第三次試案 医療安全調査委員会 調査チームの「法律関係者」にヤメケンを入れるな!-ヤメケンの歪んだ視線―「起訴されれば有罪」と「国民」が「医師」を最終的に起訴!
1.「法律家」と「法律屋」-法律関係者とは
(1)役人「検察官」
無実の罪に問われている被告人や冤罪者にとっての最大の敵は検察、検察官である。私は、検察官を「法律家」ではなく「法律屋」とう範疇に入れる。役人個人としての仕事のためには、「国家への奉仕」はおろか自分自身の「尊厳」や「勇気」「良心」「信念」を捨ててでも役人業務を遂行する。
(2)真のプロフェッション-法律家
日野原重明先生[i]のお話によれば、持っている能力を社会の繁栄と人々の幸福のために活かすと神に誓うから『プロ』であるという精神が垣間見える職業は、「神職者」、「法律家」、「医師」で、専門職能集団の中でもトップのプロフェッショナルな集団ということであるが、私が見てきた検察官は、「法律家」ではない。
(3)第三次試案の「法律関係者」
厚生労働省が2008年4月3日に発表した第三次試案「2 医療安全調査委員会(仮称)について」【委員会の設置】(13)「中央に設置する委員会、地方委員会及び調査チームは、いずれも、医療の専門家(解剖担当医、(病理医や法医)や臨床医、医師以外の医療関係者(例えば歯科医師・薬剤師・看護師))を中心に、法律関係者及びその他の有識者(医療を受ける立場を代表する者等)の参画を得て構成することとする。」とある。
そもそも、医療事故調査委員会が、「何を何処までやるか」の目的の議論も曖昧なままであるのだから、委員の選任自体が問題である。医療事故そのものの真実」の解明をするまでの段階に医療関係者以外の必要性はないと考える医療関係者が多数であると思われる。
その前提をおいても、なぜ、医療関係者に関しては事細かな説明があるのに、「法律関係者」は、漠然とした表現のみで具体的な職種やどのような立場なのか、医師とってステイク・ホルダーなのか等の説明が全く無いことに注意しなくてはならない。一般の国民からみると「法律関係者」といわれても何がなんだかわからないが、なんとなく法律に詳しく、法律的に公正な視線を持つ人を指すように感じてしまうのではないだろうか。
(4) 調査チームの「法律関係者」にヤメケンを入れるな!
この「法律関係者」が、ヤメハン(元判事、元裁判官)ならまだ納得いく。だが、「ヤメケン」(元検事)は絶対に入れるべきでないと私は主張する。「ヤメケン」は「弁護士」「大学教員」「法律専門家」等の一見中立的良心的な「法律家」としての名刺を持つことがあるのでやっかいだ。百歩譲って、この「法律関係者」に「ヤメケン」が選ばれるのであれば、「医療側に立つ法律家(多くは弁護士)」を同じ人数入れることをルールとするべきである。
2.推定有罪の視線
(1)「ヤメケン」は、「『起訴された被疑者は有罪』が前提」
「ヤメケン」が何故ダメか。私の周辺から説明しよう。
「医療事故の責任」事故を罰しない、過誤を見逃さない新時代へ 神谷惠子編著 (毎日コミュニケーションズ)という書籍を購入したところ、本件刑事事件に関する評価がいろいろ掲載されていた。164頁に「事件No.96 事件分類:医療機器欠陥 事件名:『東京女子医大病院人工心肺事件』」の「内容」が誤っていることは以後、別に論じるとして、6頁にあるヤメケン飯田英男氏の著書『刑事医療過誤Ⅱ』からの引用を見てみよう。
表1-2 医療事故における業務上過失致死傷罪判決(確定)の内容 平成12年(2000年)から平成18年(2006年)6月まで
起訴罪名 |
懲役 |
|
禁固 |
|
罰金 |
|
無罪 |
|
総計 |
|
有罪率 |
|
|
Dr. |
Ns. |
Dr. |
Ns. |
Dr. |
Ns. |
Dr. |
Ns. |
Dr. |
Ns. |
Dr. |
Ns. |
業務上過失傷害 |
1▲ |
0 |
1 |
1△ |
4 |
2 |
0 |
0 |
6 |
3 |
100% |
100% |
業務上過失致死 |
0 |
0 |
8 |
6 |
0 |
2 |
0* |
0 |
10 |
8 |
100% |
10% |
総計 |
1 |
0 |
9 |
7 |
4 |
4 |
0 |
0 |
16 |
11 |
100% |
100% |
Dr.:医師、Ns.:看護師、
*ただし、「東京女子医大人工心肺事件」と「割り箸事件」は一審無罪で、控訴審中。
起訴された被告人は、有罪が確定するまで、「無罪」である。しかし、この表の作成者の基本的姿勢は、『推定無罪の原則』に真っ向から対立する態度である。冤罪で起訴された被告人は、裁判で、「無罪になる」のではなく、「もともとの『無罪』」が裁判上決定するのだ。この表の、「業務上過失致死」の「Dr」は赤文字でしめされたように「0人」!。一審が無罪だったのにかかわらず、「確定していないから有罪の範疇に入るので、無罪は、0人、よって有罪率は100%」という論理になっている。そもそも、書籍の題名自体が、「刑事医療過誤」で過失を前提としている。
(この書籍のオリジナルは今、手許にないが、引用を信ずるとしての前提になるが)
これが、ヤメケンの正体である。経歴は、札幌高等検察庁 検事長 1999年6月~2001年5月 福岡高等検察庁検事長に転任)(2001年5月~2001年11月 退職)とあるから、検察官でもエリートのはずだ。影響力がある。それだけに、検察官の総意に近いものがあると推定できる。
(2)医療事故はミスによるものという視線―「東京女子医大人工心肺操作ミス事件」と命名――
本件掲示事件は、「無罪」が一審で言い渡される前から、メディアも、遺族も無罪を予想していた。ついでに言えば、検察自体も無罪を 予想していた。「東京女子医科大学事件」「東京女子医大心臓手事件」「東京女子医大人工心肺事件」等という報道や発表をみたことはあった。さらに、無罪判決後は、「東京女子医大人工心肺フィルター目詰まり事件」と原因に関わる命名をした発表の存在に対し、「操作ミスではない。」という判決を受けて、「東京女子医大人工心肺操作ミス事件」と命名できるメンタリティーに呆れ返る。さすが、ヤメケン。染みついた検察官魂はやめても抜けない。
大変気になるのは、この飯田氏の著作『刑事医療過誤Ⅱ』が、医療事故に関する発表、書籍、HP上の文章などで多く引用されていることである。これは、執筆者の立場が、医療関係者、法律関係者に限らない。おそらくこれまでに、医療事故に関する専門書が少なかったことが、この書籍に依存せざるをえない部分があることにも関連していると思われるが、この書籍は増補版まで出版されている。amazonでは、オリジナル版は入手できないくらいとのことなので、売れているとうことだろう。
経歴が凄いとか、医療事故事件に詳しいとか、医療過誤事件の権威であるなどとい理由を一人歩きさせて、ヤメケンの記述することを鵜呑みにしないでほしい。ある法律家も、ある有名な被告人もいっている「ヤメケンは弁護士を名乗っても所詮検事。」
(3)本件事件と飯田英男氏の関係
飯田氏は本件事件の経緯で最も悪名高き、東京女子医大「学内調査委員会報告書」に対する、「外部評価委員会」の委員だった。この「外部評価委員会」については、「医療の質の保証」―ブリストルの遺産-古瀬 彰 元東京大学心臓血管外科教授 『胸部外科』59巻9号「第6章 わが国において心臓手術の質が問われた事件」「第7章 心臓外科医療の質の評価」で、「心臓外科あるいは体外循環の専門家が委員として入っていない」「不十分」「委員会の設置主体が大学」「外部委員の選定が大学」であることなどが、言葉としては良く抑制的であるが、内容的には徹底的かつ痛烈に批判されている。
3.被告人からみた「医療事故調査委員会」報告書とヤメケン元最高検公判部長の意見
(1)「医療事故調査委員会」報告書に不同意!
自分の刑事事件での経験がある私にとって、厚生労働省が設置を考えている「医療事故調査委員会」は、第二試案以前から、その報告書の効力については、冷ややかな考えを持っていた。本件での、東京女子医大が作成した「学内調査委員会報告書」と三学会(日本心臓血管外科学会、日本胸部外科学会、日本人工臓器学会)の作成した「三学会調査報告書」は、検察側と弁護側の相対する「証拠」として双方が申請したが、双方がともに判決直前まで「不同意」としていた。それを判決直前に裁判官の訴訟指揮もあり、双方が「同意するが、その信用性を争う」ことになった。
確かに報告書が、医療者にとって有利な内容であれば、「事件性無し」ということで、書類送検見送りや不起訴になる可能性が高くなる。
だが、予想されるように報告書が医療者にとって不利な場合は、起訴される可能性も強くなる。しかし、刑事訴訟法317条「事実の認定は証拠による」のである。これまで、ブログには、「大野病院事件初公判」をはじめとしてこのことを散々書いてきたが、仮に現行法で、「医療事故調査委員会」報告書が検察側に有利だったら、検察側が証拠申請して、これに弁護側が「不同意」。となることが予想される
(2)民事上は「不同意」どころか-日経メディカル
ところが、民事訴訟ではそうは行かない。原告にとって有利なものは、たとえ真実でなくとも、被告の不利になるものであっても「不同意」することはできない。簡単にいえば、何でもかんでも証拠として採用される。
それどころか、2008年4月号の日経メディカルが指摘するように、「医療裁判では、院内の事故調査報告書など、事故に関して作成した文書の提出を裁判所から命じられることがあります。」
(3)ヤメケン元最高検公判部長の意見-当たり前のことだが、盲目的に信ずるな。
前述の通り、私はこの第三次試案の報告書の効力については、冷ややかな態度で、少し馬鹿にしていました。しかし、医師達の間では、4月上旬にコメントのあった河上和雄弁護士(ヤメケン)の意見「最初から過失の重大さの判断を勝手に法的権限のない事故調が行って、捜査機関に通知するかしないかを決めるのは、司法の権限を侵すので問題だ」という話が印象的だったようです。こんなことは、刑事裁判の被告人にとっては、当たり前の話ですが、これを引用する医師達が多い様子。「現在の法の枠組みでは、事故調はあくまでも捜査機関のアドバイス機関に過ぎない。」ので、現状では、刑事裁判の「証拠」と提出されても、単なる「証拠申請されたが不同意の証拠」として、藻屑となる可能性が大です。
この意見を「流石元最高検公判部長、識者の意見」などと関心して、以後もこの方の意見を盲目的に信じることなく、ひとつひとつ注意深く対峙する必要がでてくると思います。
4.「検察審査会法(改正)施行」の方が大問題
(1) m3.comの「医療維新」2008年3月19日 棚瀬慎治弁護士の話
これは、ものすごく大事な話です。簡単に言えば、「検察審査会法(改正)施行」は、既に公布され2009年5月27日までに施行されるが、『一応、医学的な専門知識を素人ながら勉強した検察官』が不起訴にした後、最終的には『医学も科学も全く知識がない委員からなる』検察審査会の審査で、起訴相当と判断されると『必ず起訴』される(指定弁護士による起訴)」というルールが出来上がってしまった。」といういことです。
(2) 検察審査会法第10条-医学知識皆無の国民による起訴があり得る!
検察審査会は,衆議院議員選挙人名簿の中から,若干の除外事由は有りますが,くじで無作為に選ばれます[ii]。国民です。医療事故の場合、国民はどうしても患者側の視点に立つためか、「起訴相当」または、「不起訴不当」とされるケースが多くなっているようです。(棚瀬弁護士は、「不起訴相当の議決を経験したことがない」そうです!)
「事故調報告書」が医療側に問題ない、検察が「不起訴」としても、検察審査会で「不起訴不当」「起訴相当」結果的に指定弁護士による起訴、メディアが煽る、刑事公判開始で大事。目に見えるようです。
i m3.com[オピニオンリーダー医師 対談]「医療政策対談 日本の医療を良くするために、今医師は何をするべきか」 Part 1「持っている能力を社会の反映と人々の幸福のために生かすと上に誓うから『プロ』である。」日野原重明 聖路加国際病院理事長
日野原:「Profession」という言葉には、神に告白(Profess)する、約束する、契約するという意味があります。神学と法学と医学のプロフェッションには、明らかにその精神が垣間見える。底通するのは、学問を修めるにとどまらず、持っている能力を社会の繁栄と人々の幸福のために活かすと神に誓うから「プロ」であるという精神。欧米で、神職者、法律家、医師が、専門職能集団の中でもトップのプロフェッショナルな集団とされてきた理由はそこにあります。そして、使命感を持った人が公言し、神と約束しているわけですから、第三者が彼らの仕事の内容を批評するのも当然のこと。
ii「市町村の選挙管理委員会は、前条の通知を受けたときは、衆議院議員の選挙に用いられる当該市町村の選挙人名簿に登録された者の中から、同条の規定により割り当てられた員数の倍数のそれぞれ第1群乃至第4群に属すべき検察審査員候補者の予定者をくじで選定し、各予定者について検察審査員としての資格を調査した後、その資格を有する予定者の中から同条の規定により割り当てられた員数のそれぞれ第1群乃至第4群に属すべき検察審査員候補者をくじで選定しなければならない。」http://www.houko.com/00/01/S23/147.HTM
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実はあのページ、
周産期医療の崩壊をくい止める会のホームページ
http://plaza.umin.ac.jp/~perinate/cgi-bin/wiki/wiki.cgi?page=FrontPage
になぜかリンクしてくださっていて、面映い限りなのですが、少しでも全国に声が届けばいいなと思っております!
勝手にリンクさせていただきましたけれど、ごめんなさい。
投稿: 僻地の産科医 | 2008年5月 2日 (金) 00時45分
> この意見を「流石元最高検公判部長、識者の意見」などと関心して、以後もこの方の意見を盲目的に信じることなく、ひとつひとつ注意深く対峙する必要がでてくると思います。
河上和雄弁護士の意見は信用したほうがよいですよ。
http://www.m3.com/tools/IryoIshin/080408_2.html
・事故調と刑事手続の関係を、法務省・警察庁との間で詰め切れていない。事故調が刑事捜査を阻むことは、刑事訴訟法を改正しない限りできないのに、第三次試案では法改正に触れていない。
・捜査機関が「謙抑的」というのは、当たり前のことを書いただけ。結局、捜査機関は独自に動く。
という指摘が重要です。
厚労省はこれまで意図的に説明を曖昧にして、事故調が刑事捜査をストップできるかように思わせようとしてきましたが、
法的にはそうなっていない、第三次試案は全くの欺瞞であるということを世間に暴露したのは、紛れもなく河上弁護士の功績です。
厚労省は、河上発言を聞いてほぞの緒を噛んだのではないでしょうか。
この点について、私なども第二次試案のころから疑問を呈してきましたのですが、如何せん、無名のいち弁護士がネットの片隅で吠えているだけでは、医師の皆さんに関心を持ってもらえず。。。
しかし、河上弁護士は、ヤメケンという立場上、検察・警察の行動原理に詳しいということで、その発言には信憑性があり、医師らに対して大きなインパクトを与えました。
最近、各学会から、ちらほらと第三次試案反対の意見が出始めたことは、それが影響していると思われます。
投稿: YUNYUN | 2008年5月 2日 (金) 03時39分
僻地の産科医
コメント有り難うございました。
産期医療の崩壊をくい止める会のホームページ
は、自分のブログからの明らかな引用があるのですが、
私のブログはリンクされていなかったと思います。
投稿: 紫色の顔の友立ちを助けたい | 2008年5月 2日 (金) 19時40分
YUNYUN 先生
コメント有り難うございました。
私のブログの文章が良くなかったのか誤解されていると思います。
今回の河上和雄弁護士のm3.comをはじめとした、ネット上の話しは、信用するとかしないとかでなく、私にとっては、あまりに当たり前の話しなので、誤りはありません。
当たり前のことなのですが、医師の皆さんが、「知らなかったが、そうなんですか」といったような反応をしているので、今回のことは河上氏の言っていることそのもの正しいので、知らなかった人は「関心」してしまうかもしれませんが、「以後もこの方の意見を盲目的に信じることなく、ひとつひとつ注意深く対峙する必要」という未来に対して、注意するべきだという趣旨です。
投稿: 紫色の顔の友達を助けたい | 2008年5月 2日 (金) 19時46分
誰の話であれ中身が問題で、内容をよく吟味した上で、信用するかしないかを判断するべきだというのは、おっしゃる通りと思います。
その意味では、事故調の法律家委員に、ヤメ検でなきゃOKかというと、それは何とも。
----
> 医師の皆さんが、「知らなかったが、そうなんですか」といったような反応をしているので
医学界の大物某理事の発言を、盲目的に信じていたためでしょう。
事故調と刑事捜査の関係については、
所管官庁の厚労省と、一番の利害関係者であるはずの日本医師会が、ほとんど詐欺同然のアヤシイ説明に終始する一方で、
法務省、警察庁の国会答弁や、ヤメ検河上弁護士らの発言に見られるように、捜査機関サイドは極めて率直に、「事故調が出来ても今までと、捜査のやり方は変わらない」と説明していることが目を引きます。
捜査機関が本当に医師たちを陥れるつもりなら、第三次試案を後押しするために、厚労省の誤導政策に乗っかって、口をつぐんでいれば済むことですよね?
少なくとも、筋を通すという点では、今回は捜査機関側の態度のほうが信頼が置けます。
捜査機関が、いつもそうだとよいのですが、、、、それはまた別の話。
それにしても、身内よりも、(仮想)敵の言葉のほうが信用できるなんて、医師のみなさんにとっては、大変悲しむべき状況ではないでしょうか。
投稿: YUNYUN | 2008年5月 2日 (金) 20時48分
以前、飯田氏の講演を聴いたことがあります。
日本学術会議 救急・麻酔・集中治療医学研連
公開シンポジウム「医療事故の問題点」
平成14年5月24日(金)13時~17時
日本医科大学14号館
(3)検察の立場から
前福岡高等検察庁検事長 弁護士 飯田英男
1.刑事医療過誤事件の実情
戦後起訴されたものは約130件しかない
2.刑事事件の起訴の際に考慮される事情
結果の重大性(死亡または重大な傷害)
過失の程度(明白かつ重大な過失があること)
注射・投薬(薬種・薬療の間違い、投与方法の誤り)
手術(人違い、手術部位の間違い、手技の誤り、医療機器の操作ミス)
輸血(血液型の判定ミス、不的確な交差適合試験)
被害者感情(被害者ないし遺族の告訴、示談の有無等)
3.刑事上の過失とは
1過失=注意義務違反
予見可能性と結果回避義務
注意を尽くしていれば結果の発生を予見することができ、かつ、結果の発生を回避することができたのに、それを怠っていた場合
2過失の判断基準
臨床医学の実践における医療水準
不注意でやるべき事をしなかった・やってはいけないことをしたかつ結果が発生した場合に過失とみなされる。不可能なことを要求しているのではなく、医師として当然しなければならないことをしているかが問題とされる。
4.手術中の事故の問題点
医療側の体制に関わる問題(人員の不足、医療設備・環境の整備不十分)
手術の手技に関わる問題(医師の知識・経験の不足、看護婦の教育・訓練の不足)
麻酔管理上の問題(医師の経験不足、麻酔下の患者の管理不十分、麻酔ショック発現時の対応の誤り)
1手術による危険な結果の発生が予見可能な場合
危険防止のために必要な処置を講じていたか(許された危険)
(手術の必要性と危険な結果発生との比較衡量ー医療の裁量性)
2危険な結果の発生が予見できない場合
医師の知識・経験の不足等による場合
標準的な医師にとって予見が困難な場合
(通常予測できない異状な事態の発生ー特異体質による薬物ショック)
3予見できるが結果を回避することが困難な場合(結果回避義務)
不十分な条件下でも手術せざるを得ない場合(緊急な治療)
当該医師の能力を超える措置が必要とされる場合(転送義務)
5.医療過誤裁判に対する医療側の不満
1 法は結果責任ではないか
(法的診断と医学的診断の相対性について、医療側の理解が不足しているのではないか -医療慣行について・最高裁(腰椎麻酔時の血圧測定間隔)
2 被害者救済を重視しすぎるのではないか
(刑事事件においては、被害者の状況は情状の一つであり、過失判断に被害者救済が考慮されることはない)
3 同じ形態の医療事故が繰り返し発生している
(ウログラフィンのくも膜下投与) 他人の事故を共通認識しているのか。
従来の事故が起こったときは隠すということを改めて、リスクマネージメントという概念を導入して、事故防止に役立てていかなければならない。
投稿: まだ産科医 | 2008年5月 4日 (日) 19時07分
YUNYUN先生コメントありがとうございます。
「事故調の法律家委員に、ヤメ検でなきゃOKかというと、それは何とも」
とのご意見ですが、私もヤメケンでなければ、誰でもOKというような主張はしていないと思うのですが?
「この『法律関係者』に『ヤメケン』が選ばれるのであれば、「医療側に立つ法律家(多くは弁護士)」を同じ人数入れることをルールとするべきである」という対案もご考慮ください。
「捜査機関が本当に医師たちを陥れるつもりなら、第三次試案を後押しするために、厚労省の誤導政策に乗っかって、口をつぐんでいれば済むことですよね?」
→確かにそういう考え方もできますが、彼らがそのような複雑な思考をするとは思えません。警察検察関係者は、「自分の縄張りを侵そうとする輩はゆるさん。」という発想しかしないと思います。省庁間の現状からいって、厚生労働省と法務省と警察庁が腹を割って話し合いがもたれて、それが、厚生労働所の縄張りが拡張するといった結果が出たとは到底考えられません。省庁の順列からいって、法務省は厚生労働省よりずっと格上です。(閣議で総理大臣の隣に座るのは法務大臣。「国」を提訴した場合の「被告」は法務大臣となるのですから、大臣でも最上位ですね。)
「身内よりも、(仮想)敵の言葉のほうが信用できるなんて、医師のみなさんにとっては、大変悲しむべき状況」この辺りが大変難しいところです。私は、医療事故調査会は学会の主導がよいと考えているのですが、その学会の幹部自体が厚生労働省の言いなりになっていると指摘する先生方もいらっしゃいます。もともと個性的な人々が多い医師が26万人もいれば、いろいろな立場からいろいろな意見、主義、主張がありますので、そんなに簡単にはまとまらないと思います。
投稿: 紫色の顔の友達を助けたい | 2008年5月 5日 (月) 01時52分
今回の外科学会では、第三次試案についての特別企画が行われ、ヤメ検の飯田弁護士もしゃべってました。私もその場で聞いており、内容は拙ブログにまとめております。
外科学会は第三次試案賛成の声明を出しました。
http://countrysurgeon.blog17.fc2.com/blog-entry-19.html
以下,別のところから入手した話です.
------------------
14日の評議員会では”厚生労働省の第3次試案に対し、外科学会としては賛成の返事をした。他の 5学会が反対しているが説得する”と高橋眞一理事が述べたそうです.
外科学会評議員である某先生から質問があり、「福島県大野病院の件は病院内の委員会の調査資料がそのまま裁判に使われた、この案でも同じになるのではない か、また欧米では医療事故が刑事事件になることがあるのか、外科学会の顧問弁護士に答えてほしい」と。
弁護士は刑事事件になることもまれにはあるとの返事。
質問に立った先生が、国会での答弁で「法務省も、警察庁も、厚生省の出した案に対しては何も約束はしておらず、委員会の調査のデータを刑事、民事の捜査に使うし、調査中は逮捕をひかえることもしないことになる」といわれている。欧米のようによきサマリア人の法といった慣習法が、刑事訴訟法の上位にあり、医療事故で医師が逮捕されることはない、この際日本でもそうした慣習法を盛り込むよう主張すべきであると言ったそうです.
弁護士が話し、壇上の高本理事が色々言い訳を言われましたが、時間切れで逃げられました。その後つづいて行われた懇親会の席で驚くべきことに、20人以上の評議員が質問した先生のところへいき、よく言ってくれた、自分も同じ考えであると言っていたそうです.
さらに奇妙なことに、外科学会会長の長崎大学教授の兼松先生も同じことを仰いました。こんなにみんなが疑問を持っている法案に外科学会の理事会が満場一致で決めたというのは何なんでしょうか。どうも首を傾げるばかりです。
投稿: 田舎の一般外科医 | 2008年5月20日 (火) 21時40分