか本件にあらわれた一切の事情を考慮すると、「読売ウイークリー」掲載記事に関する原告の慰謝料は150万円が相当である。

(4) 「きょうの出来事」について上記第二の一及び第三の一のとおり、

「きょうの出来事」放送内容は医療機関たたる原告の信用及び名誉を毀損する表現を

含んでおりかつ、上記表現はテレビ放映という方法を採ってなされたものであり、視聴者に対し強い印象を与えるものであると考えられる上、「きょうの出来事」は全国的に放送されているテレビ番組であり、視聴者数も多いと考えられるものであるが、他方で、上記番組中で原告名は明示されていないのであって、これらの事情のほか本件にあらわれた一切の事情を考慮すると、「きょうの出来事」放送内容に関する原告の慰謝料は150万円が相当である。

(5)弁護士費用

<証拠略>によれぱ、原告は本件訴訟の追行を原告訴訟代理人に委任したことが認められるところ、本件事案の内容、審理経過と、「考心」掲載文に関する原告の慰謝料過、認容額等に照らすと、弁護士費用とし

第四 結論

 したがって、原告の請求は、被告に対し440万円及びうち金100万円に対する平成12年11月26日から、うち金150万円に対する平成12年12月24日から、うち金150万円に対する平成12年3月7日から各支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西村則夫 裁判官 三木勇次 杉崎さつき)

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2008年3月13日 (木)

『いろもの』に負けられるか!

自分を奮い立たせることが、独りでは困難なことがある。

明らかに「無罪」でも、刑事事件裁判で最終的決着がつくまでは長い。うんざりする。自分がやりたい事を我慢してもこれに取り組まなくてはならない。

逆に、今、ブログを書くよりやるべき事があるのに、これにも集中できない時がある。

他のことは何も考えずに、やりたい事だけに集中できたころ。複雑心(臓)奇形修復手術の診療で週10時間以下の睡眠で懸命になったり、研究室の床で仮眠を取りながら国際学会口演に向けて文献や専門書を読み漁ったり、飛行機内プレゼンテーションのための勉強に集中するあまり、結膜出血して白眼が真っ赤かになったりという肉体的にはつらい状況でも充実していた過去を振り返りたくなる。

大して美味しくも無いがお金だけは儲かっている「餃子屋の主人」が、フランス料理を一回も作ったことが無いどころか、一流店で食事をしたこともなく、フランス料理の専門書すら読んだこともないのに、「日本のフランス料理界」について論じている姿をテレビで放映したり、新聞、雑誌が記事にしたりしているように見える。ドレスアップしたF1レーサーがパーティ会場に沢山参加している中、タクシー会社の売り上げナンバーワンがへたった制服のまま遅れて入ってきたところ、インタビューアーが「ドライビングテクニックについて」そのタクシー運転手にマイクを向けているようである。

控訴審で、「エセ・ジャック」が証人として一審に続いて出廷したことを少し書いたところ、ネットで、「先生、『いろもの』に負けないでください。」と常識的な医師から励まされた。この件を彼を良く知る人達に話したところ大爆笑。もちろん、「的を射ている」表現ということだ。

警察が捜査を始めたのが2002年1月起訴されたのが、2002年7月。一審無罪判決は2005年11月。その間、3年11月。

控訴は2005年12月で、2008年3月現在検察側の「新証拠」として出廷した一審でも証言した証人がやっと一人終了。その間、2年4月。長い。

一審。公判50回以上、検証実験2日間検察側証人16人(複数回出廷者複数存在)弁護側証人2人、相被告人尋問5期日、自分の被告人尋問6期日検察官申請証拠約130点、弁護側申請証拠約133点。このような膨大な証拠を精査し、医学水準に立脚して事実究明を行い、2002年7月の起訴から約3年半を経て、2005年11月、被告人を無罪とした。このように、原審は、凡そ本件の審理に必要と判断される全ての証人を調べ、医学情報を摂取し、自ら検証を行い、被告人質問も十分に行ったうえで判決を下したのであり、これ以上に審理できる対象は客観的に存在しない

このような審理によって到達した結論が動かし難いものであることは明らかである。

「学会よりも業者が持ってくる情報のほうが大切だと考える」検察側証人は気軽にやっている。事件で使われたタイプの人工心肺装置は使用したことがない、それに関する文献は読まない、膨大にある調書は検察が示した部分のみ教えてもらって調書自体はちっとも読まない、カルテもごくごく一部しか読まない。

検察側証人は、いい加減なことをいっても偽証しても、偽証罪で起訴されるはずが無い。検察の意向にそって供述して内容が偽証だと告訴しても、起訴できる組織が検察だけである限り、検察が選任した証人が偽証したと立証するはずがない。

「ノブレスオブリージュ」というフランス語。「社会的に恵まれた立場にいる者は、人々の模範となるよう行動する『高貴なる義務』を負うべし」と学んだ。医師は、一般的には、社会的に恵まれた立場にあるとされている。名著「医療崩壊」の著者で私の学生時代の教官であった小松秀樹先生の言葉をお借りすれば、「勤務医は、社会と距離をおいて、自尊心と良心をもちつつ仕事をすることを望む。医療にささやかな誇りと生きがいを感じており、医師の仕事を金を得るための労働とは考えていない。ただし、先頭にたって社会を引っ張るような迫力や、強い使命感のようなものはない。他からの賞賛より、自らが価値があると思うことが重要だと考えている。収入も、普段の生活でお金の苦労をするようなことが、なければよいのであって、必ずしも多額の報酬を望んでいるわけではない。仕事で自分の価値観に反するようなことをせずにすみ、それなりに生活できればよいと思っている。自尊心を捨てない限り、自らの利益を声高に主張するようにはならない。」

これに対して、南淵明宏医師は、「この手術室にゼニと名声が埋まっている」「仕事を『商売』といい、患者を『お客さま』と考える(週刊医学界新聞)2572号(2004年2月16日)」また、最近実感したことは、「実るほど頭をたれる稲穂かな」で、年収が3000万円を超えると謙虚になった自分に気づいた旨自著に執筆している。

色物。

寄席で、講談・義太夫などに対して、声色・音音・曲芸・奇術などをいう。昔は、落語も色物に含まれた。(広辞林第六版)

1.         寄席において落語講談以外の芸、特に音曲を指す。

2.         1より転じて、ある場において、それがもともと意図していない、あるいは中心的な存在とは考えていない分野、そうした分野を専門とする人々を言う。専らテレビの世界においてお笑い芸人を指して用いられることが多く、本来の寄席用語とは実質的に逆の使われかたをしている。(ウキペディアより)

JFKと私と医療 http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2006/09/jfk_7ba5.htmlをぶつけてやりたい。(金銭や発言の場の)多くを与えられている者には多くが要求される。そしていつ日か、歴史という高貴な裁きの場で、われわれが(証人が)国家に対するつかの間の奉仕においてどれだけの責任を果たしたかが問われることになるだろう。その時、四つの疑問に対しわれわれ(証人が)がどう答えるかで審判が下されるだろう。

第一に、われわれには(証人は)真の勇気があったか。その勇気とは敵に(被告人)対するものでなく、必要とあれば仲間(メディアや名誉欲)に対しても立ち向かうことのできる勇気であり、公のプレッシャーだけはなく、私的な欲望にも立ち向かえる勇気である。

第二に、われわれには(証人には)真の判断力があったか。未来と過去を真正面から見つめ、自らの(証人の)過ちを認め、自分たちの(証人の)知識の限界を知り、それを認める英知があったか。

第三に、われわれには(証人には)真の尊厳があったか。自らの信念を貫き通し、人々の信頼を裏切らなかったか。政治的野望や金銭的欲求のために神聖なる任務を汚さなかったか。

最後に、われわれは(証人は)真に国家に貢献したか。名誉を特定の人間やグループに妥協せず、個人的恩義や目的のために道を曲げず、ただひたすら公共のため、国家のために身を捧げたか。

勇気、判断力、尊厳、そして献身・・・これら四つの要素が(証人の)活動の基準となるであろう。」 「ケネディからの伝言」落合信彦著より。一部変更。

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2008年3月 7日 (金)

「日経メディカル」記事掲載ー本人訴訟でフジテレビに勝訴―

 日経メディカル 2008年3月号 175頁~177頁 DISPUTE 医療訴訟の「そこが知りたい」 に、フジテレビの本人訴訟で勝訴した件が掲載されました。

 「医療事故裁判の報道で名誉毀損 医師が自力でテレビ局に勝訴」(田邊 昇先生執筆)と題した記事です。2008年3月10日発売とのことでしたが、既に発行され当院の医局図書室でも閲覧できるようになりましたので、3月10日にこのブログを発表する予定であったところを早めることにしました。

 大きな書店や図書館に置いてあると思います。また、病院や医局でもい購入されているところも多いと思いまので、閲覧してみてください。

「東京女子医大で心臓手術を受けた患者が死亡した事故で、医師が無罪判決を言い渡されました。その判決を報じたニュース番組の内容が名誉棄損に当たるとして、その医師が弁護士を通さずにテレビ局を訴え、勝訴しました。」と紹介されていますが、その通りで、この裁判に関しては、

勝訴 フジテレビ訴訟 本人訴訟第1号http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_fea3.html

フジテレビ訴訟 判決http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_7178.html

フジテレビ訴訟 本人尋問のお知らせhttp://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/06/post_44bb.html

フジテレビ側 控訴 http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/09/post_5212.html

等に書いて最近のブログに復刻してきました。

 フジテレビが控訴したため、私はこれに対して附帯控訴中です。附帯控訴とは、被控訴人が相手方の控訴によって開始された控訴審手続中において、控訴審判の範囲を自己に有利に拡張させて、原判決の取消し・変更を求める申立てです。要は、勝訴したけれども、判決の一部には不満があったので、相手が控訴するならこっちも判決に対する不満を訴えると理解されればよいと思います。

 この日経メディカルにも、

勝訴しても賠償額は非常に低いことがほとんどであり、

とありますように、現在の本邦においてすら100万円の賠償額は「非常に低額」とう評価です。以前の100万円ルールから500万円ルールに準じた賠償額を認定すべき旨の研究論文が裁判所から発表されてから5年。「武士の名誉」と「法律上の名誉」違う概念ですが、名誉を尊重するわが国の歴史も鑑み、名誉を尊重した判決を望みます。

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復刻 フジテレビ訴訟 控訴審

2007年9月12日 フジテレビ側 控訴http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/09/post_5212.html

②2008年2月1日 今日のフジテレビ控訴審 http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/02/post_f412.html 

2007年9月12日 フジテレビ側 控訴

 東京地方裁判所 民事第6部に連絡したところ、フジテレビ側は、2007年9月10日に控訴したとのことです。記録が高裁に移った後に、呼び出しがあるそうです

②2008年2月1日 今日のフジテレビ控訴審

 今週来週は本人訴訟の嵐です。今週は、小学館控訴審(相手弁護士3人法務部3人)と今日のフジテレビ控訴審(原審弁護士3人助っ人弁護士1人(他の法律事務所で元判事のベテラン))、来週は集英社+毎日新聞社医療問題取材班訴訟があります。

フジテレビは、強制執行を申し立てて、75万円の担保を立てさせてまでねちっこくやっています。素人相手に大人げないなと思っていたところ、今度は、助っ人登場。相手は複数の法律事務所の4人となりました。これに向こうは法律事務所の秘書さんが沢山いますから羨ましい。こっちは、一人で、証拠集め、判例と法律専門書の読み込み、書面書き、印刷、推敲、再印刷、コピー(一回の書類提出で、軽く数百枚になる)、ハンコ押し、ファクシミリ、郵便、出廷、裁判官とやり取りしながら必要事項のメモ。これが二週間で3つあると結構大変ですよ。

 控訴理由書、答弁書、準備書面、附帯控訴状、陳述書、証拠説明書等の書き物で、睡眠時間が大幅に減少。2時間以内になると結構辛い。久しぶりに床に寝ました。「控訴趣意書の答弁書と準備書面と固い床」http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2006/09/post_55b3.htmlの「どうしても明日までに仕上げない書類の作成中に眠くなったら、医局の固い床のカーペットの上に寝ています。寝心地が悪いと直ぐに起きることができるからです。締め切りの近い学会の抄録や依頼原稿、学位論文もこの方法でやっていました。「眠らない」ためには、「眠りにくいところで寝る」ことが仕事を仕上げるのにはよいと思っています。」状態でした。

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2008年3月 6日 (木)

復刻 フジテレビ訴訟 勝訴本人訴訟第1号

2007年8月27日 勝訴 フジテレビ訴訟 本人訴訟第1号

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_fea3.html

2007年8月27日。刑事事件一審だけで50回、刑事控訴審と民事訴訟、民事控訴審、傍聴、手続き等で、100回近く通った東京地裁。13時前の入り口カウンター付近には、10人以上の学生風の20代前半くらいの人が傍聴する訴訟を書類で検討している。夏休みならではの光景。721号法廷には、17人の傍聴者。内一人は、いつも傍聴にきているフジテレビの社員。相手側弁護士は、6人が名を連ねている事務所だが、代理人席にも、傍聴席にも姿は見えない。

裁判所書記官は、私に対して大変友好的。親切で、気軽の話しかけてくれた。今日も会話するときの顔は真剣だが、視線が柔らかい。(詳細は、控訴審中であるので避けるが、一審の刑事事件の書記官との関係と似ていた。)

裁判官3人が入廷。裁判所の内で、道に迷った私に気軽に案内をしてくれたことがある土肥章大裁判長。部内の4畳程度の狭い部屋で、会食するようなテーブルで行われる弁論準備期日でのフレンドリー、気さくな感じとは雰囲気が違う。テレビドラマに出てきてもよいくらいカッコいい裁判長。「裁判官とはこういう人」だというイメージ通り。一見学者風かもしれないが、「公正な視線」は、堅苦しくなく、形式的でもない。

いつもよりも、低音で響くはっきりとした若々しくも威厳のある落ち着いた声。    「主文 

1.被告は、・・・」この出だしで、勝訴を確信する。

「・・・原告に対し、100万円及びこれに対する平成17122日から支払い済みまで年5分の割合による金員を払え。

2.原告のその余の請求を棄却する。

3.訴訟費用は、これを15分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

4.この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。」

「詳細は、12階6部で、正本を受け取ってお読みください。」

自然と丁寧に頭が下がった。本人訴訟での勝訴判決第1号。

私の後を追うように、2人の学生風の傍聴者が退廷。私の判決だけを傍聴しに来ていた様子。13時30分からは、集英社と毎日新聞医療問題取材班の各記者を個人で訴えた別訴訟の最初の弁論期日が行われる705号法廷に向かった。

 この集英社と毎日新聞の記者を訴えた弁論期日の後に判決を手に入れる。刑事判決が52ページだったのに対して、この判決も36ページ(40字x26行)。

 判決の理由には、一部不満なところもありますが、ごく一部を抜粋すると、

「・・・本件刑事事件が原告に対し無罪の言渡しをしたとうはいうものの、実際には、原告が、未熟で、その過失があったために、本件事故が生じた可能性があるとの印象を受けることは、否定できないのであって、当時第一審で無罪判決を受けた直後であった原告の人格的価値を損ない、その社会的評価を低下させるものであったというべきである。・・・・原告に対する無罪判決に疑問があることを示唆する内容の情報も多数提供しており、(別項目でこのことには真実性も相当性もないと判示)さらに、その構成も、冒頭部分と最後に本件刑事事件判決に批判的な本件患者の遺族による記者会見でのコメントを挿入し、他方、判決直後になされた原告の記者会見(甲12)でのコメントは用いていないなど、これを全体的に観察すると、原告に対する無罪を言い渡した本件刑事判決に批判的な視点で構成されているというべきであり、・・・・実際には、原告が、未熟で、その過失があったために、本件事故が生じた可能性があるとの印象を与えることは否定できず、原告の社会的評価を低下させるもので、原告の名誉を毀損するものといわざるを得ない。」

 と主たる部分ではしっかりと判示してくださいました。

以下省略

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復刻 フジテレビ訴訟 判決

2007年8月25日 フジテレビ訴訟 判決

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_7178.html

2007827日 月曜日 1310分 東京地方裁判所 民事第6部

 フジテレビ訴訟の判決が下ります。

以下にこれまでの約一年半に渡る訴訟の経過の一部を記載します。

現在テキスト化されて残っているもののみになりますので、全体の書類の3分の2程度になります。被告の準備書面第2,3がありませんので、どちらが優位か正確は判断はできないと思いますが、訴訟の争点などは伝わると思います。

 簡単に「名誉毀損で訴えてやる。」と口にする人もいますが、実際一人でやるとなると結構大変です。事務手続きや連絡なども毎回必要ですので、労力はいります。とはいっても、刑事訴訟の100分の1程度の負担かもしれません。

 最後まで読み切る暇な人も稀かもしれませんが、私の訴状、準備書面、陳述書を読むだけでも大きな流れはわかると思いますので、ご意見があればコメントお願いいたします。

 勝訴しても敗訴しても報道はされると思いますので、その報道に対するコメントでも結構です。

平成18年(ワ)第5889号 損害賠償請求事件

原 告 

佐藤一樹

被 告 株式会社フジテレビジョン

訴    状

2006年3月22日

東京地方裁判所 御中

原 告      佐藤一樹

当事者の表示

別紙当事者目録のとおり

損害賠償請求事件

訴訟物の価額 金15,000,000円

貼用印紙額  金    65,000円

第1 請求の趣旨

1 被告は,原告に対し,金15,000,000円及びこれに対する2005年12月2日から完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

第2 請求の原因

1 当事者

(1) 原告は,東京女子医科大学病院(以下「女子医大」という)に勤めていた医師であり,女子医大日本心臓血圧研究所(以下「心研」という)において2001年3月2日に施行された平栁明香氏(以下「本件患者」という)に対する心房中隔欠損症及び肺動脈弁狭窄症の手術(以下「本件手術」という)の際に人工心肺装置の操作を担当していた医師である。

(2) 被告は,テレビ番組放送等を目的とする会社であり,報道番組「FNNスーパーニュース」並びに情報番組「めざましテレビ」及び「とくダネ!」を制作・放送している。

2 本件ニュース

(1) 被告は,2005年11月30日午後4時55分からの「FNNスーパーニュース」において,同午後6時1分ころ同4分ころまでにわたって,原告に関するニュース(甲1-1,1-2-①~⑰,1-3。以下「本件ニュース1」という)を放送した。

(2) 被告は,同年12月1日午前5時25分からの「めざましテレビ」において,同午前5時38分ころから同39分ころまでにわたって,原告に関するニュース(甲2-1,2-2-①~③,2-3。以下「本件ニュース2」という)を,そして,同番組の同午前7時8分ころから同9分ころまでにわたって,原告に関するニュース(甲3-1,3-2-①~③,3-3。以下「本件ニュース3」という)を放送した。

(3) 被告は,同日午前8時00分からの「とくダネ!」において,同8時52分ころから同57ころまでにわたって,原告に関するニュース(甲4-1,4-2-①,②,4-3。以下「本件ニュース4」という)を放送した。

(4) 本件ニュース1ないし4は,いずれも東京地方裁判所の所内と考えられる場所を原告が歩いている場面を映した映像(以下「本件映像」という)を含むものである(甲1-1,甲1-2-①~⑫,甲2-1,甲2-2-①,甲3-1,甲3-2-②,甲4-1,甲4-2-①)。

(5) 本件ニュース1には,次のとおりのナレーション(N),テロップ(T)およびインタビュー発言(I)が含まれている。

T①:「『過失責任 問えない』東京女子医大元医師『無罪』 心臓手術で少女死亡」(以後本件ニュース1の最後まで右上に表示。甲1-1,甲1-2-①~⑰)

T②:「当初罪を認め遺族に謝罪し示談が成立」(甲1-2-⑬)

N①:「佐藤被告は,この手術で人工心肺装置の操作を担当しており,ポンプの回転数を不適切に上げるなどして血液の循環を悪くさせ,脳障害で死亡させたとして起訴されていました。」

T③:「当初罪を認め遺族に謝罪し示談が成立」(甲1-2-⑭)

N②:「佐藤被告は当初罪を認めて遺族に謝罪し,示談が成立」

T④:「法廷では一転して過失を否定」(甲1-2-⑮)

N③:「しかし法廷では,一転して過失を否定してきました。立証の難しい医療過誤で医師が逮捕されることは極めて異例であり,当時,高度な医療を行う特定機能病院に承認されていた東京女子医大は,この事件でその承認を取り消されています。また,この事故では手術後にカルテを改ざんしたとして証拠隠滅罪に問われた医師には,懲役1年執行猶予3年の有罪判決が言渡されています。

       なぜ改ざんした医師が有罪になり,機器を操作した佐藤被告が無罪になったのでしょうか。」

(西田研司弁護士と電話している映像)

T⑤:「さまざまな危険を回避する義務があるがそれを放置し」(甲1-2-⑯)

I①:「いろんな危険を回避する義務というのはやっぱりあると思うのですね。」

T⑥:「おこたって未熟な医師に扱わせた」(甲1-2-⑰)

I②:「それを放置して,まああのそういうことを怠ってですね,未熟な医師にあの二重三重にそういうことが起こらないように,あの予防体制をとりながら本当はやるべきだったでしょうと...」

(本件患者父の会見の映像)

I③:「非常に医師に対して甘い判決だなあと思って,本当にがっかりしています」

(6) 本件ニュース2には,「東京女子医大医療過誤事件 元医師に無罪判決」というテロップ及び「事故は予期出来なかったとして元医師に無罪を言い渡しました。」,「業務上過失致死罪に問われた元医師の佐藤一樹被告に対して,東京地方裁判所は無罪を言い渡しました。」というナレーションが含まれている(甲2-2-①,②,甲2-3)。

(7) 本件ニュース3には,「東京女子医大 医療過誤事件 元医師に無罪判決」というテロップ(T⑦)及び「女子医大 医療過誤 元医師に無罪判決」というテロップ(T⑧)並びに原告に無罪判決が出たことを報じる「医療事故の元医師に無罪判決。(中略)元医師の佐藤一樹被告に対して東京地方裁判所は無罪を言い渡しました。」というナレーション(N④)及び「相変わらず医療事故に対する刑事責任の追及の難しさを物語っています」というナレーション(N⑤)が含まれている(甲3-2-①~③,甲3-3)。

(8) 本件ニュース4には,「一方,佐藤元医師に関しましては,被告に関しましては業務上過失致死罪で今回は無罪。」というナレーションが含まれている(甲4-3)。

3 原告に対する名誉毀損及び肖像権侵害

(1) 本件ニュース1が一般視聴者に伝える意味

 本件ニュース1は,以下のような意味を一般視聴者に伝える。

・原告は,当初自己のミスを認めて遺族に謝罪しており,遺族との間で示談も成立している(T②,T③,N③)。

・それが,法廷では,原告は一転して態度を変えて過失を否定し始めた。医療過誤では立証が難しく,医師に否認されると有罪にするのが難しい(T④,N③)。

・医師にはさまざまな危険を回避する義務があるが,原告が未熟であったために,危険を回避できなかった(T⑤,T⑥,I①,I②)。

・本来であれば有罪になるべきであるのに,医師に対して非常に甘い判決であったために無罪になった(I③,N③)。

・原告は,本件事故の責任をとって,自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられており,それゆえ「元医師」と表示されている(T①)

(2) 本件ニュース2が一般視聴者に伝える意味

 本件ニュース2は,本件事故の責任をとって,原告は,自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられており,現在は医師ではないという印象を与える。

(3) 本件ニュース3が一般視聴者に伝える意味

 本件ニュース3は,以下のような意味を一般視聴者に伝える。

・原告は,本件事故の責任をとって,自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられており,それゆえ現在は医師ではない(T⑦,T⑧,N④)。

・原告に対して無罪判決が出されたのは,医療事故に対する刑事責任追及が難しいためであって,本来であれば原告は有罪になってしかるべきであった(N⑤)。

(4)  本件ニュース4が一般視聴者に伝える意味

 本件ニュース4は,本件事故の責任をとって,原告は,自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられており,現在は医師ではないという印象を与える。

(5) 上記による原告の社会的評価の低下

 上記はいずれも,専門性を有するべき医師が,未熟であったために手術中のミスによって本件患者を死亡させたという印象を生じさせるものであり,原告の社会的評価を低下させる。

(6) 本件ニュースによる肖像権侵害

 本件映像は,原告の承諾なしに,本来撮影の認められない場所で原告の容ぼうを隠し撮りしたものであって,みだりに原告の容ぼうを撮影かつ公表したものであるから,原告の肖像権を侵害する。

4 被告の責任

 被告は,本件ニュース1ないし4において,上記のとおり,原告の名誉を毀損するテロップやナレーション及び原告の肖像権を侵害する映像を繰り返し流したのであるから,これによって原告に生じた損害を賠償する責任を負う。

5 救済

(1) 原告は,高い専門性を有する心臓外科医であるが,本件ニュースによって,未熟な医師であり,ミスによって患者を死亡させたとの誤解が社会に広まった。

(2) 本件ニュースによって原告が蒙った名誉毀損に対する慰謝料は,金10,000,000円を下らない。

(3) 本件ニュースによって原告が蒙った肖像権侵害に対する慰謝料は,金5,000,000円を下らない。

6 結論

 よって,原告は,被告に対し,民法709条および710条に基づき,本件ニュースの放送によって原告が蒙った損害の賠償を求めるため,請求の趣旨記載のとおりの損害賠償金の支払を求め,あわせて本件ニュースが放送された2005年11月30日及び同12月1日より後の日である同年12月2日から完済に至るまで民事法定利率である年5分の割合による遅延損害金の支払を求めて本訴に及んだ。

附属書類

1 証拠説明書                                                                                                 1通

1 甲第1号証ないし4号証の3                                                                    各1通

1 資格証明書                                                                                                 1通

当事者目録

〒●●●-●●●●                         東京都●●区●●●●丁目●●番●●号

                                                        ●●●●●●号(送達場所)

                                                        電話:               ●●-●●●●-●●●●

                                                        ファクシミリ:●●-●●●●-●●●●

                                                        原  告                            佐藤一樹

〒137-8088                         東京都港区台場2丁目4番8号

                                                        被  告              株式会社 フジテレビジョン

                                                        代表者代表取締役              ●● ●

証拠説明書(1)

                        2006年3月22日

東京地方裁判所 御中

原 告      佐藤一樹


                        号 証

標     目

(原本・写しの別)

作 成

年月日

作成者

立 証 趣 旨

備考

甲1-1

「FNNスーパーニュース」(20051130日放送分)映像

2005.11.30

被告

本件ニュース1の内容及び被告が本件ニュース1を放送したこと

CD-Rに収録

甲1-2-①~⑰

甲1の1の静止画(抜粋)

同上

同上

同上

甲1-3

甲1の1の反訳

-

2006.3

原告

本件ニュース1の内容

甲2-1

「めざましテレビ」(2005121日午前538分ころより放送分)映像

2005.12.1

被告

本件ニュース2の内容及び被告が本件ニュース2を放送したこと

CD-Rに収録

甲2-2-①,

甲2の1の静止画(抜粋)

2005.12.1

同上

同上

甲2-3

甲2の1の反訳

2006.3

原告

本件ニュース2の内容

甲3-1

「めざましテレビ」(2005121日午前78分ころより放送分)映像

2005.12.1

被告

本件ニュース3の内容及び被告が本件ニュース3を放映したこと

CD-Rに収録

甲3-2-①~③

甲3の1の静止画(抜粋)

同上

同上

同上

甲3-3

甲3の1の反訳

2006.3

原告

本件ニュース3の内容

甲4-1

「とくダネ!」(2005121日放送分)映像

2005.12.1

被告

本件ニュース4の内容及び本件ニュースを被告が放送したこと

CD-Rに収録

甲4-2-①,

甲4の1の静止画(抜粋)

同上

同上

同上

甲4-3

甲4の1の反訳

2006.3

原告

本件ニュース4の内容

以  上

甲第1号証の3  

2005年11月30日放送 「FNNスーパーニュース」

6:01pm

(西山喜久恵アナウンサー)

「4年前に東京女子医大病院で心臓の手術を受けた当時12歳の少女が死亡した医療過誤事件で、東京地裁は今日、当時の担当医に無罪の判決を言い渡しました。

遺族は先ほど会見を行い怒りを露わにしています。」

(以後、右上に『「過失責任は問えない」東京女子医大元医師「無罪」心臓手術で少女死亡』の表示)

(平栁明香さんの父)

「最初聞いたときは頭の中が真っ白になった。というのが本当にあの場にいての雰囲気でした。」

(女性の声〔西山アナウンサーとは別の姿の見えないアナウンサーの声〕)

「無念の思いを語る遺族。現職の医師が逮捕され医療界に衝撃をもたらした東京女子医大の医療過誤事件。

(原告が裁判所内と思われる場所を歩いている映像と「佐藤一樹被告(42)」の文字)

この事件で業務上過失致死に問われていた佐藤一樹被告に対する判決が今日午後言い渡されました。

6:02pm(裁判官等法廷の映像)

東京地裁が言い渡した判決、それは無罪。その理由として、人工心肺の構造に問題があったことを指摘。事故を予見することが出来たとは認められず、過失責任を問うことはできないというものでした。事故が起きたのは2001年3月。当時12歳だった平栁明香さんが、東京女子医大病院で心臓手術を受け、その3日後に死亡したのです。

(上記の原告が歩いている映像)

佐藤被告はこの手術で人工心肺装置の操作を担当しており、ポンプの回転数を不適切に上げるなどして血液の循環を悪くさせ、脳障害で死亡させたとして起訴されていました。

(原告が他の医師と並んで座っている静止画「当初罪を認め遺族に謝罪し示談が成立」の表示)

佐藤被告は当初は罪を認めて遺族に謝罪し、示談が成立。

(原告のアップの静止画「法廷では一転して過失を否定」の表示)

6:03pm

しかし法廷では、一転して過失を否定してきました。立証の難しい医療過誤で医師が逮捕されることは極めて異例であり、当時、高度な医療を行う特定機能病院に承認されていた東京女子医大は、この事件でその承認を取り消されています。また、この事故では手術後にカルテを改竄したとして証拠隠滅罪に問われた医師には、懲役1年執行猶予3年の有罪判決が言い渡されています。

(原告のアップの静止画)

何故改竄した医師が有罪になり、

(原告が他の医師と並んで座っている静止画)

機器を操作した佐藤被告が無罪となったのでしょうか。」

(西田研司弁護士と電話している様子)

(「様々な危険を回避する義務があるがそれを放置し」の表示)

「いろんなあの危険を回避する義務というのはやっぱりあると思うのですね。

(「おこたって未熟な医師に扱わせた」の表示)

それを放置してまああのそういうことを怠ってですね。未熟な医師にあの二重三重にそういうことが起こらないようにあの予防体制を取りながら本当はやるべきだったでしょうと・・・。」

6:04pm

(女性の声)

「判決の後、明香さんの両親は40分にもおよぶ会見を行いました。」

(平栁明香さんの父)

「非常に医師に対して甘い判決だなあと思って、本当にがっかりしています。」

甲第2号証の3  

2005年12月1日放送 「めざましテレビ」

5:38am

(女性キャスター)

(原告の写真の下に「医師“無罪”」の表示)

「事故は予期出来なかったとして元医師に無罪を言い渡しました。

(真ん中下の方に「東京女子医大医療過誤事件 元医師に無罪判決」の表示)

東京女子医大病院で2001年心臓手術を受けた当時12歳の平栁明香ちゃんが死亡した事故で、

(原告が裁判所内と思われる場所を歩行している映像)

業務上過失致死罪に問われた元医師の佐藤一樹被告に対して、東京地方裁判所は無罪を言い渡しました。」

(原告)

(原告の映像の左に「佐藤一樹元医師」の表示)(以後右上に「東京女子医大医療過誤事件 元医師に無罪判決」の表示)

「ほとんど不安なく無罪だと思っていました。」

(平栁明香さん父)

「最初聞いたときは頭の中が真っ白になった。非常に医師に対して甘い判決だなあと思って、」

(女性の声)

「東京地裁は判決の理由として、客観的にみて人工心肺の構造には問題があったと指摘した上で、被告が事故を予見することは出来なかった等としています。」

5:39am

(男性キャスター)

「そうすると構造的には問題のあった人工心肺を何故使わせたのかという問題が残りますよね。」

甲第3号証の3  

2005年12月1日放送 「めざましテレビ」

7:08am

(男性の声)

「医療事故の元医師に無罪判決。

(真ん中下の方に「東京女子医大医療過誤事件 元医師に無罪判決」の表示)

東京女子医大病院で2001年心臓手術を受けた当時12歳の平柳明香さんが死亡した事件で、業務上過失致死罪に問われた

(原告が裁判所内と思われる場所を歩行している映像)

元医師の佐藤一樹被告に対して東京地方裁判所は無罪を言い渡しました。」

(原告)

(原告の映像の右に「佐藤一樹元医師」の表示)(以後右上に「東京女子医大医療過誤事件 元医師に無罪判決」の表示)

「ほとんど不安無く無罪だと思っていました。」

(平栁明香さん父)

「最初聞いたときは頭の中が真っ白になった。非常に医師に対して甘い判決だなあと思って、」

(男性の声)

「東京地裁は、判決の理由として、客観的にみて人工心肺の構造には問題があったと指摘した上で、被告が事故を予見することは出来なかった等としています。」

(男性キャスター)

7:09am

「相変わらず医療事故に対する刑事責任の追及の難しさを物語っています。

(以後右下に「東京女子医大医療過誤事件 元医師に無罪判決」の表示)

人工心肺装置そのものに欠陥があったのではないかという指摘ですけれども、ではそれを使った病院側の責任もないのかということも余地が残されていますよね。」

甲第4号証の3  

2005年12月1日 「とくダネ!」

8:52am

(男性キャスター)

「この医療ミス問題はインサイドウオッチでもとりあげました。判決が下ったのですが。」

(平栁明香さん父)

「最初聞いたときは頭の中が真っ白になった。」

(男性キャスター)

(右上に「手術で女児死亡 責任誰に 医師無罪」の表示)

「昨日東京地裁でくだされた判決。平栁明香さん当時12歳。明香さんの心臓には生まれつき孔が開いていました。

8:53am

中学入学を目前に控えた明香さんは簡単な手術だから入学前にと手術を受ける決心をしたのです。」

(女性の声)

「死ぬことはないよね。」

(男性キャスター)

「手術するには心臓を一時的に止めなくてはなりません。この日明香さんは人工心肺装置を使用しました。人工心肺装置とは全身から心臓に戻る血液等をポンプで吸い取り、一旦貯めて再び体内に戻すという装置です。しかし、手術中にこの装置にトラブル発生。手術室がパニックになりました。明香さんは手術後一度も意識を取り戻すことなく3日後に死亡。両親は医療過誤があったとして手術を担当した医師ら5人を刑事告訴しました。」

8:54am

(平栁明香さん父)

「家族の怒りっていうのが、簡単にいうと死んでしまったものは、帰ってこないんだと。その悲しみはあるけれども、そのいっそう腹が立つことはそれを隠したり嘘を言い続けようとする人達の方が、もっと腹が立ち、まあ、罰せられていいのではないかと思っております。」

(男性キャスター)

(原告が裁判所内と思われる場所を歩行している映像)

「そして、執刀医と人工心肺装置を操作していた医師二人が逮捕。

(一旦女子医大の映像)

さらに東京女子医大は特定機能病院の承認を取り消されるという異例の事態へと発展したのです。

(原告が裁判所内と思われる場所を歩行している映像)

裁判の焦点は、手術で人工心肺装置の操作を担当し業務上過失致死罪を問われていた佐藤一樹被告が装置の不具合を予見できたかどうかでした。その判決は。」

8:55am

(別の男性の声)

「被告人は無罪。開発者でもない医師が、装置の危険性について気づかなかったとしても責めるのは酷。」

(男性キャスター)

「判決は、人工心肺装置そのものに事故の危険性があり、佐藤被告の責任は問えないというものでした。」

(原告)

(「佐藤一樹医師(42)」の表示)

「最初から無罪とは思っておりました。」

(男性キャスター)

「一方、明香さんの両親は判決後やりきれない思いを語りました。」

(平栁明香さん母)

「人工心肺の機械は勝手に動いているわけではありませんし、自然に出てきたものではない、作った人がいるし、それを操作していた人間がいるわけで、その人達に何の過失も問えないかという・・・。」

(平栁明香さん父)

「医療裁判というのは難しいでしょうけど、あの、やはり、失ったものが家族側にある以上そのへんを配慮した判決が欲しいと思いますね。」

8:56am

(男性キャスター)

「この医療事故によりまして逮捕された二人の医師の判決は割れました。執刀医。責任をもって手術を行っていました。有罪です。そして、実際に操作ミスをしたのではないかといわれていた人工心肺装置を操作していた医師は無罪でした。何故割れたのか。罪を見ますとはっきりします。実は、執刀医は証拠隠滅罪を問われていました。カルテの改竄をおこなっていたのですね。これ装置がおかしくなって女の子が亡くなってしまった。このことを隠そうとしたことで有罪になっています。一方、佐藤元医師に関しましては、被告に関しましては業務上過失致死罪で今回は無罪。なぜならば、操作ミスという訴えでしたが、判決は装置自体の不具合と考えられて、そのことをあらかじめ佐藤被告は予見できたとは言えないだろう。なぜならば、こちらです。死亡の原因となった人工心肺装置の不具合は当時認識されていなかったので、しかたがないということなのですね。」

8:57am

(男性キャスター 2)

「人工心肺装置が止まったら命にかかわることは誰でもわかるわけですけども、ただ、それが突然不具合を生じても手のほどこしようがなかったとうことなのですよね。今回の例はね。」

(コメンテイター)

「そうですね。結局操作ミスではない。操作ミスであるという検察側の主張は覆されてしまったとうことなんですね。ただ、無罪判決は下ったものの、判決の中で裁判長は、こうした危険な人工心肺装置を使っていた東京医大の管理責任というものは問われることはあると。失礼、女子医大の責任は重いというような内容のことをですね、触れているんですね。言及している。ただ、この点を追及しようにも、検察側が、そこを焦点をあてて裁判を行ったわけではないですし、それから、また、民事の方も、既に、実は、和解が成立しゃっているので、この問題責任の持って行きようがないですね。そこはちょっとやりきれないところです。」

(男性キャスター)

「結局はこの心肺装置の不具合があったら大変な問題じゃないですか。でも当時そのことは認識されていなかったと言われたら、じゃ、どこに怒りをもっていけばいいんですかというのが、遺族の皆さんの気持ちなんですね。」

(男性キャスター 2)

「車だったらリコールというのがあるけでもね。それが亡くなってしまっちゃったわけですからね。」

以上

被告 答弁書

平成18517

東京地方裁判所民事第6部合議B係御中

100-●●●●東京都千代田区●●町●丁目●番●号

弁護士法人●●●●法律事務所(送達場所)

電話

FAX

被告訴訟代理人弁護士●● ●

同●●●● 

同●●●●

同●●●●●

(担当)●●●●

上記当事者間の御庁頭書事件にっいて,原告から提出された2006(平成18)322日付訴状に対し,被告は下記のとおり答弁する。

1請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する

2 訴訟費用は原告の負担とする

との判決を求める。

2請求の原因に対する認否

1 請求原因1の事実は,認める。

2 同2の事実のうち,本件ニュース1ないし4で放映された本件映像が「いずれも東京地方裁判所の所内と考えられる場所を原告が歩いている場面を映した映像」とする点は否認し,その余は認める。本件映像は,平成149251847分ころ,保釈された原告が東京拘置所から出てくる場面を映した映像である。

3 同3(1)ないし(6)の事実は否認ないし争う。

4 同4は争う。

5 同5(1)の事実は否認する。

5(2)及び(3)の事実は不知ないし争う。

6 同6は争う。

3被告の主張

1 名誉段損について

(1)原告は,本件ニュース1ないし4(以下,総称して「本件放送」という。),一般視聴者に対し,「専門性を有するべき医師が,未熟であったために手術中のミスによって本件患者を死亡させたという印象を生じさせるものであり,原告の社会的評価を低下させる」(訴状6)と主張する。

2 しかし,本件放送は,一般視聴者に対し,原告が主張するような印象を生じさせるものではなく,原告の社会的評価を低下させてはいない。

(2)そもそも,本件放送は,業務上過失致死罪に問われていた原告に無罪が言い渡されたことを一般視聴者に伝えるものである。被告は,本件放送において,原告が無罪となったという結果のみを報道したのではなく,原告には事故の予見可能性がなかったという判決理由についても報道している。しかも,被告は,本件放送において,原告が無罪判決となったことに対する批判は行っていない。本件放送によって,一般視聴者は,原告は業務上過失致死罪に問われて起訴されたが,裁判所は予見可能性なしと判断して原告を無罪とした事実を知ることとなる。したがって,捜査段階の報道や起訴された事実の報道等によって低下していた原告の社会的評価は,本件放送によって回復している。少なくとも,原告の社会的評価が,本件放送がなされる前の状態よりも低下していることはない。

(3)原告は,本件放送が無罪報道であることを正しく理解せず,本件ニュース1で使用された「未熟な医師」という言葉や,本件放送において原告を「元医師」としている点などを問題視している。しかし,r未熟な医師」という言葉について言えば,西田弁護士の「未熟な医師にあの二重三重にそういうことが起こらないようにあの予防体制を取りながら本当はやるべきだったでしょうと…。」というコメント中で使用されている言葉であり(甲第1号証の3),東京女子医大病院の管理体制に問題があることを指摘する文脈で使用されていることが明らかである。従って,そのような文脈を超えて,原告が主張するように,「原告には予見可能性があり,本来であれば有罪になるべきである」との印象を一般視聴者に与えるものではない。

また,被告が,原告を「元医師」としたのは,「事故当時は東京女子医大病院の医師であったが,現在は東京女子医大病院の医師ではない」との趣旨であるところ,仮にこの表現が「現在医師ではない」との印象を与えたとしても,原告が主張するように,「本件事故の責任をとって,原告は,自ら医師を辞めたか,あるいはへ医師を辞めさせられ」たとの印象を一般視聴者に与えるものではない。

2 肖像権侵害について

(1)原告は,本件映像が,原告の承諾なしに,本来撮影の認められない場所で原告の容ぼうを隠し撮りしたものであるとして,みだりに原告の容ぼうを撮影かつ公表したものであるから,原告の肖像権を侵害すると主張する。しかし,本件映像は,本来撮影の認められない場所で隠し撮りされたものではない。また,本件映像の撮影当時,原告は撮影されていることを知りながら,撮影されることに異議を述べなかった。

(2)本件映像は,被告の報道スタッフにより,平成149251847分ころ,東京拘置所付近路上において撮影されたものである。このことは,「面会受付」という文字や警備員の姿が映像に含まれていることからも明らかである(甲第1号証の2の⑨ほか)。また,本件映像は,日没後周囲が暗くなった状況下で,原告に対し照明をあてつつ撮影されたものである。つまり,本件映像は,公道上において,原告が撮影を明確に認識しうる方法で撮影されたのであって,およそ隠し撮りの類にはあたらない。しかも,照明をあてるなどして,原告が明確に認識しうる方法で撮影が行われているにも関わらず,原告は,被告の報道スタッフに対して,特段異議を述べることもなく,被告報道スタッフの前を横切り,そのままタクシーに乗り込んだ。

(3)したがって,本件映像は,原告の主張するような,「原告の承諾なしに,本来撮影の認められない場所で原告の容ぼうを隠し撮りしたもの」ではなく,原告の肖像権を侵害するものでもない。

附属書類

1 訴訟委任状     1

原告 準備書面(1)

200667

東京地方裁判所民事第6部合議B係御中

原 告 佐藤一樹

 答弁書に記載された被告の主張に対する原告の反論及び求釈明は以下のとおりである。

第1 被告の主張に対する原告の反論

1 無罪報道と名誉毀損の成否の基準

       被告は, 本件ニュースが原告の社会的評価を低下させているという点を争い、「本件放送において、原告が無罪判決となったことに対する批判は行っていない」、「原告は,本件放送が無罪報道であることを正しく理解せず」等と主張する(答弁書3頁)。

        しかし、抽象的に本件放送が「無罪報道」であるか否かを議論することは,無意味である。重要なことは、どのような視点から無罪報道を行ったか、また、報道に際して、具体的にどのような表現を用いたかである。

       そのような観点からみた場合、本件ニュースによる原告の社会的評価の低下は、すでに訴状で記載したとおり明らかであるが、以下、若干の補足をする。

(ア)無罪報道への批判的視点

 本件ニュースが、無罪報道に対して批判的視点で描かれていることは明らかである。この点を本件ニュース1に即して述べる。

 本件ニュース1は、冒頭において東京地裁が無罪の判決を言渡したことを簡単に告げた後、すぐに遺族のナレーションを紹介するとともに、そのことについて、「遺族は先ほど会見を行い怒りを露わにしています」「無念の思いを語る遺族」とコメントしている。

 その後、本件ニュース1は、「当初罪を認め遺族に謝罪し示談が成立」というテロップを流すとともに、音声でも「佐藤被告は当初は罪を認めて遺族に謝罪し、示談が成立」と紹介し、「しかし法廷では、一転して過失を否定してきました。立証の難しい医療過誤...」と伝えて、原告が態度を変えたことを前提に(なお、そのこと自体誤りであるが、その点は真実性・相当性に関する被告の主張を待って述べる)、そのことに批判的ニュアンスをこめている。さらに、「何故改竄した医師が有罪になり、機器を操作した佐藤被告が無罪になったのでしょうか」という疑問を投げかけ、「様々な危険を回避する義務があるがそれを放置し」、「おこたって未熟な医師に扱わせた」というテロップを流し、弁護士のコメントとしても、「未熟な医師に...」と言わせている。そこでは、なぜ原告が無罪になったかについて明確な答えは示されていないのであって、本件ニュース1を見た一般視聴者は、原告が無罪になったことについての疑問は解消されないものと受け取る。

 そして、本件ニュース1は、最後に「判決の後、明香さんの両親は40分にもおよぶ会見を行いました。」と紹介し、本件患者の父親による「非常に医師に対して甘い判決だなあと思って、本当にがっかりしています。」というコメントで締めくくられている。

 このように、本件ニュース1では、取材した弁護士や本件患者遺族の口を通じて、無罪判決が医師に対して甘いものであり、本来は危険を回避する義務があるのに、それができなかった未熟な医師を無罪にしたという批判的視点に立っていることが明らかである。さらに、取り上げ方としても、他の報道機関では、無罪判決を受けて記者会見をした遺族と、同様に記者会見をした原告とを並列的に扱っているのに対し、本件ニュースでは、原告の記者会見の模様は一切用いず、過去の映像のみを用いている。そして、ニュースの最初と最後に、判決に批判的な遺族のコメントで構成しているのであるから、これを見た一般的な視聴者も、本件ニュースが判決に批判的であることを容易に理解するものである。

(イ)   未熟な医師

        被告は, 「1名誉毀損について」(3)で,「『未熟な医師』という言葉について言えば,西田弁護士の『未熟な医師にあの二重三重にそういうことが起こらないようにあの予防体制を取りながら本当はやるべきだったでしょうと。』というコメント中で使用されている言葉であり (甲第1号証の3 ) 東京女子医大病院の管理体制に問題があることを指摘する文脈で使用されていることが明らかである』と主張する。

        (テレビジョン放送による報道に関する最高裁平成151016日第一小法廷判決・民集5791075)「テレビジョン放送をされた報道番組において,その内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべきである。そして,新聞記事等の場合とは異なり,視聴者は,音声及び映像により次々と提供される情報を瞬時に理解することを余儀なくされるのであり,録画等の特別の方法を講じない限り,提供された情報の意味内容を十分に検討したり,再確認したりすることができないものであることからすると,当該報道番組により摘示された事実がどのようなものであるかという点については,当該報道番組の全体的な構成,これに登場した者の発言の内容や,画面に表示されたフリップやテロップ等の文字情報の内容を重視すべきことはもとより,映像の内容,効果音,ナレーション等の映像及び音声に係る情報の内容並びに放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して,判断すべきである」こと鑑みれば、原告を「未熟な医師」と断言しそのことを前提としている西田弁護士のコメントを含む放送は名誉を毀損する。

       西田弁護士のコメントの直前には,原告のアップの静止画とともに「何故改竄した医師が有罪になり,機器を操作した佐藤被告が無罪となったのでしょうか。」というナレーションによる問いが放送されている。これに対する答えを西田弁護士に求める構成となっている。被告の言葉を借りれば,原告の「無罪判決」報道において,話題は「原告が無罪となった理由」になっている。したがって,原告についての放送が中心となっているところに突然「東京女子医大病院の管理体制について問題」が持ち出されるはずがない。また,西田弁護士のコメントには「東京女子医大病院」や「管理体制」という言葉は存在しない。したがって,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方では,東京女子医大病院の管理体制に問題があることを指摘」していると理解することはできない。

        さらに,「未熟な医師」発言の直前には,「いろんな危険を回避する義務というのはやっぱりあると思うのですね。」のインタビューが存在し,この一連の文脈からは,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方でからすれば,「危険回避義務があるのに、それを怠ったのは原告である。」と理解される。

       いずれにせよ、この文脈において、「未熟な医師」イコール「原告」を意味していることは明らかであり、かつ、原告が「未熟な医師」であること、危険回避義務を怠ったということは断言されている。

       以上より,被告の主張は誤りである。

(ウ)   元医師

        被告は, 「1名誉毀損について」(3)で,「被告が,原告を『元医師』としたのは,『事故当時は東京女子医大病院の医師であったが,現在は東京女子医大病院の医師ではない』との趣旨である」と主張する。

        報道機関が正しい日本語文法を用いて,上記のような事実の趣旨を一般視聴者に伝えるためには,「元東京女子医大医師」「元女子医大医師」等,あるいは役職を使用して「東京女子医大元助手」「女子医大元助手」等とするのが,通常である。現代国語の教科書を紐解くまでもなく,普通名詞「医師」の直前に接頭語「元」を伴った「元医師」という日本語は,「以前は医師であったが現在は医師ではない人」を指す。

        上記のような「元東京女子医大医師」「東京女子医大元助手」等の放送を一切せずに,「元医師」と放送すれば,一般視聴者は,本件ニュースが放送された当時の原告が「元医師」であると理解することは明らかである。原告は,医師免許を取得し医師となってから,医師免許を失ったことは一回もない。また,本件ニュースが放送された20051130日の午前中も現役の医師として診療を行い,同年12月1日には,終日診療を行った。したがって,20051130日および,同年12月1日に原告を繰り返し「元医師」と放送した本件ニュースは誤りであり,放送による被害は甚大である。

(エ)   現在は医師でない理由

        被告は, 「1名誉毀損について」(3)において仮にこの表現が「現在医師ではない」との印象を与えたとしても,原告が主張するように,「本件事故の責任をとって,原告は,自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられ」たとの印象を一般視聴者に与えるものではない。」と主張する。

        国家資格を要する専門職,特に医師として就業していた人物が,医師ではなくなり「元医師」となることは例外的である。特に本件ニュース放送当時の原告の年齢である42歳以前であれば,極めて稀である。一般視聴者が,「4年前の本件手術において医師として診療していた原告が,42歳の現在医師ではない」という印象を持てば,「本件手術後から判決までの間に何らかの誘因があり,『自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられ』たという印象を持つ」ことは自然なことである。

        また,原告がこの本件手術後から判決までに,「診療を続けられないほど健康を損なった」とか,「転職して自ら医師を辞めた」とか,「行政処分を受けて医師免許を剥奪された」といった事実もその報道も存在しない。したがって一般視聴者は,上記②の「本件手術後から判決までの間の何らかの誘因」は,「本件事件に関連している」以外には考えられないのであり,本件ニュースは「本件事故の責任をとって,原告は,自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられ」たとの印象を一般視聴者に与えることは明らかである。

(オ)以上のとおり、無罪判決に批判的視点に立った本件ニュースの全体的なトーン、その文脈における「未熟な医師」、「元医師」といった具体的な表現などに照らすならば、本件ニュースが原告の社会的地位を低下させることは明らかである。

2. 答弁書 第3,「2肖像権の侵害について」

(ア)   映像の撮影日時,場所

        被告は答弁書 第2の2において,原告が「いずれも東京地方裁判所の所内と考えられる場所を原告が歩いている場面を映した映像」は,「平成149251847分ころ,保釈された原告が東京拘置所から出てくる場面を映した映像」ということを前提として,本件放送が隠し撮りしたものではないと主張する。

        しかし、詳しくは後記求釈明に対する釈明を待って主張するが、本件映像が、原告が東京拘置所を出た後の公道を歩いている場面のみを撮影したものとは思われない。また、仮に本件映像が,被告の指摘した日時場所であったとしても,被告が原告の肖像権を侵害したことに変わりはない。

(イ)   撮影に対する異議

        被告は,「原告が,撮影されていることを知りながら,撮影されることに異議を述べなかった」「照明をあてるなどして,原告が明確に認識しうる方法で撮影が行われているにも関わらず,原告は,被告の報道スタッフに対して,特段異議を述べることもなく, 被告報道スタッフの前を横切り,そのままタクシーに乗り込んだ」という記載している。

        この記載が仮に,事実だとしても,それによって,何を主張しようとしているかは判然としない。原告の承諾なしに,原告が望まない場所での映像を撮影し,それを報道したことは事実である。

        また,仮に本件映像が,被告の指摘した日時場所であったとしても,打ちっ放しの壁を背景に,拘置所の職員と伴に撮影されること(原告が身柄拘束機関の管理下にあるかの印象を与える)を原告が望まなかった。

(ウ)   原告記者会見後の放送

        原告は,20041130日の無罪判決の当日,「東京高裁内 司法記者会」の要請により記者会見を行った。この記者会見は,「午後6時頃からの各テレビ局の放送に間に合うように」と同記者会幹事社に依頼されたため,午後6時の放送までに充分に余裕がある午後4時30分ころから行われた。

        したがって、被告を含めた記者会に属するテレビ局は、午後6時の時点で、無罪判決後の原告の記者会見の映像を入手していた。現に、原告が知る限り,同日午後6時以降に,被告を除くNHKと民放各社が放送した原告の映像は,記者会見中のものだけである。

        本件ニュース報道の違法性は、「個人の肖像写真の撮影及び出版物への掲載により人格的利益が侵害された場合の違法性の判断においては,表現,報道の自由との適正な調整を図る必要があり,当該写真の撮影及びその掲載が,公共の利害に関する事実の報道に必要な手段として公益を図る目的のもとに行われたものか否か,仮にそうだとしても,当該写真の内容,撮影手段及び方法が右報道目的からみて必要性・相当性を有するか否か,という観点から検討しなければならない。」(東京地方裁判所判決/昭和61年(ワ)第13809号 平成元年6月23日)から判断すれば明らかである。

        原告の無罪を報道する目的であれば、無罪となった後の原告の映像は、「原告がその撮影と報道を承諾した映像」であり、「公共の利害に関する事実の報道に必要な手段として公益を図る目的のもとに行われ」たものである。

        しかしながら、この放送の目的によれば、原告の初公判時の映像や、保釈時の映像には、その公共性、公益性はない。また、本件映像が「内容,撮影手段及び方法が右報道目的からみて必要性・相当性」がないことは明らかである。

(エ)   38歳時の映像

        本件映像では,映像とともに「佐藤一樹被告 (42)というテロップが放送された。(甲第1号証の2の①,2の②,2の③,2の④,2の⑥)

        本件映像が放送された20051130日無罪判決時において,原告は42歳である。本件映像が,第一回公判(2002918日:要確認)時に撮影したものであるとしても,保釈時(2002925日)に撮影したものであるとしても、原告はなお,本件映像の撮影時に原告38歳であった。

        したがって、38歳時の原告の映像を放送しながら、「佐藤一樹被告 (42)という誤ったテロップを流していることは、本来報道する正当性や必要性がまったく認められない4年も前の過去の映像を、わざわざ倉庫等から持ち出してきて流したこと、本件映像利用の相当性の欠如を端的に示している。

第2 求釈明

1.撮影場所の詳細について

 被告は、「本件映像は、...東京拘置所付近路上において撮影されたものである」と主張する(答弁書4頁)。しかし、原告は、保釈の際、東京拘置所出口の直近の路上にタクシーを呼んでおき、すぐにタクシーに乗り込んだ。したがって、一定の距離を単独で移動している原告の姿を映している本件映像は、仮に本件映像が被告主張どおり東京拘置所のシーンであるとすれば、東京拘置所附近の公道を歩いている場面ではなく、拘置所内部を歩く原告の姿を映したものと考えられる。そこで、被告に対し、東京拘置所附近のどの地点にカメラを設置し、どの部分を歩く原告の姿を撮影したのかを現場の見取り図等を用いて明らかにすることを求める。あわせて、本件映像の前後の映像(放送しなかった分を含む編集前のもの)を提出するよう求める。

. 「捜査段階のフジテレビの報道や起訴された事実のフジテレビ報道」の録画提出

 被告は,答弁書「1名誉毀損について」(2)において,「捜査段階の報道や起訴された事実の報道等によって低下していた原告の社会的評価は,本件放送によって回復している。少なくとも,原告の社会的評価が, 本件放送がなされる前の状態よりも低下していることはない。」と主張している。しかし、原告は、被告フジテレビによる「捜査段階の報道や起訴された事実の報道等」を見たことがない。そこで、この点について原告として判断・反論するために,被告フジテレビが,

A.捜査段階における原告について

B.起訴された後の原告について

いかなる報道を行ったのかを明らかにすることを求めるとともに、それらを報じた下記①ないし⑥の放送の記録を証拠として提出することを求める。

            ① FNNスーパーニュース

            ② ニュースJAPAN

            「めざましテレビ」の午前五時台の放送

            ④「めざましテレビ」の午前七時台の放送

            ⑤「とくダネ!」

            ⑥ 上記①ないし⑤以外の全ての報道番組

. 西田弁護士のコメント

           被告は、西田弁護士のコメントが、「東京女子医大病院の管理体制に問題があることを指摘する文脈で使用されていることが明らかである」と主張する。そのようには考えられないが、西田弁護士のコメントが、いかなる質問に対する回答としてなされたものであるのかを証拠とともに明らかにされたい。

以 上

被告 準備書面(1)

平成18年8月22

東京地方裁判所民事第6部合議B係御中

被告訴訟代理人弁護士  ● ●  ● 

同           

同           

    同        ● ● ●●●

 同(担当)     ● ● ● ●

上記当事者間の御庁頭書事件について,被告は,下記の通り弁論を準備する。

1名誉段損について

1本件放送の性格

(1) 原告は,「抽象的に本件放送が「無罪報道」であるか否かを議論することは無意味である。重要なことは、どのような視点から無罪報道を行ったか,また,報道に際して,具体的にどのような表現を用いたかである。」とし,「そのような観点からみた場合,本件ニュースによる原告の社会的評価の低下は,すでに訴状で記載したとおり明らかである」と主張する(平成1867日付原告準備書面12)

しかし,答弁書において既に主張したとおり,被告は,本件放送において,原告が無罪となったという結果のみを報道したのではなく,原告には事故の予見可能性がなかったという判決理由についても報道しており,しかも,無罪判決に対する批判は行っていない(答弁書3)。被告は,これらの点も踏まえ,本件放送の性格を明らかにする趣旨で「無罪報道」と述べたのであり,抽象的な議論をする意図で本件放送を「無罪報道」と表現しているわけではない。

(2) 本件放送は,一般視聴者が高い関心を抱いていた東京女子医大の医療事件の帰趨について報道するものであり,原告に対し無罪が言い渡された事実を視聴者に伝えることを目的とするものである。一般視聴者は,本件放送により裁判所による証拠に基づく緻密な審理を経た結果,起訴事実が認定できなかったことを明確に知ることができる。

しかも,本件放送は,無罪という結果のみを報道しただけではなく,原告に事故の予見可能性が認められなかったという同判決の判決理由をも明確に伝えている。具体的には,本件ニュース1では「その理由として,人工心肺の構造に問題があったことを指摘。事故を予見することが出来たとは認められず,過失責任を問うことはできないというものでした」(甲第1号証の3)と報じ,本件ニュース2及び本件ニュース3では,「東京地裁は判決の理由として,客観的に見て人工心肺の構造には問題があったと指摘した上で,被告が事故を予見することは出来なかった等としています。」(甲第2号証の3,3号証の3)と報じ,本件ニュース4では「被告人は,無罪。開発者でもない医師が,装置の危険性について気づかなかったとしても責めるのは酷。」,「判決は,人工心肺装置そのものに事故の危険性があり,佐藤被告の責任は問えないというものでした。」(甲第4号証の3)と報じており,いずれも判決理由を明確に伝えている。一般視聴者は,本件放送により,裁判所が「人工心肺装置の構造に問題があり,原告に事故の予見可能性がない」と判断したこと明確に知ることができる。さらに,本件放送は,無罪判決に対する批判(例えば,証拠評価など事実認定に問題があるとか,論理的な矛盾があるとかの批判)を行っていない。具体的理由や具体的証拠を挙げて,無罪判決の不当性を指摘しているのであれば,原告は本来有罪とされるべきではないかとの印象を一般視聴者が抱くことも考えられる。しかし,本件放送は,そのような批判を行っていないのであるから,一般視聴者が,原告は本来有罪とされるべきではないかとの印象を抱くことは考えられない。

(3) 以上,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準とした場合,本件放送は,一般視聴者に対し,原告に過失はなく,原告に刑事責任はなかったという印象を明確に与える。

2原告の主張とそれに対する反論

(1)本件放送の構成と被告の報道姿勢

ア 原告は,本件ニュース1について,無罪報道に対し批判的視点で描かれていると述べ,本件ニュース1の構成について縷々述べている(平成1867日付原告準備書面2)。しかし,本件ニュース1,無罪報道に対する批判的視点から構成されたものでは断じてない。

 イ 被告は、本件ニュース1において、まず、東京女子医大医療事件(以下「本件事件」という。) について,原告に対し無罪判決が言い渡されたことを報じる。次に,被告は,同判決を受けて行われた遺族の記者会見の模様について報じ,事件の簡単な説明と無罪判決の判決理由について明確に説明する。

その後,被告は,本件事件の事実経過について紹介した後,「立証の難しい医療過誤で医師が逮捕されることは極めて異例であり,当時,高度な医療を行う特定機能病院に承認されていた東京女子医大は,」のくだりから,本件事件全体についての言及を始める。

そして,被告は,本件事件の帰趨として,東京女子医大が特定機能病院の承認を取り消されたこと,証拠隠滅罪に問われた医師に有罪判決言い渡されたことを伝え,「何故改窟した医師が有罪になり,機器を操作した佐藤被告が無罪となったのでしょうか」と事件全体の結末についての問いかけをなした後,東京女子医大は二重三重に予防体制を敷いておくべきであったとする専門家(弁護士)の分析を紹介し,最後に遺族の記者会見での発言を報じている(甲第1号証の3)

ウ かかる構成からも明らかなように,被告は,本件ニュース1において,原告に対し無罪判決が下されたとの情報をいち早く一般視聴者に伝えることを目的としつつも,放送時問という制約の下,本件事件全体の帰趨や専門家の分析等,なるべく多くの情報を一般視聴者に伝え,病院の管理体制に対する問題提起を試みているのであって,一般視聴者に対し判決に対する批判的メッセージを伝えることを目的としているわけではない。

仮に,原告の主張するが如く,被告が判決に対し批判的である

のであれば,その後の報道においても被告は批判的立場から一貫して報道を行っていてしかるべきである。

 しかし,本件ニュース2ないし4を見ても,被告は判決に対し一切批判的な報道をなしてはいない。むしろ,原告の記者会見の模様をも報道しており,原告の主張する公正さにも適う内容となっている(甲第2号証の3,3号証の3,4号証の3)

 原告に対し無罪判決が下されたとの報道を目的としつつ,本件事件全体の帰趨等なるべく多くの情報を一般視聴者に伝えるとともに,原告が無罪となったことを前提として,病院の管理体制につき問題を提起するという被告の報道姿勢は,その後も明確に維持されている。すなわち,被告は,本件ニュース2及び3においては,放送時間が極めて限られていたこともあり,原告に無罪判決が下ったこと及びその判決理由についてのみ報じるにとどまるが,本件ニュース4においては,十分な放送時間をかけ,事件全体の経過や判決の詳細な分析をも言及し,一般視聴者に情報を提供している。また,被告は,本件ニュース2において,「構造的には問題のあった人工心肺を何故使わせたのかという問題が残ります」(甲第2号証の3)と述べ,本件ニュース3においては,「ではそれを使った病院側の責任もないのかということも余地が残されています」(甲第3号証の3)と述べ,本件ニュース4においては,「判決の中で裁判長は,こうした危険な人工心肺装置を使っていた東京女子医大の管理責任というものは問われることはある」(甲第4号証の3)と述べている。このように,一連の本件放送を見れば,被告が判決について批判的立場に立っていないことは明白である。

(2)遺族のコメントについて

       本件ニュース1につき,原告は,まず,ニュースの冒頭と最後に遺族のコメントが紹介されていることをもって,「本件患者遺族の口を通じて,無罪判決が医師に対して甘いものであり,本来は危険を回避する義務があるのに,それができなかった未熟な医師を無罪にしたという批判的視点に立っていることが明らかである」と主張する(平成1867日付原告準備書面3)

しかし,遺族の反応をニュースの冒頭と最後に紹介しているからといって,被告が判決に対し批判的な態度を取っていることにはならない。

そもそも,刑事裁判に関する報道において,犯罪の被害者及びその親族が存在する場合,一般視聴者は,判決の結論及び理由のみならず,「被害者ないしその親族が判決に対しいかなる反応を示したか」,ということにも強い関心を寄せる。とりわけ,本件の如く,まだ年端もいかない少女が医療事故によりその将来を断たれたような場合はそうである。だからこそ,被告は,遺族の反応は非常に報道価値が高いと考え,本件ニュース1の冒頭と最後で紹介したのであって,それ以上の意図はない。「遺族は先ほど会見を行い怒りを露わにしています」,「無念の思いを語る遺族」というコメントも,報道価値の高い遺族の反応を単に描写しているにすぎず,それ以上の意味はない。

  もちろん,被告が,遺族が怒りを露わにしていると報じたり,「非常に医師に対して甘い判決だ」と遺族が発言したことを報じることにより,遺族の無念の思いが一般視聴者に伝わり,遺族に対し一般視聴者が同情を寄せるということはありえよう。また,「遺族はやり場のない思いを抱いている」という印象を一般視聴者が受けることがありうる。

しかし,一般視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準とすれば,遺族の判決に対する発言は,あくまで遺族の立場からの発言であると受け止められるものである。

また,我が国においては,裁判所の裁判は一般的に広く国民から信頼されている。したがって,判決によって不利益を受けた者が判決に対し不満を漏らしたことを報じたとしても,一般視聴者が,そのことだけで判決に疑念を抱くことはない。

  さらに言えば,一般の視聴者が,遺族が不満を漏らしたとの一事をもって,「専門性を有するべき医師が,未熟であったために手術中のミスによって本件患者を死亡させた」という印象を抱くことはありえないのである。

 この点,さらに原告は,「他の報道機関では,無罪判決を受けて記者会見をした遺族と,同様に記者会見をした原告とを並列的に扱っているのに対し,本件ニュース1では原告の記者会見の模様は一切用いず」と述べ,遺族のコメントのみを取り上げた被告の報道を批判している(平成1867日付原告準備書面3)

しかし,本件ニュース1,原告に対し無罪判決が下されたことを冒頭から明確に述べている。無罪判決が下されたということは,原告の言い分が裁判で正式に認められたということなのであるから,無罪判決が下されたという事実を判決理由を明示して報道すれば,原告の記者会見でのコメントを改めて報道せずとも,一般視聴者には原告の言い分が充分伝わる。常に両者の言い分を並列的に取り上げなければ不公平な報道となるというわけではない。

(3)事実経過について

原告は,次に,「「当初罪を認め遺族に謝罪し示談が成立」というテロップを流すとともに,音声でも「佐藤被告は一転して過失を否定してきました。立証の難しい医療過誤・・」と伝えて,原告が態度を変えたことを前提に」,「そのことに批判的ニュアンスを込めている」と主張する(平成1867日付原告準備書面2)

しかし,被告は,一般視聴者にわかりやすいように,取材の結果知りえた本件事件の事実経過を報じたに過ぎない。事実経過について説明するだけでは判決への批判とはなりえない。原告自身,この部分について,批判的「ニュアンス」と主張するのみである。なお,原告は,「佐藤被告は一転して過失を否定してきました。立証の難しい医療過誤・・」という形で本件ニュース1を引用する(平成1867日付原告準備書面2),「立証の難しい医療過誤・・」との説明は,「立証の難しい医療過誤で医師が逮捕されることは極めて異例であり,当時,高度な医療を行う特定機能病院に承認されていた東京女子医大は,この事件でその承認を取り消されています。」という説明の一部である。被告は,立証の難しい医療過誤事件であるから,原告が無罪になったとは一言も述べていない。

(4)未熟な医師との言葉について

 原告は,未熟な医師の点について,「いずれにせよ,この文脈において,「未熟な医師」イコール「原告」を意味していることは明らかであり,かつ,原告が「未熟な医師であること,危険回避義務を怠ったということは断言されている」と主張する(平成1867日付原告準備書面5)

しかし,答弁書にて主張したとおり,「未熟な医師」という言葉はあくまで,東京女子医大病院の管理体制に問題があることを指摘する文脈で使用されている。

西田弁護士のコメントは「いろんなあの危険を回避する義務というのはやっぱりあると思うのですね。それを放置してまああのそういうことを怠ってですね。未熟な医師にあの二重三重にそういうことが起こらないようにあの予防体制をとりながら本当はやるべきだったでしょうと…。」(甲第1号証の3)というものである。

要するに,医療事故というものが起きないように二重三重に予防体制を敷いて危険を回避する義務,,病院側にあったのに,それを放置した,というのが同コメントの内容である。

加えて,テロップにも「様々な危険を回避する義務があるがそれを放置し」,「扱わせた」と表示されており,一般視聴者の普通の注意と視聴の仕方からすれば,言及されている主体が東京女子医大病院であることは容易に理解される。このように,コメントの内容及びテロップを普通にみれば,同弁護士が,東京女子医大の管理体制について言及していることは明快である。

 この点,原告は,「原告についての放送が中心となっているところに突然「東京女子医大病院の管理体制についての問題」が持ち出されるはずがない。」と述べる(平成1867日付原告準備書面4)

しかし、本件ニュース1は、前述のとおり、「立証の難しい医療過誤で医師が逮捕されることは極めて異例であり、当時,高度な医療を行う特定機能病院に承認されていた東京女子医大は,」のくだりから,本件事件全体についての言及が始まっている。そして,本件事件の帰趨として,東京女子医大が承認を取り消されたこと,証拠隠滅罪に問われた医師に有罪判決が言い渡されたことについて言及がなされ,「何故改窟した医師が有罪になり,機器を操作した佐藤被告が無罪となったのでしょうか」と事件全体の結末についての問いかけがなされた後,東京女子医大病院は二重三重に予防体制を敷いておくべきであったとの西田弁護士のコメントが,法律の専門家のコメントとして引用されている。

つまり,上記「東京女子医大は,」のくだりから,放送の中心は原告から本件事件全体に移っている。したがって,東京女子医大病院の管理体制についての問題が持ち出されても違和感はなく,むしろ自然である。

(5)元医師の点について

ア 答弁書にて主張したとおり,被告は,「事故当時は東京女子医大病院の医師であったが,現在は東京女子医大病院の医師ではない」という趣旨で原告を「元医師」としている。

イ 上記は、本件ニュース1において、①冒頭部分で、音声により「東京地裁は今日、当時の担当医に無罪の判決を言い渡しました。」と放送していること(甲第1号証の3)、及び②映像上もテロップ文字で「過失責任は問えない「東京女子医大元医師「無罪」」と放送していること(甲第1号証の2の①~⑰)、から明らかである。一般視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断した場合,一般視聴者は「当時の担当医」という意味で「元医師」と表現しているとの印象を受ける。

 なお、本件ニュース2以降は、単に「元医師」としているが、これは繰り返し使用される言葉を短縮して表現したものであり、その趣旨は本件ニュース1と変わるものではない。

2 肖像権侵害について

1 本件映像が撮影された場所について

本件映像は,平成14925日午後647分ころ,被告報道局のスタッフによって撮影された。

 撮影場所は,東京拘置所南側にある面会差入受付入口に近接した同拘置所の門の外側の公道上である(乙第1号証,2号証)。同スタッフは,原告が同拘置所を出所し,タクシーに乗って立ち去るまでを撮影した。

 このように,同拘置所の門の外側の公道上にて,同拘置所を出所する刑事被告人を撮影することは,世間の耳目を集める刑事裁判の報道において通常行われていることである。

 東京拘置所も,公道上で撮影が行われていることから,このような撮影を禁じておらず,本件映像撮影の際も,同拘置所の衛視は,被告報道局のスタッフに対し,所属している報道機関の名称を尋ねただけで,特段撮影の中止等を申し入れてはいない。

2 肖像権侵害の成否について

(1) 答弁書において既に主張したが,被告報道局スタッフは,本件映像を,日没後周囲が暗くなった状況下で,原告に対し照明をあてつつ撮影した。つまり,原告が撮影を明確に認識しうる方法で撮影が行われたものである。およそ隠し撮りの類にはあたらない。しかも,本件映像を撮影する際,同スタッフは,被告の名称が記載された腕章を着装しており,同スタッフが報道目的で撮影を行っていることは誰の眼にも明らかであった。

 このように,本件映像は,報道目的で撮影が行われていることが明らかな態様で撮影されており,しかも,原告自身その旨明確に認識していたにも関わらず,原告は,手のひらで顔を隠したり, 撮影の中止を申し出る等,撮影について特段異議を述べることもなく,淡々と同スタッフの前を横切り,そのままタクシーに乗り込んだ。

 このような原告の行動からすれば,本件映像の撮影につき原告において黙示的承諾があったと考えざるをえない。

(2) また,原告は当時,世問の耳目を集める東京女子医大医療事件裁判の被告人であったのであって,同裁判に関する事実は公共の利害に関する事実である。したがって,その報道にあたり,仮に原告の明示的承諾がなかったとしても,被告人たる原告の行動を撮影した映像を報道することは許される。この点,殺人容疑で逮捕された被疑者の写真を週刊誌等に掲載したことが,被疑者の肖像権を侵害するか争われた事案において,裁判所は,被疑者の自宅前における歩行中の写真につき,「原告(引用者注:被疑者のこと)B殺害の容疑で逮捕されたことは公共の利害に関する事実であり,その報道にあたり被逮捕者たる原告の写真を掲載することは許されるものであって,しかも,本件においては,右写真は,原告に無断で撮影されたものであるとはいえ,その内容は格別原告に差恥,困惑等の不快感を与えるものではなく,撮影の方法も自宅前を歩行中の原告を屋外から撮影したものと認められるから,被逮捕者たる原告においてもこの程度の写真撮影は受忍すべきであり,したがって,右写真の掲載が違法であるということはできない」と判示している。また,被疑者がアメリカの裁判所に出頭した際の裁判所内における写真につき,同裁判所は,「原告がB殺害の容疑で逮捕され刑事訴追を受けるに至っていたことは公共の利害に関する事実であり,その報道にあたり被逮捕者たる原告の写真を掲載することは許されるものであって,本件において,右写真は,原告に無断で撮影されたものであるとはいえ,その内容は格別原告に差恥,困惑等の不快感を与えるものではなく,撮影の方法も裁判所の許可を得て撮影したものと認められるから(弁論の全趣旨),被逮捕者被訴追者たる原告においてもこの程度の撮影は受任すべきであり,右写真の掲載は違法性を欠くものというべきである」と判示しているものである(東京地判平成6131日判タ856186)

 この判例からも明らかなように,世間の耳目を集める刑事事件の被疑者・被告人においては,その撮影された内容や撮影の方法が相当である限り,自らの容貌を撮影されることは受任するべきであって,撮影をした報道機関において肖像権侵害の不法行為は成立しない。

 したがって,本件においても,被告につき,肖像権侵害に基づく不法行為は成立しない。

 

原告 準   面(2)

2006920日 

東京地方裁判所民事第6部合議B係御中

原 告 佐藤一樹

 準備書面(第1)に記載された被告の主張に対する原告の反論は以下のとおりである。

第1 「名誉毀損」に関する被告の主張に対する原告の反論

 本件放送は、原告が「当初罪を認め遺族に謝罪」していたが裁判では「一転して過失を否定」したという誤った内容を報じるとともに、被告を「未熟な医師」と評し、「元医師」という誤ったナレーションと伴にテロップを付すなどするものであり、その内容において、一般視聴者に対して、専門性を有するべき医師が未熟であっために手術中のミスによって本件患者を死亡させたという印象を生じさせることは明らかである。

 被告は準備書面(第1)において、原告の社会的地位の低下を否定するための反論を縷々述べるが、その主張は事後的な「元医師」の解釈を初めとしてこじ付け的なものが多く、これまでに原告が主張したことに対する有効な反論にはなりえていない。その意味で、基本的に被告の反論に対する再反論の必要はないと考えられるが、念のため以下の点を補足する。

1. 自白に相当する事実の摘示

(ア)   無罪判決への批判的視点

被告は、「本件放送において、原告が無罪となったという結果のみを報道したのではなく、原告には事故の予見可能性がなかったという判決理由についても報道している」と述べるが、「結果と判決理由のみ」を報道したのでもない。被告が、無罪判決への批判的視点に立ち、「佐藤被告(原告)は当初罪を認めて遺族に謝罪し、示談が成立。しかし法廷では、一転して過失を否定してきました。立証の難しい医療過誤で・・」という報道で、真実ではない事実(下線部)を摘示する等して、原告の名誉を毀損したことは、200667日付け原告準備書面(以下、単に「準備書面」) 第1の1の(ア)で既に述べた。 

一般的に、刑事被告人が罪を認め、被害者に謝罪するという行為は、自白に相当する。そのような重要な事実が報道されれば、一般視聴者はそれが、真実だという印象を受ける。さらに、被告人が後に一転して無罪を主張し、無罪判決が言い渡されたとしても、この自白に相当する事実の報道から、本当は、有罪であるとの印象を受ける。さらに、「立証の難しい医療過誤...」と続けば、医療過誤事件は立証が困難なので、医師に否認されたために本来有罪とされるべきところ無罪となったという印象を受けるのは自然なことである。

被告は、平成18822日付け準備書面(第1) 第1の1において「一般視聴者が、原告は本来有罪とされるべきではないかとの印象を抱くことは考えられない。」「一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準とした場合、本件放送は、一般視聴者に対し、原告に過失はなく、原告に刑事責任はなかったという印象を明確に与える」等縷々述べているが、これは客観性を失った主張である。

(イ)   真実性

 原告は、第一回期日2006517日法廷において、既に、被告による真実性・相当性の立証の必要性を口頭で述べ、6月7日付け準備書面では、その該当部分を特定し「(なお、そのことを自体誤りであるが、その点は、真実性・相当性に関する被告の主張を待って述べる)」と明確に記載し、822日まで2ヶ月半の間待機した。しかしながら、被告は、準備書面(第1)では、「取材の結果知りえた本件事件の事実経過」程度の記載があるのみで、何ら真実性と相当性を立証しようとすらしていない。このことは、「裁判の円滑な進行を故意に妨げている」または、「真実性・相当性に関する主張をしない」のいずれか、と受け取れる。前者であれば、被告は早急に真実性・相当性の立証を行うべきであり、後者であれば、裁判所には次回期日から証拠調べを行っていただくことを要望する。

(ウ)  他社報道との比較

なお、原告は、20051130日に放送されたNHK総合、NHK-BS、日本テレビ、TBS、テレビ朝日の報道番組の放送と同日に発信された朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、及び共同通信社が配信する新聞社等のインターネット上のウエッブニュースを可能な限り調べたが、原告が「当初は罪を認めて謝罪したが、法廷では一転して無罪を主張した」旨の報道はなかった。

2. 未熟な医師

(ア)  「未熟な医師」イコール「原告」

被告は、原告の「『未熟な医師』イコール『原告』を意味する」という指摘に対して、「『未熟な医師』という言葉はあくまで、東京女子医大病院の管理体制に問題があることを指摘する文脈で使用されている。」と述べるだけで、否定はしていない。「管理体制」の文言が皆無である放送の該当部分がどのような分脈で事実を摘示したかは置くとしても、西田弁護士が「未熟な医師」と呼ぶ医師が、「原告」以外にいないのは明らかである。このことは、仮に文脈に東京女子医大の管理体制の批判がこめられているとしても、「『未熟な医師』イコール『原告』を意味する」ことと両立するのであるから名誉毀損は成立する。

(イ)  「危険回避義務」を怠ったのは「原告」

原告は、原告準備書面 5頁 第1の1の(イ)④において、「『危険回避義務があるのに,それを怠ったのは原告である。』と理解される。」と主張したが、被告はこのことに関しては、なんら反論していない。すなわち、「危険回避義務」を怠ったのは「原告」であることを認めているのであるから、その直後の発言の「未熟な医師」もイコール「原告」ということになるのは当然である。

3. 元医師

(ア)  「当時の担当医」と「現在の元医師」

 原告は「元医師」の解釈が「以前は医師であったが現在は医師ではない人」以外にあり得ないことを既に充分論じた。これに対し被告は、音声による「当時の担当医」とテロップ文字による「東京女子医大元医師『無罪』」を放送すると一般視聴者が「当時の担当医」という意味で「元医師」と表現している印象を受けると主張する。何の説明もなくそのような印象を受ける視聴者がいるはずがない。

 時間軸に沿い、手術日を「当時」、約49ヶ月後の『無罪判決』の日を「現在」とすれば、「当時は担当医」で、「現在は元医師」という関係になるのであるから、両者は両立し当時の「担当医」が現在では「元医師」と考えるのが自然である。

 また、冒頭から次々と提供される情報の中で、一瞬で消える音声の「当時の担当医」という情報が印象として残る理由もなく、その直後から250秒間「東京女子医大元医師『無罪』」とテロップが表示されているのであるから、一般視聴者が、「元医師」の放送は「当時は医師であったが、現在は医師でない人」との印象を持つ。

(イ)  「担当医」でも「元医師」でも3文字

 仮に、「当時の担当医」という意味の表示をしようと思えば、「担当医」と短縮すれば3文字で、「元医師」の3文字と同じである。したがってニュース2以降は単に「元医師」としているが、「これは繰り返し使用される言葉を短縮して表現したものであり、その趣旨は本件ニュース1と変わるのもではない。」という「短縮理論」は成り立たない。

(ウ)  個別のニュース1ないし4とニュースJAPANの「担当の医師」

 さらに被告の「繰り返し使用理論」の抗弁について論じる。ニュース1ないしニュース4は、あたかも一連のつながりがあるように扱っているが、個別の報道であることは、一つ一つの内容が違うことから明らかである。一般の視聴者が1130日の1801分に放送された冒頭ナレーションの一瞬の「当時の担当医」を印象深く記憶しながら、翌日121日の早朝午前538分からのニュース2及びニュース3や午前9時近くまでのニュース4を視聴し、なおかつそこで、「元医師」テロップで表示されているのを見たり、発言されたりするのを聞いて、「元医師」とは「当時の担当医」を表現している印象を受けるはずはない。

 また、ニュース1とニュース2の時間帯の間に放送された、ニュースJAPANのフラッシュのテロップでは、「担当の医師は―」や「女児死亡事故 医師は“無罪”」と表示し、ナレーターも、「業務上過失致死の罪に問われた医師」と発言している。このことからも、ニュース2以降がニュース1と一連の連なりをなしていないことが理解され、「繰り返し使用理論」による抗弁はなりたたない。

第2「肖像権侵害」に関する被告の主張に対する原告の反論

本件映像は、「撮影の段階」「放映の段階」のいずれにおいても不当であり、公共性・相当性は認められず、不法行為を構成する。以下、被告の準備書面(第1)に記載された撮影場所を踏まえて反論する。

1. 撮影の段階

(ア)   撮影場所

本件映像を撮影した人物が立っていた場所は、公道上であるが、本件映像で撮影された場所のほとんどは、拘置所敷地内であり、映像には、拘置所施設を背景に歩行する原告と原告につきそう拘留関係者が同時に映っている。

(イ)   撮影された状況-領置品の先行搬入

 原告が保釈決定を知ったのは、2002925日夕食後であった。保釈と共に領置されていた所持品を整理しまとめたが、書籍が数十冊、刑事事件関係書類も千枚以上であっため、全ての荷物は、一回で両手に持ち運べる量ではなかった。この為、拘置所施設面会口(乙第2号証)から拘置所敷地内を通って、門外に運び出すには、時間がかかる状況であった。

 一回目に面会口のドアが開かれた時に、屋外は夕闇により暗い状況であったが、その瞬間に原告の目には、強いライトが当てられた。その状況では、ライトの光は強烈であり、人と人が通常の会話ができるような距離でなかったため、人が撮影機器を使用してこちらを撮影していることは認識したが、どのような人物が撮影したかも確認できず、腕章をしているかどどうかも認識できなかった。

 拘置所の職員は「あいつらもう来ていやがる。」と言い原告と会話を始めたことからも、撮影しているのはおそらく報道関係者であると思った。しかし、同日夕刻に保釈されて拘置所で身柄をとかれた立場にある者としては、撮影された経路以外に、出所する経路の選択余地はなかった。既に妻がタクシーを停車させていることを原告は認識していたことも相まって、乙第2号証に示されている経路で拘置所内敷地を出ることとした。この時点で同経路を歩行した場合、確実に撮影されるので、それに対して嫌悪感を持ったが、ここで、大きな声を出す等して撮影者に抗議することは、理由があって断念した。これについては後述する。

 せめて撮影される時間を短縮しようと策を講じ、一旦面会口から離れ、領置品は拘置所職員が門の外に運び出し、時間をおいて、それを妻がタクシー内に搬入した後に、原告が面会口を出てタクシーに乗り込むこととした。

(ウ)   撮影現場の状況-妻の撮影に対する抗議

①報道関係者との接触

 原告は、本件事故が報道された200112月から、報道関係者との直接的な接触を行わなかった。報道直後から弁護士に相談し、20021月上旬には、報道関係者に対する方針を決定した。すなわち、報道関係者からの接触や取材の申し込み等があった場合は、妻が対応し、「佐藤(原告)は報道関係者に直接接触したり、会話したりはしないので弁護士さんの氏名と連絡先を報道関係者に伝える」方針としたのである。

②妻と撮影者の会話

 原告の妻は、領置品をタクシーに搬入する際に、複数いた撮影者に「撮影しないでください。」旨、異議を申し立てた。これに対して、ある撮影者は妻と会話した。妻は最終的に「撮影されたくないんです。」と明確に理由も述べた。 

(エ)被撮影者の心理-皇太子妃候補の抗議映像等

 原告は、報道映像の撮影者が、被撮影者が撮影されることを拒否しても撮影を強行し、それが放映された場面を報道番組のテレビ映像で何回も視聴した。その「撮影拒否場面の放送」が被撮影者の印象を悪くすると考えていた。「エイズ事件刑事被告人(無罪)安部 英医師」や「オウム真理教教祖の弁護人 横山昭二弁護士」や「ロス事件の殺人事件刑事被告人(無罪)三浦和義氏」らが、報道関係者の撮影を拒否したり、抗議したりする場面が放送されるのを見て、これら被撮影者の態度が人格的に悪い印象として感じた。特に現皇太子妃雅子妃殿下が、婚約発表前に報道関係者に、撮影者の放送局名を訪ね撮影をやめるように厳しい表情で強く要望した場面を報道番組で視聴し、当時の小和田雅子妃殿下候補に対して人格的に悪い印象を持った。

 このため、原告は、逮捕以前から、自分が報道関係者に撮影されることがあった場合は、自らが直接撮影者に対して、撮影に対する拒否行動を起こしても、撮影に中止や異議を申しでても、他どんな行動を起こしてもそれが放送されることが免れないので、せめてその放送により、自らの印象が悪くなることを回避するように行動することを決めていたのである。

 原告は、通常会話の声では届かない場所から、拘置所敷地内に向かって撮影を行っている何処の放送局の何者かも分からない撮影者に対して大きな声を出して抗議しても、どの場面で抗議しても、その行為自体が放送されると、視聴者が原告の人格に悪い印象を持つと考え、顔を隠さず、撮影者に何も述べずに淡々とタクシーに乗り込んだ。

(オ)「撮影の段階」ので不法行為

 撮影に嫌悪感をもった原告が、一旦は面会口から顔を出したがそのまま外には出ず、領置品だけが先に外に出され、時間が経過した後に、面会口から拘置所敷地内に出てきた場面の一部始終を見た撮影者は、原告の妻から撮影の拒否とその理由を聞かされたにもかかわらず、原告を撮影した。このことから、原告において黙示的承諾がなかったことは明らかであり、本件映像の「撮影」は不当であり不法行為を構成する

2. 放映の段階-放送の正当性、公共性、公益性、必要性、相当性の欠如

(ア)「無罪判決報道」と「拘置所出所」

 原告は、200667日付け準備書面 8頁~9頁「(ウ)原告記者会見後の放送」と「(エ)38歳時の映像」において、本件ニュースにおける映像の正当性、公共性、公益性、必要性、相当性の欠如について述べた。被告自ら「無罪判決報道」と呼ぶニュース番組において、原告が行った記者会見の映像を入手していた被告が、拘置所を出所する際の原告が拘置所敷地内から外に出るところを撮影した4年前の映像をわざわざ放送したことを指摘した。

(イ)「殺人容疑で逮捕された被疑者」と「無罪判決を言い渡された被告人」

 被告は、放送の正当性の欠如、公益性の欠如、必要性の欠如及び相当性の欠如に対する反論を直接は行わずに「殺人容疑で逮捕された被疑者の写真掲載」に係わる事案の下級審判例を提示するのみで何の説明もなく「明らかなように・・・不法行為は成立しない」と述べている。

本件放送時点において、原告は、被疑者でもなく、この時点では無罪判決を言い渡された被告人であった。その立場になった原告の映像を入手しながら、拘置所を出所する際の原告の映像を放送することの公益性、必要性及び相当性は存在せず、放送の正当性はない。

 また、「世問の耳目を集める東京女子医大医療事件裁判の被告人であったのであって,同裁判に関する事実は公共の利害に関する事実である。」と述べているが、「拘置所を出所した事実」は裁判とは直接の関係がないので、「公共の利害に関する事実」ではない。

(エ)   「放映の段階」ので不法行為

以上より、無罪判決時の「放映」として本件映像は不当であり、「撮影」「放映」のいずれもが不法行為を構成する。

以上

原告 準 備 書 面(3

20061215日 

東京地方裁判所民事第6部合議B係御中

原 告 佐藤一樹

準備書面(第2)に記載された被告の主張に対する原告の反論は以下のとおりである。

第1 「名誉毀損」に関する被告の主張に対する原告の反論

 被告は準備書面(第2)においても、原告の社会的地位の低下を否定するための反論を縷々述べるが、その主張には矛盾があり、客観性を欠いた報道姿勢を露呈し、釈明のための事後的解釈に終始している。

また、被告に挙証責任がある真実性や誤信相当性の主張には、被告自身による具体的な取材経過が示されていないため、被告の不法行為を否定するには程遠い。

以下、詳細に論じる。

1. 無罪判決理由

(ア)  「無罪判決理由放送」の繰り返し主張

被告は、準備書面(第2)第1の1の「(1)人工心肺に構造上の問題があったことを報道したこと」の項では、その題名を主張するために、2頁11行目ないし12行目、同頁17行目、同頁26行目、3頁1行目、同頁3行目ないし4行目、さらには、(2)の項にまで入ってからも、同頁13行目、同頁16行目と7回も繰り返し『人工心肺の(には)構造(上)に(の)問題』とう文言を使用している。要は、被告が「『無罪判決という事実』と『その理由は人工心肺の構造に問題があったこと』の両方を報道した」ことを繰り返して強調しているだけの主張である。「人工心肺の構造に問題があった」という指摘自体に疑義を挟んでいるという解釈の余地もあるし、人工心肺の構造に問題があったとしても、結果は予見できたという判断もありえるのであるから、構造の問題を繰り返し指摘したからといって、ただちに原告による過失の不存在を一般視聴者に印象づけることにはならない。

(イ)  無罪推定の原則をわきまえない報道と視聴者の印象と本件放送

本邦では、一般に国民の裁判所に対する信頼は厚い。しかしながら、被疑者・被告人に対する犯人視報道が、刑事裁判における判断に少なからず影響を与えることや最初の犯人視報道に接した者が、その印象が消えずにこれを基準として判断し、逆に公判廷で明らかにされた方が間違っているのではないかという不信感を持つ者が存在することを、裁判所自身が示唆、指摘している。

すなわち、「週刊誌や芸能誌、テレビのワイドショーなどを中心として激しい報道が繰り返されたが、こうした場面では、報道する側において、報道の根拠としている証拠が、反対尋問の批判に耐えて高い証明力を保持し続けることができるだけの確かさを持っているかどうかの検討が十分でないまま、総じて嫌疑をかける側に回る傾向を避け難い。・・・ところで、証拠調べの結果が右のとおり微妙であっても、報道に接した者が最初に抱いた印象は簡単に消えるものではない。それどころか、最初に抱いた印象を基準にして判断し、逆に公判廷で明らかにされた方が間違っているのではないかとの不信感を持つ者がいないとも限らない。そうした誤解や不信を避けるためには、まず公判廷での批判に耐えた確かな証拠によってはっきりした事実と、報道はされたが遂に証拠の裏付けがなく、いわば憶測でしかなかった事実とを区別して判示し、その結果、証拠に基づいた事実関係の見直しを可能にすることの重要性が痛感される。」(東京高等裁判所平成100701日判決・高等裁判所刑事判例集 512129頁 下線は原告)がそれである。

この判決文に鑑みれば、逮捕後の報道や起訴後の報道等によって犯人視されていた原告の無罪判決とその理由を報道したとしても、原告に対する犯人視報道を基準にして判断し、無罪判決に対して不信感を持つ一般視聴者の存在は否定できない。さらに、無罪判決理由に続いて、原告が「当初罪を認め遺族に謝罪」していたが裁判では「一転して過失を否定」したという自白に相当する事実のを摘示し、「危険を回避する義務を放置し怠った」とか原告を「未熟な医師」と評し、「元医師」というナレーション、テロップを放送すれば、一般視聴者に対して、「専門性を有するべき医師が未熟であっために手術中のミスによって本件患者を死亡させ、それに関連して現在は医師ではない」という印象を生じさせることは明らかである。

(ウ)  無罪判決理由に対する関心

「(2)被告の報道姿勢について」では、この「人工心肺の構造に問題があった」という理由が判決で述べられていると報じた「被告の関心は、『では誰に責任はあるのか』とか「『このような事態は防げなかったのか』という問題にあ」ると被告は主張する。

しかし、判決が受け入れている「人工心肺に構造上の問題」と「予見可能性が否定される」ことも受け入れているのであれば、そのような構造上の問題をかかえた人工心肺の操作者は、誰であろうと結果発生を防げないのだから、「未熟な医師」かどうかはまったく関係がないはずである。したがって、批判的立場に立たなければ、「人工心肺の構造の問題」に関連して「被告の関心は、『では誰に責任はあるのか』とか「『このような事態は防げなかったのか』という問題にあった」といえるはずがない。以上より被告の説明には矛盾または虚偽があると言わざるを得ない。

構造上の問題を前提にするならば、女子医大の管理体制や予防体制も、そのような構造上の問題ある人工心肺が作られたり、使われたりしないようにすることに焦点が当てられるべきである。この点において被告の説明と実際の放送には齟齬がある

また、被告が主張するように「どのような判決が下るかわからない状況下(乙第4号証)」の無罪判決後に、「人工心肺の構造に問題があった」という判決理由を知った「法律の専門家(被告準備書面(第1)10頁)」が、突如として判決理由とは全く関係のない「東京女子医大病院の管理体制」や「『未熟な医師』を問題視する発言」をするとは通常考えられない。したがって、「西田弁護士にコメントを求めた時刻については、本件刑事裁判の判決日の判決言渡後であることにおそらく間違えない」(乙第4号証1頁)の神谷祐輝ディレクターの発言内容は極めて疑わしい。

(エ)  無罪判決に対する批判的立場と一般視聴者の受ける印象

 したがって、西田弁護士の「いろんなあの危険を回避する義務というのはやっぱりあると思うのですね。」「それを放置してまああのそういうことを怠ってですね。未熟な医師にあの二重三重にそういうことが起こらないようにあの予防体制を取りながら本当はやるべきだったでしょう」というコメントは、①「無罪判決の理由を知らずに、原告に対して批判的に述べた」または、②「裁判所の認定事実を無視して、無罪判決に批判的立場で述べた」のいずれかと推測される。いづずれにしても、「音声及び映像により次々と提供される情報を瞬時に理解することを余儀なくされる」一般の視聴者は、原告が「危険を回避する義務を放置し怠った未熟な医師」であるという印象を受ける。(2006年6月7日 原告準備書面4頁 第1の1(イ)未熟な医師 ③参照) 

2. 真実性の不存在

(ア)  乙第3号証の新聞記事の「真実でない事実」

 被告は、テロップ(甲1-2-⑬~⑮)と伴に「佐藤被告は当初罪を認めて遺族に謝罪し,示談が成立しかし法廷では,一転して過失を否定してきました。(甲1-1)とナレーションした放送内容に対する真実性の立証として、乙第3号証・平成14629日毎日新聞の記事を証拠としているが、この記事には「真実でない事実」が書かれている。このため、原告は毎日新聞社に対しても民事訴訟を提訴し弁論審理中である。以下に本件に関連した記事の中で真実ではない内容の部分を列挙し説明する。

①「平柳さんの家族によると、その際、両容疑者はいずれも『医者をやめたい』と話していたという。」という記事のうち、平柳さんの家族が何を言ったかは知らないが、「両容疑者はいずれも『医者をやめたい』と話していた」という部分は真実ではない。原告はその時に「医者をやめたい」とは絶対に話していないし、現在まで生涯に一回も「医者をやめたい」と話したことはない。

②「その後、本堂に6人が正座して並び、順に謝罪した。」という記事のうち「順に謝罪した。」というのは真実ではない。「順に言葉を述べた」ことは真実である。原告は、この時に、原告も死亡した患者さんと同様に心房中隔欠損症の根治手術を受けたことと今後の抱負を述べただけで、謝罪はしていない。後にこのこと関連した事柄を述べる。

③「佐藤容疑者も『もう医師は続けられない』とつぶやいたという。」という記事は真実ではない。原告はその時に「もう医師は続けられない」とは絶対につぶやいていないし、現在まで生涯一回も「もう医師は続けられない」とつぶやいたことはない。

④「この際、事務職員が謝罪は終わったとして、『あとのことは弁護士同士の話しにしましょう』と示談を持ちかけてきたという。」という記事については、真実かどうかは不明であるが、家族が「お金が早急に欲しいのに弁護士をつれてこないとは何事か。」旨、女子医大管理二課次長を激怒し叱責したと、同次長が発言している。 

(イ)  傍聴の家族から「謝罪していない原告」に対する接近

2002年1月31日の刑事公判の傍聴をされた、平柳利明氏は、「瀬尾さんからは謝罪をしてもらったが、佐藤さんからは謝罪してもらっていない。刑事判決が出たときに医道審議会に対して瀬尾さんには、嘆願書を出して医業の停止期間を短くしてもらうつもりである。佐藤さんは謝罪してもらっていないので、嘆願書は出せない。だから、罪を認めて謝罪して欲しい。そして、いっしょに今井(今井教授)と闘いたい。」旨述べ、原告から電話連絡をして欲しいと電話番号が記載されたメモを残した。以上の事実からも、原告が謝罪していないことは明らかである。

(ウ)  2002628日の逮捕と2001128日の罪

 被告の準備書面(第2)5頁によれば、被告が報道した「当初罪を認めて謝罪した」のは、2001128日と受け取れる。そもそも原告は、その時点では何の罪にも問われていない。「罪を認めて」いるからには「罪に問われている」はずであるが、警察捜査すら開始されていなかった200112月に原告が罪に問われることはあり得ない。原告が被疑者になったのは、逮捕され2002628日である。したがって、2001128日に罪を認めることは絶対にあり得ない。

 なお、20021月に原告らが告訴された旨、新聞紙上等で報道された。このため、原告は逮捕前に弁護人選任届けを担当の司法警察に提出しようとしたが、「信じる信じないは原告の勝手だが、『告訴状』は受理していない。『被害届』が出ているだけなので、原告は「被疑者」ではなく「参考人」である。」旨、警察から説明を受け、選任届けは受理されなかった。

3. 相当性の不存在

(ア)  「独自の取材」と「新聞記事の伝聞」

 被告から、原告に対する取材申し込みは、現在に至るまで一回もない。準備書面(第2)では、原告の刑事事件の代理人に対する取材についても言及がない。報道内容に関する名誉毀損の裁判において、原告に対する被告独自の取材がなく、新聞記事というあくまで伝聞にすぎない情報源に安易に依拠しただけであって、独自の取材もしていないような場合に誤信相当性が認められるとは思われないが、被告が相当性の抗弁を行っているのでこれに反論する。

(イ)  病院側の謝罪の事実の明言

 被告は、「前述のとおり、病院側も謝罪の事実を明言している。」旨(被告準備書面(第2)63行目ないし4行目)述べている。この前述とは、同書面5頁10行目ないし13行目で「原告及び関係者らを引率した林院長は、同年1229日、記者会見の場において、「本年12月に担当医らを同行の上、院長、心臓血圧研究所長、黒澤がご遺族に対し謝罪を申し上げました。」とある点を指していると思われるが、この「林院長の述べた」内容については、証拠がない。さらに、この記載によれば、「謝罪を申し上げました」の主語は、「院長、心臓血圧研究所長、黒澤」の3人である。したがって、「(原告が)謝罪し(た)」、ましてや当時罪を問われてもいなかった「(原告が)当初罪を認め遺族に謝罪し(た)」と誤まった事実を信じた相当性も存在しない。

(ウ)   民事訴訟を考え示談を急いだ家族‐「罪を認め(た)」と言った証拠はない

 また被告は、「まだ年端もいかない娘を失った遺族が、謝罪を受けていないにもかかわらず謝罪を受けたと虚偽の発言をすることはありえないので、遺族が謝罪の事実を明言したことは、極めて信頼性の高い情報である。」と述べる。

遺族は、刑事裁判の証人として法廷おいて、「最初は民事を考えていた」旨述べた。そして、実際に民事レベルの交渉を女子医大側と開始し、その後に刑事告訴を計画し、その結果、被害届けを提出した。そして、原告が全く関与しないところで、2002215日に東京女子医大との間に示談書を交わし、合計71463052円を手にした。(なお、報道関係者に公表された示談書には金額は伏せられていた。)したがって、遺族が示談交渉を有利に進めたり、示談成立の正当性を主張したりするために「虚偽の発言」をすることは十分に考えられる。

さらに、謝罪したとされる者が1名の場合でなく、複数の関係者がいる場合には、遺族としては、そのうちの一部を意図していたが、伝聞の過程で正確性が失われた可能性なども十分に考えられる。

仮に、被告が2002629日に毎日新聞の記事を読んで、「謝罪した」という伝聞を盲目的に真実だと考えたとしても、「当初罪を認め(た)」ことは遺族が話した証拠もないので(原告はこの時点で罪を問われていないので当然だが)、誤信相当性もない。

また、被告が本件放送でも「法廷では」「(原告が)過失を否定」と報道しているように、20051130日までには、原告が起訴事実を否認していることを被告は認識していたのであるから、その3年以上の期間に、被告が、原告本人や刑事弁護人に取材する時間は充分あったのである。しかし、被告は、一切そのような取材努力を怠ったのである。したがって、誤まった事実を信じた相当性はない。

4. 『未熟な医師』

(ア)  危険回避義務を怠ったのは原告

 被告は、準備書面(第26頁で、「『危険回避義務』を怠ったのは『原告』ではなく『主体は東京女子医大である』」旨述べるが、刑事事件の被告は、飽くまで「個人」である。刑事事件判決について、法律の専門家が「危険回避義務」に関して述べるコメント内で、一言も出てこず、しかも「個人」ででない「学校法人東京女子醫科大学(東京女子医大)が主体であるはずがない。一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方からすれば、「危険回避義務を怠ったのは原告」という印象を受けるのは明らかである。(200667日原告準備書面 3頁ないし4頁 第11の(イ)未熟な医師 ③および④参照)

(イ)  西田弁護士のコメントの趣旨

 被告は、準備書面(第271行目ないし3行目では、西田弁護士のコメントにでてくる「未熟な医師」が原告を指していないという口実として、「仮に未熟な医師がいたとしても・・・」と破れかぶれのこじつけ論を持ち出した。この放送を視聴するにあたり、原告の無罪判決言と判決理由を聞いた法律の専門家が、原告のことについて全く言及せずに、一般論や仮定の話をしているという印象を受けるはずがない。

(ウ)  「未熟な医師」一言で名誉毀損は成立

 西田弁護士は、原告を未熟な医師と評価し、被告はそれを放送した。そのこと自体が名誉を毀損する。

 被告はさらに同頁8行目ないし13行目で「『未熟な医師』の一言で、無罪判決言渡し事実や判決理由の情報等が忘れさられ、『原告のミスによって本件患者を死亡させた』という印象が与えられることはない。」旨を述べるが、前述の東京高等裁判所平成100701日判決に鑑みれば、「公判廷で明らかにされた方が間違っているのではないかとの不信感を持つ者」が「原告は未熟な医師であった」という情報一つだけでもその不信感は増大する。また、その様な不信感を持っていなかった者も「未熟な医師」の情報により、不信感を持ち、さらに「原告は当初罪を認め遺族に謝罪し示談が成立した」「危険回避義務を怠ったのは原告」という情報を次々と放送されれば、『原告のミスによって本件患者を死亡させた』という印象が与えられることになる。

5. 『元医師』

(ア)  「元東京女子医大医師」と「元医師」

 被告は、あたかも、一般視聴者はさておき、「被告は,『事故当時は東京女子医大病院の医師であったが,現在は東京女子医大病院の医師ではない』という趣旨で使用している。」とか、「本件報道は,東京女子医大を舞台とした医療事件の続報であり,話題の中心は東京女子医大であるから、『元医師』といえば東京女子医大に元いた医師を指す。被告にそれ以上の意図はない。」(下線部は原告)等と『被告の事情』ばかりを主張している。日本語を理解する一般視聴者は、「元医師」といえば「以前は医師であったが現在は医師ではない人」と理解する。「事故当時は東京女子医大病院の医師であったが,現在は東京女子医大病院の医師ではない」という趣旨を伝えるのであれば、「元東京女子医大医師」「東京女子医大元助手」等と表示したりナレーションしたりするはずである。(200667日原告準備書面 5頁ないし6頁 第11の(ウ)元医師 ②および③、原告準備書面(2)4頁 第1の3.元医師 参照)

(イ)  国家資格と職業

 被告は準備書面(第2)でもこじつけ的な言い訳や持論を縷々展開しているが反論のレベルに達していない。

「医師」は職業名であり国家資格でもある。

通常、多くの視聴者「原告が元医師」であると理解した視聴者は、原告が「国家資格である医師としての資格を失った」すなわち「医師を辞めさせられ」という印象を持つ。医師が刑事事件等を理由に医道審議会等で、医師免許を停止されたり剥奪されたりすることがあることは、一般視聴者にも知られている。医師としての国家資格を失うということは、それと同等以上の理由がない限りあり得ない。原告が医師を辞めさせられるような理由が、他に報道されていない限り、一般視聴者は本件に関連して医師の国家資格を失ったという印象を持つ。

仮に、一般視聴者が、「元医師」を「国家資格は失っていないが、医師を職業としていない」という印象をもったとする。通常、社会的地位が確立し収入も悪くない医師として就業していた人物が42歳以前に「職業としての医師」を辞めるにはよほどの理由があるはずであると考える。被告は、「当初は罪を認め」等と報道しているのであるから、「本件手術後から判決までの間に本件手術に関連した何らかの誘因におより『自ら医師を辞めた』という印象を持つ」と考えることは自然である。

「元医師」の表示およびナレーションが名誉を既存毀損することは、200667日原告準備書面 6頁 第11の(エ)現在は医師でない理由 ①②③で既に十分に述べ、原告準備書面(2)4頁第13.元医師でも補足した。 

第2 肖像権侵害 

1. 総論-憲法21条と人格的利益の侵害

(ア)  憲法13条との関連

被告は、「原告が逮捕され,東京拘置所にて身柄を拘束されていたのはまぎれもない事実である。また原告が保釈により東京拘置所を出所したこともまた、まぎれもない事実である。原告が身柄を拘束されていたこと,原告が保釈されて拘置所を出所したことと、原告に無罪判決が下ったことは完全に両立する。身体を拘束されていた原告につき無罪判決が下ったと報道することは何ら矛盾していない。(準備書面(第213頁)」と関連のある事実であれば、何時どんな内容のものでも公表できるかのように主張し、さらに「そもそも、取材の結果適法に取得した映像のうち、どの映像を用いて報道を行うかということは、憲法21条のもと,報道機関の自由である。」と憲法21条を楯に開き直った主張を行っているが、「憲法一三条は、『すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。』と規定しているのであつて、「人は,みだりに自己の容ぼう等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有する(最高裁昭和40年(あ)第1187号同441224日大法廷判決・刑集23121625頁参照)」のであるから、本件のように、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影し公表することは、憲法13条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。

(イ)  真実性は抗弁にならない

 そもそも、被告は「東京拘置所を出所したことは事実」旨等の主張を行っているが、プライバシー侵害や肖像権侵害では、真実性は抗弁の一要素にはならないので、被告のこの主張は無意味である。

2. 本件放送の不法行為

被告は「みだりに」原告を撮影し、「みだりに」放映(公表)した。以下、被告も準備書面(第2)9頁で引用している最高裁平成15()281号同171110日第一小法廷判決・民集 第5992428頁および同準備書面9頁下級審判決の引用をに鑑み、撮影の正当性の欠如、および公表(放映)の正当性、公共性、公益性、必要性、相当性の欠如について、以下の(ア)ないし(カ)で項目別で主張する。

(ア)  被撮影者の社会的地位

撮影時の原告は刑事事件の被告人であったことは否定しない。ただし、放映時の原告は、無罪判決を受けた医師であり、公訴提起前でないことはもちろんのことであるし(刑法230条の22項参照)、当日も診療をおこなった現役の医師であることが考慮されるべきである。また、手術の行われた東京女子医大は、社会的にも影響力のある有名かつ巨大な組織であるが、原告自身は、その組織における一介の勤務医に過ぎず、社会的な公人でも有名人でもない。

(イ)  被撮影者の活動内容

①時間と場所:強烈なライトを当てないと撮影できない時間帯で面会時間終了後の時刻の拘置所敷地内である。この1847分頃には拘置所を訪れた者誰もが自由に出入りできるような場所ではない。拘置所職員または出廷や保釈等特別な理由をもった被勾留者のみが歩ける場所である。

②活動の背景と行動:打ちっぱなしのコンクリートを背景に明らかに原告を勾留する制服をきた検察庁職員とともに、歩行している。特定管理権者の管理下、すなわち裁判所であっても拘置所内であっても、打ちっぱなしのコンクリートを背景に制服をきた検察庁職員とともに、歩行する行為は、一般的な公共の場所に市民が身を置いている容貌・様態や一般人が通常とっている行動とは全くことなり、心理的負担が生じることは明らかである。本件放送は、一般人が通常とらない行動や一般人の感受性を基準として撮影・放映を好まない背景での行動の撮影・放映であり、「みだりに」該当する。 

(ウ)  撮影・放映の目的

 被告準備書面(第2)1014行目によれば、撮影の目的は「保釈の事実」である。しかしながら、「医療事故に関連した事件の被告人の保釈の事実」が、「社会の正当な関心事」であるとは思われない。ことに、当該刑事事件における無罪判決報道時にはなおさらである。したがって、撮影の公共性、公益性、必要性等があるとは思われない。

また被告準備書面(第21211行目、被告に放映の目的は、「無罪判決が下された(刑事)被告(人として)の容ぼうを特定するだけ」であると主張する。

 しかし、本件ニュース2の午前5時38分(甲第2号証の2の①)や本件ニュース3の午前7時8分(甲第3号証の2の②)や本件ニュース4の午前854分(甲第4号証の2の①)では、「拘置所敷地内を歩行する38歳の原告」を放映し、その直後には、「記者会見でコメントする42歳の原告」を放映しているのである。「容ぼうを特定するだけ」の目的であれば、後者のみ放送すれば足りるのである。被告以外の放送局で、無罪判決の報道にあたって保釈時の映像を流した放送局は一切ないし、そもそも、保釈時においてすら、そのことを報じた放送局や新聞社は、原告の知る限り一切ない。したがって、「容ぼうを特定するだけ」という被告の主張は、ニュース1の抗弁として後から考えたものであることがわかる。

「そもそも、取材の結果適法に取得した映像のうち、どの映像を用いて報道を行うかということは、憲法21条のもと、報道機関の自由である。」と開き直った主張をしているが、上記憲法13条を考慮していない自己中心的な主張である上、肖像権侵害では、真実性は抗弁の一要素にはならない。

200667日原告準備書面 9頁第12の(エ)38歳時の映像 原告準備書面(2)7頁第22.放映の段階 でも既に述べたように、本件映像は、「38歳時の拘置所敷地内を歩行する原告」である。放映時は、「42歳時の無罪判決言渡し後の記者会見でコメントする原告」の映像を被告は入手しているのであるから、「無罪判決が下された(刑事)被告(人として)の容ぼうを特定するだけ」の目的であれば、この映像を放映するのが相当であり敢えて「38歳時の拘置所敷地内を歩行する原告」の映像を使用する相当性はない。

(エ)  撮影・放映態様 

       被告は、他社撮影者とともに、所謂メディアスクラムを組んで、原告が拘置所内施設の扉を開けた瞬間に撮影者の様子も分からないほど、強烈なライトを当て、精神的肉体的圧迫感を与えた。このため、原告が一旦姿をくらました拘置所から出るのをやめた上、原告の妻が、そのメディアスクラムの一員である撮影者(所属社名は不明)に対して、撮影に異議を申し立て、撮影の中止とその理由の訴えがあったのにもかかわらず撮影を中止しなかった。再び姿を現した原告に承諾を受けることなく、打ちっ放しのコンクリートの壁を背景に拘置所敷地を勾留関係者と認識できる制服を着た人物とともに撮影した。

 なお、被告は「被告の調査によれば、そもそも被告の報道スタッフが、原告の妻から異議を申し立てられたり、原告の妻と会話したりした事実はない。」と主張しているが、そもそも原告は妻が異議を申し立てたり会話したのは被告スタッフであるという主張はしていない。ただし、当時の状況から、誰に対して異議を申し立てたとしても、その場にいた者としては、異議が申し立てられことを了解できたはずである。

 撮影の態様からも、被告の撮影はり正当性もないのであり、その放映も正当性がない。

(オ)  撮影・放映の必要性

 本件刑事事件は医療事故に関するものであり、国民の関心事は事故そのものであり、原告が保釈されたという事実を撮影する必要性はない。

 さらに、被告が主張するように、無罪判決放映時に、無罪判決直後の42歳の原告の映像を取得していた被告が、「無罪判決が下された(刑事)被告(人)の容ぼうを特定する」のにあたり、38歳の原告が保釈された映像を放映する必要性は全くない。

3. 承諾の不存在

(ア)  妻の撮影に対する抗議

    原告準備書面(2)6頁 第2の1の(ウ)撮影現場の状況-妻の撮影に対する抗議で述べたように、原告は報道関係者との接触や取材に関しては妻が対応することとしていた。妻は、多数いた撮影者のひとりひとりにわざわざ異議を申し立てた訳ではないが、被告の撮影スタッフのその一員であるメディアスクラムの任意の1人に対して、異議を申し立てたのである。神谷ディレクターのようにたかだか数か月前の重要な放映を記憶していないと主張する被告のスタッフが、3年以上も前の原告の妻の短い会話の有無を記憶しているはずがない。

(イ)  被撮影者の人格的利益と損害増大の防止

    被告は原告自身が黙示の承諾を与えていたと考えられる旨、主張しているが、その論理は、被撮影者の人権を無視した主張である。原告は、被告の撮影により不法行為が行われることを回避することが不可能であると認識し、その不法行為による損害が増大するのを防止するために、「あえて厳しい表情で要望したり」,「大きな声で抗議したり」「手で顔を覆ったり」「顔を背けたり」「うつむき加減で歩いたり」しなかったのである。

 妻が異議を唱え、一回撮影者の前に現れた原告が一旦姿を消したことにより、原告が撮影されたくない行為を示したに対し、被告は無視して「みだりに」撮影行為を行ったのであるから、原告の人格的利益である肖像権を侵害したのである。

(ウ)  NHK所属カメラマン

 原告の叔父、すなわち原告の母の義理の弟は、NHKのカメラマンであったが定年退職した。1970年に日本人がエベレストに初登頂した時のNHKの撮影隊に所属する他、東京拘置所から出所する人物を撮影するスタッフでもあった。

 被告は、あたかも「手で顔を覆ったり、顔を背けたり、うつむき加減で歩くなどして、撮影されたくないという自らの意思を表示する行為を行えば、撮影は行わない」かのような主張を行っているが、叔父の話では、「出所時は、各社が無条件で撮影は行った」とのことである。

(エ)被撮影者個人とメディアスクラム

 被告準備書面(2)第2 6頁 第21の「(エ)被撮影者の心理―皇太子妃候補の抗議映像等」 で述べたように、皇太子妃であろうが、被告人であろうが、法曹関係者であろうが、公人であろうが、私人であろうが、メディアスクラムを組んだ放送局は、被撮影者が撮影に対する拒否行動を起こしても、撮影に中止や異議を申しでても、撮影を行ってきた。この現状をに鑑みれば、報道カメラマンの撮影対象になった被撮影者が撮影を免れることが不可能である。従って、撮影の同意に対する争いが生じた場合は、その同意については厳格に判断されるべきであり、その撮影されたものの公表の目的、公表の態様、公表の時期に関してはなおさら厳格に判断されるべきである。

 以上により、本件映像の「撮影」は不当であり、無罪判決時の「放映」としては、なおさら不当であるから、当該映像の放映は不法行為を構成する。

第3 証拠の提出と人証の必要性

1. 原告が「罪を認めたこと」

 被告は、原告が「謝罪したこと」に限れば、伝聞ではあるが形式的に毎日新聞の記事を証拠として提出し、真実性、誤信相当性について抗弁している。

 これに対して、「罪を認めたこと」に関しては、何の証拠も提出していない。原告が「罪を認めたこと」に関して、被告は、「原告がいつ、どこで、どのような状況で、何の罪を、誰に対して、どのような文言で認めた」のか証拠を提出するべきである。

2. 原告が①謝罪したこと②「医師をやめたい」と話したこと③「もう医師は続けられない」とつぶやいたこと。

 被告は、この①②③について、真実性や誤信相当性を抗弁しているが、その証拠は新聞記事であり伝聞である。

 この①②③についても「原告が、いつ、どこで、どのような状況で、誰に対して、どのような文言で」①謝罪し②話し③つぶやいたのか証拠の提出をすべきである。

3. 神谷祐輝ディレクターの左手で書いたメモの証拠提出と人証

 ニュース1の映像では、神谷ディレクターは右手に受話器を持ちながら、左手でメモを取っている。乙第4号証「事情聴取報告書」では、取材経過についてはほとんど記憶していない旨記載されているが、「コメントをしてくれる弁護士がなかなか見つからず、弁護士のコメントを取得するのに相当手間取り、本件ニュース1の編集作業にぎりぎり問に合ったという記憶がある」という。本件放送(2005年11月30日)から提訴(2006年3月22日)までは4ヶ月弱であり、提訴から真摯な態度で本件放送を直ぐに振り返りを行えば、「コメント取得に相当手間取った」記憶があるのであれば、「相当手間取りやっと取得したコメント」自体の録画を見れば、取材経過の記憶が喚起されるはずである。

 本件において、争点となっている放送部分に含まれるのであるから、このメモの提出および神谷祐輝ディレクター本人の人証を求める。

4. 西田弁護士の人証

 西田弁護士のコメントが争点になっているのであるから、これを明らかにするために人証を求める。

5. 原告を撮影した現場にいた被告スタッフの人証

 撮影状況や妻の発言の有無については、撮影を直接おこなったスタッフの人証を求める。

以上

原告 準 備 書 面(4

200736日 

東京地方裁判所民事第6部合議B係御中

原 告 佐藤一樹

準備書面(第3)に記載された被告の主張に対する原告の反論は以下のとおりである。

第1 名誉毀損について

6. 本件放送が原告の社会的地位を低下させたこと

(ア)被告の主張について

被告は準備書面(第3)においても、本件放送が原告の社会的地位を低下させたことに対する、こじつけによる言い訳、釈明のための事後的解釈を縷々述べるが、その主張は、被告準備書面(第1)、被告準備書面(第2)の主張の繰り返しであり、原告の主張したことに対する有効な反論は見あたらない。

(イ)   本件放送が一般視聴者に与える印象

本件放送は、原告が「当初罪を認め遺族に謝罪」していたが裁判では「一転して過失を否定」したという誤った内容を報じるとともに、被告を「未熟な医師」と評し、「元医師」という誤ったナレーションと伴にテロップを付すなどするものであり、その内容において、一般視聴者に対して、専門性を有するべき医師が未熟であっために手術中のミスによって本件患者を死亡させたという印象を生じさせ、その責任をとって原告が医師でなくなった印象を生じさせることは200667日付け原告準備書面、準備書面(2)、準備書面(3)で陳述した通り明らかである

(ウ)無罪判決報道に対する被告の基本姿勢

被告は、原告の引用した「東京高等裁判所 平成100701日判決・高等裁判所刑事判例集 512129頁」に対しては、準備書面(第3)2頁ないし3頁において、「『不信感を持つ者がいないともかぎらない』と述べているにすぎず、不信感を持つ者が一般的であるなどとは全く言っていない。」と本質的な内容についての、言及や議論を放棄し、修辞的な文言に対する言いがかりに終始している。このような被告の主張自体が、無罪判決報道における被告の真摯な報道姿勢の欠如を露呈しており、きわめて遺憾である。そもそも原告は、「一般的である」等とは陳述していない。

(エ)人証申請

西田弁護士に対する神谷ディレクターの取材経過とその内容については、未だ被告が明確な陳述を行っていない。従って、両者の人証申請を行う。

7. 真実性について

(ア)「罪」の解釈

 被告準備書面(第3)4頁では、「『罪を認めて謝罪』という言葉における『罪』という言葉は、自らに非があること、自らに責任があることを指す。」と嘯いているが、本件放送は、業務上過失致死罪に問われた原告の無罪判決についての放送であり、「罪」といえば、「業務上過失致死罪」を指す。ましてや、原告が被疑者になった時期や、いつ誰と誰の間に示談が成立したかの説明も放送せずに「佐藤被告は当初罪を認めて遺族に謝罪し、示談が成立」と放送すれば、その罪は、「一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方」からすれば、業務上過失致死罪としか理解されようがなく、示談の主体も原告であるという印象を受ける。

 さらに、原告は、実際にいかなる「罪」についても謝罪もしていないのであるから真実性は全くない。

(イ)   原告が謝罪したという証拠はない

 原告が「遺族に謝罪していない」ことは、原告準備書面(3)の4頁ないし6頁で述べた。ここで、乙第3号証には真実性がないことを陳述し、さらに、6頁ないし8頁でその相当性もないことを述べた。これに対し、被告は準備書面(第3)5頁において、性懲りもなく繰り返し乙第3号証を真実性の根拠としているが、伝聞にすぎない新聞記事である乙第3号証には真実性を立証する能力は全くない。

 被告は今回「20011229日の林直諒病院長会見」(乙第6号証)を提出しているが、ここでは、「本年12月に担当医らを同行のうえ、院長、心臓血圧研究所長、黒澤がご遺族にたいして謝罪を申し上げました。・・・」との記載があるが、「謝罪を申し上げた。」の主語は、「院長、心臓血圧研究所長、黒澤」であって、原告は含まれない。

 乙第7号証の陳述書を書いた株式会社バンエイトの梅澤通浩氏は、上記林院長会見が行われた翌日の同年1230日に平柳利明氏を取材している。従って、前日の記者会見の内容を知っており、原告が謝罪したかどうかを取材により明らかにできたはずである。しかしながら、原告が謝罪したかどうかの取材については言及がない。このように、「原告が謝罪した」という証拠はどこにもないのに、(平柳氏が)「院長らが謝罪したにもかかわらず原告は謝罪しなかった旨の発言は一切していない。」ことを理由に真実性を主張しているが、平柳氏が「原告が謝罪した」旨の発言をした証拠も一切ないのである。

 また、乙第7号証 2頁には、「院長らが謝罪した・・・」と書かれているのに、「被告原告スタッフに対して、・・・原告らからの謝罪を受けたと述べているのである。(被告準備書面(第3) 7頁9行目)」等と言い換える姑息な手段を用いて、原告が謝罪したかの真実性(や相当性)を主張しているのは極めて遺憾である。

 原告準備書面(3) 5頁下から3行目ないし6頁5行目で述べたように、平柳氏はむしろ、原告が謝罪していないことを理由に謝罪することを求めてきたのである。

(ウ)調査報告書の虚偽内容

 被告が、調査報告書の内容についての真実性について争うのか否かは不明であるが、調査報告書の内容に真実性がないことは、複数の資料から明らかである。このことは、被告の主張する相当性にも関わるので、本項で詳説する。

 特に、調査報告書の主旨でもあり、被告が、乙第5号証の立証趣旨に記載した「術野からの吸引の回転数を上げた場合静脈貯血槽や脱血回路内が陽圧になる可能性」等は全くない。調査報告書における、原告に本件医療事故の責任があるかの内容に真実性がないことは、本件刑事事件で証拠採用された、本件事故以前に発表された大阪大学、埼玉医科大学、静岡県立こども病院、大垣市民病院の学術論文のように、高度の専門的知識を要する文献を引用するまでもなく、以下の4証拠から明かである。

a.       3学会合同陰圧吸引補助脱血体外循環検討委員会報告書(甲7

(ア) 本件手術は人工心肺装置を用いた心臓外科手術であるが、関連分野における日本の学会である日本胸部外科学会(会員数8313名)、日本心臓血管外科学会(会員数3905名)及び日本人工臓器学会(会員数約3800名)(以下「3学会」という)は、本件手術にともなって発生した事故を契機として安全な陰圧吸引補助脱血体外循環法を検討する目的で、3学会合同陰圧吸引補助脱血体外循環検討委員会を合同で立ち上げた。同委員会の委員長(日本心臓血管外科学会現理事長 東京大学教授 高本眞一)、委員(日本人工臓器学会理事長(当時) 埼玉医科大学教授 許俊鋭、慶応義塾大学教授 四津良平、東京医科歯科大学教授 坂本 徹)及び協力員(日本体外循環技術研究会理事長 埼玉医科大学 見目恭一、慶応義塾大学 又吉 徹)の構成を見ればわかるとおり、この報告書は、人工心肺に関する現在の日本の最高権威によって、作成されたものである。

 同委員会は、9回の委員会(うち2回はシミュレーション実験)を開催した後、2003年5月に、「3学会合同陰圧吸引補助脱血体外循環検討委員会報告書」(以下「3学会報告書」という)を出した。

(イ) 3学会報告書では、吸引ポンプの回転数に関する調査報告書の記載に触れた後、「吸引ポンプの回転数が本当に静脈貯血槽の内圧に変化を起こす可能性があるのかどうか検討する必要が出てくる」という問題提起を行い(甲7、12頁)、模擬回路を用いた実験を経たうえで、吸引ポンプの回転数は静脈貯血槽の内圧に変化を起こさない(吸引ポンプの回転数を上昇させての装置に異常は生じない)という結論を出している。すなわち、3学会報告書は、「陰圧吸引補助脱血法では、サクション・ベントポンプを100回転以上で使用していても静脈貯血槽は陽圧にはならない」(甲7、18頁)、「本委員会の検討により、東京女子医大で起こった事故は本来陰圧であるはずの静脈貯血槽が急激に陽圧になったためであり、その原因は吸引回路の回転数が非常に高かったためではなく、陰圧吸引補助ラインに使用したフィルターが目詰まりを起こし閉塞した可能性がある」(甲7、25頁、末尾訂正は東京女子医大黒澤教授からの圧力によるものである)という結論を出している。

(ウ) 3学会報告書又はその抜粋は、学会誌「人工臓器」、「Clinical Engineering」といった専門誌で発表されただけでなく、3学会の学術集会でそれぞれ配布され、また、日本心臓血管外科学会専門医認定施設約500施設に配布された。特に、平成15年5月15日の第33回日本心臓血管外科学会学術総会では、学会出席者全員が一同に会することが出来る時間帯と会場において、「3学会報告書」が配布され、NHKの全国放送ニュースでもその様子が放映された。さらに、同報告書中に含まれる勧告(甲7、25頁)は、上記3学会の各専門誌及びホームページに収録されるとともに、厚生労働省の科学研究である平成14年度厚生科学研究医療における危険領域のリスク分析とフェイルセーフシステムに関する研究分担研究『人工心肺の安全マニュアル作成に関する研究報告書』(平成15年3月)にも収録された。いうまでもなく、ホームページは、本件放送当時も万人が閲覧することが可能であった。

b.       本件刑事事件判決 (甲 6

東京地裁刑事15部は、2005年11月30日、本件刑事事件について被告人を無罪とする判決(以下「本件刑事事件判決」という)を出した。

 本件刑事事件における公訴事実では、業務上過失致死罪を構成する注意義務違反の前提として、①吸引ポンプの回転数を高回転に上げると陰圧吸引力が減少して脱血不良を招く危険がある、②陰圧吸引脱血法を長時間継続すると、回路内に発生した飽和水蒸気や水滴によりガスフィルターが閉塞して静脈貯血槽内を陽圧化させて脱血不能になる危険がある、という2つの事実が主張されていたが、東京地裁刑事15部は、「本件ガスフィルターの閉塞という状況がなかったとしても、被告人が吸引ポンプの回転数を高回転に上げたままにしたことにより、流入総体積と流出総体積のバランスが崩れ、これが原因となって脱血不能の状態に立ち至ったという事実を認定することは困難である。他方、本件ガスフィルターが閉塞した場合には、壁吸引による人工心肺回路内からの空気の流出(吸引)が皆無になるのであるから、吸引ポンプからの吸引が継続される限り、回路内の陰圧が次第に減少していき、最終的には陽圧の状態に立ち至るということは明らかであり、したがって、本件事故の際に、人工心肺回路における脱血不能の状態を惹起した直接的かつ決定的な原因は、水滴等の吸着による本件ガスフィルターの閉塞であったと考えるのが合理的である。」と判示している(甲6、35,36頁)。

 本件刑事事件判決は、3学会報告書と同様の判断をしたものであり、吸引ポンプの回転数を上げても問題は生じないことを認定している。

c.       東京女子医大の回答書(甲10

 3学会の上記検討委員会が、東京女子医大に対して資料提供の依頼をしたところ、東京女子医大自身(東京女子医科大学付属日本心臓血圧研究所心臓血管外科 黒澤博身(代 新岡俊治))が作成した回答書には、「実地検分の結果 内部調査委員会の施行した検分は不十分で、しかも具体的なデータが残っていません」という記載があった。このように、東京女子医大自身が、内部調査委員会が実施した実験が不十分で具体的データも残っていないことを認めている。

d.       「バキュームアシスト(陰圧吸引脱血)」と題するパンフレット(甲 9

 バクスター社は、1998年ないし1999年までに、「バキュームアシスト(陰圧吸引脱血)」と題したプレゼンテーションのパンフレットを作成し、同脱血法を採用した施設の医師や臨床工学士等に対してプレゼンテーションを行っていた。

 このプレゼンテーションの57ページには、「リザーバに流入するベントやサクションの流量のバキュームに対する影響は?」すなわち、「静脈貯血槽に流入する吸引ポンプの流量(回転数)に対する影響は?」という問いに対し「バキュームコントローラは-20mmHgの設定で毎分15~20Lの流入するエアーに対応する能力があるため、サクションやベントの流量は全く問題にならない」と答えている。

 本件手術で、使用された、吸引ポンプの一回転あたりの流量は毎分13mlである。また、このプレゼンテーションにおけるバキュームコントローラと本件手術で使用されたレギュレータ(オメダ社製)は、「基本的に同じ」であると本件刑事事件第42回公判に出頭したオメダ社の技術責任者は述べている。

 このことを鑑みれば、本件吸引ポンプの回転数が100回転だと流量は毎分13mlx100=1300ml=1.3Lであるので、全く問題にならない。なお、本件の吸引ポンプは最大250回転まで上昇させることが可能である。仮に、刑事判決(甲第6号証)52頁の図にある吸引、ベントを最大回転数の250回転で4台使用したとしても、毎分13mlx250x4=13000ml=13Lであるから、本件手術においては、吸引ポンプの回転数を幾らに上昇させても、問題は起こりえないのである。

小括 以上より、吸引ポンプの回転数を100回転以上に上げても人工心肺装置に問題は何ら生じないことは、3学会報告書、本件刑事事件判決、バクスター社のプレゼンテーションによって明らかである。また、調査報告書が実施した実験については、東京女子医大自身が不十分であったことを認めているのであって、これに反する調査報告書の真実性が認められないことは明らかである。

8. 相当性について

(ア)   原告が謝罪したことを信ずる相当性がないこと。-2001年の2日間の取材と2005年の2日間の放送-

 被告は、準備書面(第3)において、「被害者に対する原告らの墓参は、故平柳明香殿死亡原因調査委員会が調査報告書をとりまとめた後、行われたものである。つまり、事故の原因が実質的に原告らにあり、本件事故は医療過誤により引き起こされたものであるという認識が、病院関係者及び遺族に共有されている状況下での、墓参であり、面会であった。」と勝手な解釈をしているが、上記「2.真実性について」で述べた明かな証拠以前に、ほかならぬ原告自身が、内部報告書を最初に読んだときからその内容が誤っていることを認識していた。

 被告は本件放送でも「法廷では」「(原告が)過失を否定」と報道しているように、遅くとも、2002919日の公判開始以後、原告が過失を否認していることを認識していた。よって、「原告の吸引ポンプの回転数の上昇した操作に責任がある」という主旨の内部報告書のことを否認していることも認識していたのである。そしてその後も原告が、一貫して被疑事実を否定していることを認識していた。

 しかし、被告準備書面(第3)の4頁~8頁では、原告本人や刑事弁護人はおろか、他には何も取材をせずに、20011229日と同年1230日のたった2日の取材を「十分な資料・根拠(723行目)」として「原告が謝罪した」という相当性を主張している。すなわち、2002年以後の取材に裏付けられた事柄なしに20051130日、121日に報道を行ったのである。

 被告準備書面(第3)は、「原告が・・・組織の意向に逆らうような態度を示すことは考えられない。(7頁4~5行目)」、「原告は・・・遺族に対し自らの責任を認めて謝罪する形をとったと考えるのが極めて自然である。(75~7行目)「・・・自らの責任を認めて遺族にわびるものであると考えるのが自然である。(7頁1819行目)」と、2001年年末に2日間だけ取材した事柄を元に20051130日から2日間に「考えたこと」を繰り返し主張しているが、このことは、約4年間「