2008年3月7日の本ブログ記事「『日経メディカル』記事掲載ー本人訴訟でフジテレビに勝訴―」
http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_10f7.html
で、日経メディカル 2008年3月号 175頁~177頁 DISPUTE 医療訴訟の「そこが知りたい」「医療事故裁判の報道で名誉毀損 医師が自力でテレビ局に勝訴」をご執筆されました田邊 昇先生(医学博士・弁護士)は、「同誌では紙面の都合でコメント部分が少なかった」とのことで、御自分の「外科医が知っておきたい法律の知識」というコーナーをお持ちの外科系臨床雑誌「外科治療」に詳細をご執筆されました。
田邊先生は開業医としても弁護士さんとしてもご活躍中で、大変御多用な方ですが、このような連載までもされていることには、頭がさがります。もう25回も連載されていますので、著書として出版されれば、このブログの読者層は購入される方が多いのではないでしょうか。
ご紹介させていただきます。
平成20年6月1日発行 「外科治療」2008Vol.98No.6
外科医が知っておきたい法律の知識、
25.悪意ある虚偽報道による名誉段損に対しての闘い
Defamation by fallacious press reports-what to do?
田邊昇医学博士(開業医)・弁護士(中村・平井・田邉法律事務所)・MBA
Key words:名誉毀損、医療報道、報道被害、裁判
最近に限らないが,マスコミによる医師や医療機関のバッシング報道は目に余るものが多く,最近設立されようとしている勤務医師の団体(「全国医師連盟設立準備委員会」(黒川衛代表世話人)の設立目的も,勤務医師等の待遇改善の他に,報道被害の是正をあげているほどである.マスコミ報道は,そもそもが事実をきちんと取材していないものが多く,事実も偏向した視点で悪意をもって報道することが多いが,このような悪質な報道被害に対して,医師はどう立ち向かうべきだろうか.
今回は,フジテレビという巨大な報道権力に対して立ち向かい,勝訴判決を得た勇気ある医師の裁判例である.今年の3月号の日経メデイカルにも紹介した裁判例だが,同誌では紙面の都合でコメント部分が少なかったことと,原告になられた佐藤一樹先生ご自身からメールをいただいたこともあるので,本誌でも紹介するとともに報道機関の在り方を考えたい(佐藤先生のブログはhttp://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/ぜひご覧あれ).
紹介するのは東京地裁平成19年8月27日判決である.この裁判は,東京女子医大において,心臓外科手術を受けたユ2歳の少女が,体外循環装置の誤作動によって死亡した事件で,担当医師が逮捕され,刑事起訴された事件である.この事件は,すでに遺族が示談に応じて高額の賠償金を受け取っていたが,告訴を取り下げず,また女子医大側の記録の改ざんなどが問題視され,医師バッシングの機運に乗った検察が医師の逮捕から起訴に及んだ事件である.刑事裁判の第1審判決では担当医師は無罪になった(現在東京高裁で検察官側からの控訴審理中).
人工心肺の誤作動という,執刀医にとってはむしろ被害者としか言いようがない事故であったにもかかわらず,マスコミは医療ミスと決めつけ,悪質なバッシングを展開し,医師いじめが世間の喝采を受けると信じ込んだ警察・検察が,逮捕に及んだ冤罪事件である.
冤罪と言えば周防監督の「それでもボクはやってない」という映画で有名になった痴漢冤罪があるが,これも何の落ち度もない一般市民が警察に躁躍され名誉が傷つけられる事案である.しかし,医療刑事事件は善意の行為が最大級の非難を受ける点で,その酷さは比類のないものと言える.
佐藤医師は,弁護士に依頼して出版社などに対して「逮捕直後の報道」に対して提訴しているが,警察発表と東京女子医大内部報告書の内容がほぼ一致していたため,出版者側に「真実と信ずる相当の理由」があると判示され,敗訴しているケースもある.しかし,まったく取材をしていない地方紙や週刊誌の報道についての別の裁判では,新聞社がいわゆる「配信サービスの抗弁」を主張し,共同通信からの配信だから掲載しても当然だと主張したが,佐藤医師側が勝訴している.逮捕時の報道を行った新聞と単行本を出版した出版社とは一部和解されているようである.また,その他に弁護士をつけない本人訴訟も放送局,出版社等に提訴されている.
この東京地裁判決は,刑事事件一審での無罪判決の報道をしたフジテレビが,この刑事裁判はあたかも本来は有罪になるべきであったのに無罪になったような印象を与え,担当医師の社会的評価を低下させる報道をしたとして名誉を段損したことと,担当医師の撮影に係る映像が放映されたことによる肖像権の侵害が,審理の対象になっている.担当医は慰謝料1,500万円を損害賠償として請求した.
この東京女子医大事件の概要を念のために記載しておくと,女子医大4研の循環器小児外科で心房中隔欠損症および肺動脈弁狭窄症の12歳女子に対して,平成13年3月2日,尤研での手術の際に,本件の原告の医師が心肺装置の操作を担当していたところ,人工心肺回路における脱血不良および脱血不能という異常事態が発生し,その結果同月5日,患者が死亡するに至ったものである.
担当医師は平成14年6月28日,本件事故につき業務上過失致死罪の容疑で逮捕され,その後,同罪で起訴された.刑事裁判での公訴事実は「本件手術において人工心肺装置の操作を担当した際,陰圧吸引補助脱血法では,吸引ポンプの回転数を上げると,吸引力が減少して脱血不良となり,さらに,同法を長時間継続すると,回路内に発生した飽和水蒸気や水滴により回路内のガスフィルターを徐々に閉塞し,壁吸引による吸引力が遮断され,静脈貯血槽内を陽圧化させて脱血不能になる危険があるとしうる特性があるから,これを理解して使用すべき業務上の注意義務があるのに,これを怠り,陰圧吸引補助脱血法を漫然と約2時間継続し,この間に壁吸引の吸引力を調節するレギュレーターを適切に調節しないで吸引ポンプの回転数を100回転以上の高回転に上げたほか,これを漫然と継続した過失により,吸引力を減少させるとともに回路内に発生した飽和水蒸気で徐々にガスフィルターを閉塞させて脱血不良および脱血不能の状態を発生させ,よって,本件,署考度の脳障害を負わせて死亡させた」といいうものであった.刑事被告人となった佐藤医師は.一貫して自己に過失がなく無罪であると主張していた。
なお,本件事故に関しては,本件手術を担当した別の医師も,手術後にカルテを改ざんしたとて証拠隠滅の容疑で逮捕され,起訴された証拠隠滅の罪により,懲役1年,執行猶予3年の有罪判決を受け,同判決が確定している.
佐藤医師は,平成14年9月25日,保釈により東京拘置所から釈放されたが,その際,被告フジテレビのカメラマンは,原告の容貌や原告が凍京拘置所から出てタクシーに乗る様子を撮影した.
この刑事事件に対して東京地方裁判所は,平成17年11月30日,「本件事故の際に,人工心肺回路における脱血不能の状態を惹起した直接的かつ決定的な原因は,水滴等の付着によるガスフィルターの閉塞であったと考えるのが合理的である.「被告人については,陰圧吸引回路にフィルターが取り付けられていることを認識していたからといって,ただちに,それが脱血不能の状態につながる危険で暇疵のある構造のものであることまで認識した上,これに適切に対処することができたはずであり,かつ,そうすべき義務があったとするのは,酷であるといわざるを得ない.」と述べた上,結論として,無罪の言渡しをした.
ところがフジテレビは,平成17年11月30日から12月1日の間のニュース,同日午前8時からの「とくダネ1」,8時52分頃から同57分頃までの間のニュースの中で,それぞれ,担当医が拘置所から出てくる様子の映像を用いながら,本件刑事判決について概要を報道した.
フジテレビは,これらのニュースの中で,無罪判決の言い渡しに対して,「元医師に無罪判決」「遺族は先ほど会見を行い,怒りを露わにしています.」として紹介し,患者の父親による記者会見の映像と,テロップ表示で,「『過失責任問えなし』東京女子医大元医師『無罪』心臓手術で少女死亡」,患者の父の「最初聞いたときは頭の中が真っ白になったというのが,本当にあの場にいての雰囲気でした.」という発言に対して「無念の思いを語る遺族.」とし,「現職の医師が逮捕され医療界に衝撃をもたらした東京女子医大の医療過誤事件」などとテロップ表示して,担当医師の実名まで表示した.
テロップ表示やナレーションでは「被告当初罪を認め遺族に謝罪し示談が成立」「被告法廷では一転して過失を否定」などと報道した.
また,ナレーションで「立証の難しい医療過誤で医師が逮捕されることはきわめて異例」「当時,高度な医療を行う特定機能病隣に承認されていた東京女子医大は,この事件でその承認を取り消されています.」「また,この事故では,手術後にカルテを改ざんしたとして証拠隠滅罪に問われ医師には懲役1年,執行猶予3年の有罪判決が言い渡されています.」などとして担当医師の映像と並べて報道した.
さらにナレーターは,担当医師の映像を出した上で「なぜ改ざんした医師が有罪となり,機器を操作した被告が無罪となったのでしょうか.」などと言ってテロップに「さまざまな危険を回避する義務があるがそれを放置し」「未熟な医師に扱わせた」,などと表示しながら,コメンテーターの弁護士に電話をして「いろんな,あの危険を回避する義務というのはやっぱりあると思うのですね.それを放置して,まあ,あの,そういうことを怠ってですね,未熟な医師に,あの二重三重にそういうことが起こらないように,あの,予防体制をとりながら本当はやるべきだったでしょうと・・.」といったコメントを放映した.
また,ナレーターは判決の後,患者の両親が,40分にも及ぶ会見を行ったことを報道し,父親の「非常に医師に対して甘い判決だなあと思って,本当にがっかりしています.」などと報道した.その他のニュースでも,アナウンサーは「相変わらず医療事故に対する刑事責任の追及の難しさを物語っています.」とか患者の両親の「家族の怒りっていうのが,簡単に言うと,死んでしまった者は,帰って来ないんだと.その悲しみはあるけれども,その,いっそう腹が立つことは,それを隠したり嘘を言い続けようとする人たちの方がもっと腹が立ち,まあ,罰せられていいのではないかと思っております.」「人工心肺の機械は勝手に動いているわけではありませんし,自然に出てきたものではない,作った人がいるし,それを操作していた人間がいるわけで,その人たちに何の過失も問えないかという…」「一方,明香さんの両親は,判決後やりきれない思いを語りました.」
「医療裁判というのは難しいでしょうけど,あの,やはり,失ったものが家族側にある以上,その辺を配慮した判決が欲しいと思いますね.」等と言った発言を報道した.
原告の佐藤医師は,本件各ニュースは担当医師について,一般視聴者に対し,担当医師が,当初白己のミスを認めて遺族に謝罪しており,遺族との間で示談も成立していたが,法廷では一転して態度を変えて過失を否定し始めたと誤った内容を報じるとともに,"未熟な医師"であり,本件刑事判決については医師に対して非常に甘い判決であるなどと指摘して,一般視聴者に対し,専門性を有するべき医師である原告が未熟であったために,手術中のミスによって本件患者を死亡させたものであり,本来であれば有罪になるべきであったのに,無罪になったという印象を与えるものであるから名誉段損にあたる.また,担当医師を「元医師」と指摘して一般視聴者に対し,原告が本件事故の責任を取って自ら医師を辞めたか,医師を辞めさせられており,現在は医師ではないという印象を与えるものである.本件は無罪報道であるが,重要なことはどのような視点から無罪報道を行ったか,また,報道に際して具体的にどのような表現を用いたかであり,そのような観点からみた場合,医師の社会的評価が低下することは明らかである.さらに,医師の記者会見の写真を用いることなく,東京拘置所で,他社撮影者とともに,いわゆるメディアスクラムを組み,医師が拘置所施設の扉を開けた瞬間,撮影者の顔も分からないほど強烈なライトを当てて精神的肉体的圧迫感を与えながら撮影し,この写真を無罪判決とともに流すことは肖像権の侵害であると主張した.
これに対してフジテレビ側は「客観的な事実報道であり,"未熟な医師"などという表現をしても本件ニュースは,一般視聴者に対し本件事故に担当医師の責任はなく,人工心肺装置の構造に問題があったという情報を明確に伝えるものであるから,"未熟な医師"との造言だけで,医師のミスにより患者を死亡させたという印象が与えられることはない.」とか「『元医師』との言葉については,本件事故当時は女子医大病院の医師であったが,現在は女子医大病院の医師ではないという趣旨で使用したものである.」とか,「女子医大病院の院長らとともに,本件患者の墓参りのため,群馬県にある寺を訪れ,患者の墓前に献花するとともに,同寺の本堂内において,遺族を前に正座して並び,遺族に対して順に謝罪した.」といった報道がなされているから罪を認めていることを信ずるのは相当であったとか,写真撮影場所は公道だから違法性はないとの反論をした.
裁判所は,本件各ニュースがどのような事実を摘示したか,医師の名誉を殿損したといえるかについては,一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであるとし,「当該情報番組の全体的な構成,これに登場した者の発言の内容や,画面に表示されたフリップやテロップ等の文字情報の内容を重視すべきことはもとより,映像の内容,効果音,ナレーション等の映像および音声に係る情報の内容ならびに放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して,判断すべきである.」と総論を述べ,本件については,テロップの提示などから「当該放映部分は,一体となって女子医大病院が本件手術をする際に,さまざまな危険を回避する義務があるのに,それを怠って未熟な医師に本件手術を担当させたとの事実を摘示したものとみるのが相当であり,さらに,その"未熟な医師"には,本件手術の際に人工心肺装置の操作を担当した原告も含まれるとの指摘がなされているものとみるのが相当である.」「これを視聴した一般視聴者としては,本件刑事判決が本件事故の際,人工心肺の構造に問題があことを予見できず,過失責任を問えないとし原告に対し,無罪の判決を言い渡したことを理解することができる一方で,原告が本件事故後.本寄刑事事件の公判期日までの間において,本件手における原告の人工心肺装置の操作に伴って生じた本件患者の死亡につき,自己の過失及び責任を認める旨を捜査機関による取調べにおいて自自し,又は,遺族に対して自己の過失及び責任を認める旨の言動を行い,自己の行為が業務上過掻死罪に該当することを前提として,遺族との間で示談が成立していた事実があることや,女子医大病院が,本件手術をする際に,さまざまな危険を回避する義務があるのに,それを怠って原告を含む未熟な医師に本件手術を担当させた事実があることなどが摘示されていることから,本件刑事判決が原告に対し無罪の言い渡しをしたとはいうものの,実際には,原告が未熟で,その過失があったために,本件事故が生じた可能性があるとの印象を受けることは否定できないのであって,当時第一審で無罪判決を受けた直後であった原告の人格的価値を損ない,その社会的評価を低下させるものであったというべきである.」と判示した.
しかし,『元医師』との表現からは,辞めた理由を一般視聴者が一義的に推察することはできないとし,アナウンサーの意見として「医療事故で刑事責任を追及することが困難である.」との感想を述べることは名誉を殿損するものとは認められないとして佐藤医師の主張を容れなかった.
また,表現行為や報道が名誉段損とならない要件として,真実の立証あるいは真実と信ずる相当の理由,公共性,公益性が必要であるが,"未熟な医師"と指摘したことや,過失を認めているといった点についても,真実性の証明も信ずるに足る相当な理由もないと判示した.
一方,本件撮影の違法性について「人は,みだりに自己の容貌等を撮影されないということについて法律上保護されるべき人格的利益を有するが,人の容貌等の撮影が正当な取材行為等として許されるべき場合もあるのであって,ある者の容貌等をその承諾なく撮影することが不法行為法上違法となるかどうかは被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様撮影の必要性等を総合考慮して,被撮影者の上記人格的利益の侵害が社会生活上受忍の限度を超えるものといえるかどうかを判断して決すべきである.」としたが,公道上での撮影であった点や,拘置所職員は単なる背景として撮影されたに過ぎないし,身柄の拘束もされていないことや,古い映像を用いるのも裁量の範囲であって,本件撮影については,被撮影者の社会的地位,撮影された被撮影者の活動内容,撮影の場所,撮影の目的,撮影の態様,撮影の必要性等を総合考慮しても,いまだ,社会生活上受忍すべき限度を超えて,原告の人格的利益を侵害するものと評価することはできないというべきであるとした.
裁判所の認容額は,100万円であったがフジテレビは控訴している.
名誉段損は,名誉段損的な表現すなわち,その視聴あるいは読者対象が,取り上げられた者の社会的評価を低下させるようなものであれば,ただちに名誉殿損が成立する.
名誉段損は刑事上は,事実をあげて指摘したか(たとえば薬剤を誤って通常量の10倍投与したといった事実),単に評価を表現したか(「この医師は馬鹿だ」という評価)で,前者は名誉殿損罪(刑法230条)後者は侮辱罪(刑法231条)として区別されているが,民事ではこれらをとくに区別せずに不法行為(民法709条)として損害賠償の対象となる.
また,刑法では公益目的で公共性のある事実について,真実を報道したり表現したりした場合には,処罰されないとされており(刑法230条の2),民事裁判でも,このような場合には損害賠償義務を負わないとされる.
このなかで,とくに真実性の証明は,被告人や損害賠償請求を受けた側に負わされているので,言論の自由を守る観点から真実と信ずる相当な理由がある場合にも,裁判実務上は免責される運用になっている.
名誉毀損罪
刑法第230条 公然と事実を摘示し,人の名誉を殿損した者は,その事実の有無にかかわらず,3年以下の懲役若しくは禁鋼又は50万円以下の罰金に処する.
2死者の名誉を段損した者は,虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ,罰しない.
公共の利害に関する場合の特例
刑法第230条の2 前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には,事実の真否を判断し,真実であることの証明があったときは,これを罰しない.
2前項の規定の適用については,公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は,公共の利害に関する事実とみなす.
3前条第1項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には,事実の真否を判断し,真実であることの証明があったときは,これを罰しない.侮辱罪
刑法第231条 事実を摘示しなくても,公然と人を侮辱した者は,拘留又は科料に処する.
親告罪刑法第232条 この章の罪は,告訴がなければ公訴を提起することができない.
しかしながら,マスコミに対して警察や検察は非常に弱く,憲法21条1項が「表現の自由」を人権として厚く保障していることから,刑事事件として処理をすることはまずない.
奈良県で高校生が自宅に放火して母親などを焼死させた少年事件で,少年の精神鑑定を行った医師が,講談社やジャーナリストの要請を受けて,アスペルガー症候群の啓蒙のために役立つならと,医師が少年の調書を見せたところ,ジャーナリストや出版社はこれをそのまま引用して出版し,多額の収入を得ながら,まったく刑事起訴もされず医師のみが刑事起訴をされるという事件があったことは記憶に新しいことと思う.
一方,医師の表現行為については,奈良県の脳出血合併妊婦が搬送先で次々と断られた事件で,患者遺族が転送元の医療機関を訴えた事件で,ある医師が「妊娠したら健全な児が生まれ,脳出血を生じた母体も助かると思っているこの夫には妻を妊娠させる資格はない」といった書き込みを,医師のみで構成されるインターネットのクローズ型掲示板に書き込んだところ,侮辱罪で略式起訴された事件もあった.
そこで、マスコミの偏向報道KY歩技法同によって被害を受けた場合は,民事の損害賠償請求を行うしか方法がない.
しかし,損害賠償請求訴訟を提起しても,損害賠償額は非常に低く,本件でも100万円とフジテレビの悪質性やずさんさに比較して,非常に低額にとどまっている.
現代社会においてテレビはいまだに,一般人の情報源として大きな位置を占めており,放送法上政府の許認可事項になっているので,独占的に情報提供を寡占することができ,いったん放送免許を取得すると取り上げられるようなことはまずないから,やりたい放題の観がある.
おまけに,損害賠償額も本件で見るように大変低額なので,被害者になっても,弁護士も積極的に取り組んでくれないことが多い.AIDS訴訟での故安部英帝京大副学長の名誉殿損訴訟も医療側の弁護士ではなく,むしろ患者側で活動していた弁護士(この方は能力の点で凡百の弁護士など超絶される方で,このような点は本来問題にならないのかとも思うが)が担当されたようである.
今後は,このような訴訟を頻繁に起こすことで,マスコミの暴走に製肘を加える必要があるだろうし,医療機関や医師に対してマスコミから主張されているように,報道機関に対しては名誉段損的な報道や虚偽報道,ウラのはっきりしない報道がないかどうかを内部調査義務を負わせ,そのような報道があった場合はただちに被害者に謝罪し,訂正報道を行うとともに損害賠償を支払わせるべきであろう.報道に用いた資料は,一切報道被害を受けたと主張する者に対して無償で開示するように義務づけるべきであろう.
また,事実と異なる報道や名誉殿毀損的な報道があれば報道機関自身に監督官庁に届る義務を取締役に課し、怠れば刑事罰を科するべきではないだろうか。
さらに,報道された者が被害を受けたと感じれば,法律家や報道被害者を代表する者を含めた第三者による調査委員会を開かせ,調査の結果で放送免許の取り消しや刑事罰を科する制度を早急に確立するべきであろう.
そして,調査委員会は,将来のよりよき報道を目指し,当該報道や取材のありとあらゆる問題点を高度の理想論から徹底的に洗い出すことが不可欠であろう.これを刑事事件や損害賠償事件に利用するかどうかは被害者側に任せればよいのではないか.また,報道や取材に過誤があれば,放送局などでは放送免許の取り消し処分を行うよう告発することも,調査委員会の権限としてはどうであろうか.
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