勝訴!対集英社および毎日新聞記者ら本人訴訟-名誉毀損賠償80万円ー第1報
とりあえず、「医療事故がとまらない」新書 毎日新聞医療問題取材班著の記載内容に関して提訴した訴訟に勝訴したことの第一報を。
1.結審時裁判長の示唆どおり勝訴
ライブ。前回のブログ「医療事故がとまらない」毎日新聞医療問題取材班⇒「一粒で二度美味しいを許すな!」
http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/post-2352.html
でも、報じたように、結審の時の様子から高い確率で勝訴を予想はしていた。とはいっても、判決直前傍聴席で出番を待つ間は緊張する。視野が右下のみの4分の1半盲のようになりその部分がグルグル回っているような症状。傍聴席にはいつものように、メディア関連の人が多い。
「佐藤さん。原告席へ。」書記官の声で席に着くと冷静になれるものだ。被告代理人は席に着かない。これは単に慣習的なものであるかもしれないが、自信がないための行為とも捉えられる。
裁判官入廷。いつも、左右の陪席の様子も確認する余裕もなく、彼らがいつもの裁判官であるかどうかもわからない。裁判長の顔しか目に入らない。
民事の原告なら、判決文が「ひ」で始まれば、勝訴だ。「判決。 被告らは原告に対して、連帯して80万円及びこれに対する平成15年12月23日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。」
安堵という気持ちのが強かった。本人訴訟は、孤独なだけに、負けると精神的ダメージが大きい。ピエロが場をわきまえず踊っているのを嘲笑された気分。しかし、これで、本人訴訟も2連敗の後2連勝。自分がやってきたことの正当性を、個人の権利とともに国家が保障してくれたことを実感した瞬間だ。
2.判決のポイント⇒「第3 裁判所の判断」
民事訴訟の判決文を丁寧に読んできたのは、名誉毀損裁判ばかりではある。これらの判決文は、雛形が決まっていて「目的、方法、結果、考察、結論」と進む理科系のレポートに似ている。慣れれば読みやすく書かれている。科学的な文章構成になっている。「主文」の次の請求や事案の概要に関しては、分かりきったことを逸脱したことが書かれることはあまりない。直ぐに内容を知りたい訴訟の当事者であれば、ここを読み飛ばして真っ先にページを開くのは、「第3 裁判所の判断」。
「第3 当裁判所の判断」 一部
1.本件各記載は原告の社会的評価を低下させるか。(争点1)
(1)原告の特定について
⇒「記事が原告の実名が表記されてなくても、本件書籍の発行当時、不特定多数の読者において本件記事中の人工心肺装置の操作を誤った「E医師」が原告である特定して認識できるものと認めるのが相当である。」
(2)原告の社会的評価低下について
⇒「主題や意図はともかく、担当医師が人工心肺装置の操作を誤ったために本件患者を死亡させたという印象を抱かせるものであることは否定できない」
(3)争点1のまとめ
⇒「本件摘示部分を含む本件書籍を執筆・発行した被告らよの行為は、原告の社会的評価を低下させる名誉毀損行為に該当すると認められる」
2.被告らの行為の違法性又は有責性が阻却されるか。(争点2)
(1)事実の公共性及び公益性
⇒「記事に記載された事実は公共の利害に関する事実であって、被告らは専ら公益を図る目的で本件書籍を発行した」
(2)記事において摘示された事実は真実か
⇒「検察官が公訴事実を維持しているとしても、そのことから直ちに同事実が真実であると認められるものではないことはいうまでもない。」「外部委員会が外部報告書を作成するに際して本件事故の原因につき独自の調査検討をしたことはうががわれないし、女子医大の林院長が内部報告書と同趣旨の発言をしている・・・その発言は、内部報告書に基づいて述べたものにすぎないから、これらによって、上記のような問題点を有する内部報告書の信用が補強されるものではない。
そして、他に、原告が吸引ポンプの回転数を上げたことが本件事故の原因であると認めるに足りる証拠はなく、前記のとおり、3学会報告書や刑事裁判における認定判断が内部報告書に記載される事実を否定する内容になっていることに照らしても、上記事実を真実であると認めることはできない。」「したがって、・・・同事実が真実であるとする被告らの上記主張は採用することはできない。」
(3)摘示した事実を真実と信ずる相当の理由があるか
⇒事実を真実と信ずる相当の理由はない。
以下その理由は長文のため判決文の抜粋を使用したまとめ
(ア)内部報告書の内容の事実に疑義がある議論がされていた
(イ)毎日新聞紙上よの掲載から一年余の期間を経過した本件発行時点での基準で相当性を判断すべきことはいうまでもない
(ウ)3学会報告書が、本件書籍にある内容の事実に関して疑問を呈する報告を発表し、その内容の一部はNHKのテレビニュースで2回も報道され、専門誌にも紹介された。被告は、女子医大の内部報告書は、3学会報告書によって完全否定されたわけではないので、これを検討しても内部報告書の内容に疑問を抱く契機にはならなかったと主張が、「両者の意味内容は全く異なるものである上、内部報告書が3学会報告書と比べて信用性が劣るものであることは前記で説示したとおりであること。加えて、装置自体の欠陥を指摘する声を被告は報道しており、人工心肺装置自体の問題の存在にも十分な関心を持っていたのであるから、3学会報告書の内容を真摯に検討すれば、原告の操作ミスの存在を摘示した記載の記載内容を真実の記載として維持することが困難であることを容易に認識し得たものといわざるを得ない
(エ)「被告は本件書籍発行の段階では、そもそも3学会報告書を入手して検討する契機がなかったと主張するが、NHKでは2度もテレビ放送された。書籍発行前に、原告は無罪の主張をしていた。被告は3学会報告書の存在を認識していたが、十分検討していなかった。原告の上記無罪の主張は、本件連載記事を執筆した当時の被告の認識とは全く異なる状況をもたらしたのであるから、被告取材班において、新たに本件書籍を発行するに当たっては、原告の上記主張の根拠についての十分な取材と検討をし、その主張内容を加筆し、本件摘示部分の記載との整合性を調整するなど、本件連載記事の見直しをする必要があったことは明らかというべきであり、本件書籍の発行に至るまでの間にその契機がなかったということはできない。」
(オ)「本件書籍の発行時には原告の刑事裁判の審理が継続中であり、本件事故に関する出来事は、過去の問題ではなかったことなどからすれば、これを新たな書籍として発行する以上、被告取材班においては、記事の事実の客観性を担保するため、十分な追跡調査と記載内容の見直しをすることが求められることは当然というべきである。」「本件書籍の発行時期からすれば校正段階を含めて何ら対応をすることもできなかったとは到底考えられない上、そもそも発行スケジュールは被告らにおいて決したものにすぎず、原告とは何らの関係もないおのである。そして、自ら決したスケジュールのために検討不十分な内容の書籍を発行したというのであれば、それ自体問題というべきであり、その責任が被告らに存することはいうまでもない。」
(カ)「被告らが、原告が本来してはならない吸引ポンプの回転数を上げ続けるという操作をしたことによって本件事故が発生したことを真実であると信ずるについての相当の理由があったと認めることはできない。この点に関する被告らの主張は採用することができない。」
(4)争点2のまとめ
「本件記事において、摘示した事実が真実であると認めるに足りる証拠はなく、また、被告らにおいてそう信ずるについて相当の理由があったものと認めることもできない。
したがって、被告らの行為の違法性又は故意・過失が阻却されるという被告らの主張は採用することができない。
3.損害額について(争点3)
省略
3.控訴について
被告が控訴するしないは、自由である。しかし、本件判決は、新聞記事に記載した内容を安易にそのまま書籍にして新たなる利益を得ようとした態度に対する警句である。逮捕、起訴の段階で不十分であったかもしれない情報に、学会という専門家の意見、担当省庁(厚生労働省)の勧告、被告人の無罪の主張を無視して、自らが勝手に決定したスケジュールで出版した姿勢を反省して欲しい。といってもこの毎日新聞医療問題取材班は消滅してしまった。
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コメント
調べずに書くのが毎捏クオリティ
投稿: いのげ | 2008年12月 8日 (月) 18時18分
確定したわけではないでしょうが、とりあえずおめでとうございます。
Amazonなんかではまだこの本売られているようですが、回収とかは命令できないんでしょうか。
判決が確定しないと無理?
投稿: とれま | 2008年12月 8日 (月) 21時30分
いのげ先生、とれま 先生コメントありがとうございました。
請求に「回収命令」はありませんので、このまま回収されないと思います。
本件書籍を購入するのであれば、Amazonでも、古本を頼めば、被告らに利益はないので、そのようにお願いいたします。
投稿: 紫色の顔の友達を助けたい | 2008年12月 8日 (月) 22時22分
おめでとうございます。単行本にする時にそのまま事実関係を改めもせずに出版するのは問題外ですよね。回収されないのは残念ですが、マスコミの不正確な報道や出版に勝ったことをうれしく思います。
投稿: skyteam | 2008年12月 9日 (火) 00時49分
先ず、おめでとうございます。
マスコミの軽率な報道・出版姿勢に対する警鈴と「東京女子医大の内部報告書が3学会報告書と比べて信用性が劣るものである」と認定した妥当な判決だと思います。
もうひとつ踏み込んで、「回収命令」が出なかったのが残念です。
“視野が右下のみの4分の1半盲のようになりその部分がグルグル回っているような症状”
・・・裁判で、大分無理をされているようですので、お大事に(MRI&MRA撮りましたか?・・・念のために)。
投稿: aucun cou | 2008年12月 9日 (火) 11時02分
おめでとうございます。
紫色先生の一人の戦いは、私ども一臨床医が現場で日々戦って仕事をする上で大変な力を頂いております。
お体大切に。
投稿: 雪の夜道 | 2008年12月 9日 (火) 14時55分
おめでとうございます。
今度はこの本を訴えてください。この著者は確信犯です。
明香ちゃんの心臓―検証 東京女子医大病院事件 鈴木 敦秋 (単行本 - 2007/4)
投稿: ラップ | 2008年12月 9日 (火) 19時28分
訴訟:集英社と毎日新聞記者に80万円の賠償命令 医療問題単行本で--東京地裁
http://mainichi.jp/select/jiken/news/20081209ddm012040031000c.html
01年に東京女子医大病院で心臓手術を受けた女児が死亡した事故で業務上過失致死罪に問われ、1審で無罪(検察側控訴)になった元同病院助手(45)が、毎日新聞医療問題 取材班の著書で名誉を傷付けられたとして、発行元の集英社と取材班の記者に1000万円の賠償を求めた訴訟で、東京地裁(石井忠雄裁判長)は8日、80万円の支払いを命じ た。問題となったのは、毎日新聞の連載記事をまとめた「医療事故がとまらない」(集英社新書)。
取材班は入手した内部報告書の内容などから、人工心肺装置を操作した元助手がポンプの回転数を上げ過ぎたことを事故原因に挙げたが、判決は「真実とは認められない」と判断 。「新聞連載(02年1~8月)の時点では真実と信じるのに相当な理由があったが、03年12月の書籍発行までには報告書の内容に疑問を呈する学会報告が出されており、記 事を見直す必要性があった」と指摘した。
◇集英社広報室の話
主張が認められなかった判決であり、ただちに控訴した。
毎日新聞 2008年12月9日 東京朝刊
_____________________________________
さすが毎日新聞です。
他では確認できなかった情報を入れてくれてます。
集英社の雑誌は買わないことにします。
本?本はもともと買ってません。
投稿: so-shiro | 2008年12月 9日 (火) 19時45分
とりあえずは、おめでとうございます。
速攻で、控訴されるようなので、まだまだ大変だとは思いますので、がんばってください。
投稿: Dr. I | 2008年12月10日 (水) 23時14分
初めまして。毎日新聞の不祥事を調べていた者です。
英語版サイトwaiwaiで「日本の看護婦はバイブを持ち歩いている」などと報じた連中には、
まっとうな医療関連報道を期待できるわけがありません。
デタラメ報道の内容をそのまま載せた本も信用できません。
amazonで『医療事故がとまらない』を調べてみると、在庫があります。
そして、カスタマーレビューには一つ星が並び、この本への批判的な言葉が並んでいます。
そのレビューに「参考になった」と回答している人の割合も高く、関心の高さが伺えます。
勝訴おめでとうございます。裁判はまだ続くかもしれませんが、きっとどうにかなります。
この訴訟の規模が大きくなれば、世間(特に非ネットユーザー)に、毎日新聞の異常性/変態性が広まる一因になるでしょう。
他の医療訴訟に悩む医療関係者にも良い影響が出る事を、私は心から願います。
http://www.amazon.co.jp/%E5%8C%BB%E7%99%82%E4%BA%8B%E6%95%85%E3%81%8C%E3%81%A8%E3%81%BE%E3%82%89%E3%81%AA%E3%81%84-%E9%9B%86%E8%8B%B1%E7%A4%BE%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E6%AF%8E%E6%97%A5%E6%96%B0%E8%81%9E%E5%8C%BB%E7%99%82%E5%95%8F%E9%A1%8C%E5%8F%96%E6%9D%90%E7%8F%AD/dp/4087202232
投稿: 某173 | 2008年12月11日 (木) 17時31分
某173さん コメントありがとうございました。
毎日新聞の記者は、本件民事訴訟の証人尋問で、
患者史観から記事を書いている旨、証言しました。
ある、新聞記者の方の話では、
「とにかく、何かと何かが対立しているとう状況が一番面白い記事が書ける。
特に、感情的になっている場合は。」
いわゆる被害者感情を全面に押し出して抑制が効かない方々の話は売れる記事が書けるということでしょう。
しかし、そのような患者史観絶対主義では、客観的判断がされるはずもなく、
科学的に正しいことを報じようとうう姿勢は消失してしまいます。
今後そのような態度の報道、さらにその報道をまとめて書籍にしてさらなる利益を得ようという安直儲け主義は許されなくなるでしょうl。
投稿: 紫色の顔の友達を助けたい | 2008年12月14日 (日) 20時55分