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2009年3月

2009年3月29日 (日)

控訴審無罪報道の読み方

今3月28日の各紙朝刊を読んで驚愕しました。一審判決後控訴審終結までは、南淵証人が4回も出廷するなどあまりに長く、その間に父は亡くなりました。父は新聞記者だったので、私は学生当時から各紙新聞の読み比べや全国紙、地方紙に投稿もし、それなりの研究もしてきました。新聞に対する思いは人一倍強いと思っています今回報道で一番公正な視線は、産経新聞(地方紙はまだ読んでいません)。将来の展望としてもよい。後の新聞は、各社の医療報道に対する意識が強く、それを主張するためのツールとして、本件事件を利用しているかのような恣意的なものを感じました。

私が、記者会見で、「内部報告書」は非専門家が書いたもので、書いた人自らが「科学的でない」「根拠なく結論を書いた」といっていることや、ご家族に渡された時点でこの「内部報告書」は、委員の3人と理事長、理事、院長、医事課長、心研所長の7人程度の人間にしか知らなかったような秘密裏に作成されたものだ、3学会報告書で科学的に排斥されたものだ、ということを強調するべきだったのかもしれません。

もっと明確なメッセージを残せばよかったと悔いています。

新聞報道では、高裁判決文、3学会報告書、一審判決、検察の主張、女子医大内部調査報告書のそれぞれの記載内容を理解できていないまたは、内容を誤って報道がされています。学術レベルが高い3学会報告書や莫大な証拠をもとに作成された控訴審判決をなぜそのような女子医大内部報告書と並べて比較できるのでしょうか。

もっと真剣に本件事件自体ををよく調べて報道してもらいたいものです。

これでは、心臓外科医でも誤って本件判決を理解をしてしまうでしょう。

判決要旨が公開されています(判決全文はまだ私の手にもありません)。

判決では、3学会報告書の内容は全く否定されていないことを明記させていただきます。判決要旨にも5頁に3学会報告書の結果が尊重されています。

3学会報告書はあくまで、「陰圧吸引補助体外循環検討会」であって、体外循環装置事故そのものの研究を真摯に行っています。しかし、カルテは既に押収されていたのですから死因を検討するには無理があります。「女子医大心臓外科手術死因検討委員会」ではないことをメディア、特にY新聞は理解していません。

大野病院事件初公判の時にも、感じましたが、やはり、新聞社の医療裁判報道はバイアスが強いと思います。その意味で私が書いた「傍聴記」http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/post_ace1.htmlは意味があったと思います。

私は、以前の第37回 日本心臓血管外科学会学術総会心臓血管外科専門医認定機構医療安全講習会でも「悪しき医療報道」http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/02/post_12a3.htmlについてフロアから述べました。安全講習会の講師が「最初に、『女子医大の事件の件はマスコミ報道で、皆さんご存知だと思いますが・・・。』と述べられましたが、これが一番、危険な考え方です。」

その点、医療報道のみを専門として、記者会見にも出席された橋本佳子さんがSo-net M3 20090327日で淡々と書かれているものがありますので、でコピーペーストさせていただきます。

但し、橋本さんが書かれてことに少し補足が必要です。

重要なことは、争点が二つあることです。

逆流の発生機序とその原因、佐藤に予見可能性があったか否か。

逆流が発生したときにすでに脳障害があったか否かです。

一審の判決は、①を詳細に検討して、②を「明確に認定することを避け」た形で、無罪となりました①の発生機序は、検察の主張した「吸引ポンプの回転数の上昇」は全く関係なく、3学会報告書の通り「フィルターの閉塞」です。

しかし、それではご家族の納得がいきません。

二審では、①は一審と全く同じで書く順番が後に回りました。そこで、②の詳細を先に判示しました。②が認定されたため、死因はSVC症候群となりましたが、仮に②が否定されても①があるから無罪という判決文です。

以下が橋本さんの記事の引用です。http://mrkun.m3.com/mrq/top.htm?tc=concierge-header

327日、東京高裁において、東京女子医大事件の刑事裁判の控訴審判決があり、業務上過失致死罪に問われていた佐藤一樹医師は、一審同様に無罪となりました。

 判決後に開かれた記者会見の冒頭、佐藤医師は次のように語りました。

 「一審の無罪判決後、ブログで主張してきたことがほぼ100%認められた判決。医療事故においては、原因究明と再発防止が非常に重要になってきますが、そこまで踏み込んで判決を書いていただいて、いい判決文だと思っています。裁判長が最後に『医療事故にかかわった一人として、またチーム医療の一員として、この事故を忘れずに今後を考えていただきたい』とおっしゃいました。この再発防止についてはブログでも書いており、また今年10月の日本胸部外科学会の医療安全講習会の講師を私は務めます。院内調査報告書がテーマで、心臓外科医として死因はどうであったか、今後の再発防止にはどうすればいいかを学術的にも発表していきます」

 この事故は、20013月、東京女子医大の当時の日本心臓血圧研究所(心研)で12歳だった患者が心房中隔欠損症と肺動脈狭窄症の治療目的で手術を受けたものの、脱血不良で脳障害を来し、術後3日目に死亡したというもの。事故が明るみになったのは同年の年末で、心臓疾患の治療では全国でもトップクラスの女子医大でのケースだったために、全国紙をはじめ、様々なメディアで報道されました。

 人工心肺装置の操作ミスが脱血不良の原因であるとされ、操作を担当していた佐藤医師が業務上過失致死罪で、また医療事故を隠すためにカルテ等を改ざんしたとして別の執刀医が証拠隠滅罪で、20026月に逮捕、翌7月に起訴されました。執刀医に対しては、2004322日に懲役1年執行猶予3年の有罪判決が言い渡されています(控訴はされず確定)。

 一方、佐藤医師については、20051130日に無罪判決が出されています。その控訴審判決でも無罪となったわけです。

 佐藤医師の起訴事実の「操作ミス」とは、人工心肺装置を高回転で回したことが脱血不良を招いたというもの。しかし、一審判決では、水滴等の付着による回路内のガスフィルターの閉塞が脱血不良の原因であるとし、それは予見できなかったとして、無罪としています。

 今日の控訴審判決では、「無罪判決を言い渡した原判決は結論において正当である」としたものの、その理由は一審とは異なっています。

 判決の焦点は、(1)死因は何か、(2)水滴等の付着によるガスフィルターの閉塞が脱血不良につながる機序について、予見できたか、の2点。

 (1)で、患者の死因は上大静脈の脱血不良は、フィルターの閉塞ではなく、「脱血カニューレの位置不良」であり、それが原因で循環不全が起こり、頭部がうっ血し、致命的な脳障害が起きたとされました。この「脱血カニューレの位置不良」は、人工心肺装置を操作していた佐藤医師の行為に起因するものではないため、過失はないとされたのです。

 刑事事件において、過失は、ごく簡単に言えば、死亡原因と医師等の行為との間に因果関係があるか、因果関係がある場合に「予見できたか」(予見できたのにそれを回避しなかったときに過失が認定)という形で判断されます。

 つまり、「そもそも佐藤医師の行為と、患者の死亡との間には因果関係なし」とされたわけです。控訴審判決を受け、主任弁護人の喜田村洋一氏は、「裁判所に『因果関係がない』と判断されるような、誤った起訴を検察がしてしまったことが、本件の最大の問題。無罪になったものの、2002年の逮捕・起訴から、約6年半も経過しています。長い間、被告人という立場に置かれていた。無罪になったものの、依然としてマイナスの状態」などと検察の起訴を問題視、慎重な態度を求めました。

 この女子医大の事件は、昨年8月に担当医に無罪判決が出た「福島県立大野病院事件」と類似しています。一つは、「医師逮捕」という形で事件が公になった点。もう一つは「院内の調査委員会報告書」が医療事故が刑事事件化するきっかけとなったという図式です。これらの点と、判決の詳細はまたお届けします。

 最後に、「遺族への思い」を記者から聞かれた佐藤氏のコメントをご紹介します。

 「なぜ亡くなったのかを知りたいという思いを、裁判所が示してくれたことは、ご家族への礼儀になったのではないかと思います。女子医大が作成した(事故調査原因に関する)内部報告書は、患者さんの死因を科学的に考えなかった、あるいは根拠なく書いてしまった*。その態度を女子医大に反省していただきたい。僕も同じ病気(心房中隔欠損症)だったのであり、子供を亡くす親の気持ちは計り知れないものがあります。せめて今回、死因が分かったということに関してはご家族にもほんの一部ですけれども納得ができたのではないかと思っています」

*否定された内部調査報告書ー「ルポ 医療事故」朝日新書http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/post-fe25.html

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2009年3月28日 (土)

無罪判決:100%完勝

完勝です。被告人の主張を100%認めました。亡くなった患者さんには心からご冥福をお祈りするとともに、本判決をもって亡くなった理由が明らかになったことをご報告いたします。虚偽の内部調査報告書を作成した女子医大幹部は、患者さんに改めて謝罪すべきです。

 裁判長は近い将来最高裁裁判官になると予想されているエリートです。おかしな判決文を書くはずがありません。

 本件事件の「死因究明」から言える「再発防止案」は、2009年3月10日のブログ「刑事事件 控訴審判決」で全て述べたように

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/post-f9b7.html

「3.本件手術の反省から

この9歳の女児が手術事故で亡くなったこと反省として、心臓外科医が発信しなくてはならないことに、以下の3つがあります。

1.MICS(第二肋骨までの部分縦切開)で、SVCの直接カニュレーションは、行わない。⇒奇静脈等への誤挿入や、術中位置異常が発生し、SVC症候群を惹起する可能性があります。(どうしても行わなくてはならない理由がある場合は、上大静脈の中心静脈圧モニターをしなくてはならない。(2009年3月30日追加)

2.人工心肺の完全体外循環(トータルバイパス)中に脱血不良が発生して、脱血管の位置修正などを行っても改善しない場合は、上下大静脈の両方のテープを緩めて確実にパーシャルバイパスにして、吸引回し(サクション回し)を行う。

⇒下大静脈のみをパーシャルバイパスにして上大静脈をトータルバイパスにした場合、特に脱血管をクランプしてしまうと、上半身に送血したものがうっ血してしまいます。

3.陰圧吸引回路は滅菌された新しい回路を設置し、フィルターを設置しない。貯血槽には、圧力モニターと陽圧防止弁を設置する。

⇒すでに、日本心臓血管外科学会、日本胸部外科学会、日本人工臓器学会が厚生労働省と通じて勧告しています。

陰圧吸引補助脱血体外循環に関する勧告

http://square.umin.ac.jp/jats/ja/public/topic/rep030311.html

2度と本件のような事故が発生しないために、上記、再発防止策を重視するべきです。」

ということです。

このことを含めて、この秋 横浜パシフィコで開催される

62回日本胸部外科学会学術総会(会長:慶應義塾大学心臓血管外科四津良平教授)

「医療安全講習会」で講師を会長直々に指名していただきました。謹んでお受けいたしました。

(第1日の10月11日(日)の午前中11時~正午までの予定)

http://www2.convention.co.jp/62jats/japanese/program.html

最後に、応援してくださった全ての方に感謝申し上げます。

この日本で今後今回のような狂った内部報告書が作成され、医師が常務上過失致死で起訴されることがないよう、医師の側でも、自立しまた自律性をもってよりよい社会を形成したいものです。

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2009年3月27日 (金)

「目に見える権力」への怒りと「目に見えない権力」の恐怖の8年間と正義感のある方々への感謝

控訴審判決を迎えるに当たり

「この8年間はどのような8年間でしたか。」と取材を受けました。

「目に見える権力」への怒りと「目に見えない権力」の恐怖が、常に心の中から離れることがなかった8年間。

「目に見える権力」とは以下二人の人間をはじめとした女子医大幹部です。

 一人目。東間 紘女子医大元病院長 現牛久総合病院院長(泌尿器科医)。「科学的でない、根拠のない結論を書いた内部調査報告書の責任者です。

今回、「否定された内部報告書ー『ルポ 医療事故』朝日新書

 http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2009/03/post-fe25.html 

において、実地検分と内部報告書の作成がいかにでたらめなものであったかが、私の口以外からはじめて活字となって、暴露されました。

 二人目。黒澤博身 女子医大現心臓血管外科教授(3月31日退官、あと4日)。

特定機能病院の認可を取り消されないために、「はじめから内部報告書は誤っている」と分かっていたのにこれがマスメディアにバレないように、パワーハラスメントを使ってまで私を陥れました。「白い巨塔」の財前五郎など相手にならないほどの、悪業を平然と行う人間が存在することに私自身が驚愕するとともに、憎悪しました。詳細は、「公開質問状」http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/cat6216890/index.html 「日経メディカル 2008年7月号」http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/files/200807.pdfにあります。

 この二人の悪をさらに絶対に許せないことは、NHKのテレビ番組を利用して門間和夫前循環器小児科教授を陥れ、自分達が英雄気取りになっていたことです。門間先生は、現在でも鎌倉のご実家から心研の実験室に通われている物静かな学者肌で、これら二人の権力志向の医師とは無縁の生涯学徒です。外国の学会で業者にゴルフ接待強要したり診療をサボって、小金井カントリー倶楽部でゴルフして連絡がつかない」ような診療姿勢とは正反対で、私達が徹夜でICU管理した重症の赤ちゃんや子供達全員を毎朝の6時前に一人で回診にやってきて、我々の労をねぎらいながら子供を診る名医が門間先生でした。

 NHKのテレビ放送では、その門間先生を医師からみると言いがかりとしか思えない「術後重症になったのに渡航移植を勧めなかった」ということが、さも、旧体制が恥部で、それを摘発して謝罪させた新体制の旗頭が我々だといわんばかりの内容でした。全国の循環器小児科医、循環器小児外科医が、憤慨しています。

見えない権力とは「警察」「検察」といった国家権力です。

 「内部報告書はうそが多い」ということは、私を逮捕した時点で、メディアに語っていいた警察。同僚に真夜中に私が打ったメール「私と弁護士さんと一緒に会えないか。」の数時間後の手術室に入る前の朝8時にその同僚に「佐藤の弁護士には会わないように」と電話してきた警察。「これだけ社会問題になると、誰かが悪者にならなきゃいけないんだー。」と泣き叫んだ警察。これらの意志決定が誰によっておこなわれたのかわからないのが権力組織。

 さらに、警察なりには勉強して、「内部報告書はうそ」という結論に達したのに対し、自分達では、資料を集めて勉強しなかった「検察」。起訴した時点では、「内部報告書」のうそを見抜けず起訴してしまった「検察」。その誤りに気づいて「訴因変更」までしたのに、まだ根本的には全然わかってないため女子医大手術室の「検証実験」で思い通りの結果をだせなかった「検察」。「DC」を「DC ビート」と書いてしまい、女子医大の「圧の不等式」をひっそり捨てて「量の不等式」に書き換えたけれどまだ間違っている「検察」。証人に学会の理事レベルを呼ぼうとしたが内容が誤っていたため断られた「検察」まともな心臓外科医全てに拒否され、陰圧吸引法を一回も使用したことがなく、胸骨部分(第二肋間)縦切開で手術をしたことがない学会員でもない、関東50人の心臓外科で死亡率がベスト3に入るような人間を選んだ「検察」ビデオ撮影のために手術した糸を故意に切って吻合をやりなおした患者が死亡したことを法廷で尋問されるのを避けようと必死になっていた「検察」

 これらの検察官は、毎年変わっていき、責任者が誰かまったくわからない。立証のためならニュートン力学なんのその、大学病院の薬事法違反さておき、患者さんの真の死因など興味はないという姿勢は、誰ではなく「検察」権力そのものの体制。

感謝

妻。

 わけのわからない理由で犯人として責任を押し付けた大学、夫を目の前で逮捕して連行し家宅捜索という名のもとに家庭内に入り込んで、所持品をめちゃくちゃにかき回して物をもっていった上、面会できない日曜日に面会させると嘘をついて千葉の奥から東京に呼びだし事情聴取しようとした警察やしつこく追い回すメディアや隠し撮りしたテレビ局に対してもしっかり立ち回ってくれました。逮捕直後3週間は証拠隠滅の可能性という具体性の欠けた理由で面会謝絶されましたが、毎日手紙をファクシミリで弁護士さんに送ってくれたので、毎日接見にきてくれた弁護士さんが、透明のアクリル板越しに読むことができました。その後は、40度の発熱があろうが、暴力団関係者といっしょの待合室が息苦しい留置所や拘置所に毎日面会にきてくれました。手紙を毎日くれました。

なんとか借金や両親の遺産をくずして用意した現金1500万円の保釈金を検察の準抗告でひっくりかえされ泣く泣くタクシーで持ち帰って、さらに2000万円になったので、借金に奔走してくれました。裁判所で、患者さんの家族から理不尽な行為をされても耐えてくれました。公判は息子の出産の時以外は全て傍聴に来てくれました。・・まだまだ書ききれないことがいっぱいです。

喜田村洋一先生 (主任弁護人)

 感謝。尊敬。凄すぎる。沢山の医師とその後沢山の法曹界の人間を知るようになりましたがその中でも頭のよさと人間としての素晴らしさは圧倒的で、主任弁護人でありながら、感謝、尊敬を超えて大ファンになってしまいました。お仕事が終わった午前5時に電話をいただき、弱気になった私を激励してくださいました。

後に、場所をあらため、再度感謝申しあげます。

二関辰郎先生 (弁護人)

 高校で席を隣にしたクラスメートにして、酔っ払って星を眺めて将来を語りあった友人。

事件報道直後に電話したときから何もかも助けてもらいました。今晩中に語りつくせません。西高だからこそ、妻をも直接ケアしてもらうこともできました。

 瀬尾先生のその後の惨劇と私を比較して、二関先生が同級生だったことが、いかに幸せだったかということを実感します。また、あらためて。

国立循環器病センター研究部 人工臓器室(体外循環) 室長 西中知博先生

榊原記念秒医原記念病院小児心臓外科医長 安藤 誠先生。

心研同期の友人として、逮捕直後に妻を探し出して励ましてくれました。そして、二人とも女子医大からの干渉の危険性にもかかわらず、専門証人として法廷に立ってくれました。その正義感の強さと人間性は、医療者としての優秀さ以上に尊敬できるものです。

無職になった私のために同僚の他の医師とともに、心研外科同門会やOBに「カンパ」を呼びかけてくれましたが、黒澤教授に阻止されてしまいました。それにもかかわらず、遠いところ複数回にわたり留置所、拘置所に面会にきてくれて、差し入れしてくれました。ドイツの出張の帰りに成田から小菅拘置所に直行してくれた西中先生、夏休みを削って、沢山本を買い込んで差し入れしてくれた安藤先生を面会で遮断された板を壊して手を握りたいと思ったものです。

西中先生は、オックスフォード大学留学中にもかかわらず、黒澤教授の存在も無視して法廷で証言するためだけにイギリスから1週間帰国してくれました。体外循環の専門家として、ヨーロッパや北米を行ったりきたりする仕事の真っ最中でもありました。人間性のすばらしさでは西中安藤両先生と全く同じレベルかそれ以上に献身的な京都大学医学博士工学博士の築谷朋典先生を紹介していただき、4人が一度に会して実験にも付き合ってもらいました。弁護士さんとの会議にも何回も出席してもらい、メールのやりとりも1000以上だったはずです。

安藤先生は、日本で有数の小児心臓外科医で、学会のフロアーで世界のトップサージャンとまともに渡り合える数少ない優秀な医師ですが、スケジュールもいっぱいのところ、8年間絶え間なく助けてくれました。弁護士さんとの会議出席も手術を終えた直後に駆けつけてくれること30回以上はあったと思います。全ての警察調書、検察調書、証拠、公判調書、尋問予定事項、弁論に目を通し、コメントをくれました。読んでいただいたものは、メールも含めると5000枚以上だったと思います。莫大な時間と労力だったはずです。京都大学医学部のサッカー部ではなく、本ちゃんの体育会のサッカー部でならした体力と根性といっても、榊原記念病院での診療と学会活動に加えての会議参加、コメント作成は物凄いものがありました。控訴審は、段取りの悪い検察や、若い判事の素人以下の尋問が遷延したため、3回もの公判に出廷いただきました。実験にも最後までおつき合いただきました。

故常本實先生

 私を手術していただいた上、小児心臓外科に導いてくれました。結婚式でもスピーチをいただき、学会でもお世話になった上、励ましをいただきました。

 一審無罪判決に亡くなりを直接ご報告できず残念です。

他、時間の関係で、簡単にお名前

拘置所、留置所に面会にきたくださった方々、磯松幸尚現横浜市立大学准教授、新岡俊治現エール大学教授、押富 隆長崎大学助手、栗原寿夫京都桂病院心臓血管外科部長、都立西高バレー部の仲間達、山梨医科大学の仲間達、担当弁護士ではないのにボランティアで面会にきてくださった横山哲夫先生、希代先生そして、弟、妻の姉弟、母方の姉妹。

警察、検察取調べ調書で、最後まで、「悪いのは術野」だと最後まで言い続けてくれた心研循環器小児外科諸兄、教授。法廷で専門家としての医師、工学博士、技士として証言された方々、看護婦さん。無職になった私にカンパしようとしてくれた心研同期。

3学会委員関連 

 古瀬彰先生、高本眞一先生、許俊鋭先生、四津良平先生、坂本 徹先生、先生方の勇気と正義感に。又吉 徹先生、見目恭一先生、

患者さんのご家族の情報までも流してくれた裁判所書記官

横暴な刑事から守ってくれた行政警察員、拘置所で、「こりゃ無罪の可能性高いな」と励ましてくれた所長や看守さん、留置されてくさい飯をたべながらいろいろ教えてくれた被拘留者達

小菅拘置所にいるときから就職の話をもってきてくれた、現綾瀬循環器病院丁 栄市理事長、すこしでも給料を増やしてといろいろ工夫してくれた上、診療に穴を開けることに目をつぶってくれた丁 毅文院長、他の医師、技士、看護師、補助看護師、事務員、クラーク、清掃員ほかスタッフ。

私の事件を知りながら、応援してくれた患者さんとそのご家族、私の手術を受けて大きくなっていく子供達

訴訟や大野病院事件を契機に新しく知り合った多くの医師、法曹界、学者、マスメディアの記者さん。

そして、最後に故父佐藤和夫

 心配をかけました。年金生活の中から貯金を崩して、弁護費用や保釈金をいただき、迷惑ばかりかけました。留置所や拘置所に面会、裁判所での傍聴は、70後半の弱った足にはつらかったと思います。おまけに、控訴審が長引く中病に倒れ、自分が主治医となりましたが、心肺停止から365日で亡くなりました。助けることができず、残念です。亡くなるまで、妊娠出産で傍聴に来られなかった妻がいないときも全ての裁判を傍聴され、根底での精神の支えになっていただきました。判決確定までなんとか診療を続けたかったのですが、かないませんでした。

無罪だったら明日、お墓参りにいきます。30年ぶりにいっしょになれた母と伴に安らかにお眠りください。

 

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2009年3月24日 (火)

否定された内部調査報告書 東京女子医科大学病院 心臓手術事故ー「ルポ 医療事故」朝日新書

ルポ医療事故 (朝日新書) Book ルポ医療事故 (朝日新書)

著者:出河 雅彦
販売元:朝日新聞出版
Amazon.co.jpで詳細を確認する

1.「ルポ 医療事故」と「医療事故がとまらない」の比較

この書籍では、本件事件が紹介されています。

私は、名誉毀損裁判で、「医療事故がとまらない」という書籍を執筆した「毎日新聞医療問題取材班」の記者を訴えて一審勝訴しました。法廷で、E.M.という記者は「私の取材の原点は、被害者の視点です。」と語っていますが、それでは物語になってしまいます。また法廷で明らかになったことは、事件の報道以前に「筋読み」とか「ねらい」を創ってこれに沿った取材活動をしているという点です。職業的使命感や表面的な道徳的正義感が、真実の見極めよりも先に駆け出しているからです。熱意や正義感をhttp://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/post-c6ad.html動機づけるものは基本的に主観的思い込みであって、客観的、合理的判断ではありません。「思い込み」には、客観的判断とのズレが必ず生じます。しかし、客観的判断で、感情の独走を抑制できるほど人は器用ではありません。

これに対して、本件書籍は、一段高いところから全体を見回して執筆に取り掛かっているように思えます。比較的抑えた語り口、公正な視線が印象的です。

「おわりに・・・(医療版事故調査委員会)設置は、今後の日本の医療に大きな影響を及ぼすことは間違えありません。現実を踏まえた、冷静な議論が必要です。そこで私は、過去の医療事故調査を検証してみようと考えました。医療事故被害者の遺族や、事故にかかわった医療者、事故調査を担当した医師たちの話にじっくり耳を傾けることで、未来の制度づくりのヒントが得られるのではないかと思ったからです。」この姿勢でこの書籍が書かれたことが理解できます

2.第4章 第4章 否定された内部調査報告書 東京女子医科大学病院 心臓手術事故」

 この章が、本件事件にあたります。項目は

        無罪判決

        内部告発

        事故を認めた調査委員会

        医師2人を逮捕裁判外紛争処理の試み

この後からが、本章の肝です。

        専門家を排除した原因調査

⇒非科学的で杜撰な検証と報告書作成の状況

専門家の意見

E 教授 「科学的常識では考えられない」

K教授  「操作担当者のミスとするためのこじつけではないか」

           「医療事故調査に心臓外科医が1人も入らなかったのは常識では考えられない。

        3学会合同委員会の検証

⇒女子医大に照会すると「検証のデータはない」

        訴因変更

⇒検察、ポンプ回転数上昇に関して主張を取り下げる。

        「科学的ではなかった」

内部調査報告書 責任者 東間紘先生のコメント
「報告書の結論に根拠はない。」
「『科学的ではない』と言われれば、その通りだ。いま思えば、外部の心臓外科医を調査委員会にいれておけばよかったかもしれない。」

関連書類

3学会合同陰圧吸引補助脱血体外循環検討委員会報告書
日本胸部外科学会、日本心臓外科学会、日本人工臓器学会
平成155

www.jsao.org/tools/file/download.cgi/69/vavd_report.pdf

日経メディカル2008年7月号による事件裁判の概要
http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/files/200807.pdf

東京女子医大事件の時系列
http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/post_a866....

公開質問状

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/cat6216890/index.html

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2009年3月10日 (火)

刑事事件 控訴審判決 

1.控訴審判決を前に

私が起訴された刑事事件の判決を前に、このブログを初めて閲覧された方もいらっしゃるかと思います。複雑なので、概要を把握するのが困難な場合は、日経メディカル2008年7月号を閲覧されるとよいと思います。

「200807.pdf」をダウンロード

これで、概要が把握できて、詳細を知りたい場合は、

2008年6月 5日 (木) ブログ「紫色の顔の友達を助けたい」

「資料⑪「東京女子医大事件とは⇒東京女子医大事件の概略 時系列」

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/06/post_a866.html

等、「刑事事件 資料」のカテゴリーを閲覧されるとよいと思います。

2009年3月27日13時30分いよいよ控訴審判決です。刑事事件一審では、判決前に検察官の「論告求刑」に対して弁護側は、「弁論」を行います。これに対して、控訴審の判決前は、検察側も「弁論」(2008年12月17日)、弁護側も「弁論」(2008年12月24日)を行いました。この弁護側の「弁論」全91頁の最後1頁が印象的です。

2.最後の1頁

「佐藤医師は無罪である。以上」だけ。

これは、90頁の「第5 結論」が1頁分で収まるところをあえて最後のページをめくるとこの一文が出る仕組みになっています。その、第5 結論の内容も重要です。

「第5 結論

    冒頭に述べたとおり、本件における検察官の主張、立証は、医学的水準に立脚した事実の解明にほど遠いものであった。

   検察官は、非科学的な東京女子医大の報告書に安易に立脚し、その論理と結論を無批判に受け入れた。このことは、学会で全く支持されることがなかった「吸引ポンプの回転数を上げたことが陽圧をもたらした」との結論、さらには物理学の初歩も弁えない「圧の(不)等式」が東京女子医大の報告書と検察官の冒頭陳述要旨だけに現れていることからも明白である(報告書〔甲17添付〕14頁、12頁、冒頭陳述要旨6~7頁)。

    医学の水準を無視し、それどころか自然科学の考え方すら無視するという非科学的な捜査、起訴によって、佐藤医師は、6年半以上にわたって被疑者、被告人の地位に止め置かれ、また、医師に対する業務上過失致死罪としては異例の逮捕までされ、90日間にわたって身柄拘束までされたのであり、家族を含めこれによる苦痛は厳しいものがある。検察官は、これについて真摯に反省すべきである。

    しかも、検察官による過誤による被害を受けたのは佐藤医師とその家族だけではない。事案の真相が明らかになることを望む患者家族と社会も、佐藤医師の無罪が確定すれば、本件手術の責任を誰が負うのかという点について何らの回答も与えられないこととなる。このような状態をもたらした検察官は、その捜査と公判について真剣に反省すべきである。

本件におけるこのような社会的意味合いとは別に、刑事裁判は、法と証拠のみによって判断されるべきである。貴裁判所が、本件に現れた全ての証拠を吟味すれば、そこから生まれる結論は一つしかない。」(90頁をめくって)

「佐藤医師は無罪である。以上」

という具合になっています。

3.本件手術の反省から

この9歳の女児が手術事故で亡くなったこと反省として、心臓外科医が発信しなくてはならないことに、以下の3つがあります。

1.MICS(第二肋骨までの部分縦切開)で、SVCの直接カニュレーションは、行わない。⇒奇静脈等への誤挿入や、術中位置異常が発生し、SVC症候群を惹起する可能性があります。

2.人工心肺の完全体外循環(トータルバイパス)中に脱血不良が発生して、脱血管の位置修正などを行っても改善しない場合は、上下大静脈の両方のテープを緩めて確実にパーシャルバイパスにして、吸引回し(サクション回し)を行う。

⇒下大静脈のみをパーシャルバイパスにして上大静脈をトータルバイパスにした場合、特に脱血管をクランプしてしまうと、上半身に送血したものがうっ血してしまいます。

3.陰圧吸引回路は滅菌された新しい回路を設置し、フィルターを設置しない。貯血槽には、圧力モニターと陽圧防止弁を設置する。

⇒すでに、日本心臓血管外科学会、日本胸部外科学会、日本人工臓器学会が厚生労働省と通じて勧告しています。

2度と本件のような事故が発生しないために、上記、再発防止策を重視するべきです。

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2009年3月 1日 (日)

フジテレビ控訴審判決 「判例タイムズ 1286号(‘09 3/1 )170頁に掲載

1.            判例タイムズ 1286号 170頁

 「同控訴審判決については、近々、改めて紹介する予定である」と1282号の予告どおり、本人訴訟で勝訴したフジテレビの控訴審判決が「判例タイムズ 1286号(09 3/1 )170頁に掲載されました。

 二回目ということもあってか、前回の14頁、解説がほぼ4頁が、今回は全8頁解説が2頁+αのボリュームでした。

2.            解説

 「第1審判決の判タコメントでも紹介されている判例ないし裁判例の流れの中でみると、第1審判決を相当とした本判決の認定判断が今後の同種事案の処理に際して参考になるところは少なくないように思われる。」とのこと。

この同種事案とは、「刑事事件の被告人に係る事件報道につき、新聞記事ではなく、テレビ放映をめぐって、被告人に対する名誉毀損の不法行為の成否のほか、肖像権侵害の不法行為成否が問題となった事案」ということのようです。

 今後、この高裁判決が、名誉毀損裁判の判例として、将来他の判決に引用されるかどうかが楽しみです。

 なお、引用や参考とされた判決は、

①最高裁平成14年(受)第846号同15年10月16日第一小法廷判決

②最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決

③最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決

④最高裁昭和55年(オ)第1188号同62年4月24日第二小法廷判決

⑤最高裁昭和60年(オ)第1274号平成元年12月21日第一小法廷判決

⑥最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決(2回目)

⑦最高裁平成7年(オ)第1421号同14年1月29日第三小法廷判決

と全て最高裁判決です。

 「大野病院事件の判決は、法律家の間では重視されない。それはやはり、一審判決でしかない。地裁の判断でしかない。法律の世界は、そこが非常に厳しくて、原則として最高裁でなければ判例とは言わない。(大野病院事件は)最高裁まで争って決まったものではなく、一地方裁判所の判断。」と刑法の権威的な存在で、前医療事故調座長の前田雅英氏は述べたと伝えられています。

 そんなことはないですね。日本で最初のプライバシー侵害裁判でとして、その裁判判例は、法理としても実務的にも極めて重要な判決として取り扱われて「宴のあと」事件は東京地方裁判所の一審判決で、確定しています。

「宴のあと」事件判決(第一審判決)
http://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~suga/hanrei/10-1.html
このような重要な事件の判決を前田氏が知らないはずありません。

3.            解説と判決

 ところで、判例タイムズでは、最初に「解説」がきて、次に「判決文」が掲載されるスタイルをとっていますが、〔解説〕では、「民放テレビ局Y(原審被告)」と書かれているのに対して、掲載した「判決文」にはおもむろに、「株式会社フジテレビジョン」とか「東京女子医大病院」とか「西田弁護士」固有名詞になっているところが、よいですね。

関連記事:

2009年1月12日 (月)フジテレビ地裁判決:判例タイムズに掲載される

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/post-71d8.html

2009年1月12日 (月)フジテレビ地裁判決:判例タイムズに掲載される

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/post-71d8.html

2008年10月9日 (月)再び勝訴! (一審 勝訴確定 ) フジテレビ控訴審および附帯控訴審

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/post-0be6.html

2007年8月27日 (月) 勝訴 フジテレビ訴訟 本人訴訟第1号 

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_fea3.html

2008年7月31日 (木)

「悪意ある虚偽報道による名誉段損に対しての闘い」田邊昇先生 「外科治療」2008Vol.98No.6より

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/07/post.html

2007年8月25日 (土)

フジテレビ訴訟 判決

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_7178.html

2008年3月 7日 (金)

「日経メディカル」記事掲載ー本人訴訟でフジテレビに勝訴―

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_10f7.html

2008年2月 1日 (金)

刑事控訴審続報の前に今日のフジテレビ控訴審 

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/02/post_f412.html 

2008年3月 7日 (金)

復刻 フジテレビ訴訟 控訴審

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_5865.html

2008年5月22日 (木)

フジテレビ控訴審 結審日決定

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/post_6faa.html

2007年6月 4日 (月)

フジテレビ訴訟 本人尋問期日のお知らせ

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/06/post_44bb.html

①最高裁平成14年(受)第846号同15年10月16日第一小法廷判決

②最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決

③最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決

④最高裁昭和55年(オ)第1188号同62年4月24日第二小法廷判決

⑤最高裁昭和60年(オ)第1274号平成元年12月21日第一小法廷判決

⑥最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決(2回目)

⑦最高裁平成7年(オ)第1421号同14年1月29日第三小法廷判決

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