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2009年1月

2009年1月28日 (水)

第5回 供述調書作成-「自分の調書」を書かせる

JAMIC JOURNAL 2009年2月号

"リヴァイアサンとの闘争―正当な治療行為で冤罪にならないために"

第5回連載されました。

005  供述調書作成-「自分の調書」を書かせる

刑事事件の天王山は「供述調書作成段階」 

 「供述調書」と呼ばれるものは、犯罪行為を疑われているあなた自らが書いた「供述書」とはまったく違うものです。「頑強に否認する被疑者に対し、『もしかすると白ではないか』との疑念をもって取り調べてはならない」(増井清彦著『犯罪捜査101問』)と職業教育された捜査官が作成するものです。刑事訴訟法上「被告人の供述を録取した書面(=供述調書)で被告人の署名もしくは押印のあるものは、……証拠とすることができる」ので、「『供述調書作成段階』はすでに『裁判開始段階』」という意識が必要です。伝聞証拠(公判廷での直接供述以外の書面・証言)を排除する原則に反し、「証拠書類依存」「供述調書重視」が刑事裁判の現実だからです。

「供述録取」とは「捜査官の作文書き」 

 「録取」と漢字で書かれると「被疑者の供述を録音したものに準ずるような記録」を想像しますが、そんな甘いものではありません。人を犯罪者につくり上げることを業としている「捜査官製の理路整然風の作文」は、プロの仕事であり、いかにも被疑者が実際に語ったかのように書かれてしまう。実際に任意事情聴取したときとは微妙に文言を変え、捜査官に都合がよいように思い描いたストーリーに方向転換し、結果的に内容がまったく違う文章につくりあげるのです。

「『告白語り』形式」から唐突な「『問答』形式」への変換に注意 

 「被疑者が過去の出来事を告白し語っている」ふうの文章が漫然としてくると、突然、話のキャッチボールが実際になされたかのような「問答形式」の記載が開始されることがあり、厄介です。

「……胎盤剥離を続けると出血が激しくなったのです。(このとき当職は、供述者に手術で使用されたクーパーを示した)

(問)『噴水のように湧き出る出血がさらに激しくなったとき、使用していたこのクーパー(はさみ)での剥離を中止して、子宮を摘出すれば、出血は完全になくなると考えませんでしたか』

(答)『その時は、止血に懸命で一切頭に浮かびませんでした』

(問)『今、振り返ってみるとどうですか』

(答)『剥離を中止して、子宮摘出すれば出血が止まったと思います』(問答終了)」

実際には、このような会話は一切なかったのに、「録取」したことにして調書に記述するのが、捜査官のやり方なのです。

「訂正」が最大の山 

 「調書」が書き上がると捜査官はこれを読み聞かせようとしますが、絶対に拒否してください。当然の権利としてその書面を自ら手にとって閲覧し、じっくりと最初から最後まで一字一句噛み締めながら最低3回以上読んでください。何十回でもかまいません。10ページ程度の調書中、まったくのデタラメから、ちょっとニュアンスが違う程度、「てにをは」まで含めると、訂正したい部分が30以上もありました。端から端まですべて訂正を求めてください。捜査官が「面倒だ」「30ヵ所もか!」と文句をいっても、何時間かかっても、プリンタのインクがなくなっても、全部やり通す。正気堂々、艱難辛苦、臥薪嘗胆、とにかくここでド根性でがんばるのです。捜査官は些細なところばかり訂正して、肝心なところには聞く耳を持ちません。そして、強制は違法捜査です。「訂正してくれないなら、今日はもうやめます。署名しません。帰ります」というと、「じゃ勝手にしろ。貴様の権利ばかり主張するなら、こっちも考えがある。帰れ」と激怒したので帰りました。中途半端な訂正はむしろ最悪です。

「リヴァイアサン」に対峙する“唯一の武器”は署名押印しないこと 

 調書は一事件被疑者一人につき10通作成されることもあります。しかし、冤罪を回避するためには署名押印調書は0通でもよいのです。「真偽と虚偽は、言葉の属性であって、ものごとの属性ではない。そして言葉がないところには、真実も虚偽もない」(ホッブス『リヴァイアサン』)

連載最終回 予告

006  弁護士をすぐに雇い、供述調書に署名するな

現実直視と弁護士依頼

基本①:「調書に署名するな」

基本②:「評価はするな、話すな」

基本③:苦しかったら弁護士を悪者に

おわりに

過去の連載記事

第一回  冤罪事件経験者からの伝言

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/jamic-journal-2.html

第二回  医療事故冤罪-業務上過失致死罪における過失の有無

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/jamic-journal-0.html

第三回 事情聴取-「取調べ」は通常の会話ではない」

第四回 「リヴァイアサンとの闘争―正当な治療行為で冤罪にならないために」

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/post-c6ad.html

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2009年1月12日 (月)

フジテレビ地裁判決:判例タイムズに掲載される

フジテレビの地裁判決が法律雑誌の「判例タイムズ」1282号(09年1月15日号)に掲載(233-248頁)されました。全14頁、解説がほぼ4頁にわたって付けられ、詳細に紹介されています。
 高裁で控訴棄却になったことも触れられていて、「同控訴審判決については、近々、改めて紹介する予定である」とされています。フジの代理人は嫌でしょうね。
 判例タイムズ掲載記事でも、原告代理人の名前がなければ本人訴訟ということが分かります。ちなみに原告の名前は仮名で「甲野太郎」[i]

これに対して弁護士さん達のお名前は実名でずらずらと並んで記載されことが、

再度約束されているのでは、読む気にならないかもしれません。

解説では236頁の、

「4・・・・最高裁判例を特に引用しているわけではないが、その認定判断は最高裁判例の判旨を踏まえ、かつ、X,Y双方の主張に対して仔細な検討を加えたものであって、今後の裁判実務に参考になるところは少なくないように思われる。」と書かれているところが、私としては気にいっています。

 「999」をはじめとして、この記事に紹介のある10以上の最高裁判例は全て平成9年以降のもので、一般の弁護士さんにとっても、現在の名誉毀損裁判を闘うために必読のものです。よいリストだと思います


[i] 「甲野太郎」判例タイムズ、判例時報などの判例紹介雑誌等で、原告や被告を仮名処理するときに使用される仮名で、その判決文に出てくる最初の個人名。

「エセ・ブラックジャック」の正体 自ら「本件における中立な証言を述べられる価値なし」

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/02/post_fab4.html より

弁護人

 「被告」として「甲野太郎」という仮名になっていますけれども,これは証人のことですか。

南淵明宏証人

 これがどのような形でこういった文書になっているのか,側面に「判例時報」というふうに書いてあるわけですけれども,実際にこれが甲野太郎というふうになっている。

裁判長(張り切って説明している)

 それは仮名処理されているんですよ。

南淵明宏証人

ええ。いや,ですからこれはこの判例時報をお書きになられた方に聞けばすぐ分かることではないでしょうか。

弁護側証拠採用決定―南淵明宏医師の名誉毀損敗訴判決、言い訳レター-今後も南淵証人弾劾証拠に永続的に活用可能 http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/post_f738.html

弁9 の判例時報掲載記事では「被告」が「甲野太郎」になっている。「原告」の私も、「被告」の南淵明宏医師も同じ「甲野太郎」扱い。

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