2007年8月27日 月曜日 13時10分 東京地方裁判所 民事第6部
フジテレビ訴訟の判決が下ります。
以下にこれまでの約一年半に渡る訴訟の経過の一部を記載します。
現在テキスト化されて残っているもののみになりますので、全体の書類の3分の2程度になります。被告の準備書面第2,3がありませんので、どちらが優位か正確は判断はできないと思いますが、訴訟の争点などは伝わると思います。
簡単に「名誉毀損で訴えてやる。」と口にする人もいますが、実際一人でやるとなると結構大変です。事務手続きや連絡なども毎回必要ですので、労力はいります。とはいっても、刑事訴訟の100分の1程度の負担かもしれません。
最後まで読み切る暇な人も稀かもしれませんが、私の訴状、準備書面、陳述書を読むだけでも大きな流れはわかると思いますので、ご意見があればコメントお願いいたします。
勝訴しても敗訴しても報道はされると思いますので、その報道に対するコメントでも結構です。
平成18年(ワ)第5889号 損害賠償請求事件
原 告 佐藤一樹
被 告 株式会社フジテレビジョン
訴 状
2006年3月22日
東京地方裁判所 御中
原 告 佐藤一樹
当事者の表示
別紙当事者目録のとおり
損害賠償請求事件
訴訟物の価額 金15,000,000円
貼用印紙額 金 65,000円
第1 請求の趣旨
1 被告は,原告に対し,金15,000,000円及びこれに対する2005年12月2日から完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
第2 請求の原因
1 当事者
(1) 原告は,東京女子医科大学病院(以下「女子医大」という)に勤めていた医師であり,女子医大日本心臓血圧研究所(以下「心研」という)において2001年3月2日に施行された平栁明香氏(以下「本件患者」という)に対する心房中隔欠損症及び肺動脈弁狭窄症の手術(以下「本件手術」という)の際に人工心肺装置の操作を担当していた医師である。
(2) 被告は,テレビ番組放送等を目的とする会社であり,報道番組「FNNスーパーニュース」並びに情報番組「めざましテレビ」及び「とくダネ!」を制作・放送している。
2 本件ニュース
(1) 被告は,2005年11月30日午後4時55分からの「FNNスーパーニュース」において,同午後6時1分ころ同4分ころまでにわたって,原告に関するニュース(甲1-1,1-2-①~⑰,1-3。以下「本件ニュース1」という)を放送した。
(2) 被告は,同年12月1日午前5時25分からの「めざましテレビ」において,同午前5時38分ころから同39分ころまでにわたって,原告に関するニュース(甲2-1,2-2-①~③,2-3。以下「本件ニュース2」という)を,そして,同番組の同午前7時8分ころから同9分ころまでにわたって,原告に関するニュース(甲3-1,3-2-①~③,3-3。以下「本件ニュース3」という)を放送した。
(3) 被告は,同日午前8時00分からの「とくダネ!」において,同8時52分ころから同57ころまでにわたって,原告に関するニュース(甲4-1,4-2-①,②,4-3。以下「本件ニュース4」という)を放送した。
(4) 本件ニュース1ないし4は,いずれも東京地方裁判所の所内と考えられる場所を原告が歩いている場面を映した映像(以下「本件映像」という)を含むものである(甲1-1,甲1-2-①~⑫,甲2-1,甲2-2-①,甲3-1,甲3-2-②,甲4-1,甲4-2-①)。
(5) 本件ニュース1には,次のとおりのナレーション(N),テロップ(T)およびインタビュー発言(I)が含まれている。
T①:「『過失責任 問えない』東京女子医大元医師『無罪』 心臓手術で少女死亡」(以後本件ニュース1の最後まで右上に表示。甲1-1,甲1-2-①~⑰)
T②:「当初罪を認め遺族に謝罪し示談が成立」(甲1-2-⑬)
N①:「佐藤被告は,この手術で人工心肺装置の操作を担当しており,ポンプの回転数を不適切に上げるなどして血液の循環を悪くさせ,脳障害で死亡させたとして起訴されていました。」
T③:「当初罪を認め遺族に謝罪し示談が成立」(甲1-2-⑭)
N②:「佐藤被告は当初罪を認めて遺族に謝罪し,示談が成立」
T④:「法廷では一転して過失を否定」(甲1-2-⑮)
N③:「しかし法廷では,一転して過失を否定してきました。立証の難しい医療過誤で医師が逮捕されることは極めて異例であり,当時,高度な医療を行う特定機能病院に承認されていた東京女子医大は,この事件でその承認を取り消されています。また,この事故では手術後にカルテを改ざんしたとして証拠隠滅罪に問われた医師には,懲役1年執行猶予3年の有罪判決が言渡されています。
なぜ改ざんした医師が有罪になり,機器を操作した佐藤被告が無罪になったのでしょうか。」
(西田研司弁護士と電話している映像)
T⑤:「さまざまな危険を回避する義務があるがそれを放置し」(甲1-2-⑯)
I①:「いろんな危険を回避する義務というのはやっぱりあると思うのですね。」
T⑥:「おこたって未熟な医師に扱わせた」(甲1-2-⑰)
I②:「それを放置して,まああのそういうことを怠ってですね,未熟な医師にあの二重三重にそういうことが起こらないように,あの予防体制をとりながら本当はやるべきだったでしょうと...」
(本件患者父の会見の映像)
I③:「非常に医師に対して甘い判決だなあと思って,本当にがっかりしています」
(6) 本件ニュース2には,「東京女子医大医療過誤事件 元医師に無罪判決」というテロップ及び「事故は予期出来なかったとして元医師に無罪を言い渡しました。」,「業務上過失致死罪に問われた元医師の佐藤一樹被告に対して,東京地方裁判所は無罪を言い渡しました。」というナレーションが含まれている(甲2-2-①,②,甲2-3)。
(7) 本件ニュース3には,「東京女子医大 医療過誤事件 元医師に無罪判決」というテロップ(T⑦)及び「女子医大 医療過誤 元医師に無罪判決」というテロップ(T⑧)並びに原告に無罪判決が出たことを報じる「医療事故の元医師に無罪判決。(中略)元医師の佐藤一樹被告に対して東京地方裁判所は無罪を言い渡しました。」というナレーション(N④)及び「相変わらず医療事故に対する刑事責任の追及の難しさを物語っています」というナレーション(N⑤)が含まれている(甲3-2-①~③,甲3-3)。
(8) 本件ニュース4には,「一方,佐藤元医師に関しましては,被告に関しましては業務上過失致死罪で今回は無罪。」というナレーションが含まれている(甲4-3)。
3 原告に対する名誉毀損及び肖像権侵害
(1) 本件ニュース1が一般視聴者に伝える意味
本件ニュース1は,以下のような意味を一般視聴者に伝える。
・原告は,当初自己のミスを認めて遺族に謝罪しており,遺族との間で示談も成立している(T②,T③,N③)。
・それが,法廷では,原告は一転して態度を変えて過失を否定し始めた。医療過誤では立証が難しく,医師に否認されると有罪にするのが難しい(T④,N③)。
・医師にはさまざまな危険を回避する義務があるが,原告が未熟であったために,危険を回避できなかった(T⑤,T⑥,I①,I②)。
・本来であれば有罪になるべきであるのに,医師に対して非常に甘い判決であったために無罪になった(I③,N③)。
・原告は,本件事故の責任をとって,自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられており,それゆえ「元医師」と表示されている(T①)
(2) 本件ニュース2が一般視聴者に伝える意味
本件ニュース2は,本件事故の責任をとって,原告は,自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられており,現在は医師ではないという印象を与える。
(3) 本件ニュース3が一般視聴者に伝える意味
本件ニュース3は,以下のような意味を一般視聴者に伝える。
・原告は,本件事故の責任をとって,自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられており,それゆえ現在は医師ではない(T⑦,T⑧,N④)。
・原告に対して無罪判決が出されたのは,医療事故に対する刑事責任追及が難しいためであって,本来であれば原告は有罪になってしかるべきであった(N⑤)。
(4) 本件ニュース4が一般視聴者に伝える意味
本件ニュース4は,本件事故の責任をとって,原告は,自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられており,現在は医師ではないという印象を与える。
(5) 上記による原告の社会的評価の低下
上記はいずれも,専門性を有するべき医師が,未熟であったために手術中のミスによって本件患者を死亡させたという印象を生じさせるものであり,原告の社会的評価を低下させる。
(6) 本件ニュースによる肖像権侵害
本件映像は,原告の承諾なしに,本来撮影の認められない場所で原告の容ぼうを隠し撮りしたものであって,みだりに原告の容ぼうを撮影かつ公表したものであるから,原告の肖像権を侵害する。
4 被告の責任
被告は,本件ニュース1ないし4において,上記のとおり,原告の名誉を毀損するテロップやナレーション及び原告の肖像権を侵害する映像を繰り返し流したのであるから,これによって原告に生じた損害を賠償する責任を負う。
5 救済
(1) 原告は,高い専門性を有する心臓外科医であるが,本件ニュースによって,未熟な医師であり,ミスによって患者を死亡させたとの誤解が社会に広まった。
(2) 本件ニュースによって原告が蒙った名誉毀損に対する慰謝料は,金10,000,000円を下らない。
(3) 本件ニュースによって原告が蒙った肖像権侵害に対する慰謝料は,金5,000,000円を下らない。
6 結論
よって,原告は,被告に対し,民法709条および710条に基づき,本件ニュースの放送によって原告が蒙った損害の賠償を求めるため,請求の趣旨記載のとおりの損害賠償金の支払を求め,あわせて本件ニュースが放送された2005年11月30日及び同12月1日より後の日である同年12月2日から完済に至るまで民事法定利率である年5分の割合による遅延損害金の支払を求めて本訴に及んだ。
附属書類
1 証拠説明書 1通
1 甲第1号証ないし4号証の3 各1通
1 資格証明書 1通
当事者目録
〒●●●-●●●● 東京都●●区●●●●丁目●●番●●号
●●●●●●号(送達場所)
電話: ●●-●●●●-●●●●
ファクシミリ:●●-●●●●-●●●●
原 告 佐藤一樹
〒137-8088 東京都港区台場2丁目4番8号
被 告 株式会社 フジテレビジョン
代表者代表取締役 ●● ●
証拠説明書(1)
2006年3月22日
東京地方裁判所 御中
原 告 佐藤一樹
号 証 |
標 目
(原本・写しの別) |
作 成
年月日 |
作成者 |
立 証 趣 旨 |
備考 |
甲1-1 |
「FNNスーパーニュース」(2005年11月30日放送分)映像 |
写
|
2005.11.30 |
被告 |
本件ニュース1の内容及び被告が本件ニュース1を放送したこと |
CD-Rに収録 |
甲1-2-①~⑰ |
甲1の1の静止画(抜粋) |
写 |
同上 |
同上 |
同上 |
|
甲1-3 |
甲1の1の反訳 |
- |
2006.3 |
原告 |
本件ニュース1の内容 |
|
甲2-1 |
「めざましテレビ」(2005年12月1日午前5時38分ころより放送分)映像 |
写 |
2005.12.1 |
被告 |
本件ニュース2の内容及び被告が本件ニュース2を放送したこと |
CD-Rに収録 |
甲2-2-①, ② |
甲2の1の静止画(抜粋) |
写 |
2005.12.1 |
同上 |
同上 |
|
甲2-3 |
甲2の1の反訳 |
- |
2006.3 |
原告 |
本件ニュース2の内容 |
|
甲3-1 |
「めざましテレビ」(2005年12月1日午前7時8分ころより放送分)映像 |
写 |
2005.12.1 |
被告 |
本件ニュース3の内容及び被告が本件ニュース3を放映したこと |
CD-Rに収録 |
甲3-2-①~③ |
甲3の1の静止画(抜粋) |
写 |
同上 |
同上 |
同上 |
|
甲3-3 |
甲3の1の反訳 |
- |
2006.3 |
原告 |
本件ニュース3の内容 |
|
甲4-1 |
「とくダネ!」(2005年12月1日放送分)映像 |
写 |
2005.12.1 |
被告 |
本件ニュース4の内容及び本件ニュースを被告が放送したこと |
CD-Rに収録 |
甲4-2-①,② |
甲4の1の静止画(抜粋) |
写 |
同上 |
同上 |
同上 |
|
甲4-3 |
甲4の1の反訳 |
- |
2006.3 |
原告 |
本件ニュース4の内容 |
|
以 上
甲第1号証の3
2005年11月30日放送 「FNNスーパーニュース」
6:01pm
(西山喜久恵アナウンサー)
「4年前に東京女子医大病院で心臓の手術を受けた当時12歳の少女が死亡した医療過誤事件で、東京地裁は今日、当時の担当医に無罪の判決を言い渡しました。
遺族は先ほど会見を行い怒りを露わにしています。」
(以後、右上に『「過失責任は問えない」東京女子医大元医師「無罪」心臓手術で少女死亡』の表示)
(平栁明香さんの父)
「最初聞いたときは頭の中が真っ白になった。というのが本当にあの場にいての雰囲気でした。」
(女性の声〔西山アナウンサーとは別の姿の見えないアナウンサーの声〕)
「無念の思いを語る遺族。現職の医師が逮捕され医療界に衝撃をもたらした東京女子医大の医療過誤事件。
(原告が裁判所内と思われる場所を歩いている映像と「佐藤一樹被告(42)」の文字)
この事件で業務上過失致死に問われていた佐藤一樹被告に対する判決が今日午後言い渡されました。
6:02pm(裁判官等法廷の映像)
東京地裁が言い渡した判決、それは無罪。その理由として、人工心肺の構造に問題があったことを指摘。事故を予見することが出来たとは認められず、過失責任を問うことはできないというものでした。事故が起きたのは2001年3月。当時12歳だった平栁明香さんが、東京女子医大病院で心臓手術を受け、その3日後に死亡したのです。
(上記の原告が歩いている映像)
佐藤被告はこの手術で人工心肺装置の操作を担当しており、ポンプの回転数を不適切に上げるなどして血液の循環を悪くさせ、脳障害で死亡させたとして起訴されていました。
(原告が他の医師と並んで座っている静止画「当初罪を認め遺族に謝罪し示談が成立」の表示)
佐藤被告は当初は罪を認めて遺族に謝罪し、示談が成立。
(原告のアップの静止画「法廷では一転して過失を否定」の表示)
6:03pm
しかし法廷では、一転して過失を否定してきました。立証の難しい医療過誤で医師が逮捕されることは極めて異例であり、当時、高度な医療を行う特定機能病院に承認されていた東京女子医大は、この事件でその承認を取り消されています。また、この事故では手術後にカルテを改竄したとして証拠隠滅罪に問われた医師には、懲役1年執行猶予3年の有罪判決が言い渡されています。
(原告のアップの静止画)
何故改竄した医師が有罪になり、
(原告が他の医師と並んで座っている静止画)
機器を操作した佐藤被告が無罪となったのでしょうか。」
(西田研司弁護士と電話している様子)
(「様々な危険を回避する義務があるがそれを放置し」の表示)
「いろんなあの危険を回避する義務というのはやっぱりあると思うのですね。
(「おこたって未熟な医師に扱わせた」の表示)
それを放置してまああのそういうことを怠ってですね。未熟な医師にあの二重三重にそういうことが起こらないようにあの予防体制を取りながら本当はやるべきだったでしょうと・・・。」
6:04pm
(女性の声)
「判決の後、明香さんの両親は40分にもおよぶ会見を行いました。」
(平栁明香さんの父)
「非常に医師に対して甘い判決だなあと思って、本当にがっかりしています。」
甲第2号証の3
2005年12月1日放送 「めざましテレビ」
5:38am
(女性キャスター)
(原告の写真の下に「医師“無罪”」の表示)
「事故は予期出来なかったとして元医師に無罪を言い渡しました。
(真ん中下の方に「東京女子医大医療過誤事件 元医師に無罪判決」の表示)
東京女子医大病院で2001年心臓手術を受けた当時12歳の平栁明香ちゃんが死亡した事故で、
(原告が裁判所内と思われる場所を歩行している映像)
業務上過失致死罪に問われた元医師の佐藤一樹被告に対して、東京地方裁判所は無罪を言い渡しました。」
(原告)
(原告の映像の左に「佐藤一樹元医師」の表示)(以後右上に「東京女子医大医療過誤事件 元医師に無罪判決」の表示)
「ほとんど不安なく無罪だと思っていました。」
(平栁明香さん父)
「最初聞いたときは頭の中が真っ白になった。非常に医師に対して甘い判決だなあと思って、」
(女性の声)
「東京地裁は判決の理由として、客観的にみて人工心肺の構造には問題があったと指摘した上で、被告が事故を予見することは出来なかった等としています。」
5:39am
(男性キャスター)
「そうすると構造的には問題のあった人工心肺を何故使わせたのかという問題が残りますよね。」
甲第3号証の3
2005年12月1日放送 「めざましテレビ」
7:08am
(男性の声)
「医療事故の元医師に無罪判決。
(真ん中下の方に「東京女子医大医療過誤事件 元医師に無罪判決」の表示)
東京女子医大病院で2001年心臓手術を受けた当時12歳の平柳明香さんが死亡した事件で、業務上過失致死罪に問われた
(原告が裁判所内と思われる場所を歩行している映像)
元医師の佐藤一樹被告に対して東京地方裁判所は無罪を言い渡しました。」
(原告)
(原告の映像の右に「佐藤一樹元医師」の表示)(以後右上に「東京女子医大医療過誤事件 元医師に無罪判決」の表示)
「ほとんど不安無く無罪だと思っていました。」
(平栁明香さん父)
「最初聞いたときは頭の中が真っ白になった。非常に医師に対して甘い判決だなあと思って、」
(男性の声)
「東京地裁は、判決の理由として、客観的にみて人工心肺の構造には問題があったと指摘した上で、被告が事故を予見することは出来なかった等としています。」
(男性キャスター)
7:09am
「相変わらず医療事故に対する刑事責任の追及の難しさを物語っています。
(以後右下に「東京女子医大医療過誤事件 元医師に無罪判決」の表示)
人工心肺装置そのものに欠陥があったのではないかという指摘ですけれども、ではそれを使った病院側の責任もないのかということも余地が残されていますよね。」
甲第4号証の3
2005年12月1日 「とくダネ!」
8:52am
(男性キャスター)
「この医療ミス問題はインサイドウオッチでもとりあげました。判決が下ったのですが。」
(平栁明香さん父)
「最初聞いたときは頭の中が真っ白になった。」
(男性キャスター)
(右上に「手術で女児死亡 責任誰に 医師無罪」の表示)
「昨日東京地裁でくだされた判決。平栁明香さん当時12歳。明香さんの心臓には生まれつき孔が開いていました。
8:53am
中学入学を目前に控えた明香さんは簡単な手術だから入学前にと手術を受ける決心をしたのです。」
(女性の声)
「死ぬことはないよね。」
(男性キャスター)
「手術するには心臓を一時的に止めなくてはなりません。この日明香さんは人工心肺装置を使用しました。人工心肺装置とは全身から心臓に戻る血液等をポンプで吸い取り、一旦貯めて再び体内に戻すという装置です。しかし、手術中にこの装置にトラブル発生。手術室がパニックになりました。明香さんは手術後一度も意識を取り戻すことなく3日後に死亡。両親は医療過誤があったとして手術を担当した医師ら5人を刑事告訴しました。」
8:54am
(平栁明香さん父)
「家族の怒りっていうのが、簡単にいうと死んでしまったものは、帰ってこないんだと。その悲しみはあるけれども、そのいっそう腹が立つことはそれを隠したり嘘を言い続けようとする人達の方が、もっと腹が立ち、まあ、罰せられていいのではないかと思っております。」
(男性キャスター)
(原告が裁判所内と思われる場所を歩行している映像)
「そして、執刀医と人工心肺装置を操作していた医師二人が逮捕。
(一旦女子医大の映像)
さらに東京女子医大は特定機能病院の承認を取り消されるという異例の事態へと発展したのです。
(原告が裁判所内と思われる場所を歩行している映像)
裁判の焦点は、手術で人工心肺装置の操作を担当し業務上過失致死罪を問われていた佐藤一樹被告が装置の不具合を予見できたかどうかでした。その判決は。」
8:55am
(別の男性の声)
「被告人は無罪。開発者でもない医師が、装置の危険性について気づかなかったとしても責めるのは酷。」
(男性キャスター)
「判決は、人工心肺装置そのものに事故の危険性があり、佐藤被告の責任は問えないというものでした。」
(原告)
(「佐藤一樹医師(42)」の表示)
「最初から無罪とは思っておりました。」
(男性キャスター)
「一方、明香さんの両親は判決後やりきれない思いを語りました。」
(平栁明香さん母)
「人工心肺の機械は勝手に動いているわけではありませんし、自然に出てきたものではない、作った人がいるし、それを操作していた人間がいるわけで、その人達に何の過失も問えないかという・・・。」
(平栁明香さん父)
「医療裁判というのは難しいでしょうけど、あの、やはり、失ったものが家族側にある以上そのへんを配慮した判決が欲しいと思いますね。」
8:56am
(男性キャスター)
「この医療事故によりまして逮捕された二人の医師の判決は割れました。執刀医。責任をもって手術を行っていました。有罪です。そして、実際に操作ミスをしたのではないかといわれていた人工心肺装置を操作していた医師は無罪でした。何故割れたのか。罪を見ますとはっきりします。実は、執刀医は証拠隠滅罪を問われていました。カルテの改竄をおこなっていたのですね。これ装置がおかしくなって女の子が亡くなってしまった。このことを隠そうとしたことで有罪になっています。一方、佐藤元医師に関しましては、被告に関しましては業務上過失致死罪で今回は無罪。なぜならば、操作ミスという訴えでしたが、判決は装置自体の不具合と考えられて、そのことをあらかじめ佐藤被告は予見できたとは言えないだろう。なぜならば、こちらです。死亡の原因となった人工心肺装置の不具合は当時認識されていなかったので、しかたがないということなのですね。」
8:57am
(男性キャスター 2)
「人工心肺装置が止まったら命にかかわることは誰でもわかるわけですけども、ただ、それが突然不具合を生じても手のほどこしようがなかったとうことなのですよね。今回の例はね。」
(コメンテイター)
「そうですね。結局操作ミスではない。操作ミスであるという検察側の主張は覆されてしまったとうことなんですね。ただ、無罪判決は下ったものの、判決の中で裁判長は、こうした危険な人工心肺装置を使っていた東京医大の管理責任というものは問われることはあると。失礼、女子医大の責任は重いというような内容のことをですね、触れているんですね。言及している。ただ、この点を追及しようにも、検察側が、そこを焦点をあてて裁判を行ったわけではないですし、それから、また、民事の方も、既に、実は、和解が成立しゃっているので、この問題責任の持って行きようがないですね。そこはちょっとやりきれないところです。」
(男性キャスター)
「結局はこの心肺装置の不具合があったら大変な問題じゃないですか。でも当時そのことは認識されていなかったと言われたら、じゃ、どこに怒りをもっていけばいいんですかというのが、遺族の皆さんの気持ちなんですね。」
(男性キャスター 2)
「車だったらリコールというのがあるけでもね。それが亡くなってしまっちゃったわけですからね。」
以上
被告 答弁書
平成18年5月17日
東京地方裁判所民事第6部合議B係御中
〒100-●●●●東京都千代田区●●町●丁目●番●号
弁護士法人●●●●法律事務所(送達場所)
電話
FAX
被告訴訟代理人弁護士●● ●
同●●●●
同●●●●
同●●●●●
同(担当)●●●●
上記当事者間の御庁頭書事件にっいて,原告から提出された2006年(平成18年)3月22日付訴状に対し,被告は下記のとおり答弁する。
記
第1請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する
2 訴訟費用は原告の負担とする
との判決を求める。
第2請求の原因に対する認否
1 請求原因1の事実は,認める。
2 同2の事実のうち,本件ニュース1ないし4で放映された本件映像が「いずれも東京地方裁判所の所内と考えられる場所を原告が歩いている場面を映した映像」とする点は否認し,その余は認める。本件映像は,平成14年9月25日18時47分ころ,保釈された原告が東京拘置所から出てくる場面を映した映像である。
3 同3(1)ないし(6)の事実は否認ないし争う。
4 同4は争う。
5 同5(1)の事実は否認する。
同5(2)及び(3)の事実は不知ないし争う。
6 同6は争う。
第3被告の主張
1 名誉段損について
(1)原告は,本件ニュース1ないし4(以下,総称して「本件放送」という。)が,一般視聴者に対し,「専門性を有するべき医師が,未熟であったために手術中のミスによって本件患者を死亡させたという印象を生じさせるものであり,原告の社会的評価を低下させる」(訴状6頁)と主張する。
2 しかし,本件放送は,一般視聴者に対し,原告が主張するような印象を生じさせるものではなく,原告の社会的評価を低下させてはいない。
(2)そもそも,本件放送は,業務上過失致死罪に問われていた原告に無罪が言い渡されたことを一般視聴者に伝えるものである。被告は,本件放送において,原告が無罪となったという結果のみを報道したのではなく,原告には事故の予見可能性がなかったという判決理由についても報道している。しかも,被告は,本件放送において,原告が無罪判決となったことに対する批判は行っていない。本件放送によって,一般視聴者は,原告は業務上過失致死罪に問われて起訴されたが,裁判所は予見可能性なしと判断して原告を無罪とした事実を知ることとなる。したがって,捜査段階の報道や起訴された事実の報道等によって低下していた原告の社会的評価は,本件放送によって回復している。少なくとも,原告の社会的評価が,本件放送がなされる前の状態よりも低下していることはない。
(3)原告は,本件放送が無罪報道であることを正しく理解せず,本件ニュース1で使用された「未熟な医師」という言葉や,本件放送において原告を「元医師」としている点などを問題視している。しかし,r未熟な医師」という言葉について言えば,西田弁護士の「未熟な医師にあの二重三重にそういうことが起こらないようにあの予防体制を取りながら本当はやるべきだったでしょうと…。」というコメント中で使用されている言葉であり(甲第1号証の3),東京女子医大病院の管理体制に問題があることを指摘する文脈で使用されていることが明らかである。従って,そのような文脈を超えて,原告が主張するように,「原告には予見可能性があり,本来であれば有罪になるべきである」との印象を一般視聴者に与えるものではない。
また,被告が,原告を「元医師」としたのは,「事故当時は東京女子医大病院の医師であったが,現在は東京女子医大病院の医師ではない」との趣旨であるところ,仮にこの表現が「現在医師ではない」との印象を与えたとしても,原告が主張するように,「本件事故の責任をとって,原告は,自ら医師を辞めたか,あるいはへ医師を辞めさせられ」たとの印象を一般視聴者に与えるものではない。
2 肖像権侵害について
(1)原告は,本件映像が,原告の承諾なしに,本来撮影の認められない場所で原告の容ぼうを隠し撮りしたものであるとして,みだりに原告の容ぼうを撮影かつ公表したものであるから,原告の肖像権を侵害すると主張する。しかし,本件映像は,本来撮影の認められない場所で隠し撮りされたものではない。また,本件映像の撮影当時,原告は撮影されていることを知りながら,撮影されることに異議を述べなかった。
(2)本件映像は,被告の報道スタッフにより,平成14年9月25日18時47分ころ,東京拘置所付近路上において撮影されたものである。このことは,「面会受付」という文字や警備員の姿が映像に含まれていることからも明らかである(甲第1号証の2の⑨ほか)。また,本件映像は,日没後周囲が暗くなった状況下で,原告に対し照明をあてつつ撮影されたものである。つまり,本件映像は,公道上において,原告が撮影を明確に認識しうる方法で撮影されたのであって,およそ隠し撮りの類にはあたらない。しかも,照明をあてるなどして,原告が明確に認識しうる方法で撮影が行われているにも関わらず,原告は,被告の報道スタッフに対して,特段異議を述べることもなく,被告報道スタッフの前を横切り,そのままタクシーに乗り込んだ。
(3)したがって,本件映像は,原告の主張するような,「原告の承諾なしに,本来撮影の認められない場所で原告の容ぼうを隠し撮りしたもの」ではなく,原告の肖像権を侵害するものでもない。
附属書類
1 訴訟委任状 1通
原告 準備書面(1)
2006年6月7日
東京地方裁判所民事第6部合議B係御中
原 告 佐藤一樹
答弁書に記載された被告の主張に対する原告の反論及び求釈明は以下のとおりである。
第1 被告の主張に対する原告の反論
1 無罪報道と名誉毀損の成否の基準
① 被告は, 本件ニュースが原告の社会的評価を低下させているという点を争い、「本件放送において、原告が無罪判決となったことに対する批判は行っていない」、「原告は,本件放送が無罪報道であることを正しく理解せず」等と主張する(答弁書3頁)。
② しかし、抽象的に本件放送が「無罪報道」であるか否かを議論することは,無意味である。重要なことは、どのような視点から無罪報道を行ったか、また、報道に際して、具体的にどのような表現を用いたかである。
③ そのような観点からみた場合、本件ニュースによる原告の社会的評価の低下は、すでに訴状で記載したとおり明らかであるが、以下、若干の補足をする。
(ア)無罪報道への批判的視点
本件ニュースが、無罪報道に対して批判的視点で描かれていることは明らかである。この点を本件ニュース1に即して述べる。
本件ニュース1は、冒頭において東京地裁が無罪の判決を言渡したことを簡単に告げた後、すぐに遺族のナレーションを紹介するとともに、そのことについて、「遺族は先ほど会見を行い怒りを露わにしています」「無念の思いを語る遺族」とコメントしている。
その後、本件ニュース1は、「当初罪を認め遺族に謝罪し示談が成立」というテロップを流すとともに、音声でも「佐藤被告は当初は罪を認めて遺族に謝罪し、示談が成立」と紹介し、「しかし法廷では、一転して過失を否定してきました。立証の難しい医療過誤...」と伝えて、原告が態度を変えたことを前提に(なお、そのこと自体誤りであるが、その点は真実性・相当性に関する被告の主張を待って述べる)、そのことに批判的ニュアンスをこめている。さらに、「何故改竄した医師が有罪になり、機器を操作した佐藤被告が無罪になったのでしょうか」という疑問を投げかけ、「様々な危険を回避する義務があるがそれを放置し」、「おこたって未熟な医師に扱わせた」というテロップを流し、弁護士のコメントとしても、「未熟な医師に...」と言わせている。そこでは、なぜ原告が無罪になったかについて明確な答えは示されていないのであって、本件ニュース1を見た一般視聴者は、原告が無罪になったことについての疑問は解消されないものと受け取る。
そして、本件ニュース1は、最後に「判決の後、明香さんの両親は40分にもおよぶ会見を行いました。」と紹介し、本件患者の父親による「非常に医師に対して甘い判決だなあと思って、本当にがっかりしています。」というコメントで締めくくられている。
このように、本件ニュース1では、取材した弁護士や本件患者遺族の口を通じて、無罪判決が医師に対して甘いものであり、本来は危険を回避する義務があるのに、それができなかった未熟な医師を無罪にしたという批判的視点に立っていることが明らかである。さらに、取り上げ方としても、他の報道機関では、無罪判決を受けて記者会見をした遺族と、同様に記者会見をした原告とを並列的に扱っているのに対し、本件ニュースでは、原告の記者会見の模様は一切用いず、過去の映像のみを用いている。そして、ニュースの最初と最後に、判決に批判的な遺族のコメントで構成しているのであるから、これを見た一般的な視聴者も、本件ニュースが判決に批判的であることを容易に理解するものである。
(イ) 未熟な医師
① 被告は, 「1名誉毀損について」(3)で,「『未熟な医師』という言葉について言えば,西田弁護士の『未熟な医師にあの二重三重にそういうことが起こらないようにあの予防体制を取りながら本当はやるべきだったでしょうと…。』というコメント中で使用されている言葉であり (甲第1号証の3 ), 東京女子医大病院の管理体制に問題があることを指摘する文脈で使用されていることが明らかである』と主張する。
② (テレビジョン放送による報道に関する最高裁平成15年10月16日第一小法廷判決・民集57巻9号1075頁)「テレビジョン放送をされた報道番組において,その内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべきである。そして,新聞記事等の場合とは異なり,視聴者は,音声及び映像により次々と提供される情報を瞬時に理解することを余儀なくされるのであり,録画等の特別の方法を講じない限り,提供された情報の意味内容を十分に検討したり,再確認したりすることができないものであることからすると,当該報道番組により摘示された事実がどのようなものであるかという点については,当該報道番組の全体的な構成,これに登場した者の発言の内容や,画面に表示されたフリップやテロップ等の文字情報の内容を重視すべきことはもとより,映像の内容,効果音,ナレーション等の映像及び音声に係る情報の内容並びに放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して,判断すべきである」こと鑑みれば、原告を「未熟な医師」と断言しそのことを前提としている西田弁護士のコメントを含む放送は名誉を毀損する。
③ 西田弁護士のコメントの直前には,原告のアップの静止画とともに「何故改竄した医師が有罪になり,機器を操作した佐藤被告が無罪となったのでしょうか。」というナレーションによる問いが放送されている。これに対する答えを西田弁護士に求める構成となっている。被告の言葉を借りれば,原告の「無罪判決」報道において,話題は「原告が無罪となった理由」になっている。したがって,原告についての放送が中心となっているところに突然「東京女子医大病院の管理体制について問題」が持ち出されるはずがない。また,西田弁護士のコメントには「東京女子医大病院」や「管理体制」という言葉は存在しない。したがって,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方では,「東京女子医大病院の管理体制に問題があることを指摘」していると理解することはできない。
④ さらに,「未熟な医師」発言の直前には,「いろんな危険を回避する義務というのはやっぱりあると思うのですね。」のインタビューが存在し,この一連の文脈からは,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方でからすれば,「危険回避義務があるのに、それを怠ったのは原告である。」と理解される。
⑤ いずれにせよ、この文脈において、「未熟な医師」イコール「原告」を意味していることは明らかであり、かつ、原告が「未熟な医師」であること、危険回避義務を怠ったということは断言されている。
⑥ 以上より,被告の主張は誤りである。
(ウ) 元医師
① 被告は, 「1名誉毀損について」(3)で,「被告が,原告を『元医師』としたのは,『事故当時は東京女子医大病院の医師であったが,現在は東京女子医大病院の医師ではない』との趣旨である」と主張する。
② 報道機関が正しい日本語文法を用いて,上記のような事実の趣旨を一般視聴者に伝えるためには,「元東京女子医大医師」「元女子医大医師」等,あるいは役職を使用して「東京女子医大元助手」「女子医大元助手」等とするのが,通常である。現代国語の教科書を紐解くまでもなく,普通名詞「医師」の直前に接頭語「元」を伴った「元医師」という日本語は,「以前は医師であったが現在は医師ではない人」を指す。
③ 上記のような「元東京女子医大医師」「東京女子医大元助手」等の放送を一切せずに,「元医師」と放送すれば,一般視聴者は,本件ニュースが放送された当時の原告が「元医師」であると理解することは明らかである。原告は,医師免許を取得し医師となってから,医師免許を失ったことは一回もない。また,本件ニュースが放送された2005年11月30日の午前中も現役の医師として診療を行い,同年12月1日には,終日診療を行った。したがって,2005年11月30日および,同年12月1日に原告を繰り返し「元医師」と放送した本件ニュースは誤りであり,放送による被害は甚大である。
(エ) 現在は医師でない理由
① 被告は, 「1名誉毀損について」(3)において仮にこの表現が「現在医師ではない」との印象を与えたとしても,原告が主張するように,「本件事故の責任をとって,原告は,自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられ」たとの印象を一般視聴者に与えるものではない。」と主張する。
② 国家資格を要する専門職,特に医師として就業していた人物が,医師ではなくなり「元医師」となることは例外的である。特に本件ニュース放送当時の原告の年齢である42歳以前であれば,極めて稀である。一般視聴者が,「4年前の本件手術において医師として診療していた原告が,42歳の現在医師ではない」という印象を持てば,「本件手術後から判決までの間に何らかの誘因があり,『自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられ』たという印象を持つ」ことは自然なことである。
③ また,原告がこの本件手術後から判決までに,「診療を続けられないほど健康を損なった」とか,「転職して自ら医師を辞めた」とか,「行政処分を受けて医師免許を剥奪された」といった事実もその報道も存在しない。したがって一般視聴者は,上記②の「本件手術後から判決までの間の何らかの誘因」は,「本件事件に関連している」以外には考えられないのであり,本件ニュースは「本件事故の責任をとって,原告は,自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられ」たとの印象を一般視聴者に与えることは明らかである。
(オ)以上のとおり、無罪判決に批判的視点に立った本件ニュースの全体的なトーン、その文脈における「未熟な医師」、「元医師」といった具体的な表現などに照らすならば、本件ニュースが原告の社会的地位を低下させることは明らかである。
2. 答弁書 第3,「2肖像権の侵害について」
(ア) 映像の撮影日時,場所
① 被告は答弁書 第2の2において,原告が「いずれも東京地方裁判所の所内と考えられる場所を原告が歩いている場面を映した映像」は,「平成14年9月25日18時47分ころ,保釈された原告が東京拘置所から出てくる場面を映した映像」ということを前提として,本件放送が隠し撮りしたものではないと主張する。
② しかし、詳しくは後記求釈明に対する釈明を待って主張するが、本件映像が、原告が東京拘置所を出た後の公道を歩いている場面のみを撮影したものとは思われない。また、仮に本件映像が,被告の指摘した日時場所であったとしても,被告が原告の肖像権を侵害したことに変わりはない。
(イ) 撮影に対する異議
① 被告は,「原告が,撮影されていることを知りながら,撮影されることに異議を述べなかった」「照明をあてるなどして,原告が明確に認識しうる方法で撮影が行われているにも関わらず,原告は,被告の報道スタッフに対して,特段異議を述べることもなく, 被告報道スタッフの前を横切り,そのままタクシーに乗り込んだ」という記載している。
② この記載が仮に,事実だとしても,それによって,何を主張しようとしているかは判然としない。原告の承諾なしに,原告が望まない場所での映像を撮影し,それを報道したことは事実である。
③ また,仮に本件映像が,被告の指摘した日時場所であったとしても,打ちっ放しの壁を背景に,拘置所の職員と伴に撮影されること(原告が身柄拘束機関の管理下にあるかの印象を与える)を原告が望まなかった。
(ウ) 原告記者会見後の放送
① 原告は,2004年11月30日の無罪判決の当日,「東京高裁内 司法記者会」の要請により記者会見を行った。この記者会見は,「午後6時頃からの各テレビ局の放送に間に合うように」と同記者会幹事社に依頼されたため,午後6時の放送までに充分に余裕がある午後4時30分ころから行われた。
② したがって、被告を含めた記者会に属するテレビ局は、午後6時の時点で、無罪判決後の原告の記者会見の映像を入手していた。現に、原告が知る限り,同日午後6時以降に,被告を除くNHKと民放各社が放送した原告の映像は,記者会見中のものだけである。
③ 本件ニュース報道の違法性は、「個人の肖像写真の撮影及び出版物への掲載により人格的利益が侵害された場合の違法性の判断においては,表現,報道の自由との適正な調整を図る必要があり,当該写真の撮影及びその掲載が,公共の利害に関する事実の報道に必要な手段として公益を図る目的のもとに行われたものか否か,仮にそうだとしても,当該写真の内容,撮影手段及び方法が右報道目的からみて必要性・相当性を有するか否か,という観点から検討しなければならない。」(東京地方裁判所判決/昭和61年(ワ)第13809号 平成元年6月23日)から判断すれば明らかである。
④ 原告の無罪を報道する目的であれば、無罪となった後の原告の映像は、「原告がその撮影と報道を承諾した映像」であり、「公共の利害に関する事実の報道に必要な手段として公益を図る目的のもとに行われ」たものである。
⑤ しかしながら、この放送の目的によれば、原告の初公判時の映像や、保釈時の映像には、その公共性、公益性はない。また、本件映像が「内容,撮影手段及び方法が右報道目的からみて必要性・相当性」がないことは明らかである。
(エ) 38歳時の映像
① 本件映像では,映像とともに「佐藤一樹被告 (42)」というテロップが放送された。(甲第1号証の2の①,2の②,2の③,2の④,2の⑥)
② 本件映像が放送された2005年11月30日無罪判決時において,原告は42歳である。本件映像が,第一回公判(2002年9月18日:要確認)時に撮影したものであるとしても,保釈時(2002年9月25日)に撮影したものであるとしても、原告はなお,本件映像の撮影時に原告38歳であった。
③ したがって、38歳時の原告の映像を放送しながら、「佐藤一樹被告 (42)」という誤ったテロップを流していることは、本来報道する正当性や必要性がまったく認められない4年も前の過去の映像を、わざわざ倉庫等から持ち出してきて流したこと、本件映像利用の相当性の欠如を端的に示している。
第2 求釈明
1.撮影場所の詳細について
被告は、「本件映像は、...東京拘置所付近路上において撮影されたものである」と主張する(答弁書4頁)。しかし、原告は、保釈の際、東京拘置所出口の直近の路上にタクシーを呼んでおき、すぐにタクシーに乗り込んだ。したがって、一定の距離を単独で移動している原告の姿を映している本件映像は、仮に本件映像が被告主張どおり東京拘置所のシーンであるとすれば、東京拘置所附近の公道を歩いている場面ではなく、拘置所内部を歩く原告の姿を映したものと考えられる。そこで、被告に対し、東京拘置所附近のどの地点にカメラを設置し、どの部分を歩く原告の姿を撮影したのかを現場の見取り図等を用いて明らかにすることを求める。あわせて、本件映像の前後の映像(放送しなかった分を含む編集前のもの)を提出するよう求める。
2. 「捜査段階のフジテレビの報道や起訴された事実のフジテレビ報道」の録画提出
被告は,答弁書「1名誉毀損について」(2)において,「捜査段階の報道や起訴された事実の報道等によって低下していた原告の社会的評価は,本件放送によって回復している。少なくとも,原告の社会的評価が, 本件放送がなされる前の状態よりも低下していることはない。」と主張している。しかし、原告は、被告フジテレビによる「捜査段階の報道や起訴された事実の報道等」を見たことがない。そこで、この点について原告として判断・反論するために,被告フジテレビが,
A.捜査段階における原告について
B.起訴された後の原告について
いかなる報道を行ったのかを明らかにすることを求めるとともに、それらを報じた下記①ないし⑥の放送の記録を証拠として提出することを求める。
① FNNスーパーニュース
② ニュースJAPAN
③「めざましテレビ」の午前五時台の放送
④「めざましテレビ」の午前七時台の放送
⑤「とくダネ!」
⑥ 上記①ないし⑤以外の全ての報道番組
3. 西田弁護士のコメント
被告は、西田弁護士のコメントが、「東京女子医大病院の管理体制に問題があることを指摘する文脈で使用されていることが明らかである」と主張する。そのようには考えられないが、西田弁護士のコメントが、いかなる質問に対する回答としてなされたものであるのかを証拠とともに明らかにされたい。
以 上
被告 準備書面(第1)
平成18年8月22日
東京地方裁判所民事第6部合議B係御中
被告訴訟代理人弁護士 ● ● ●
同 ● ● ● ●
同 ● ● ● ●
同 ● ● ●●●
同(担当) ● ● ● ●
上記当事者間の御庁頭書事件について,被告は,下記の通り弁論を準備する。
記
第1名誉段損について
1本件放送の性格
(1) 原告は,「抽象的に本件放送が「無罪報道」であるか否かを議論することは無意味である。重要なことは、どのような視点から無罪報道を行ったか,また,報道に際して,具体的にどのような表現を用いたかである。」とし,「そのような観点からみた場合,本件ニュースによる原告の社会的評価の低下は,すでに訴状で記載したとおり明らかである」と主張する(平成18年6月7日付原告準備書面1~2頁)。
しかし,答弁書において既に主張したとおり,被告は,本件放送において,原告が無罪となったという結果のみを報道したのではなく,原告には事故の予見可能性がなかったという判決理由についても報道しており,しかも,無罪判決に対する批判は行っていない(答弁書3頁)。被告は,これらの点も踏まえ,本件放送の性格を明らかにする趣旨で「無罪報道」と述べたのであり,抽象的な議論をする意図で本件放送を「無罪報道」と表現しているわけではない。
(2) 本件放送は,一般視聴者が高い関心を抱いていた東京女子医大の医療事件の帰趨について報道するものであり,原告に対し無罪が言い渡された事実を視聴者に伝えることを目的とするものである。一般視聴者は,本件放送により裁判所による証拠に基づく緻密な審理を経た結果,起訴事実が認定できなかったことを明確に知ることができる。
しかも,本件放送は,無罪という結果のみを報道しただけではなく,原告に事故の予見可能性が認められなかったという同判決の判決理由をも明確に伝えている。具体的には,本件ニュース1では「その理由として,人工心肺の構造に問題があったことを指摘。事故を予見することが出来たとは認められず,過失責任を問うことはできないというものでした」(甲第1号証の3)と報じ,本件ニュース2及び本件ニュース3では,「東京地裁は判決の理由として,客観的に見て人工心肺の構造には問題があったと指摘した上で,被告が事故を予見することは出来なかった等としています。」(甲第2号証の3,第3号証の3)と報じ,本件ニュース4では「被告人は,無罪。開発者でもない医師が,装置の危険性について気づかなかったとしても責めるのは酷。」,「判決は,人工心肺装置そのものに事故の危険性があり,佐藤被告の責任は問えないというものでした。」(甲第4号証の3)と報じており,いずれも判決理由を明確に伝えている。一般視聴者は,本件放送により,裁判所が「人工心肺装置の構造に問題があり,原告に事故の予見可能性がない」と判断したこと明確に知ることができる。さらに,本件放送は,無罪判決に対する批判(例えば,証拠評価など事実認定に問題があるとか,論理的な矛盾があるとかの批判)を行っていない。具体的理由や具体的証拠を挙げて,無罪判決の不当性を指摘しているのであれば,原告は本来有罪とされるべきではないかとの印象を一般視聴者が抱くことも考えられる。しかし,本件放送は,そのような批判を行っていないのであるから,一般視聴者が,原告は本来有罪とされるべきではないかとの印象を抱くことは考えられない。
(3) 以上,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準とした場合,本件放送は,一般視聴者に対し,原告に過失はなく,原告に刑事責任はなかったという印象を明確に与える。
2原告の主張とそれに対する反論
(1)本件放送の構成と被告の報道姿勢
ア 原告は,本件ニュース1について,無罪報道に対し批判的視点で描かれていると述べ,本件ニュース1の構成について縷々述べている(平成18年6月7日付原告準備書面2頁)。しかし,本件ニュース1は,無罪報道に対する批判的視点から構成されたものでは断じてない。
イ 被告は、本件ニュース1において、まず、東京女子医大医療事件(以下「本件事件」という。) について,原告に対し無罪判決が言い渡されたことを報じる。次に,被告は,同判決を受けて行われた遺族の記者会見の模様について報じ,事件の簡単な説明と無罪判決の判決理由について明確に説明する。
その後,被告は,本件事件の事実経過について紹介した後,「立証の難しい医療過誤で医師が逮捕されることは極めて異例であり,当時,高度な医療を行う特定機能病院に承認されていた東京女子医大は,」のくだりから,本件事件全体についての言及を始める。
そして,被告は,本件事件の帰趨として,東京女子医大が特定機能病院の承認を取り消されたこと,証拠隠滅罪に問われた医師に有罪判決言い渡されたことを伝え,「何故改窟した医師が有罪になり,機器を操作した佐藤被告が無罪となったのでしょうか」と事件全体の結末についての問いかけをなした後,東京女子医大は二重三重に予防体制を敷いておくべきであったとする専門家(弁護士)の分析を紹介し,最後に遺族の記者会見での発言を報じている(甲第1号証の3)。
ウ かかる構成からも明らかなように,被告は,本件ニュース1において,原告に対し無罪判決が下されたとの情報をいち早く一般視聴者に伝えることを目的としつつも,放送時問という制約の下,本件事件全体の帰趨や専門家の分析等,なるべく多くの情報を一般視聴者に伝え,病院の管理体制に対する問題提起を試みているのであって,一般視聴者に対し判決に対する批判的メッセージを伝えることを目的としているわけではない。
仮に,原告の主張するが如く,被告が判決に対し批判的である
のであれば,その後の報道においても被告は批判的立場から一貫して報道を行っていてしかるべきである。
しかし,本件ニュース2ないし4を見ても,被告は判決に対し一切批判的な報道をなしてはいない。むしろ,原告の記者会見の模様をも報道しており,原告の主張する公正さにも適う内容となっている(甲第2号証の3,第3号証の3,第4号証の3)。
原告に対し無罪判決が下されたとの報道を目的としつつ,本件事件全体の帰趨等なるべく多くの情報を一般視聴者に伝えるとともに,原告が無罪となったことを前提として,病院の管理体制につき問題を提起するという被告の報道姿勢は,その後も明確に維持されている。すなわち,被告は,本件ニュース2及び3においては,放送時間が極めて限られていたこともあり,原告に無罪判決が下ったこと及びその判決理由についてのみ報じるにとどまるが,本件ニュース4においては,十分な放送時間をかけ,事件全体の経過や判決の詳細な分析をも言及し,一般視聴者に情報を提供している。また,被告は,本件ニュース2において,「構造的には問題のあった人工心肺を何故使わせたのかという問題が残ります」(甲第2号証の3)と述べ,本件ニュース3においては,「ではそれを使った病院側の責任もないのかということも余地が残されています」(甲第3号証の3)と述べ,本件ニュース4においては,「判決の中で裁判長は,こうした危険な人工心肺装置を使っていた東京女子医大の管理責任というものは問われることはある」(甲第4号証の3)と述べている。このように,一連の本件放送を見れば,被告が判決について批判的立場に立っていないことは明白である。
(2)遺族のコメントについて
ア 本件ニュース1につき,原告は,まず,ニュースの冒頭と最後に遺族のコメントが紹介されていることをもって,「本件患者遺族の口を通じて,無罪判決が医師に対して甘いものであり,本来は危険を回避する義務があるのに,それができなかった未熟な医師を無罪にしたという批判的視点に立っていることが明らかである」と主張する(平成18年6月7日付原告準備書面3頁)。
しかし,遺族の反応をニュースの冒頭と最後に紹介しているからといって,被告が判決に対し批判的な態度を取っていることにはならない。
そもそも,刑事裁判に関する報道において,犯罪の被害者及びその親族が存在する場合,一般視聴者は,判決の結論及び理由のみならず,「被害者ないしその親族が判決に対しいかなる反応を示したか」,ということにも強い関心を寄せる。とりわけ,本件の如く,まだ年端もいかない少女が医療事故によりその将来を断たれたような場合はそうである。だからこそ,被告は,遺族の反応は非常に報道価値が高いと考え,本件ニュース1の冒頭と最後で紹介したのであって,それ以上の意図はない。「遺族は先ほど会見を行い怒りを露わにしています」,「無念の思いを語る遺族」というコメントも,報道価値の高い遺族の反応を単に描写しているにすぎず,それ以上の意味はない。
もちろん,被告が,遺族が怒りを露わにしていると報じたり,「非常に医師に対して甘い判決だ」と遺族が発言したことを報じることにより,遺族の無念の思いが一般視聴者に伝わり,遺族に対し一般視聴者が同情を寄せるということはありえよう。また,「遺族はやり場のない思いを抱いている」という印象を一般視聴者が受けることがありうる。
しかし,一般視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準とすれば,遺族の判決に対する発言は,あくまで遺族の立場からの発言であると受け止められるものである。
また,我が国においては,裁判所の裁判は一般的に広く国民から信頼されている。したがって,判決によって不利益を受けた者が判決に対し不満を漏らしたことを報じたとしても,一般視聴者が,そのことだけで判決に疑念を抱くことはない。
さらに言えば,一般の視聴者が,遺族が不満を漏らしたとの一事をもって,「専門性を有するべき医師が,未熟であったために手術中のミスによって本件患者を死亡させた」という印象を抱くことはありえないのである。
イ この点,さらに原告は,「他の報道機関では,無罪判決を受けて記者会見をした遺族と,同様に記者会見をした原告とを並列的に扱っているのに対し,本件ニュース1では原告の記者会見の模様は一切用いず」と述べ,遺族のコメントのみを取り上げた被告の報道を批判している(平成18年6月7日付原告準備書面3頁)。
しかし,本件ニュース1は,原告に対し無罪判決が下されたことを冒頭から明確に述べている。無罪判決が下されたということは,原告の言い分が裁判で正式に認められたということなのであるから,無罪判決が下されたという事実を判決理由を明示して報道すれば,原告の記者会見でのコメントを改めて報道せずとも,一般視聴者には原告の言い分が充分伝わる。常に両者の言い分を並列的に取り上げなければ不公平な報道となるというわけではない。
(3)事実経過について
原告は,次に,「「当初罪を認め遺族に謝罪し示談が成立」というテロップを流すとともに,音声でも「佐藤被告は一転して過失を否定してきました。立証の難しい医療過誤・・」と伝えて,原告が態度を変えたことを前提に」,「そのことに批判的ニュアンスを込めている」と主張する(平成18年6月7日付原告準備書面2頁)。
しかし,被告は,一般視聴者にわかりやすいように,取材の結果知りえた本件事件の事実経過を報じたに過ぎない。事実経過について説明するだけでは判決への批判とはなりえない。原告自身,この部分について,批判的「ニュアンス」と主張するのみである。なお,原告は,「佐藤被告は一転して過失を否定してきました。立証の難しい医療過誤・・」という形で本件ニュース1を引用する(平成18年6月7日付原告準備書面2頁)が,「立証の難しい医療過誤・・」との説明は,「立証の難しい医療過誤で医師が逮捕されることは極めて異例であり,当時,高度な医療を行う特定機能病院に承認されていた東京女子医大は,この事件でその承認を取り消されています。」という説明の一部である。被告は,立証の難しい医療過誤事件であるから,原告が無罪になったとは一言も述べていない。
(4)未熟な医師との言葉について
ア 原告は,未熟な医師の点について,「いずれにせよ,この文脈において,「未熟な医師」イコール「原告」を意味していることは明らかであり,かつ,原告が「未熟な医師であること,危険回避義務を怠ったということは断言されている」と主張する(平成18年6月7日付原告準備書面5頁)。
しかし,答弁書にて主張したとおり,「未熟な医師」という言葉はあくまで,東京女子医大病院の管理体制に問題があることを指摘する文脈で使用されている。
西田弁護士のコメントは「いろんなあの危険を回避する義務というのはやっぱりあると思うのですね。それを放置してまああのそういうことを怠ってですね。未熟な医師にあの二重三重にそういうことが起こらないようにあの予防体制をとりながら本当はやるべきだったでしょうと…。」(甲第1号証の3)というものである。
要するに,医療事故というものが起きないように二重三重に予防体制を敷いて危険を回避する義務,が,病院側にあったのに,それを放置した,というのが同コメントの内容である。
加えて,テロップにも「様々な危険を回避する義務があるがそれを放置し」,「扱わせた」と表示されており,一般視聴者の普通の注意と視聴の仕方からすれば,言及されている主体が東京女子医大病院であることは容易に理解される。このように,コメントの内容及びテロップを普通にみれば,同弁護士が,東京女子医大の管理体制について言及していることは明快である。
イ この点,原告は,「原告についての放送が中心となっているところに突然「東京女子医大病院の管理体制についての問題」が持ち出されるはずがない。」と述べる(平成18年6月7日付原告準備書面4頁)。
しかし、本件ニュース1は、前述のとおり、「立証の難しい医療過誤で医師が逮捕されることは極めて異例であり、当時,高度な医療を行う特定機能病院に承認されていた東京女子医大は,」のくだりから,本件事件全体についての言及が始まっている。そして,本件事件の帰趨として,東京女子医大が承認を取り消されたこと,証拠隠滅罪に問われた医師に有罪判決が言い渡されたことについて言及がなされ,「何故改窟した医師が有罪になり,機器を操作した佐藤被告が無罪となったのでしょうか」と事件全体の結末についての問いかけがなされた後,東京女子医大病院は二重三重に予防体制を敷いておくべきであったとの西田弁護士のコメントが,法律の専門家のコメントとして引用されている。
つまり,上記「東京女子医大は,」のくだりから,放送の中心は原告から本件事件全体に移っている。したがって,東京女子医大病院の管理体制についての問題が持ち出されても違和感はなく,むしろ自然である。
(5)元医師の点について
ア 答弁書にて主張したとおり,被告は,「事故当時は東京女子医大病院の医師であったが,現在は東京女子医大病院の医師ではない」という趣旨で原告を「元医師」としている。
イ 上記は、本件ニュース1において、①冒頭部分で、音声により「東京地裁は今日、当時の担当医に無罪の判決を言い渡しました。」と放送していること(甲第1号証の3)、及び②映像上もテロップ文字で「過失責任は問えない「東京女子医大元医師「無罪」」と放送していること(甲第1号証の2の①~⑰)、から明らかである。一般視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断した場合,一般視聴者は「当時の担当医」という意味で「元医師」と表現しているとの印象を受ける。
なお、本件ニュース2以降は、単に「元医師」としているが、これは繰り返し使用される言葉を短縮して表現したものであり、その趣旨は本件ニュース1と変わるものではない。
第2 肖像権侵害について
1 本件映像が撮影された場所について
本件映像は,平成14年9月25日午後6時47分ころ,被告報道局のスタッフによって撮影された。
撮影場所は,東京拘置所南側にある面会差入受付入口に近接した同拘置所の門の外側の公道上である(乙第1号証,第2号証)。同スタッフは,原告が同拘置所を出所し,タクシーに乗って立ち去るまでを撮影した。
このように,同拘置所の門の外側の公道上にて,同拘置所を出所する刑事被告人を撮影することは,世間の耳目を集める刑事裁判の報道において通常行われていることである。
東京拘置所も,公道上で撮影が行われていることから,このような撮影を禁じておらず,本件映像撮影の際も,同拘置所の衛視は,被告報道局のスタッフに対し,所属している報道機関の名称を尋ねただけで,特段撮影の中止等を申し入れてはいない。
2 肖像権侵害の成否について
(1) 答弁書において既に主張したが,被告報道局スタッフは,本件映像を,日没後周囲が暗くなった状況下で,原告に対し照明をあてつつ撮影した。つまり,原告が撮影を明確に認識しうる方法で撮影が行われたものである。およそ隠し撮りの類にはあたらない。しかも,本件映像を撮影する際,同スタッフは,被告の名称が記載された腕章を着装しており,同スタッフが報道目的で撮影を行っていることは誰の眼にも明らかであった。
このように,本件映像は,報道目的で撮影が行われていることが明らかな態様で撮影されており,しかも,原告自身その旨明確に認識していたにも関わらず,原告は,手のひらで顔を隠したり, 撮影の中止を申し出る等,撮影について特段異議を述べることもなく,淡々と同スタッフの前を横切り,そのままタクシーに乗り込んだ。
このような原告の行動からすれば,本件映像の撮影につき原告において黙示的承諾があったと考えざるをえない。
(2) また,原告は当時,世問の耳目を集める東京女子医大医療事件裁判の被告人であったのであって,同裁判に関する事実は公共の利害に関する事実である。したがって,その報道にあたり,仮に原告の明示的承諾がなかったとしても,被告人たる原告の行動を撮影した映像を報道することは許される。この点,殺人容疑で逮捕された被疑者の写真を週刊誌等に掲載したことが,被疑者の肖像権を侵害するか争われた事案において,裁判所は,被疑者の自宅前における歩行中の写真につき,「原告(引用者注:被疑者のこと)がB殺害の容疑で逮捕されたことは公共の利害に関する事実であり,その報道にあたり被逮捕者たる原告の写真を掲載することは許されるものであって,しかも,本件においては,右写真は,原告に無断で撮影されたものであるとはいえ,その内容は格別原告に差恥,困惑等の不快感を与えるものではなく,撮影の方法も自宅前を歩行中の原告を屋外から撮影したものと認められるから,被逮捕者たる原告においてもこの程度の写真撮影は受忍すべきであり,したがって,右写真の掲載が違法であるということはできない」と判示している。また,被疑者がアメリカの裁判所に出頭した際の裁判所内における写真につき,同裁判所は,「原告がB殺害の容疑で逮捕され刑事訴追を受けるに至っていたことは公共の利害に関する事実であり,その報道にあたり被逮捕者たる原告の写真を掲載することは許されるものであって,本件において,右写真は,原告に無断で撮影されたものであるとはいえ,その内容は格別原告に差恥,困惑等の不快感を与えるものではなく,撮影の方法も裁判所の許可を得て撮影したものと認められるから(弁論の全趣旨),被逮捕者被訴追者たる原告においてもこの程度の撮影は受任すべきであり,右写真の掲載は違法性を欠くものというべきである」と判示しているものである(東京地判平成6年1月31日判タ856号186頁)。
この判例からも明らかなように,世間の耳目を集める刑事事件の被疑者・被告人においては,その撮影された内容や撮影の方法が相当である限り,自らの容貌を撮影されることは受任するべきであって,撮影をした報道機関において肖像権侵害の不法行為は成立しない。
したがって,本件においても,被告につき,肖像権侵害に基づく不法行為は成立しない。
原告 準 備 書 面(2)
2006年9月20日
東京地方裁判所民事第6部合議B係御中
原 告 佐藤一樹
準備書面(第1)に記載された被告の主張に対する原告の反論は以下のとおりである。
第1 「名誉毀損」に関する被告の主張に対する原告の反論
本件放送は、原告が「当初罪を認め遺族に謝罪」していたが裁判では「一転して過失を否定」したという誤った内容を報じるとともに、被告を「未熟な医師」と評し、「元医師」という誤ったナレーションと伴にテロップを付すなどするものであり、その内容において、一般視聴者に対して、専門性を有するべき医師が未熟であっために手術中のミスによって本件患者を死亡させたという印象を生じさせることは明らかである。
被告は準備書面(第1)において、原告の社会的地位の低下を否定するための反論を縷々述べるが、その主張は事後的な「元医師」の解釈を初めとしてこじ付け的なものが多く、これまでに原告が主張したことに対する有効な反論にはなりえていない。その意味で、基本的に被告の反論に対する再反論の必要はないと考えられるが、念のため以下の点を補足する。
1. 自白に相当する事実の摘示
(ア) 無罪判決への批判的視点
被告は、「本件放送において、原告が無罪となったという結果のみを報道したのではなく、原告には事故の予見可能性がなかったという判決理由についても報道している」と述べるが、「結果と判決理由のみ」を報道したのでもない。被告が、無罪判決への批判的視点に立ち、「佐藤被告(原告)は当初罪を認めて遺族に謝罪し、示談が成立。しかし法廷では、一転して過失を否定してきました。立証の難しい医療過誤で・・」という報道で、真実ではない事実(下線部)を摘示する等して、原告の名誉を毀損したことは、2006年6月7日付け原告準備書面(以下、単に「準備書面」) 第1の1の(ア)で既に述べた。
一般的に、刑事被告人が罪を認め、被害者に謝罪するという行為は、自白に相当する。そのような重要な事実が報道されれば、一般視聴者はそれが、真実だという印象を受ける。さらに、被告人が後に一転して無罪を主張し、無罪判決が言い渡されたとしても、この自白に相当する事実の報道から、本当は、有罪であるとの印象を受ける。さらに、「立証の難しい医療過誤...」と続けば、医療過誤事件は立証が困難なので、医師に否認されたために本来有罪とされるべきところ無罪となったという印象を受けるのは自然なことである。
被告は、平成18年8月22日付け準備書面(第1) 第1の1において「一般視聴者が、原告は本来有罪とされるべきではないかとの印象を抱くことは考えられない。」「一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準とした場合、本件放送は、一般視聴者に対し、原告に過失はなく、原告に刑事責任はなかったという印象を明確に与える」等縷々述べているが、これは客観性を失った主張である。
(イ) 真実性
原告は、第一回期日2006年5月17日法廷において、既に、被告による真実性・相当性の立証の必要性を口頭で述べ、6月7日付け準備書面では、その該当部分を特定し「(なお、そのことを自体誤りであるが、その点は、真実性・相当性に関する被告の主張を待って述べる)」と明確に記載し、8月22日まで2ヶ月半の間待機した。しかしながら、被告は、準備書面(第1)では、「取材の結果知りえた本件事件の事実経過」程度の記載があるのみで、何ら真実性と相当性を立証しようとすらしていない。このことは、「裁判の円滑な進行を故意に妨げている」または、「真実性・相当性に関する主張をしない」のいずれか、と受け取れる。前者であれば、被告は早急に真実性・相当性の立証を行うべきであり、後者であれば、裁判所には次回期日から証拠調べを行っていただくことを要望する。
(ウ) 他社報道との比較
なお、原告は、2005年11月30日に放送されたNHK総合、NHK-BS、日本テレビ、TBS、テレビ朝日の報道番組の放送と同日に発信された朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、及び共同通信社が配信する新聞社等のインターネット上のウエッブニュースを可能な限り調べたが、原告が「当初は罪を認めて謝罪したが、法廷では一転して無罪を主張した」旨の報道はなかった。
2. 未熟な医師
(ア) 「未熟な医師」イコール「原告」
被告は、原告の「『未熟な医師』イコール『原告』を意味する」という指摘に対して、「『未熟な医師』という言葉はあくまで、東京女子医大病院の管理体制に問題があることを指摘する文脈で使用されている。」と述べるだけで、否定はしていない。「管理体制」の文言が皆無である放送の該当部分がどのような分脈で事実を摘示したかは置くとしても、西田弁護士が「未熟な医師」と呼ぶ医師が、「原告」以外にいないのは明らかである。このことは、仮に文脈に東京女子医大の管理体制の批判がこめられているとしても、「『未熟な医師』イコール『原告』を意味する」ことと両立するのであるから名誉毀損は成立する。
(イ) 「危険回避義務」を怠ったのは「原告」
原告は、原告準備書面 5頁 第1の1の(イ)④において、「『危険回避義務があるのに,それを怠ったのは原告である。』と理解される。」と主張したが、被告はこのことに関しては、なんら反論していない。すなわち、「危険回避義務」を怠ったのは「原告」であることを認めているのであるから、その直後の発言の「未熟な医師」もイコール「原告」ということになるのは当然である。
3. 元医師
(ア) 「当時の担当医」と「現在の元医師」
原告は「元医師」の解釈が「以前は医師であったが現在は医師ではない人」以外にあり得ないことを既に充分論じた。これに対し被告は、音声による「当時の担当医」とテロップ文字による「東京女子医大元医師『無罪』」を放送すると一般視聴者が「当時の担当医」という意味で「元医師」と表現している印象を受けると主張する。何の説明もなくそのような印象を受ける視聴者がいるはずがない。
時間軸に沿い、手術日を「当時」、約4年9ヶ月後の『無罪判決』の日を「現在」とすれば、「当時は担当医」で、「現在は元医師」という関係になるのであるから、両者は両立し当時の「担当医」が現在では「元医師」と考えるのが自然である。
また、冒頭から次々と提供される情報の中で、一瞬で消える音声の「当時の担当医」という情報が印象として残る理由もなく、その直後から2分50秒間「東京女子医大元医師『無罪』」とテロップが表示されているのであるから、一般視聴者が、「元医師」の放送は「当時は医師であったが、現在は医師でない人」との印象を持つ。
(イ) 「担当医」でも「元医師」でも3文字
仮に、「当時の担当医」という意味の表示をしようと思えば、「担当医」と短縮すれば3文字で、「元医師」の3文字と同じである。したがってニュース2以降は単に「元医師」としているが、「これは繰り返し使用される言葉を短縮して表現したものであり、その趣旨は本件ニュース1と変わるのもではない。」という「短縮理論」は成り立たない。
(ウ) 個別のニュース1ないし4とニュースJAPANの「担当の医師」
さらに被告の「繰り返し使用理論」の抗弁について論じる。ニュース1ないしニュース4は、あたかも一連のつながりがあるように扱っているが、個別の報道であることは、一つ一つの内容が違うことから明らかである。一般の視聴者が11月30日の18時01分に放送された冒頭ナレーションの一瞬の「当時の担当医」を印象深く記憶しながら、翌日12月1日の早朝午前5時38分からのニュース2及びニュース3や午前9時近くまでのニュース4を視聴し、なおかつそこで、「元医師」テロップで表示されているのを見たり、発言されたりするのを聞いて、「元医師」とは「当時の担当医」を表現している印象を受けるはずはない。
また、ニュース1とニュース2の時間帯の間に放送された、ニュースJAPANのフラッシュのテロップでは、「担当の医師は―」や「女児死亡事故 医師は“無罪”」と表示し、ナレーターも、「業務上過失致死の罪に問われた医師」と発言している。このことからも、ニュース2以降がニュース1と一連の連なりをなしていないことが理解され、「繰り返し使用理論」による抗弁はなりたたない。
第2「肖像権侵害」に関する被告の主張に対する原告の反論
本件映像は、「撮影の段階」「放映の段階」のいずれにおいても不当であり、公共性・相当性は認められず、不法行為を構成する。以下、被告の準備書面(第1)に記載された撮影場所を踏まえて反論する。
1. 撮影の段階
(ア) 撮影場所
本件映像を撮影した人物が立っていた場所は、公道上であるが、本件映像で撮影された場所のほとんどは、拘置所敷地内であり、映像には、拘置所施設を背景に歩行する原告と原告につきそう拘留関係者が同時に映っている。
(イ) 撮影された状況-領置品の先行搬入
原告が保釈決定を知ったのは、2002年9月25日夕食後であった。保釈と共に領置されていた所持品を整理しまとめたが、書籍が数十冊、刑事事件関係書類も千枚以上であっため、全ての荷物は、一回で両手に持ち運べる量ではなかった。この為、拘置所施設面会口(乙第2号証)から拘置所敷地内を通って、門外に運び出すには、時間がかかる状況であった。
一回目に面会口のドアが開かれた時に、屋外は夕闇により暗い状況であったが、その瞬間に原告の目には、強いライトが当てられた。その状況では、ライトの光は強烈であり、人と人が通常の会話ができるような距離でなかったため、人が撮影機器を使用してこちらを撮影していることは認識したが、どのような人物が撮影したかも確認できず、腕章をしているかどどうかも認識できなかった。
拘置所の職員は「あいつらもう来ていやがる。」と言い原告と会話を始めたことからも、撮影しているのはおそらく報道関係者であると思った。しかし、同日夕刻に保釈されて拘置所で身柄をとかれた立場にある者としては、撮影された経路以外に、出所する経路の選択余地はなかった。既に妻がタクシーを停車させていることを原告は認識していたことも相まって、乙第2号証に示されている経路で拘置所内敷地を出ることとした。この時点で同経路を歩行した場合、確実に撮影されるので、それに対して嫌悪感を持ったが、ここで、大きな声を出す等して撮影者に抗議することは、理由があって断念した。これについては後述する。
せめて撮影される時間を短縮しようと策を講じ、一旦面会口から離れ、領置品は拘置所職員が門の外に運び出し、時間をおいて、それを妻がタクシー内に搬入した後に、原告が面会口を出てタクシーに乗り込むこととした。
(ウ) 撮影現場の状況-妻の撮影に対する抗議
①報道関係者との接触
原告は、本件事故が報道された2001年12月から、報道関係者との直接的な接触を行わなかった。報道直後から弁護士に相談し、2002年1月上旬には、報道関係者に対する方針を決定した。すなわち、報道関係者からの接触や取材の申し込み等があった場合は、妻が対応し、「佐藤(原告)は報道関係者に直接接触したり、会話したりはしないので弁護士さんの氏名と連絡先を報道関係者に伝える」方針としたのである。
②妻と撮影者の会話
原告の妻は、領置品をタクシーに搬入する際に、複数いた撮影者に「撮影しないでください。」旨、異議を申し立てた。これに対して、ある撮影者は妻と会話した。妻は最終的に「撮影されたくないんです。」と明確に理由も述べた。
(エ)被撮影者の心理-皇太子妃候補の抗議映像等
原告は、報道映像の撮影者が、被撮影者が撮影されることを拒否しても撮影を強行し、それが放映された場面を報道番組のテレビ映像で何回も視聴した。その「撮影拒否場面の放送」が被撮影者の印象を悪くすると考えていた。「エイズ事件刑事被告人(無罪)安部 英医師」や「オウム真理教教祖の弁護人 横山昭二弁護士」や「ロス事件の殺人事件刑事被告人(無罪)三浦和義氏」らが、報道関係者の撮影を拒否したり、抗議したりする場面が放送されるのを見て、これら被撮影者の態度が人格的に悪い印象として感じた。特に現皇太子妃雅子妃殿下が、婚約発表前に報道関係者に、撮影者の放送局名を訪ね撮影をやめるように厳しい表情で強く要望した場面を報道番組で視聴し、当時の小和田雅子妃殿下候補に対して人格的に悪い印象を持った。
このため、原告は、逮捕以前から、自分が報道関係者に撮影されることがあった場合は、自らが直接撮影者に対して、撮影に対する拒否行動を起こしても、撮影に中止や異議を申しでても、他どんな行動を起こしてもそれが放送されることが免れないので、せめてその放送により、自らの印象が悪くなることを回避するように行動することを決めていたのである。
原告は、通常会話の声では届かない場所から、拘置所敷地内に向かって撮影を行っている何処の放送局の何者かも分からない撮影者に対して大きな声を出して抗議しても、どの場面で抗議しても、その行為自体が放送されると、視聴者が原告の人格に悪い印象を持つと考え、顔を隠さず、撮影者に何も述べずに淡々とタクシーに乗り込んだ。
(オ)「撮影の段階」ので不法行為
撮影に嫌悪感をもった原告が、一旦は面会口から顔を出したがそのまま外には出ず、領置品だけが先に外に出され、時間が経過した後に、面会口から拘置所敷地内に出てきた場面の一部始終を見た撮影者は、原告の妻から撮影の拒否とその理由を聞かされたにもかかわらず、原告を撮影した。このことから、原告において黙示的承諾がなかったことは明らかであり、本件映像の「撮影」は不当であり不法行為を構成する。
2. 放映の段階-放送の正当性、公共性、公益性、必要性、相当性の欠如
(ア)「無罪判決報道」と「拘置所出所」
原告は、2006年6月7日付け準備書面 8頁~9頁「(ウ)原告記者会見後の放送」と「(エ)38歳時の映像」において、本件ニュースにおける映像の正当性、公共性、公益性、必要性、相当性の欠如について述べた。被告自ら「無罪判決報道」と呼ぶニュース番組において、原告が行った記者会見の映像を入手していた被告が、拘置所を出所する際の原告が拘置所敷地内から外に出るところを撮影した4年前の映像をわざわざ放送したことを指摘した。
(イ)「殺人容疑で逮捕された被疑者」と「無罪判決を言い渡された被告人」
被告は、放送の正当性の欠如、公益性の欠如、必要性の欠如及び相当性の欠如に対する反論を直接は行わずに「殺人容疑で逮捕された被疑者の写真掲載」に係わる事案の下級審判例を提示するのみで何の説明もなく「明らかなように・・・不法行為は成立しない」と述べている。
本件放送時点において、原告は、被疑者でもなく、この時点では無罪判決を言い渡された被告人であった。その立場になった原告の映像を入手しながら、拘置所を出所する際の原告の映像を放送することの公益性、必要性及び相当性は存在せず、放送の正当性はない。
また、「世問の耳目を集める東京女子医大医療事件裁判の被告人であったのであって,同裁判に関する事実は公共の利害に関する事実である。」と述べているが、「拘置所を出所した事実」は裁判とは直接の関係がないので、「公共の利害に関する事実」ではない。
(エ) 「放映の段階」ので不法行為
以上より、無罪判決時の「放映」として本件映像は不当であり、「撮影」「放映」のいずれもが不法行為を構成する。
以上
原告 準 備 書 面(3)
2006年12月15日
東京地方裁判所民事第6部合議B係御中
原 告 佐藤一樹
準備書面(第2)に記載された被告の主張に対する原告の反論は以下のとおりである。
第1 「名誉毀損」に関する被告の主張に対する原告の反論
被告は準備書面(第2)においても、原告の社会的地位の低下を否定するための反論を縷々述べるが、その主張には矛盾があり、客観性を欠いた報道姿勢を露呈し、釈明のための事後的解釈に終始している。
また、被告に挙証責任がある真実性や誤信相当性の主張には、被告自身による具体的な取材経過が示されていないため、被告の不法行為を否定するには程遠い。
以下、詳細に論じる。
1. 無罪判決理由
(ア) 「無罪判決理由放送」の繰り返し主張
被告は、準備書面(第2)第1の1の「(1)人工心肺に構造上の問題があったことを報道したこと」の項では、その題名を主張するために、2頁11行目ないし12行目、同頁17行目、同頁26行目、3頁1行目、同頁3行目ないし4行目、さらには、(2)の項にまで入ってからも、同頁13行目、同頁16行目と7回も繰り返し『人工心肺の(には)構造(上)に(の)問題』とう文言を使用している。要は、被告が「『無罪判決という事実』と『その理由は人工心肺の構造に問題があったこと』の両方を報道した」ことを繰り返して強調しているだけの主張である。「人工心肺の構造に問題があった」という指摘自体に疑義を挟んでいるという解釈の余地もあるし、人工心肺の構造に問題があったとしても、結果は予見できたという判断もありえるのであるから、構造の問題を繰り返し指摘したからといって、ただちに原告による過失の不存在を一般視聴者に印象づけることにはならない。
(イ) 無罪推定の原則をわきまえない報道と視聴者の印象と本件放送
本邦では、一般に国民の裁判所に対する信頼は厚い。しかしながら、被疑者・被告人に対する犯人視報道が、刑事裁判における判断に少なからず影響を与えることや最初の犯人視報道に接した者が、その印象が消えずにこれを基準として判断し、逆に公判廷で明らかにされた方が間違っているのではないかという不信感を持つ者が存在することを、裁判所自身が示唆、指摘している。
すなわち、「週刊誌や芸能誌、テレビのワイドショーなどを中心として激しい報道が繰り返されたが、こうした場面では、報道する側において、報道の根拠としている証拠が、反対尋問の批判に耐えて高い証明力を保持し続けることができるだけの確かさを持っているかどうかの検討が十分でないまま、総じて嫌疑をかける側に回る傾向を避け難い。・・・ところで、証拠調べの結果が右のとおり微妙であっても、報道に接した者が最初に抱いた印象は簡単に消えるものではない。それどころか、最初に抱いた印象を基準にして判断し、逆に公判廷で明らかにされた方が間違っているのではないかとの不信感を持つ者がいないとも限らない。そうした誤解や不信を避けるためには、まず公判廷での批判に耐えた確かな証拠によってはっきりした事実と、報道はされたが遂に証拠の裏付けがなく、いわば憶測でしかなかった事実とを区別して判示し、その結果、証拠に基づいた事実関係の見直しを可能にすることの重要性が痛感される。」(東京高等裁判所平成10年07月01日判決・高等裁判所刑事判例集 第51巻2号129頁 下線は原告)がそれである。
この判決文に鑑みれば、逮捕後の報道や起訴後の報道等によって犯人視されていた原告の無罪判決とその理由を報道したとしても、原告に対する犯人視報道を基準にして判断し、無罪判決に対して不信感を持つ一般視聴者の存在は否定できない。さらに、無罪判決理由に続いて、原告が「当初罪を認め遺族に謝罪」していたが裁判では「一転して過失を否定」したという自白に相当する事実のを摘示し、「危険を回避する義務を放置し怠った」とか原告を「未熟な医師」と評し、「元医師」というナレーション、テロップを放送すれば、一般視聴者に対して、「専門性を有するべき医師が未熟であっために手術中のミスによって本件患者を死亡させ、それに関連して現在は医師ではない」という印象を生じさせることは明らかである。
(ウ) 無罪判決理由に対する関心
「(2)被告の報道姿勢について」では、この「人工心肺の構造に問題があった」という理由が判決で述べられていると報じた「被告の関心は、『では誰に責任はあるのか』とか「『このような事態は防げなかったのか』という問題にあ」ると被告は主張する。
しかし、判決が受け入れている「人工心肺に構造上の問題」と「予見可能性が否定される」ことも受け入れているのであれば、そのような構造上の問題をかかえた人工心肺の操作者は、誰であろうと結果発生を防げないのだから、「未熟な医師」かどうかはまったく関係がないはずである。したがって、批判的立場に立たなければ、「人工心肺の構造の問題」に関連して「被告の関心は、『では誰に責任はあるのか』とか「『このような事態は防げなかったのか』という問題にあった」といえるはずがない。以上より被告の説明には矛盾または虚偽があると言わざるを得ない。
構造上の問題を前提にするならば、女子医大の管理体制や予防体制も、そのような構造上の問題ある人工心肺が作られたり、使われたりしないようにすることに焦点が当てられるべきである。この点において被告の説明と実際の放送には齟齬がある
また、被告が主張するように「どのような判決が下るかわからない状況下(乙第4号証)」の無罪判決後に、「人工心肺の構造に問題があった」という判決理由を知った「法律の専門家(被告準備書面(第1)10頁)」が、突如として判決理由とは全く関係のない「東京女子医大病院の管理体制」や「『未熟な医師』を問題視する発言」をするとは通常考えられない。したがって、「西田弁護士にコメントを求めた時刻については、本件刑事裁判の判決日の判決言渡後であることにおそらく間違えない」(乙第4号証1頁)の神谷祐輝ディレクターの発言内容は極めて疑わしい。
(エ) 無罪判決に対する批判的立場と一般視聴者の受ける印象
したがって、西田弁護士の「いろんなあの危険を回避する義務というのはやっぱりあると思うのですね。」「それを放置してまああのそういうことを怠ってですね。未熟な医師にあの二重三重にそういうことが起こらないようにあの予防体制を取りながら本当はやるべきだったでしょう」というコメントは、①「無罪判決の理由を知らずに、原告に対して批判的に述べた」または、②「裁判所の認定事実を無視して、無罪判決に批判的立場で述べた」のいずれかと推測される。いづずれにしても、「音声及び映像により次々と提供される情報を瞬時に理解することを余儀なくされる」一般の視聴者は、原告が「危険を回避する義務を放置し怠った未熟な医師」であるという印象を受ける。(2006年6月7日 原告準備書面4頁 第1の1(イ)未熟な医師 ③参照)
2. 真実性の不存在
(ア) 乙第3号証の新聞記事の「真実でない事実」
被告は、テロップ(甲1-2-⑬~⑮)と伴に「佐藤被告は当初罪を認めて遺族に謝罪し,示談が成立しかし法廷では,一転して過失を否定してきました。(甲1-1)とナレーションした放送内容に対する真実性の立証として、乙第3号証・平成14年6月29日毎日新聞の記事を証拠としているが、この記事には「真実でない事実」が書かれている。このため、原告は毎日新聞社に対しても民事訴訟を提訴し弁論審理中である。以下に本件に関連した記事の中で真実ではない内容の部分を列挙し説明する。
①「平柳さんの家族によると、その際、両容疑者はいずれも『医者をやめたい』と話していたという。」という記事のうち、平柳さんの家族が何を言ったかは知らないが、「両容疑者はいずれも『医者をやめたい』と話していた」という部分は真実ではない。原告はその時に「医者をやめたい」とは絶対に話していないし、現在まで生涯に一回も「医者をやめたい」と話したことはない。
②「その後、本堂に6人が正座して並び、順に謝罪した。」という記事のうち「順に謝罪した。」というのは真実ではない。「順に言葉を述べた」ことは真実である。原告は、この時に、原告も死亡した患者さんと同様に心房中隔欠損症の根治手術を受けたことと今後の抱負を述べただけで、謝罪はしていない。後にこのこと関連した事柄を述べる。
③「佐藤容疑者も『もう医師は続けられない』とつぶやいたという。」という記事は真実ではない。原告はその時に「もう医師は続けられない」とは絶対につぶやいていないし、現在まで生涯一回も「もう医師は続けられない」とつぶやいたことはない。
④「この際、事務職員が謝罪は終わったとして、『あとのことは弁護士同士の話しにしましょう』と示談を持ちかけてきたという。」という記事については、真実かどうかは不明であるが、家族が「お金が早急に欲しいのに弁護士をつれてこないとは何事か。」旨、女子医大管理二課次長を激怒し叱責したと、同次長が発言している。
(イ) 傍聴の家族から「謝罪していない原告」に対する接近
2002年1月31日の刑事公判の傍聴をされた、平柳利明氏は、「瀬尾さんからは謝罪をしてもらったが、佐藤さんからは謝罪してもらっていない。刑事判決が出たときに医道審議会に対して瀬尾さんには、嘆願書を出して医業の停止期間を短くしてもらうつもりである。佐藤さんは謝罪してもらっていないので、嘆願書は出せない。だから、罪を認めて謝罪して欲しい。そして、いっしょに今井(今井教授)と闘いたい。」旨述べ、原告から電話連絡をして欲しいと電話番号が記載されたメモを残した。以上の事実からも、原告が謝罪していないことは明らかである。
(ウ) 2002年6月28日の逮捕と2001年12月8日の罪
被告の準備書面(第2)5頁によれば、被告が報道した「当初罪を認めて謝罪した」のは、2001年12月8日と受け取れる。そもそも原告は、その時点では何の罪にも問われていない。「罪を認めて」いるからには「罪に問われている」はずであるが、警察捜査すら開始されていなかった2001年12月に原告が罪に問われることはあり得ない。原告が被疑者になったのは、逮捕され2002年6月28日である。したがって、2001年12月8日に罪を認めることは絶対にあり得ない。
なお、2002年1月に原告らが告訴された旨、新聞紙上等で報道された。このため、原告は逮捕前に弁護人選任届けを担当の司法警察に提出しようとしたが、「信じる信じないは原告の勝手だが、『告訴状』は受理していない。『被害届』が出ているだけなので、原告は「被疑者」ではなく「参考人」である。」旨、警察から説明を受け、選任届けは受理されなかった。<