本人訴訟

2009年7月18日 (土)

毎日記者、集英社 控訴審判決文

毎日記者5人と集英社に勝訴した東京高裁の控訴審のうち、とりあえず判決文を掲載します。

被告側の和解案を見ると、一番見られたくないのは、準備書面や陳述書のようですが、それはまた機会を改めて。

また一審判決文については、リクエストがあれば、テキスト化してブログ公開します。

平成21年7月15日判決言渡し 同日 原本領収裁判所書記官 加藤政人

平成21年(ネ)第36号 ,同年(ネ)第923号損害賠償請求控訴事件, 同附帯

控訴事件(原審・東京地方裁判所平成19年(ワ)第15490号)

口頭弁論の終結の日平成21年4月20日

判      決

東京都千代田区一ツ橋二丁目5番10号

控訴人兼附帯被控訴人株式会社集英社

(以下「控訴人会社」という。)

同代表者代表取締役                山下秀樹

東京都千代田区一ツ橋一丁目1番1号毎日新聞社内

控訴人兼附帯被控訴人             花谷寿人

(以下「控訴人花谷」という。)

東京都千代田区一ツ橋一丁目1番1号毎日新聞社内

控訴人兼附帯被控訴人             江刺正嘉

(以下「控訴人江刺」という。)

東京都千代田区一ツ橋一丁目1番1号毎日新聞社内

控訴人兼附帯被控訴人             渡辺英寿

(以下「控訴人渡辺」という。)

東京都千代田区一ツ橋一丁目1番1号毎日新聞社内

控訴人兼附帯被控訴人             小出禎樹

(以下「控訴小出」という。)

東京都千代田区一ツ橋一丁目1番1号毎日新聞社内

控訴人兼附帯被控訴人             小泉敬太

(以下「控訴人小泉」といい,

上記6名全員を「控訴人ら」

という。)

控訴人ら訴訟代理人                 弁護士  高木佳子

        古谷誠

東京都××区

被控訴人兼附帯控訴人             佐藤一樹

(以下「被控訴入」という。〉

主      文

1本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。

2控訴費用は控訴人らの,附帯控訴費用は被控訴人の各負担とする。

事実及び理由

1当事者の求めた裁判

1控訴の趣旨

(1)原判決中,控訴人らの敗訴部分を取り消す。

(2)被控訴人の請求をいずれも棄却する。

2附帯控訴の趣旨

原判決を次のとおり変更する。

控訴人らは,被控訴人に対し,連帯して200万円及びこれに対する平成15年12月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2事案の概要

1事案の要旨

被控訴人は,平成13年3月当時,東京女子医科大学(以下「女子医大」という。)病院に勤務していた医師である。

控訴人会社は,雑誌・図書出版業等を営む株式会社である。

控訴人花谷,控訴人江刺,控訴人渡辺,控訴人小出及び控訴人小泉は,毎日新聞医療問題取材班(以下「控訴人取材班」という。)を構成する新聞記者である。

控訴人会社は,控訴人取材班を執筆者として「医療事故がとまらない」と題する書籍(集英社新書)(以下「本件書籍」という.)を発行した。本件書籍には,「第1章東京女子医大病院事件」との見出しの記事(以下「本件記事むという。)が掲載され,本件記事には,被控訴人(ただし,記事中の表記は「E医師」とされている。)が人工心肺装置の担当医師として関与した心臓手術において患者が死亡したこと,女子医大がその手術に関するカルテ等を組織的に改ざんをしたことなどが記載されている。なお,本件書籍は,毎日新聞紙上で連載された記事をまとめたものである(この新聞連載記事を,以下「本件連載記事」という。)。

本件は,被控訴人が,本件記事のうち原判決別紙「被控訴人の主張一覧」の「記載内容」欄の番号1,ないし10の各記載部分について,被控訴人が上記手術の際に人工心肺装置の操作ミスをした等の趣旨の記載をされ,医師としての名誉が毀損されたと主張して,控訴人らに対し,共同不法行為に基づき,慰謝料1000万円及び遅延損害金の支払を求めた事案である。

原審は,名誉毀損による共同不法行為の成立を認め,被控訴人の請求を80万円及びこれに対する平成15年12月23日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で認容した。これに対し,控訴人らは,請求全部の棄却を求めて控訴し,被控訴人は,請求を200万円に減縮した上,請求の認容を求めて附帯控訴をした。

2当事者の主張等

前提事実,争点及び争点に関する当事者の主張は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第2事案の概要」の2ないし4に記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)4頁13行目の「設置した。」の次に「内部委員会の委員は,東間紘教授(委員長。泌尿器科学),楠本雅子教授(循環器内科学),尾崎眞教授(麻酔科学)であり,心臓外科医や人工心肺装置に関する専門的知識を有する専門家(医師,臨床工学士など)は含まれていなかった(甲6,40)。」を加える

(2)6頁23行目の次に,次のとおり加える。

「同委員会の委員は,高本眞一東京大学教授(委員長。心臓外科,呼吸器外科),四津良平慶磨義塾大学教授(心臓血管外科),坂本徹東京医科歯科大学教授(先端外科治療学),許俊鋭埼玉医科大学教授(心臓血管外科)の4名であり,協力員は,又吉徹慶磨義塾大学医用工学センター臨床工学士,見目恭一埼玉医科大学MEサービス部臨床工学士であり,同委員会は,心臓外科及び人工心肺装置の専門家により構成されていた(甲6,8,10,40,弁論の全趣旨)。」

(3)9頁4行目の「無罪判決」を「無罪判決の確定」に改める。

(4)9頁24行目から25行目を次のとおり改める。

「イ検察官は,上記無罪判決に対して控訴をしたが,東京高等裁判所は,平成21年3月27日,検察官の控訴を棄却する判決をし,同判決に対しては検察官から控訴がなかったため確定し,被控訴人に対する無罪判決が確定した(弁論の全趣旨)。上記東京高等裁判所判決においては,被害者は,回路内が陽圧の状態になり,脱血不能の状態になった時点では,脱血カニューレの位置不良により頭部が欝血し,既に致命的な脳障害を負っていた可能性が高く,人工心肺回路内が陽圧の状態になったことによる脱血不能の状態が,被害者に致命的な脳障害を発生させて死亡させるに至ったと認定するには合理的な疑いが残るとして,被害者の頭部に轡血をもたらした脱血カニューレの位置不良は,操作担当者である被控訴人の人工心肺装置の操作に起因するものではないから,これと被害者の死亡との間には因果関係が存在せず,被控訴人について業務上過失致死罪は成立しないとの認定判断がされている(甲41)」

(5)11頁17行目末尾の「装置」を「操作」に改める。

(6)16頁5行目の「1000万円」を「200万円」に改める。

3当裁判所の判断

当裁判所も,被控訴人の請求は,原判決が認容した限度で理由があり,その余は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり補正するほかは,原判決の「事実及び理由」中の「第3当裁判所の判断」に説示するとおりであるから,これを引用する。

1  17頁24行目の括弧内の「イ」の次に「。なお,被控訴人の主張中には,本件記事の全体が被控訴人の名誉を毀損するとする部分もあるが,被控訴人は,本件記事中の具体的な名誉毀損部分は,本件各記載である旨を明らかにしているから,本件各記載について名誉毀損の成否を検討すれば足りる。」を加える。

2 24頁7行目の「刑事裁判」を「刑事の確定判決」に改める。

3 24頁25行目から26行目にかけての「被告取材班によりされた取材や記載内容の検討等」を「生起した本件各記載と関連する事実関係並びに控訴人取材班による取材等」に改める。

4 25頁22行目から26頁19行目までを次のとおり改める。

「〈イ)本件連載記事の掲載以後に生起した本件各記載と関連する事実関係及び控訴人取材班による取材等

a 前記認定のとおり,3学会検討委員会が設置され,平成14年8月3日に第1回委員会が開かれた。3学会検討委員会は,平成15年4月26日までの間に合計9回の委員会を開催し,そのうち,平成14年11月16日に開催した第5回委員会は慶磨義塾大学病院手術室において,同年12月21日に開催した第6回委員会は女子医大病院手術室において,シミュレーション実験を実施した。上記第5回委員会のシミュレーションにおいては,吸引ポンプの回転数を100回転にしても,静脈貯血槽の圧力変化には影響せず,陰圧ラインの閉塞により急激に圧力が上昇することが確認された。また,上記第6回委員会のシミュレーションにおいても,上記第5回委員会のシミュレーショ.ンと同様に,吸引ポンプの回転数を100回転にしても,静脈貯血槽の圧力変化には影響せず,フィルターの位置を下降させたことによりフィルターが閉塞し,急激に圧力が上昇することが確認された(甲8)。

b 本件患者の遺族である平柳利明を含む,心臓手術を受け,死亡や重度障害を負った子供の親4名は,平成14年12月12日,厚生労働大臣に対して,女子医大病院が使用していた人工心肺装置には,何らかの重大な欠陥があると考えられるとして,その導入の過程等について調査を求める要望書を提出した(乙35)。

c 控訴人取材班は,平成14年12月13日付け毎日新聞において,上記患者の親から国と都に対し,女子医大の人工心肺装置の導入過程について調査を求める要望書が提出されたことを報道した。その記事には,親たちは,「装置自体に重大な欠陥があり,他に被害者が出ている可能性がある。」と訴えているとの記載がある(甲16)。

d 3学会検討委員会は,平成15年3月2日,3学会検討委員会の中間報告として,陰圧吸引補助脱血体外循環を施行する際に次の4点を遵守するように勧告した。なお,遵守事項には,吸引ポンプの回転数に関する記載は,存在しない(甲8)。

①陰圧吸引補助ラインにはガスフィルターを使用せず,ウオータートラップを装着する。

②陰圧吸引補助ラインは毎回滅菌された新しい回路を使用する。

③静脈貯血槽には陽圧アラーム付きの圧モニター並びに陽圧防止弁を装着する。

④陰圧吸引補助を施行する際には微調整の効く専用の陰圧コントローラーを使用する。

e 上記中間報告書は,全国の関係病院長に送付された。また,上記勧告は,そのころ,日本胸部外科学会のウェブサイトに,同学会員以外の一般人も自由に閲覧できる状態で公開された(甲6,8,10,弁論の全趣旨)。

f 日本放送協会(以下「NHK」という。)は, 平成15年3月13日,総合テレビの「おはよう日本」というニュース番組中で,午前5時35分過ぎから同36分過ぎまでの約1分20秒間,「人工心肺の安全対策を勧告」という文字タイトルの下で,「2年前女子医大病院で起きた医療事故を切っ掛けに,心臓手術に関する3つの学会がこの時に使われたものと同じタイプの人工心肺装置を調べた結果,安全対策を徹底する必要があるとして全国の医療機関に緊急の勧告をした。日本心臓血管外科学会,日本胸部外科学会及び日本人工臓器学会の3学会の合同委員会は,事故の防止策について検討し,事故を再現するなどして調査した結果,安全対策を徹底する必要があるとしてガイドラインをまとめ,全国の医療機関に緊急の勧告をした。これによると,患者の血液を吸引する管に目詰まりを起こしやすいフィルターを付けないこと,血液を吸引する圧力を微調整できる専用の装置を使うことなどを求めている。」等の内容を放送した。同放送は,同時刻に衛星第二放送及びデジタルハイビジョンでも行われた(乙32の1ないし3)。

また,そのころ発行された「Medical& Test Journal」同月21日号にはその緊急勧告に関する記事が掲載されていた(乙16)。

g 厚生労働省は,同月17日,同省医政局総務課長及び同省医薬局安全対策課長の連名で各都道府県衛生主管幹部(局)長にあてて,上記3学会検討委員会の中間報告における勧告等を参考として,同勧告で指摘された4点を遵守する必要がある旨を通知した(甲17の末尾の頁)。

h 被控訴人は,同年8月25、日に東京地方裁判所で開かれた被控訴人に対する刑事事件の公判において,それまで認否を留保していた起訴事実を否認し,事実関係としては,血液を吸引するポンプを高回転にしたことを認めた上,「女子医大には,当時,回転数に関するルールや指導はなかった。脳障害を引き起こしたのは,ポンプを高回転にしたためではない。」などと主張した(甲24)。

i 同月26日付けの産経新聞は「女子医大病院手術の女児死亡元医師ミス否認」の見出しの下に,被控訴人に対する刑事事件における上記の事実関係を報道した(甲24)。

j 前提事実(7>ア,イのとおり,3学会検討委員会は,同年5月,3学会報告書を作成し,同月15日,札幌市で開催された日本心臓血管外科学会学術総会のシンポジウムにおいてその内容を報告した。この報告においては,各委員から3学会報告書に基づいた報告がされ,「安全な陰圧吸引補助脱血法に向けての提言」として,前記中間報告と同内容の4点の遵守事項が勧告されるとともに,前記認定の3学会報告書の記載に基づき,本委員会の検討により,女子医大で起こった事故は本来陰圧であるはずの静脈貯血槽が急激に陽圧になったためであり,その原因は吸引回路の回転数が非常に高かったためではなく,陰圧吸引補助ラインに使用したフィルターが目詰まりを起こし閉塞した可能性があることが模擬回路による実験でも示されたことが報告された(甲7,8)。

k NHKは,同日,総合テレビの「ニュース9」において,「人工心肺トラブル2年で約500件」という文字タイトルの下で午後9時10分ころに30秒間,さらに総合テレビの「ニュース10」において,「人工心肺トラブル」という文字タイトルの下で午後10時59分ころに30秒間,上記報告内容に基づき,3学会が全国の病院に人工心肺装置の使用についてアンケートをした結果,多数のトラブルが起こっていることが判明したことなどを放送した(乙16,32の1ないし3)。

l 3学会報告書は同シンポジウムの参加者に配布されたほか,同日,3学会報告書の抜粋が3学会のそれぞれのウェブサイトに掲載された。また,3学会報告書は,そのころ,「人工臓器」,「Clinical Engineering」などの医学専門誌に掲載されて紹介された(甲9,10,弁論の全趣旨)。

m 同年7月25日に開かれた瀬尾和宏被告人に対する刑事事件の公判において,喜田村弁護人は,瀬尾和宏被告人に対して,本年5月に3学会が合同で3学会検討委員会を作って3学会報告書が出されたことを知っているかどうかを尋ねる被告人質問をし,3学会報告書に言及した。控訴人江刺は,同日の公判を傍聴していた(甲4,弁論の全趣

)。

n同年11月13日に東京地方裁判所で開かれた被控訴人に対する刑事事件の第26回公判において,被控訴人の弁護人が3学会報告書を証拠として取り調べることを請求した(甲32の2,弁論の全趣旨)。」

5 27頁21行目から31頁15行目までを次のとおり改める。

「イ)しかしながら,本件書籍は,本件連載記事の毎日新聞紙上への掲載から1年余の期間を経過した時期において,連載記事をまとめたものを新たに単行本(新書)として発行するものであり,本件書籍の発行は,新聞紙上への掲載とは別に被控訴人の社会的評価を低下させ得るものであるから,本件書籍の記載内容の事実を票実であると信ずるについて相当の理由があったか否かは,本件連載記事の掲載時における上記の判断とは別に,本件書籍の発行時を基準として判断すべきである。

(ウ)そして,本件記載は,本件書籍全体の論述の申で重要な位置を占める事実であり,被控訴人が人工心肺装置の操作ミスをした旨の本件記載は,被控訴人に対して重大な名誉毀損の被害をもたらすものであること,本件書籍:の発行時には,被控訴人に対する刑事裁判が係属中であり,前記のとおり被控訴人は,同年8月25日に東京地方裁判所で開かれた刑事事件の公判において,それまで認否を留保していた起訴事実を否認し,「脳障害を引き起こしたのは,ポンプを高回転にしたためではない。」などと主張するに至り,被控訴人も操作ミスを認めているという本件連載記事を執筆した当時の控訴人取材班の認識(認定事実(ア))とは全く異なる状況が生じていたこと,前記のとおり,本件患者の遺族などの側からも,平成14年12月12日,厚生労働大臣に対して,女子医大病院が使用していた入工心肺装置には,何らかの重大な欠陥があると考えられるとして,その導入の過程等について調査を求める要望書が提出され,その旨の報道がされていたことなどの事実に,本件書籍は,速報性を必要とする日刊新聞紙の報道記事としてではなく,毎日新聞社内において医療事故の取材等のために特別に編成された控訴人取材班の継続的な取材の成果を,将来にわたって販売が継続され得る単行本として世に問うものであることを考え合わせると,控訴人取材班としては,本件書籍の発行に当たり,新聞連載時の取材対象等に対する追跡取材及びその後の事態の進展等に即応した新たな取材をし,書籍の記載内容の正確性を再検討する必要があるものというべきである。

(エ)これを本件についてみると,本件記載に関しては,上記イ「認定事実」(イ)記載のとおりの新たな事態の進展があり,これらの事実関係は,いずれも,一定の範囲の者には公開されていたものであり,これらの中には,控訴人取材班自ら取材し,報道したことがあるもの(上記イ「認定事実」(イ)b,c参照),他の報道機関が取材し,報道したもの(上記イ「認定事実」仔)e,f,j,k参照),3学会の関係者,心臓外科の専門医,人工心肺装置に関する技士,研究者及び心臓手術に関連する病院関係者等に知られていると考えられるもの(上記イ「認定事実」(イ)d,e,g,j参照)が含まれているのであって,控訴人取材班としては,上記の取材の必要に基づいて,本件手術の関係者,内部報告書の関係者,心臓外科の専門医,人工心肺装置に関する技士,研究者等に対して上記のような追跡取材及び新たな取材をすれば,これを知り得たものというべきである。

そして,そのような取材をしたとすれば,控訴人取材班は,本件事故について,「東京女子医大で起こった事故は本来陰圧であるはずの静脈貯血槽が急激に陽圧になったためであり,その原因は吸引回路の回転数が非常に高かったためではなく,陰圧吸引補助ラインに使用したフィルターが目詰まりを起こし閉塞した可能性があることが模擬回路による実験でも示された。」との結論を提示して判断の過程及び理由を詳細に記載した3学会報告書を閲覧・入手することができたものというべきであり,内部報告書と3学会報告書とを対比して検討すれば,本件事故の主要な原因が吸引ポンプの回転数を上げすぎたことにあるとする内部報告書の記載が誤りであるか,少なくともその結論に重大な疑義があることを知り得たものであり,したがって,3学会報告書の存在や内部報告書の正確性等の問題点について言及することなく,被控訴人の操作ミスの存在を摘示した記載2の内容を真実の記載としてそのまま維持することが困難であることを認識し得たものというべきである。

(オ)ところが,前記のとおり,控訴人取材班は,本件書籍の発行に際し,海外のデータについて本件連載記事を掲載した時点のデータを最新のも、のにする作業をしたほか,認載内容の正確性についての確認作業をしたが,更に積極的に新たな取材はせず,3学会報告書についても検討したことはなく,本件記事については本件連載記事の内容について,特段の加筆や訂正をすることはしなかったものである。

(カ)なお,控訴人らは,本件書籍発行の段階では,そもそも3学会報告書を入手して検討する契機がなかったと主張する(争点(2)ウ(被告らの主張)(イ)。

しかしながら,控訴人取材班には,前記のとおり,本件書籍の発行に当たり,3学会の関係者,心臓外科の専門医,人工心肺装置に関する技士,研究者,内部報告書の関係者等に対して上記のような追跡取材及び新たな取材をする必要があったのであり,このような取材を実行すれば,3学会報告書の存在を知ることができ,これを入手することができたものというべきであり,控訴人らの上記主張は,更に積極的に新たな取材をしないことを前提とする立論であるから,採用することができない。

(キ)また,控訴人江刺及び控訴人会社従業員の陳述書(乙15,16)には,本件書籍の発行スケジュールにおいて,本件記事の内容について十分な検討をすることは困難であったかのように述べる部分がある。しかしながら,本件書籍の発行時期からすれば,何らの対応をすることもできなかったとは到底考えられない上,そもそも発行スケジュールは控訴人らにおいて決したものにすぎず,控訴人らとしては,本件書籍の記載内容に問題があることが判明したとすれば,出版時期を延期してでも対応すべきであるから,本件書籍の発行スケジュールを理由として,上記の判断を覆すことはできない。

(ク)以上によれば,本件書籍を発行した時点において,控訴人らが被控訴人が本来してはならない吸引ポンプの回転数を上げ続けるという操作をしたことによって本件事故が発生したことを真実であると信ずるについての相当の理由があったと認めることはできない。この点に関する控訴人らの主張は,採用することができない。」

4結論

以上によれば,被控訴人の請求は原判決が認定した限度で理由があるからその限度で認容し,その余の請求は理由がないから棄却すべきであり,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴及び本件附帯控訴は,いずれも理由がないから,これらを棄却することとする。

東京高等裁判所第12民事部

裁判長裁判官   柳田幸三

裁判官             大工 強

裁判官             坂口 公

これは正本である。

平成21年7月15日

東京高等裁判所第12民事部

裁判所書記官加藤政人

 

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2009年7月16日 (木)

二審も勝訴!毎日新聞記者らの破廉恥な和解案

二審判決文は一審の理由をさらに増強

昨日の2009年7月15日、私が、『医療事故がとまらない』(集英社新書)を執筆した江刺正嘉記者、渡辺英寿記者、花谷寿人記者(毎日新聞医療問題取材班)他2名の計5人の記者5人と集英社を名誉毀損で本人訴訟で訴えていた民事裁判(被告代理人:高木佳子弁護士、古谷誠弁護士)で東京高等裁判所は、2008年12月8日の東京地裁判決が私の訴えを認め、記者らに80万円の支払いを言い渡した判決を支持して、控訴および附帯控訴を棄却しました。すなわち、私の勝訴です。

この裁判の一審については、当ブログ

2008年12月5日 「医療事故がとまらない」毎日新聞医療問題取材班「一粒で二度美味しい」を許すな! http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/post-2352.html

2008年12月8日 勝訴!対集英社および毎日新聞記者ら本人訴訟-名誉毀損賠償80万円ー第1報 http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/80-8d13.html

2008年12月12日 100万円基準を500万円基準にー名誉毀損裁判 損害賠償額ー http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/100500-205d.html

で紹介しました。

被告側、敗訴を予想して和解案提出

 二審は、一審以後に私が追加した証拠が判決文に追加されてより判決理由が増強されています。

 相手側二審が結審した直後。和解を望んできました。6月10日が判決日だったのを引き伸ばされました。

 その和解案とは極めてずうずうしいものでした。

毎日新聞記者ら側の和解案

「tokyo_kosai_wakai_ann.pdf」をダウンロード

「1.控訴人らは、本件書籍において、本件事故の原因として後の刑事事件の控訴審判決が認定した事実と異なる記述が存在すること及び被控訴人が無罪を主張していた事実について言及がないことを認め、これにより被控訴人が不快の念を抱いたことについて遺憾の意を表明する。また、控訴人らは、被控訴人の刑事裁判における被控訴人の主張に関する取材が不十分だったという被控訴人の見解を真摯に受け止め、今後の取材・編集活動に生かすべく努める。

2.被控訴人は、本件書籍執毎及び発行の目的が、医療事故における組織的・制度的な問題の究明にあり、被控訴人を含む医師個人の責任を追及したりその名誉を毀損することにはなかったことを理解する。

3.控訴人ら及び被控訴人は、本件訴訟が和解によって解決したという事実並びに本和解条項第1項及び第2項の内容を除き、本件訴訟の経緯並びに本件訴訟において提出された準備書面等及び証拠(但し、公刊物を除く。)を秘密として保持し、正当な理由なくこれを第三者に開示又は漏洩しない。

4控訴人ら及び被控訴人は、控訴人らと被控訴人との間には、本和解条項に定める内容を除き、一切債権債務がないことを相互に確認する。

5訴訟費用及び和解費用は、第一審、控訴審とも各自の負担とする。」

一審勝訴している私が、このような馬鹿げた和解案を受け入れるはずがありません。「本件訴訟の経緯並びに本件訴訟において提出された準備書面等及び証拠(但し、公刊物を除く。)を秘密として保持し、正当な理由なくこれを第三者に開示又は漏洩しない。」なんて和解案聞いたことがないでしょう。

これは、被告らが、そうとうめちゃくちゃな「準備書面」や「証拠=陳述書」を出してしまったことが公開されるのが恥になるからでしょう。

 勝訴したからには当然こちらは、公開する権利があります。

 また、裁判官もあきれて、修正しました。

裁判所和解案

「1.控訴人らは、本件書籍において、本件事故の原因として後の確定した刑事事件の無罪判決が認定した事実と異なる記述が存在すること及び被控訴人が無罪を主張していた事実について言及がないことを認め、これにより被控訴人が不快の念を抱き、迷惑損害を受けたことについて遺憾の意を表明する。また、控訴人らは、被控訴人の刑事裁判における被控訴人の主張に関する取材が不十分だったという被控訴人の見解を真摯に受け入れ、今後の取材・編集活動に生かすべく努める。

金銭支払い項目:和解金100万円

2.被控訴人は、本件書籍執筆及び発行の目的は、医療事故における組織的・制度的な問題の究明あり、被控訴人を含む医師個人の責任を追及したりその名誉を毀損することにはなかったことを理解する。

3.控訴人ら及び被控訴人は、本件訴訟が和解によって解決したという事実並びに本和解条項第1項及び第2項の内容を除き、秘密として保持し、正当な理由なく、これを第三者に開示又は漏洩しない。

4.控訴人ら及び被控訴人は、控訴人らと被控訴人との間には、本和解条項に定める内容を除き、一切債権債務がないことを相互に確認する。

5訴訟費用及び和解費用は、第一審、控訴審とも各自の負担とする。」

 私は、

原告和解案

「1.控訴人らは、本件書籍において、被控訴人が2003年8月までに主張していた事実、すなわち本件事故の原因として確定した刑事事件の無罪判決が認定した事実と異なる記述が存在すること、及び、専門家に対する取材が不十分であったことを認め、これにより被控訴人が不快の念を抱き、迷惑損害を受けたことについて真摯に反省し謝罪する。また、控訴人らは、被控訴人の刑事裁判における被控訴人の主張に関する取材を初めとした刑事裁判の取材が不十分だったことを真摯に受け入れるとともに、本件訴訟で主張した準備書面と陳述書の全てを撤回し、さらに今後の取材・編集活動に生かすべく努め、平成21年6月20日までに和解金600万円と2003年12月23日から完済に至るまで年5分の割合による金員および第一審、控訴審ともに全ての訴訟費用を被控訴人に支払う。

2.控訴人ら及び被控訴人は、控訴人らと被控訴人との間には、本和解条項に定める内容を除き、一切債権債務がないことを相互に確認する。」

という対案をだしましたが、双方の乖離が大きいため判決となりました。

この時点で相手側は、敗訴を容認したと思われます。

そして何より、被告側が敗訴を予測していたことの表れは、弁論期日も、和解期日も弁護士2人、被告記者2人、毎日新聞社法務関係者、集英社関係者など毎回6-8人訴訟にかかわっていたのが、控訴審判決では法廷に現れませんでした。被告側席0人、原告側席1人。傍聴者席20人近くという状況で判決を聞きました。

勝訴さえすれば、苦労のしがいがあったというものです。

毎日記者には、この書籍で得た収入を返上してもらいたいですね。

せっかく和解案の原本をブログに掲載したのですが、↓の方にしか提示できないようです。ずっと下にいって、クリックして原本を読んでください。

「mainichi_kisha_gawa_wakai_ann.pdf」をダウンロード

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2009年3月 1日 (日)

フジテレビ控訴審判決 「判例タイムズ 1286号(‘09 3/1 )170頁に掲載

1.            判例タイムズ 1286号 170頁

 「同控訴審判決については、近々、改めて紹介する予定である」と1282号の予告どおり、本人訴訟で勝訴したフジテレビの控訴審判決が「判例タイムズ 1286号(09 3/1 )170頁に掲載されました。

 二回目ということもあってか、前回の14頁、解説がほぼ4頁が、今回は全8頁解説が2頁+αのボリュームでした。

2.            解説

 「第1審判決の判タコメントでも紹介されている判例ないし裁判例の流れの中でみると、第1審判決を相当とした本判決の認定判断が今後の同種事案の処理に際して参考になるところは少なくないように思われる。」とのこと。

この同種事案とは、「刑事事件の被告人に係る事件報道につき、新聞記事ではなく、テレビ放映をめぐって、被告人に対する名誉毀損の不法行為の成否のほか、肖像権侵害の不法行為成否が問題となった事案」ということのようです。

 今後、この高裁判決が、名誉毀損裁判の判例として、将来他の判決に引用されるかどうかが楽しみです。

 なお、引用や参考とされた判決は、

①最高裁平成14年(受)第846号同15年10月16日第一小法廷判決

②最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決

③最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決

④最高裁昭和55年(オ)第1188号同62年4月24日第二小法廷判決

⑤最高裁昭和60年(オ)第1274号平成元年12月21日第一小法廷判決

⑥最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決(2回目)

⑦最高裁平成7年(オ)第1421号同14年1月29日第三小法廷判決

と全て最高裁判決です。

 「大野病院事件の判決は、法律家の間では重視されない。それはやはり、一審判決でしかない。地裁の判断でしかない。法律の世界は、そこが非常に厳しくて、原則として最高裁でなければ判例とは言わない。(大野病院事件は)最高裁まで争って決まったものではなく、一地方裁判所の判断。」と刑法の権威的な存在で、前医療事故調座長の前田雅英氏は述べたと伝えられています。

 そんなことはないですね。日本で最初のプライバシー侵害裁判でとして、その裁判判例は、法理としても実務的にも極めて重要な判決として取り扱われて「宴のあと」事件は東京地方裁判所の一審判決で、確定しています。

「宴のあと」事件判決(第一審判決)
http://www.cc.kyoto-su.ac.jp/~suga/hanrei/10-1.html
このような重要な事件の判決を前田氏が知らないはずありません。

3.            解説と判決

 ところで、判例タイムズでは、最初に「解説」がきて、次に「判決文」が掲載されるスタイルをとっていますが、〔解説〕では、「民放テレビ局Y(原審被告)」と書かれているのに対して、掲載した「判決文」にはおもむろに、「株式会社フジテレビジョン」とか「東京女子医大病院」とか「西田弁護士」固有名詞になっているところが、よいですね。

関連記事:

2009年1月12日 (月)フジテレビ地裁判決:判例タイムズに掲載される

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2009/01/post-71d8.html

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2008年10月9日 (月)再び勝訴! (一審 勝訴確定 ) フジテレビ控訴審および附帯控訴審

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/post-0be6.html

2007年8月27日 (月) 勝訴 フジテレビ訴訟 本人訴訟第1号 

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_fea3.html

2008年7月31日 (木)

「悪意ある虚偽報道による名誉段損に対しての闘い」田邊昇先生 「外科治療」2008Vol.98No.6より

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/07/post.html

2007年8月25日 (土)

フジテレビ訴訟 判決

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_7178.html

2008年3月 7日 (金)

「日経メディカル」記事掲載ー本人訴訟でフジテレビに勝訴―

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_10f7.html

2008年2月 1日 (金)

刑事控訴審続報の前に今日のフジテレビ控訴審 

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/02/post_f412.html 

2008年3月 7日 (金)

復刻 フジテレビ訴訟 控訴審

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_5865.html

2008年5月22日 (木)

フジテレビ控訴審 結審日決定

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/post_6faa.html

2007年6月 4日 (月)

フジテレビ訴訟 本人尋問期日のお知らせ

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/06/post_44bb.html

①最高裁平成14年(受)第846号同15年10月16日第一小法廷判決

②最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決

③最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決

④最高裁昭和55年(オ)第1188号同62年4月24日第二小法廷判決

⑤最高裁昭和60年(オ)第1274号平成元年12月21日第一小法廷判決

⑥最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決(2回目)

⑦最高裁平成7年(オ)第1421号同14年1月29日第三小法廷判決

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2009年1月12日 (月)

フジテレビ地裁判決:判例タイムズに掲載される

フジテレビの地裁判決が法律雑誌の「判例タイムズ」1282号(09年1月15日号)に掲載(233-248頁)されました。全14頁、解説がほぼ4頁にわたって付けられ、詳細に紹介されています。
 高裁で控訴棄却になったことも触れられていて、「同控訴審判決については、近々、改めて紹介する予定である」とされています。フジの代理人は嫌でしょうね。
 判例タイムズ掲載記事でも、原告代理人の名前がなければ本人訴訟ということが分かります。ちなみに原告の名前は仮名で「甲野太郎」[i]

これに対して弁護士さん達のお名前は実名でずらずらと並んで記載されことが、

再度約束されているのでは、読む気にならないかもしれません。

解説では236頁の、

「4・・・・最高裁判例を特に引用しているわけではないが、その認定判断は最高裁判例の判旨を踏まえ、かつ、X,Y双方の主張に対して仔細な検討を加えたものであって、今後の裁判実務に参考になるところは少なくないように思われる。」と書かれているところが、私としては気にいっています。

 「999」をはじめとして、この記事に紹介のある10以上の最高裁判例は全て平成9年以降のもので、一般の弁護士さんにとっても、現在の名誉毀損裁判を闘うために必読のものです。よいリストだと思います


[i] 「甲野太郎」判例タイムズ、判例時報などの判例紹介雑誌等で、原告や被告を仮名処理するときに使用される仮名で、その判決文に出てくる最初の個人名。

「エセ・ブラックジャック」の正体 自ら「本件における中立な証言を述べられる価値なし」

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/02/post_fab4.html より

弁護人

 「被告」として「甲野太郎」という仮名になっていますけれども,これは証人のことですか。

南淵明宏証人

 これがどのような形でこういった文書になっているのか,側面に「判例時報」というふうに書いてあるわけですけれども,実際にこれが甲野太郎というふうになっている。

裁判長(張り切って説明している)

 それは仮名処理されているんですよ。

南淵明宏証人

ええ。いや,ですからこれはこの判例時報をお書きになられた方に聞けばすぐ分かることではないでしょうか。

弁護側証拠採用決定―南淵明宏医師の名誉毀損敗訴判決、言い訳レター-今後も南淵証人弾劾証拠に永続的に活用可能 http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/post_f738.html

弁9 の判例時報掲載記事では「被告」が「甲野太郎」になっている。「原告」の私も、「被告」の南淵明宏医師も同じ「甲野太郎」扱い。

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2008年12月12日 (金)

100万円基準を500万円基準にー名誉毀損裁判 損害賠償額ー

今回の集英社と毎日新聞記者5人を被告として名誉毀損裁判で勝訴いたしましたが、その損害賠償金額が80万円と低い金額だったことに関して、m3.comほかのネット上で論じられています。

これは、以前から、裁判所の方でも認識されていたことで、専門雑誌(ジュリストなど)でも論文が発表されていました。これらを利用して、一般論や事例を用いて本件ではどの程度なのかを検討して準備書面として提出したのですが、判決にはあまり反映されなかったようです。議論と盛り上げるきっかけにもなると思いますので、以前フジテレビ訴訟での準備書面に手を加えたブログ「日本の名誉毀損損害賠償額算定学」http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/post-7046.html

に加えて今回の訴訟での準備書面における主張を掲載します。

特に、名誉毀損裁判の経験がある法曹界の方々からご意見をいただければと思います。

第5 損害賠償額について

原告は訴状において1000万円の損害賠償金と民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた。以下、損害賠償額について主張する。

1.名誉毀損裁判における慰謝料額の検討

 我が国において,名誉毀損をはじめ人格権侵害の損害賠償額,特に慰謝料額については,顕著に低額であることが指摘されてから久しい。現在から20年以上前に,「北方ジャーナル事件」最高裁大法廷1986年6月11日判決(民集40巻4号872頁,判例時報1193頁)において大橋裁判官は補足意見の結びに「わが国において名誉毀損裁判に対する損害賠償は,それが認容される場合においても,しばしば名目的な低額に失するとの非難を受けているのが実情と考えられるのであるが,これが本来表現の自由の保障の範囲外ともいうべき言論の横行を許す結果となっているのであって,この点は官権者の深く思いを致すべきところと」と判示されている。

 稀な例外を除けば,せいぜい数十万円から100万円程度にとどまってきた名誉毀損に対する従来の損害賠償の「相場」は,近時の高度情報化した我が国の社会において,情報,名誉,信用等に対する価値が増大していることに対応していなかったため,その妥当性が再検討されるべきであった。実際に,平成13年司法制度改革審議会の最終意見で,「損害賠償額の認定は低すぎるとの批判があり,必要な検討が望まれる」ことが指摘され,マスメディアによる名誉毀損を中心とした損害額の算定についての裁判官による研究会が活発に行われた。その結果,名誉毀損での高額化の提案が相次いでなされた。

 例えば,東京地方裁判所損害賠償訴訟研究会「マスメディアによる名誉毀損訴訟の研究と提言」(ジュリスト1209号63頁)は,基本額として400万円から500万円程度を提案し,司法研究所「損倍賠償請求訴訟における損害額の算定」(判例タイムズ1070号4頁)も高額化を提起するとともに,慰謝料額の定型化の算定基準も示された。また,元裁判官の塩崎勤弁護士による「名誉毀損による損害額の算定について」では,一般的な平均基準額として500万円程度が示され,井上繁規東京高等裁判所判事による「名誉毀損による慰謝料算定の定型化及び定額化の試論」(判例タイムズ1070号14頁)では慰謝料算定の定型化及び定額化の算定基準が提示された。

2.過去の判例の分析的損害額算定と平成13年以前の裁判例

 一般的な平均基準額として500万円が示されたとはいえ,名誉毀損による損害賠償事件における算定は,裁判所が各事件における事情を斟酌し,その自由な心証に委ねられてきたことは,確立した判例が示してきた。損害額の算定に,考慮されるべき事情は多種多様で,様々な要素が考慮された結果として,最終的な算定に至るものであり,一般的かつ汎用性のある損害賠償の基準・標準を,過去の判例の算定額から単純に導きだすことは困難である。しかしながら,本件と同様の事例に限定して抽出した分析結果は、本件における慰謝料算定を考えるに当たり意味がある。

 例えば,前述の東京地方裁判所損害賠償訴訟研究会「マスメディアによる名誉毀損訴訟の研究と提言」「5.損害額算定の裁判例の分析のまとめ」ジュリスト1209号72頁では,本件同様の事例,

   名誉毀損行為の伝播性が全国的なものであった事例

   被毀損者が社会的信用のある者などの著名性を有していたもの

   何らかの減額要因(報道の正当性,断定的な表現でないこと,被害者側の落ち度,謝罪広告の請求を認容すること等)が積極的には認定されていない事例

以上の①②③に限定し抽出した7事例が分析されている。これらの修正単純平均額は485万7142円で,中間値(メジアン)は300万円であった。

 本件をこれと照らし合わせると,①日本有数の出版社である被告が出版したもので、累計発行部数28000冊(乙第19号証)、全国紙特別な大きな文字を使用して広告した(乙第2号証の1、乙第2号証の2)ことから推測できる閲覧者数は莫大で、伝播性が全国的であることはあきらかであり、②被毀損者が一般に社会的信用のある医師であり,③何らかの減額要因がない事例であり,この東京地方裁判所損害賠償訴訟研究会の論文における「限定して抽出された事例」の範疇に含まれるものである。

3.平成13年以後の主な名誉毀損裁判の損害額について

 平成13年に活発発表された裁判官らの論文の研究対象になった名誉毀損訴訟判例の後も,名誉毀損裁判の認容損害額は高額化し,研究対象となった判例に比較しても総体として高額となっている。以下に主な判例の「認容損害額」「被毀損者」「事件の内容」等を列挙する。

   1650万円(被毀損者 市長)「鎌倉市長がビルの所有者,政治団体,任意団体の代表者の垂れ幕で名誉を毀損された事件」 横浜地方裁判所 2001年10月11日判決(判例タイムズ1109号186頁)

   920万円(被毀損者 大学教授 *)「私立大学の教授が発掘調査された遺跡から発見した石器の捏造に関連した旨等を摘示した週刊誌記事の事件」最高裁判所2004年7月15日第一小法廷判決(別冊ジュリストNo.179「メディア判例百選」144頁),福岡高等裁判所 2002年2月23日判決(判例タイムズ1149号224頁) (* 本件の原告は,被毀損者の遺族3人である)

   600万円(被毀損者 プロ野球選手)「プロ野球選手のトレーニングに関する週刊誌記事の事件」東京高等裁判所 2001年12月26日判決(判例時報 1778号78頁,判例タイムズ1092号100頁)

   600万円(被毀損者 プロ野球選手)「プロ野球選手が野球賭博に関与したとの主旨の週刊誌記事の事件」東京高等裁判所 2002年3月28日判決(判例時報1778号79頁)。

   550万円および440万円(被毀損者 医療法人理事長および医療法人)「医療法人の職員4人が死亡した事故と保険金の関係等の写真週刊誌記事の事件」熊本地方裁判所 2002年12月27日判決

   550万円および110万円被毀損者 電気通信事業会社社長および会社)「電気通信事業会社社長が原告会社の子会社の株を操作した旨の週刊誌記事とファミリー企業がソープランドを買収した旨の週刊誌記事の事件」東京地方裁判所 2003年7月25日(判例タイムズ1156号185頁)

   550万円(被毀損者 テレビ番組制作会社)「テレビ番組制作会社に関する裏金要求疑惑や窃盗疑惑などの週刊誌記事の事件」 東京地方裁判所 2005年4月19日判決 (判例時報1905号108頁)

   500万円および500万円((被毀損者 建築家および建築家名建築都市設計事務所) 「橋の設計等に関与した建築家を誹謗した週刊誌の記事等の事件」(東京地方裁判所 2001年10月22日判決(判例時報1793号103頁)

   500万円(被毀損者 国会議員)民主党所属の国会議員が,賛成派議員と郵政民営化法案通過の打ち上げに参加していた旨を摘示した週刊誌記事の事件」東京地方裁判所民事第34部 2007年1月17日判決

   500万円(被毀損者 国会議員)「地下鉄建設工事に関して利益を得た旨の雑誌記事の事件」京都地方裁判所2002年6月25日判決(判例時報1799号135頁)

   500万円(被毀損者 テレビ放送局社員)「放送局の社員が自宅マンションの騒音をめぐる紛争につき建設省を通じて施工業者に圧力を掛けた等の言動を内容とした写真週刊誌記事の事件」東京地方裁判所 2001年12月6日判決(判例時報1801号83頁)

   440万円(被毀損者 医療法人) 医療法人の経営する病院に勤務する医師が無断アルバイトを理由に退職したにもかかわらず,医療過誤の事実を患者側に伝えて解雇されたなどと週刊誌の取材やテレビで発言した場合,病院の社会的評価を低下させたとして,医療法人の医師に対する損害賠償請求が認容された事例」 横浜地方裁判所 2004年8月4日判決(判例時報1875号119頁)

参照:「検察官の異議申し立ては棄却! 第5回控訴審速報 自ら報告」

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/01/5_de20.html

   440万円(被毀損者 評論家)「書籍やインターネット上で評論家の名誉を毀損する事実を摘示した事件」 東京地方裁判所 2001年12月25日判決

   330万円(被毀損者 弁護士)「新弁護士会館に飾られる裸婦画をめぐる女性弁護士に関連した週刊誌記事の事件」 京都地方裁判所 2005年10月18日判決(判例時報1916号122頁)

   300万円(被毀損者 金融会社)「消費者金融会社の企業経営を批判する月刊誌記事の事件」東京地裁 2002年7月12日判決(判例時報1796号102頁)

   300万円(被毀損者 弁護士)「弁護士に関する単行本のルポ中の記述の事件」東京地方裁判所 2003年12月17日判決(判例タイムズ 1176号234頁)

4.本件書籍の損害額算定における考慮要素の分析

  名誉毀損の損害額算定にあたって考慮される増額要素には様々なものがあるが,以下項目別に本件で考慮されるべき増額要素について論じる。

(1)事実流布の範囲、情報伝播力

 本件書籍は、本邦最大級の出版社である被告による出版で、累計発行部数28000冊(乙第19号証)、朝日新聞(乙第2号証の1)日本経済新聞(乙第2号証の2)といった全国紙に通常の新書の宣伝よりも特別な大きな文字を使用して印象が残るように広告した。

本件書籍は、おそらく全国津々浦々の書店で発売されたり、全国にある一般図書館にも蔵書とされたりしたはずである。仮に、発行部数が28000冊だとしても、本件書籍購入者の他、図書館からの貸し出し、パーソナルな貸し借り、古本として本件書籍を閲覧したものは、その何倍にもなる可能性がある上、現在でも増加しつつある。

(2)二次的伝播への影響

 近年,爆発的な広がりを見せて発展したウエッブサイトによる二次的伝播による損害の拡大も無視できない。ウエッブサイトが存在しない時代の書籍の内容に関する情報の二次的伝播は、そのほとんどがパーソナルコミュニケーションに限られていた。しかしながら、現在の高度に発達したホームページやブログの伝播力は無視できない。本件書籍を閲覧した読者が自らのホームページやブログに本件書籍の内容や引用を用いた場合、そのウエッブサイトの閲覧者に対しても原告の社会的信用を低下させる情報が流布されることになる。さらに、その閲覧者が自分のホームページやウエッブサイトに書き込みを行うと、三次的伝播ないし高次的伝播と,次々とねずみ算式に波及する可能性がある。そうなると,仮に原ウエッブサイト記事が後に削除されたとしても,名誉毀損の被害拡大を抑制することは不可能である。

 本件書籍を直接閲覧したり,これに関するウエッブサイトを閲覧したりした者が,最初に抱いた印象は簡単に消えるものではない。それどころか,最初に抱いた印象を基準にして判断し,一審公判廷で無罪とされた方が間違っているのではないかとの不信感を持つ者が少なからず存在するはずである。万が一,これらのウエッブサイトを把握し得ることが可能となって、その全て削除され,さらに後に繰り返し原告が無罪であることが別のメディアによって報道されるようなことがあったとしても,最初に抱いた印象は簡単に消えるどころか永遠と残存する可能性も高い。

(3)精神的損害・無形的損害

 被毀損者の「名誉を毀損された者にしか分からぬ痛み」は,どんなに甚大であろうとも,第三者が理解することは困難である。原告は,小学生のころから医師それも心臓外科医を目指し,大学医学部で6年間,その直後の医師免許取得から本件書籍発売までの18年以上の年月を併せて継続的に20年以上もの間医学を学び,心臓外科学を研鑽し心外科診療に従事してきた。本件書籍出版後も心臓外科医として患者の診療を行ってきた。

これに対して,科学的素養も有さない,何の医学知識もない,充分な取材も行わなかった被告の認識すなわち取材の努力もしない記者の誤った認識によって,いとも簡単にあたかも有罪であるかの印象が全国的に流布されたのであるから、たとえ一審無罪判決が言い渡された現在でもその損害は甚大であり、原告の社会的信用の回復は容易ではない。その精神的苦痛は極めて大きい。

(4)名誉毀損の内容・表現方法

 本件書籍「第一章 東京女子医大病院事件」は、書籍の最初に扱われた事例で、81頁にわたる記載がある。書籍における配置、頁数からして最も印象に残る章である

 さらに、内容や表現方法は、「途中で、『血液が回ってない』と医師の怒鳴り声が響いた。人工心肺装置の操作を担当した医師がポンプの回転数を上げすぎ、装置が故障して、動かなくなってしまったのである。(乙第1号証20頁)」と実際にはありもしない「台詞」を創作したり、原告が訴状で指摘した部分に関しては、全般的に誤っている事柄を断定的に述べたりしている。

また、自らは全く医学知識が欠如しているにもかかわらず、誤った情報を用いて「名門女子医大で心臓手術を手がける専門医たちの知識レベルは、どうなっていたのだろうか。」と原告を罵しるなど悪質である。さらに、「やぶ医者」というような下品な表現を用いたり、「初歩的ミス」「単純ミスというより技術不足だ」等原告の心臓外科としての背景や知識を知りもしないのに、誤った事柄について断定的に述べたりしている。

以上、内容と表現について考慮しても、損害額の算定については増額されるべきである。

(5)加害行為の動機・目的

 本件で対象になっている記述についての、加害行為の動機、目的は明らかではない。しかしながら、「やぶ医者」「初歩的ミス」「技術不足」などの文言が用いられていることから推測すれば、原告個人を特に吊るし上げようとしたと考えられる。

(6)取材方法の相当性

 被告らの乙第12号証、乙第13号証「陳述書」は、「平成20年1月28日付け」で、2001年12月29日からの取材の経過が陳述されているが、前述の「第4 取材メモの不提出について」で述べたように取材メモ等の証拠が添付されていない。このことは、被告にとって有利な部分の取材メモの一部を抜粋したり、被告にとって有利な記憶だけを用いたりすることにより陳述書を作成したと推測される。

乙第12号証、乙第13号証それぞれの取材の日時が明確に記載されているわけではない。平成14年6月までは、それぞれの取材について具体的な記載があるが、本件争点になっている逮捕後の取材については、乙第12号証8頁に「その後も、私や取材班のメンバーは、平成17年12月ごろまで、佐藤氏や瀬尾医師の刑事事件の公判を随時傍聴するなどして、本件医療事故に関する情報収集を継続的に行いました。」とあるだけで、具体的に何を取材したかの記載が全くない。

一方、乙第15号証「陳述書」は平成20年3月4日付けで、裁判長からも、「『3学会報告書』発表後から本件書籍が出版されるまでの取材について明確にする」旨の要請があった後の陳述書である。しかし、この間の取材についての具体的な取材については、何も記載されていない。

また、この期間に被告ら自らが執筆した新聞記事(甲第16号証)では、本件手術で使用された人工心肺装置自体に重大な欠陥があることを認識しながら、そのことに対して全く取材をしていなのであれば、本件書籍の執筆において怠慢な取材態度であったといえる。

(7)被害者の年齢・職業・経歴・社会的地位の高さ

 名誉毀損被害にあった原告は,満40歳をこえて、所謂働き盛りの年代であった。医学博士の学位と心臓血管外科専門医、日本外科学会認定医,専門医、胸部外科認定医を有する現役の心臓外科医であり,その外来診療状況は病院内の案内やパンフレットにとどまらず,「綾瀬循環器病院ホームページ(http://www.ayaseheart.or.jp/index.php)」)にも公開されていた。

 これに加え,上記「3.平成13年以後の主な名誉毀損裁判の損害額について」⑪の事案では,特に社会的にその職業が公開されることもない放送局の一社員に対してですら500万円の慰謝料が認容されたり,同⑤の事案では,同じ医師の資格をもつ医療法人理事長個人に対して550万円の慰謝料が認容されたりした判例があり、賠償額の算定にはこれらを鑑みる必要がある。

(8)被害者が被った営業活動,社会生活上の不利益

 前述の通り,原告は,現役の医師として診療を行っていた。診療に当たっては,本件書籍した患者や患者家族が「原告に過失があったために,事故が生じたのではないか。」との心持ちで,原告の診療を受けていたのではないかという不安が生じた。また,外来を予約したのに受診することなかった患者は,上記のような理由から原告の外来診療を拒否し始めたのではないだろうかという不安を持たざるを得なかった。

 このように,著しい営業活動,社会生活上の不利益を被ったのである。

(9)名誉毀損事実の深刻さ

 近年の名誉毀損訴訟における損害賠償額の高額化の先駆けとなった上記「3.平成13年以後の主な名誉毀損裁判の損害額について」③の事案は,著名なプロ野球選手が再起をかけてのシアトルでのトレーニング中に,ストリップパブに通い白人ダンサーを相手に遊びに興じていた等の記事が問題となったものであった。かかる事案は,プロ野球選手にとっての専門性が直接問われる野球でのパフォーマンスとは関わりがないものであったにもかかわらず,600万円の損害賠償が認められた(なお,一審判決は1000万円の損害賠償を認容した。)。

 原告は,心臓外科医になるために6年間医学部に通い,その後は女子医大の心研に入局し,寝食を惜しんで,骨身を削って心臓外科医としての職務や研究に没頭し,国際学会でもその成果を発表し,医学博士の学位や認定医を取得してきた。原告が人生をかけて築いてきた職業的専門性を,本件書籍は十分な取材をせずに簡単に否定したものであり,原告が本件書籍送によって被った精神的苦痛は多大で極めて深刻なものである。

(10)事後的な名誉回復措置の有無

 被告は,これまで一切の事後的な名誉回復措置をとっていない。

2001年12月29日に被告らの属する毎日新聞社が本件事件を報じたのと同時に読売新聞に記事を書いた同社のW.R.記者は、一審判決後に原告に対して、「『内部報告書』を鵜呑みにして、記事を書いてしまったことを謝罪します。もう一度あの『内部報告書』を見直さなくてはならないと考えています。これまでの事件の経過とともに、これが誤っていることを御教示いただきたいので、取材させて下さい。」旨、丁寧に頭を下げて謝罪し、真実についての取材を申し込んだため、原告はこれを受けた。

このような真摯で誠実な態度の記者が存在する一方で、被告は、取材経過に関して「入稿スケジュールを考慮すると3学会報告書を本件書籍に反映することは困難」「3学会報告書の記者向けの積極的発表ななかった」「マスコミ向けのものではない」「3学会報告書を入手したのは、平成15年8月25日の期日からしばらくたってから」旨(乙第15号証)など、見苦しい言い訳に終始している。

また、上記にも述べたように、驚くべきことに、未だに「3学会報告書の内容的にも内部報告書の結論に疑問を抱いたり、ましてそれが誤りであったと判断することも難しかった」等と嘯いている。上記にも述べたように、「3学会報告書」には、「東京女子医大で起こった事故は本来陰圧であるはずの静脈貯血槽が急激に陽圧になったためであり、その原因は吸引回路の回転数が非常に高かったためではなく(甲8号証25頁)」と「内部報告書」の結論を完全に否定している。

このように現在にいたっても不誠実な姿勢を崩さない被告態度も慰謝料の算定に考慮されるべきである。

.小括

  以上述べてきたことを統合すれば,本件書籍が原告の名誉を毀損したことによる損害額は、1000万円と評価されるのが相当であり、被告らは原告に対し、連帯して金1000万円、及びこれに対する2003年12月23日支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

以 上

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2008年12月 8日 (月)

勝訴!対集英社および毎日新聞記者ら本人訴訟-名誉毀損賠償80万円ー第1報

とりあえず、「医療事故がとまらない」新書 毎日新聞医療問題取材班著の記載内容に関して提訴した訴訟に勝訴したことの第一報を。

1.結審時裁判長の示唆どおり勝訴

 ライブ。前回のブログ「医療事故がとまらない」毎日新聞医療問題取材班⇒「一粒で二度美味しいを許すな!」

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/12/post-2352.html

でも、報じたように、結審の時の様子から高い確率で勝訴を予想はしていた。とはいっても、判決直前傍聴席で出番を待つ間は緊張する。視野が右下のみの4分の1半盲のようになりその部分がグルグル回っているような症状。傍聴席にはいつものように、メディア関連の人が多い。

 「佐藤さん。原告席へ。」書記官の声で席に着くと冷静になれるものだ。被告代理人は席に着かない。これは単に慣習的なものであるかもしれないが、自信がないための行為とも捉えられる。

 裁判官入廷。いつも、左右の陪席の様子も確認する余裕もなく、彼らがいつもの裁判官であるかどうかもわからない。裁判長の顔しか目に入らない。

 民事の原告なら、判決文が「ひ」で始まれば、勝訴だ。「判決。 被告らは原告に対して、連帯して80万円及びこれに対する平成151223日から支払い済みまで年5分の割合による金員を支払え。」

 安堵という気持ちのが強かった。本人訴訟は、孤独なだけに、負けると精神的ダメージが大きい。ピエロが場をわきまえず踊っているのを嘲笑された気分。しかし、これで、本人訴訟も2連敗の後2連勝。自分がやってきたことの正当性を、個人の権利とともに国家が保障してくれたことを実感した瞬間だ。

2.判決のポイント⇒「第3 裁判所の判断」

 民事訴訟の判決文を丁寧に読んできたのは、名誉毀損裁判ばかりではある。これらの判決文は、雛形が決まっていて「目的、方法、結果、考察、結論」と進む理科系のレポートに似ている。慣れれば読みやすく書かれている。科学的な文章構成になっている。「主文」の次の請求や事案の概要に関しては、分かりきったことを逸脱したことが書かれることはあまりない。直ぐに内容を知りたい訴訟の当事者であれば、ここを読み飛ばして真っ先にページを開くのは、「第3 裁判所の判断」。

 「第3 当裁判所の判断」 一部

1.本件各記載は原告の社会的評価を低下させるか。(争点1)

(1)原告の特定について

「記事が原告の実名が表記されてなくても、本件書籍の発行当時、不特定多数の読者において本件記事中の人工心肺装置の操作を誤った「E医師」が原告である特定して認識できるものと認めるのが相当である。」

(2)原告の社会的評価低下について

「主題や意図はともかく、担当医師が人工心肺装置の操作を誤ったために本件患者を死亡させたという印象を抱かせるものであることは否定できない」

(3)争点1のまとめ

「本件摘示部分を含む本件書籍を執筆・発行した被告らよの行為は、原告の社会的評価を低下させる名誉毀損行為に該当すると認められる」

2.被告らの行為の違法性又は有責性が阻却されるか。(争点2)

(1)事実の公共性及び公益性

「記事に記載された事実は公共の利害に関する事実であって、被告らは専ら公益を図る目的で本件書籍を発行した」

(2)記事において摘示された事実は真実か

「検察官が公訴事実を維持しているとしても、そのことから直ちに同事実が真実であると認められるものではないことはいうまでもない。」「外部委員会が外部報告書を作成するに際して本件事故の原因につき独自の調査検討をしたことはうががわれないし、女子医大の林院長が内部報告書と同趣旨の発言をしている・・・その発言は、内部報告書に基づいて述べたものにすぎないから、これらによって、上記のような問題点を有する内部報告書の信用が補強されるものではない。

 そして、他に、原告が吸引ポンプの回転数を上げたことが本件事故の原因であると認めるに足りる証拠はなく、前記のとおり、3学会報告書や刑事裁判における認定判断が内部報告書に記載される事実を否定する内容になっていることに照らしても、上記事実を真実であると認めることはできない。」「したがって、・・・同事実が真実であるとする被告らの上記主張は採用することはできない。」

(3)摘示した事実を真実と信ずる相当の理由があるか

事実を真実と信ずる相当の理由はない。

以下その理由は長文のため判決文の抜粋を使用したまとめ

(ア)内部報告書の内容の事実に疑義がある議論がされていた

(イ)毎日新聞紙上よの掲載から一年余の期間を経過した本件発行時点での基準で相当性を判断すべきことはいうまでもない

(ウ)3学会報告書が、本件書籍にある内容の事実に関して疑問を呈する報告を発表し、その内容の一部はNHKのテレビニュースで2回も報道され、専門誌にも紹介された。被告は、女子医大の内部報告書は、3学会報告書によって完全否定されたわけではないので、これを検討しても内部報告書の内容に疑問を抱く契機にはならなかったと主張が、「両者の意味内容は全く異なるものである上、内部報告書が3学会報告書と比べて信用性が劣るものであることは前記で説示したとおりであること。加えて、装置自体の欠陥を指摘する声を被告は報道しており、人工心肺装置自体の問題の存在にも十分な関心を持っていたのであるから、3学会報告書の内容を真摯に検討すれば、原告の操作ミスの存在を摘示した記載の記載内容を真実の記載として維持することが困難であることを容易に認識し得たものといわざるを得ない

(エ)「被告は本件書籍発行の段階では、そもそも3学会報告書を入手して検討する契機がなかったと主張するが、NHKでは2度もテレビ放送された。書籍発行前に、原告は無罪の主張をしていた。被告は3学会報告書の存在を認識していたが、十分検討していなかった。原告の上記無罪の主張は、本件連載記事を執筆した当時の被告の認識とは全く異なる状況をもたらしたのであるから、被告取材班において、新たに本件書籍を発行するに当たっては、原告の上記主張の根拠についての十分な取材と検討をし、その主張内容を加筆し、本件摘示部分の記載との整合性を調整するなど、本件連載記事の見直しをする必要があったことは明らかというべきであり、本件書籍の発行に至るまでの間にその契機がなかったということはできない。

(オ)「本件書籍の発行時には原告の刑事裁判の審理が継続中であり、本件事故に関する出来事は、過去の問題ではなかったことなどからすれば、これを新たな書籍として発行する以上、被告取材班においては、記事の事実の客観性を担保するため、十分な追跡調査と記載内容の見直しをすることが求められることは当然というべきである。」「本件書籍の発行時期からすれば校正段階を含めて何ら対応をすることもできなかったとは到底考えられない上、そもそも発行スケジュールは被告らにおいて決したものにすぎず、原告とは何らの関係もないおのである。そして、自ら決したスケジュールのために検討不十分な内容の書籍を発行したというのであれば、それ自体問題というべきであり、その責任が被告らに存することはいうまでもない。

(カ)「被告らが、原告が本来してはならない吸引ポンプの回転数を上げ続けるという操作をしたことによって本件事故が発生したことを真実であると信ずるについての相当の理由があったと認めることはできない。この点に関する被告らの主張は採用することができない。」

(4)争点2のまとめ

「本件記事において、摘示した事実が真実であると認めるに足りる証拠はなく、また、被告らにおいてそう信ずるについて相当の理由があったものと認めることもできない。

 したがって、被告らの行為の違法性又は故意・過失が阻却されるという被告らの主張は採用することができない。

3.損害額について(争点3)

省略

 3.控訴について

被告が控訴するしないは、自由である。しかし、本件判決は、新聞記事に記載した内容を安易にそのまま書籍にして新たなる利益を得ようとした態度に対する警句である。逮捕、起訴の段階で不十分であったかもしれない情報に、学会という専門家の意見、担当省庁(厚生労働省)の勧告、被告人の無罪の主張を無視して、自らが勝手に決定したスケジュールで出版した姿勢を反省して欲しい。といってもこの毎日新聞医療問題取材班は消滅してしまった。

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2008年12月 5日 (金)

「医療事故がとまらない」毎日新聞医療問題取材班⇒「一粒で二度美味しい」を許すな!

判決 (12月8日) 対「集英社および毎日新聞記者5人」名誉毀損裁判ー本人訴訟

1.名誉毀損裁判『報道の時期』による分類

 私が提訴したメディア相手の名誉毀損裁判は、報道時期によって3つに分けることができる。

           ①逮捕直後から初公判まで

           ②初公判から結審まで

           ③無罪判決後

①で勝訴したものは、取材を全くしていないと判断された新聞社3社と雑誌社1社。

実は、和解、敗訴が多い。

「真実でない報道をしたが、被告は取材を行い、女子医大の内部報告書等の内容が真実であると信じたことに相当の理由がある」と判断された場合が敗訴になる。

②では、これまでに出版社がひとつ和解している。

③は、無罪判決報道でのフジテレビでの勝訴(再び勝訴!フジテレビ控訴審および附帯控訴審) http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/post-0be6.html

⇒勝訴確定。

2.「新聞記事」をそのまま「新書」にした場合

 来週の月曜日(12月8日)に判決が言い渡される「集英社および毎日新聞記者5人」を被告とした名誉毀損裁判は、②に当たるが少し事情が違う。

2003年12月下旬に発行され重版もあるこの書籍に「第一章 東京女子医大病院事件」という見出しの記事がある。

この記事が私の「社会的地位を低下させる内容」になっている。真実とは異なる事実を摘示している。簡単にいえば、科学的にありえないことを理由に犯人扱いした。

 しかし、この書籍の記事は「2002年7月、8月」に毎日新聞に本紙に掲載されたものを「データの修正以外全くそのままの状態」で再掲載したものである。

実際に記事が書かれた「2002年7月、8月」から発行日の「2003年12月」までには、1年4-5ヶ月の時間があった。その間には、以下のようなことがあった。

2002年9月18日       第1回公判        被告罪状認否、弁護人意見等(甲4・5頁)

2002年10月23日  第3回公判          T.Y.技士証人尋問(甲4・5頁)

2002年11月1日      第4回公判      T.Y.技士証人尋問(甲4・5頁)

2002年11月20日  第5回公判          T.Y.技士証人尋問(甲4・5頁)

2002年11月20日  第5回公判           O.N.医師証人尋問(甲4・5頁)

2002年12月4日      第6回公判        O.N.医師証人尋問(甲4・5頁)

2002年12月12日      患者家族が厚生労働省と東京都に人工心肺導入等調査「要望書」を提出した事実を毎日新聞が報道(甲16)

2003年1月17日      第8回公判        O.J.医師証人尋問(甲4・5頁)

2003年1月31日      第9回公判        M.K.医師証人尋問(甲4・5頁)

2003年2月14日      第10回公判      A.M.医師証人尋問(甲4・5頁)

2003年2月14日      第10回公判      M.K.医師証人尋問(甲4・5頁)

2003年2月24日      第11回公判      I.J.医師証人尋問(甲4・5頁)

2003年3月2日         3学会合同陰圧吸引補助脱血体外循環検討委員会中間報告(甲8・32頁)

2003年3月17日      「人工心肺の安全マニュアル作成に関する研究 中間まとめについて」を厚生労働省が各都道府県研衛生主管部(局)長に通達(甲17・末尾)

2003年5月9日        第15回公判      S.K.医師被告人質問(甲4・5頁)

2003年5月15日  第33回日本心臓血管外科学会学術総会3学会合同陰圧吸引補助脱血体外循環検討委員会報告会 (甲7・25頁、甲8の全て)

2003年6月9日        第17回公判      I.Y.主任教授証人尋問(甲4・5頁)

2003年7月3日        第18回公判      S.K.医師被告人質問(甲4・5頁)

2003年10月9日      第23回公判      B.T.医学工学博士証人尋問(甲4・5頁)

これらは、本件刑事事件の事実認定に極めて重要な証拠を提供していた。そして、被告記者らは、そのほとんど全てに関わった。傍聴し、取材し、記事を書き、資料を入手することができた。しかし、書籍にはそれらが全く反映されなかった。内容は、「2002年7月、8月」の毎日新聞本紙記事のままだった。新たなる利益を得るために、営利目的で、1年4ヶ月後に全く同じ記事を使用した。

 医療者のブログやサイトでよく書かれているように、毎日新聞の記事は、「患者史観」の一方的立場からの言い分が多い。現に法廷の尋問に対する証言でも、それを自覚しているようだった。「よりよい医療を求める」という前向きな考え方や「公正な視線」から包括的にわが国の医療を見渡しているとは、いえない。

3.勝訴したときと同じ裁判長は再び・・・

 こっちは本人訴訟で、被告は有名法律事務所の代理人を要して闘ってきた。

最終弁論期日。対「主婦と生活社」訴訟で勝訴した時と同じ裁判長は、学者タイプ。

ひょうひょうと

裁判長「被告の方の最終準備書面は、反論になっていませんが、これ以上の主張はないのですか?」

代理人「裁判所の方で提出しろというのであれば・・・。」

とやり取りがあったが結局そのまま結審した。

最近、毎日新聞社もこれまでの医療報道姿勢を反省しはじめたのだろうか。

『毎日新聞 医療問題取材班』は解散し、現時点ではこの世から消滅している。

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2008年10月17日 (金)

日本の名誉毀損損害賠償額算定学

前回のブログでもお伝えしたように、私は本人訴訟で対フジテレビ名誉毀損裁判の控訴審でも勝訴しました。

「再び勝訴! (一審 勝訴確定 ) フジテレビ控訴審および附帯控訴審」
http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/10/post-0be6....

賠償額は100万円。名誉を毀損した事実の摘示が極端にいえば、「未熟な医師」の一言だけだったということもあるかもしれませんが、やはり本邦での「名誉」の算定は低すぎると思います。これに関しては、以前に弁護士で医師の田邊昇先生が医学専門誌の「外科治療」投稿された記事をブログに引用させていただきました。

「悪意ある虚偽報道による名誉段損に対しての闘い」田邊昇先生 「外科治療」2008Vol.98No.6より

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/07/post.html

この控訴審では、フジテレビが控訴したのに対して私が「附帯控訴」して100万円の判決では少なすぎる旨を訴えました。しかし、「100万円ルール」の壁は破れませんでした。(素人だから当然ですが、賠償額を減らすことが無かっただけでも勝ちとみなしています。)

控訴審の準備書面を書くにあたり、日本の名誉毀損裁判の歴史をまとめて主張しましたので、それを引用いたします。(L-M net上でも公開しましたが、反応が少なかったので、ブログ本家に掲載することにしました。)


損害賠償額算定について
第1 原判決の認容した「本件ニュース1」に対する慰謝料100万円は低額で被害救済の実効性がないので増額が必要なこと
原判決は,「本件ニュース1」のみを名誉毀損に当たる放送と判断し,その慰謝料を100万円と認容した。最初に,「本件ニュース1」に対する慰謝料が顕著に低額であることについて論じ,その増額の必要性について主張する。


1.名誉毀損裁判における慰謝料額の再検討
 我が国において,名誉毀損をはじめ人格権侵害の損害賠償額,特に慰謝料額については,顕著に低額であることが指摘されてから久しい。現在から20年以上前に,「北方ジャーナル事件」最高裁大法廷1986年6月11日判決(民集40巻4号872頁,判例時報1193頁)において大橋裁判官は補足意見の結びに「わが国において名誉毀損裁判に対する損害賠償は,それが認容される場合においても,しばしば名目的な低額に失するとの非難を受けているのが実情と考えられるのであるが,これが本来表現の自由の保障の範囲外ともいうべき言論の横行を許す結果となっているのであって,この点は官権者の深く思いを致すべきところと」と判示されている。
 稀な例外を除けば,せいぜい数十万円から100万円程度にとどまってきた名誉毀損に対する従来の損害賠償の「相場」は,近時の高度情報化した我が国の社会において,情報,名誉,信用等に対する価値が増大していることに対応していなかったため,その妥当性が再検討されるべきであった。実際に,平成13年司法制度改革審議会の最終意見で,「損害賠償額の認定は低すぎるとの批判があり,必要な検討が望まれる」ことが指摘され,マスメディアによる名誉毀損を中心とした損害額の算定についての裁判官による研究会が活発に行われた。その結果,名誉毀損での高額化の提案が相次いでなされた。
 例えば,東京地方裁判所損害賠償訴訟研究会「マスメディアによる名誉毀損訴訟の研究と提言」(ジュリスト1209号63頁)は,基本額として400万円から500万円程度を提案し,司法研究所「損倍賠償請求訴訟における損害額の算定」(判例タイムズ1070号4頁)も高額化を提起するとともに,慰謝料額の定型化の算定基準も示された。また,元裁判官の塩崎勤弁護士による「名誉毀損による損害額の算定について」では,一般的な平均基準額として500万円程度が示され,井上繁規東京高等裁判所判事による「名誉毀損による慰謝料算定の定型化及び定額化の試論」(判例タイムズ1070号14頁)では慰謝料算定の定型化及び定額化の算定基準が提示された。


2.過去の判例の分析的損害額算定と平成13年以前の裁判例
 一般的な平均基準額として500万円が示されたとはいえ,名誉毀損による損害賠償事件における算定は,裁判所が各場合における事情を斟酌し,その自由な心証に委ねられてきたことは,確立した判例が示してきた。損害額の算定に,考慮されるべき事情は多種多様で,様々な要素が考慮された結果として,最終的な算定に至るものであり,一般的かつ汎用性のある損害賠償の基準・標準を,過去の判例の算定額から単純に導きだすことは困難である。しかしながら,本件と同様の事例に限定して抽出した分析結果は、本件における慰謝料算定を考えるに当たり意味がある。
 例えば,前述の東京地方裁判所損害賠償訴訟研究会「マスメディアによる名誉毀損訴訟の研究と提言」「5.損害額算定の裁判例の分析のまとめ」ジュリスト1209号72頁では,本件同様の事例,

名誉毀損行為の伝播性が全国的なものであった事例
被毀損者が社会的信用のある者などの著名性を有していたもの
何らかの減額要因(報道の正当性,断定的な表現でないこと,被害者側の落ち度,謝罪広告の請求を認容すること等)が積極的には認定されていない事例
以上の
①②③に限定し抽出した7事例が分析されている。これらの修正単純平均額は485万7142円で,中間値(メジアン)は300万円であった。
 本件をこれと照らし合わせると,
キー局である被告により放送されたもので相当数の人が視聴したものと推測され被毀損者が一般に社会的信用のある医師であり,何らかの減額要因がない事例であり,この東京地方裁判所損害賠償訴訟研究会の論文における「限定して抽出された事例」の範疇に含まれるものである。


3.平成13年以後の主な名誉毀損裁判の損害額について
 平成13年に活発発表された裁判官らの論文の研究対象になった名誉毀損訴訟判例の後も,名誉毀損裁判の認容損害額は高額化し,研究対象となった判例に比較しても総体として高額となっている。以下に主な判例の「認容損害額」「被毀損者」「事件の内容」等を列挙する。
なお,以下の判例には,「報道事実の流布の範囲・情報伝幡性」が最強と思われるテレビ放送による名誉毀損裁判例は存在しない。
① 1650万円(被毀損者 市長)「鎌倉市長がビルの所有者,政治団体,任意団体の代表者の垂れ幕で名誉を毀損された事件」 横浜地方裁判所 2001年10月11日判決(判例タイムズ1109号186頁)
② 920万円(被毀損者 大学教授 *)「私立大学の教授が発掘調査された遺跡から発見した石器の捏造に関連した旨等を摘示した週刊誌記事の事件」最高裁判所2004年7月15日第一小法廷判決(別冊ジュリストNo.179「メディア判例百選」144頁),福岡高等裁判所 2002年2月23日判決(判例タイムズ1149号224頁) (* 本件の原告は,被毀損者の遺族3人である)
③ 600万円(被毀損者 プロ野球選手)「プロ野球選手のトレーニングに関する週刊誌記事の事件」東京高等裁判所 2001年12月26日判決(判例時報 1778号78頁,判例タイムズ1092号100頁)
④ 600万円(被毀損者 プロ野球選手)「プロ野球選手が野球賭博に関与したとの主旨の週刊誌記事の事件」東京高等裁判所 2002年3月28日判決(判例時報1778号79頁)。
⑤ 550万円および440万円(被毀損者 医療法人理事長および医療法人)「医療法人の職員4人が死亡した事故と保険金の関係等の写真週刊誌記事の事件」熊本地方裁判所 2002年12月27日判決
⑥ 550万円および110万円(被毀損者 電気通信事業会社社長および会社)「電気通信事業会社社長が原告会社の子会社の株を操作した旨の週刊誌記事とファミリー企業がソープランドを買収した旨の週刊誌記事の事件」東京地方裁判所 2003年7月25日(判例タイムズ1156号185頁)
⑦ 550万円(被毀損者 テレビ番組制作会社)「テレビ番組制作会社に関する裏金要求疑惑や窃盗疑惑などの週刊誌記事の事件」 東京地方裁判所

⑧ 500万円および500万円((被毀損者 建築家および建築家名建築都市設計事務所) 「橋の設計等に関与した建築家を誹謗した週刊誌の記事等の事件」(東京地方裁判所 2001年10月22日判決(判例時報1793号103頁)
⑨ 500万円(被毀損者 国会議員)「民主党所属の国会議員が,賛成派議員と郵政民営化法案通過の打ち上げに参加していた旨を摘示した週刊誌記事の事件」東京地方裁判所民事第34部 2007年1月17日判決
⑩ 500万円(被毀損者 国会議員)「地下鉄建設工事に関して利益を得た旨の雑誌記事の事件」京都地方裁判所2002年6月25日判決(判例時報1799号135頁)
⑪ 500万円(被毀損者 テレビ放送局社員)「放送局の社員が自宅マンションの騒音をめぐる紛争につき建設省を通じて施工業者に圧力を掛けた等の言動を内容とした写真週刊誌記事の事件」東京地方裁判所 2001年12月6日判決(判例時報1801号83頁)
⑫440万円(被毀損者 医療法人) 「医療法人の経営する病院に勤務する医師が無断アルバイトを理由に退職したにもかかわらず,医療過誤の事実を患者側に伝えて解雇されたなどと週刊誌の取材やテレビで発言した場合,病院の社会的評価を低下させたとして,医療法人の医師に対する損害賠償請求が認容された事例」 横浜地方裁判所 2004年8月4日判決(判例時報1875号119頁)
⑬ 440万円(被毀損者 評論家)「書籍やインターネット上で評論家の名誉を毀損する事実を摘示した事件」 東京地方裁判所 2001年12月25日判決
⑭ 330万円(被毀損者 弁護士)「新弁護士会館に飾られる裸婦画をめぐる女性弁護士に関連した週刊誌記事の事件」 京都地方裁判所 2005年10月18日判決(判例時報1916号122頁)
⑮ 300万円(被毀損者 金融会社)「消費者金融会社の企業経営を批判する月刊誌記事の事件」東京地裁 2002年7月12日判決(判例時報1796号102頁)
⑯ 300万円(被毀損者 弁護士)「弁護士に関する単行本のルポ中の記述の事件」東京地方裁判所 2003年12月17日判決(判例タイムズ 1176号234頁)


4.原判決の慰謝料100万円に対する客観的評価
 なお,控訴人の好きな言葉を引用すれば「中立の法律の専門家」であり,「医療の専門家」でもある「医師,弁護士」の田邊昇先生は,「日経メディカル 2008年3月号(甲第25号証)」に本件原判決についての解説を投稿された。その「オリジナル原稿(甲第26号証)」には,「裁判所の認容額は,わずか100万円です。(6頁8行目から9行目)」「そこで,マスコミの偏向報道・虚偽報道によって被害を受けた場合は,民事の損害賠償請求をおこなうしか方法がありません。しかし,損害賠償請求訴訟を提起しても,損害賠償額は非常に低く,本件でも100万円と,フジテレビの悪質性や杜撰さに比較して非常に低額にとどまっています。(6頁下から3行目から7頁2行目)」という記載があり,原判決の慰謝料100万円は,「非常に低額」であるという客観的評価をされている。
 なお,「オリジナル原稿」は,「日経メディカル 2008年3月号」が発行された後に,附帯控訴人が日経メディカル編集部に記事を閲覧した旨連絡をとったところ,同編集部が自主的に附帯控訴人に送信してきたものである。日経メディカルの編集部は,附帯控訴人に送信直前にその許可を田邊昇弁護士から得ている。


5.「本件ニュース1」の損害額算定における考慮要素の分析
名誉毀損の損害額算定にあたって考慮される増額要素には様々なものがあるが,以下項目別に本件で考慮されるべき増額要素について論じる。


(1) 事実流布の範囲
 附帯被控訴人は全国ネットのキー局であり,フジテレビ系列28局よりなるフジニュースネットワーク(Fuji News Network: FNN)を形成している。すなわち,北海道文化放送,岩手めんこいテレビ,仙台放送,秋田テレビ,さくらんぼテレビジョン,福島テレビ,長野放送,新潟総合テレビ,テレビ静岡,東海テレビ放送,富山テレビ放送,石川テレビ放送,福井テレビジョン放送,関西テレビジョン放送,山陰中央テレビジョン放送,岡山放送,テレビ新広島,テレビ愛媛,高知さんさんテレビ,テレビ西日本,サガテレビ,テレビ長崎,テレビ熊本,テレビ大分,テレビ宮崎,鹿児島テレビ放送,沖縄テレビ放送がその系列であり,ケーブルテレビの普及も考慮すれば,本件放送は,ほぼ日本全国津々浦々の人々に視聴されたと推測される。


(2) 情報伝播力
 テレビジョン放送は,一次元的な活字メディアにはないナレーション等の音声および動画やテロップ等による映像をも用いた多元的情報により視聴者に強い印象を与える。メディアの種類に中では,その衝撃度や伝播力は最強であり,名誉毀損に基づく損害の大きさも最大と思われる。また,放送された午後6時からの時間帯は,大多数の就業者にとって勤務を終えた時間帯にあたり,相当数の視聴者があったと推測される。


(3) 二次的伝播への影響
 近年,爆発的な広がりを見せて発展したウエッブサイトによる二次的伝播による損害の拡大も無視できない。例えば,甲第12号証「陳述書」でも述べたように,末尾に添付されている「シーガルアイ公式ブログ『カモメの目』」気になる記事から(11月30日)にあるように,「当初この医師は,自分のミスを認め遺族に謝罪したそうです。ところが裁判になると一転,自分に過失はないと主張し無罪を勝ち取りました。医療裁判というのは,こんな違和感のある行動をした医師すら罰することができないくらい難しいのでしょうか?「無罪」はないんじゃないかなぁ~。」という書き込みは,「本件ニュース1」を視聴した筆者によるものと強く推測される。このような書き込みがされると,さらにこのブログの閲覧者がウエッブサイトに書き込みを行い,三次的伝播ないし高次的伝播と,次々とねずみ算式に波及する可能性がある。そうなると,仮にこの原ブログ記事が後に削除されたとしても,名誉毀損の被害拡大を抑制することは不可能である。
 「本件ニュース1」を直接視聴したり,これらのウエッブサイトを閲覧したりした者が,最初に抱いた印象は簡単に消えるものではない。それどころか,最初に抱いた印象を基準にして判断し,公判廷で明らかにされた方が間違っているのではないかとの不信感を持つ者が少なからず存在するはずである。万が一,これらのウエッブサイトを把握し得ることが可能となって、その全て削除され,さらに後に繰り返し附帯控訴人が無罪であることが別のメディアによって報道されるようなことがあったとしても,最初に抱いた印象は簡単に消えるどころか永遠と残存する可能性も高い。


(4) 精神的損害・無形的損害
 被毀損者の「放送された者にしか分からぬ痛み」は,どんなに甚大であろうとも,第三者が理解することは困難である。附帯控訴人は,甲第12号証「陳述書」「心臓外科学と私」「『未熟な医師』『元医師』」等でもその精神的苦痛を述べた。
 附帯控訴人は,小学生のころから医師それも心臓外科医を目指し,大学医学部で6年間,その直後の医師免許取得から放送までの15年近くの年月を併せて継続的に20年以上もの間医学を学び,心臓外科学を研鑽し心臓外科診療に従事してきた。放送当日の午前中にも心臓外科医として患者の診療を行い「待望の判決」を向かえた。「無罪判決が言い渡された後には,以前に私が逮捕,起訴され,マスメディアに散々虚偽の事実を報道されて,完全に心臓外科医としての社会的信用を低下させられたことが,少しは回復する報道がされると思っていたからで」ある。これに対して,「科学的素養も有さない,何の医学知識もない,心臓外科医に対して何の取材も行わなかったフジテレビ」の認識すなわち「何の取材の努力もしない放送局の誤った認識によって,いとも簡単に,私が未熟な医師であって,当初は罪を認めていたのに裁判になって一転して無罪を主張,本来は有罪であるところ,無罪判決を言い渡された元医師で,現在は医師でない人間との印象が全国の視聴者に植え付けられてしまった」のであるから,附帯控訴人が待望していた社会的信用の回復報道とのギャップはあまりにも大きく,その精神的苦痛は極めて大きい。


(5) 名誉毀損の内容・表現方法
 起訴されれば,99%以上の可能性で有罪になる本邦の刑事裁判において,無罪判決報道に対する一般視聴者の第一の関心事は「何故無罪なのか」ということである。これに対して,「本件ニュース1」は,原判決にもあるように,附帯控訴人には過失がなかったことは簡単に伝えただけで,放送のほとんどの時間は、附帯控訴人自身が従前自己の過失や責任を認め遺族に謝罪をしていたことや,附帯控訴人を含めて手術を担当した医師が未熟であった旨の弁議士のコメントをはじめとして,医療過誤裁判の難しさ,医師である附帯控訴人の逮捕の異例さ,女子医大病院に対する行政処分及び別の医師に対する有罪判決の存在等,附帯控訴人に対する無罪判決に疑問があることを示唆する内容の情報を多数提供しており,さらに,その構成も,冒頭部分と最後に本件刑事判決に批判的な本件患者の遺族による記者会見でのコメントを挿入し,他方,判決直後になされた附帯控訴人の記者会見でのコメントは全く用いていないなど,附帯控訴人に対する無罪を言い渡した本件刑事判決に批判的な視点で構成されていた。
 また表現の方法も,名誉毀損にあたる内容についてナレーションとテロップの両方を用いて,ことさら強調を行った上に,附帯控訴人が行った記者会見の映像を入手したにもかかわらず,これを無視して,敢えて,附帯控訴人が墓参りに訪れた時の写真映像(甲第1号証の1,甲第1号証の2の①,甲第1号証の2の②,甲第1号証の2の③)や無罪判決とは直接関係がない附帯控訴人が拘置所職員とともに拘置所内を歩行して出所した場面の映像を繰り返し使用した。(甲第1号証の1,甲第1号証の2の①,甲第1号証の2の②,甲第1号証の2の③,甲第1号証の2の④,甲第1号証の2の⑤,甲第1号証の2の⑥,甲第1号証の2の⑦,甲第1号証の2の⑧)


(6) 加害行為の動機・目的
 上記放送の内容で,特に冒頭部分と最後に本件刑事判決に批判的な本件患者の遺族による記者会見でのコメントを挿入し,他方,判決直後になされた附帯控訴人の記者会見でのコメントは全く用いていないだけでなく,記者会見の映像を用いる代わりに前述の「墓参り」や「拘置所職員との拘置所内を歩行する場面」を波状的に放映した方法は、明らかに「附帯控訴人に対して悪意を持った」手法である。これらを勘案すると,附帯被控訴人は意図的に「本件刑事判決が原告(=附帯控訴人)に対し無罪の言渡しをしたとはいうものの,実際には,原告(=附帯控訴人)が,未熟で,その過失があったために,本件事故が生じた可能性があるとの印象を与えること」(原判決28頁)を放送の動機・目的としていたことが高度に推認される。


(7) 取材方法の相当性
 附帯被控訴人が原審において提出した「本件ニュース1」の放送のための取材方法,取材経過に関する証拠は,乙第4号証と乙第7号証のみである。前者は,担当ディレクターが「西田弁護士にコメントをもとめた時刻が判決の言渡後であった」という不確かな記憶の事情聴取,後者は報道局スタッフが平成13年12月30日に附帯控訴人が墓参りに訪れたときの写真を接写した事実等の陳述であり,本件無罪判決を放送するに当たって具体的に「何時,誰が,何を,取材したか」とう取材の核心部分に関する弁論は全くされていない。取材メモや内容に関する取材経過などの証拠は一切提出されていないのであり,そもそも存在しない可能性も高い。このような状況では,取材方法の相当性を判断する段階にすら到達していない。
 しかも,「本件ニュース1」のテロップ①「『過失責任 問えない』東京女子医大元医師」『無罪』 心臓手術で少女死亡」の「元医師」は,原判決にあるように,附帯控訴人が「元医師」と指摘された点については,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準とすれば,本件事故当時は医師であったが,現在は医師ではない者と理解され附帯控訴人は,現在は医師ではない旨の事実摘示をしたものとみるべきであり,他方附帯控訴人は,本件事故以降「本件ニュース1」放映時である平成17年11月30日においても依然として現役の医師であったのであるから,本件ニュース1は,真実は医師である原告を医師ではない旨誤った事実を摘示したものといわなければならないことは明かである。このように附帯被控訴人は,放送の対象である附帯控訴人に関しての極めて基本的な事柄についてさえ,誤った事実認識を持っていたことは,取材方法に大きな問題があり,相当性がないことの証明である。
 したがって,附帯被控訴人のこれまでの弁論姿勢から判断すれば「本件ニュース1」の作成に当たり,「放送前に取材したことは『写真の接写』と『西田弁護士への電話』だけで,それ以外は何も取材しなかった」ということになる。このような取材状況から「本件ニュース1」を放送し附帯控訴人の名誉を毀損したのであれば,慰謝料の損害額算定に十分考慮されるべきである。
(8) 被害者の年齢・職業・経歴・社会的地位の高さ
 名誉毀損被害にあった附帯控訴人は,満42歳で所謂働き盛りの年代であった。医学博士の学位と日本外科学会認定医,胸部外科認定医を有する現役の心臓外科医であり,その外来診療状況は病院内の案内やパンフレットにとどまらず,「綾瀬循環器病院ホームページ(http://www.ayaseheart.or.jp/index.php」」)(甲第27号証)にも公開されていた。
 これに加え,上記「3.平成13年以後の主な名誉毀損裁判の損害額について」⑪の事案では,特に社会的にその職業が公開されることもない放送局の一社員に対してですら500万円の慰謝料が認容されたり,同⑤の事案では,同じ医師の資格をもつ医療法人理事長個人に対して550万円の慰謝料が認容されたりした判例を鑑みる必要がある。


(9) 被害者が被った営業活動,社会生活上の不利益
 前述の通り,附帯控訴人は,現役の医師として診療を行っていた。診療に当たっては,「本件ニュース1」を視聴した患者や患者家族が「実際には,附帯控訴人が,未熟で,その過失があったために,事故が生じたのではないか。」とか,前述の甲12号証の「シーガルアイ公式ブログ『カモメの目』」のブログ管理者のように「当初,自分のミスを認め遺族に謝罪したのに,裁判になると一転して,自分に過失はないと主張し無罪を勝ち取った。こんな違和感のある行動をした医師は有罪なのではないか」との心持ちで,附帯控訴人の診療を受けていたのではないかという不安が生じた。また,外来を予約したのに受診することなかった患者は,上記のような理由から附帯控訴人の外来診療を拒否し始めたのではないだろうかという不安を持たざるを得なかった。
 しかも,前述のように「本件ニュース1」および「「本件ニュース2」「本件ニュース3」「本件ニュース4」で,附帯控訴人は「元医師」と放送されたことについて,「患者や患者家族が附帯控訴人が医師でなくなったと理解した可能性がある」と,不安に思うことになったのであるから,著しい営業活動,社会生活上の不利益を被ったのである。


(10) 名誉毀損事実の深刻さ
 近年の名誉毀損訴訟における損害賠償額の高額化の先駆けとなった上記「3.平成13年以後の主な名誉毀損裁判の損害額について」③の事案は,著名なプロ野球選手が再起をかけてのシアトルでのトレーニング中に,ストリップパブに通い白人ダンサーを相手に遊びに興じていた等の記事が問題となったものであった。かかる事案は,プロ野球選手にとっての専門性が直接問われる野球でのパフォーマンスとは関わりがないものであったにもかかわらず,600万円の損害賠償が認められた(なお,一審判決は1000万円の損害賠償を認容した。)。
 附帯控訴人は,心臓外科医になるために6年間医学部に通い,その後は女子医大の心研に入局し,寝食を惜しんで,骨身を削って心臓外科医としての職務や研究に没頭し,国際学会でもその成果を発表し,その成果として医学博士の学位や認定医を取得してきた。附帯控訴人が人生をかけて築いてきた職業的専門性を,本件放送は十分な取材をせずに簡単に否定したものであり,附帯控訴人が本件放送によって被った精神的苦痛は多大で極めて深刻なものである。


(11) 事後的な名誉回復措置の有無
 附帯被控訴人は,これまで一切の事後的な名誉回復措置をとっていない。また、原審においては、東京地方裁判所民事第6部 土肥章大裁判長からの和解の勧告に対して,2007年3月30日午後13時10分~45分の原審の弁論準備期日が行われ,附帯控訴人は「附帯被控訴人が不法行為を真摯に認めるなら請求額を減額する」旨を提案したが,附帯控訴人は裁判所の和解勧告に一切耳をかさない態度で原審を争った。また,原審で敗訴しても控訴を行った。このような附帯被控訴人の不誠実な態度も慰謝料の算定に考慮
されるべきである。

以上

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2008年10月 9日 (木)

再び勝訴! (一審 勝訴確定 ) フジテレビ控訴審および附帯控訴審

1.印象深い左陪席

 傍聴席は、この裁判の判決だけを聞きに来たと分かった人々が多かった。おそらくその全員は、フジテレビが勝訴することを期待している。

 2008年10月9日13時20分いよいよ名前を呼ばれて、緊張感は頂点となり被控訴人(原審原告)席にひとり着く。控訴人側は、控訴審から加わった一人の弁護士さんを筆頭に一審からの弁護団が後に続いて席につく。相手弁護団は全5人(判決記載上)。控訴審から先頭に名前がくるようになった、実質上、控訴審の主任弁護士は、元東京地方裁判所判事、現K大学法科大学院教授、東大卒、ハーバード大学ロースクール修士課程修了、司法研修所教官、最高裁判所調査官、司法試験考査委員、新司法試験考査委員というもの凄い経歴の持ち主で、その書籍は街の書店にも置いてあった。

 裁判長は少しもごもごしながら、判決を言い渡した。

「主文。1 本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。・・・・」

 法廷全体で次の音を出すことを皆が遠慮している。

「(これって一審判決そのままってことですよね。)」という顔をして私が、裁判官の方を見たとき、鋭くもやさしいあの左陪席の視線の移動が、法廷の静謐を破った。しっかり目と目があったところで、うなずいてくださった。「(勝った)」私が立ち上がるとともに、相手弁護団、この判決のみを傍聴に来た人々も立ち上がって法廷を出た。

 大学の一般教養で「法学」の単位を取った程度の素人が、プロフェッション中のプロフェッションに勝ったという事実は、元の放送が明らかに名誉を毀損したことの証明に他ならない。フジテレビは、私の名誉を毀損するという不法行為を犯した。

2.父の心肺停止と附帯控訴と裁判長からの叱責

一審勝訴が2007年8月27日。被告フジテレビが控訴。

 第一回控訴審が忘れもしない同年11月22日。この日の朝に父が実家で心肺停止となり大学病院に搬送された。このため、私は出廷できず。現在も自分で主治医をしているが、意識はなく、人工呼吸管理である。

 次の法廷で、相手の控訴状に対して答弁書を作成して陳述するも、附帯控訴状は「随時提出できる」ということだったので、次の機会にしようとしたところ、頭ごなしに裁判長から「至急、提出しなさい。」と指導され、当惑して「近日中に・・・」といったところ、「近日中でなく、今日出しなさい。」と叱責される。ここで、ロマンスグレーで俳優みたいに格好良い左陪席が裁判長に耳打ち。裁判長は突然口調が変わって「とは、いっても本人訴訟ですので・・・。今日は無理でしょうから。いつだせますか。」「明日までには。」「附帯控訴理由は」「来週までには」「それは大変でしょうから・・・までに提出してください。」以後、数少なかった控訴審弁論の進行にかかわる件で、左陪席が裁判長に耳うちしている場面を何回か見た気がする。

3.「スリーナイン」最高裁判決と本件判決文の執筆者

 多くの合議裁判(複数の裁判官による裁判)では、判決文の草書は左陪席が書くといわれている。判決文には、過去の最高裁判決が沢山引用または参照されていた。

①最高裁平成14年(受)第846号同15年10月16日第一小法廷判決

②最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決

③最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決

④最高裁昭和55年(オ)第1188号同62年4月24日第二小法廷判決

⑤最高裁昭和60年(オ)第1274号平成元年12月21日第一小法廷判決

⑥最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決(2回目)

⑦最高裁平成7年(オ)第1421号同14年1月29日第三小法廷判決

 これらの最高裁判決は、テレビ局相手の名誉毀損裁判を闘う上で絶対に読んでおかなくてはならないものばかり。「日本の名誉毀損裁判の正史」と言ってよいだろうというのが、素人の意見だ。特に、私が「スリーナイン」と勝手に命名した「平成9年9月9日」(③⑥)は、近年の名誉毀損裁判では、これなしには語れない。

 素人の私の理解では、一般に事実審は第二審までで、最高裁では、過去の最高裁判決に反したり、憲法違反したりすることがない限り「棄却」される。今回の判決文16ページに7つもの最高裁判決を記載していただいた意義として、「この裁判は最高裁ではひっくり返りようがない」ということを示唆してくださっている気がしてしまうのは、私が素人だからかもしれないが、左陪席裁判官の視線の力強さからそんな印象を受けてしまった。

. 裁判所の判断

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/07/post.html

を最後まで読んでいただいた方なら以下の判決文における裁判所の判断を容易に理解されるでしょう。

ポイント

 名誉毀損裁判のポイントとして該当する報道が、①事実を摘示したものか、公正な論評か、②報道が名誉を毀損するか、③報道内容が「真実」か(真実性)」または「真実と信ずるについて相当の理由(相当性)が存在する」か、」等が争われますが、本件では以下のような判断がされました。

   

筆者を「未熟な医師」と表現した放送中の弁護士のコメントは事実の摘示である

「上記コメントが,本件刑事判決の判断等を報道することを内容とする本件ニュース1において,重大な結果をもたらした本件事故の原因,責任の所在の解明に迫る目的でされたことにかんがみれば,テロップで「おこたって未熟な医師に扱わせた」と表示したうち,「未熟な医師」との表現は,被控訴人が未熟な医師であり,それゆえに人工心肺装置の構造に問題があることを予見することができなかったという事実の摘示を包含するものであるということができる。」

   

フジテレビの放送は、筆者(原告)の名誉を毀損した

「本件刑事判決において示された判断と重要な点において異なる印象を与えるものであり,テロップに表示された「未熟な医師」という表現の持つ専門家としての力量に対する否定的評価とあいまって,本件刑事判決によって上記のとおり示された判断により無罪とされた被控訴人の人格的価値を損ない,その社会的評価を低下させるものであった」

   

筆者を「未熟な医師」と評したことは「真実」でもなく、「真実と信ずるについて相当の理由」もない

 「本件ニュース1の番組制作者は,「おこたって未熟な医師に扱わせた」というテロップの表示が,法律専門家であるN弁護士の談話を紹介するに当たってこれを補助するものであることの一事をもってしては,同弁護士のコメントにより摘示されたものと認められる事実や,意見ないし論評の前提としている事実の重要な部分に確実な資料,根拠があるものと受け止め,同事実を真実であると信じたことに無理からぬものがあるとまではいえないのであって,当該番組制作者に同事実を真実と信ずるについて相当の理由があるとは認められないというべきである。」

5.名誉毀損の損害額とメディアのダメージ

 「100万円基準」「500万円基準」などが論文でも発表されていますが、米国に比べると日本では「名誉」は価値が低いように思われます。この勝訴によるメディアの金額的ダメージは、企業の大きさからいって全くといってないでしょう。敗訴した事実を報道されることが一番のダメージになりますので、是非読者はこれを多くの人に伝えてください。

付録1:本件控訴審および附帯控訴審 「第3 裁判所の判断」「第4 結論」

第3 当裁判所の判断

1 当裁判所も,被控訴人の請求は,そのうち100万円及びこれに対する不法行為の後である平成17年12月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分につき理由があるから上記の限度でこれを認容すべきであり,その余は理由がないからこれを棄却すべきであると判断する。その理由は,次のとおり補正するほかは,原判決「事実及び理由」欄中の「第3当裁判所の判断」の1から4まで(原判決24頁8行目から35頁24行目まで)の説示と同一であるから,これを引用する。

(1)   原判決24頁9行目から26行目までを次のとおり改める。

 「新聞記事等の報道の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては,一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであり,テレビジョン放送をされた報道番組の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについても,同様に,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべきである(最高裁平成14年(受)第846号同15年10月16日第一小法廷判決民集57巻9号1075頁参照)

 そして,テレビジョン放送をされた報道番組によって摘示された事実がどのようなものであるかという点についても,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断するのが相当である。テレビジョン放送をされる報道番組においては,新聞記事等の場合とは異なり,視聴者は,音声及び映像により次々と提供される情報を瞬時に理解することを余儀なくされるのであり,録画等の特別の方法を講じない限り,提供された情報の意味内容を十分に検討したり,再確認したりすることができないものであることからすると,当該情報番組により摘示された事実がどのようなものであるかという点については,当該情報番組の全体的な構成,これに登場した者の発言の内容や,画面に表示されたフリップやテロップ等の文字情報の内容を重視すべきことはもとより,映像の内容,効果音,ナレーション等の映像及び音声に係る情報の内容並びに放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して判断すべきである(上記第一小法廷判決参照)

 ところで,テレビジョン放送をする報道番組(以下「テレビ報道番組」という。)において刑事事件の判決を報道するに当たっては,テレビ報道番組の制作者は,刑事事件の判決において示された判断内容を一般の視聴者に分かりやすく正確に説明する使命を負っているのであり,視聴者が音声及び映像により次々と提供される情報を瞬時に理解することを余儀なくされるというテレビ報道番組特有の事情を踏まえ,当該番組の全体的な構成,これに登場する者の発言の内容,画面に表示されたフリップやテロップ等の文字情報の内容,映像の内容,効果音,ナレーション等から視聴者がどのような印象を受けるかを考慮して,上記の使命を果たすべくテレビ報道番組を制作しなければならず,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として当該番組において摘示されたものと認められる事実が刑事被告人,犯罪の被害者その他の関係者の名誉を毀損するものである場合には,当該番組の放送が公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に該当することを前提に,摘示された事実が真実であることが証明されたとき又は番組制作者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があったときという要件(最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決民集20巻5号1118頁参照)を満たさない限り,不法行為による損害賠償責任を免れないというべきである。

 刑事事件の判決を報道するテレビ報道番組の制作者は,当該番組の構成を検討するに当たり,刑事事件の判決において示された判断内容を一般の視聴者に分かりやすく正確に説明することのほか,報道した刑事事件の判決が犯罪の被害者側からどのように受け止められたか,刑事被告人側からはどうか,あるいは社会一般からはどうかを報道したり,さらには,有識者,専門家等のコメントを紹介したりすることも,その裁量により行うことができる。そして,そのように構成されたテレビ報道番組が,前記の判断基準に照らし,その全体的な構成,これに登場した者の発言の内容,画面に表示されたフリップやテロップ等の文字情報の内容,映像の内容,効果音,ナレーション等の映像及び音声に係る情報の内容並びに放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して,当該番組における関係者の談話,有識者,専門家等のコメントが,発言者等の個人的見解であるというにとどまらず,それらを通じて当該番組制作者が当該番組の報道基調として,視聴者に一定の視点や見方,評価等を提示しでいるという印象を一般の視聴者に与える場合には,当該番組の制作者は,それらが関係者の談話,有識者,専門家等のゴメントにすぎないことを理由に,当該番組としては上記の談話,コメント等により一定の事実を摘示したり,論評を加えたりしていないとして,自らの責任を否定することはできないものというべきである。したがって,そのような内容を含む上記テレビ報道番組において,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準としで,証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項が摘示されているものと理解されるときは,同部分は,当該事項についての事実の摘示を含むものというべきであり(最高裁平成6年(オ)第978号同9年9月9日第三小法廷判決・民集51巻8・号3804頁参照),当該番組において摘示されたものと認められる事実が刑事被告人,犯罪の被害者その他の関係者の名誉を毀損するものである場合には,公共の利害に関する事実に係り,かつ,その目的が専ら公益を図ることにあった場合に該当することを前提に,摘示された事実が真実であることが証明されたとき又は番組制作者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があったときという上記の要件を満たさない限り,不法行為による損害賠償責任を免れないというべきであるし,他方,意見ないし論評の公表に当たる部分についても,それが,刑事被告人,犯罪の被害者その他の関係者の名誉を毀損するものである場合には,その公表が公共の利害に関する事実に係り,かつその目的が専ら公益を図ることにあった場合に該当することを前提に,当該意見ないし論評の前提としている事実についてその重要な部分につき真実であることの証明があったとき(この場合であっても,当該意見ないし論評が人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものであるときを除く。)又は番組制作者において当該事実を真実と信ずるについて相当の理由があったときという要件(最高裁昭和55年(オ)第1188号同62年4月24日第二小法廷判決・民集41巻3号490頁,最高裁昭和60年(オ)第1274号平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号22与2頁,最高裁平成6年(オ)第978号同9年9.月9日第三小法廷判決・民集51巻8号3804頁参照)を満たさない限り,不法行為による損害賠償責任を免れないというべきである。そして,テレビ報道番組において報道した刑事事件の判決の認定事実ないしこれに関連する事実を内容とする分野における有識者,専門家等のコメントについては,前記の判断基準に照らし,その全体的な構成,これに登場した者の発言の内容,画面に表示されたフリップやテロップ等の文字情報の内容,映像の内容,効果音,ナレーション等の映像及び音声に係る情報の内容並びに放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して,当該番組における有識者,専門家等のコメントが,発言者等の個人的見解であるというにとどまらず,それらを通じて当該番組制作者が当該番組の報道基調として,視聴者に一定の視点や見方,評価等を提示しているという印象を一般の視聴者に与える場合において,テレビ報道番組において紹介された有識者,専門家等のコメントが刑事被告人,犯罪の被害者その他の関係者の名誉を毀損するものであるときには,当該番組の制作者は,それが有識者,専門家等のものであるとの一事をもってしては,有識者,専門家等のコメントにより摘示されたものと認められる事実や,意見ないし論評の前提としている事実の重要な部分に確実な資料,根拠があるものと受け止め,同事実を真実であると信じたことに無理からぬものがあるとまではいえないのであって,当該番組制作者に同事実を真実と信ずるについて相当の理由があるとは認められないというべきである(最高裁平成7年(オ)第1421号同14年1月29日第三小法廷判決・民集56巻1号185頁参照)

 そこで,以下,本件について上記の見地から検討する。」

(2)  原判決27頁5行目から21行目までを次のとおり改める。

 「以上によれば,本件ニュース1の一連の放映内容を視聴した一般視聴者としては,本件刑事判決が,本件事故の際,人工心肺の構造に問題があったことを予見できず,過失責任を問えないとして,被控訴人を無罪としたものであることを理解することができる一方,テロップで「おこたって未熟な医師に扱わせた」と表示されたことなどを受け,テロップに表示された「未熟な医師」とは被控訴人のことであり,専門家としての力量が不十分な医師であって,被控訴人が未熟な医師であるがゆえに人工心肺の構造に問題があったことを予見できず,本件事故が生じたのであるが,被控訴人が未熟な医師であったことからすると法的にその過失責任までは問えないと判断された,あるいはそれが事の真相と考えられると法律専門家がコメントしたとの印象を受けることは否定できない。もっとも,①本件ニュース1における「おこたって未熟な医師に扱わせた」というテロップの表示は,本件ニュース1の一部を構成するものである法律専門家であるN弁護士の談話(コメント)を紹介するに当たって補助する手段として用いられたものであり,②N弁護士の上記コメントは,全体の趣旨としては,東京女子医大病院が組織的に負うべき結果回避義務について論評を加えたものということができる。しかしながら,前記の判断基準に照らし,前記認定のような本件ニュース1の全体的な構成の中で,N弁護士の上記コメントが紹介され,その際にテロップで「おこたって未熟な医師に扱わせた」と表示したことを総合的に考慮すると,本件ニュース1におけるN弁護士の上記コメント及びテロップから成る部分は,同弁護士の個人的見解であるというにとどまらず,それらを通じて本件ニュース1の制作者が,本件ニュース1による報道の趣旨として,テロップで「おこたって未熟な医師に扱わせた」と表示したとの印象を与えるものであり,本件ニュース1の番組制作者はそのように評価されてもやむを得ないものであるといわざるを得ないのであって,本件ニュース1の番組制作者が,上記テロップが法律専門家であるN弁護士の談話を紹介するための補助的な手段であることを理由に,自己の責任を免れることはできないというべきである。そして,本件ニュース1の番組制作者は,「おこたって未熟な医師に扱わせた」というテロップの表示が,法律専門家であるN弁護士の談話を紹介するに当たってこれを補助するものであることの一事をもってしては,同弁護士のコメントにより摘示されたものと認められる事実や,意見ないし論評の前提としている事実の重要な部分に確実な資料,根拠があるものと受け止め,同事実を真実であると信じたことに無理からぬものがあるとまではいえないのであって,当該番組制作者に同事実を真実と信ずるについて相当の理由があるとは認められないというべきである。また,N弁護士の上記コメントが,全体の趣旨としては,東京女子医大病院が組織的に負うべき結果回避義務について論評を加えたものであり,「未熟な医師」という表現が論評に当たることは否定することができないとはいえ,N弁護士の上記コメントが,本件刑事判決の判断等を報道することを内容とする本件ニュース1において,重大な結果をもたらした本件事故の原因,責任の所在の解明に迫る目的でされたことにかんがみれば,テロップで「おこたって未熟な医師に扱わせた」と表示したうち,「未熟な医師」との表現は,被控訴人が未熟な医師であり,それゆえに人工心肺装置の構造に問題があることを予見することができなかったという事実の摘示を包含するものであるということができる。そして,テロップで「おこたって未熟な医師に扱わせた」と表示したことが,一般視聴者に対して上記のような印象を与えることは,否定し難いというべきである。

 ところで,本件刑事判決は,本件事故の際に人工心肺回路における脱血不能の状態を惹起した直接的かつ決定的な原因は水滴等の付着によるガスフィルターの閉塞であったとした上で,実際に心研で人工心肺にかかわったことがある被控訴人以外の医療関係者らも人工心肺回路内に発生した水滴等によりガスフィルターが閉塞するという構造上の危険性について認識がなかったものと認め,この認定を踏まえて,上記の危険性の認識に欠けていたことに'ついて,一人被控訴人についてのみその認識が可能であったのにこれを懈怠したものとして非難するのは酷であるとして,被控訴人の注意義務違反を否定し(この事実は甲第6号証によりこれを認める。),本件事故当時の臨床医療の一般水準として,本件手術の際に用いられた人工心肺の操作に当たる者が,人工心肺回路内に発生した水滴等によりガスフィルターが閉塞する危険性があることを予見することが可能であったと断定することはできないとし,ガスフィルターが水滴等により容易に閉塞する危険性があることからすると,陰圧吸引回路にガスフィルターを取り付けておくという人工心肺の構造自体,客観的にみて,危険で瑕疵がある構造というほかはないとして,このような人工心肺回路を設置し,心臓手術での使用に供していたことにつき,女子医大の責任が問題となる余地がある点はともかく,少なくとも被控訴人1については,陰圧吸引回路にフィルターが取り付けられていることを認識していたからといって,直ちに,それが脱血不能の状態につながる危険で瑕疵のある構造のものであることまで認識した上,これに適切に対処することができたはずであり,かろ,そうすべき義務があったとするのは,酷であるといわざるを得ないとしたのであって,本件刑事判決は,被控訴人は人工心肺回路内に発生した水滴等によりガスフィルターが閉塞する危険性があることを知らなかったところ,本件事故当時の臨床医療の一般水準を基準にすれば,専門的治療に携わる医師であっても上記の危険性を認識していないのであればそのような危険を予見することはできなかったと判断したというべきであるから,本件ニュース1の一連の放映内容を視聴した一般視聴者が受けたであろう前記の印象(被控訴人が,専門家としての力量が不十分な,未熟な医師であるがゆえに,人工心肺の構造に問題があったことを予見できず,本件事故が生じたのであるが,被控訴人が未熟な医師であったことからすると法的にその過失責任までは問えないと判断された,あるいはそれが事の真相と考えられると専門家がコメントしたとの印象)は,本件刑事判決において示された上記判断とは重要な点において異なるものであるといわざるを得ない。前記の印象は,専門家としての力量が不十分な,未熟な医師であるという印象を内容とするものであり,断定的,否定的なニュアンスの強いものであるのに対し,本件刑事判決において示された上記判断は,実際に心研で人工心肺にかかわったことがある被控訴人以外の医療関係者らも人工心肺回路内に発生した水滴等によりガスフィルターが閉塞するという構造上の危険性について認識がなかったものと認めた上で,この認定を踏まえて,上記の危険性の認識に欠けていたことについて,一人被控訴人についてのみその認識が可能であったのにこれを懈怠したものとして非難するのは酷であるとして,被控訴人の注意義務違反を否定したもので,前記の印象のように断定的,否定的なニュアンスを伴うものではないからである。したがって,本件ニュース1は,その一連の放映内容を視聴した一般視聴者に対し,上記のとおり本件刑事判決において示された判断と重要な点において異なる印象を与えるものであり,テロップに表示された「未熟な医師」という表現の持つ専門家としての力量に対する否定的評価とあいまって,本件刑事判決によって上記のとおり示された判断により無罪とされた被控訴人の人格的価値を損ない,その社会的評価を低下させるものであったというべきである。このことは,本件ニュース1と,それ以外のニュース,とりわけ本件ニュース4とを対比すれば明らかである。」

(3)原判決27頁25行目から28頁14行目までを次のとおり改める。

 「確かに,本件ニュー一ス1は,本件刑事判決において示された判断内容を一般の視聴者に分かりやすく正確に説明しようとする意図の下に制作されたものであるということができるし,本件ニュース1の制作者が,本件刑事事件の判決について,犯罪の被害者側の観点からどのように受け止められたかを報道したり,法律専門家である弁護士のコメントを紹介したりしたことをもって,直ちに違法,不当であるなどということはできないが,上記のとおり,本件ニュース1の一連の放映内容を視聴した一般視聴者が,テロップに表示された未熟な医師とは被控訴人のことであり,被控訴人が未熟な医師であるがゆえに人工心肺の構造に問題があったことを予見できず,本件事故が生じたのであるが,被控訴人が未熟な医師であったことからするとその過失責任までは問えないと判断された,あるいはそれが事の真相と考えられるとの印象を受けることは否定できないのであって,本件ニュース1は,その一連の放映内容を視聴した一般視聴者に対して,本件刑事判決において示された判断と重要な点において異なる印象を与えるものであり,テロップに表示された「未熟な医師」という表現の持つ専門家としての力量に対する否定的評価とあいまって,本件刑事判決によって上記のとおり示された判断により無罪とされた被控訴人の人格的価値を損ない,その社会的評価を低下させるものであったといわざるを得ない。」

(4) 原判決29頁20行目から30頁6行目までを次のとおり改める。

 「しかしながら,本件ニューニス2において被控訴人につき「元医師」との事実摘示がなされたことにより,一般視聴者が被控訴人は本件事故の責任を取って自ら医師を辞めたか,医師を辞めさせられたとの印象を受けるとしても,本件事故の結果の重大性と心臓手術に関与する医師に求められる高度の専門性とにかんがみると,法的な責任があるかどうかとは別に,道義的責任の観点から被控訴人が本件事故の責任を取って自ら医師を辞めたか,医師を辞めさせられたという事態はあり得るところであり,そのような事態が生じたとの印象が持たれたからといってそれゆえに直ちに被控訴人の社会的評価が低下したとまでは認め難いというべきである。この点に関する被控訴人の主張は採用することができない。」

(5) 原判決30頁10行目及び18行目の「アナウンサー」をいずれも「ナレータ」に改め,30頁24行目の「余地が残されていますよね」を「余地が残されていますよね。」に改める。

(6) 原判決32頁2行目から22行目までを次のとおり改める。

 「上記のとおり,本件ニュース1は,一般視聴者に対し,被控訴人が未熟な医師であったために人工心肺の構造に問題があったことを予見できず,本件事故が生じたとの印象を与えることは否定できず,テロップに表示された「未熟な医師」という表現の持つ専門家としての力量に対する否定的評価とあいまって,被控訴人の名誉を毀損するものである。これに対し,控訴人は,前記第2の3のとおり,本件事故に係る資料中には,被控訴人を「未熟」と評価するに十分な事実が数多く存在するのであり,本件手術時における人工心肺装置を担当する医師としての被控訴人の知識及び技術のレベルは,「未熟」と評価されても仕方のないものであったなどと主張する。

 しかしながら,本件刑事判決が,前記のとおり,本件事故当時の臨床医療の一般水準として,本件手術の際に用いられた人工心肺の操作に当たる者が,人工心肺回路内に発生した水滴等によりガスフィルターが閉塞する危険性があることを予見することが可能であったと断定することはできないとし,ガスフィルターが水滴等により容易に閉塞する危険性があることからすると,陰圧吸引回路にガスフィルターを取り付けておくという人工心肺の構造自体,客観的にみて,危険で瑕疵がある構造というほかはないとして,このような人工心肺回路を設置し,心臓手術での使用に供していたことにつき,女子医大の責任が問題となる余地がある点はともかく,少なくとも被控訴人については,陰圧吸引回路にフィルターが取り付けられていることを認識していたからといって,直ちに,それが脱血不能の状態につながる危険で瑕疵のある構造のものであることまで認識した上,これに適切に対処することができたはずであり,かつ,そうすべき義務があったとするのは,酷であるといわざるを得ないとしたことにかんがみると,控訴人が主張するような事実を量根拠に,被控訴人が未熟な医師であるとの事実が真実であることが証明されたということはできないし,本件ニュース1の番組制作者が当該事実を真実と信ずるについて相当の理由があったということもできない。また,被控訴人が未熟な医師であるとの意見ないし論評の前提としている事実についてその重要な部分につき真実であることの証明があったということもできないし,本件ニュース1の番組制作者が当該事実を真実と信ずるについて相当の理由があったということもできないのであり,さらに,絶対評価として医師の力量が不十分であるという印象を与える「未熟な医師」という表現は,被控訴人に対する個人攻撃のニュアンスを有するものであることを否定することはできない。」

2        当審における控訴人の主張に対する判断

 控訴人は,前記第2の3のとおり主張するが,前記のとおり認定し,説示したところと異なる控訴人の主張は,いずれも採用の限りでない。

3        当審における被控訴人の主張に対する判断

 被控訴人は,前記第2の4のとおり主張するが,前記のとおり認定し,説示.したところと異なる被控訴人の主張は,いずれも採用することができない。

4 結論

 以上の認定及び判断の結果によると,被控訴人の請求は,そのうち100万円及びこれに対する不法行為の後である平成17年12月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める部分につき理由があるから上記の限度でこれを認容すべきであり,その余は理由がないからこれを棄却すべきである。よって,当裁判所の上記判断と結論において符合する原判決は相当であり,本件控訴及び本件附帯控訴はいずれも理由がないから,これらを棄却することとして,主文のとおり判決する。

付録2:本件裁判の資料

2007年8月27日 (月) 勝訴 フジテレビ訴訟 本人訴訟第1号

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_fea3.html

2008年7月31日 (木)

「悪意ある虚偽報道による名誉段損に対しての闘い」田邊昇先生 「外科治療」2008Vol.98No.6より

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/07/post.html

2007年8月25日 (土)

フジテレビ訴訟 判決

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_7178.html

2008年3月 7日 (金)

「日経メディカル」記事掲載ー本人訴訟でフジテレビに勝訴―

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_10f7.html

2008年2月 1日 (金)

刑事控訴審続報の前に今日のフジテレビ控訴審

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/02/post_f412.html

2008年3月 7日 (金)

復刻 フジテレビ訴訟 控訴審

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_5865.html

2008年5月22日 (木)

フジテレビ控訴審 結審日決定

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/05/post_6faa.html

2007年6月 4日 (月)

フジテレビ訴訟 本人尋問期日のお知らせ

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/06/post_44bb.html

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2008年5月22日 (木)

フジテレビ控訴審 結審日決定

(1)フジテレビ控訴審 結審日決定まで

 本日フジテレビ控訴審がありました。

一審は2006年3月22日に提訴、2007年8月27日判決で、私が本人訴訟(被告弁護団は6人)で勝訴しました。

「フジテレビ訴訟 判決」

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_d1da.html

「フジテレビ訴訟 勝訴本人訴訟第1号」

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_2ed3.html

日経メディカルで記事になりました。

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_10f7.html

一審で敗訴したフジテレビが2008年9月10日に二つの法律事務所から弁護団を再編して控訴。

フジテレビ訴訟 控訴審

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/03/post_5865.html

さらに、強制執行停止。[i]

これに対して、一審で認められなかった名誉毀損部分と肖像権侵害部分について私が附帯控訴[ii]しました。

控訴人(フジテレビ)は、亡くなった患者さんの家族を証人申請しましたが、これは却下され、次回弁論期日の7月4日に結審することが決定しました。

判決日は7月4日に決定されるものと思われます。

(2)時機に後れた攻撃防御方法の却下等」民事訴訟法 第百五十七条[iii]

 今日の期日の直前に、裁判所が証人申請を認めないように、「時機に後れた攻撃防御方法の却下」を「上申書」で主張しました。私は、他に多くの名誉毀損訴訟を弁護士さんにお願いしていますので、プロが作成した準備書面を沢山持っています。それを参考にしなければ、この主張をすることは出来ませんでした。

裁判の進行は、裁判所の専権であることを重々承知しておりますが、以下・・・の事柄についてご意見を述べさせていただきます。」(この当たりは、弁護士さんでは恥ずかしくて書けないことでしょう。)

「・・・控訴審になっての証人申請は『時機に後れた攻撃防御方法』に当たります。原審原告(被控訴人、附帯控訴人)は本人訴訟であるのに対し、原審被告(控訴人、附帯被控訴人)は、大手メディアとして多数の名誉毀損訴訟を被告側で経験してきており、

複数の弁護士を代理人として要していたのですから、原審でも証人申請は十分に行うことが出来たはずです。

真実性・相当性の主張は、名誉毀損訴訟における抗弁として最も典型的なものです。そもそもの問題として、テレビ局が人の社会的評価を低下するおそれのある放送する場合には、それに先立って十分な取材を尽くし、メディアとして真実性を確認してから公表に至るものです。この点を踏まえて、一般的にも、相当性の立証を行うための資料は、問題となる番組の放送時点までに入手できたものに限定されるのが通例です。したがって、問題となる放送を公表する時点において、メディア側には、真実性・相当性を主張するための基礎資料は揃っていて然るべきですから、メディアが真実性・相当性の主張を行う意向を有する場合、請求原因を記載した訴状を受領した後であれば、そのような主張のための証拠提出や証人申請は十分期待できます。つまり、第一審の第1回口頭弁論期日あるいはそれに先立つ答弁書の提出時において、その証人申請を具体的に行うこと、あるいは少なくとも、かかる主張を行う旨予告をすることは、十分に期待できるものです。一般的に真実性の立証に当たっては、相当性の立証の場合とは異なり、放送後の事情も斟酌することが可能ですが、本件において控訴人は、事後でなければ入手できない証拠に基づいて真実性の証明を行おうとはしておらず、やはり、後れて真実性の主張が出されたことを正当化できるものではありません。よって、控訴人による証人申請を、貴裁判所が、時機に後れた攻撃防御方法としても、却下することを求めます。」

この主張が認められたのかそれとも全く関係なかったかは不明ですが、結局のところ、裁判所は、証人申請を却下しました。些細なことですが、前哨戦には勝利した気分で天王山に向かうことになりました。一審勝訴していますが、法律論的にはかなり難しいレベルになってきました。


[i] さらに羞じも外聞もかなぐり捨てて、一審判決で100万円損害賠償についた仮執行宣言に対して強制執行停止申し立てにより75万円の担保を立てて強制執行を認めさせました。(仮執行宣言の強制執行などこちらは元々執行させる予定はなかったのですが。)

[ii] 控訴によって開始された控訴審手続を利用して、被控訴人が控訴審での審判範囲を拡張し、自己に有利な原判決の変更を求める攻撃的申立てをいう。 

控訴の取下げまたは却下があれば、付帯控訴も効力を失う。

[iii]事者が故意又は重大な過失により時機に後れて提出した攻撃又は防御の方法については、これにより訴訟の完結を遅延させることとなると認めたときは、裁判所は、申立てにより又は職権で、却下の決定をすることができる。

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2008年3月 7日 (金)

「日経メディカル」記事掲載ー本人訴訟でフジテレビに勝訴―

 日経メディカル 2008年3月号 175頁~177頁 DISPUTE 医療訴訟の「そこが知りたい」 に、フジテレビの本人訴訟で勝訴した件が掲載されました。

 「医療事故裁判の報道で名誉毀損 医師が自力でテレビ局に勝訴」(田邊 昇先生執筆)と題した記事です。2008年3月10日発売とのことでしたが、既に発行され当院の医局図書室でも閲覧できるようになりましたので、3月10日にこのブログを発表する予定であったところを早めることにしました。

 大きな書店や図書館に置いてあると思います。また、病院や医局でもい購入されているところも多いと思いまので、閲覧してみてください。

「東京女子医大で心臓手術を受けた患者が死亡した事故で、医師が無罪判決を言い渡されました。その判決を報じたニュース番組の内容が名誉棄損に当たるとして、その医師が弁護士を通さずにテレビ局を訴え、勝訴しました。」と紹介されていますが、その通りで、この裁判に関しては、

勝訴 フジテレビ訴訟 本人訴訟第1号http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_fea3.html

フジテレビ訴訟 判決http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_7178.html

フジテレビ訴訟 本人尋問のお知らせhttp://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/06/post_44bb.html

フジテレビ側 控訴 http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/09/post_5212.html

等に書いて最近のブログに復刻してきました。

 フジテレビが控訴したため、私はこれに対して附帯控訴中です。附帯控訴とは、被控訴人が相手方の控訴によって開始された控訴審手続中において、控訴審判の範囲を自己に有利に拡張させて、原判決の取消し・変更を求める申立てです。要は、勝訴したけれども、判決の一部には不満があったので、相手が控訴するならこっちも判決に対する不満を訴えると理解されればよいと思います。

 この日経メディカルにも、

勝訴しても賠償額は非常に低いことがほとんどであり、

とありますように、現在の本邦においてすら100万円の賠償額は「非常に低額」とう評価です。以前の100万円ルールから500万円ルールに準じた賠償額を認定すべき旨の研究論文が裁判所から発表されてから5年。「武士の名誉」と「法律上の名誉」違う概念ですが、名誉を尊重するわが国の歴史も鑑み、名誉を尊重した判決を望みます。

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復刻 フジテレビ訴訟 控訴審

2007年9月12日 フジテレビ側 控訴http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/09/post_5212.html

②2008年2月1日 今日のフジテレビ控訴審 http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/02/post_f412.html 

2007年9月12日 フジテレビ側 控訴

 東京地方裁判所 民事第6部に連絡したところ、フジテレビ側は、2007年9月10日に控訴したとのことです。記録が高裁に移った後に、呼び出しがあるそうです

②2008年2月1日 今日のフジテレビ控訴審

 今週来週は本人訴訟の嵐です。今週は、小学館控訴審(相手弁護士3人法務部3人)と今日のフジテレビ控訴審(原審弁護士3人助っ人弁護士1人(他の法律事務所で元判事のベテラン))、来週は集英社+毎日新聞社医療問題取材班訴訟があります。

フジテレビは、強制執行を申し立てて、75万円の担保を立てさせてまでねちっこくやっています。素人相手に大人げないなと思っていたところ、今度は、助っ人登場。相手は複数の法律事務所の4人となりました。これに向こうは法律事務所の秘書さんが沢山いますから羨ましい。こっちは、一人で、証拠集め、判例と法律専門書の読み込み、書面書き、印刷、推敲、再印刷、コピー(一回の書類提出で、軽く数百枚になる)、ハンコ押し、ファクシミリ、郵便、出廷、裁判官とやり取りしながら必要事項のメモ。これが二週間で3つあると結構大変ですよ。

 控訴理由書、答弁書、準備書面、附帯控訴状、陳述書、証拠説明書等の書き物で、睡眠時間が大幅に減少。2時間以内になると結構辛い。久しぶりに床に寝ました。「控訴趣意書の答弁書と準備書面と固い床」http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2006/09/post_55b3.htmlの「どうしても明日までに仕上げない書類の作成中に眠くなったら、医局の固い床のカーペットの上に寝ています。寝心地が悪いと直ぐに起きることができるからです。締め切りの近い学会の抄録や依頼原稿、学位論文もこの方法でやっていました。「眠らない」ためには、「眠りにくいところで寝る」ことが仕事を仕上げるのにはよいと思っています。」状態でした。

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2008年3月 6日 (木)

復刻 フジテレビ訴訟 勝訴本人訴訟第1号

2007年8月27日 勝訴 フジテレビ訴訟 本人訴訟第1号

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_fea3.html

2007年8月27日。刑事事件一審だけで50回、刑事控訴審と民事訴訟、民事控訴審、傍聴、手続き等で、100回近く通った東京地裁。13時前の入り口カウンター付近には、10人以上の学生風の20代前半くらいの人が傍聴する訴訟を書類で検討している。夏休みならではの光景。721号法廷には、17人の傍聴者。内一人は、いつも傍聴にきているフジテレビの社員。相手側弁護士は、6人が名を連ねている事務所だが、代理人席にも、傍聴席にも姿は見えない。

裁判所書記官は、私に対して大変友好的。親切で、気軽の話しかけてくれた。今日も会話するときの顔は真剣だが、視線が柔らかい。(詳細は、控訴審中であるので避けるが、一審の刑事事件の書記官との関係と似ていた。)

裁判官3人が入廷。裁判所の内で、道に迷った私に気軽に案内をしてくれたことがある土肥章大裁判長。部内の4畳程度の狭い部屋で、会食するようなテーブルで行われる弁論準備期日でのフレンドリー、気さくな感じとは雰囲気が違う。テレビドラマに出てきてもよいくらいカッコいい裁判長。「裁判官とはこういう人」だというイメージ通り。一見学者風かもしれないが、「公正な視線」は、堅苦しくなく、形式的でもない。

いつもよりも、低音で響くはっきりとした若々しくも威厳のある落ち着いた声。    「主文 

1.被告は、・・・」この出だしで、勝訴を確信する。

「・・・原告に対し、100万円及びこれに対する平成17122日から支払い済みまで年5分の割合による金員を払え。

2.原告のその余の請求を棄却する。

3.訴訟費用は、これを15分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

4.この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。」

「詳細は、12階6部で、正本を受け取ってお読みください。」

自然と丁寧に頭が下がった。本人訴訟での勝訴判決第1号。

私の後を追うように、2人の学生風の傍聴者が退廷。私の判決だけを傍聴しに来ていた様子。13時30分からは、集英社と毎日新聞医療問題取材班の各記者を個人で訴えた別訴訟の最初の弁論期日が行われる705号法廷に向かった。

 この集英社と毎日新聞の記者を訴えた弁論期日の後に判決を手に入れる。刑事判決が52ページだったのに対して、この判決も36ページ(40字x26行)。

 判決の理由には、一部不満なところもありますが、ごく一部を抜粋すると、

「・・・本件刑事事件が原告に対し無罪の言渡しをしたとうはいうものの、実際には、原告が、未熟で、その過失があったために、本件事故が生じた可能性があるとの印象を受けることは、否定できないのであって、当時第一審で無罪判決を受けた直後であった原告の人格的価値を損ない、その社会的評価を低下させるものであったというべきである。・・・・原告に対する無罪判決に疑問があることを示唆する内容の情報も多数提供しており、(別項目でこのことには真実性も相当性もないと判示)さらに、その構成も、冒頭部分と最後に本件刑事事件判決に批判的な本件患者の遺族による記者会見でのコメントを挿入し、他方、判決直後になされた原告の記者会見(甲12)でのコメントは用いていないなど、これを全体的に観察すると、原告に対する無罪を言い渡した本件刑事判決に批判的な視点で構成されているというべきであり、・・・・実際には、原告が、未熟で、その過失があったために、本件事故が生じた可能性があるとの印象を与えることは否定できず、原告の社会的評価を低下させるもので、原告の名誉を毀損するものといわざるを得ない。」

 と主たる部分ではしっかりと判示してくださいました。

以下省略

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復刻 フジテレビ訴訟 判決

2007年8月25日 フジテレビ訴訟 判決

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/08/post_7178.html

2007827日 月曜日 1310分 東京地方裁判所 民事第6部

 フジテレビ訴訟の判決が下ります。

以下にこれまでの約一年半に渡る訴訟の経過の一部を記載します。

現在テキスト化されて残っているもののみになりますので、全体の書類の3分の2程度になります。被告の準備書面第2,3がありませんので、どちらが優位か正確は判断はできないと思いますが、訴訟の争点などは伝わると思います。

 簡単に「名誉毀損で訴えてやる。」と口にする人もいますが、実際一人でやるとなると結構大変です。事務手続きや連絡なども毎回必要ですので、労力はいります。とはいっても、刑事訴訟の100分の1程度の負担かもしれません。

 最後まで読み切る暇な人も稀かもしれませんが、私の訴状、準備書面、陳述書を読むだけでも大きな流れはわかると思いますので、ご意見があればコメントお願いいたします。

 勝訴しても敗訴しても報道はされると思いますので、その報道に対するコメントでも結構です。

平成18年(ワ)第5889号 損害賠償請求事件

原 告 

佐藤一樹

被 告 株式会社フジテレビジョン

訴    状

2006年3月22日

東京地方裁判所 御中

原 告      佐藤一樹

当事者の表示

別紙当事者目録のとおり

損害賠償請求事件

訴訟物の価額 金15,000,000円

貼用印紙額  金    65,000円

第1 請求の趣旨

1 被告は,原告に対し,金15,000,000円及びこれに対する2005年12月2日から完済に至るまで年5分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

第2 請求の原因

1 当事者

(1) 原告は,東京女子医科大学病院(以下「女子医大」という)に勤めていた医師であり,女子医大日本心臓血圧研究所(以下「心研」という)において2001年3月2日に施行された平栁明香氏(以下「本件患者」という)に対する心房中隔欠損症及び肺動脈弁狭窄症の手術(以下「本件手術」という)の際に人工心肺装置の操作を担当していた医師である。

(2) 被告は,テレビ番組放送等を目的とする会社であり,報道番組「FNNスーパーニュース」並びに情報番組「めざましテレビ」及び「とくダネ!」を制作・放送している。

2 本件ニュース

(1) 被告は,2005年11月30日午後4時55分からの「FNNスーパーニュース」において,同午後6時1分ころ同4分ころまでにわたって,原告に関するニュース(甲1-1,1-2-①~⑰,1-3。以下「本件ニュース1」という)を放送した。

(2) 被告は,同年12月1日午前5時25分からの「めざましテレビ」において,同午前5時38分ころから同39分ころまでにわたって,原告に関するニュース(甲2-1,2-2-①~③,2-3。以下「本件ニュース2」という)を,そして,同番組の同午前7時8分ころから同9分ころまでにわたって,原告に関するニュース(甲3-1,3-2-①~③,3-3。以下「本件ニュース3」という)を放送した。

(3) 被告は,同日午前8時00分からの「とくダネ!」において,同8時52分ころから同57ころまでにわたって,原告に関するニュース(甲4-1,4-2-①,②,4-3。以下「本件ニュース4」という)を放送した。

(4) 本件ニュース1ないし4は,いずれも東京地方裁判所の所内と考えられる場所を原告が歩いている場面を映した映像(以下「本件映像」という)を含むものである(甲1-1,甲1-2-①~⑫,甲2-1,甲2-2-①,甲3-1,甲3-2-②,甲4-1,甲4-2-①)。

(5) 本件ニュース1には,次のとおりのナレーション(N),テロップ(T)およびインタビュー発言(I)が含まれている。

T①:「『過失責任 問えない』東京女子医大元医師『無罪』 心臓手術で少女死亡」(以後本件ニュース1の最後まで右上に表示。甲1-1,甲1-2-①~⑰)

T②:「当初罪を認め遺族に謝罪し示談が成立」(甲1-2-⑬)

N①:「佐藤被告は,この手術で人工心肺装置の操作を担当しており,ポンプの回転数を不適切に上げるなどして血液の循環を悪くさせ,脳障害で死亡させたとして起訴されていました。」

T③:「当初罪を認め遺族に謝罪し示談が成立」(甲1-2-⑭)

N②:「佐藤被告は当初罪を認めて遺族に謝罪し,示談が成立」

T④:「法廷では一転して過失を否定」(甲1-2-⑮)

N③:「しかし法廷では,一転して過失を否定してきました。立証の難しい医療過誤で医師が逮捕されることは極めて異例であり,当時,高度な医療を行う特定機能病院に承認されていた東京女子医大は,この事件でその承認を取り消されています。また,この事故では手術後にカルテを改ざんしたとして証拠隠滅罪に問われた医師には,懲役1年執行猶予3年の有罪判決が言渡されています。

       なぜ改ざんした医師が有罪になり,機器を操作した佐藤被告が無罪になったのでしょうか。」

(西田研司弁護士と電話している映像)

T⑤:「さまざまな危険を回避する義務があるがそれを放置し」(甲1-2-⑯)

I①:「いろんな危険を回避する義務というのはやっぱりあると思うのですね。」

T⑥:「おこたって未熟な医師に扱わせた」(甲1-2-⑰)

I②:「それを放置して,まああのそういうことを怠ってですね,未熟な医師にあの二重三重にそういうことが起こらないように,あの予防体制をとりながら本当はやるべきだったでしょうと...」

(本件患者父の会見の映像)

I③:「非常に医師に対して甘い判決だなあと思って,本当にがっかりしています」

(6) 本件ニュース2には,「東京女子医大医療過誤事件 元医師に無罪判決」というテロップ及び「事故は予期出来なかったとして元医師に無罪を言い渡しました。」,「業務上過失致死罪に問われた元医師の佐藤一樹被告に対して,東京地方裁判所は無罪を言い渡しました。」というナレーションが含まれている(甲2-2-①,②,甲2-3)。

(7) 本件ニュース3には,「東京女子医大 医療過誤事件 元医師に無罪判決」というテロップ(T⑦)及び「女子医大 医療過誤 元医師に無罪判決」というテロップ(T⑧)並びに原告に無罪判決が出たことを報じる「医療事故の元医師に無罪判決。(中略)元医師の佐藤一樹被告に対して東京地方裁判所は無罪を言い渡しました。」というナレーション(N④)及び「相変わらず医療事故に対する刑事責任の追及の難しさを物語っています」というナレーション(N⑤)が含まれている(甲3-2-①~③,甲3-3)。

(8) 本件ニュース4には,「一方,佐藤元医師に関しましては,被告に関しましては業務上過失致死罪で今回は無罪。」というナレーションが含まれている(甲4-3)。

3 原告に対する名誉毀損及び肖像権侵害

(1) 本件ニュース1が一般視聴者に伝える意味

 本件ニュース1は,以下のような意味を一般視聴者に伝える。

・原告は,当初自己のミスを認めて遺族に謝罪しており,遺族との間で示談も成立している(T②,T③,N③)。

・それが,法廷では,原告は一転して態度を変えて過失を否定し始めた。医療過誤では立証が難しく,医師に否認されると有罪にするのが難しい(T④,N③)。

・医師にはさまざまな危険を回避する義務があるが,原告が未熟であったために,危険を回避できなかった(T⑤,T⑥,I①,I②)。

・本来であれば有罪になるべきであるのに,医師に対して非常に甘い判決であったために無罪になった(I③,N③)。

・原告は,本件事故の責任をとって,自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられており,それゆえ「元医師」と表示されている(T①)

(2) 本件ニュース2が一般視聴者に伝える意味

 本件ニュース2は,本件事故の責任をとって,原告は,自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられており,現在は医師ではないという印象を与える。

(3) 本件ニュース3が一般視聴者に伝える意味

 本件ニュース3は,以下のような意味を一般視聴者に伝える。

・原告は,本件事故の責任をとって,自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられており,それゆえ現在は医師ではない(T⑦,T⑧,N④)。

・原告に対して無罪判決が出されたのは,医療事故に対する刑事責任追及が難しいためであって,本来であれば原告は有罪になってしかるべきであった(N⑤)。

(4)  本件ニュース4が一般視聴者に伝える意味

 本件ニュース4は,本件事故の責任をとって,原告は,自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられており,現在は医師ではないという印象を与える。

(5) 上記による原告の社会的評価の低下

 上記はいずれも,専門性を有するべき医師が,未熟であったために手術中のミスによって本件患者を死亡させたという印象を生じさせるものであり,原告の社会的評価を低下させる。

(6) 本件ニュースによる肖像権侵害

 本件映像は,原告の承諾なしに,本来撮影の認められない場所で原告の容ぼうを隠し撮りしたものであって,みだりに原告の容ぼうを撮影かつ公表したものであるから,原告の肖像権を侵害する。

4 被告の責任

 被告は,本件ニュース1ないし4において,上記のとおり,原告の名誉を毀損するテロップやナレーション及び原告の肖像権を侵害する映像を繰り返し流したのであるから,これによって原告に生じた損害を賠償する責任を負う。

5 救済

(1) 原告は,高い専門性を有する心臓外科医であるが,本件ニュースによって,未熟な医師であり,ミスによって患者を死亡させたとの誤解が社会に広まった。

(2) 本件ニュースによって原告が蒙った名誉毀損に対する慰謝料は,金10,000,000円を下らない。

(3) 本件ニュースによって原告が蒙った肖像権侵害に対する慰謝料は,金5,000,000円を下らない。

6 結論

 よって,原告は,被告に対し,民法709条および710条に基づき,本件ニュースの放送によって原告が蒙った損害の賠償を求めるため,請求の趣旨記載のとおりの損害賠償金の支払を求め,あわせて本件ニュースが放送された2005年11月30日及び同12月1日より後の日である同年12月2日から完済に至るまで民事法定利率である年5分の割合による遅延損害金の支払を求めて本訴に及んだ。

附属書類

1 証拠説明書                                                                                                 1通

1 甲第1号証ないし4号証の3                                                                    各1通

1 資格証明書                                                                                                 1通

当事者目録

〒●●●-●●●●                         東京都●●区●●●●丁目●●番●●号

                                                        ●●●●●●号(送達場所)

                                                        電話:               ●●-●●●●-●●●●

                                                        ファクシミリ:●●-●●●●-●●●●

                                                        原  告                            佐藤一樹

〒137-8088                         東京都港区台場2丁目4番8号

                                                        被  告              株式会社 フジテレビジョン

                                                        代表者代表取締役              ●● ●

証拠説明書(1)

                        2006年3月22日

東京地方裁判所 御中

原 告      佐藤一樹


                        号 証

標     目

(原本・写しの別)

作 成

年月日

作成者

立 証 趣 旨

備考

甲1-1

「FNNスーパーニュース」(20051130日放送分)映像

2005.11.30

被告

本件ニュース1の内容及び被告が本件ニュース1を放送したこと

CD-Rに収録

甲1-2-①~⑰

甲1の1の静止画(抜粋)

同上

同上

同上

甲1-3

甲1の1の反訳

-

2006.3

原告

本件ニュース1の内容

甲2-1

「めざましテレビ」(2005121日午前538分ころより放送分)映像

2005.12.1

被告

本件ニュース2の内容及び被告が本件ニュース2を放送したこと

CD-Rに収録

甲2-2-①,

甲2の1の静止画(抜粋)

2005.12.1

同上

同上

甲2-3

甲2の1の反訳

2006.3

原告

本件ニュース2の内容

甲3-1

「めざましテレビ」(2005121日午前78分ころより放送分)映像

2005.12.1

被告

本件ニュース3の内容及び被告が本件ニュース3を放映したこと

CD-Rに収録

甲3-2-①~③

甲3の1の静止画(抜粋)

同上

同上

同上

甲3-3

甲3の1の反訳

2006.3

原告

本件ニュース3の内容

甲4-1

「とくダネ!」(2005121日放送分)映像

2005.12.1

被告

本件ニュース4の内容及び本件ニュースを被告が放送したこと

CD-Rに収録

甲4-2-①,

甲4の1の静止画(抜粋)

同上

同上

同上

甲4-3

甲4の1の反訳

2006.3

原告

本件ニュース4の内容

以  上

甲第1号証の3  

2005年11月30日放送 「FNNスーパーニュース」

6:01pm

(西山喜久恵アナウンサー)

「4年前に東京女子医大病院で心臓の手術を受けた当時12歳の少女が死亡した医療過誤事件で、東京地裁は今日、当時の担当医に無罪の判決を言い渡しました。

遺族は先ほど会見を行い怒りを露わにしています。」

(以後、右上に『「過失責任は問えない」東京女子医大元医師「無罪」心臓手術で少女死亡』の表示)

(平栁明香さんの父)

「最初聞いたときは頭の中が真っ白になった。というのが本当にあの場にいての雰囲気でした。」

(女性の声〔西山アナウンサーとは別の姿の見えないアナウンサーの声〕)

「無念の思いを語る遺族。現職の医師が逮捕され医療界に衝撃をもたらした東京女子医大の医療過誤事件。

(原告が裁判所内と思われる場所を歩いている映像と「佐藤一樹被告(42)」の文字)

この事件で業務上過失致死に問われていた佐藤一樹被告に対する判決が今日午後言い渡されました。

6:02pm(裁判官等法廷の映像)

東京地裁が言い渡した判決、それは無罪。その理由として、人工心肺の構造に問題があったことを指摘。事故を予見することが出来たとは認められず、過失責任を問うことはできないというものでした。事故が起きたのは2001年3月。当時12歳だった平栁明香さんが、東京女子医大病院で心臓手術を受け、その3日後に死亡したのです。

(上記の原告が歩いている映像)

佐藤被告はこの手術で人工心肺装置の操作を担当しており、ポンプの回転数を不適切に上げるなどして血液の循環を悪くさせ、脳障害で死亡させたとして起訴されていました。

(原告が他の医師と並んで座っている静止画「当初罪を認め遺族に謝罪し示談が成立」の表示)

佐藤被告は当初は罪を認めて遺族に謝罪し、示談が成立。

(原告のアップの静止画「法廷では一転して過失を否定」の表示)

6:03pm

しかし法廷では、一転して過失を否定してきました。立証の難しい医療過誤で医師が逮捕されることは極めて異例であり、当時、高度な医療を行う特定機能病院に承認されていた東京女子医大は、この事件でその承認を取り消されています。また、この事故では手術後にカルテを改竄したとして証拠隠滅罪に問われた医師には、懲役1年執行猶予3年の有罪判決が言い渡されています。

(原告のアップの静止画)

何故改竄した医師が有罪になり、

(原告が他の医師と並んで座っている静止画)

機器を操作した佐藤被告が無罪となったのでしょうか。」

(西田研司弁護士と電話している様子)

(「様々な危険を回避する義務があるがそれを放置し」の表示)

「いろんなあの危険を回避する義務というのはやっぱりあると思うのですね。

(「おこたって未熟な医師に扱わせた」の表示)

それを放置してまああのそういうことを怠ってですね。未熟な医師にあの二重三重にそういうことが起こらないようにあの予防体制を取りながら本当はやるべきだったでしょうと・・・。」

6:04pm

(女性の声)

「判決の後、明香さんの両親は40分にもおよぶ会見を行いました。」

(平栁明香さんの父)

「非常に医師に対して甘い判決だなあと思って、本当にがっかりしています。」

甲第2号証の3  

2005年12月1日放送 「めざましテレビ」

5:38am

(女性キャスター)

(原告の写真の下に「医師“無罪”」の表示)

「事故は予期出来なかったとして元医師に無罪を言い渡しました。

(真ん中下の方に「東京女子医大医療過誤事件 元医師に無罪判決」の表示)

東京女子医大病院で2001年心臓手術を受けた当時12歳の平栁明香ちゃんが死亡した事故で、

(原告が裁判所内と思われる場所を歩行している映像)

業務上過失致死罪に問われた元医師の佐藤一樹被告に対して、東京地方裁判所は無罪を言い渡しました。」

(原告)

(原告の映像の左に「佐藤一樹元医師」の表示)(以後右上に「東京女子医大医療過誤事件 元医師に無罪判決」の表示)

「ほとんど不安なく無罪だと思っていました。」

(平栁明香さん父)

「最初聞いたときは頭の中が真っ白になった。非常に医師に対して甘い判決だなあと思って、」

(女性の声)

「東京地裁は判決の理由として、客観的にみて人工心肺の構造には問題があったと指摘した上で、被告が事故を予見することは出来なかった等としています。」

5:39am

(男性キャスター)

「そうすると構造的には問題のあった人工心肺を何故使わせたのかという問題が残りますよね。」

甲第3号証の3  

2005年12月1日放送 「めざましテレビ」

7:08am

(男性の声)

「医療事故の元医師に無罪判決。

(真ん中下の方に「東京女子医大医療過誤事件 元医師に無罪判決」の表示)

東京女子医大病院で2001年心臓手術を受けた当時12歳の平柳明香さんが死亡した事件で、業務上過失致死罪に問われた

(原告が裁判所内と思われる場所を歩行している映像)

元医師の佐藤一樹被告に対して東京地方裁判所は無罪を言い渡しました。」

(原告)

(原告の映像の右に「佐藤一樹元医師」の表示)(以後右上に「東京女子医大医療過誤事件 元医師に無罪判決」の表示)

「ほとんど不安無く無罪だと思っていました。」

(平栁明香さん父)

「最初聞いたときは頭の中が真っ白になった。非常に医師に対して甘い判決だなあと思って、」

(男性の声)

「東京地裁は、判決の理由として、客観的にみて人工心肺の構造には問題があったと指摘した上で、被告が事故を予見することは出来なかった等としています。」

(男性キャスター)

7:09am

「相変わらず医療事故に対する刑事責任の追及の難しさを物語っています。

(以後右下に「東京女子医大医療過誤事件 元医師に無罪判決」の表示)

人工心肺装置そのものに欠陥があったのではないかという指摘ですけれども、ではそれを使った病院側の責任もないのかということも余地が残されていますよね。」

甲第4号証の3  

2005年12月1日 「とくダネ!」

8:52am

(男性キャスター)

「この医療ミス問題はインサイドウオッチでもとりあげました。判決が下ったのですが。」

(平栁明香さん父)

「最初聞いたときは頭の中が真っ白になった。」

(男性キャスター)

(右上に「手術で女児死亡 責任誰に 医師無罪」の表示)

「昨日東京地裁でくだされた判決。平栁明香さん当時12歳。明香さんの心臓には生まれつき孔が開いていました。

8:53am

中学入学を目前に控えた明香さんは簡単な手術だから入学前にと手術を受ける決心をしたのです。」

(女性の声)

「死ぬことはないよね。」

(男性キャスター)

「手術するには心臓を一時的に止めなくてはなりません。この日明香さんは人工心肺装置を使用しました。人工心肺装置とは全身から心臓に戻る血液等をポンプで吸い取り、一旦貯めて再び体内に戻すという装置です。しかし、手術中にこの装置にトラブル発生。手術室がパニックになりました。明香さんは手術後一度も意識を取り戻すことなく3日後に死亡。両親は医療過誤があったとして手術を担当した医師ら5人を刑事告訴しました。」

8:54am

(平栁明香さん父)

「家族の怒りっていうのが、簡単にいうと死んでしまったものは、帰ってこないんだと。その悲しみはあるけれども、そのいっそう腹が立つことはそれを隠したり嘘を言い続けようとする人達の方が、もっと腹が立ち、まあ、罰せられていいのではないかと思っております。」

(男性キャスター)

(原告が裁判所内と思われる場所を歩行している映像)

「そして、執刀医と人工心肺装置を操作していた医師二人が逮捕。

(一旦女子医大の映像)

さらに東京女子医大は特定機能病院の承認を取り消されるという異例の事態へと発展したのです。

(原告が裁判所内と思われる場所を歩行している映像)

裁判の焦点は、手術で人工心肺装置の操作を担当し業務上過失致死罪を問われていた佐藤一樹被告が装置の不具合を予見できたかどうかでした。その判決は。」

8:55am

(別の男性の声)

「被告人は無罪。開発者でもない医師が、装置の危険性について気づかなかったとしても責めるのは酷。」

(男性キャスター)

「判決は、人工心肺装置そのものに事故の危険性があり、佐藤被告の責任は問えないというものでした。」

(原告)

(「佐藤一樹医師(42)」の表示)

「最初から無罪とは思っておりました。」

(男性キャスター)

「一方、明香さんの両親は判決後やりきれない思いを語りました。」

(平栁明香さん母)

「人工心肺の機械は勝手に動いているわけではありませんし、自然に出てきたものではない、作った人がいるし、それを操作していた人間がいるわけで、その人達に何の過失も問えないかという・・・。」

(平栁明香さん父)

「医療裁判というのは難しいでしょうけど、あの、やはり、失ったものが家族側にある以上そのへんを配慮した判決が欲しいと思いますね。」

8:56am

(男性キャスター)

「この医療事故によりまして逮捕された二人の医師の判決は割れました。執刀医。責任をもって手術を行っていました。有罪です。そして、実際に操作ミスをしたのではないかといわれていた人工心肺装置を操作していた医師は無罪でした。何故割れたのか。罪を見ますとはっきりします。実は、執刀医は証拠隠滅罪を問われていました。カルテの改竄をおこなっていたのですね。これ装置がおかしくなって女の子が亡くなってしまった。このことを隠そうとしたことで有罪になっています。一方、佐藤元医師に関しましては、被告に関しましては業務上過失致死罪で今回は無罪。なぜならば、操作ミスという訴えでしたが、判決は装置自体の不具合と考えられて、そのことをあらかじめ佐藤被告は予見できたとは言えないだろう。なぜならば、こちらです。死亡の原因となった人工心肺装置の不具合は当時認識されていなかったので、しかたがないということなのですね。」

8:57am

(男性キャスター 2)

「人工心肺装置が止まったら命にかかわることは誰でもわかるわけですけども、ただ、それが突然不具合を生じても手のほどこしようがなかったとうことなのですよね。今回の例はね。」

(コメンテイター)

「そうですね。結局操作ミスではない。操作ミスであるという検察側の主張は覆されてしまったとうことなんですね。ただ、無罪判決は下ったものの、判決の中で裁判長は、こうした危険な人工心肺装置を使っていた東京医大の管理責任というものは問われることはあると。失礼、女子医大の責任は重いというような内容のことをですね、触れているんですね。言及している。ただ、この点を追及しようにも、検察側が、そこを焦点をあてて裁判を行ったわけではないですし、それから、また、民事の方も、既に、実は、和解が成立しゃっているので、この問題責任の持って行きようがないですね。そこはちょっとやりきれないところです。」

(男性キャスター)

「結局はこの心肺装置の不具合があったら大変な問題じゃないですか。でも当時そのことは認識されていなかったと言われたら、じゃ、どこに怒りをもっていけばいいんですかというのが、遺族の皆さんの気持ちなんですね。」

(男性キャスター 2)

「車だったらリコールというのがあるけでもね。それが亡くなってしまっちゃったわけですからね。」

以上

被告 答弁書

平成18517

東京地方裁判所民事第6部合議B係御中

100-●●●●東京都千代田区●●町●丁目●番●号

弁護士法人●●●●法律事務所(送達場所)

電話

FAX

被告訴訟代理人弁護士●● ●

同●●●● 

同●●●●

同●●●●●

(担当)●●●●

上記当事者間の御庁頭書事件にっいて,原告から提出された2006(平成18)322日付訴状に対し,被告は下記のとおり答弁する。

1請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する

2 訴訟費用は原告の負担とする

との判決を求める。

2請求の原因に対する認否

1 請求原因1の事実は,認める。

2 同2の事実のうち,本件ニュース1ないし4で放映された本件映像が「いずれも東京地方裁判所の所内と考えられる場所を原告が歩いている場面を映した映像」とする点は否認し,その余は認める。本件映像は,平成149251847分ころ,保釈された原告が東京拘置所から出てくる場面を映した映像である。

3 同3(1)ないし(6)の事実は否認ないし争う。

4 同4は争う。

5 同5(1)の事実は否認する。

5(2)及び(3)の事実は不知ないし争う。

6 同6は争う。

3被告の主張

1 名誉段損について

(1)原告は,本件ニュース1ないし4(以下,総称して「本件放送」という。),一般視聴者に対し,「専門性を有するべき医師が,未熟であったために手術中のミスによって本件患者を死亡させたという印象を生じさせるものであり,原告の社会的評価を低下させる」(訴状6)と主張する。

2 しかし,本件放送は,一般視聴者に対し,原告が主張するような印象を生じさせるものではなく,原告の社会的評価を低下させてはいない。

(2)そもそも,本件放送は,業務上過失致死罪に問われていた原告に無罪が言い渡されたことを一般視聴者に伝えるものである。被告は,本件放送において,原告が無罪となったという結果のみを報道したのではなく,原告には事故の予見可能性がなかったという判決理由についても報道している。しかも,被告は,本件放送において,原告が無罪判決となったことに対する批判は行っていない。本件放送によって,一般視聴者は,原告は業務上過失致死罪に問われて起訴されたが,裁判所は予見可能性なしと判断して原告を無罪とした事実を知ることとなる。したがって,捜査段階の報道や起訴された事実の報道等によって低下していた原告の社会的評価は,本件放送によって回復している。少なくとも,原告の社会的評価が,本件放送がなされる前の状態よりも低下していることはない。

(3)原告は,本件放送が無罪報道であることを正しく理解せず,本件ニュース1で使用された「未熟な医師」という言葉や,本件放送において原告を「元医師」としている点などを問題視している。しかし,r未熟な医師」という言葉について言えば,西田弁護士の「未熟な医師にあの二重三重にそういうことが起こらないようにあの予防体制を取りながら本当はやるべきだったでしょうと…。」というコメント中で使用されている言葉であり(甲第1号証の3),東京女子医大病院の管理体制に問題があることを指摘する文脈で使用されていることが明らかである。従って,そのような文脈を超えて,原告が主張するように,「原告には予見可能性があり,本来であれば有罪になるべきである」との印象を一般視聴者に与えるものではない。

また,被告が,原告を「元医師」としたのは,「事故当時は東京女子医大病院の医師であったが,現在は東京女子医大病院の医師ではない」との趣旨であるところ,仮にこの表現が「現在医師ではない」との印象を与えたとしても,原告が主張するように,「本件事故の責任をとって,原告は,自ら医師を辞めたか,あるいはへ医師を辞めさせられ」たとの印象を一般視聴者に与えるものではない。

2 肖像権侵害について

(1)原告は,本件映像が,原告の承諾なしに,本来撮影の認められない場所で原告の容ぼうを隠し撮りしたものであるとして,みだりに原告の容ぼうを撮影かつ公表したものであるから,原告の肖像権を侵害すると主張する。しかし,本件映像は,本来撮影の認められない場所で隠し撮りされたものではない。また,本件映像の撮影当時,原告は撮影されていることを知りながら,撮影されることに異議を述べなかった。

(2)本件映像は,被告の報道スタッフにより,平成149251847分ころ,東京拘置所付近路上において撮影されたものである。このことは,「面会受付」という文字や警備員の姿が映像に含まれていることからも明らかである(甲第1号証の2の⑨ほか)。また,本件映像は,日没後周囲が暗くなった状況下で,原告に対し照明をあてつつ撮影されたものである。つまり,本件映像は,公道上において,原告が撮影を明確に認識しうる方法で撮影されたのであって,およそ隠し撮りの類にはあたらない。しかも,照明をあてるなどして,原告が明確に認識しうる方法で撮影が行われているにも関わらず,原告は,被告の報道スタッフに対して,特段異議を述べることもなく,被告報道スタッフの前を横切り,そのままタクシーに乗り込んだ。

(3)したがって,本件映像は,原告の主張するような,「原告の承諾なしに,本来撮影の認められない場所で原告の容ぼうを隠し撮りしたもの」ではなく,原告の肖像権を侵害するものでもない。

附属書類

1 訴訟委任状     1

原告 準備書面(1)

200667

東京地方裁判所民事第6部合議B係御中

原 告 佐藤一樹

 答弁書に記載された被告の主張に対する原告の反論及び求釈明は以下のとおりである。

第1 被告の主張に対する原告の反論

1 無罪報道と名誉毀損の成否の基準

       被告は, 本件ニュースが原告の社会的評価を低下させているという点を争い、「本件放送において、原告が無罪判決となったことに対する批判は行っていない」、「原告は,本件放送が無罪報道であることを正しく理解せず」等と主張する(答弁書3頁)。

        しかし、抽象的に本件放送が「無罪報道」であるか否かを議論することは,無意味である。重要なことは、どのような視点から無罪報道を行ったか、また、報道に際して、具体的にどのような表現を用いたかである。

       そのような観点からみた場合、本件ニュースによる原告の社会的評価の低下は、すでに訴状で記載したとおり明らかであるが、以下、若干の補足をする。

(ア)無罪報道への批判的視点

 本件ニュースが、無罪報道に対して批判的視点で描かれていることは明らかである。この点を本件ニュース1に即して述べる。

 本件ニュース1は、冒頭において東京地裁が無罪の判決を言渡したことを簡単に告げた後、すぐに遺族のナレーションを紹介するとともに、そのことについて、「遺族は先ほど会見を行い怒りを露わにしています」「無念の思いを語る遺族」とコメントしている。

 その後、本件ニュース1は、「当初罪を認め遺族に謝罪し示談が成立」というテロップを流すとともに、音声でも「佐藤被告は当初は罪を認めて遺族に謝罪し、示談が成立」と紹介し、「しかし法廷では、一転して過失を否定してきました。立証の難しい医療過誤...」と伝えて、原告が態度を変えたことを前提に(なお、そのこと自体誤りであるが、その点は真実性・相当性に関する被告の主張を待って述べる)、そのことに批判的ニュアンスをこめている。さらに、「何故改竄した医師が有罪になり、機器を操作した佐藤被告が無罪になったのでしょうか」という疑問を投げかけ、「様々な危険を回避する義務があるがそれを放置し」、「おこたって未熟な医師に扱わせた」というテロップを流し、弁護士のコメントとしても、「未熟な医師に...」と言わせている。そこでは、なぜ原告が無罪になったかについて明確な答えは示されていないのであって、本件ニュース1を見た一般視聴者は、原告が無罪になったことについての疑問は解消されないものと受け取る。

 そして、本件ニュース1は、最後に「判決の後、明香さんの両親は40分にもおよぶ会見を行いました。」と紹介し、本件患者の父親による「非常に医師に対して甘い判決だなあと思って、本当にがっかりしています。」というコメントで締めくくられている。

 このように、本件ニュース1では、取材した弁護士や本件患者遺族の口を通じて、無罪判決が医師に対して甘いものであり、本来は危険を回避する義務があるのに、それができなかった未熟な医師を無罪にしたという批判的視点に立っていることが明らかである。さらに、取り上げ方としても、他の報道機関では、無罪判決を受けて記者会見をした遺族と、同様に記者会見をした原告とを並列的に扱っているのに対し、本件ニュースでは、原告の記者会見の模様は一切用いず、過去の映像のみを用いている。そして、ニュースの最初と最後に、判決に批判的な遺族のコメントで構成しているのであるから、これを見た一般的な視聴者も、本件ニュースが判決に批判的であることを容易に理解するものである。

(イ)   未熟な医師

        被告は, 「1名誉毀損について」(3)で,「『未熟な医師』という言葉について言えば,西田弁護士の『未熟な医師にあの二重三重にそういうことが起こらないようにあの予防体制を取りながら本当はやるべきだったでしょうと。』というコメント中で使用されている言葉であり (甲第1号証の3 ) 東京女子医大病院の管理体制に問題があることを指摘する文脈で使用されていることが明らかである』と主張する。

        (テレビジョン放送による報道に関する最高裁平成151016日第一小法廷判決・民集5791075)「テレビジョン放送をされた報道番組において,その内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべきである。そして,新聞記事等の場合とは異なり,視聴者は,音声及び映像により次々と提供される情報を瞬時に理解することを余儀なくされるのであり,録画等の特別の方法を講じない限り,提供された情報の意味内容を十分に検討したり,再確認したりすることができないものであることからすると,当該報道番組により摘示された事実がどのようなものであるかという点については,当該報道番組の全体的な構成,これに登場した者の発言の内容や,画面に表示されたフリップやテロップ等の文字情報の内容を重視すべきことはもとより,映像の内容,効果音,ナレーション等の映像及び音声に係る情報の内容並びに放送内容全体から受ける印象等を総合的に考慮して,判断すべきである」こと鑑みれば、原告を「未熟な医師」と断言しそのことを前提としている西田弁護士のコメントを含む放送は名誉を毀損する。

       西田弁護士のコメントの直前には,原告のアップの静止画とともに「何故改竄した医師が有罪になり,機器を操作した佐藤被告が無罪となったのでしょうか。」というナレーションによる問いが放送されている。これに対する答えを西田弁護士に求める構成となっている。被告の言葉を借りれば,原告の「無罪判決」報道において,話題は「原告が無罪となった理由」になっている。したがって,原告についての放送が中心となっているところに突然「東京女子医大病院の管理体制について問題」が持ち出されるはずがない。また,西田弁護士のコメントには「東京女子医大病院」や「管理体制」という言葉は存在しない。したがって,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方では,東京女子医大病院の管理体制に問題があることを指摘」していると理解することはできない。

        さらに,「未熟な医師」発言の直前には,「いろんな危険を回避する義務というのはやっぱりあると思うのですね。」のインタビューが存在し,この一連の文脈からは,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方でからすれば,「危険回避義務があるのに、それを怠ったのは原告である。」と理解される。

       いずれにせよ、この文脈において、「未熟な医師」イコール「原告」を意味していることは明らかであり、かつ、原告が「未熟な医師」であること、危険回避義務を怠ったということは断言されている。

       以上より,被告の主張は誤りである。

(ウ)   元医師

        被告は, 「1名誉毀損について」(3)で,「被告が,原告を『元医師』としたのは,『事故当時は東京女子医大病院の医師であったが,現在は東京女子医大病院の医師ではない』との趣旨である」と主張する。

        報道機関が正しい日本語文法を用いて,上記のような事実の趣旨を一般視聴者に伝えるためには,「元東京女子医大医師」「元女子医大医師」等,あるいは役職を使用して「東京女子医大元助手」「女子医大元助手」等とするのが,通常である。現代国語の教科書を紐解くまでもなく,普通名詞「医師」の直前に接頭語「元」を伴った「元医師」という日本語は,「以前は医師であったが現在は医師ではない人」を指す。

        上記のような「元東京女子医大医師」「東京女子医大元助手」等の放送を一切せずに,「元医師」と放送すれば,一般視聴者は,本件ニュースが放送された当時の原告が「元医師」であると理解することは明らかである。原告は,医師免許を取得し医師となってから,医師免許を失ったことは一回もない。また,本件ニュースが放送された20051130日の午前中も現役の医師として診療を行い,同年12月1日には,終日診療を行った。したがって,20051130日および,同年12月1日に原告を繰り返し「元医師」と放送した本件ニュースは誤りであり,放送による被害は甚大である。

(エ)   現在は医師でない理由

        被告は, 「1名誉毀損について」(3)において仮にこの表現が「現在医師ではない」との印象を与えたとしても,原告が主張するように,「本件事故の責任をとって,原告は,自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられ」たとの印象を一般視聴者に与えるものではない。」と主張する。

        国家資格を要する専門職,特に医師として就業していた人物が,医師ではなくなり「元医師」となることは例外的である。特に本件ニュース放送当時の原告の年齢である42歳以前であれば,極めて稀である。一般視聴者が,「4年前の本件手術において医師として診療していた原告が,42歳の現在医師ではない」という印象を持てば,「本件手術後から判決までの間に何らかの誘因があり,『自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられ』たという印象を持つ」ことは自然なことである。

        また,原告がこの本件手術後から判決までに,「診療を続けられないほど健康を損なった」とか,「転職して自ら医師を辞めた」とか,「行政処分を受けて医師免許を剥奪された」といった事実もその報道も存在しない。したがって一般視聴者は,上記②の「本件手術後から判決までの間の何らかの誘因」は,「本件事件に関連している」以外には考えられないのであり,本件ニュースは「本件事故の責任をとって,原告は,自ら医師を辞めたか,あるいは医師を辞めさせられ」たとの印象を一般視聴者に与えることは明らかである。

(オ)以上のとおり、無罪判決に批判的視点に立った本件ニュースの全体的なトーン、その文脈における「未熟な医師」、「元医師」といった具体的な表現などに照らすならば、本件ニュースが原告の社会的地位を低下させることは明らかである。

2. 答弁書 第3,「2肖像権の侵害について」

(ア)   映像の撮影日時,場所

        被告は答弁書 第2の2において,原告が「いずれも東京地方裁判所の所内と考えられる場所を原告が歩いている場面を映した映像」は,「平成149251847分ころ,保釈された原告が東京拘置所から出てくる場面を映した映像」ということを前提として,本件放送が隠し撮りしたものではないと主張する。

        しかし、詳しくは後記求釈明に対する釈明を待って主張するが、本件映像が、原告が東京拘置所を出た後の公道を歩いている場面のみを撮影したものとは思われない。また、仮に本件映像が,被告の指摘した日時場所であったとしても,被告が原告の肖像権を侵害したことに変わりはない。

(イ)   撮影に対する異議

        被告は,「原告が,撮影されていることを知りながら,撮影されることに異議を述べなかった」「照明をあてるなどして,原告が明確に認識しうる方法で撮影が行われているにも関わらず,原告は,被告の報道スタッフに対して,特段異議を述べることもなく, 被告報道スタッフの前を横切り,そのままタクシーに乗り込んだ」という記載している。

        この記載が仮に,事実だとしても,それによって,何を主張しようとしているかは判然としない。原告の承諾なしに,原告が望まない場所での映像を撮影し,それを報道したことは事実である。

        また,仮に本件映像が,被告の指摘した日時場所であったとしても,打ちっ放しの壁を背景に,拘置所の職員と伴に撮影されること(原告が身柄拘束機関の管理下にあるかの印象を与える)を原告が望まなかった。

(ウ)   原告記者会見後の放送

        原告は,20041130日の無罪判決の当日,「東京高裁内 司法記者会」の要請により記者会見を行った。この記者会見は,「午後6時頃からの各テレビ局の放送に間に合うように」と同記者会幹事社に依頼されたため,午後6時の放送までに充分に余裕がある午後4時30分ころから行われた。

        したがって、被告を含めた記者会に属するテレビ局は、午後6時の時点で、無罪判決後の原告の記者会見の映像を入手していた。現に、原告が知る限り,同日午後6時以降に,被告を除くNHKと民放各社が放送した原告の映像は,記者会見中のものだけである。

        本件ニュース報道の違法性は、「個人の肖像写真の撮影及び出版物への掲載により人格的利益が侵害された場合の違法性の判断においては,表現,報道の自由との適正な調整を図る必要があり,当該写真の撮影及びその掲載が,公共の利害に関する事実の報道に必要な手段として公益を図る目的のもとに行われたものか否か,仮にそうだとしても,当該写真の内容,撮影手段及び方法が右報道目的からみて必要性・相当性を有するか否か,という観点から検討しなければならない。」(東京地方裁判所判決/昭和61年(ワ)第13809号 平成元年6月23日)から判断すれば明らかである。

        原告の無罪を報道する目的であれば、無罪となった後の原告の映像は、「原告がその撮影と報道を承諾した映像」であり、「公共の利害に関する事実の報道に必要な手段として公益を図る目的のもとに行われ」たものである。

        しかしながら、この放送の目的によれば、原告の初公判時の映像や、保釈時の映像には、その公共性、公益性はない。また、本件映像が「内容,撮影手段及び方法が右報道目的からみて必要性・相当性」がないことは明らかである。

(エ)   38歳時の映像

        本件映像では,映像とともに「佐藤一樹被告 (42)というテロップが放送された。(甲第1号証の2の①,2の②,2の③,2の④,2の⑥)

        本件映像が放送された20051130日無罪判決時において,原告は42歳である。本件映像が,第一回公判(2002918日:要確認)時に撮影したものであるとしても,保釈時(2002925日)に撮影したものであるとしても、原告はなお,本件映像の撮影時に原告38歳であった。

        したがって、38歳時の原告の映像を放送しながら、「佐藤一樹被告 (42)という誤ったテロップを流していることは、本来報道する正当性や必要性がまったく認められない4年も前の過去の映像を、わざわざ倉庫等から持ち出してきて流したこと、本件映像利用の相当性の欠如を端的に示している。

第2 求釈明

1.撮影場所の詳細について

 被告は、「本件映像は、...東京拘置所付近路上において撮影されたものである」と主張する(答弁書4頁)。しかし、原告は、保釈の際、東京拘置所出口の直近の路上にタクシーを呼んでおき、すぐにタクシーに乗り込んだ。したがって、一定の距離を単独で移動している原告の姿を映している本件映像は、仮に本件映像が被告主張どおり東京拘置所のシーンであるとすれば、東京拘置所附近の公道を歩いている場面ではなく、拘置所内部を歩く原告の姿を映したものと考えられる。そこで、被告に対し、東京拘置所附近のどの地点にカメラを設置し、どの部分を歩く原告の姿を撮影したのかを現場の見取り図等を用いて明らかにすることを求める。あわせて、本件映像の前後の映像(放送しなかった分を含む編集前のもの)を提出するよう求める。

. 「捜査段階のフジテレビの報道や起訴された事実のフジテレビ報道」の録画提出

 被告は,答弁書「1名誉毀損について」(2)において,「捜査段階の報道や起訴された事実の報道等によって低下していた原告の社会的評価は,本件放送によって回復している。少なくとも,原告の社会的評価が, 本件放送がなされる前の状態よりも低下していることはない。」と主張している。しかし、原告は、被告フジテレビによる「捜査段階の報道や起訴された事実の報道等」を見たことがない。そこで、この点について原告として判断・反論するために,被告フジテレビが,

A.捜査段階における原告について

B.起訴された後の原告について

いかなる報道を行ったのかを明らかにすることを求めるとともに、それらを報じた下記①ないし⑥の放送の記録を証拠として提出することを求める。

            ① FNNスーパーニュース

            ② ニュースJAPAN

            「めざましテレビ」の午前五時台の放送

            ④「めざましテレビ」の午前七時台の放送

            ⑤「とくダネ!」

            ⑥ 上記①ないし⑤以外の全ての報道番組

. 西田弁護士のコメント

           被告は、西田弁護士のコメントが、「東京女子医大病院の管理体制に問題があることを指摘する文脈で使用されていることが明らかである」と主張する。そのようには考えられないが、西田弁護士のコメントが、いかなる質問に対する回答としてなされたものであるのかを証拠とともに明らかにされたい。

以 上

被告 準備書面(1)

平成18年8月22

東京地方裁判所民事第6部合議B係御中

被告訴訟代理人弁護士  ● ●  ● 

同           

同           

    同        ● ● ●●●

 同(担当)     ● ● ● ●

上記当事者間の御庁頭書事件について,被告は,下記の通り弁論を準備する。

1名誉段損について

1本件放送の性格

(1) 原告は,「抽象的に本件放送が「無罪報道」であるか否かを議論することは無意味である。重要なことは、どのような視点から無罪報道を行ったか,また,報道に際して,具体的にどのような表現を用いたかである。」とし,「そのような観点からみた場合,本件ニュースによる原告の社会的評価の低下は,すでに訴状で記載したとおり明らかである」と主張する(平成1867日付原告準備書面12)

しかし,答弁書において既に主張したとおり,被告は,本件放送において,原告が無罪となったという結果のみを報道したのではなく,原告には事故の予見可能性がなかったという判決理由についても報道しており,しかも,無罪判決に対する批判は行っていない(答弁書3)。被告は,これらの点も踏まえ,本件放送の性格を明らかにする趣旨で「無罪報道」と述べたのであり,抽象的な議論をする意図で本件放送を「無罪報道」と表現しているわけではない。

(2) 本件放送は,一般視聴者が高い関心を抱いていた東京女子医大の医療事件の帰趨について報道するものであり,原告に対し無罪が言い渡された事実を視聴者に伝えることを目的とするものである。一般視聴者は,本件放送により裁判所による証拠に基づく緻密な審理を経た結果,起訴事実が認定できなかったことを明確に知ることができる。

しかも,本件放送は,無罪という結果のみを報道しただけではなく,原告に事故の予見可能性が認められなかったという同判決の判決理由をも明確に伝えている。具体的には,本件ニュース1では「その理由として,人工心肺の構造に問題があったことを指摘。事故を予見することが出来たとは認められず,過失責任を問うことはできないというものでした」(甲第1号証の3)と報じ,本件ニュース2及び本件ニュース3では,「東京地裁は判決の理由として,客観的に見て人工心肺の構造には問題があったと指摘した上で,被告が事故を予見することは出来なかった等としています。」(甲第2号証の3,3号証の3)と報じ,本件ニュース4では「被告人は,無罪。開発者でもない医師が,装置の危険性について気づかなかったとしても責めるのは酷。」,「判決は,人工心肺装置そのものに事故の危険性があり,佐藤被告の責任は問えないというものでした。」(甲第4号証の3)と報じており,いずれも判決理由を明確に伝えている。一般視聴者は,本件放送により,裁判所が「人工心肺装置の構造に問題があり,原告に事故の予見可能性がない」と判断したこと明確に知ることができる。さらに,本件放送は,無罪判決に対する批判(例えば,証拠評価など事実認定に問題があるとか,論理的な矛盾があるとかの批判)を行っていない。具体的理由や具体的証拠を挙げて,無罪判決の不当性を指摘しているのであれば,原告は本来有罪とされるべきではないかとの印象を一般視聴者が抱くことも考えられる。しかし,本件放送は,そのような批判を行っていないのであるから,一般視聴者が,原告は本来有罪とされるべきではないかとの印象を抱くことは考えられない。

(3) 以上,一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準とした場合,本件放送は,一般視聴者に対し,原告に過失はなく,原告に刑事責任はなかったという印象を明確に与える。

2原告の主張とそれに対する反論

(1)本件放送の構成と被告の報道姿勢

ア 原告は,本件ニュース1について,無罪報道に対し批判的視点で描かれていると述べ,本件ニュース1の構成について縷々述べている(平成1867日付原告準備書面2)。しかし,本件ニュース1,無罪報道に対する批判的視点から構成されたものでは断じてない。

 イ 被告は、本件ニュース1において、まず、東京女子医大医療事件(以下「本件事件」という。) について,原告に対し無罪判決が言い渡されたことを報じる。次に,被告は,同判決を受けて行われた遺族の記者会見の模様について報じ,事件の簡単な説明と無罪判決の判決理由について明確に説明する。

その後,被告は,本件事件の事実経過について紹介した後,「立証の難しい医療過誤で医師が逮捕されることは極めて異例であり,当時,高度な医療を行う特定機能病院に承認されていた東京女子医大は,」のくだりから,本件事件全体についての言及を始める。

そして,被告は,本件事件の帰趨として,東京女子医大が特定機能病院の承認を取り消されたこと,証拠隠滅罪に問われた医師に有罪判決言い渡されたことを伝え,「何故改窟した医師が有罪になり,機器を操作した佐藤被告が無罪となったのでしょうか」と事件全体の結末についての問いかけをなした後,東京女子医大は二重三重に予防体制を敷いておくべきであったとする専門家(弁護士)の分析を紹介し,最後に遺族の記者会見での発言を報じている(甲第1号証の3)

ウ かかる構成からも明らかなように,被告は,本件ニュース1において,原告に対し無罪判決が下されたとの情報をいち早く一般視聴者に伝えることを目的としつつも,放送時問という制約の下,本件事件全体の帰趨や専門家の分析等,なるべく多くの情報を一般視聴者に伝え,病院の管理体制に対する問題提起を試みているのであって,一般視聴者に対し判決に対する批判的メッセージを伝えることを目的としているわけではない。

仮に,原告の主張するが如く,被告が判決に対し批判的である

のであれば,その後の報道においても被告は批判的立場から一貫して報道を行っていてしかるべきである。

 しかし,本件ニュース2ないし4を見ても,被告は判決に対し一切批判的な報道をなしてはいない。むしろ,原告の記者会見の模様をも報道しており,原告の主張する公正さにも適う内容となっている(甲第2号証の3,3号証の3,4号証の3)

 原告に対し無罪判決が下されたとの報道を目的としつつ,本件事件全体の帰趨等なるべく多くの情報を一般視聴者に伝えるとともに,原告が無罪となったことを前提として,病院の管理体制につき問題を提起するという被告の報道姿勢は,その後も明確に維持されている。すなわち,被告は,本件ニュース2及び3においては,放送時間が極めて限られていたこともあり,原告に無罪判決が下ったこと及びその判決理由についてのみ報じるにとどまるが,本件ニュース4においては,十分な放送時間をかけ,事件全体の経過や判決の詳細な分析をも言及し,一般視聴者に情報を提供している。また,被告は,本件ニュース2において,「構造的には問題のあった人工心肺を何故使わせたのかという問題が残ります」(甲第2号証の3)と述べ,本件ニュース3においては,「ではそれを使った病院側の責任もないのかということも余地が残されています」(甲第3号証の3)と述べ,本件ニュース4においては,「判決の中で裁判長は,こうした危険な人工心肺装置を使っていた東京女子医大の管理責任というものは問われることはある」(甲第4号証の3)と述べている。このように,一連の本件放送を見れば,被告が判決について批判的立場に立っていないことは明白である。

(2)遺族のコメントについて

       本件ニュース1につき,原告は,まず,ニュースの冒頭と最後に遺族のコメントが紹介されていることをもって,「本件患者遺族の口を通じて,無罪判決が医師に対して甘いものであり,本来は危険を回避する義務があるのに,それができなかった未熟な医師を無罪にしたという批判的視点に立っていることが明らかである」と主張する(平成1867日付原告準備書面3)

しかし,遺族の反応をニュースの冒頭と最後に紹介しているからといって,被告が判決に対し批判的な態度を取っていることにはならない。

そもそも,刑事裁判に関する報道において,犯罪の被害者及びその親族が存在する場合,一般視聴者は,判決の結論及び理由のみならず,「被害者ないしその親族が判決に対しいかなる反応を示したか」,ということにも強い関心を寄せる。とりわけ,本件の如く,まだ年端もいかない少女が医療事故によりその将来を断たれたような場合はそうである。だからこそ,被告は,遺族の反応は非常に報道価値が高いと考え,本件ニュース1の冒頭と最後で紹介したのであって,それ以上の意図はない。「遺族は先ほど会見を行い怒りを露わにしています」,「無念の思いを語る遺族」というコメントも,報道価値の高い遺族の反応を単に描写しているにすぎず,それ以上の意味はない。

  もちろん,被告が,遺族が怒りを露わにしていると報じたり,「非常に医師に対して甘い判決だ」と遺族が発言したことを報じることにより,遺族の無念の思いが一般視聴者に伝わり,遺族に対し一般視聴者が同情を寄せるということはありえよう。また,「遺族はやり場のない思いを抱いている」という印象を一般視聴者が受けることがありうる。

しかし,一般視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準とすれば,遺族の判決に対する発言は,あくまで遺族の立場からの発言であると受け止められるものである。

また,我が国においては,裁判所の裁判は一般的に広く国民から信頼されている。したがって,判決によって不利益を受けた者が判決に対し不満を漏らしたことを報じたとしても,一般視聴者が,そのことだけで判決に疑念を抱くことはない。

  さらに言えば,一般の視聴者が,遺族が不満を漏らしたとの一事をもって,「専門性を有するべき医師が,未熟であったために手術中のミスによって本件患者を死亡させた」という印象を抱くことはありえないのである。

 この点,さらに原告は,「他の報道機関では,無罪判決を受けて記者会見をした遺族と,同様に記者会見をした原告とを並列的に扱っているのに対し,本件ニュース1では原告の記者会見の模様は一切用いず」と述べ,遺族のコメントのみを取り上げた被告の報道を批判している(平成1867日付原告準備書面3)

しかし,本件ニュース1,原告に対し無罪判決が下されたことを冒頭から明確に述べている。無罪判決が下されたということは,原告の言い分が裁判で正式に認められたということなのであるから,無罪判決が下されたという事実を判決理由を明示して報道すれば,原告の記者会見でのコメントを改めて報道せずとも,一般視聴者には原告の言い分が充分伝わる。常に両者の言い分を並列的に取り上げなければ不公平な報道となるというわけではない。

(3)事実経過について

原告は,次に,「「当初罪を認め遺族に謝罪し示談が成立」というテロップを流すとともに,音声でも「佐藤被告は一転して過失を否定してきました。立証の難しい医療過誤・・」と伝えて,原告が態度を変えたことを前提に」,「そのことに批判的ニュアンスを込めている」と主張する(平成1867日付原告準備書面2)

しかし,被告は,一般視聴者にわかりやすいように,取材の結果知りえた本件事件の事実経過を報じたに過ぎない。事実経過について説明するだけでは判決への批判とはなりえない。原告自身,この部分について,批判的「ニュアンス」と主張するのみである。なお,原告は,「佐藤被告は一転して過失を否定してきました。立証の難しい医療過誤・・」という形で本件ニュース1を引用する(平成1867日付原告準備書面2),「立証の難しい医療過誤・・」との説明は,「立証の難しい医療過誤で医師が逮捕されることは極めて異例であり,当時,高度な医療を行う特定機能病院に承認されていた東京女子医大は,この事件でその承認を取り消されています。」という説明の一部である。被告は,立証の難しい医療過誤事件であるから,原告が無罪になったとは一言も述べていない。

(4)未熟な医師との言葉について

 原告は,未熟な医師の点について,「いずれにせよ,この文脈において,「未熟な医師」イコール「原告」を意味していることは明らかであり,かつ,原告が「未熟な医師であること,危険回避義務を怠ったということは断言されている」と主張する(平成1867日付原告準備書面5)

しかし,答弁書にて主張したとおり,「未熟な医師」という言葉はあくまで,東京女子医大病院の管理体制に問題があることを指摘する文脈で使用されている。

西田弁護士のコメントは「いろんなあの危険を回避する義務というのはやっぱりあると思うのですね。それを放置してまああのそういうことを怠ってですね。未熟な医師にあの二重三重にそういうことが起こらないようにあの予防体制をとりながら本当はやるべきだったでしょうと…。」(甲第1号証の3)というものである。

要するに,医療事故というものが起きないように二重三重に予防体制を敷いて危険を回避する義務,,病院側にあったのに,それを放置した,というのが同コメントの内容である。

加えて,テロップにも「様々な危険を回避する義務があるがそれを放置し」,「扱わせた」と表示されており,一般視聴者の普通の注意と視聴の仕方からすれば,言及されている主体が東京女子医大病院であることは容易に理解される。このように,コメントの内容及びテロップを普通にみれば,同弁護士が,東京女子医大の管理体制について言及していることは明快である。

 この点,原告は,「原告についての放送が中心となっているところに突然「東京女子医大病院の管理体制についての問題」が持ち出されるはずがない。」と述べる(平成1867日付原告準備書面4)

しかし、本件ニュース1は、前述のとおり、「立証の難しい医療過誤で医師が逮捕されることは極めて異例であり、当時,高度な医療を行う特定機能病院に承認されていた東京女子医大は,」のくだりから,本件事件全体についての言及が始まっている。そして,本件事件の帰趨として,東京女子医大が承認を取り消されたこと,証拠隠滅罪に問われた医師に有罪判決が言い渡されたことについて言及がなされ,「何故改窟した医師が有罪になり,機器を操作した佐藤被告が無罪となったのでしょうか」と事件全体の結末についての問いかけがなされた後,東京女子医大病院は二重三重に予防体制を敷いておくべきであったとの西田弁護士のコメントが,法律の専門家のコメントとして引用されている。

つまり,上記「東京女子医大は,」のくだりから,放送の中心は原告から本件事件全体に移っている。したがって,東京女子医大病院の管理体制についての問題が持ち出されても違和感はなく,むしろ自然である。

(5)元医師の点について

ア 答弁書にて主張したとおり,被告は,「事故当時は東京女子医大病院の医師であったが,現在は東京女子医大病院の医師ではない」という趣旨で原告を「元医師」としている。

イ 上記は、本件ニュース1において、①冒頭部分で、音声により「東京地裁は今日、当時の担当医に無罪の判決を言い渡しました。」と放送していること(甲第1号証の3)、及び②映像上もテロップ文字で「過失責任は問えない「東京女子医大元医師「無罪」」と放送していること(甲第1号証の2の①~⑰)、から明らかである。一般視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断した場合,一般視聴者は「当時の担当医」という意味で「元医師」と表現しているとの印象を受ける。

 なお、本件ニュース2以降は、単に「元医師」としているが、これは繰り返し使用される言葉を短縮して表現したものであり、その趣旨は本件ニュース1と変わるものではない。

2 肖像権侵害について

1 本件映像が撮影された場所について

本件映像は,平成14925日午後647分ころ,被告報道局のスタッフによって撮影された。

 撮影場所は,東京拘置所南側にある面会差入受付入口に近接した同拘置所の門の外側の公道上である(乙第1号証,2号証)。同スタッフは,原告が同拘置所を出所し,タクシーに乗って立ち去るまでを撮影した。

 このように,同拘置所の門の外側の公道上にて,同拘置所を出所する刑事被告人を撮影することは,世間の耳目を集める刑事裁判の報道において通常行われていることである。

 東京拘置所も,公道上で撮影が行われていることから,このような撮影を禁じておらず,本件映像撮影の際も,同拘置所の衛視は,被告報道局のスタッフに対し,所属している報道機関の名称を尋ねただけで,特段撮影の中止等を申し入れてはいない。

2 肖像権侵害の成否について

(1) 答弁書において既に主張したが,被告報道局スタッフは,本件映像を,日没後周囲が暗くなった状況下で,原告に対し照明をあてつつ撮影した。つまり,原告が撮影を明確に認識しうる方法で撮影が行われたものである。およそ隠し撮りの類にはあたらない。しかも,本件映像を撮影する際,同スタッフは,被告の名称が記載された腕章を着装しており,同スタッフが報道目的で撮影を行っていることは誰の眼にも明らかであった。

 このように,本件映像は,報道目的で撮影が行われていることが明らかな態様で撮影されており,しかも,原告自身その旨明確に認識していたにも関わらず,原告は,手のひらで顔を隠したり, 撮影の中止を申し出る等,撮影について特段異議を述べることもなく,淡々と同スタッフの前を横切り,そのままタクシーに乗り込んだ。

 このような原告の行動からすれば,本件映像の撮影につき原告において黙示的承諾があったと考えざるをえない。

(2) また,原告は当時,世問の耳目を集める東京女子医大医療事件裁判の被告人であったのであって,同裁判に関する事実は公共の利害に関する事実である。したがって,その報道にあたり,仮に原告の明示的承諾がなかったとしても,被告人たる原告の行動を撮影した映像を報道することは許される。この点,殺人容疑で逮捕された被疑者の写真を週刊誌等に掲載したことが,被疑者の肖像権を侵害するか争われた事案において,裁判所は,被疑者の自宅前における歩行中の写真につき,「原告(引用者注:被疑者のこと)B殺害の容疑で逮捕されたことは公共の利害に関する事実であり,その報道にあたり被逮捕者たる原告の写真を掲載することは許されるものであって,しかも,本件においては,右写真は,原告に無断で撮影されたものであるとはいえ,その内容は格別原告に差恥,困惑等の不快感を与えるものではなく,撮影の方法も自宅前を歩行中の原告を屋外から撮影したものと認められるから,被逮捕者たる原告においてもこの程度の写真撮影は受忍すべきであり,したがって,右写真の掲載が違法であるということはできない」と判示している。また,被疑者がアメリカの裁判所に出頭した際の裁判所内における写真につき,同裁判所は,「原告がB殺害の容疑で逮捕され刑事訴追を受けるに至っていたことは公共の利害に関する事実であり,その報道にあたり被逮捕者たる原告の写真を掲載することは許されるものであって,本件において,右写真は,原告に無断で撮影されたものであるとはいえ,その内容は格別原告に差恥,困惑等の不快感を与えるものではなく,撮影の方法も裁判所の許可を得て撮影したものと認められるから(弁論の全趣旨),被逮捕者被訴追者たる原告においてもこの程度の撮影は受任すべきであり,右写真の掲載は違法性を欠くものというべきである」と判示しているものである(東京地判平成6131日判タ856186)

 この判例からも明らかなように,世間の耳目を集める刑事事件の被疑者・被告人においては,その撮影された内容や撮影の方法が相当である限り,自らの容貌を撮影されることは受任するべきであって,撮影をした報道機関において肖像権侵害の不法行為は成立しない。

 したがって,本件においても,被告につき,肖像権侵害に基づく不法行為は成立しない。

 

原告 準   面(2)

2006920日 

東京地方裁判所民事第6部合議B係御中

原 告 佐藤一樹

 準備書面(第1)に記載された被告の主張に対する原告の反論は以下のとおりである。

第1 「名誉毀損」に関する被告の主張に対する原告の反論

 本件放送は、原告が「当初罪を認め遺族に謝罪」していたが裁判では「一転して過失を否定」したという誤った内容を報じるとともに、被告を「未熟な医師」と評し、「元医師」という誤ったナレーションと伴にテロップを付すなどするものであり、その内容において、一般視聴者に対して、専門性を有するべき医師が未熟であっために手術中のミスによって本件患者を死亡させたという印象を生じさせることは明らかである。

 被告は準備書面(第1)において、原告の社会的地位の低下を否定するための反論を縷々述べるが、その主張は事後的な「元医師」の解釈を初めとしてこじ付け的なものが多く、これまでに原告が主張したことに対する有効な反論にはなりえていない。その意味で、基本的に被告の反論に対する再反論の必要はないと考えられるが、念のため以下の点を補足する。

1. 自白に相当する事実の摘示

(ア)   無罪判決への批判的視点

被告は、「本件放送において、原告が無罪となったという結果のみを報道したのではなく、原告には事故の予見可能性がなかったという判決理由についても報道している」と述べるが、「結果と判決理由のみ」を報道したのでもない。被告が、無罪判決への批判的視点に立ち、「佐藤被告(原告)は当初罪を認めて遺族に謝罪し、示談が成立。しかし法廷では、一転して過失を否定してきました。立証の難しい医療過誤で・・」という報道で、真実ではない事実(下線部)を摘示する等して、原告の名誉を毀損したことは、200667日付け原告準備書面(以下、単に「準備書面」) 第1の1の(ア)で既に述べた。 

一般的に、刑事被告人が罪を認め、被害者に謝罪するという行為は、自白に相当する。そのような重要な事実が報道されれば、一般視聴者はそれが、真実だという印象を受ける。さらに、被告人が後に一転して無罪を主張し、無罪判決が言い渡されたとしても、この自白に相当する事実の報道から、本当は、有罪であるとの印象を受ける。さらに、「立証の難しい医療過誤...」と続けば、医療過誤事件は立証が困難なので、医師に否認されたために本来有罪とされるべきところ無罪となったという印象を受けるのは自然なことである。

被告は、平成18822日付け準備書面(第1) 第1の1において「一般視聴者が、原告は本来有罪とされるべきではないかとの印象を抱くことは考えられない。」「一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準とした場合、本件放送は、一般視聴者に対し、原告に過失はなく、原告に刑事責任はなかったという印象を明確に与える」等縷々述べているが、これは客観性を失った主張である。

(イ)   真実性

 原告は、第一回期日2006517日法廷において、既に、被告による真実性・相当性の立証の必要性を口頭で述べ、6月7日付け準備書面では、その該当部分を特定し「(なお、そのことを自体誤りであるが、その点は、真実性・相当性に関する被告の主張を待って述べる)」と明確に記載し、822日まで2ヶ月半の間待機した。しかしながら、被告は、準備書面(第1)では、「取材の結果知りえた本件事件の事実経過」程度の記載があるのみで、何ら真実性と相当性を立証しようとすらしていない。このことは、「裁判の円滑な進行を故意に妨げている」または、「真実性・相当性に関する主張をしない」のいずれか、と受け取れる。前者であれば、被告は早急に真実性・相当性の立証を行うべきであり、後者であれば、裁判所には次回期日から証拠調べを行っていただくことを要望する。

(ウ)  他社報道との比較

なお、原告は、20051130日に放送されたNHK総合、NHK-BS、日本テレビ、TBS、テレビ朝日の報道番組の放送と同日に発信された朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、産経新聞、及び共同通信社が配信する新聞社等のインターネット上のウエッブニュースを可能な限り調べたが、原告が「当初は罪を認めて謝罪したが、法廷では一転して無罪を主張した」旨の報道はなかった。

2. 未熟な医師

(ア)  「未熟な医師」イコール「原告」

被告は、原告の「『未熟な医師』イコール『原告』を意味する」という指摘に対して、「『未熟な医師』という言葉はあくまで、東京女子医大病院の管理体制に問題があることを指摘する文脈で使用されている。」と述べるだけで、否定はしていない。「管理体制」の文言が皆無である放送の該当部分がどのような分脈で事実を摘示したかは置くとしても、西田弁護士が「未熟な医師」と呼ぶ医師が、「原告」以外にいないのは明らかである。このことは、仮に文脈に東京女子医大の管理体制の批判がこめられているとしても、「『未熟な医師』イコール『原告』を意味する」ことと両立するのであるから名誉毀損は成立する。

(イ)  「危険回避義務」を怠ったのは「原告」

原告は、原告準備書面 5頁 第1の1の(イ)④において、「『危険回避義務があるのに,それを怠ったのは原告である。』と理解される。」と主張したが、被告はこのことに関しては、なんら反論していない。すなわち、「危険回避義務」を怠ったのは「原告」であることを認めているのであるから、その直後の発言の「未熟な医師」もイコール「原告」ということになるのは当然である。

3. 元医師

(ア)  「当時の担当医」と「現在の元医師」

 原告は「元医師」の解釈が「以前は医師であったが現在は医師ではない人」以外にあり得ないことを既に充分論じた。これに対し被告は、音声による「当時の担当医」とテロップ文字による「東京女子医大元医師『無罪』」を放送すると一般視聴者が「当時の担当医」という意味で「元医師」と表現している印象を受けると主張する。何の説明もなくそのような印象を受ける視聴者がいるはずがない。

 時間軸に沿い、手術日を「当時」、約49ヶ月後の『無罪判決』の日を「現在」とすれば、「当時は担当医」で、「現在は元医師」という関係になるのであるから、両者は両立し当時の「担当医」が現在では「元医師」と考えるのが自然である。

 また、冒頭から次々と提供される情報の中で、一瞬で消える音声の「当時の担当医」という情報が印象として残る理由もなく、その直後から250秒間「東京女子医大元医師『無罪』」とテロップが表示されているのであるから、一般視聴者が、「元医師」の放送は「当時は医師であったが、現在は医師でない人」との印象を持つ。

(イ)  「担当医」でも「元医師」でも3文字

 仮に、「当時の担当医」という意味の表示をしようと思えば、「担当医」と短縮すれば3文字で、「元医師」の3文字と同じである。したがってニュース2以降は単に「元医師」としているが、「これは繰り返し使用される言葉を短縮して表現したものであり、その趣旨は本件ニュース1と変わるのもではない。」という「短縮理論」は成り立たない。

(ウ)  個別のニュース1ないし4とニュースJAPANの「担当の医師」

 さらに被告の「繰り返し使用理論」の抗弁について論じる。ニュース1ないしニュース4は、あたかも一連のつながりがあるように扱っているが、個別の報道であることは、一つ一つの内容が違うことから明らかである。一般の視聴者が1130日の1801分に放送された冒頭ナレーションの一瞬の「当時の担当医」を印象深く記憶しながら、翌日121日の早朝午前538分からのニュース2及びニュース3や午前9時近くまでのニュース4を視聴し、なおかつそこで、「元医師」テロップで表示されているのを見たり、発言されたりするのを聞いて、「元医師」とは「当時の担当医」を表現している印象を受けるはずはない。

 また、ニュース1とニュース2の時間帯の間に放送された、ニュースJAPANのフラッシュのテロップでは、「担当の医師は―」や「女児死亡事故 医師は“無罪”」と表示し、ナレーターも、「業務上過失致死の罪に問われた医師」と発言している。このことからも、ニュース2以降がニュース1と一連の連なりをなしていないことが理解され、「繰り返し使用理論」による抗弁はなりたたない。

第2「肖像権侵害」に関する被告の主張に対する原告の反論

本件映像は、「撮影の段階」「放映の段階」のいずれにおいても不当であり、公共性・相当性は認められず、不法行為を構成する。以下、被告の準備書面(第1)に記載された撮影場所を踏まえて反論する。

1. 撮影の段階

(ア)   撮影場所

本件映像を撮影した人物が立っていた場所は、公道上であるが、本件映像で撮影された場所のほとんどは、拘置所敷地内であり、映像には、拘置所施設を背景に歩行する原告と原告につきそう拘留関係者が同時に映っている。

(イ)   撮影された状況-領置品の先行搬入

 原告が保釈決定を知ったのは、2002925日夕食後であった。保釈と共に領置されていた所持品を整理しまとめたが、書籍が数十冊、刑事事件関係書類も千枚以上であっため、全ての荷物は、一回で両手に持ち運べる量ではなかった。この為、拘置所施設面会口(乙第2号証)から拘置所敷地内を通って、門外に運び出すには、時間がかかる状況であった。

 一回目に面会口のドアが開かれた時に、屋外は夕闇により暗い状況であったが、その瞬間に原告の目には、強いライトが当てられた。その状況では、ライトの光は強烈であり、人と人が通常の会話ができるような距離でなかったため、人が撮影機器を使用してこちらを撮影していることは認識したが、どのような人物が撮影したかも確認できず、腕章をしているかどどうかも認識できなかった。

 拘置所の職員は「あいつらもう来ていやがる。」と言い原告と会話を始めたことからも、撮影しているのはおそらく報道関係者であると思った。しかし、同日夕刻に保釈されて拘置所で身柄をとかれた立場にある者としては、撮影された経路以外に、出所する経路の選択余地はなかった。既に妻がタクシーを停車させていることを原告は認識していたことも相まって、乙第2号証に示されている経路で拘置所内敷地を出ることとした。この時点で同経路を歩行した場合、確実に撮影されるので、それに対して嫌悪感を持ったが、ここで、大きな声を出す等して撮影者に抗議することは、理由があって断念した。これについては後述する。

 せめて撮影される時間を短縮しようと策を講じ、一旦面会口から離れ、領置品は拘置所職員が門の外に運び出し、時間をおいて、それを妻がタクシー内に搬入した後に、原告が面会口を出てタクシーに乗り込むこととした。

(ウ)   撮影現場の状況-妻の撮影に対する抗議

①報道関係者との接触

 原告は、本件事故が報道された200112月から、報道関係者との直接的な接触を行わなかった。報道直後から弁護士に相談し、20021月上旬には、報道関係者に対する方針を決定した。すなわち、報道関係者からの接触や取材の申し込み等があった場合は、妻が対応し、「佐藤(原告)は報道関係者に直接接触したり、会話したりはしないので弁護士さんの氏名と連絡先を報道関係者に伝える」方針としたのである。

②妻と撮影者の会話

 原告の妻は、領置品をタクシーに搬入する際に、複数いた撮影者に「撮影しないでください。」旨、異議を申し立てた。これに対して、ある撮影者は妻と会話した。妻は最終的に「撮影されたくないんです。」と明確に理由も述べた。 

(エ)被撮影者の心理-皇太子妃候補の抗議映像等

 原告は、報道映像の撮影者が、被撮影者が撮影されることを拒否しても撮影を強行し、それが放映された場面を報道番組のテレビ映像で何回も視聴した。その「撮影拒否場面の放送」が被撮影者の印象を悪くすると考えていた。「エイズ事件刑事被告人(無罪)安部 英医師」や「オウム真理教教祖の弁護人 横山昭二弁護士」や「ロス事件の殺人事件刑事被告人(無罪)三浦和義氏」らが、報道関係者の撮影を拒否したり、抗議したりする場面が放送されるのを見て、これら被撮影者の態度が人格的に悪い印象として感じた。特に現皇太子妃雅子妃殿下が、婚約発表前に報道関係者に、撮影者の放送局名を訪ね撮影をやめるように厳しい表情で強く要望した場面を報道番組で視聴し、当時の小和田雅子妃殿下候補に対して人格的に悪い印象を持った。

 このため、原告は、逮捕以前から、自分が報道関係者に撮影されることがあった場合は、自らが直接撮影者に対して、撮影に対する拒否行動を起こしても、撮影に中止や異議を申しでても、他どんな行動を起こしてもそれが放送されることが免れないので、せめてその放送により、自らの印象が悪くなることを回避するように行動することを決めていたのである。

 原告は、通常会話の声では届かない場所から、拘置所敷地内に向かって撮影を行っている何処の放送局の何者かも分からない撮影者に対して大きな声を出して抗議しても、どの場面で抗議しても、その行為自体が放送されると、視聴者が原告の人格に悪い印象を持つと考え、顔を隠さず、撮影者に何も述べずに淡々とタクシーに乗り込んだ。

(オ)「撮影の段階」ので不法行為

 撮影に嫌悪感をもった原告が、一旦は面会口から顔を出したがそのまま外には出ず、領置品だけが先に外に出され、時間が経過した後に、面会口から拘置所敷地内に出てきた場面の一部始終を見た撮影者は、原告の妻から撮影の拒否とその理由を聞かされたにもかかわらず、原告を撮影した。このことから、原告において黙示的承諾がなかったことは明らかであり、本件映像の「撮影」は不当であり不法行為を構成する

2. 放映の段階-放送の正当性、公共性、公益性、必要性、相当性の欠如

(ア)「無罪判決報道」と「拘置所出所」

 原告は、200667日付け準備書面 8頁~9頁「(ウ)原告記者会見後の放送」と「(エ)38歳時の映像」において、本件ニュースにおける映像の正当性、公共性、公益性、必要性、相当性の欠如について述べた。被告自ら「無罪判決報道」と呼ぶニュース番組において、原告が行った記者会見の映像を入手していた被告が、拘置所を出所する際の原告が拘置所敷地内から外に出るところを撮影した4年前の映像をわざわざ放送したことを指摘した。

(イ)「殺人容疑で逮捕された被疑者」と「無罪判決を言い渡された被告人」

 被告は、放送の正当性の欠如、公益性の欠如、必要性の欠如及び相当性の欠如に対する反論を直接は行わずに「殺人容疑で逮捕された被疑者の写真掲載」に係わる事案の下級審判例を提示するのみで何の説明もなく「明らかなように・・・不法行為は成立しない」と述べている。

本件放送時点において、原告は、被疑者でもなく、この時点では無罪判決を言い渡された被告人であった。その立場になった原告の映像を入手しながら、拘置所を出所する際の原告の映像を放送することの公益性、必要性及び相当性は存在せず、放送の正当性はない。

 また、「世問の耳目を集める東京女子医大医療事件裁判の被告人であったのであって,同裁判に関する事実は公共の利害に関する事実である。」と述べているが、「拘置所を出所した事実」は裁判とは直接の関係がないので、「公共の利害に関する事実」ではない。

(エ)   「放映の段階」ので不法行為

以上より、無罪判決時の「放映」として本件映像は不当であり、「撮影」「放映」のいずれもが不法行為を構成する。

以上

原告 準 備 書 面(3

20061215日 

東京地方裁判所民事第6部合議B係御中

原 告 佐藤一樹

準備書面(第2)に記載された被告の主張に対する原告の反論は以下のとおりである。

第1 「名誉毀損」に関する被告の主張に対する原告の反論

 被告は準備書面(第2)においても、原告の社会的地位の低下を否定するための反論を縷々述べるが、その主張には矛盾があり、客観性を欠いた報道姿勢を露呈し、釈明のための事後的解釈に終始している。

また、被告に挙証責任がある真実性や誤信相当性の主張には、被告自身による具体的な取材経過が示されていないため、被告の不法行為を否定するには程遠い。

以下、詳細に論じる。

1. 無罪判決理由

(ア)  「無罪判決理由放送」の繰り返し主張

被告は、準備書面(第2)第1の1の「(1)人工心肺に構造上の問題があったことを報道したこと」の項では、その題名を主張するために、2頁11行目ないし12行目、同頁17行目、同頁26行目、3頁1行目、同頁3行目ないし4行目、さらには、(2)の項にまで入ってからも、同頁13行目、同頁16行目と7回も繰り返し『人工心肺の(には)構造(上)に(の)問題』とう文言を使用している。要は、被告が「『無罪判決という事実』と『その理由は人工心肺の構造に問題があったこと』の両方を報道した」ことを繰り返して強調しているだけの主張である。「人工心肺の構造に問題があった」という指摘自体に疑義を挟んでいるという解釈の余地もあるし、人工心肺の構造に問題があったとしても、結果は予見できたという判断もありえるのであるから、構造の問題を繰り返し指摘したからといって、ただちに原告による過失の不存在を一般視聴者に印象づけることにはならない。

(イ)  無罪推定の原則をわきまえない報道と視聴者の印象と本件放送

本邦では、一般に国民の裁判所に対する信頼は厚い。しかしながら、被疑者・被告人に対する犯人視報道が、刑事裁判における判断に少なからず影響を与えることや最初の犯人視報道に接した者が、その印象が消えずにこれを基準として判断し、逆に公判廷で明らかにされた方が間違っているのではないかという不信感を持つ者が存在することを、裁判所自身が示唆、指摘している。

すなわち、「週刊誌や芸能誌、テレビのワイドショーなどを中心として激しい報道が繰り返されたが、こうした場面では、報道する側において、報道の根拠としている証拠が、反対尋問の批判に耐えて高い証明力を保持し続けることができるだけの確かさを持っているかどうかの検討が十分でないまま、総じて嫌疑をかける側に回る傾向を避け難い。・・・ところで、証拠調べの結果が右のとおり微妙であっても、報道に接した者が最初に抱いた印象は簡単に消えるものではない。それどころか、最初に抱いた印象を基準にして判断し、逆に公判廷で明らかにされた方が間違っているのではないかとの不信感を持つ者がいないとも限らない。そうした誤解や不信を避けるためには、まず公判廷での批判に耐えた確かな証拠によってはっきりした事実と、報道はされたが遂に証拠の裏付けがなく、いわば憶測でしかなかった事実とを区別して判示し、その結果、証拠に基づいた事実関係の見直しを可能にすることの重要性が痛感される。」(東京高等裁判所平成100701日判決・高等裁判所刑事判例集 512129頁 下線は原告)がそれである。

この判決文に鑑みれば、逮捕後の報道や起訴後の報道等によって犯人視されていた原告の無罪判決とその理由を報道したとしても、原告に対する犯人視報道を基準にして判断し、無罪判決に対して不信感を持つ一般視聴者の存在は否定できない。さらに、無罪判決理由に続いて、原告が「当初罪を認め遺族に謝罪」していたが裁判では「一転して過失を否定」したという自白に相当する事実のを摘示し、「危険を回避する義務を放置し怠った」とか原告を「未熟な医師」と評し、「元医師」というナレーション、テロップを放送すれば、一般視聴者に対して、「専門性を有するべき医師が未熟であっために手術中のミスによって本件患者を死亡させ、それに関連して現在は医師ではない」という印象を生じさせることは明らかである。

(ウ)  無罪判決理由に対する関心

「(2)被告の報道姿勢について」では、この「人工心肺の構造に問題があった」という理由が判決で述べられていると報じた「被告の関心は、『では誰に責任はあるのか』とか「『このような事態は防げなかったのか』という問題にあ」ると被告は主張する。

しかし、判決が受け入れている「人工心肺に構造上の問題」と「予見可能性が否定される」ことも受け入れているのであれば、そのような構造上の問題をかかえた人工心肺の操作者は、誰であろうと結果発生を防げないのだから、「未熟な医師」かどうかはまったく関係がないはずである。したがって、批判的立場に立たなければ、「人工心肺の構造の問題」に関連して「被告の関心は、『では誰に責任はあるのか』とか「『このような事態は防げなかったのか』という問題にあった」といえるはずがない。以上より被告の説明には矛盾または虚偽があると言わざるを得ない。

構造上の問題を前提にするならば、女子医大の管理体制や予防体制も、そのような構造上の問題ある人工心肺が作られたり、使われたりしないようにすることに焦点が当てられるべきである。この点において被告の説明と実際の放送には齟齬がある

また、被告が主張するように「どのような判決が下るかわからない状況下(乙第4号証)」の無罪判決後に、「人工心肺の構造に問題があった」という判決理由を知った「法律の専門家(被告準備書面(第1)10頁)」が、突如として判決理由とは全く関係のない「東京女子医大病院の管理体制」や「『未熟な医師』を問題視する発言」をするとは通常考えられない。したがって、「西田弁護士にコメントを求めた時刻については、本件刑事裁判の判決日の判決言渡後であることにおそらく間違えない」(乙第4号証1頁)の神谷祐輝ディレクターの発言内容は極めて疑わしい。

(エ)  無罪判決に対する批判的立場と一般視聴者の受ける印象

 したがって、西田弁護士の「いろんなあの危険を回避する義務というのはやっぱりあると思うのですね。」「それを放置してまああのそういうことを怠ってですね。未熟な医師にあの二重三重にそういうことが起こらないようにあの予防体制を取りながら本当はやるべきだったでしょう」というコメントは、①「無罪判決の理由を知らずに、原告に対して批判的に述べた」または、②「裁判所の認定事実を無視して、無罪判決に批判的立場で述べた」のいずれかと推測される。いづずれにしても、「音声及び映像により次々と提供される情報を瞬時に理解することを余儀なくされる」一般の視聴者は、原告が「危険を回避する義務を放置し怠った未熟な医師」であるという印象を受ける。(2006年6月7日 原告準備書面4頁 第1の1(イ)未熟な医師 ③参照) 

2. 真実性の不存在

(ア)  乙第3号証の新聞記事の「真実でない事実」

 被告は、テロップ(甲1-2-⑬~⑮)と伴に「佐藤被告は当初罪を認めて遺族に謝罪し,示談が成立しかし法廷では,一転して過失を否定してきました。(甲1-1)とナレーションした放送内容に対する真実性の立証として、乙第3号証・平成14629日毎日新聞の記事を証拠としているが、この記事には「真実でない事実」が書かれている。このため、原告は毎日新聞社に対しても民事訴訟を提訴し弁論審理中である。以下に本件に関連した記事の中で真実ではない内容の部分を列挙し説明する。

①「平柳さんの家族によると、その際、両容疑者はいずれも『医者をやめたい』と話していたという。」という記事のうち、平柳さんの家族が何を言ったかは知らないが、「両容疑者はいずれも『医者をやめたい』と話していた」という部分は真実ではない。原告はその時に「医者をやめたい」とは絶対に話していないし、現在まで生涯に一回も「医者をやめたい」と話したことはない。

②「その後、本堂に6人が正座して並び、順に謝罪した。」という記事のうち「順に謝罪した。」というのは真実ではない。「順に言葉を述べた」ことは真実である。原告は、この時に、原告も死亡した患者さんと同様に心房中隔欠損症の根治手術を受けたことと今後の抱負を述べただけで、謝罪はしていない。後にこのこと関連した事柄を述べる。

③「佐藤容疑者も『もう医師は続けられない』とつぶやいたという。」という記事は真実ではない。原告はその時に「もう医師は続けられない」とは絶対につぶやいていないし、現在まで生涯一回も「もう医師は続けられない」とつぶやいたことはない。

④「この際、事務職員が謝罪は終わったとして、『あとのことは弁護士同士の話しにしましょう』と示談を持ちかけてきたという。」という記事については、真実かどうかは不明であるが、家族が「お金が早急に欲しいのに弁護士をつれてこないとは何事か。」旨、女子医大管理二課次長を激怒し叱責したと、同次長が発言している。 

(イ)  傍聴の家族から「謝罪していない原告」に対する接近

2002年1月31日の刑事公判の傍聴をされた、平柳利明氏は、「瀬尾さんからは謝罪をしてもらったが、佐藤さんからは謝罪してもらっていない。刑事判決が出たときに医道審議会に対して瀬尾さんには、嘆願書を出して医業の停止期間を短くしてもらうつもりである。佐藤さんは謝罪してもらっていないので、嘆願書は出せない。だから、罪を認めて謝罪して欲しい。そして、いっしょに今井(今井教授)と闘いたい。」旨述べ、原告から電話連絡をして欲しいと電話番号が記載されたメモを残した。以上の事実からも、原告が謝罪していないことは明らかである。

(ウ)  2002628日の逮捕と2001128日の罪

 被告の準備書面(第2)5頁によれば、被告が報道した「当初罪を認めて謝罪した」のは、2001128日と受け取れる。そもそも原告は、その時点では何の罪にも問われていない。「罪を認めて」いるからには「罪に問われている」はずであるが、警察捜査すら開始されていなかった200112月に原告が罪に問われることはあり得ない。原告が被疑者になったのは、逮捕され2002628日である。したがって、2001128日に罪を認めることは絶対にあり得ない。

 なお、20021月に原告らが告訴された旨、新聞紙上等で報道された。このため、原告は逮捕前に弁護人選任届けを担当の司法警察に提出しようとしたが、「信じる信じないは原告の勝手だが、『告訴状』は受理していない。『被害届』が出ているだけなので、原告は「被疑者」ではなく「参考人」である。」旨、警察から説明を受け、選任届けは受理されなかった。

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