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2008年12月 2日 (火)

連載第二回 JAMIC JOURNAL 「リヴァイアサンとの闘争―正当な治療行為で冤罪にならないために」

「リヴァイアサンとの闘争

―正当な治療行為で冤罪にならないために」

AMIC JOURNALに2008年11月号(32ページ)

第二回  医療事故冤罪-業務上過失致死罪における過失の有無

医療事故冤罪 

「非加熱製剤エイズ帝京事件」「女子医大心臓手術事件」「福島大野病院事件」では、医師が業務上過失致死で逮捕・勾留・起訴されましたが、いずれも裁判では無罪となりました。その他「杏林大学割り箸事件」等でも医師は無罪です。このような冤罪を立件しようとした捜査機関は、患者さんが亡くなったという重大な結果を楯に、勧善懲悪よろしく、情緒的、感情的観点から「犯人捜し」や「犯人づくり」をします。そこには、科学的観点から叡智を集めて調査を行うといった姿勢はありません。2006年4月に愛媛県の現職警部のPCから流出した「被疑者取調べ要領」という警察学校の講義のための文書には「粘りと執念をもって『絶対に落とすという気迫』が必要」「取調べ室に入ったら自供させるまででるな」「否認被疑者は朝から晩まで調べ室に出して調べよ」といった指示があり、元検察幹部が書いた検察官向けの医事犯罪捜査実務専門書には「社会的な影響の大きい事件等、状況によっては、たとえ裏付け資料が不十分でも立件して捜査を遂げるべき事件もある」と堂々書かれています。「警察・検察は常に社会正義のために粛々と責務を遂行している」との幻想を持っているようでは、世間知らずです。

業務上過失致死とは 

医師の業務上過失致死は、「医師が社会生活上の地位に基づいて反復・継続して行う診療行為で、生命に危険を生じ得る診療業務上、必要な注意を怠り、その結果、患者を死亡させること」といえます。この「業務上必要な注意」が最も大きな問題になります。交通事故であれば、「過失」「注意義務」の基準は、「一般的な運転手」です。これは、初心者も熟達したプロドライバーも、注意深い人も散漫な人が被疑者でも同じです。では、医師の「過失」の基準は、どうでしょうか。判例からみれば、医師の専門分野によって類型化されます。具体的には、事故当時の医療水準での「通常の血友病専門医」とか「大学病院で心臓手術の人工心肺を操作する業務を行っている心臓外科医」とか「県立病院で帝王切開手術を執刀する産婦人科医」といった基準が対象になります。ここで、重要なのは、「医療水準」は、ある時点での医学界における標準的な認識ないし措置などを指すもので、その時点で確立されたものであるということです。平たくいえば、「同じ時代の同じレベルの医師と同じことをした」正当な治療行為は過失ではありません。法秩序の命ずる基準から逸脱した行為でなければ犯罪にはならないのです。

医療者としての反省と犯罪の狭間 

患者さんが亡くなれば、「何とかして助けたかった」「残念だ」「悔しい」「可哀相だ」といった感情を持つのは自然なことです。しかし、感情は「過失」と関連がありません。結果に対してどう思うかは、「過失」自体とは関係しません。医療者としては「当時は分からなかったことが、事前にわかっていれば、助かる方法が他にあったのではないか?」と振り返ることも当たり前のことです。ところが、捜査官は、事故当時の「医療水準」など知りません。死亡という結果が分かった後、遡及的に注意義務違反をつくり出そうという観点から捜査を開始し犯罪者をつくりだとうとします。その際には、この「医療者としての反省」を利用しようとするのです。

「事実」と「評価」を混同せずに「事実だけを話す」

 次回からは、任意事情聴取や供述調書が、どんなものでありその注意点は何かを具体的に言及していきます。いずれにしても、「何が起きたか」「事実は何か」については自分が明確に分かる範囲で供述すべきでが、それに対する「評価」を供述する必要はありません。むしろ「評価」はするべきではありません。「今にして思えばどうすればよかった」「一般的には、こうすればよかった」といった評価を先に話すと、そこから強引に、捜査機関による「過失のための作られた事実」が誘導されていくのです。

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