毎日記者、集英社 控訴審判決文
毎日記者5人と集英社に勝訴した東京高裁の控訴審のうち、とりあえず判決文を掲載します。
被告側の和解案を見ると、一番見られたくないのは、準備書面や陳述書のようですが、それはまた機会を改めて。
また一審判決文については、リクエストがあれば、テキスト化してブログ公開します。
平成21年7月15日判決言渡し 同日 原本領収裁判所書記官 加藤政人
平成21年(ネ)第36号 ,同年(ネ)第923号損害賠償請求控訴事件, 同附帯
控訴事件(原審・東京地方裁判所平成19年(ワ)第15490号)
口頭弁論の終結の日平成21年4月20日
判 決
東京都千代田区一ツ橋二丁目5番10号
控訴人兼附帯被控訴人株式会社集英社
(以下「控訴人会社」という。)
同代表者代表取締役 山下秀樹
東京都千代田区一ツ橋一丁目1番1号毎日新聞社内
控訴人兼附帯被控訴人 花谷寿人
(以下「控訴人花谷」という。)
東京都千代田区一ツ橋一丁目1番1号毎日新聞社内
控訴人兼附帯被控訴人 江刺正嘉
(以下「控訴人江刺」という。)
東京都千代田区一ツ橋一丁目1番1号毎日新聞社内
控訴人兼附帯被控訴人 渡辺英寿
(以下「控訴人渡辺」という。)
東京都千代田区一ツ橋一丁目1番1号毎日新聞社内
控訴人兼附帯被控訴人 小出禎樹
(以下「控訴小出」という。)
東京都千代田区一ツ橋一丁目1番1号毎日新聞社内
控訴人兼附帯被控訴人 小泉敬太
(以下「控訴人小泉」といい,
上記6名全員を「控訴人ら」
という。)
控訴人ら訴訟代理人 弁護士 高木佳子
同 古谷誠
東京都××区
被控訴人兼附帯控訴人 佐藤一樹
(以下「被控訴入」という。〉
主 文
1本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。
2控訴費用は控訴人らの,附帯控訴費用は被控訴人の各負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1控訴の趣旨
(1)原判決中,控訴人らの敗訴部分を取り消す。
(2)被控訴人の請求をいずれも棄却する。
2附帯控訴の趣旨
原判決を次のとおり変更する。
控訴人らは,被控訴人に対し,連帯して200万円及びこれに対する平成15年12月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
1事案の要旨
被控訴人は,平成13年3月当時,東京女子医科大学(以下「女子医大」という。)病院に勤務していた医師である。
控訴人会社は,雑誌・図書出版業等を営む株式会社である。
控訴人花谷,控訴人江刺,控訴人渡辺,控訴人小出及び控訴人小泉は,毎日新聞医療問題取材班(以下「控訴人取材班」という。)を構成する新聞記者である。
控訴人会社は,控訴人取材班を執筆者として「医療事故がとまらない」と題する書籍(集英社新書)(以下「本件書籍」という.)を発行した。本件書籍には,「第1章東京女子医大病院事件」との見出しの記事(以下「本件記事むという。)が掲載され,本件記事には,被控訴人(ただし,記事中の表記は「E医師」とされている。)が人工心肺装置の担当医師として関与した心臓手術において患者が死亡したこと,女子医大がその手術に関するカルテ等を組織的に改ざんをしたことなどが記載されている。なお,本件書籍は,毎日新聞紙上で連載された記事をまとめたものである(この新聞連載記事を,以下「本件連載記事」という。)。
本件は,被控訴人が,本件記事のうち原判決別紙「被控訴人の主張一覧」の「記載内容」欄の番号1,ないし10の各記載部分について,被控訴人が上記手術の際に人工心肺装置の操作ミスをした等の趣旨の記載をされ,医師としての名誉が毀損されたと主張して,控訴人らに対し,共同不法行為に基づき,慰謝料1000万円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。
原審は,名誉毀損による共同不法行為の成立を認め,被控訴人の請求を80万円及びこれに対する平成15年12月23日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で認容した。これに対し,控訴人らは,請求全部の棄却を求めて控訴し,被控訴人は,請求を200万円に減縮した上,請求の認容を求めて附帯控訴をした。
2当事者の主張等
前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の2ないし4に記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)4頁13行目の「設置した。」の次に「内部委員会の委員は,東間紘教授(委員長。泌尿器科学),楠本雅子教授(循環器内科学),尾崎眞教授(麻酔科学)であり,心臓外科医や人工心肺装置に関する専門的知識を有する専門家(医師,臨床工学士など)は含まれていなかった(甲6,40)。」を加える
(2)6頁23行目の次に,次のとおり加える。
「同委員会の委員は,高本眞一東京大学教授(委員長。心臓外科,呼吸器外科),四津良平慶磨義塾大学教授(心臓血管外科),坂本徹東京医科歯科大学教授(先端外科治療学),許俊鋭埼玉医科大学教授(心臓血管外科)の4名であり,協力員は,又吉徹慶磨義塾大学医用工学センター臨床工学士,見目恭一埼玉医科大学MEサービス部臨床工学士であり,同委員会は,心臓外科及び人工心肺装置の専門家により構成されていた(甲6,8,10,40,弁論の全趣旨)。」
(3)9頁4行目の「無罪判決」を「無罪判決の確定」に改める。
(4)9頁24行目から25行目を次のとおり改める。
「イ検察官は,上記無罪判決に対して控訴をしたが,東京高等裁判所は,平成21年3月27日,検察官の控訴を棄却する判決をし,同判決に対しては検察官から控訴がなかったため確定し,被控訴人に対する無罪判決が確定した(弁論の全趣旨)。上記東京高等裁判所判決においては,被害者は,回路内が陽圧の状態になり,脱血不能の状態になった時点では,脱血カニューレの位置不良により頭部が欝血し,既に致命的な脳障害を負っていた可能性が高く,人工心肺回路内が陽圧の状態になったことによる脱血不能の状態が,被害者に致命的な脳障害を発生させて死亡させるに至ったと認定するには合理的な疑いが残るとして,被害者の頭部に轡血をもたらした脱血カニューレの位置不良は,操作担当者である被控訴人の人工心肺装置の操作に起因するものではないから,これと被害者の死亡との間には因果関係が存在せず,被控訴人について業務上過失致死罪は成立しないとの認定判断がされている(甲41)」
(5)11頁17行目末尾の「装置」を「操作」に改める。
(6)16頁5行目の「1000万円」を「200万円」に改める。
第3当裁判所の判断
当裁判所も,被控訴人の請求は,原判決が認容した限度で理由があり,その余は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」に説示するとおりであるから,これを引用する。
1 17頁24行目の括弧内の「イ」の次に「。なお,被控訴人の主張中には,本件記事の全体が被控訴人の名誉を毀損するとする部分もあるが,被控訴人は,本件記事中の具体的な名誉毀損部分は,本件各記載である旨を明らかにしているから,本件各記載について名誉毀損の成否を検討すれば足りる。」を加える。
2 24頁7行目の「刑事裁判」を「刑事の確定判決」に改める。
3 24頁25行目から26行目にかけての「被告取材班によりされた取材や記載内容の検討等」を「生起した本件各記載と関連する事実関係並びに控訴人取材班による取材等」に改める。
4 25頁22行目から26頁19行目までを次のとおり改める。
「〈イ)本件連載記事の掲載以後に生起した本件各記載と関連する事実関係及び控訴人取材班による取材等
a 前記認定のとおり,3学会検討委員会が設置され,平成14年8月3日に第1回委員会が開かれた。3学会検討委員会は,平成15年4月26日までの間に合計9回の委員会を開催し,そのうち,平成14年11月16日に開催した第5回委員会は慶磨義塾大学病院手術室において,同年12月21日に開催した第6回委員会は女子医大病院手術室において,シミュレーション実験を実施した。上記第5回委員会のシミュレーションにおいては,吸引ポンプの回転数を100回転にしても,静脈貯血槽の圧力変化には影響せず,陰圧ラインの閉塞により急激に圧力が上昇することが確認された。また,上記第6回委員会のシミュレーションにおいても,上記第5回委員会のシミュレーショ.ンと同様に,吸引ポンプの回転数を100回転にしても,静脈貯血槽の圧力変化には影響せず,フィルターの位置を下降させたことによりフィルターが閉塞し,急激に圧力が上昇することが確認された(甲8)。
b 本件患者の遺族である平柳利明を含む,心臓手術を受け,死亡や重度障害を負った子供の親4名は,平成14年12月12日,厚生労働大臣に対して,女子医大病院が使用していた人工心肺装置には,何らかの重大な欠陥があると考えられるとして,その導入の過程等について調査を求める要望書を提出した(乙35)。
c 控訴人取材班は,平成14年12月13日付け毎日新聞において,上記患者の親から国と都に対し,女子医大の人工心肺装置の導入過程について調査を求める要望書が提出されたことを報道した。その記事には,親たちは,「装置自体に重大な欠陥があり,他に被害者が出ている可能性がある。」と訴えているとの記載がある(甲16)。
d 3学会検討委員会は,平成15年3月2日,3学会検討委員会の中間報告として,陰圧吸引補助脱血体外循環を施行する際に次の4点を遵守するように勧告した。なお,遵守事項には,吸引ポンプの回転数に関する記載は,存在しない(甲8)。
①陰圧吸引補助ラインにはガスフィルターを使用せず,ウオータートラップを装着する。
②陰圧吸引補助ラインは毎回滅菌された新しい回路を使用する。
③静脈貯血槽には陽圧アラーム付きの圧モニター並びに陽圧防止弁を装着する。
④陰圧吸引補助を施行する際には微調整の効く専用の陰圧コントローラーを使用する。
e 上記中間報告書は,全国の関係病院長に送付された。また,上記勧告は,そのころ,日本胸部外科学会のウェブサイトに,同学会員以外の一般人も自由に閲覧できる状態で公開された(甲6,8,10,弁論の全趣旨)。
f 日本放送協会(以下「NHK」という。)は, 平成15年3月13日,総合テレビの「おはよう日本」というニュース番組中で,午前5時35分過ぎから同36分過ぎまでの約1分20秒間,「人工心肺の安全対策を勧告」という文字タイトルの下で,「2年前女子医大病院で起きた医療事故を切っ掛けに,心臓手術に関する3つの学会がこの時に使われたものと同じタイプの人工心肺装置を調べた結果,安全対策を徹底する必要があるとして全国の医療機関に緊急の勧告をした。日本心臓血管外科学会,日本胸部外科学会及び日本人工臓器学会の3学会の合同委員会は,事故の防止策について検討し,事故を再現するなどして調査した結果,安全対策を徹底する必要があるとしてガイドラインをまとめ,全国の医療機関に緊急の勧告をした。これによると,患者の血液を吸引する管に目詰まりを起こしやすいフィルターを付けないこと,血液を吸引する圧力を微調整できる専用の装置を使うことなどを求めている。」等の内容を放送した。同放送は,同時刻に衛星第二放送及びデジタルハイビジョンでも行われた(乙32の1ないし3)。
また,そのころ発行された「Medical& Test Journal」同月21日号にはその緊急勧告に関する記事が掲載されていた(乙16)。
g 厚生労働省は,同月17日,同省医政局総務課長及び同省医薬局安全対策課長の連名で各都道府県衛生主管幹部(局)長にあてて,上記3学会検討委員会の中間報告における勧告等を参考として,同勧告で指摘された4点を遵守する必要がある旨を通知した(甲17の末尾の頁)。
h 被控訴人は,同年8月25、日に東京地方裁判所で開かれた被控訴人に対する刑事事件の公判において,それまで認否を留保していた起訴事実を否認し,事実関係としては,血液を吸引するポンプを高回転にしたことを認めた上,「女子医大には,当時,回転数に関するルールや指導はなかった。脳障害を引き起こしたのは,ポンプを高回転にしたためではない。」などと主張した(甲24)。
i 同月26日付けの産経新聞は「女子医大病院手術の女児死亡元医師ミス否認」の見出しの下に,被控訴人に対する刑事事件における上記の事実関係を報道した(甲24)。
j 前提事実(7>ア,イのとおり,3学会検討委員会は,同年5月,3学会報告書を作成し,同月15日,札幌市で開催された日本心臓血管外科学会学術総会のシンポジウムにおいてその内容を報告した。この報告においては,各委員から3学会報告書に基づいた報告がされ,「安全な陰圧吸引補助脱血法に向けての提言」として,前記中間報告と同内容の4点の遵守事項が勧告されるとともに,前記認定の3学会報告書の記載に基づき,本委員会の検討により,女子医大で起こった事故は本来陰圧であるはずの静脈貯血槽が急激に陽圧になったためであり,その原因は吸引回路の回転数が非常に高かったためではなく,陰圧吸引補助ラインに使用したフィルターが目詰まりを起こし閉塞した可能性があることが模擬回路による実験でも示されたことが報告された(甲7,8)。
k NHKは,同日,総合テレビの「ニュース9」において,「人工心肺トラブル2年で約500件」という文字タイトルの下で午後9時10分ころに30秒間,さらに総合テレビの「ニュース10」において,「人工心肺トラブル」という文字タイトルの下で午後10時59分ころに30秒間,上記報告内容に基づき,3学会が全国の病院に人工心肺装置の使用についてアンケートをした結果,多数のトラブルが起こっていることが判明したことなどを放送した(乙16,32の1ないし3)。
l 3学会報告書は同シンポジウムの参加者に配布されたほか,同日,3学会報告書の抜粋が3学会のそれぞれのウェブサイトに掲載された。また,3学会報告書は,そのころ,「人工臓器」,「Clinical Engineering」などの医学専門誌に掲載されて紹介された(甲9,10,弁論の全趣旨)。
m 同年7月25日に開かれた瀬尾和宏被告人に対する刑事事件の公判において,喜田村弁護人は,瀬尾和宏被告人に対して,本年5月に3学会が合同で3学会検討委員会を作って3学会報告書が出されたことを知っているかどうかを尋ねる被告人質問をし,3学会報告書に言及した。控訴人江刺は,同日の公判を傍聴していた(甲4,弁論の全趣
旨)。
n同年11月13日に東京地方裁判所で開かれた被控訴人に対する刑事事件の第26回公判において,被控訴人の弁護人が3学会報告書を証拠として取り調べることを請求した(甲32の2,弁論の全趣旨)。」
5 27頁21行目から31頁15行目までを次のとおり改める。
「イ)しかしながら,本件書籍は,本件連載記事の毎日新聞紙上への掲載から1年余の期間を経過した時期において,連載記事をまとめたものを新たに単行本(新書)として発行するものであり,本件書籍の発行は,新聞紙上への掲載とは別に被控訴人の社会的評価を低下させ得るものであるから,本件書籍の記載内容の事実を票実であると信ずるについて相当の理由があったか否かは,本件連載記事の掲載時における上記の判断とは別に,本件書籍の発行時を基準として判断すべきである。
(ウ)そして,本件記載は,本件書籍全体の論述の申で重要な位置を占める事実であり,被控訴人が人工心肺装置の操作ミスをした旨の本件記載は,被控訴人に対して重大な名誉毀損の被害をもたらすものであること,本件書籍:の発行時には,被控訴人に対する刑事裁判が係属中であり,前記のとおり被控訴人は,同年8月25日に東京地方裁判所で開かれた刑事事件の公判において,それまで認否を留保していた起訴事実を否認し,「脳障害を引き起こしたのは,ポンプを高回転にしたためではない。」などと主張するに至り,被控訴人も操作ミスを認めているという本件連載記事を執筆した当時の控訴人取材班の認識(認定事実(ア))とは全く異なる状況が生じていたこと,前記のとおり,本件患者の遺族などの側からも,平成14年12月12日,厚生労働大臣に対して,女子医大病院が使用していた入工心肺装置には,何らかの重大な欠陥があると考えられるとして,その導入の過程等について調査を求める要望書が提出され,その旨の報道がされていたことなどの事実に,本件書籍は,速報性を必要とする日刊新聞紙の報道記事としてではなく,毎日新聞社内において医療事故の取材等のために特別に編成された控訴人取材班の継続的な取材の成果を,将来にわたって販売が継続され得る単行本として世に問うものであることを考え合わせると,控訴人取材班としては,本件書籍の発行に当たり,新聞連載時の取材対象等に対する追跡取材及びその後の事態の進展等に即応した新たな取材をし,書籍の記載内容の正確性を再検討する必要があるものというべきである。
(エ)これを本件についてみると,本件記載に関しては,上記イ「認定事実」(イ)記載のとおりの新たな事態の進展があり,これらの事実関係は,いずれも,一定の範囲の者には公開されていたものであり,これらの中には,控訴人取材班自ら取材し,報道したことがあるもの(上記イ「認定事実」(イ)b,c参照),他の報道機関が取材し,報道したもの(上記イ「認定事実」仔)e,f,j,k参照),3学会の関係者,心臓外科の専門医,人工心肺装置に関する技士,研究者及び心臓手術に関連する病院関係者等に知られていると考えられるもの(上記イ「認定事実」(イ)d,e,g,j参照)が含まれているのであって,控訴人取材班としては,上記の取材の必要に基づいて,本件手術の関係者,内部報告書の関係者,心臓外科の専門医,人工心肺装置に関する技士,研究者等に対して上記のような追跡取材及び新たな取材をすれば,これを知り得たものというべきである。
そして,そのような取材をしたとすれば,控訴人取材班は,本件事故について,「東京女子医大で起こった事故は本来陰圧であるはずの静脈貯血槽が急激に陽圧になったためであり,その原因は吸引回路の回転数が非常に高かったためではなく,陰圧吸引補助ラインに使用したフィルターが目詰まりを起こし閉塞した可能性があることが模擬回路による実験でも示された。」との結論を提示して判断の過程及び理由を詳細に記載した3学会報告書を閲覧・入手することができたものというべきであり,内部報告書と3学会報告書とを対比して検討すれば,本件事故の主要な原因が吸引ポンプの回転数を上げすぎたことにあるとする内部報告書の記載が誤りであるか,少なくともその結論に重大な疑義があることを知り得たものであり,したがって,3学会報告書の存在や内部報告書の正確性等の問題点について言及することなく,被控訴人の操作ミスの存在を摘示した記載2の内容を真実の記載としてそのまま維持することが困難であることを認識し得たものというべきである。
(オ)ところが,前記のとおり,控訴人取材班は,本件書籍の発行に際し,海外のデータについて本件連載記事を掲載した時点のデータを最新のも、のにする作業をしたほか,認載内容の正確性についての確認作業をしたが,更に積極的に新たな取材はせず,3学会報告書についても検討したことはなく,本件記事については本件連載記事の内容について,特段の加筆や訂正をすることはしなかったものである。
(カ)なお,控訴人らは,本件書籍発行の段階では,そもそも3学会報告書を入手して検討する契機がなかったと主張する(争点(2)ウ(被告らの主張)(イ)。
しかしながら,控訴人取材班には,前記のとおり,本件書籍の発行に当たり,3学会の関係者,心臓外科の専門医,人工心肺装置に関する技士,研究者,内部報告書の関係者等に対して上記のような追跡取材及び新たな取材をする必要があったのであり,このような取材を実行すれば,3学会報告書の存在を知ることができ,これを入手することができたものというべきであり,控訴人らの上記主張は,更に積極的に新たな取材をしないことを前提とする立論であるから,採用することができない。
(キ)また,控訴人江刺及び控訴人会社従業員の陳述書(乙15,16)には,本件書籍の発行スケジュールにおいて,本件記事の内容について十分な検討をすることは困難であったかのように述べる部分がある。しかしながら,本件書籍の発行時期からすれば,何らの対応をすることもできなかったとは到底考えられない上,そもそも発行スケジュールは控訴人らにおいて決したものにすぎず,控訴人らとしては,本件書籍の記載内容に問題があることが判明したとすれば,出版時期を延期してでも対応すべきであるから,本件書籍の発行スケジュールを理由として,上記の判断を覆すことはできない。
(ク)以上によれば,本件書籍を発行した時点において,控訴人らが被控訴人が本来してはならない吸引ポンプの回転数を上げ続けるという操作をしたことによって本件事故が発生したことを真実であると信ずるについての相当の理由があったと認めることはできない。この点に関する控訴人らの主張は,採用することができない。」
第4結論
以上によれば,被控訴人の請求は原判決が認定した限度で理由があるからその限度で認容し,その余の請求は理由がないから棄却すべきであり,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴及び本件附帯控訴は,いずれも理由がないから,これらを棄却することとする。
東京高等裁判所第12民事部
裁判長裁判官 柳田幸三
裁判官 大工 強
裁判官 坂口 公
これは正本である。
平成21年7月15日
東京高等裁判所第12民事部
裁判所書記官加藤政人
| 固定リンク
| コメント (5)
| トラックバック (0)
最近のコメント