大野病院事件

2008年8月30日 (土)

控訴断念も、逮捕・勾留は不当。不法でないだけ:大野病院事件

1.控訴断念と不当逮捕、不当勾留は別問題

検察が大野病院事件の無罪判決に対する控訴を断念したことが、各報道機関から発表されました。そのこと自体は、よいことで、佐藤章福島県立医大産婦人科教授をはじめとした全国の産婦人科医、医師の様々な活動が、推進力になったことは間違いありません。特にネット上で医師同士がつながりあい、声が大きくなったことは画期的でした。

しかし、ここで絶対忘れていけないのは、警察、検察が、過失のない一人医長を「不当逮捕・不当勾留」したことが、「福島県双葉郡大熊町近隣地区の産科医療を直接崩壊させてしまった直接的即時的医療崩壊。それに伴って福島県さらに全国に波及的に広まった医療崩壊を加速させてしまった問題です。

2.「逮捕・勾留は手続き上犯罪でない」というだけで、間違った判断

地検の村上満男次席検事は、逮捕や起訴について、「法律と証拠に基づいてやった。判断としては間違っていない」と語ったと報道されていますが、逮捕は、刑法220条で「不法に人を逮捕・監禁すること。3月以上7年以下の懲役」とされていて、逮捕状を裁判官から許可されていた場合は、「不法でない」というだけです。逮捕関しては、検察は、「検察側は犯罪を犯していない」と主張しているだけです。単なる、法律上の手続きを「犯罪にならないように」行ったといっているにすぎないように聞こえます。

「一人医長」の「逮捕・勾留・起訴」が地域の、福島県の、日本の産科医療崩壊を増大させることは容易に予見可能であった。当然、これを「回避する義務」があったにもかかわらず、その義務を怠り、告訴も無かったのに、他の犯罪と同様にこの事件を扱い「自白調書」を作成するために、逮捕・勾留をおこなったのです。

このことを絶対に忘れてはなりません。

以下ブログを参考にしてください。

大野病院事件 無罪判決 前夜、当日、シンポジウム

http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2008/08/post_35f3.html

健康、病気なし、医者いらず

http://kenkoubyoukinashi.blog36.fc2.com/blog-entry-355.html



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2008年8月20日 (水)

大野病院事件 無罪判決 前夜、当日、シンポジウム

「大野病院事件」加藤克彦先生の無罪。よかったという表現になってします。
おめでとうとはいいにくい。
私は、初公判では運良く抽選にあたり傍聴記を書きましたが、(「速報 大野病院初公判傍聴記」http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/post_ace1.html)今日も傍聴席に座ろうと抽選に参加しました。800人近い一般傍聴希望者に対して席は25。私の整理番号434のところ、433,438が選ばれて傍聴はならなかった。
裁判所の構造はわかっていた。「僻地の産婦人科医」先生とともに、ずんずん入っていって、第一法廷の脇の廊下で無罪を聞いた。
階段を降りるときは、当然以外の感想以外なかったが、テレビ局のカメラがごった返す裁判所出口の医師達へ伝えたところ、目にな涙が浮かぶ。
私のこの裁判に対する思いは、昨日8月19日の日経メディカル オンラインの記事になっているので、参照いただきたい。

判決直後には、私を含めた応援に来ていた医師ら、数々のメディアの取材を受けていた。
ここで、メディアに私がお話してことは、上記、日経メディカルオンラインと
その直後におこなわれた、シンポジウム「福島大野病院事件が産科医療にもたらした影響を考える」の発言で何とかお伝えできたのではないかと思います。
とりあえず、8月19日無罪判決前日の日経メディカルオンラインの記事と、シンポジウムで発表した原稿、レジュメを公開します。
##見出し
特集●ついに判決 福島・大野病院事件 vol.2
「警察は不当逮捕が地域医療の崩壊を招いた事実を認識すべき」
綾瀬循環器病院心臓血管外科 佐藤 一樹氏に聞く
##リード
 心臓手術を受けた女児が死亡した東京女子医大事件で、当時助手だった佐藤一樹氏は人工心肺装置の操作を誤ったとして逮捕・勾留され、捜査機関の厳しい取り調べを受けた。2005年11月には無罪判決を受けてその疑いは晴れたが、起訴されてから無罪判決が出されるまでに3年もの長い年月がかかり、多くの犠牲を払った。佐藤氏の体験は、福島県立大野病院事件の被告である加藤克彦氏が置かれた立場と重なる部分が少なくない。佐藤氏は、今回の事件をどのように見ているのだろうか。
##本文
――福島まで足を運び、今回の事件の第1回公判を傍聴されたそうですが。
佐藤 加藤医師は事故の発生から1年以上たった時点で逮捕されましたが、私は公判前整理の進行の段階までの情報で、これも不当逮捕だという思いを強くしました。こうした不当な逮捕を受けて勾留された経験を、東京女子医大事件で私もしており、加藤医師の気持ちを実感として理解し、法廷で応援できるのは私しかいないと考えたのです。
 裁判に臨むに当たって加藤医師は、かなり不安だったと思います。そこで、私は公判の休憩時間に被告弁護士にお願いして、事前に用意していた手紙を加藤医師に渡してもらいました。また、機会を改めて励ましの言葉だけでなく、被告人質問に対する対応の仕方や気持ちの持ち方など、私の体験を通じたアドバイスも伝えました。少しでも加藤医師の不安を和らげることができればと思ったのです。
――加藤医師は不当に逮捕されたとする理由はどこにあるのでしょうか。
佐藤 刑事訴訟法上、捜査機関が被疑者や参考人を通常逮捕・勾留できる理由は、①住所不定であること、②証拠隠滅の恐れがあること、③逃亡の恐れがあること――の3つがあります。加藤医師は、臨月の奥さんと暮らしていたのですから①③は絶対にあり得ません。また、事故の発生から逮捕まで相当の期間があり、それまでに県の事故調査委員会の報告は終了し、警察はカルテの押収や関係者などへの取り調べを行っていたので、加藤医師が証拠を隠滅する恐れがあったとは到底思えません。実際の理由は、捜査機関が、加藤医師を拘束して自白を強要することだったと推測されます。
 実は、捜査実務方法を解説した検察向けの教科書には、「裏付け資料が不十分でも社会的な影響が大きい事件は立件して捜査を遂げる」という記述があるのです。「社会的な問題」となるのは、例えばメディアの報道で事件への社会的関心が高まった場合などです。大野病院事件では、捜査機関がどのような意図で逮捕に至ったか真相は定かではありませんが、本来立件するのは難しいこの事件をどうしても成立させるために、自白調書が必要になったのではないでしょうか。
 私の場合も、メディア報道などで事故が社会問題化し、6ヶ月間も任意取調べ期間があり、関係者への捜査も十分に進んでいたにもかかわらず、関係者と連絡を取り合って口裏合わせをする可能性があるという理由で不当に逮捕されました。「証拠隠滅の恐れ」という逮捕要件は非常に漠然としている上、裁判所も捜査機関からの逮捕令状請求のほとんどを詳細検討することなく許可しているのが現状で、どう考えてもおかしい。こうした状況は、法改正などをしなくても現行法の下で改善できることです。医療界は今回の大野病院事件を機に、今のままでは不当な逮捕が増える危険性があることをもっと訴えなければいけないと思います。
 一方、捜査機関は、今回の不当逮捕により地域医療を崩壊させたことをしっかり認識すべきです。加藤医師は大野病院の産婦人科を1人で担っていました。それが、逮捕により産科医が1人もいなくなり、その後も医師の補充がされず、ついには大野病院の産婦人科は実質廃止に追い込まれました。この被害を最も受けているのは、その地域の多くの患者さんです。これは、とても大きな問題です。
――逮捕されると、医師に対する捜査機関の対応は変わるのでしょうか。
佐藤 全く違います。私の場合、当初は参考人という立場で任意に取り調べを受けていて、捜査機関は私を「佐藤先生」と呼んで多少は紳士的に接していました。それが、逮捕以降は「佐藤」「おまえ」と呼び捨てするようになり、検察の取り調べに至っては連日、朝から深夜まで行われ日付けが変わることもざらでした。供述調書については、私が悪いことをしたという前提で、あらかじめ決まった方向で捜査機関が文章を作成していく。さらに、調書の修正を依頼しても「供述調書は捜査官が作成するものだ」と、先ず応じてくれません。
 おそらく加藤医師も、私と同じ立場に置かれたことでしょう。任意段階でも逮捕以降も、取り調べを受ける際は、納得のいかない調書であれば署名・押印をしないといった慎重さが大切になるのですが、捜査機関の取り調べは精神的・肉体的にも予想以上に厳しく、ついつい捜査機関の意図に沿った調書に署名・押印し、「自白調書」が作成されてしまうこともあり得ます。加藤医師は公判開始後、供述内容を一部翻したと検察は主張していますが、取り調べ時に心理的に追い込まれて、自身の意図とは異なる調書に署名・押印をしてしまった可能性があります
――8月20日に判決が下されますが、もし加藤医師が有罪となったら、医療界にどんな影響が出ると思いますか。
佐藤 産科医療の崩壊がさらに進むのは確実でしょう。そして、将来は基幹病院でしか分娩できなくなるほか、癒着胎盤の患者さんは全員、子宮を摘出しなければならなくなるかもしれない。
裁判官は、公判中に同意された証拠だけを元に判決を言い渡します。その点、検察側に有利な証拠として加藤医師の供述調書があるのは不安な点ですが、これだけ社会的な関心が高まると、裁判官は世論を無視して有罪判決を下せるでしょうか。
――大野病院事件を機に、医療の刑事免責を求める声が高まっています。
佐藤 医療行為や医師の刑事免責を議論する際には、言葉の定義が非常に重要になると思っています。医療行為といっても様々なものがあり、医師にかかる犯罪の種類も多岐にわたる。そんな中でただ単に免責を主張するのは、「医療行為や医師のすべてを免責しろ」と言っているように取られかねない。これでは、世間には受け入れられないでしょう。
私は、医学的な適応や医術的な正当性を背景にした「正当な治療行為」を、業務上過失致死罪として認めるのは問題があると考えています。加藤医師のケースもこれに当たり、当然無罪となるべきです。今後、免責を求めていくのであれば、この点を明確にすべきなのではないでしょうか。そのためにも、多くの医師が法律の背景や理論を身に付ける必要があると思っています。

2008/8/20 シンポジウム レジュメ
①福島大野病院事件が産科医療にもたらした影響を考える
正当な治療行為を行った医師を逮捕勾留するな
綾瀬循環器病院 心臓血管外科
東京女子医大心臓手術事件 被告人
(大野病院事件 初公判 傍聴報告者)
佐藤一樹

②大野病院事件:直接的即時的影響
・「一人医長」逮捕・勾留
・大野病院産科 ⇒実質的廃止
・福島県双葉郡大熊町近隣地区⇒地域産科医療崩壊
 ⇒医療、医師人権が軽んじらた証拠
  逮捕請求:捜査機関 ⇒ 裁判官の令状
 (警察・検察)   (許可状)
  勾留請求:検察官  ⇒ 裁判官の処分   
                                (命令状)
 実際には、勾留の方が問題。(逮捕前置主義)

③大野病院事件:間接的波及的影響
 産婦人科医の『正当な治療行為』⇒逮捕・起訴
 ・日本全国産科医療崩壊⇒決定的増幅
 ・“立ち去り型サボタージュ”の拡大
 ⇒小児救急、小児科、救命救急科、外科・・・
 ⇔医療だけをやってきた医師達
  ⇒社会構成員としての覚醒
  ⇒医師達からの医療政策への意見発信開始         
④医師側の主張:医療刑事訴訟への不満
・過失の構成要件の類型化が不明慮:
   「何すると罪か」が事前に定まっていない
・結果⇒遡及的結果回避義務の指摘:
   後出しジャンケン
・恣意的証拠の取捨選択:客観的証拠文献の不同意
   訴訟戦略上の「卑怯な証拠隠し」
・刑事処分の再発防止は機能不全:
   萎縮医療の誘発
・真の原因究明の阻害
   医学発展の停滞 etc.  ⇒「免責」の主張

⑤安易な免責主張の問題点:免責と犯罪
・免責:法律上、責任を免れること
・犯罪:構成要件に該当する、違法かつ有責な行為

 構成要件該当:犯罪類型に当てはまること
  刑法条文⇒メニューの各料理の名称「きつねうどん」
  構成要件⇒メニューから観念される各料理のイメージ

⑥免責主張の問題点:免責の対象
・医師免責?   犯罪は「行為」
・刑事免責?   意味不明   
・医療免責?   意味不明 
・医療行為免責? 適応外手術(不要子宮摘出術)
 ⇒法曹界、メディアに使い回されて批判される
・業務上過失致死罪 第3項新設案:
       第2項交通事故=「刑の免除」*
         *免除は免責でない
・救急救命行為に限定?
                    
⑦免責主張の問題点:免除と免責の相違点
免除:「罪」はある、「刑」はない
 構成要件に該当し、違法かつ有責であって、
 犯罪は成立するが、刑は科さない

 犯罪:構成要件に該当する、違法かつ有責な行為
 免責:法律上、責任を免れること

⑧免責主張の問題点:医療行為と治療行為
・治療行為⇒医学的正当性
    医学的適応性:手術が行われるべきか否か
   医術的正当性:どのように行われるべきか
・治療行為傷害説-刑法学者の見解
  ⇒日本では、治療行為が傷害として争われた
   刑事訴訟判例なし

⑨免責主張の問題点:過失論
旧過失論:結果無価値論型-主観的要件
  ・予見可能性中心←注意義務違反
  ・刑法学で再び優勢(若い学者)
新過失論:行為無価値論型-客観的要件
  ・客観的に要請される注意を尽くした場合 
   ⇒構成要件該当性否定される⇒犯罪不成立
  ・(医師に)遵守が要求させる行動基準想定

⑩免責主張の問題点:ガイドラインは?
・客観的注意義務の類型化: 
  過失の不法構成要件の内容の具体化
・学会等の作成したガイドライン:
  遵守規定?
  実際の臨床の多様性に対応不可能?

  
⑪免責主張の問題点:「許された危険」
・科学技術発展にともなう危険な行為は、文明生活維持に不可欠
 旧過失論⇒危険行為の結果が悪ければ、事実上絶対的責任を科す
⇔日常生活麻痺、文明の逆行
   ⇒行政上・民事上格別の考慮を払う
   ⇒刑法上「免責」
 「許された危険」 
  ⇒日本の医療刑事裁判で過去に判例なし

⑫免責主張の問題点:「信頼の原則」
・チーム医療:
 危険行為分担、相互の相手方の行為の
「信頼を前提」に持ち場の回避義務を行った
  ⇒免責
・北大電気メス事件
  日本でも「免責」判例あり
・ヤメケン:飯田英男氏、医療事故調座長:前田雅英氏
  「信頼の原則」を否定する論文、専門書あり

⑬免責主張の問題点:「緊急避難」
・現在の危険を避けるために、やむを得ずにした行為は、条件つきで、罰しない
・業務上特別の義務があるものには、適応しない。

⑭免責主張の問題点:刑法再検討
今後の医療界と法曹界の相互理解
 団藤重光 「刑法綱要総論 第三版」 1990年
「 friendly-hostile co-operation:
 友好的―敵対的な共働こそが客観的な科学的認識を発展させるために必要不可欠なことであるが、知識社会学者をもって自認する人達がこのことをほとんど無視していいることを慨嘆する。 」
  団藤重光:元最高裁判所判事、東京大学名誉教授34年目、 日本の刑事法学最高の重鎮

⑮現行法:現実的・切迫的視点からの主張
・捜査機関は、
  直接的・即時的に医療を崩壊させるな
・正当な医療行為を行った医師を逮捕するな
・正当な医療行為を行った医師を勾留するな

  業務上過失致死罪に関する免責
   ⇒巨視的・長期的視点からの主張

⑯正当医療行為を行った医師を逮捕するな
逮捕:身体自由の拘束、抑留。
  留置3日。送致48時間以内
・令状主義(憲法第33条)
   逮捕状:裁判官が発布「逮捕状は許可状」
・逮捕請求:警察、検察
 疎明資料提出:立証証拠必要なし
   立証証拠なし、同意なし、実質出し放題
   裁判官の主体性なしー警察検察のいいなり
   刑事訴訟法規則第43条の3:逮捕状の却下

⑰正当治療行為を行った医師を勾留するな
勾留:拘禁する裁判および執行-強制処分
・勾留請求: 検察官
・勾留状発布:裁判官⇒「勾留状は命令状」
・勾留目的: 逃亡、証拠隠滅の防止
・実体要件:
  ◎罪を犯したことを疑うに足る相当な理由
  ①住所不定②証拠隠滅のおそれ③逃亡のおそれ
・勾留質問: 形式的形骸的。数分。
       充分に捜査資料を検討する間もない。

⑱医療刑事裁判:逮捕・勾留理由はない
 逮捕日になっての証拠隠滅はあり得ない
  ・事故調査委員会終了
    診療録の改ざんは不可能
  ・任意捜査進行中
   充分な捜査期間
    参考人、第三者の取調べ済み
  ・具体的な隠滅の類型が存在しない
    罪刑法定主義に反する

⑲逮捕・勾留:実質上の刑罰の執行
 「勾留は8番目の刑罰」
  ・執行も読み方も“拘留”と同じ
   ・勾留の方が“拘留”より長期のことが多い
 勾留日数
     実刑になると本刑に算入される 刑訴495 刑21
 勾留の目的
   「出頭確保、証拠隠滅防止」
   「有罪判決に備えてその執行を確保する」
   最高裁判所判決 昭和25年3月30日
     拘留=自由刑:1~30日、留置所又は拘置所

⑳逮捕・勾留の本当の・理由・目的・意義
理由:任意捜査段階で被疑者否認
目的:身柄拘束による「自白供述調書」作成    
 「取調室の心理学」-無実の人間の自供述調書は捜査官が作成(被疑者は署名押印)
意義:“証拠の女王”⇔憲法第38条:形骸化
  冤罪の温床
  ⇔「正当な治療行為で冤罪にならないために」

21.判検交流とは
・判事と検事の人事交流=職場で同僚になる 
  検察官が裁判所に異動して裁判官を務める
  裁判官が検察に異動して検察官を務める
・刑事事件合議制裁判官3人⇒2人が検察官(実例)

22.裁判官への伝言:団藤重光博士より
「刑法綱要総論 初版」1957年
 「刑罰権といった国家権力の発動がでたらめなものにならないように、するためには、あらゆる恣意を封じなければならない。
 罪刑法定主義はその立法的なあらわれであるが、微動もしない正確な理論構成への要請も、これとうらはらをなすものだといってよい。」
 
刑事訴訟法:昭和23年7月10日 施行。
団藤重光博士:戦後の刑事訴訟法の執筆者。新過失論。死刑廃止論者。
       東大時代の最後の直接の教え子達が、現在裁判長クラス。
23.結語
・加藤医師の逮捕は不当逮捕
  正当な治療行為-無罪
・捜査機関の謙抑
   直接的・即時的医療崩壊の反省
・現行法上での現実的・切迫的視点からの主張
  正当医療行為を行った医師を逮捕・勾留するな
・巨視的・長期的視点からの主張
  正当な医療行為と過失の刑法上の再検討

以上

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2007年2月26日 (月)

Dr.いのげによる大野病院事件第二回公判 傍聴記

 いのげ先生から大野病院事件 第二回公判の傍聴記をただ来ましたので、転記いたします。この裁判の注目されている方ならご存じのように「周産期医療の崩壊をくい止める会」HPには、公判調書に準ずると思われる、裁判の記録が掲載されました。

この「周産期医療の崩壊をくい止める会」HPは「公判調書」の役割が目的と思われますが、いのげ先生の執筆はそれに加え「傍聴記」の要素が多く含まれますので、一読の価値があると思われます。以下引用させていただきます。(紫色の顔の友達を助けたい)

傍聴記を書くと公約したが既に「周産期医療の崩壊をくい止め
る会」HPに
適切なる傍聴記が発表されたのでいのげはこれに対する補足的
注釈を加えるに留める
くい止める会には無断転載になるが御容赦いただきたい
わたくしの注釈に関する部分は著作権放棄 無断引用転載大歓
迎である

以下 【 】 内がいのげの記載 カッコなしはくい止める会
傍聴記原文である
-ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー-ーーーーーー
ーーーーーーーー
【勝手に命名された登場人物たち
(傍聴席から見た位置関係 )

正面:判事席
裁判長:小林興起似 語り口はマイルド
よしこ判事:櫻井よしこ似 右陪席(傍聴人から見ると左)
もたい判事:左陪席 もたいまさこ似 ワンレンぽい髪
手前低いところに書記官3人 録音も併用

左側:検事席 奥から巡
プラトン検事:真っ白白髪 哲学者ぽい風貌 語り口は弱弱し

ソリコミ検事:(=泉谷P?)今回8割程発言の主力 舌鋒も
ソリコミも鋭い
法源検事:オールバック 福永法源似
大仏検事:(=おさむP?)大仏パーマの人 残念ながら今回
は発言無し
後列に4人ほど検察事務方らしき人 その奥に修習生らしき人
数人

右側:弁護団席7人(発言の少ない人省略)
前列:4人
ロビン弁護士:ヒゲがロビン・ウィリアムぽい長身 反復質問
多い
たぬ弁護士:主任弁護士 狸ぽいキャラ
いさお弁護士:副主任 橋爪功似 医学に相当明るい能弁家

後列
レーザー弁護士:ヒゲと後方からの鋭い補足質問がイチローの
レーザビームを連想させる

被告人:不当逮捕された産婦人科医 一年前の拘留10日目に福
島地裁いわき支部の法廷で見たときより少し体重が増えた印象
  やつれがとれただけかもしれない
いのげは自分にも他人にも実名を使わないことにしている
他に表現が思いつかないので被告人にさせていただく】

<開廷>
加藤先生に対する証拠提示

加藤先生入廷 おじぎをされて着席

【弁護側提出証拠の追加である
被告人に示したのではなく 裁判官に示した証拠を
被告人に説明させている 
プラトン検事が席を立って被告人の
近くで証拠を説明する様子をチェックしている

甲36―40号証という名称から
裁判開始までに提出された証拠が
35本あったと推定される

甲36号証は摘出された子宮の写真 子宮の上下が写真では90度
回転して左右になってる
被告人が大野病院の手術室にてルーチンの作業として撮影した
もの
長径22cm(写真の左右 患者の上下) 短径16cm(写真の
上下 患者の左右)

(法廷の右奥に70インチはあろうかというモニタがあり
プロジェクタも用意されていたが臓器写真は人権に配慮してか
モニタに示されなかった。
この措置は「真実を明らかにしてほしい」という患者遺族の強
い要望に反し
重要な証拠を傍聴人から隠すものだ 傍聴人には医師も多数い

公表することでより正確な事実評価が得られる期待がおおいに
ある
遺族におかれては証拠を傍聴人から隠さないように
検察および裁判所に対して要望を出していただきたい)

(→当ブログ管理人 紫色の顔の友達を助けたい の意見

上記いのげ先生のご主張には賛成しかねます。
 刑事事件の真相を明らかにするのは、裁判所の仕事です。傍聴者が事実評価をすることよりも、遺族や亡くなった方の権利が尊重されるべきだと私は思います。)

甲37号証 胎盤と卵膜の写真 子宮内腔側
メモに「切れ目なし」とあるが自分で意味が分からない

甲38号証 37号の拡大写真

甲39号証 胎盤の母体面 子宮に接している面

甲40号証 39号の拡大写真】

加藤先生に対する証拠提示中

弁護側 卵膜はどこにあたりますか? ・・(以下、加藤先生
、説明)

弁護側 裁判官において、具体的にどの部分か同定できました
か?さしてください。

裁 ここですよね、いや、この周辺ですか? (苦笑)

【被告人が裁判長に歩み寄ろうとして制止される
裁判長は被告人との距離を保ちたいらしい】

弁護側 説明書を添付しましょうか?

【被告人が写真のコピーに説明の印を書き込んだ】

弁護側 臍帯はわかりますか?

裁 わかります。

証人喚問
<双葉厚生病院 産婦人科医長>
【濃い色の眼鏡とソバージュぽい髪型が全然似合ってない
本田勝一の様なちょっと怪しげな風貌 語り口は誠実さを感じ
る】

【ソリコミ検事】
検察 高宮から質問します。質問には簡単に答えてください。
証人は昭和56年から現在双葉厚生病院に医長として勤務。臨床
経験は32年、日本産婦人科学会認定医ですか?
【認定医試験が無くて学会出席で認定される時代だったと正
直に証言】

証人 はい。認定をとってから20年です。産科の分娩、帝王切
開を担当しています。

検察 癒着胎盤についてお尋ねします。証人は癒着胎盤をご存
じですか?

証人 はい

検察 証人が経験した症例はありますか?

証人 あります。

検察 何例ですか?

証人 3例です。

検察 癒着胎盤とは、胎盤の絨毛が直接子宮筋層に侵入する、
理解はそれで良いか?

証人 はい。

検察 定義は、狭義の、癒着胎盤がplacenta accreta,
広義がincreta,
穿通胎盤percretaの、三分類として分けられている。一般的理
解としてご承知か。

証人 はい。

検察 証人が経験した癒着胎盤は?

証人 2例は経膣分娩で、容易に胎盤を剥離できたので、accreta
と考えられる。一例は陥入と考えられる。

検察 これは胎盤と子宮がどのように分類されているのか?

証人 陥入、穿通は、なかなか剥離できず出血が止まらない。
癒着が容易に剥離できたので、accretaと判断した。

検察 子宮摘出実施はあるか?

証人 あります。

検察 どの症例か?

証人 陥入胎盤の一例です。5年前の症例。

検察 ちなみに子宮摘出例で、本人か家族から後に異議を出さ
れたことはあるか?

証人 ありません。

検察 陥入胎盤で出血がとまらない理由はなにか

証人 陥入胎盤では、絨毛組織が子宮筋層に深く侵入している
。剥離した部分の絨毛間腔が開いている、子宮の収縮が悪くな
り出血する。

検察 癒着胎盤の場合、大量出血に注意すべきという理解があ
るのはよろしいか?

証人 はい。

検察 癒着胎盤で大量出血のメカニズムは?

証人 先ほど、説明したように・・・、癒着胎盤で出血が起こ
るところで話したことと同じだが、絨毛間腔が開く。

検察 通常の子宮胎盤では、子宮収縮により止血がはたらく理
解でよろしいか?

証人 いいです。

検察 それを生理的結紮という。

証人 そうです。

検察 癒着胎盤では生理的結紮がうまくはたらかないので出血
する。これでよいか。

証人 良いです。

検察 母体への影響はあるか?

証人 大量出血をおこすと母体に出血性ショックやDICをきた
す可能性がります。

検察 出血性ショックの説明は?

証人 説明。

検察 DICの説明は?

証人 播種性血管内凝固症候群といい、

裁判官 え、何て、何て?

証人 播種性血管内凝固症候群です。私達はDICと言います。
以下DICの説明
【血液凝固因子が減少して出血しやすくなるといった趣旨】

検察 DICや出血性ショックが生じると、母体の生命に危険が
生じるということで良いですね。

証人 生じるんじゃなくて可能性がある。

検察 産婦人科の専門医は通常知っている知識ですか?

証人 はい。

検察 続けて質問します。癒着胎盤かどうかは、最終的には摘
出子宮の病理で診断するという理解ですか?

証人 はい。

検察 癒着胎盤発症のリスクは、前回帝王切開というのは知っ
ていますよね。
【いのげメモでは前回帝王切開と前置胎盤】

証人 はい。

検察 どういう理由か

証人 説明 子宮下部では子宮内膜が薄いので、おこりやすい

【↑これは前置胎盤における理由と思われる】

検察 前回帝王切開の妊婦でおこりやすい理由は

証人 帝王切開で子宮を傷つけることにより、内膜の形成不全
が生じ、また切った後縫うときに子宮内膜がめくれた状態で縫
ってしまうと、脱落膜が筋層に入り込みやすくなる。

検察 臨床上、術前検査で癒着胎盤の発症を疑うものは、どう
いう検査があるか?

証人 通常は超音波検査、カラードプラ検査、MRI、膀胱鏡、
特殊な検査として、胎児のつくるホルモンが母体で高くなると
いうことがあげられる。

検察 そのうちの一部で、エコー、カラードプラは具体的にど
ういうことをみるものか?証人 超音波はあらゆることの診断
に用いられているが、癒着胎盤については、あまりに稀なので
、通常の検査ではそこまで見ていない。

検察 カラードプラはどういうことをみるのか?こちらの質問
の回答に限って答えてください。

証人 血流をみます。

検察 血流豊富かどうかは、画像で確認できるというイメージ
で良いか?

証人 血管の太さや数がこうだから、ではなく、経験もあるが
、通常より多いなという感覚的なもの。

検察 血流が豊富なほうが、癒着胎盤に傾くのか?

弁護側 もう少し事実関係をきいてもらったほうが良いのでは
ないか。
【↑質問が不適切であるという異議 レーザー弁護士だったか

裁判 まあ、どちらかということだから、証人は答えられるよ
うなら答えてください。

証人 絨毛間腔が広がるので、血管が太くなる。癒着胎盤のほ
うが血流が豊富である。

検察 なじみやすいということか?

証人 いや、可能性があるということだけです。

検察 カルテで、所見をみると・・
【甲15号証 カルテ】

弁護側護 今まとめられた質問内容では、最後の質問、血流が
豊富であっても、それでなじむのではなく、あくまでも可能性
があると証人は答えられた。

裁判 検察官は言い直すときには同じように答えられた方が良
いですね。
【証言を勝手に拡大解釈してまとめ、証人に同意させようとす
る手法は
割り箸事件裁判においても検察の常套手段であった】

検察 豊富な血流を認めたときに、癒着胎盤の可能性は、高く
なるのか低くなるのか。

証人 私は症例をそうもっていないのでわからないです。

検察 ただ、証人のお考えとして、カラードプラで見たときに
、高めるのかどうかお答えください。

証人 高めるかどうかわかりません、診断の一助にはなるでし
ょうか。

検察 カルテの医師記録 12月6日を示します。(検察はカル
テ本物をもっている)これは患者さんの検査の写真です。16号
証に写しがあります。この下の写真はカラードプラ検査です。
これをご診断いただいてわかりますか?写真上は血流について
はどのように「ご覧になりますか?

証人 カラードプラは、カラーでみないと、白黒のコピーでは
ではわかりませんが(当たり前である。カラードプラはカラー
で血流を示す機会なのだから)、白いところが血流です。検察
 質問したのは、下の写真の、白い細長いところ、この部分が
血流だろうと見受けられると。よろしいですか?

証人 はい。

検察 この写真から、血流が豊富な印象なのか?

証人 一枚の写真をみてもね・・・ (一枚の写真で血流が豊
富か診断できるわけない)

弁護 豊富というのは、何を基準に豊富といわれているのか。
そういうあいまいな質問では答えにくい。
【↑いさお弁護士】

裁判官 いや、まあ証人は経験とおっしゃっているんだから、
まあ。

弁護士 でしたら、経験でカラードプラを癒着胎盤でしたこと
があるか? とか、そういうふうに質問をしたら。

検察 今のは疑義か?

裁判 では、これで判断できますか?答えてください。
【質問の適切性についての判断を証人に丸投げする訴訟指揮で
ある】

証人 無理です。

検察 12月6日の下の写真の欄外の文字を読めますか?

証人 はい。膀胱下に血流+とあります。

検察 このような表現は、どのような情報か?

証人 前置胎盤?ですから、膀胱の後ろに血流があっておかし
くないです。
【いのげメモも前置胎盤 胎盤の位置が低くてちょうど膀胱の
後になるという意か】

弁護 今の検察の質問は、血流があるということで、癒着胎盤
に結びつけようとするものですので、間違いです。

裁判官 疑義はいらないと思いますので却下します。

弁護 証人の答えたことと、検察のまとめとが符号していない
。前置胎盤?と癒着胎盤の区別なく議論しています。

裁判 今までのは違う疑義にはまとめていないので、棄却しま
す。

検察 通常、帝王切開の実施の際に、あくまでも可能性として
念頭に置いて、進めるというふうにうかがってよろしいか。

証人 えー。

弁護 異議あり。リスク、リスクでなく、順序でおききになる
べきではないか。
【いさお弁護士だったと思う】

検察 証人はリスク因子として、前回帝王切開、前置胎盤?を
挙げられましたね。

証人 はい。

検察 癒着胎盤の場合、出血性ショックのリスクもある。その
前提でうかがいたいが、前回帝王切開、前置胎盤?で帝王切開
を実施の場合、癒着胎盤の可能性も念頭において執刀されるの
ですか?

証人 まずですね・・・

検察 いや、結論だけ答えてください。

弁護 医学的に可能性、可能性、というと、みな可能性がある
ことになるので、そういう質問は不適切です。

裁判官 なるべく簡潔に答えてください。

証人 いや簡潔には答えられません。事前に検査を行い、検査
で100%はわからないが、念頭におく。

検察 MRIではどのようなことがわかるのですか

証人 筋層と子宮の付着部がギザギザ、不均一になるといわれ
ていますが、100%診断できるものではない。
【いのげメモには「筋層が少ない」とも書いてある】

検察 帝王切開の実施の局面で、癒着胎盤の可能性を疑う局面
があるというのは、認識ありますか?

証人 あります。

検察 具体的には

証人 臍帯をひっぱってはがれないとき、用手剥離に進むので
すが、それでもはがれてこないときに、疑います。

検察 娩出のあとに胎盤を引っ張ったときですね。

裁判官 胎盤でなく、臍帯ですね。

検察 あ、はい。

検察 臍帯を引っ張る前に疑う、肉眼的にわかる所見はありま
すか?

証人 漿膜までいっている場合は、肉眼的にわかります。

検察 それ以外にわかる可能性は

証人 私には無いです。

検察 実際に臍帯引っ張って出てこない場合、帝王切開の場合
、ひっぱって出てこない場合、どうやってその後の処置をとる
のですか?

証人 用手剥離を行います。

検察 具体的にどうするのですか?

証人 胎盤と子宮の間に手刀を入れていって、剥離を行うこと
をします。

検察 用手剥離の状況によって、癒着胎盤を疑う、

証人 はがしているうちに癒着の部分は索状物として触れる。
とにかく剥がれにくい。

弁護士 索状物を説明してください。

検察 私の尋問中なのですよ。

証人 ひもでつながっているような感じです。適当な言葉じゃ
ないかもしれませんが。

検察 指先の感覚ということですか?

証人 はい。

検察 accretaなら止血可能ということですね。incretaならで
きないと説明されましたね。

証人 私の経験では、しかし、筋層の侵入の程度により、increta
でもaccretaに近ければ止血可能でありますし。

弁護人 証人は先ほどaccretaなら剥離不能と説明していませ
ん。

検察 accreta、incretaの先は剥離中にわかるのですか?

証人 後の病理組織診断によります。

検察 証人は病理診断をされましたか?

証人 していません。

検察 では先の診断は証人の診断か?

証人 違います。

検察 どういうことですか?

証人 肉眼的に子宮断面を見て判断した。

検察 証人は子宮摘出をしたとき、子宮、用手剥離により剥が
れにくいから、子宮を摘出したのですか?

弁護士 そう誘導尋問せず、端的にきいたらどうですか?

証人 胎盤剥離は完了しましたが、出血が止まらなかったので
摘出しました。

検察 胎盤遺残が残ったのですか?

証人 残ったのだろうと考えた。

検察 剥離は完了しましたが、出血が続き、陥入だろうと判断
し、子宮摘出に踏み切ったのか?

証人 そうです。

弁護士 検察のまとめ方が

検察 まとめで、重要なところだからです。

裁判官 繰り返しはくどいので、端的に。

検察 子宮摘出時に、家族に説明しましたか?

証人 夫が立ち会っており、本人も腰椎麻酔で意識があったの
で、その場で説明しました。
【こういう場面では本当に患者に同情したい】

検察 本件発生当時の・・・今の質問は撤回します。
【ロハスメディカルブログ傍聴記にこの撤回に関する考察あり

検察 証人と被告人について、加藤医師を知っていましたか?

証人 はい。

検察 どういう関係でしたか

証人 同じ大学の医局なので、学会などで会うこともあった。

検察 どちらが先輩とか、位置づけはあるのか?

証人 私がどういう意識をもっているかですか? 年数だけ、
私が上です。

検察 同じところで勤務していましたか?

証人 一緒に働いたことはありません。

検察 個人的に知っていますか?

証人 はい。
【いのげメモ:酒呑んで話した】

検察 手術に先立って、被告人から連絡があったと

証人 はい。手術をこれからする。何かあったら応援をたのむ
かもしれない。

検察 妊婦についてはどういう説明をしましたか?

証人 私が一回目の帝王切開をした、二回目を受け持ってやる
ことになった。前置胎盤?と言っていた。
【いのげメモでも前置胎盤】

検察 証人はどういったのですか?

証人 MRIのことはききました。超音波検査はやったと聞きま
した。MRIはやらねばならんことはないが、一応やったかどう
か聞いた。

【検事:なぜMRIについて尋ねたのか?
証人:MRIも診断の助けになる なんでもすればいいものでは
ないが】

検察 【他に】被告人に対して説明したことはあったか?

証人 前回の傷に胎盤がかかっているかどうかきいた。

検察 被告は

証人 かかっているかもしれないと言った。

検察 証人は妊婦に対してどう思いましたか?

証人 ・・・・。

検察 答えにくいですか?

証人 はい

検察 妊婦に何かあったらというのはどういう場合と思いまし
たか?

証人 前置胎盤?は出血が多くなるのでそれを考えた。癒着胎
盤は考えた。

検察 連絡は、日時の連絡はあったのですか?

証人 当日で2時からという電話だった。
【なんで電話が当日だったかという疑問が生じた
重要な依頼にしては急すぎる話である】

検察 証人は連絡についてはどう思われましたか?

証人 通常30分で終わる。

検察 証人はどうしていましたか?

証人 病院にいました。

検察 待機していた?

証人 待機ではなく、通常勤務をしていました。

検察 連絡はきましたか?

証人 来なかったと思う。

検察 当時証人は手術についてどう思っていましたか?

証人 無事終わったと思っていました。

検察 証人の当時の認識として、今回の事件に関して検事から
事情をきかれた。証書にまとめられましたね。

証人 はい。

検察 それは当時の証人の認識をまとめられたということです
ね。

証人 はい。

検察 証人は当時、クーパーを用いた剥離が推奨されていると
いう認識はなかったということで良いですか?

証人 ・・・。

弁護 証人に文献はあるかないかきいて、無いと答え、それが
認識まで広がっていったと言える。
【ソリコミ検事は「文献の有無」を「証人の認識」にスリカエ
ている】

証人 私はクーパーを用いた経験がないということです。

検察 証人の当時の認識として、クーパーが証人されていない
、または根拠を持たない、または推奨されない理由として、
【無茶苦茶なまとめ方である】

弁護 だから、そういう訊き方はですね、
【↑たぬ弁護士】

検察 証人は剥離に、クーパーが、

証人 まず、クーパーを使う剥がし方だが、まず切ることを念
頭に置いた。私は切ることはしない、と答えた。しかしクーパ
ーの使い方が色々ある。剥がす又は少ない範囲を切ることは考
えられる。

検察 当時の認識について聞いている。

証人 ありません。

検察 当時はそのような、やってみよう、効果的だと思ったこ
とがなかったというのは?弁護 色々な場合があると証人が言
っているのに、やってみようと、ひとくくりにされている。証
人は実際、剥離が難しい癒着胎盤が1件しかない。

検察 異議に対して、水谷弁護人に対して、弁護人は検察官の
直前の質問の意義を理解せず、もう1人に対しては当時の証人
の認識について訊ねている。あくまで認識として訊ねている。

裁判 どうしても、まあ、証人の具体的な経験を強調しても医
師として、産婦人科としてどういう認識をもっているかという
程度ですよね、では質問をやって、当時はクーパーを用いた剥
離が推奨されていない、許容されていないと。
【証人は許容されていないとは言っていない
検事の勝手なまとめに丸め込まれている
若干 訴訟指揮能力に問題を感じる】

弁護 あらゆる考えていない事につき、その理由を問うても仕
方ないじゃないですか。考えるべきかどうかというのはわかり
ますよ。なぜ考えなかったのか、証人は念頭においていなかっ
たのだから、なぜかんがえていなかったか、と聞いても無駄で
しょう。

検察 証人が効果的でない・・・。

弁護 認識が違う。質問の中で検察は、許容していないと使っ
ている。許容されていないなんてことは証人は言っていない。

検察 その質問として、答えを得て尋問している。

裁判 認識していなかったのであり、証人は許容していないと
は言っていない。ここは質問を変えてください。
【弁護側の異議を認めたということである】

検察 証人がクーパーを使ってみようと当時思わなかった理由
は?

証人 いや、考えてもみなかったということです。

検察 事前に証人が事情をきかれたことがありましたね。18号
証、署名をみてください。

【この証人の供述調書(=18号証)は検察側提出証拠であり
弁護側はこれに不同意を(おそらく全面的に)出している
不同意を出されたものに証拠能力が無いので
裁判官は調書の写しを見ることが出来ないし
裁判においても使うことが出来ないのが大原則である

ここで弁護団から不同意した18号証を使用することに対する異
議があった

裁判長は署名捺印部分のみ 証人に示すことを許可した

訴訟指揮権の範囲内での措置として不適切ではない】

この内容についてはご自身で検察官の調書を読んで確認してい
ただいたことがありましたね。調書の中には器具の使い方につ
いて証人が示されたことが書いてある。記憶にありますか?

証人 ありません。

検察 では誘導しますか? 用手剥離の際には癒着の程度を確
認しながら指先で丁寧に剥離する。

証人 はい、正しいことです。

検察 癒着している胎盤を不用意に剥離することは危険である
。用手の場合は慎重に遺残がないように剥がしていく。

弁護 飛ばさずに、調書を全部読んでください、つくらないで

【弁護団は調書の写しを持っている。】

検察 癒着している。用手・・指先の感触で胎盤を慎重に剥離
していく。、無理ならその時点で用手剥離を断念しなければな
らないのです」 この通りですか?
【弁護団の異議は「指先の感触で」を省略したことに対するも
のか】

証人 はい
【当時の認識です】

検察 「従い、器具を使った剥離は危険な行為というほかなく
、私には考えられません」思い出しましたか?

証人 はい。しかしその当時はクーパーを使って切るというこ
とを想定したため、そのように答えました。

検察 言葉はその通りで良いですか?切る場合にはどういう認
識になりますか?

証人 ・・・当時の認識ですか? 私は考えたことがありませ
ん。

検察 危険だとういう抽象的な認識はあったのですか?

証人 認識ではなく、考えたことがなかった。

検察 証人は専門医として文献で知識を積んでいるのですね。

証人 はい。

検察 産婦人科学会の刊行物では、

証人 研修ノート

検察 どういう形で証人の手元にはいるのか

証人 産婦人科医として必須の知識が【学会から】郵送されて
くる。
【学会誌の後のページにも掲載される】

検察 49号証のことですか?

証人 先ほど、これは研修コーナーとは違います。
【↑いのげの記憶では「これは研修ノートではなく研修コーナ
ー」】

弁護士 全て不同意の証拠について、検察が示されているのは
、弁護人も今後同様にいたします。
【↑たぬ弁護士】

検察 研修コーナーとは、

証人 認定医の四角【資格】を得るのに必須のものです。
【検察 学会の文献ですか?産婦人科医会から送られてくるも
のですか?
証人:医会です】

弁護 48号証を示すのはっきていませんよ。ではこちらも不同
意証も示すことを前提にですね。
【48号証について
証人 文献の趣旨は変わっていない】

検察 検察からは以上です。

裁判官 時間がおしていますが、どれくらいかかりますか?

弁護 100分です。

弁護人の平岩からです。
【↑レーザー弁護士】

今あの検察から調書の一部をお聞きになった。最新【細心】の
注意をはらいながら、慎重に剥離していく必要がある。

証人 はい。

弁護 一例も証人は慎重に剥離されたんですね。それでも胎盤
の遺残があった。

証人 はい。

弁護 慎重にやってもあることはあるんですね。

証人 はい。

弁護 「微妙な感触が確かめられない器具を用いて」、これは
クーパーを【終始】切るように証人は理解されていたというこ
とですね。

検察 弁護人は、、、
【↑この異議は「終始」という表現についてだったと思う】

裁判 異議を棄却します。

弁護 終始ハサミのようにして、使うことを想定されたのです
ね。

証人 そうです。

弁護 この設定で、ハサミではなくそぐようにして、あるいは
ごく一部をクーパーとして使うことを想定されると許容されま
すよね。

証人 はい、そうです。

弁護 再度、おっしゃってください。

証人 クーパーをそぐように使用することは、許容されます。
ごく一部でしたら切ることもありえます。止血できることが想
定される場合です。

弁護 32年の歴史から、加藤医師と同じ【県立大野】病院に勤
務されたことはありますか?

証人 2年です。

弁護 いつ頃ですか?

証人 二十数年前です。

弁護 1人医長の期間は?

証人 32年のうち、30年です。【(ノД`)】

弁護 32年間、分娩は何件くらいですか?

証人 月30あるので、1万件を越えるくらいです。

弁護 約1万件のなかで、帝王切開は、

証人 15%くらいですから、1500例です。

弁護 残り8500例が経膣。

証人 はい。

弁護 中で2例の狭義の癒着胎盤の症例があった。

証人 はい。

弁護 お産の前に予見できましたか?

証人 できませんでした。

弁護 では、なぜわかったんですか?

証人 30分以内に胎盤娩出がふつうだが、出てこなかった。

弁護  【用手】剥離困難でしたか?

証人 はい。

弁護 剥離【完了】できたのか?

証人 はい。

弁護 出血おさまったのですか?

証人 はい。

弁護 1500例中、1件の帝王切開で癒着があった、それは一回
目の帝王切開ですか?

証人 2回目です。

弁護 本件と同じですが、癒着胎盤は帝王切開前にわかったの
ですか?

証人 わかりませんでした。

弁護 前回帝王切開の場合、癒着しやすくなるというが、術前
にはどのような検査をされますか?

証人 超音波検査をします。弁護 陥入胎盤が、発見できなか
ったということですね。

証人 はい。

弁護 このとき先生は、カラードプラをされましたか?

証人 やっていません。弁護 MRIはされましたか?

証人 やっていません。

弁護 先ほど筋層2/3にと表現しましたが、絨毛が入ってるの
についてですね。

証人 はい。

弁護 子宮を切って確認されたので、ある程度は確かですか?

証人 本当は病理検査なので、不確かなところはあります。

弁護 肉眼的には確かですね。

証人 はい。

弁護 前回の帝王切開の傷跡にはかかっていたのですか?

証人 かかっていなかった。

【レーザー弁護士:傷にかかってはいないけど近いところか?
証人 そうです】

弁護 前壁癒着と後壁癒着では、どちらが発見しやすいですか

証人 前壁が腹壁に近いのと、全体が観察しやすいです。後壁
は児が邪魔になり観察しにくい。前壁のほうが診断しやすい。

弁護 児は無事に生まれたのですか?

証人 はい。弁護 臍帯を引っ張ってはがれなかったのですか

証人 はい。

弁護 それでどのような操作をされたのですか?

証人 用手剥離です。

弁護 そのとき胎盤癒着とわかったのですか?

証人 はい。

弁護 どの部位から出血していましたか?

証人 剥離面からです(剥離した面、胎盤側)

弁護 胎盤剥離を中止して、子宮摘出しようとお考えになりま
せんでしたか

証人 考えませんでした。

弁護 なぜですか?

証人 剥離を完了させれば子宮収縮が完了して止血がはかれる
かもしれないと考えたからです。

弁護 止血についてはどう処置されましたか?

証人 ガーゼで圧迫しました。

弁護 剥離の前ですか後ですか?

証人 剥離の後です。【終わってから】

弁護 胎盤剥離中には止血できなかったのですか?

証人 胎盤があるとできません。

弁護 胎盤剥離で止血されなかったので、ガーゼで圧迫したの
ですか?

証人 はい。加えて収縮促進剤を使いました。

弁護 それで止血しましたか?

証人 しませんでした。

弁護 先生は輸血はよくされるのですか?

証人 あまりしません。

弁護 その症例にあたって、輸血は準備されていましたか?

証人 しません。

弁護 帝王切開の場合には不測の事態にそなえて輸血準備をし
ないのですか?

証人 通常はよほどのことがないかぎり、輸血はいらないので
しません。

弁護 輸血はどう準備するのですか?

証人 日赤にたのみます。

弁護 準備した輸血を使わないとどうなりますか

証人 10日ほどして使えなくなり捨てます。

弁護 前置胎盤?、前回帝王切開の場合は輸血準備されました
か?

証人 はい。

弁護 輸血準備量は

証人 1000mlから1200mlです。

弁護 1000とか1200とかいう数字はどういう意味ですか?

証人 昔は輸血が200cc単位だったが、今は400ccなので、それ
を3つたのみます。

弁護 先生は前置胎盤?の帝王切開は何人でされましたか?

証人 今年に入って、一月にやりましたが、それは人をたのみ
ました。

弁護 それ以前の9例は全部1人でしたか?

証人 そうです。

弁護 麻酔は?

証人 ひとりで全部やります。

弁護 助手は誰がするのですか?

証人 手術室の看護師です。

弁護 前回帝王切開、前置胎盤?の患者さんで、術前にわかっ
ており、大量出血の可能性がある場合も。

証人 はい。

弁護 前置胎盤?で搬送しようと考えませんか?

証人 これだけではhigh riskではないので、ひとりで対応で
きます。
【弁護 双葉病院と大野病院 どちらが大きいですか?
証人 大野病院です】

弁護 県立大野病院では、加藤医師の体制では、外科医1名、
麻酔科医1名、助産師などスタッフ全9名。この体制は不十分
だと考えられますか?

証人 私どもの施設に比べかなり恵まれていると思います。

弁護 同じような症例に対して先生はひとりでされているので
すね。

証人 はい。

弁護 加藤先生は術中にも超音波検査をされています。先生が
おやりになったとき、術中超音波検査はされていますか?

証人 やっていません。

弁護 なぜですか?

証人 滅菌の【清潔な】超音波検査機器がないからです。
【医学用語というより医療業界用語の「清潔」「不潔」は
「滅菌済み」「未滅菌」という意味であり業界外の使い方と異
なる】

弁護 術中の超音波検査でより鮮明な検査ができるのはご存じ
ですか?

証人 癒着位置ということですか。はい。
【いのげメモでは「付着位置が分かりやすくなる」】

弁護 本件当日、加藤医師が【電話で】癒着胎盤のことを言っ
ていましたか?

証人 言っていませんでした。私の記憶があやふやですが、癒
着胎盤のことは私から言いました。前回の傷にかかっているか
どうかと聞いた。これは癒着胎盤の可能性を念頭において言い
ました。

弁護 超音波検査のことを加藤先生は言っていましたか?

証人 後壁付着だから大丈夫だろうと言っていました。前壁に
はかかっているかもしれないと言いました。

弁護 手術の応援について、前回傷跡にかかっているかもしれ
ないといっても、そんなに切迫している感じはなかったのです
か?

証人 なかったです。超音波検査をきっちりやっていれば、わ
かるので。

弁護 先生がもし呼ばれて行っていたらどうなっていたと思わ
れますか?
【何が出来ますか?出来ることがありますか?】

証人 わからないですが、行っても難しかったかもしれません

【何ともいえないがこの出血では何もできなかったかもしれな
い】

弁護 先生は癒着胎盤の専門家ですか?

証人 いいえ、違います。

弁護 臨床経験はあるが専門家ではないと。

証人 はい。

弁護 検察には専門家の意見を聞いてくださいと言われました
か?

証人 言いました。

弁護 そうすると、どうでしたか?

証人 とりあえず、何もわからないので私の話をききたいと言
われました。

弁護 先生の調書の内容は、教科書等【医師としての文献・講
演・学会などからの知識】がベースですか?

証人 はい。

弁護 「用手剥離によって剥離ができない場合、子宮を摘出す
べきだと考えます」とありますが、具体的にはどういう癒着で
すか?

証人 穿通胎盤【又はそれに近い陥入胎盤】、漿膜まで達して
いる場合です。

弁護 穿通胎盤、陥入胎盤について、術前、術中の対応、子宮
摘出をするかについてお答えください。

証人 術前に穿通とわかった場合には子宮摘出をします。それ
以外の場合、術中にわかった場合はまず用手剥離をします。

【弁護 剥離中出血したらどうしますか?

証人 剥離すすめるしかない】

弁護 まず剥離、それで止血を期待するということですね。止
血しなければ子宮摘出をする。これは全く加藤先生がやったと
同じことだが、その内容は先生はご存じないのですね。

証人 はい。【 ↑三つの文章ごとに肯定した】

弁護 大野病院産婦人科の閉鎖はご存じですか?

証人 はい。

弁護 当然、近い双葉厚生病院に患者が行くと考えられるが、
どうでしたか?

証人 1.5倍になりました。

弁護 0.5倍分は大野病院の患者さんがいったと思いますが、
そういう患者さんから加藤先生の話を聞きましたか?

証人 誠実だということを聞いた。悪い話は聞かなかった。

弁護 加藤先生の施術について、不満は聞かなかったというこ
とですか?

証人 はい。

弁護 本件では出血量が剥離前【開始時】、羊水混みで2000ml
、剥離途中に2500ml【2555ml羊水コミ】、先生はこの場合、剥
離を続行されますか?

検察 異議あり。出血量だけで証人はそこまで判断できません

裁判 出血量だけで判断できるのであれば。

証人 体重50kgとして、循環血液量5Lになります。2.5Lは妊娠
中に増えるので、【(出血量)】2.5Lは自然に増えた量と変わ
らないので、血液1000cc準備しているいうことであれば、私
ならそのまま剥離を続けます。

【↓ロビン弁護士】
弁護2(眼鏡の遠位端前側) 帝王切開の癒着胎盤は1例、そ
の用手剥離中に剥離を継続した。継続の理由は、剥離をはじめ
たら完了しなければならないとおっしゃったのは、その通りで
すか?

証人 はい。

弁護2 一度剥離をはじめたら完了するというのが、お考えで
よいですか。用手剥離でだんだんはがしにくくなり出血も多く
なる。でも剥離を継続した。剥離を開始したからには完了しな
ければならないということですね。

証人 私の考えではそうです。剥離を完了させれば止血が期待
できます。

弁護2 子宮が収縮する結果、止血が可能またはプラスになる
ということですね。

証人 はい。

【専門外につき自信はあまりないので 専門家に補足していた
だきたいのだが
胎盤から分泌される胎盤ホルモン:hCG には子宮収縮抑制効
果がある
胎盤娩出後に急激な子宮収縮があるのはhCGの影響がなくなる
からであり
「胎盤剥離を完了すること」による「止血の期待」にはhCGの
影響を除く効果も含まれると思う
この機序に関する言及が一切 弁護側からも無かったのは非常
に残念である】

弁護2 他にありますか? 先ほど、胎盤が遺っていると止血
がしにくいということがあるのですか?

証人 異物が入っているのと同じで止血困難です。

弁護2 収縮の邪魔になるということですか?

証人 はい。

弁護2 あるいは止血のためのZ縫合などは可能ですか

証人 場所によっては可能です。胎盤をよけて見える範囲なら
可能です。

検察 正常胎盤かどうか明白にしてください。

弁護2 癒着胎盤の場合を前提に質問をしています。

裁判 続けてください。

弁護2 そういう状況下で胎盤が遺っていたら、

裁判 止血の種々の処置が、胎盤があったらできないのですか
? できるのですか?

証人 子宮動脈の遮断は可能です。ガーゼ充填圧迫は不可能で
す。
【双手圧迫・マッサージも不可能「(胎盤が)あったらできま
せん」】

弁護2 遺残の話、先生が帝王切開で子宮に胎盤遺残があった
のは、どの程度の遺残ですか

証人 正常子宮壁の3分の1しか残っていなかった。
【胎盤の三分の二しかとれなかった 三分の一残っている】

弁護2 検察調書の確認ですが、高宮検事が朗読された、「細
心の注意をはらって」というのは、帝王切開のとき、目で見な
がら行うというのは、細心の注意をはらうことになりますか?

証人 はい。【それも相当する】

弁護2 器具をつかっても微妙な感覚がたしかめられる場合、
細心の注意の用手剥離と理解して良いですか

検察 仮定の質問です。

裁判 異議却下、質問だけ先にしてください。
【裁判官としては 知識不足を補いたいという自覚が有るので
検察側弁護側両方の異議を基本的には棄却して
証人の見解を聞いておき、後から質問の適切性についても
考慮すればいいと思っているのかもしれない
訴訟指揮としてそういうのもアリかもしれない
裁判長の表情には困惑の色が隠せなかった】

弁護2 目視し、クーパーではがすことが、細心の注意にあた
ると考えられますか?

証人 切るのですか?

弁護2 先生のお考えの慎重な使い方を言ってください。

証人 そぐようにして、使うのであれば、細心の注意にあたり
ます。

弁護2 指先に索状物を感じたというのは?

証人 ひも状のものという意味です。

弁護2 目で見られる太さか

証人 【見えます】そのときの感じでは、症例が違うが、5カ
所くらいに索状物が垂れ下がった。

弁護2 索状物があったのを後で見て、どの程度の本数か?

証人 5,6本、脱落膜が索状物として触れる。

弁護2 先生のケースで脱落膜はあったのですか?

証人 病理検査をしていないのでわからなかった。
【患者本人と夫の同意があったので問題にならなかった】

弁護2 その手術前に子宮摘出の可能性は話していましたか?

証人 話していません。【術前に想定できなかった】
 
弁護2 想定外でしたか

証人 はい。

弁護2 経膣分娩の場合、見えませんね。手探りですか?

【証人 はい。】

【弁護士】輸血準備の際、帝王切開だからというだけでは準備
しないということですね。理由はなぜですか?

証人 通常は帝王切開では輸血が必要な出血量はないから。

弁護2 子宮摘出した例の出血量はどれくらいか

証人 1000ml。【と少し】でした。

弁護2 いつ子宮摘出を決断しましたか

証人 子宮剥離が終わっても出血が止まらないからです。

弁護2 あらゆる場合を想定して輸血準備するのが良いのでは
ないのですか?

証人 血液は買い取りになります。【返品できない】オーダー
して使わなければ10日以内に使わなければ破棄になります。

弁護2 無駄になりますね、行政から、血液の使い方の指導は
あるのですか?

証人 私自身は聞いたことがないです。【記憶に無い】

【弁護 安全のためにはどうしたいですか?】

【証人】無駄を承知で全例の血液を準備はしたいです。【ハイ
リスクなら大量に用意したい】

弁護2 どうしてそうしていないのですか?

証人 現実的ではないからです。high riskの症例について、
準備しています。

弁護2 日赤のオーダーの際に、理由はいるのですか?

証人 連絡はしません。

検察(高宮) 証人が子宮摘出をしたとき、胎盤を剥離したが
遺残があった。出血が続いていたので子宮摘出を決断したとい
うことですね。

証人 はい。

検察 一時的に帝王切開のとき、腹壁をひらいて表面をみたと
き、癒着胎盤のときには、穿通胎盤なら肉眼でわかるのですね
。それ以外ではわからない。これについて、検察に聞かれたと
きに、どう答えたか覚えていますか?

証人 怒張した動脈【いのげメモでは「静脈の怒張」】が子宮
表面から浮き上がって見えることがあると。

検察 動脈【静脈?】とは血管ですね、血管がどうなるのです
か?

証人 【太くなって】漿膜まで浮き上がって見える。

検察 【甲】15号証のカルテ、【医師記録】12月17日のペー
ジ、カルテの11行目、子宮前壁に血管怒張(+)とあります
ね、これを確認してください。

それから話題を変えますが、輸血について、【一般に】手術中
に輸血が必要となり、さらに追加が必要なときには、追加で発
注する。

証人 はい。

検察 双葉厚生病院でもですか

証人 はい。

検察 追加をたのむところはどこですか?

証人 日赤です。相馬でストックがあれば相馬で探します。【
無ければ福島】

検察 双葉厚生病院から相馬までは距離は

証人 30分くらいです。検察 弁護の確認、証人としては器具
を使うものとして、切るものと、先端を閉じて剥離するものと
ある。切るのとそぐのとで、生じる効果は違うという認識か

証人 はい。

検察 そぐ、という操作と用手剥離の間には違いがあるのかな
いのか

証人 用手剥離は見えない、クーパーは視野に入っている。同
等の効果はある。違いはあるのか、効果は、見えにくい所はク
ーパーがすぐれている。証人の調書には指先の感触を感じると
ある。クーパーで指先の感触があるのか

証人 私には経験がないのでわかりません。

弁護 経験がないからわからないといっているのです。

裁判 クーパーに意味があると証人が言う意味は

証人 クーパーではがす範囲が視野に入っている。危険な場所
かどうかわかる。

検察 用手剥離は指先の感覚あるんですよね

証人 はい。

検察 クーパーによって感触は

証人 実施したことがないのでわからない

裁判官 用手は指先見えないのですか

証人 見えない。

裁判官 先の見えないところにクーパーを差し込むのは証人は
考えていないのですか?

証人 考えていません。

検察 胎盤と子宮の間に指をいれていく。クーパーは胎盤と子
宮の間に先端を入れていく。

証人 はい

検察 太さが違うので、言っているのですか?

証人 いえ、指でやっていると目で見えません。

検察 そういう考えは、当時あったのですか?

証人 調書当時は、私の頭には、クーパーを使う認識がなかっ
た。

検察 剥離はできないなら、その時点で断念すべきということ
ですね、これはその時点で認識があったのですか?

弁護士 異議あり、できないという理由をはっきりすべきでし
ょう。

裁判官 異議を棄却します。

検察 認定医で学会にも所属しているそうですが、日本産婦人
科学会自体がクーパーは妥当とのべられていると証人はきいた
か証人 ありません。

検察 証人は前、弁護人と面談をしたことがありますか

証人 調書をとった平成18年3月3日【以後と昨日:第二回
公判の前日の計二回】です。

【↓法源検事】
検察2 (オールバックの五十嵐) 証人の子宮摘出例では、
出血が続き子宮摘出にいこうという、摘出は子宮の止血でもあ
るのか

証人 はい。

検察2 子宮摘出とガーゼ圧迫、どちらが確実ですか

証人 連続性【いのげメモでは「迅速性」】ならガーゼ圧迫、
確実性なら子宮摘出です。

検察2 輸血準備はhigh riskにはやるのですか

証人 やります。

【↓プラトン検事】
【検事 5-6XXなら全前置胎盤を摘出することはある?
証人 私はないがありえる】【XXは自分の字だけど判読不能】

検察3 (立ち上がる。しばらく間) 癒着胎盤については平
成16年、平成17年当時においては、癒着胎盤にクーパーを想定
していなかった。本日の弁護人に対する証人の証言は、具体的
にはさみについて、見解をもつようになったきっかけは?

証人 そぐという言葉が出てきました。刑事に最初あったとき
から2回目のときでした。

検察3 女性か男性か。平成19年に入ったときか。今年に入る
まえには意識もなかったということか。

証人 はい。

検察 検察官が、捜査のとき先生から伺い書類にまとめた供述
では、きわめて不適当と・・・

弁護 異議あり。当時は切ると考えていた。

証人 クーパーは切ることを想定して、危険だと言ったまでで
、そのような使い方は知らなかった。切るのは私も危険なのは
認識しています。【「切る」のは危険であるという認識は今も
変わらない】

【↓レーザー弁護士】
弁護 クーパーを使って切るのは危険なのか。索状物を切ると
危険か

証人 もし、限られた場合、縫合可能な範囲なら切ることも可
能。【可能かもしれないが経験ない】

弁護 15号証が、検察官から、子宮前壁、血管怒張+とある。
【これっておかしいことですか?】

証人 妊娠後期に静脈は怒張することが多いので、これをもっ
て癒着胎盤とは言えない。

弁護 怒張の表現で癒着胎盤を疑うか?

証人 【主に後壁付着なので考えることはできるが】これで診
断することはできない。

弁護 用手剥離は指先の感覚で剥離した。 【指先は見えた?

【証人】指先は見えない。

【弁護士】クーパーでそぐなら、目視下でやるので、その方が
適切な場合もあるということか。
【↑いのげメモにこの質問無し たぶん書き漏れ】

検察 (高宮) 癒着の程度、先生の考える癒着が剥離できな
い程度はどのレベルか。

証人 incretaの侵入の深いものとpercreta。

弁護 経験例はincretaの例ですね。それでも剥離はしたほう
がいいのですか

証人 そうです。

弁護 クーパーで目視下でというのは、伝わっていますか、ど
うですか? クーパーで【やり易い】あるというのは、目で見
える。手をいれると指で見えないということですね。

証人 はい。

弁護 索状物は目で見えるのですか

証人 見えます。【見ながらクーパー剥離は可能です】

【↓もたい判事】
右側の裁判官 摘出のとき輸血準備していなかったですね。準
備しないんですか?必要性は?

証人 1000mlしか準備していませんでした。必ずしも準備必要
ではありません。
【子宮をとるのが先決 取った時点で出血は止まるので輸血の
必要は無くなる】
【あればこしたことはないが準備しない】

裁判官右 血が止まらないので、子宮摘出の判断をしたという
ことですね。【判断までに時間は?】

【証人 15分ほど】

【よしこ判事】
【裁判官左 「妊婦ゼンパン」とは全般か前半か?
証人 通常の妊婦でみられるということだ】
【↑どの質問のことかわからない
学術用語や同音異義語は書記官泣かせである】

裁判官左側 前置胎盤?の場合、応援の可能性を連絡されたこ
とは、この手術の前にありましたか?

証人 なかった。

裁判官左 事情を聞かれたとき、どう認識されますか?【クー
パーの使用法について】

証人 【刃を開いて】切ったと認識しました。

裁判官左 本人がどうクーパーを使ったか、【検察から】説明
をうけなかったのですか

証人 受けていません。

裁判官左 MRIをとったか訊ねたとききましたが、

証人 超音波検査、MRIを利用することもあるので、確認のた
めにきいた。
【アメリカからの文献もあったので】

裁判官左 答えは

証人 していないと。かならずしもやる検査ではありません。
【しなければならないとは思っていない】

以上で休廷。
午後 証人:県立大野病院外科(当時)のM医師 帝王切開術
で前立ちを務めた

<検察側主尋問>
【↓法源検事】
検察(五十嵐):外科医ですね?

証人:はい。

検察:医師の資格を取得したのはいつですか?

証人:平成14年です。

検察:平成16年12月17日の被害者の帝王切開手術の助手をしま
したね?

証人:はい。

検察:【その1週間前】帝王切開補助の依頼は誰からどのよう
に?

証人:加藤先生から医局で前置胎盤?を合併した帝王切開と。

検察:加藤先生から「合併」という言葉はでたのか?

証人:「合併」と加藤先生が言ったか正確には覚えていません

検察:癒着については何か言われませんでしたか?

証人:癒着があるかもしれないと言われました。

検察:どういう内容でしたか?

証人:具体的にはあまり記憶がはっきりしていませんが、ぼく
の理解では腹壁と臓器の癒着だと思っていました。
【この会話を癒着胎盤と関連付けるのは相当無理がある】

検察:帝王切開創と腹壁との癒着という言葉はききましたか?
被告人がそのように言ったのですか?

証人:その辺は記憶にない。私の理解ということです。「癒着
」という言葉からそう解釈しました。

 (外科医で、癒着という語句から、癒着胎盤でなく、前回切
開創の癒着と解釈されたということでしょう)

<手術時の状況確認:患者の右手に証人、左手に被告人、頭側
に麻酔科医>

<現場見取図供覧>【甲35号証 第五図:この日初めて法廷
のモニタが使用された】

検察:当日の麻酔記録。手術開始は14時26分でよいですか?

証人:はい。

検察:被告人は手術をどのように開始しましたか?

証人:まず腹壁を切開しました。

検察:その後は。

証人:皮下脂肪、筋肉を切りました。

検察:その間、証人は何をしていたのですか?

証人:傷を切開しやすいよう、筋鉤で引っ張ったり、牽引して
いました。

検察:筋鉤とはなんですか?

証人:一般的に手術に用いられる用具で、牽引する用具です。
【かぎ型の道具】

検察:腹部切開後、真下に子宮があると。そこで超音波検査を
したのですか?

証人:はい。

検察:子宮表面に何か異常は。

証人:一部に静脈の走行が見えました。

検察:その形状は。

証人:男の手の甲の静脈くらいの太さ。

検察:本数は?

証人:1、2本というのではなく…数本くらいが子宮の一部に。

検察:子宮のどの辺りに?

証人:あまり記憶ははっきりしないが、自分の側だったような
気がする。

検察:色は?

証人:青紫色。

検察:肉眼ではっきり分かったということか?

証人:はい。

検察:帝王切開の助手は何例入ったことがありますか?

証人:10例弱。

検察:その経験の中で、そういう静脈の状態は見たことがあり
ますか?

証人:僕の記憶ではあまり見たことはありませんでした。

検察 患者さんの子宮切開時に証人は血液を吸飲していたので
すね

証人 はい。

検察:血液の混ざった羊水を吸引していたんですか。

証人:はい。

検察:【切開してから】被告人はどのような処置をしていまし
たか?

証人:赤ちゃんを出していました。

検察:そこまでに何か問題があるという認識はありましたか?

証人:ありません。

検察:(児娩出は)どのくらいの時間で?

証人:正確な時間は分らないが、自分の感覚としては1~2分く
らい。

検察:手術開始後11分後【14時37分】に娩出と記録にはあるが
、それはあなたの記憶とは矛盾しませんか?

証人:はい。

検察:その時、証人はどんな処置をしていましたか?

証人:子宮断端からの出血を鉗子で止めたり、吸引をしたりし
ていました。

検察:出血量についてどんなことを考えましたか?

証人:経験より多いかな、と。

検察:その時の出血の仕方を説明できますか?

証人:その時というのは。

検察:切った時です。

証人:切った時はいつもどおりなんですけど、断端からピュー
ピューと吹く出血があり、そこを処置したら止血しました。

検察:出血点は把握できるということですか?

証人:はい。

検察:止血はどのような措置をしたのですか?

証人:鉗子で挟みました。

検察:児娩出後、被告人は何をしていましたか?

証人:鉗子を確認したり…赤ちゃんの臍帯血をとったり。それ
から子宮収縮剤【アトミン】を子宮に注射したりしていました

検察:注射?

証人:子宮に直接、子宮収縮剤です。

検察:それで出血は止まりましたか?

証人:完全に止まってはいないが、その時点で多量に出血した
、というのはなかった。

検察:出血はコントロールされていたということですか?

証人:はい。

検察:収縮剤を注射したというが、児娩出後いつですか?

証人:はっきりとは覚えていないが、感覚的には1~2分後かと

検察:この時点で手術について何らかの問題があるという認識
はありましたか?

証人:ありません。

検察:その時の感想は?

証人:手術前に前置胎盤?があると聞いていたが、【思ったよ
り】手術がスムーズで安心していました。

検察:注射の後、被告人は何をしましたか?

証人:臍帯を引っ張って胎盤をはがそうとしました。

検察:胎盤はどうなりましたか?

証人:子宮の底のほうが持ち上がるようになりました。

裁判長:子宮全体が持ち上がるということですか?

証人:全体ではなく、底の部分が、こう(手で示す)

弁護人:底というのは後壁ということですか?

証人:その時の認識としては「底」という認識。いまどこかと
言われれば、後壁ということになります。
【ここでいう「底」は解剖学用語の子宮底部と明らかに異なる
 手術室の床に近い方の意の様だ】

検察:それまでの経験で、普通【通常】胎盤の剥離はどうでし
たか?

証人:スムーズに取れたこともあるし、残ったこともありまし
た。【残りをK医師が取ったりしてた】

検察:臍帯を引っ張って胎盤が取れなかった後、被告人はどう
しましたか?

証人:用手剥離をしました。

検察:出血の状態に変化はありましたか?

証人:剥離したところで少し出血し始めました。

検察:どのように?

証人:じわじわと。

検察:証人は出血にどう対処したのですか?

証人:吸引管で吸引していました。

検察:被告人はずっと用手剥離を続けたのですか?

証人:いえ、途中からクーパーをもらって使って。

検察:それまでにクーパーを使うのを見たことがありましたか

証人:いいえ。

検察:どのように操作したか見えましたか?

証人:先端はあまり見えませんでしたが、湾曲部分を上にして

【先端が上に曲がる持ち方か 湾曲が上に凸になる持ち方かで
 クーパーの表裏が正反対である  
 この時点ではいのげは後者だと解釈していたが 後の補足質
問で前者であるとわかった】

【検察: 湾曲の外が子宮 内が胎盤?
証人: そうです】

検察:クーパー使用前後で出血量は変化しましたか?

証人:クーパーを使ってから増加。

検察:どのように?

証人:面からじわじわと。【出血源が点(血管)ではなく 剥
離面全体からだったという意】

検察:出血箇所はどこだと認識していましたか?

証人:子宮の内面。

検察:剥離作業と出血の増加について、相関関係というか、関
連があるという認識はありましたか?

証人:あった。

検察:なぜわかったのですか?

証人:吸引回数が多くなったので。

検察:間隔が短くなった、ということですか?

証人:はい。

検察:目で見てどうでしたか?

証人:目で見ても少しずつ増えていた感じがしました。

検察:証人の位置から子宮内は見えましたか?

証人:加藤先生の手が離れた時に見えたこともあったが、基本
的には見えませんでした。

検察:出血の場所、もととなる血管はどこか特定できましたか

証人:ピンポイントに一点というわけではなく、面からじわじ
わ出血する感じでした。

検察:剥離した面からということでいいですか?

証人:そう思います。

検察:出血の速度はどうでしたか?

証人 だんだん増えるが大量出血ではありませんでした。

検察 帝王切開の今までの経験と比べてどうですか

証人:あまり帝王切開の経験が無いので。

弁護人:異議。出血の速度とはどういうことか。量とは違うの
か。

裁判官 たしかにわかりづらいです。質問を変えてください。

検察:質問の仕方を変えます。剥離が進行しますね、その際の
出血量というのは絶えず一定なのか、減少するのか、増加する
のか。

証人:要は、剥離が進むにつれて少しずつ増えていったという
ことです。

検察:被告人は剥離中に止血を試みましたか?

証人:いいえ。

検察:剥離中は出血が継続あるいは増えていたと。

証人:はい。

検察:剥離に要した時間は分かりますか?

証人:5分から10分くらいではないかなと思います。

検察:それは正確に測っていましたか?証人:測っていません

検察:通常はどのくらいの時間がかかるものですか?

証人:印象では2~3分。

検察:それに比べるとかなり時間がかかっていた、ということ
でよろしいですか?

証人:「かなり」かどうかはわからないですが、時間はかかっ
ていたと思います。
【時間がかかっていたのは間違いない】

検察:用手剥離とクーパーを使用していた時間、それぞれ何分
くらいか正確に分かりますか? あるいは、用手剥離とクーパ
ーを使用していた時間、印象としてどちらが長かったか。

証人:クーパーのほうが長い印象です。

検察:剥離中に臓器に損傷があったということはありませんか

証人:ありません。

検察:では出血の原因はどこにあると考えていましたか? ど
の部分から出血しているか、見当は付いていましたか?

証人:ぼくの印象では胎盤をはがしたところからかな、と考え
ていました。

検察:患者の出血について、看護師もガーゼで吸っていました
が、看護師から報告はありましたか。

証人:あります。

検察:それはどういった形で伝達されましたか?

証人:口頭で。おもに麻酔科の先生に向けてですが、大きな声
で報告されています。

検察:それはあなたにも聞こえていましたか?

証人:術野に集中すると耳に入らないこともありますが、聞こ
えます。

検察:口頭以外に出血量はわかりますか?

証人:手術室の隅にホワイトボードがありまして、それに書い
てありました。

検察:それは術者には見えますか?

証人:見えません。術野から顔をあげて見ようと思えば見えま
したが。

検察:意識してそちらを見れば把握することはできたというこ
とですか?

証人:意識すれば見えたかもしれません。

検察:看護師からの報告で印象に残っていることはありますか

証人:2000と7000の報告が印象にある。

検察:どう思いましたか?

証人:2000から7000の間は短時間で、その間に(出血が)多く
なったな、と。
【それほど時間が経過してなかったのでびっくりした】

検察:その間、看護師からの報告はありましたか?

証人:あったとは思いますが、【わからない】ぼくの記憶に残
っているのは2000と7000です。

検察:被告人はどのような措置をとっていましたか?

証人:子宮を持ち上げ、双手圧迫していました。ガーゼ充填を
していました。

検察:子宮収縮剤は使いましたか?

証人:もう一度使いました。

検察:止血効果はどうでしたか?

証人:圧迫すると一時止血しますが、圧迫している手を離すと
出血する状態でした。

検察:証人は何をしていましたか?

証人:吸引や、交代で圧迫をしていました。

検察:吸引すると出血点が確認できるとか、そういうことはな
かったですか?

証人:ガーゼ圧迫から出血が出てくるので、わかりません。

検察:双手圧迫の経験はそれまでにありましたか?

証人:ありません。

検察:被告人から証人への指示は何かありましたか?

証人:交代で圧迫するように、言われました。

検察:どこから出血しているのだと思っていましたか?

証人:子宮内面ということしかわからなかった。

検察:麻酔科医はpumping【ポンピング】していたのですか?

証人:圧迫している時は術野から目を離せるので、麻酔科医の
方を見ることができましたが、そんな(pumpingをしているよ
うな)印象でした。

検察:pumpingとはどういう処置ですか?

証人:注射器で、圧すことで短時間で注入することができる処
置です。

検察:手術前に準備した血液製剤で足りましたか?

証人:足りなかったので、周りの病院に応援(血液を回しても
らうよう)を頼みました。

検察:被告は止血処置は他にどういう処置をとりましたか?

証人:【充填したガーゼを抜いて】子宮内面を糸で縫合したり
、子宮動脈が入っている膜(靱帯)を鉗子で挟んだりした。

検察:それで止血出来ましたか?

証人:できませんでした。

検察:最終的に子宮を摘出したわけですね。すぐには摘出に移
れなかった?

証人:輸血が来るのを待ってすぐ摘出に移りました。

検察:あなたは応援の医師を頼もうとはしなかったのですか?

証人:しました。

検察:誰を呼ぼうとしたのですか?

証人:外科部長の先生を手伝いに呼びますかといいました。

検察:それは大野病院の外科部長。【実名の述べた】

証人:はい。

検察:進言したのは一度ですか?

証人:2回くらいしたと思います。

検察:なぜ2回も言ったのですか?

証人:子宮摘出時は2人より3人のほうがスムーズかな、と思い
ました。

検察:出血コントロールされていなかったのも理由ではないの
ですか?

証人:それも理由のひとつでした。

検察:被告人は何と言ったのですか?

証人:「大丈夫」というようなことを言いました。

【検察:何と思った?
証人:そう言うなら大丈夫だろう】

検察:他に誰かが応援を勧めたことはありましたか?

証人:たまたま院長が来て、外科部長を呼ぶかと言いました。

検察:被告人は何と?

証人:その時も「大丈夫」ということを言っていました。

検察:応援を断った時、証人はどう思いましたか、不安な気持
ちはありませんでしたか?

証人:少しありました。

検察:なぜですか?

証人:ぼくは子宮摘出をしたことがなかったので不安でした。

検察:それ以外には不安はなかったですか?

証人:どういうようなことですか?

検察 輸血が来るまで待ったと言いますが、時刻は覚えていま
すか?

証人:【正確には】記憶にありません。

検察:輸血到着まで手術室内、病院の状況で印象に残っている
のは?

証人:輸血が周りの病院にないということで、日赤に注文した
り、職員から献血を募ったほうがいいとかあった。

検察 それは誰から言われましたか?

証人:麻酔科医や院長から。

検察:そのとき看護師はどうしていましたか?

証人:全麻になるので、バタバタしていました。Pumpingとか

検察:臓器損傷による大量出血はありませんでしたか?

証人:ありません。

検察:臓器損傷は?

証人:ありました。

検察:いくつ、何を。

証人:膀胱だけです。

検察:どのように?

証人:膀胱を損傷したので修復したことがありました。

検察:出血は?

証人:ほとんどありませんでした。【いのげ注:膀胱壁はさほ
ど血行は多くない】

検察:他に傷つけたことは?

証人:子宮断端にガーゼを縫いこんで縫い直したことがあった
が、明らかに大量出血の原因となるようなことはありませんで
した。

検察:【麻酔記録にある】VT【=心室粗動】とはどういう意味
ですか?

証人:死亡する危険性のある不整脈。

検察:いつVTと言われましたか?

証人:子宮摘出後。膀胱を修復して、閉腹しようという時だっ
たと思います。

検察:その後、どう処置しましたか?

証人:麻酔科の先生が心マを始めました。

検察:あなたはどうしましたか?

証人:加藤先生に手を下ろして(誰も突っ込んでなかったが「
手を下ろす」の意味は裁判官わかったんだろうか)【わかって
ないと思います】【「手を下ろす」=滅菌手袋を外すこと。 
術野をさわることができなくなる】いいか聞いて、手を下ろし
て交代で心マを。電気ショックもしました。

検察 でも結局、患者さんは亡くなったんですね。

証人 そうです。

<検察側、高宮【ソリコミ】検事に交代>

検察:胎盤剥離の時間は5~10分とおっしゃいましたね?

証人:はい。

検察:調書では「10分ちょっと」と記載されているが、これも
証人の感覚的なものですか?

証人:はい。

検察 確認だが、記憶の感覚的なもので答えられたわけで、正
確な時間を計測したものではないということでよろしいか

証人 はい。

検察:止血の際、ガーゼを取り出して縫合したとおっしゃいま
したが、その場所は証人の記憶ではどこですか?

証人:子宮内面。

検察:内面の出血部分、ということですか。

証人:そうです。

検察:子宮全体の構造からいうとどこに当たりますか?

証人:印象としては後壁。

検察:そこからの出血が多い、面としての出血として認識して
いたのですか?

証人:はい。

検察 先ほどガーゼ圧迫しても出血が続いているとのことだっ
たが、

証人:はい。

検察:出血しているところを直接目視できなかったのですか?

証人:圧迫しているときは見えません。

検察:圧迫しているときはどこから出血しているという認識で
したか?

証人:圧迫しているときは分かりません。ガーゼを取り出して
内側を見たときに比較的よく出血したところを塗って【縫って
】いた。

検察:それは子宮の胎盤剥離面ということでいいのですか?

証人:はい。

<弁護側反対尋問>

【ロビン】弁護人(一番裁判官側水谷):子宮内面、剥離面か
らの出血というのは、クーパーで剥離したところから出血して
いたのか、それ以外の所から出血していたのか、その時分かり
ましたか?

証人:クーパーではがしたところ以外からも出血していた。

弁護人:麻酔科の先生がpumping【←パンピングとナイスな発
音】していた時、三方活栓を使っていましたか?

証人:使っていたと思います。

弁護人:少し不安があったとおっしゃったが、子宮摘出手術中
はその不安はどうでしたか?

証人:摘出手術中は目の前の操作に夢中だったので感じません
でした。

弁護人:子宮摘出後、不安だったなと思いましたか?

証人:ありません。摘出が終わってほっとしました。

弁護人:「癒着があるかもしれない」というのは加藤先生から
言われたのですか?

証人:「かもしれない」と言われた。

弁護人:(癒着が)どこかは言われましたか?

証人:特にどことは言われませんでした。

弁護人:帝王切開の立ち会いはどのくらい経験がありましたか

証人:1年で10例弱です。

弁護人:骨盤内外科手術で帝王切開10例以外には何例くらいの
経験がありましたか?

証人:20~30例くらいだと思います。

弁護人:今まで立ち会った帝王切開は大野病院で行われたもの
以外にはありますか?

証人:ありません。

弁護人:いずれも立ち会ったとき、加藤先生が執刀したと。

証人:はい。

弁護人:本件以前に加藤先生と10例くらい帝王切開をしたとい
うことだが、加藤先生の産

婦人科医としての資質に疑問などは感じませんでしたか?

証人:ありません。

弁護人:手術の一週間前に助手を依頼された時、どのようなこ
とを聞かされたのですか?

証人:週数、前回帝王切開をしたこと、前置胎盤?の合併があ
ることを聞きました。

弁護人:「合併」というのは「妊娠と前置胎盤?の合併」とい
うことですか? 加藤先生は合併と言いましたか?

証人:加藤先生が「合併」という言葉を使ったかどうかは覚え
ていません。

弁護人:前置胎盤?の知識を得たのはいつごろですか?

証人:学生時代です

弁護人:国試対策ということですか?

証人:そうです。

弁護人:前置胎盤?でどのような危険があると認識していまし
たか?

証人:出血のリスクが高いのではないかと思いました。

弁護人:加藤先生から何か聞きましたか?

証人:前置胎盤?だが、手術には差し支えないと聞きました。

弁護人:創にかかっている、あるいは、かもしれない、と言わ
れましたか?

証人:記憶していません。

弁護人:助手として手術に加わったのがどうして先生になった
のですか?

証人:外科には3人医師がいたが、ぼくと同じようなもうひと
りとが担当で、あいている方がつとめることになっています。

弁護人 M先生が助手担当ということで、加藤先生は承認した
のですか?

証人 はい。前置胎盤?例だけれど、僕で良いかききました。

弁護人 加藤先生から、癒着について聞いたとき、臓器間の癒
着と思ったわけですね。外科において、癒着というのはよくあ
るのか?

証人:よくあります。

弁護人:クーパーでそぐように剥がすことはありますか

証人:【よく】あります。

弁護人:切ることもある?

証人:あります。

弁護人:外科で癒着をはがす時につかうクーパーというのはど
ういうものですか? 両鈍の曲がり丸クーパー?

証人:はい。

弁護人:手術前カンファか何かで加藤先生から患者について何
か聞きましたか?

証人:特に聞いていません。

弁護人:児娩出までの状況をお聞きします。腹壁からの出血は

証人:産婦人科の手術ではあまり止血しないが、ほとんどなか
った。

弁護人:子宮表面に異常はありましたか?

証人:特に印象はありません。

弁護人:印象がないということは、例えば暗紫色とか、そうい
うことはなかったと。

証人:ありません。

弁護人:血管走行が見えたとは、盛り上がっていたということ
ですか?

証人:盛り上がった…というか…虚脱するでもなく、普通に。

弁護人:虚脱というのは。

証人:(血液量が少なくて、血管が細くつぶれていること 説
明)

検察官:異議。量については言っていない。

弁護人:血管の太さは。

証人:5mmよりは細いくらい。2~3mmとか4mmとか、そういうこ
とは分からない。

弁護人:子宮表面の血管走行を見るのは初めてでしたか?

証人:他でははっきりと覚えていません。

弁護人:前置胎盤?の帝王切開の助手は初めてでしたか?

証人:はい。

弁護人:術中の超音波は他の手術ではしていましたか?証人:
していません。

弁護人:赤ちゃんはどうでしたか?

証人:チアノーゼ無く、仮死も無く元気でした。

弁護人:肌の色は。

証人:ピンクでした。

弁護人:児娩出後についてうかがいます。切開創からの出血は
どのようなものでしたか?

証人:血管の断端が見えて、そこからぴゅーぴゅーと吹く出血
がありました。

弁護人:一部からですか? 全体からですか?

証人:一部からです。

弁護人:どのように思いましたか?

証人:いつもと同じだと思いました。

弁護人:加藤先生はあわてた様子はありましたか?

証人:ありませんでした。

弁護人:断端の出血の止血はどのように?

証人:鉗子ではさんで止血し、出血のコントロールはついた。

弁護人:37週未満の帝王切開の経験はありましたか?

証人:【わからない。週数を】覚えていません。

<甲15号証(カルテ原本)麻酔記録>

弁護人:2000と7000くらいが印象的、とおっしゃった。それは
羊水込みですか?

証人:はい。

弁護人:羊水と血液を吸引していたわけですが、羊水の色はど
のようでしたか?

証人:血と混じっていましたが、濁っているというわけではあ
りませんでした。

弁護人:量は多いと感じましたか?

証人:専門外で経験が少ないので量についてはわかりません。

弁護人:胎盤剥離中の状況について。まず被告人はどうしまし
たか?

証人:臍帯を手で引っ張りました。

弁護人:どうなりましたか?

証人:子宮後壁がもち上がりました。

弁護人:子宮はお腹の中ですか? 外ですか?

証人:中です。

弁護人:今思うとはがれにくかったのはどこですか?

証人:後壁。当時は分からないが。

弁護人:剥離操作は見えましたか?

証人:手先は見えません。

弁護人:手の甲は上を向いていましたか?

証人:はい。

弁護人:用手剥離前にも子宮内部の出血はありましたか?

証人:あまりありませんでした。

弁護人:最初からはがれにくかったのですか?

証人:違います。

弁護人:どんな出血ですか?

証人:じわじわ出てくる感じ。

弁護人:用手剥離で何割くらいはがれたか分かりますか?

証人:わかりません。

弁護人:最初はスムーズだったということですか。

証人:そうです。

弁護人:クーパーを使い始めて出血が増えたというが、にじみ
出る状態は変わらなかったのですか?

証人:はい。

弁護人:証人はどうやってそれに対処していましたか?

証人:吸引していました。

弁護人:血はどんな感じで。

証人:溜まったりしてはいないので、しみ出てくるのを空気と
一緒に吸う感じでした。弁護人:はがれにくいというのを見て
いましたか?

証人:どこがはがれにくいのかは分からなかった。

弁護人:今回のクーパーはどんなものですか?

証人:両鈍の曲がり、長いクーパー。

<甲35号証写真4(クーパーの写真)>
【モニタに表示される 柄の長さが刃の3倍ほどもある。骨盤
腔内用】

弁護人:先(クーパーの先端)の状態は?

証人:曲がっていて、鈍い。

弁護人:尖っていないということですね?

証人:はい。

弁護人:加藤先生が剥離中、子宮を摘出しなければならない出
血はなかったのですね。

証人:剥離中は無かった。

弁護人:クーパーの使用はリスクが高いと思いましたか?

証人:いいえ。

弁護人:クーパーの使用がいけないとは思わなかったのですね

証人:はい。

弁護人:クーパーを使っても出血がさほど急激に増えたという
わけではないということですか?

証人:はい。

<麻酔記録で出血2555ml確認>

弁護人:剥離中の出血は555mlですね?

証人:はい。

弁護人:剥離中は出血のコントロールはできていましたか?

証人:コントロールの必要が無い程度で、大げさな出血でなか
った。

弁護人:クーパー使用後、胎盤ははがれにくかったのですか?

証人:印象にない。

弁護人:するりとはがれた、と。

証人:はい。

弁護人:娩出後の止血はどのように?

証人:中にガーゼを詰めて双手圧迫したり、(子宮動脈の通る
)靭帯を鉗子で挟んだりして。

弁護人:双手圧迫とは?

証人:中にガーゼを充填して、両手で圧迫する。

弁護人:ガーゼを充填というのは。

証人:(説明)【どういうガーゼかはきおくにない】

弁護人:縫合はどこをどのように縫合したのですか?

証人:子宮内側の出血が多いところを。

弁護人:子宮動脈にペアンをかけるというのはどういう方法で
すか?

証人:(説明)

弁護人:応援の医師を呼んでいたら、出血が止まっていたと思
いますか?証人:【直接は】関係ないと思います。

弁護人:子宮摘出時に、2人で手が足りないとかそういうこと
はありましたか?

証人:特に【困ったことは】ありませんでした。

弁護人:摘出の手技は?

証人:専門外なのでよく分かりませんが、滞りなくスムーズで
した。

弁護人:子宮摘出を完了したときの気持ちは。

証人:【少し】ほっとした。

弁護人:その時の患者の容態は?

証人:全麻なので分かりません。子宮摘出で出血はなくなった

弁護人:そして患者さんはVT(心室頻拍)になり大変悲しいこ
とですが19時5分に永眠された。当時は死亡原因をどのように
考えましたか?

証人:循環血流量の低下、あるいは急速な輸血で電解質バラン
スが崩れて不整脈が起きたのではないか。

弁護人:医師法21条の異状死体届出義務を知っているか。

証人:はい。

検察:異議。反対尋問は主尋問の範囲内で行われるべき。医師
法21条については主尋問に無い。

弁護人:争点の一つであるので、無駄ではない。

<裁判長、検察側、弁護側で協議>

弁護人:検察側は「手術中の状況」を尋ねると言って、(実際
は手術)前の状況を訊いている(のだから、弁護側が手術後の
状況を訊いても問題はない)。

裁判長:(それは主尋問の)範囲外ということで。

弁護人:事実関係を聞くだけです。

裁判長:それならいいです。

弁護人:届け出について会議などを開いたことはありますか?

証人:2回。翌日と数日たってから。

弁護人:メンバーは。

証人:1回目は医局の先生、医師だけ。2回目は手術室の看護師
さんも含めて。

検察:異議。手術後のことは主尋問の範囲外。

裁判長:不同意調書の範囲外のことを聞くのは、それはルール
違反。
【弁護側の質問は検察の質問に対する反対尋問ではなく主尋問
である
弁護側が主尋問をしたいのなら弁護側証人として申請するべき

【裁判長「これはもう明確に主尋問ですから」】
【この訴訟指揮は正しい。ただし、とりあえず弁護側に質問さ
せておいて
それに対しての反対尋問を検察がすぐにできないというならど
うするか
ゆっくり検討する方法も有ったと思う。かくして この証人は
また呼ばれることになった】

弁護人:では後日、もう一度証人尋問請求をするということを
条件に、ここではやめます。
【なんで公判前整理で請求しなかったのか】

<弁護側、平岩主任弁護士に交代>【たぬ】

弁護人:クーパーは外科で剥離するときには普通に使うという
ことですか?

証人:はい。

弁護人:切ることも普通にするのですか?

証人:原則は剥離ですが、安全が確認できれば切ることもあり
ます。

弁護人:そういう時に使うのは両鈍の丸クーパー?証人:はい

弁護人:今回のクーパーと同じものと。【いのげ注:形は同じ
だが長さは短いときもあるだろう】

証人:そうです。

裁判長:(クーパーの名称について確認? クーパーはもとも
と丸くなってるから「曲がり」は要らないとか何とか)【証人
:「クーパー」に曲がりのニュアンスも含まれる】

弁護人:後ろから胎盤をはがしていったということですか?

証人:後壁側から。

弁護人:少し難しくなってクーパーを使った。その後はするり
とはがれたということですか?

証人:スムーズに。

弁護人:スムーズなのは前壁ですか? 今の認識では。

証人:はい。

【↓レーザー弁護士】
弁護人:子宮摘出時に膀胱を損傷したということだが、帝王切
開ではよくあることですか?

証人:自分の経験では、無い。専門外なので一般によくあるの
かどうかはわからない。

弁護人:臍帯をひっぱったとき、胎盤の残りを取り出すという
のはどういうことですか?

証人:一部残ったことはよくある。【K医師がガーゼでこすり
落としていた】

弁護人:残った、というのは卵膜?

証人:そうです。

<検察側>検察(高宮):クーパーについては、上側の面を上
に、胎盤子宮の間にさしいれたということですね。そういうク
ーパーの使用法が見えたのはどういうことですか?

証人:全く見えないというわけではない。

検察:クーパー先端は見えていたのですか?

証人:途中から。

検察:証人から見て手の甲側が子宮側、手の平側が胎盤側。

証人:はい。

検察:指先は見えましたか?

証人:指先は見えました。

検察:子宮摘出前の状況ですが、輸血の到着を待ってからおこ
なったということですか?

証人:はい。麻酔科の先生から摘出に移るのを待ってくれと。

検察:追加の輸血を頼む話が出ていた。

証人:はい。

検察:他から取り寄せる以外のことは何かありましたか?

証人:献血を職員から募ろうか、という相談はありました。

検察:輸血到着から子宮摘出までに、完全に止血はしていない
ということですか?

証人:していません。

検察:出血には波があったのですか?

証人:圧迫していると勢いが弱まる、ということはありました

検察:そういう経験はありましたか?

証人:なかった。

検察:そういうことに対して、不安はありましたか?

証人:双手圧迫しても止まらないのには心配でした。

【甲15号証麻酔記録】
検察:2000、【7000以外の出血量報告は有った? 証人:記憶
にない】

検察:被告人は具体的に言っていたということではない?時は
覚えていませんでした。

検察:麻酔記録の記載は記憶と矛盾しませんか?

証人:しません。

検察:手術記録には8475、9600、12000などと記録されている
が、この報告を聞いていた時どういう気持ちでしたか?

証人:押さえても止まらないので、どうなるんだろうか、と思
っていた。数字を聞いて、ではない。

検察:証人は心配していたのですね。

証人:はい。

【↓法源検事】
検察(五十嵐):「癒着があるかもしれない」と言われたのは
確かですか。

証人:はい。 検察:でも被告から具体的に言われたことでは
ない。

証人:はい。

検察:クーパーを使用している際に、同時に吸引できたのです
か?

証人:無理です。

検察:開口部から手を入れ操作したということですね。開口部
が小さいので、

証人:はい。

検察:クーパーを抜いて吸引を入れて、ということですか?

証人:はい。

検察:血が溜まっていく?

証人:たくさん溜まるというような状態ではなかった。

検察:溜まっていくから見えにくくなるかと思うんですが、

弁護人:異議。証人は溜まるとは言っていない。

検察:手術中、DICの話は出ましたか?

証人:はい。

検察:どういう会話ですか?

証人:出血が多くてDICが心配だな、という。

検察:DICとはどういうものですか?

証人:(説明)

検察:DICについてはどうだという判断?

証人:ダグラス窩にコアグラというか、血腫が固まっていたの
で、DICは大丈夫かな、と。

検察:DICは心配しましたか?

証人:個人的にはDICより循環血液量低下が問題ではないかと
おもいました。

検察:具体的には?

証人:不整脈。VTやVf。

検察:患者の気道を確保しましたか?

証人:私がですか?

検察:証人でも、誰かほかの人でも。

証人:麻酔科の先生が。

検察:何をするためですか?

証人:全麻をするためです。

検察:なぜ全麻では気道確保するのですか?

証人:全身麻酔の際には必要だからです。(以下説明)

裁判長:また主尋問になっています。 【反対尋問の後の主尋
問はできない】

検察:気道確保は全麻のため以外の理由は何かありませんか?

証人:ありません。

検察:患者さんが異常を訴えたことはありませんか?

証人:一度、患者さんが、「気分が悪い」「息苦しい」と言っ
た。 検察:「息苦しい」というのは呼吸困難と言えるもので
すか?

証人:呼吸困難というより血圧低下によるものではないかと思
いました。

<弁護側>

弁護人(平岡弁護士?):血腫があってDICが無いと判断した
のはいつですか? 証人:子宮摘出後。血腫あり→DIC無しは厳
密なものではない。

弁護人(水谷弁護士):<甲15号証>抗DIC剤は投与したとい
うことでいいですか?

証人:抗DIC剤【ミラクリッド】は循環不全でも使うので、両
方の意味で使ったのだと思います。

弁護人(一番傍聴席側の人):「気分が悪い」というのはいつ
ごろですか?
【↑いさお弁護士】

証人:…………胎盤娩出後…だったか…

弁護人:全麻に移った時刻は?

証人:(チャート見て)15時35分です。 【Tの記号が書いてあ
る時刻】

弁護人:裁判長に分かるように説明してください。 <麻酔チ
ャートを読む>
【マスキュラックス ケタラール サクシン等の薬剤名があっ
た様子】

弁護人:帝王切開で全麻しないのはなぜですか?

証人:胎児への影響がわからないという点で。

弁護人:それだけですか? 子宮収縮に影響しますよね。 【
全身麻酔では筋弛緩剤を使う 子宮収縮は止血効果があり 筋
弛緩剤は収縮を阻害する】

証人:あ、はい。それもあります。

弁護人:その子宮収縮への影響が重要ですね?

証人:いや、それが重要かどうかは分かりませんが。

弁護人:子宮摘出の決定後に全麻に移行したのですか?

証人:記憶がはっきりしません。

弁護人:子宮摘出を決断した時間は?

証人:双手圧迫しても止まらない、ということで。

弁護人:2000と7000の間に子宮摘出の考えはありましたか?

証人:ない。

弁護人:子宮摘出しなければならないと証人が考えた時期はい
つごろですか?

検察:異議あり、

証人:双手圧迫で止まらない時点です。

弁護人:子宮摘出について会話しましたか?

証人:麻酔科の先生から子宮摘出した方がいいですか、という
話はありました。
【問いかけは有ったが 医師間の相談はなかった】

弁護人:それはいつ。

証人:「7000」より後。

弁護人:子宮摘出が終わった、と感じたのはいつですか?

証人:子宮摘出が終わり、色々な処置、膀胱の傷も修復できた
頃です。

弁護人:その時点で止血は完璧ですね?

証人:細血管の止血が難しいところがあった。それでDICかも
しれないと思った。

弁護人:子宮摘出の完了でだいたい止血したのですか?

証人:膣断端縫合で完了した。

弁護人:そこで止血完了、と。

証人:止血操作を要する出血は無かったということです。

検察:異議。証人は「止血操作が必要ない」と言ったのであっ
て、止血ができていたとは言っていない。

弁護人:閉腹に移れるくらい、ということですね?

証人:はい。

弁護人:その後は。

証人:膀胱損傷の修復の漏れを調べるために色素を注入しまし
た。
【いのげメモでは色素を注入する直前にVT】

弁護人:証人は蘇生を最大限したのですか?

証人:はい。

弁護人:原因について麻酔科医、加藤先生と話しましたか?

証人:話していません。

弁護人:ほかの誰かを交えて(原因について)話しましたか?

証人:話していない。

弁護人:さっき原因について答えたのは、個人的な意見という
ことですか?

証人:はい。

<弁護人交代>【ロビン弁護士】

弁護人:クーパーの持ち方について、クーパーの輪に入れる指
は何指と何指ですか?

証人:親指と薬指です。

弁護人:人差指と中指は。

証人:人差し指は刃の方へ伸ばして支える感じ。中指は輪の根
本に当てる。

弁護人:【刃の先が】あたかも手指【人差し指】の延長に見え
る、ということですね?

証人:はい。

弁護人:子宮の収縮についてのイメージは?

証人:収縮が悪いかも、という会話はあった。その後、収縮剤
を打って収縮は大丈夫だった。

弁護人:膀胱への色素の注入方法はどのようなものですか?

証人:おしっこの出る管があったのでそこからだと思います。

<検察側>

検察(高宮):癒着胎盤とはどういうもので、どういう危険が
あって、どういう処置が必要か、という知識はありましたか?

証人:ありませんでした。

検察:子宮摘出終了、その後まもなくVTという理解で良いか

証人:そうです。

<裁判官>

【↓もたい判事】
裁判官(弁護側に近いところに座っていた人;向かって右):
手術中クーパーはずっと見えていた?

証人:見えていない。手を深くまで突っ込んでいたら見えない
。角度によっては見えるが。ずっと見えているわけではない。

【よしこ判事】
裁判官(反対側;向かって左):用手剥離をしている指先は常
に見えるということではない、ということですか?

証人:はい。

裁判官:子宮に胎盤が載っていますよね?(以下理解できず。
上向き?とか。おそらく位置関係を混同されている)【いのげ
の解釈では 証人の「上向き」という表現が混乱の元。 結局
 クーパーの曲がりが子宮側に凸 胎盤側に凹 先端が子宮か
ら離れる方向に曲がる持ち方だったということ 当然のことな
がらそうでないと子宮壁を傷つけやすくなる持ち方なので問題
外】

証人:刃先で撫でるようにそいでいきます。

裁判長:クーパーは切るための道具ということでいいのですか
?【他に剥離のための道具は無いのか?】

証人:剥離にも使う。

裁判長:14時40分2000ml、14時52分で2555ml、15時6分で7675ml
。同じくらいの時間で7~8倍。急激に出ているという印象はな
かったですか?

証人:それなりには出血していたが、感覚以上に増えていたの
でびっくりした。

裁判長:その後はまた減っているが。証人:圧迫で止血したり
していた。(手術の出血量カウントは、リアルタイムに出血量
を反映しないこともある、カウントした時期に足し算していく

弁護人:「見えない」というのは証人から見て、ということで
すね。

証人:そうです。

裁判官(向かって右):「撫でるように」ということからすぐ
はがれる、という印象を受けましたが。

証人:クーパー使用と癒着の強さは別。

裁判官:安全性が確認される、とはどういうことですか?

証人:「切る」のは侵襲性が高いので、切っても安全なことを
確認してからでないと切らない。

検察(高宮):外科で用手剥離あるということですか?

証人:あります。

弁護人(傍聴席に近い人):クーパーは指より細いから便利?

証人:そういう面もあるかと思う。

<閉廷>

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2007年2月 3日 (土)

「速報 大野病院初公判傍聴記」の改訂のお知らせ他。     カウントダウン5

「速報 大野病院初公判傍聴記」

1.改訂のお知らせ。「15.      遺族の心情」に一部、書き加えを行いました。その他誤字脱字の修正をしました。

2.東京大学医療政策人材養成講座 メディスン&メディア(医療者・報道者)公開フォーラム「医療を良くするために、医療者と報道者ができること」に1時間だけ参加することができました。私のためにあるフォーラムですが、当然のように「東京女子医大事件」についのスライドがありました。今日中の「レポート作成」が間に合いませんので、「カウントダウン4」に掲載予定です。

                                      カウントダウン5 

                                                                                    

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2007年1月30日 (火)

『大野病院事件』-支援戦略再考 草案執筆中

加藤先生の無罪が最優先

1.はじめに

 20066月から私はブログを始めました。現在までに90000を越える閲覧があり、平均すると一日3152007126日までは、一日の閲覧数が1000を越えることは数えるほどで、最高でも1600強でした。

 大野病院事件の傍聴記を書いたところ、129日は6854の閲覧があり、この4日間で26500の閲覧がありました。いかにこの事件が注目されているかを数字で実感しています。これだけの人数がいれば、何かができる。それは何か。

2.支援の方法論の再検討

 閲覧者の皆さんからのコメントやご意見を多数いただきました。私のブログや自分のブログだけでなく、私の電子メールアドレスにも直接ご意見をいただいております。

実際に公判で検察側の「公訴事実」と「冒頭陳述」を傍聴したことと、皆様のご意見がヒントになり、

「今まで数多く出された『声明文』に加え、『追加声明文』を出す必要があるのではないか。」

と考えるようになりました。

 「周産期医療の崩壊をくい止める会のホームページ」http://plaza.umin.ac.jp/~perinate/cgi-bin/wiki/wiki.cgi?page=FrontPage

には、本邦における重要な医学、医療関係の団体の「声明文」が掲載されています。

 これらの立派な「声明文」は大変重要な役割を果たしたとは思いますが、次の段階に移る必要があると思います。(残念ながら、私は来週2つの本人訴訟(民事)と、控訴審(民事)と重要な提訴の予定がありその準備に追われています。これと平行して、各「声明文」を再読し分析し本稿を書きたいと思います。)

3.われわれは何を目ざしているのか

 戦略を練るためには、明確な目標を掲げなければなりません。この明確化が必要です。

私は先ず最初に

              「加藤先生の無罪を勝ち取る」

ことを挙げたい。「現場の医師が萎縮するので、有罪にすべきではない。」とか「産婦人科医が少なくなるから有罪にするな。」とか「過酷な医療環境を放置した行政に問題があるのだから無罪にしろ」「地域における医療体制の不備によって患者さんが亡くなったのだから不可抗力的事例だ」「予測困難な癒着胎盤症例だから・・・」という主張は、一見重要だが、検察官にとっては、「そんなことは本件刑事事件判決とは、関係ない。」のである。法廷は検察官の土俵上である。99.7%が有罪になる大横綱である。したがって、われわれは、検察官を彼らの土俵から引きすり落とし、「医学」のリング上に引っ張りこまなければならない。そこで、

次に、

「現在検察が『不同意』としている教科書、専門書、論文、鑑定書に『同意』させること。」

を挙げる。これがない限り、この裁判は長期化する。

このことは、現行法の下で、「通常の医療行為を行った医師が、結果的に患者さんを失ったために『逮捕』『「起訴」された全てのケース』に必要になってくる。起訴された全科の医師に共通したテーマになるはずだ。

「第三者の専門家(医師、医療従事者)による医療事故の真相解明および医療過誤の判定の制度化」「医師法21条の再検討」は大切だが、プロジェクトとしては大切であるが、二の次である。・・・

前回のブログのように、このテーマの本稿は再構築し発表する予定。しばしの間、私事の準備に移らせていただきます。

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2007年1月28日 (日)

速報 大野病院初公判傍聴記

「証拠隠しの検察官―専門家と国民の注目を無視」

はじめに

 ご存じの方も多いとは思いますが、この裁判の今までの概要を把握するためには、

「周産期医療の崩壊をくい止める会のホームページ」http://plaza.umin.ac.jp/~perinate/cgi-bin/wiki/wiki.cgi?page=FrontPage をザッと読まれるとよいと思います。弁護団のプレスリリースや加藤先生が所属する福島県立医科大学 産婦人科学 佐藤 章教授の名前で、公判前手続きの報告がしっかり掲載されているので初公判までの流れや争点が分かり易いと思います。

1.             傍聴の決意

 私は、2006年8月15日にhttp://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2006/08/index.html 「『大野病院事件』初公判に向けてのエール『医療事故と検察批判』―東京女子医大事件、血友病エイズ事件、両無罪判決より-」において、この事件について簡単に言及しました。ここでは敢えて、「検察が起訴したことはおかしい。」とか「加藤先生は無罪だ。」と強く主張をしませんでした。自分が関与しない事件では「原資料」を直接閲覧しない限り、責任をもった意見を主張できる立場にないと考えるからです。(勿論、逮捕は不当だと思っていました。)

 当事者でない限り、通常の医療事故情報はメディアからしか手に入りません。メディア以外に情報発信源がなければ、「何が起きたか」の判断材料はメディア情報に依拠することになります。本件でも、医師会、学会等が情報を発信していない初期の段階では、メディア報道が唯一の情報源だったはずです。

 このブログの読者ならご存じの通り、私は、医療事故におけるマスメディア情報がいかにいい加減なものであるかを実感しています。一般に「医師は、学会、医師会等が発信した医療事故関連情報を得ると、その情報を尊重する傾向になる。」といえると思います。一方的にそれを支持するかどうかを慎重に判断するとしても、概ねその情報は正しいと予測されます。この段階にくれば、起訴以前のメディアというフィルターを通しての警察発表情報は無視できると思います。

 しかしながら、臨床医療現場で発生した事故に警察、検察が介入することの是非はさておき、現行の法律上、裁判でどのような判断がされるのかを考えるにあたり、実際に起訴した検察官の起訴状、冒頭陳述そのものは絶対に無視できません。検察官がこの起訴状や冒頭陳述の内容について、「合理的な疑いを容れる余地のない証明をなしえるかどうか」が勝負になるからです。メディアがいい加減に報道したことを責め立てることに躍起になること以前に、検察官の起訴状、冒頭陳述に矛先を向けるべきです。

 私は、一審無罪ではあったものの、控訴されています。現在、逮捕され刑事被告人の立場にある医師(有罪は除く)は全国でも少ないはずです。加藤先生と同じ立場から応援できる数少ない人間として、直に応援したいと思いました。そして、応援を単なるエールだけで終わらせずに、マスメディアとは異なった視点からこの初公判を伝えたいと思ったのです。

 

2.             傍聴券とロシアンルーレット

 一言に「傍聴する」といっても、私個人が傍聴するとなると、限りある傍聴席を抽選で手に入れないと始まりません。これだけの大きな事件になると、多数の傍聴希望者が殺到することが予想されました。知られているように、一般の傍聴希望者よりも多いのは記者席を確保できなかったメディアが依頼したアルバイトの人達が傍聴券を狙っています。

 私は事前に「この初公判の取材は、全国紙でも本社の記者ではなく、現地の記者が取材する。」という情報を得ていたので、傍聴席の倍率はそう高くないだろうと予測し福島にいくことにしました。

 「学会の上層部はみんな『佐藤君は、ロシアンルーレットに当たった。』と言っているよ。』私の刑事裁判が開始されたころ、私の恩師である常本實先生(2006年6月2日「はじめてのブログ」 http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/cat3890205/index.html  参照)がおっしゃっていた。「あの人工心肺を使用していたら誰かが最後には事故に遭遇することになっただろう」とおっしゃっていた。そんな「ロシアンルーレットに当たった自分が、たかだか数倍であろう傍聴券の抽選に当たらないはずがない。」と勝手に思いこんで上野駅をたった。

 午前8時ちょうどに、福島駅からタクシーに乗り込む。運転手さんは、「今日は何か大きな裁判があるのですかね。前の二台もきっと裁判所に行きますよ。」確かに前の二台のタクシーは列をなして裁判所の方に向かっていった。

 裁判所の玄関に着くと、報道陣が集まっていた。私がタクシーを降りると、写真のカメラマンが4人とテレビ放送のカメラマンが2人近づいてきて、私に向かって撮影をしている。「おそらく私が誰だか知らずに撮影しているはずだ」と判断し、彼らを無視して当たり見渡すと傍聴者と思える人影はない。裁判所の腕章をしている職員に尋ねて裁判所の裏手の北側駐車場に向かった。パイロンとテープで列を作るための用意はされていたが、中年の女性が1人だけ並んでいた。9時15分の整理券配布の時間まで、約1時間だったが、私は列の二人目整理番号2番として並んだ。寒かった。手紙を書くには手がかじかんだ。

 

3.             モナリザのクリアファイルと「349分の26」のPC抽選

 この段階で、「増えても数十人程度かな。」と考えたのは甘かった。9時10分ごろには、裁判所職員が拡声器を使用しないと傍聴希望者を整理できなくなってきた。通称「ドカジャン」を来た人や、会社名がプリントされたおそろいのダウンジャケットを着た一団など、実際に法廷で傍聴をするにはふさわしくない服装の人が多い。明らかにアルバイトで並んでいる人達ばかりだ。恐らく300人は越えている。さすがに心配になった。「傍聴できなくとも、私がここまで応援にきたという事実だけでも加藤先生に伝えよう。」と思った。裁判所内に入れないのであれば、「傍聴券が当たった人に依頼して手紙を加藤先生に渡してもらう。」しか手段がなかった。 (関連したことが、医と健康のフリーマガジン Lohas Medicalのブログにも掲載されている。 http://lohasmedical.jp/blog/2007/01/post_431.php

 裁判をやっていると、重要な書類が多くなってくる。重要な書類が多いと、「今一番必要な重要な書類」がなかなか見つけられなくなる。私は、そんな書類が直ぐ見つけられるように「モナリザがプリントされたクリアファイル」を使用していた。

 大量の書類を要する医療裁判の初公判で、緊張している被告人が、見ず知らずの人にただ紙を渡されるだけでは、絶対読んでもらないだろう。傍聴人が直接被告人に手紙を渡すことは物理的に不可能。弁護士さんを通じて渡すことになるはず。「女子医大事件の被告人」からの手紙だと分かれば読んでもらえるはずだが、それ以前によっぽど目立つものでないとダメだ。」と思い、短い手紙を書いて、「モナリザ」にこれを入れて渡すこととし抽選を待った。

 9時15分に整理券の配布が終了した。裁判所職員は拡声器で、「傍聴席は26席で、今日は349人の人に整理券を配りました。」後方からは、拡声器でも言っていることが聞こえないというブーイングがあった。いよいよPCによる抽選開始。結果は一瞬にして出た。

 発表。349人は静まりかえる。私の整理番号は2番なので、当たればおそらく最初に呼ばれる。「発表します。2番。」呼ばれてみれば当然のように一気に4段ほどの石段を駆け上がり「傍聴券 1番」を受け取った。なぜだか「オー」という歓声があがっている。勝てば官軍。「当たり前だ。俺が当たらずに誰が当たるか!」。「次。23番26番56番・・・」

 26人が控え室にはいったが、多くは「今年の運は使い果たしたな。」「今度の競馬まで運をとっとけばよかった。」「金一封っていくらだろう。」「内(おそらく会社)は3人も当ったじゃん。」という会話で盛りあがっていた。その内の19人が他の人間に入れ替わった。

       

4.             開廷直前の動いたら負け

 福島地方裁判所2階の第一法廷。明るい。南側は窓ガラスで光りが差し込む。周り全てが壁の東京地裁の法廷とは違う。比較的広い法廷だが、傍聴席は横12列縦4列。後ろにベンチが二つ。前二列が記者専用。私は三列目の右から6番目の裁判長と相対する真ん中の席に陣取った。「駿台予備校」を思い出させるような詰め込み方だ。

 裁判長は男性。裁判官は高い位置にいるので、実際はそうでなくとも体が大きく見える。風貌は学者タイプ。左右陪席は両方とも女性だった。二人とも、胸に「カサブランカ」の花を咲かせたように真っ白なリボンが目立っている。どの学校に進学しても学級委員長とか生徒会長になる優等生。単に裁判所の人員の関係だとは思うが、「女性が二人とは産婦人科領域に関係する事件だという関連もあるのだろうか」と考える。被告人にとって裁判官がどのような人間であるかということは重要な関心事である。

 かたや、裁判官に向かって左側の窓側に検察官。4人。テーブルも二つ並んでいるのは今回のために特別に付けしたか?後ろに修習生と思われる3人。(私の公判検事は毎年交代していたが、担当は2人でたまに管理職的検察官が参加した。)検察官は調書をハードカバーのファイルに綴じてこれを本棚に立てるように置いている。お馴染みの置き方だ。風呂敷からだされた山のように積まれた書類を含めれば5000枚は越えると思われる。

 此方、通路側の弁護士団は4人二列の8人。前列裁判官側に主任弁護人。年齢から判断するとひとりおいて副主任弁護人が座していると思われる。テーブルには5つのPC。ちなみに私の弁護団は2人だが、不足していると感じたことは一回もない。

 裁判官の両側には傍聴者用に巨大なモニターがそれぞれ置かれている。私の公判では傍聴席の一番前等に17インチ程度のモニターが複数おかれていた。

 被告人席のテーブルはU字型で小さい。弁護人のテーブルの前にちょこっと置かれている。大量の資料を置くにはさぞ不便であろう。私の初公判では被告人のためのテーブルはなかったが、それでは困るので裁判所に申請したら第2回公判からは3m以上あるテーブルが用意された。この段階で被告人は法廷にいない。法廷内でのテレビ撮影が公判開始前にあるから、人権上被告人は映らないように配慮されているからだ。

 「撮影始めます。」「30秒です。」「1分です。」「残り30秒です。」「2分。撮影終了です。」職員の声だけが響く中、法廷内では誰1人として動こうとしないし話をしない。「動いたら負け」のゲーム。緊張した雰囲気がさらに堅くなる。

  

5.             涙でかすむ立ち姿―人定質問

 加藤先生が入廷。黒めのスーツに地味なネクタイ。清潔感のある短髪で知性のある凛々しい顔つき。体は大きくないが、下を向くことなくしっかりした姿勢、茶色がかった力のある瞳の視線に揺るぎがない。緊張は手にとるようにわかるが、高ぶっていない。冷静である。闘いに疲れている様子もない。その立ち姿を見て涙腺が緩んだ。涙がこぼれないようにした仕草を、周りの傍聴者に気づかれかもしれない。「何故この人が、刑事被告人としてこんなところに立たされなければならないのか。」

 自分の時を思い出す。私の初公判は保釈前でまだ勾留中だった。手錠と腰縄、サンダル履き、ノーネクタイ、ベルトもなしの姿で、法務省職員に腰縄を持たれて入廷を控え室で待った。妻と父も含めた傍聴者のいる中、法廷に入ってから、手錠と腰縄を外された。留置所、拘置所外で手錠腰縄フリーとなったのは、勾留83日目にして初めてのことだった。妻は裁判長を見ていたという。「無実の人間が入ってきたという目で見ていたよ。」といっていたが、どんな表情だったのだろう。

 私は涙もろい方で、映画やスポーツ中継を見ていても涙が出ることがよくあったが、逮捕されてから無罪判決が出るまでの間は怒りが先立ち涙を流すことはなかった。(保釈決定後、拘置所から出所して妻に最初に会えたら涙が出るかと思っていたが、フジテレビ等の撮影隊が多数押し寄せてそれどころではなかった。)それが何故、今泣けてくるのだろう。

 型のごとく冒頭手続き開始。人定質問。生年月日、本籍、現住所、職業を聞かれる。先生は無職ではなかったのでホットした。私は千葉県の規定で逮捕されたため退職。女子医大が1ヶ月だけ雇った形になったが、虚偽の「内部報告書」で犯人扱いし、それに依拠した検察に起訴されたとして直ぐに諭旨退職。「医師の資格はありますが、現在は無職です」と答えた。

6.             いきなり臍帯を「ジンタイ」と読んだ起訴状の公訴事実

 起訴状の公訴事実は一般にそう長くはない。被告人は立って聞く。

起訴状を読んだのは、裁判官側にいた比較的若手の検事。昔の漫才コンビ「ぼんち」のおさむちゃんが古典芸能を継承したらこのような雰囲気になっただろうと思わせる風貌の検察官。「おさむP」と呼ぼう。

 報道されているように、起訴状で問われている罪は二つで、業務上過失致死と医師法(異常死体の届け出義務)違反。

 主旨は、「癒着胎盤と診断した時点で胎盤を子宮から剥がすことを中止し、子宮摘出をすべきであったのに、そのまま剥がすと大量出血する可能性を認識していたにもかかわらず、クーパーを使用して漫然と胎盤剥がしたため大量出血となり患者が失血死した。」「異常死であるにもかかわらず病院長に異常死ではないと報告し、自分でも警察に届け出をしなかった。」ということである。

 起訴状とは「検察官が被告人を罪人にするために作成した作文」である。科学分野の報告書や論文とは全く違う。検察官が作成した検察製事実が書いてあるだけで、その根拠について詳細は書かれていない。したがって、この起訴状に対しては、黙秘権告知の後に被告人自身が罪状認否をおこなうので、弁護団はまだ反論する必要がない。

ところが、早くも弁護団から異議が申したてられた。

 私もおかしと思っていた。学生時代に習った産婦人科の解剖では、陰部の筋肉や靱帯について勉強した記憶があるが、おさむPは、「ジンタイを左手で引っ張りながら、右手で胎盤を剥離云々」といっている。どこのジンタイだ?

 弁護団には当然手元に「起訴状」がある。主任弁護人から「今、検察官がジンタイと読んだのは、臍帯(サイタイ)の読み間違えではないですか。」旨の主張。起訴は10ヶ月も前にされた。臍帯血が治療に使用されていることは、小学4年生の私の甥っ子でも知っている。産婦人科専門医を被告人にしている裁判の公判担当検事が「臍帯」を正確に読むことが出来ないことは、検察官の基本的な不勉強を露呈しているというより馬鹿にしている。

 私の公判でも同様なことは沢山あった。「新」を「シン」と読むところを平気で「ニイ」と読んでいたり、論告求刑の段階になっても「DCの回数」と書くべき所を「DCビートの回数」と世の中に存在しない術語を作り出して平気で書いたりしていた。http://kazu-dai.cocolog-nifty.com/blog/2006/08/index.html 「大野病院事件」初公判に向けてのエール「医療事故と検察批判 」―東京女子医大事件、血友病エイズ事件、両無罪判決より- 2-2弁論要旨 「第1 序」 より 2本事件の特質 (2)検察官の態度 ウ DCビート 参照)

 私の起訴状の公訴事実は裁判の途中で訴因変更された。刑事訴訟法上合法な手段(刑事訴訟法312条)ではあるが、検察官にはとっては、非常にカッコ悪い状況。人を逮捕して起訴し、「その起訴した理由である公訴事実の内容は裁判が進むにつれて、誤っていることが判明したので、修正します。」ということだ。検察官は最初「吸引ポンプの回転数を上昇させると静脈貯血槽が陽圧化する。」と主張していたのが、「そんな馬鹿なことは起こりようがない」ことを裁判が始まって一年以上たってからやっと理解したのだ。すなわち女子医大の「内部報告書」の主旨に依拠して、起訴したのに、それをあっさり捨て去った。このとは、検察は一旦起訴すると、「恥も外聞も気にせずに勝負してくる」という基本方針を貫ぬくこと示している。この大野病院事件も訴訟が進行するにあたり、検察が公訴事実を変更してくる可能性もあり得る。

7.             裁判長による黙秘権の通知

 映画の法廷シーンで、お馴染み。裁判長が被告人に「自分の意思に反して供述をする必要がない」旨が告げられた。逆に、「法廷で供述したことは全て証拠とされるので、そのことを良く認識して供述する」旨も告げられた。

 私の場合は、公判では一回も黙秘権を行使しなかった。その必要性がなかったから。やはり、裁判官の前では全てを真摯に話した方が印象がよいのではないかと考えてもいた。

8.             被告人の罪状認否

 被告人があらかじめ準備した書類を陳述。私も同じでした。その内容は他の陳述とともに事前に裁判官、検察官にも書類が渡されているはずです。

 加藤先生は帝王切開手術をした事実、胎盤を剥離した事実、途中から子宮摘出手術に切り替えた事実、患者さんが死亡した事実等の当たり前の前提は認めていましたが、その他の公訴事実ははっきり否認されました。

 私の場合は、相被告人との関係もありかなり複雑な状況でしたので、認める部分と完全に否認する部分と留保する部分に分けかなり簡単に答えました。

 今回の罪状認否はある程度説明がされていました。今回の裁判では、起訴から初公判までに公判前整理が6回も行われていたことが理由だと思います。

 メディア(記者クラブ)は後の休憩時間に、弁護団から弁護側の書類をもらっていました。この中に罪状認否があったかどうかわかりませんが、概ね以下のようなことを陳述していました。(以後、私のメモと記憶からの記載が主となりますが、誤りもあるかもしれません。明らかに誤りがあるようでしたら読者は御連絡ください。修正いたします。)

     術前の超音波検査やカラードップラーによる診断を繰り返し行った。

     (全前置胎盤の手術としてという前提?)手術前の準備血は、テキスト通りに1000mlの充分な量を準備した。

     開腹後に子宮に直接超音波検査をおこないカラードップラーも使用して通常以上に慎重に診断した。

     用手的に胎盤を剥離できる部分がかなりあった。

     出血を止めるためには、胎盤を剥がす必要があった。

     経膣分娩でクーパーを用いると盲目的な操作になるが、充分な視野が得られている帝王切開においては可及的にクーパーを用いて剥離すべきであると判断した。

     胎盤を摘出した後、剥離面の圧迫止血や薬剤投与により止血を試みたが困難であった。

     患者さんは「もう1人子どもが欲しい」ということで、子宮温存の希望があったが、子宮摘出の可能性も手術前に説明し、子宮摘出を決断した。

     追加の輸血が到着して血圧が上昇してから子宮を摘出した。

     子宮摘出後は損傷した膀胱(またはその付属の組織?)を縫合しているときに安定していた血圧が突然低下した。

     心室頻拍(メモではVfとありましたが記憶ではVT)となったため、心肺蘇生を麻酔科医とともにおこなったが死亡した。

     輸血後は血圧が安定していた。

     病院長に死亡までの経緯を他の医師とともに話し、医療過誤でないので、届け出はしないと判断された。

     1人の医師として自分を信頼してくれた患者を亡くしたことは非常に残念で、心からご冥福をお祈りします。切迫した状況で、冷静にできる限りのことをやったことをご理解いただきたい。

     信頼してくれた患者さんが亡くなったことに関しては心からご冥福をお祈りいたします。

 

9.             主任弁護人の補足

 主任弁護人が被告人の罪状認否について補足しました。品の良い感じの弁護士さん。しかし、力強く、感情を込めてする話方も計算ずくの様子。私のメモと記憶から。

     事実関係は概ね被告人が罪状認否した通り。

     手術前に予見義務はない。術前に後壁の胎盤癒着は診断が不可能である。

     用手剥離しようとして胎盤が剥離できないからといって癒着は診断できない。

     胎盤を剥離しないと止血はできない。

     癒着胎盤と診断したからといって子宮摘出が全てに適応されない。

     すでに出血しているので、剥離を進めて止血するべき。

     臓器摘出は最終手段。

     患者にとって臓器摘出は侵襲。

     死因は出血死以外に羊水塞栓症の可能性がある。

     異常死にはあたらない。疾患に起因する死亡。

     病院長が届け出を行うものである。

     医師法21条は何が異常死かが曖昧。

     本件の真相を明らかにするように。

これは、当たり前の話である。私の弁護人も同様のことを最終弁論で陳述している。

すなわち、

「本件は、医師がその業務として行った手術が、刑法の業務上過失致死に当たるかが争われている事件である。・・・被告人・弁護人は、裁判所に対し、2つの点、すなわち、判決にあたっては、

・ 事案の真相を明らかにするべきこと

   ・ 医学水準に立脚した認定を行うべきこと

を特に要望しておきたい。」

 実際何が起きたのか。それを曖昧な言葉でごまかしてはいけない。

検察官は「通常は」といった話をしたがるが、「何時、どんな状況においてという条件」を全く無視して話を進めようとする。また、数字で話しをせずに「多い」だとか「少ない」だとかいった話をしたがる。

 ここで、おさむPが名誉挽回のつもりなのか、ちゃちゃを入れ「求釈明」。

10月10日公判前手続きの16頁で、弁護側は胎盤剥離前の出血が羊水を含めて2000mlがごく一般的な出血というくだりがあるが、この話が出てこないようだが、これは維持するのかいないのか云々」「多い」だとか「少ない」だとか「通常は」だとかごたごたと本質的でないことの執着している。弁護人と裁判官から一蹴りされる。弁護人は公判前手続きで予定したことを維持すると主張した。この辺りのやりとりから判断すると、裁判官はおさむPを見下している印象で、正直いえば、めんどくさがっているだろう。

10.      検察官の腕まくりパフォーマンス―冒頭陳述

 検察側の冒頭陳述は傍聴席側にいた検察官が行った。泉谷しげるが25年前にクラッシック音楽の道に進んでいたらこんな感じの風貌だったのではないだろうか。自然なそり込みが印象的なこの検察官を泉谷Pと呼ぶことにする。

 陳述内容は書面にて裁判官、弁護側にも事前に提出されているはずである。陳述内容はモニター大画面においても、文字や図が映しだされ、学会の発表のようにプレゼンテーションが行われた。泉谷Pは近い将来の陪審員制度を意識してか、時には裁判官を意識しながらも、時には傍聴席の方を陪審員に見立てているような感じで、傍聴席を意識しながら、手振りを使ったり、抑揚を付けたりして説明をする。テクニカルタームも言い間違えたり、つっかえたりすることなく、医学用語を英語で言い換えるときも流暢に話す。内容の真偽はともかく、プレゼンテーションは上手である。公判に必要な基本的な解剖、病理の分類も充分理解している様子で、おさむPとはかなり違う。劇場的で洗練されている。この公判担当検事の中では実質上のエースであろう。

 私の刑事公判を担当した検察官は次々と交代して、全部で8人に及んだが、1人だけ人工心肺のことを理解してそうな男前の検察官がいた。他の7人は全く理解していなかった。検察側証人として出廷した「内部調査報告書」の責任者である東間病院長が、弁護人の尋問に対して明らかに誤っていることをひょうひょうと答え続け、実際は火だるま状態なのにその自覚もない姿をみて、男前Pは、天を仰ぐようにしていた。心の中で、「ダメだ、こいつは。」と思っている表情をしているのを私は見逃さなかった。

 しかし、泉谷Pは今のところ男前Pの上をいく勢いだ。話ながら、頭から湯気が出るほどで、強調したい場面では、背広の上着を脱いだり、腕まくりをしたりするパフォーマンスと思える仕草をしていたが、少ししらじらしかった。

 概ね次のように進んでいった。(メモと記憶より。あまりに膨大にあるのでメモしきれず不明確な部分は一部割愛。原本はおそらくメディアが持っているはず。もちろん弁護団は持っている。)

一般の方が読む上での注意:

 ここに書いてある事実は「検察官側の主張する事実」。必ずしもこの事実=真実であるとはいえない。事実認定は裁判官が行う。当たり前のことだが、読んでいると頭にきてしまい冷静さを失ってしまわないように。

検察の陳述については「・」で示しましたが、ところどころに筆者の意見、疑問点を挿入しました。

第1 本件概要

・死因は失血死である。

第2 被告人の身上

・平成8年 医師免許

・平成13年 認定医

・平成16年 1人医長

第3 被害者の身上

・平成13年に帝王切開で出産

・平成16年妊娠33週で術前診断で全前胎盤 帝王切開方針

第4 前置胎盤と癒着胎盤の病理説明

・図入りで胎盤の説明

・前置胎盤の分類

・癒着胎盤病理的診断

・癒着胎盤の分類

・癒着胎盤は大量出血の危険がある-大出血性ショック、母体死亡の可能性

・発生頻度:帝王切開既往1回で子宮前壁(子宮の前回帝王切開創痕)に付着する前置胎盤の場合、約24%の高率で癒着胎盤の発生

(→以前から弁護側が反論。本件では胎盤は前回帝王切開創痕にかかっていないため、約24%の高率で癒着胎盤が発症することはない。)

     癒着胎盤の確定診断は病理診断-剥離後

     癒着胎盤の臨床診断―用手的に剥離できないと診断されたとき

     争点(検察官が「争点である」とことわりを入れている)

     被告人所有の産婦人科のテキストには以下の記載

     用手剥離が無理は場合は大量出血になる可能性があるとか書かれている

     子宮を摘出する必要性が書かれている。

     無理に剥離すると・・・ただちに・・大量出血する

第5 胎盤の状況

     全前置胎盤

     嵌入胎盤

第6 本件

     産婦人科医1人医長

     大野病院は二次救急病院―三次救急の指定ない、特定機能病院指定うけてない

     大野病院には貯血がないので輸血の確保は物理的に困難

     いわき●●センター、双葉厚生病院に一時間で転送できる

     被害者(検察の言葉そのまま)妊娠37週

     子宮口を全部覆う全前置胎盤

     宮の前壁から後壁にかけて付着

     第1子出産時の帝王切開の傷跡に及んでいるため癒着の可能性が高いと診断

     大量出血が予見されるので、全前置胎盤患者はいわき●●センターに転院させてきた

     大野病院で帝王切開する予定となった

     助産師は大野病院で帝王切開するのは不適切でないかと助言したが聞き入れなかった

     助産師は他の産婦人科医の応援要請について言及

     被告人「問題が起きれば双葉厚生病院の医師に来てもらう」。

     先輩医師から大量出血した全前置胎盤症例の経験例を聞いた

     応援医師の派遣を断った。

     術前麻酔科医に「帝王切開の切開部に胎盤かかっていて胎盤が深く食い込んでいるようなら子宮を全摘する」

     子宮の前壁から後壁にかけて付着の全前置胎盤

     全前置胎盤のための輸血量を準備

     出血が多くなる可能性を考え2本ラインをとった。(通常外科医ならメインの他に輸血ラインを別にとるのは当たり前のことだが。佐藤注)

     被害者と夫に病状説明

     全前置胎盤、癒着の可能性、出血大量なら子宮摘出の可能性

     同意を得た

     何かあったら双葉厚生病院の先生を呼ぶと説明。

     手術当日に電話で「帝王切開の傷に胎盤の一部がかかっている可能性があるので異常があれば午後3時ごろ連絡がいく」と話した

     医師は応援を了解した

     手術の状況

     14時26分手術開始子宮Uの字切開

     14時37分女児娩出 子宮切開部ペアンで止血

     子宮収縮剤投与、意識レベル清明、血圧安定

     臍帯ひっぱっても胎盤剥離できない

     14時38分用手的剥離 左手で臍帯引っ張り右手で用手剥離

     用意に三本の指で剥離していたところがっちり癒着した部分

     指を三本二本一本としたが指は入らないので癒着胎盤と診断

     この時点で子宮摘出するべき、回避する手段はない(検察の主張)

     指より細いクーパーならすき間に差し込むことができるのではなどと安易に考えた

     大量出血の輸血追加要請はこの時点ではしていない

     14時40分クーパーで剥離開始(使用されたクーパーの写真モニターに提示)

     この時点での出血は羊水含めて2000ml

     広範囲のわき出るような出血増加

     看護師は総出血量を口頭で報告 輸血をポンピングする

     14時45分血圧低下剥離を10分で終了

     14時50分胎盤娩出 子宮内壁凹凸あり一部断端残存

     14時52分総出血 2550ml

     15時05分総出血 7675ml

     14時20分時 血圧 100/50  80強/40  50弱/30 弱 出血性ショック

     完全に止血できず、子宮摘出を決意

     15時10分追加輸血 子宮動脈ペアンで抑える 圧迫止血施行

     輸血到着待ち

     16時10分総出血量12085ml

     院長が双葉厚生病院の産婦人科医や大野病院の他の外科医の応援を打診

     被告人 断った

     16時20分 血液到着

     16時30分 子宮摘出

     1705分 心室頻拍 心肺停止 心肺蘇生

     争点(検察官がそう言ったか筆者が自己判断でメモしたか不明)

     19時01分 剥離による出血による失血死

    

 14時52分までの最初の26分間の経過は詳細であり、血圧の変動も15時10分までは、陳述された。しかし、15時10分から16時10分までの追加輸血到着までの経過は出血量以外の陳述が欠如している。15時05分から16時10分までの出血量は4410 ml

73.5 ml/分は確かに多いがラインが二本でポンピングするなら、バランスのみを考えるのであれば追いつく。輸血が1000ml入ってもかなりの貧血にはなっていたと予想されるが、この間のHb,Htなどの結果はあったのだろうか。

検察官が失血死と主張するからには、この間のバイタルバランスなどを強調したいと考えるのではないだろうか。麻酔チャートをみればわかることだが。-筆者

     院長に「やっちゃった」、助産師に「最悪」と述べた

第7

     癒着胎盤―前壁、後壁の嵌入

     子宮内には胎盤組織残存あり

     クーパー使用の結果、肉眼でわかる凹凸が生じ、断片はちぎれたような跡

     病理鑑定では、被害者の胎盤は、絨毛が子宮筋層まで食い込んだ重度の癒着胎盤

     術前から癒着胎盤の認識があり麻酔科に癒着の可能性ありと言及した

     術中超音波検査で血流が豊富

     胎盤に指を入れることができない状況

     予見の可能性があった

     大量出血の認識は、情報としてあった。

     剥離を中止し、他の専門医に

     わき出るような出血後直ちに中止し子宮摘出に移行するべき?(この辺りはメモも記憶も不明慮。どの時点で子宮摘出に移行すべきか、胎盤癒着診断直後なのか、わき出るような出血後なのか?)

     クーパーで無理な剥離をしてはならない

     器具の使用は危険(じゃ何を使用してどうするのか。癒着胎盤症例は全例子宮摘出なのか。筆者)

     クーパーにより大量出血 出血性ショック(全体的に出血性ショックの話が薄い。死亡診断書が出血性ショックとなっているので、あまり主張しなくても通ると考えているのか)

     血圧低下しわき上がるような出血(「わきあがる出血」を何回も印象的に陳述」

     出血に起因する出血性ショック死

     癒着胎盤を剥がすためクーパーを使用して出血

     盤剥離でクーパーを使った例を聞いいたことがなかった

     クーパーの使用は不適切ではと心の中では考えたが、「ミスはなかった」と院長に報告

     福島県警平成17年3月31日新聞報道により捜査開始

     家族 絶対ゆるさない

 泉谷Pの熱心なプレゼンテーションは終わった。正直にいえば、私が今まで見てきた公判検事の中では「一番優秀」という評価になる。医学知識のない傍聴席の記者達が圧倒され納得しても全くおかしくない。(休憩時間にご遺族と思われる方々が、泉谷Pの周りに集まった。頼りになると感じているのであろう。)

 この事件は全国の産婦人科医や医師だけでなく福島県民、いや国民的な注目を集めている。少なくとも私が行き帰りにのったタクシー運転手さんは二人とも事件の内容もよく知っていて、事件に対する自分なりの意見を持っていた。

 検察の立場にたてば、この裁判に負けると「縄張り」(2006年8月15日ブログ「大野病院事件」初公判に向けてのエール「医療事故と検察批判 」―東京女子医大事件、血友病エイズ事件、両無罪判決より1-4島(縄張り)争い 照)を医療界に持って行かれるきっかけをつくることになりかねない。検察官の中でも、優秀な検事に担当させたに違いない。

11.      モナリザの微笑み

 この時点で11時30分頃になっていた。弁護側の冒頭陳述に移るか否かを裁判長が検討した。弁護側も「一時間くらいの陳述」だということで、その結果5分間の休憩の後、再開することになった。集中して連続して熱心な冒頭陳述が行われると聞いている方も疲労する。記者達は入れ替わったり、いねむりをしたりしていた記者もいる。

 私が加藤先生と接触できるとしたら、今しかないと思った。保釈中の身では、事件関係者との接見禁止である。直接声をかけて誤解が生じると面倒なので、まず弁護士さんを選んだ。私が副主任弁護人と目している弁護士さんは休憩中も熱心に書類に目を通していたが、経験も豊かそうで理解もありそうなので、声をかけた。「弁護士さん。これを加藤先生に渡していただけますか。」モナリザを渡した。A4一枚の簡単な文章を読んで、驚いた表情。「よく中に入りましたね。」「抽選に当たりました。」「加藤さん」といってモナリザを加藤先生に渡した。

 あくまで冷静な対応で、実直そうで視線がしっかりしている。瞳が美しい。「ブログの先生ですか。」「本人です。」・・・。以下、応援していること、自分も控訴されていること、我々にしかわからないことで協力できることがあったら力になること等を会話。先生は私のことも気づかってくださった。

 学生の時に内科の教授は「産婦人科医は笑うと誤解されるので、笑ってはいけない。」とよくいっていた。常に冷静。新聞報道をあえて信じるとすると、加藤先生がご遺族から「冷静で云々」という評価を受けていたのは間違えないだろう。冷静な判断力と行動力は、緊急対応する全医師にとって重要なことである。

12.      弁護側の冒頭陳述-合法だが卑怯な証拠隠し

 弁護側冒頭陳述は、波乱が二回起きた。検察官が二回異議を申し立て、もの凄い勢いで言い争いになった。テレビドラマなどの演技では絶対に見ることができない、ライブならではの迫力である。どちらか一方が、力のこもった生の声で主張されると、相手も盛りあがって来る様子で裁判官が間にはいらないと収集つかない状態である。

 私も興奮と怒りで聞くことに徹した時間帯もあり、メモはぐちゃぐちゃ、メモをとれない心理状態となり、抜けだらけのメモになった。このためあまり上手な報告を作成する自信がない。陳述終了後に記者クラブが弁護団から冒頭陳述書の写しを何部か渡されている。従ってどこかを探せば内容についてはもっと詳細な報告、報道があるかもしれないのでご存じの方は御連絡ください。

弁護側は8人で、主任さんと副主任さん、女性イソ弁さん、男性イソ弁さんとそれぞれ章別に担当が変わって陳述。

主任さん

第1 はじめに

     本件では通常の医療行為が行われた

     誤った行為をしたり、投薬を間違えたり、医療器具を体内に残したりといった明白な医療過誤事件と異なる。

     臨床現場の医師は、現場状況に即して診断し、判断して最良と信じる処置を行うしかない

     結果から是非を判断はできない

     検察官の請求している証拠は専門的でない

     ①一般病理医に依拠している-胎盤癒着の程度が争点なのに「胎盤病理医」の鑑定ではない。

     ②専門的な産科領域の分野であるのに、「周産期医療」の専門家ではなく婦人科医の腫瘍の専門家の意見に依拠している

     ③検察が引用している教科書の言及とこの症例は合致しない

     ④被告人が過失を認めるような・・・依拠するが・・・損害賠償対する・・で合理的でない(以下メモそのものの写しのみの記述とすることがあります。記憶が曖昧なのと微妙な内容なので)

     ⑤被告人が専門・・・合理的疑いを越えるものではない。

     胎盤病理医の診断による癒着の程度を鑑定すべき

     周産期医療の専門家として3人の教授を証人とする

     事故報告書は被告人の過失としない

     検察官は専門家でもないのに医療の現場を混乱させた

以下のA.B.C.の陳述が終わるか終わらないかのところで、法廷内は騒然となる。泉谷Pが異議をとなえ反論したからだ。私もメモもぐちゃぐちゃになる。(この部分の言及は大切なので、わたしのオリジナルメモと新聞社などで報道された記事を一部参考にさせていただきます。新聞社の報道では明らかに異なる文言が用いられています)

     A.検察官は困難な疾患をもつ患者への施術の是非が問題なのに、弁護士が提出した教科書や専門家の鑑定書や解明に不可欠な弁護側の証拠隠しをして「不同意」としている。

     B.検察官調書の一部から被告人に有利な記載部分を黒塗りにして証拠請求している。

     C.このようなことは前代未聞である。

まず解説します。(法律家ではない私が、私なりの理解で書きます)

 検察側も被告人弁護側もそれぞれの主張を立証するため証拠を提出します。その証拠は「同意」すれば採用され、「不同意」とすれば採用されずに裁判とは関係がなくなります。その他「同意するが、証拠の内容についてはその信用性を争う」という立場をとったり、とりあえず「留保」したりしておいてあとから「同意」することがあります。

 具体的に書きましょう。

弁護側:上記A.について

 弁護側は、「出版されている既存の教科書」と「専門家の鑑定書」を証拠請求したようです。しかし、これを検察が「不同意」とすると裁判官はこの教科書や鑑定書を読まないことになります。裁判官は受け身的で、自分から教科書を探してきてこれを証拠とすることはできません。(探してきて勉強するかもしれませんが、判決には使えません)

 これは刑事訴訟法上正当な手段なのです。しかし、一般人からみればこの「証拠隠し」は「卑怯」以外の何者でもない。産科は、いわば、人類発生のときからの本能や耳学問から始まって、医学の中でも古い学問です。私は専門家ではありませんがおそらく産科の教科書は、人類の長い歴史と産褥で亡くなった女性や死産でこの世に誕生できなかった小さな命の礎と現代科学が生んだ結晶のはずです。これを検察官は、訴訟戦略上の理由で排斥したのです。

 わたしの刑事裁判でも検察官は、人工心肺事故の原因を調査した「3学会合同 陰圧吸引補助脱血体外循環検討委員会 報告書」(委員長 高本眞一 東京大学教授、委員 許 俊鋭 埼玉医大教授、同 四津良平 慶応義塾大学教授、同 坂本 徹 東京医科歯科大学教授。2003年5月、日本胸部外科学会、日本心臓血管外科学会、日本人工臓器学会が発行。)を証拠として2年以上『同意』しませんでした。

 結局、私の刑事事件の場合は、裁判官の裁量で、検察側が「不同意」としていた「3学会合同 陰圧吸引補助脱血体外循環検討委員会 報告書」と弁護側が「不同意」としていた「女子医大内部調査報告書」の双方を「同意するが、証拠の内容についてはその信用性を争う」ということになりました。泌尿器科が専門で人工心肺を操作したこともなければ、実際患者に装着したところを見たこともない女子医大の院長と延べ2万人以上いる3学会会員の代表である各大学の心臓外科教授団の作成した報告書の信用性を争っても勝負は見えていました。

 今後も、検察が教科書や鑑定書を認めない可能性があります。裁判官の裁量でもだめならば、加藤先生の弁護団は「教科書の執筆者や鑑定書の作成を証人として法廷で証言してもらう」ことになるでしょう。教科書を読めば数分で終わるところ、証人尋問をするとなると1人につき午前午後の尋問、あるいは二日間に分けて尋問となると裁判は長期化することになるでしょう。

検察側:上記Bについて

 例えば捜査官が被疑者(起訴前の被告人のこと)や手術室にいた人を尋問して供述調書を作成したとします。これがくせものです。警察が作成すれば警察調書(インメン、KS)、検察が作成すれば検察調書(ケンメン、PS))と呼びますが、これは供述者の名前をかりた警察官や検察官の作文です。

 検察は起訴後に証拠請求をして証拠を弁護側に開示します。検察側の重要な証拠としては、検察調書があります。検察官の作文です。

 例えば、手術室にいたAさんが供述したことを元に検察官は作文しAさんが署名する。プロの検察官が書いた文ですから、Aさんがいったことをちりばめて、いかにも被告人に罪があるようになっている書類です。仮に検察官の意にそぐわない供述調書になってしまったら、開示しなくてもよいのです。弁護側はその存在を知っていれば、開示請求できます。警察調書は存在しても開示してこないことがあったりします。

 たとえば、私の事件では警察はフィルターの製造会社の調べをしているはずですがその調書は開示されていません。また、当時の医局長の調書を作成したことはわかっていましたが、開示していません。警察が開示しなかった書類で、こちらが読みたい調書がいくつかあったので、こちらから開示請求したものもあります。

 しかし、今回の事件では検察官は自分たちが作文した「検察調書」のうち、被告人に有利な部分を黒塗りにして、裁判官に読めないようにして証拠請求したというのです。自分達が作成した調書をまるで、戦前の共産党関係の出版物のようなものにしたのでしょう。一般人からみればこの「証拠隠し」は「卑怯」以外の何者でもない。

上記Cについて、

 私はこの「このようなことは前代未聞である。」というのを聞いて、

 「検察ならこんな手段はよく使うのではないだろうか。確かに卑怯だが違法ではないはず。さすがに主任さん言い過ぎかなー。なんたって自分の事件でも検察は学会の報告書を「同意」しなかったという実例を知っているし。でもさすがに、教科書や論文は英文論文のひとつを除いて全て『同意するが、証拠の内容についてはその信用性を争う』だったな。」と思っていた。「『黒塗り』も卑怯だけど、検察ならあり得るだろう。」

ライブにもどろう。

 泉谷P「異議あり。」立ち上がって反論。手元には当然弁護側の陳述書があるはず。

 裁判長は異議の発言を認める。

 私も興奮してきてメモはない。概ね以下のようなやりとり。不正確かもしれないが伝わってきた印象はこんな感じでした。

泉谷P「調書は開示している。証拠の不同意は問題ない。それを証拠隠しとは不法であるかのような言い方では誤解される。」

主任B「(興奮気味に)教科書や鑑定書の証拠を隠して、不同意にしたのは事実だ。黒塗りも事実だ」

泉谷P「(湯気がでている)前代未聞とは言い過ぎだろう。誤解が生じる。」

場内騒然、自分の刑事事件では経験しなかったような雰囲気。この後、主任さんと検察官のやりとりが続き、私も、思わず「合法でも卑怯だろう。国民は納得しないよ。」と言いそうになり、特に後半の文言は音声になってしまう。おそらく私もかなりの形相で泉谷Pを睨んでいたのかもしれない。その後何回も目線がぶつかった。

結局、裁判長が収拾にはいる。

裁判長「前代未聞というのはいいすぎでは」

主任B「では前代未聞という文言は除きます。」

とういことで、陳述の続行となった。

この後メモはさらにぐちゃぐちゃで、テクニカルタームが断片的にあるだけとなった。

非常に体系的で立派な陳述だったが、再現が困難である。失礼にあたるかもしれないが確認できる要点のみ。

     被告人は過去に1200例の出産を扱い、うち200例が帝王切開。

     大野病院赴任後は、1年10ヶ月で休みは18日間のみ(おそらく休みといっても学会などで医学に従事していたのだろう)

     大野病院でも350の出産と60の帝王切開。

     その6割は夜間か休日で、文字通り365日24時間ON CALL体制

     大野病院には小児科がいない?(常勤医がいない)ので新生児の管理もおこなっていた。(立派だ。私は地方病院の産科の現状を知らないが、循環器小児外科出身者としても父親としても頭が下がる。)

     全前置胎盤の帝王切開も執刀している。

     難しい症例は大学病院や先輩と連絡をとっている。セカンドオピニオン

     術前診断を繰り返した

     患者さんは「もう1人子供が欲しい」と答えたため、被告は子宮温存を希望していると理解しカルテに記入

     術中の超音波検査、カラードップラーを施行。

     前回の帝王切開の切開線に胎盤がかかっていたら癒着の可能性が高まるため、慎重に検査し子宮の後壁付着と診断?(不正確なメモだと思います)

     検察官の言っていることは誤りで、胎盤病理の専門家は被告人を支持している。

     子宮マッサージをしながら、用手的に三本の指を使い分けつつ胎盤剥離

     半分程度はがした時点ではがれにくくなった

     剥離面からにじみ出るような出血があるが、剥離娩出すれば子宮が収縮し、子宮の血管も収縮して止血されるため、胎盤剥離を優先。

     子宮の母体の動脈と胎盤内の血管とは直接つながっていない

     胎盤を剥いでも母体の血管は傷つかない

     胎盤剥離を素早く終焉させるため、手段としてクーパー等の器具を使用

     クーパーの使用は●●博士の医学論文で紹介されている

     胎盤剥離後、子宮収縮剤を打った、あらゆる方法で止血措置を行いその後子宮摘出を行った。

     血圧の安定と血液の到着を待って子宮摘出を一時間後に施行した。

     子宮摘出は問題なく行われた

     18時頃?血圧は安定していたため損傷した膀胱の修復を行っていた

     突然血圧低下、心室頻拍(心室細動)

     麻酔科医師とともに蘇生術をしたが亡くなった

     出血性ショックのみが死亡との因果関係か不明

     失血死であると決めつけられない

     胎盤剥離の継続と死亡とは因果関係を認めがたい

     病理鑑定では、癒着の程度は最も深い部分でも子宮筋層の5分の1程度と浅い癒着

13.      憲法38条と医師法21条

 弁護士さんが変わった。男性イソ弁。開廷時から気づいていたが、私の親友と背丈顔がそっくりだった。ただし、その親友が3週間ヒゲを剃らなかった場合という条件がつく。残念ながら、ヒゲBさんは弁護団でも私から一番遠い位置に席があり、一番裁判官側よりの後ろの席でちょっと声が聞きづらい。内容も法律の理解に関わる内容で、またメモが上手にとれなかった。

 主旨は「医師法21条はそもそも黙秘権の放棄を医師に迫るもので憲法38条に反し、違憲である。」とうことで、壮大な命題である。

医師法

第21条              医師は、死体又は妊娠4月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。

憲法

38条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。

2 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。

3 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。

     法令では異常死の解釈がなく各種ガイドラインがあるが定義がまちまち

     都立広尾の最高裁判決は誤りである。(詳細は陳述したが、私には理解しながらメモを取ることがでなかった。

     明治時代に・・・当時の厚生省・・黙秘権は・・・(メモの断片のみ)

     死亡診断書は出血性ショックだが胎盤剥離による出血?(メモも記憶も不鮮明)

     過誤はなかった。

     大野病院のマニュアルでは、院長に届け出義務を課している。

     医師は院長の判断に従った

     患者さんの死亡は異常死ではない

     疾患に起因した死亡。

     適切な医療行為だった。

14.      国民的注目を無視

弁護側の冒頭陳述は

「第5 本件刑事事件が問いかけるもの」という章に入った。

この章にはいると、検察官と弁護団の論争は最高潮に盛り上がった。国民にこの裁判が問いかけるものは大きいものになるだろう。

私が注目していた副主任Bさんが登場。ライブの盛り上がりと内容の興味深さからいくと、この第5章を傍聴するだけでも価値があるというものだった。

残念ながら、また興奮の状態がこちらに伝わり、メモが殴り書きになっている。この章だけでも原本を何かのルートで入手したいものです。

     本件は明らかに自然科学分野で高度に専門化した領域である。

     検察官は、その分野の専門家である「胎盤病理医」「子宮病理医」の鑑定結果の証拠として求めるべきであるのに、それ以外の鑑定医に依拠している。

     検察官の過失は唯一「子宮摘出を・・」と主張しているがその意見を婦人科の腫瘍の専門医の意見に依拠している

     周産期医療の専門家に意見を求めるのが、高度に専門化した医療では相当である

     検察官は(任務を?)尽くしていない。放棄している

     医療行為は患者にとっては、投薬であれ手術であれ身体への侵襲をともなう行為

     法医学会でも医療行為は常に侵襲により死につながる・・・

     裁判官も検察官も弁護士も医学は素人

     真摯に専門家の意見を聞き入れ、これを重要視すべきであり、・・

 私は、これは極めて真っ当な話だと思っていた。私の事件では、ある一面では、「心臓外科領域の話を、ただ医師というだけで、病院内部の専門外の医師が3人集まって作成した「内部調査報告書」に専門性はなく、むしろ虚偽で、延べ数万人の学会員からなる3学会でも長に当たる女子医大外部の専門家4人が作成した「3学会報告書」の専門性が、当然のように正しいとされた。当たり前だ。

 「さらにこの裁判では、一気に専門性が高度化して産科領域の話を婦人科の専門家ではなく周産期医療の専門家に意見を求めるべきであろう。」と通常考える。

このころ副主任Bさんの流れるような陳述をいきなり遮り、初めて管理職クラスと思われる全白髪の検察官が「異議あり」と発言。

裁判長は異議の発言を認めた。

全白髪P「弁護人の陳述は本件と全く関係ない事柄です。」「陳述の停止をもとめる。」(台詞はちがったかもしれませんが、これ以上陳述をさせるなという主旨の発言。)

副主任Bさんは一気に、レッドゾーンへ。

副主任Bさん「関係ないとはどういうことか。これまでも、公判前整理の席において、全白髪Pからは、厳しいご指摘をいただいてきましたが、今陳述していることは、弁論陳述書は事前に提出してご存じのはず。」

全白髪P「本件、刑事事件とは直接関係ない」

副主任Bさんは、この裁判が国民的に注目を浴びて重要なものであり、陳述は正当である旨演説。

検察側も裁判官にこのまま陳述をさせるのか否か問う。

 事前に提出された書面で、この後何が陳述されるか知っている裁判官も参入してバトルロイヤル。弁護人に陳述の正当性の意見を言ってもよいがその意見そのものを手短にして欲しい云々

副主任Bさんもさらにフルスロットルで、陳述の正当性を力説。言い切って一旦着席。

結局、裁判官は弁護側に陳述の続行を認めた。見たことも聞いたこともない凄い展開である。(霞ッ子倶楽部、阿蘇山大噴火、北尾トロさん達が傍聴マニアになるのが分かる。)

     専門家の意見を尊重すべきところ、検察官は弁護側の提出した教科書、参考書、鑑定書に同意しないとは、

     今後の医療事故防止に役立たせるという観点からもこの裁判・・・

私はもうこの時点でメモをしなくなるくらい、副主任Bさんの陳述に引き込まれてしまった。

泉谷Pのプレゼンテーションも立派ではあったが、今日の主役は副主任Bさんだった。

15.      遺族の心情

 午前中の裁判が終了した。1時ちょっと前。2時から再開ということになった。

騒然とした雰囲気から解放された傍聴席の記者達が、通路側に出て、弁護団を囲んでいる様子。

 その中、泉谷Pの元に老夫婦と男性が駆け寄っていた。おそらく亡くなった患者さんの遺族であろう。これを見ると辛い。亡くなった人がやはり中心にいるべきである。この裁判は医療界や検察にとっては大きな意味がある裁判だが、遺族にとっては、悲しさと怒りのやり場でしかないかもしれない。この遺族は、純朴である。いわゆる「民事くずれ」(民事訴訟を有利に進めるために刑事告訴すること)でもないし、マスコミに頻回に登場して顔を写させたり必要以上のコメントをしたりする売名行為のようなこともしていなし、それを政冶活動に利用したりしていない。産婦人科医が1人ならその矛先一点にしか向きようがないだろう。ご冥福をお祈りする以外できることがない。高揚していた状態から醒めた。

16.      加藤先生と弁護団の昼休み

 廊下では、記者達が弁護士さんに群がっていた。号外記事をとりあうような勢いで、弁護側の冒頭陳述書が数通渡された。弁護団に加藤先生に記者会見していただくようお願いしていた。(私の初公判後は、また手錠と腰縄で拘置所帰りだった。房にもどるとゆりの一輪差しがテーブルの上で美しく咲いていたのを思い出す。こんなに一つの花をゆっくり見たことはなかった。)私は弁護団を待った。副主任Bさんが出てきた。もう1人私と同年代と思われる弁護士さんと話しをした。

 私の事件は、よく知っていて、会いたいと思っていたとのこと。判決を読んでいるし、ブログも読んでいる。それどころか、弁護士さんの研究会で、私の事件を扱って、ゲストに臨床工学士さんを読んで説明してもらったという。高裁では何が起こるかわからないので、気を抜かないようにと助言をいただく。

 昼休みは裁判所の中にある一室で、弁護団と加藤先生がお食事をするようであった。その部屋までご一緒した。東京地裁にそんな場所があるのかどうかしらないが、私と私の弁護団は昼食するときは、裁判所の隣の弁護士会館の一室を利用していた。

 福島地裁はやはり牧歌的な感じがする。そういえば、裁判所に入る時の持ち物検査も金属反応検査もなかった。裁判所内でカメラを持っている人も複数いたが、おとがめもない様子。

 加藤先生にはリラックスしていただきたかったので、特にお話はしなかった。東京に帰京する旨をお話して簡単な挨拶をしてお別れした。

17.      一点の医学的疑問

 子宮摘出を終えて、血圧は安定していたというが具体的な数字は言及されていない。ある程度余裕ができたのか膀胱の修復をしていたという。なぜそこからVT, Vf, CPRなのか。CPRの状況も全くわからない。羊水塞栓?肺塞栓?DIC, SIRS関連,?他の臓器出血?いままでの情報からではよくわからない。気管内挿管、全身麻酔に切り替わった場面の言及もなかった。

 産科の先生方なら想像つくのでしょうか。

18.      福島駅行き女性タクシー運転手は全前置胎盤分娩経験者

 私は、17時から夜間予約外来があり、私の名前で予約を入れてくれた患者さんの為に帰京しなくてはならない。裁判所から徒歩で帰る人もいないし、バスもよくわからないので、タクシーを選択する。渡りに舟。というか裁判所に横付けしているタクシーに乗った。運転手さんは、50代の女性。

 裁判の話になった。「昔だったら助からない病気で、お医者さんは一生懸命やってそれを逮捕するなんて酷いね。お医者さんやる人いなくなっちゃうよ。」といった感じで向こうから話を始めた。

 なんと彼女は全前置胎盤の診断で、帝王切開!で子どもを生んだ。話が出来すぎているが彼女は続ける。危険な状態であることを認識させられたという。なにしろ同じ病院にもう1人全前置胎盤の人がいて、その方は亡くなったらしい。そして彼女の夫が今の私と同じ年の43歳で亡くなった。事故にあい、急性硬膜下血腫から障害を受けた。診断がつくまで、うとうとしていておかしいと思っていたが、鎮痛剤でうとうとしているのだと思っていた。リハビリ中に亡くなった。もう少し早く手術すればという思いもあったが、事故が運命で、それが原因だからしょうがないと割り切ったという。女手一つで、帝王切開で生まれた子供を育てた。「鳶が鷹を生んだ。」優秀なので医者になってもらいたいと思っていたらしい。しかし息子は医者とは別の夢を持っていた。第一希望の東京大学農学部に入学。まだ学生だが、農林水産省から全額支給を受けての留学中で、ポルトガル語の学習費用まで支給してもらい、ブラジルの農園で研究しているらしい。

19.      最後に

 私は基本的に日本の裁判所を信頼しています。現在の裁判所では、裁判官が常識的な人物であれば、メディアの虚偽報道が大量であっても判決結果には強く影響を与えないと考えてよいと思います。それぞれの事件は複雑で多様でしたが、メディアが大騒ぎして犯人視した、

三浦和義

さんも、安部 英さんも、私も無罪でした。裁判官がマスメディアの報道に影響されないという根拠は、ロス疑惑事件」判決にあります。

 「・・・激しい報道が繰り返されたが、こうした場面では、報道する側において、報道の根拠としている証拠が、反対尋問の批判に耐えて高い証明力を保持し続けることができるだけの確かさを持っているかどうかの検討が十分でないまま、総じて嫌疑をかける側に回る傾向を避け難い。・・・ところで、証拠調べの結果が右のとおり微妙であっても、報道に接した者が最初に抱いた印象は簡単に消えるものではない。それどころか、最初に抱いた印象を基準にして判断し、逆に公判廷で明らかにされた方が間違っているのではないかとの不信感を持つ者がいないとも限らない。そうした誤解や不信を避けるためには、まず公判廷での批判に耐えた確かな証拠によってはっきりした事実と、報道はされたが遂に証拠の裏付けがなく、いわば憶測でしかなかった事実とを区別して判示し、その結果、証拠に基づいた事実関係の見直しを可能にすることの重要性が痛感される。」(東京高等裁判所平成10年07月01日判決・高等裁判所刑事判例集 第51巻2号129頁 

 患者さんが亡くなった事は大変悲しいことです。しかし、真相を解明することなく、「一臨床医の過失で亡くなった」だけでは医学の発展はなく、患者さんは討ち死にです。亡くなった真相を把握せずに、一臨床医に対して罪罰を与えることを亡くなった患者さんが望んでいるのでしょうか。真相を科学的に解明できるのは専門家の医師です。医療関係事件の解明に専門医が無視されては絶対にいけない。

 もちろん医師に過失がある事件の存在は無視できません。しかしながら、専門家の医師が「過失はない」と判断する事故で、医師が逮捕されるような国の制度を放置するべきではないと考えます。この裁判で加藤先生が無罪を勝ち取ることによって、医療界は改めてそして強く一般国民に「医療過誤の判断を警察検察がおこなうことは大きな問題がある」と主張できると思います。

私が敬愛する弁護士さんの最終弁論の最後の言葉です。

10章 結論

われわれは、冒頭、2つのこと、すなわち、

・ 事案の真相を明らかにするべきこと

・ 医学水準に立脚した認定を行うべきこと

を要望した。

弁論を終えるにあたり、これに加えて、もう1つ、「疑わしきは被告人の利益に」を要望しておきたい。

 これまで述べてきたとおり、われわれは、事案の真相を完全に明らかにしたと信じており、それによれば被告人が無罪であることは疑いがない。

 しかし、刑事裁判の最終的な判断は、検察官が合理的な疑いを容れる余地のない証明をなしえたかどうかである。どれほど抑制的に述べたとしても、本件において検察官がこのような証明を果たしていると言い得ないことは確実である。したがって、本件における判決は被告人の無罪を明らかにするもの以外にはありえない。

 そして、3年間の熱心な審理を行ってきた裁判所がこの結論に到達することについてもわれわれは確信している。

以上

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2007年1月26日 (金)

速報 大野病院初公判傍聴記(執筆中-内容追加予定)

13.4倍の傍聴券を当然のように引き当てて傍聴してきました。

検察官と弁護団のやり取りは、ライブでしかわからない凄い迫力で、法廷内は騒然。この裁判が国民に注目されていることが意識されているのでしょう。

私にしかできない報告書を書く予定です。

とりあえず、ブログに章立てをしました。

あとでしっかり書き直します。楽しみにしていてください。

「証拠隠しの検察官―専門家と国民の注目を無視」

1.        傍聴の決意

2.        349分の26の傍聴券とロシアンルーレット

3.        モナリザのファイルシートとPC抽選

4.        開廷直前の動いたら負け

5.        涙でかすむ立ち姿―人定質問

6.        いきなり臍帯を「ジンタイ」と読んだ起訴事実

7.        検察官の腕まくりパフォーマンス―冒頭陳述

8.        モナリザの微笑み

9.        合法だが卑怯な証拠隠し

10.                          国民的注目を無視

11.                          遺族の心情

12.                          加藤先生と弁護団の昼休み

13.                          一点の医学的疑問

14.                          福島駅行き女性タクシー運転手は全前置胎盤分娩経験者

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